2002年11月


「OUT」

 平山秀行監督、桐野夏生原作、原田美枝子、倍賞美津子、室井滋、西田尚美、香川照之、間寛平。

 東京郊外の弁当工場に勤める4人、夫のリストラにより家族離散状態の香取雅子(原田美枝子)42歳、痴呆症の義母の看護に疲れる吾妻ヨシエ(倍賞美津子(51歳、ブランド狂いで借金まみれの城之内邦子(室井滋)40歳、ギャンブル狂の夫に暴力を受ける山本弥生(西田尚美)30歳。
 弥生の夫殺しを隠蔽する事に端を発し、四人は死体の処理の影の仕事を受けよう事になるが…。

 原作に思い入れがあるので、映画化されたものの余りの印象の違いに驚いた。雅子のハードボイルドな美意識は微塵も感じられない。これは桐野夏生の世界では無い。全体の暗いトーンが平山秀行らしいが、いい味にはなってない。それぞれの心理の奥底が見えてこない、まったく不満足。

 ところで、ヨシエが夢見る「オーロラ・ファンタジー」はホントのオーロラじゃなくてレーザー光線でのショーらしいんだけど、なんかうら淋しいんでないか?

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「OUT」原作感想


「トリプルX」- XXX -

 ロブ・コーエン監督、ヴィン・ディーゼル、サミュエル・L・ジャクソン、アーシア・アルジェント。

 タトゥーにスキンヘッド、ずば抜けた身体能力で命がけアクションに挑む海賊版ビデオのヒーローのザンダー(ヴィン・ディーゼル)は、米国のシークレット・エージェントとしてプラハのテロ集団に潜入し陰謀を阻止する事となる…。

 この映画の位置は明快、まさにMTV世代の007。音楽はラップにロック、スポーツはスノボーにスカイダイビング、ファッションはスキンヘッドにタトゥーでありながら、オープニングのエピソード、各種秘密兵器は007そのまま。ストーリ展開はいい加減だし、派手な割に頭が悪い敵やしょぼい犯罪でも、そのノリの良さで見せてしまうのも007的。単純に楽しめればいいのでは。

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「たそがれ清兵衛」

 山田洋次監督、藤沢周平原作、真田広之、宮沢りえ、吹越満、小林稔侍、大杉漣、丹波哲郎、田中泯、岸恵子、伊藤未希、橋口恵莉奈。

 幕末の庄内海坂(うなさか)藩。御蔵役五十石の平侍、井口清兵衛(真田広之)は妻を労咳で無くし、家には老母、二人の娘。仕事が終わるとさっさと帰宅し家事や内職に励むので、たそがれ清兵衛とあだ名されている。飯沼倫之丞(吹越満)は清兵衛の友人。その妹朋江(宮沢りえ)は離縁し実家に戻っていたが、酔って怒鳴り込んで来た朋江の先夫豊太郎(大杉漣)と清兵衛が決闘する事に…。

 山田洋次初の時代劇、不思議な程の大人気であるが確かにそれなりには面白い。時代劇なら「雨あがる」などの方がもっと評判になっていいとは思うが。
 真田広之の出すボクトツとした雰囲気が上手く、そこに越満満、宮沢りえと上手くははまり均衡がとれている。それと対比する戦いシーンは短いながら上手い。最後の対決はちょっと緊張感が足りず不満ではあったが。

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「チェンジング・レーン」- Changing Lanes -

 ロジャー・ミッチェル監督、ベン・アフレック、サミュエル.L.ジャクソン、シドニー・ポラック、トニ・コレット、ウィリアム・ハート、リチャード・ジェンキンス、キム・スタウントン。

 敏腕弁護士ギャビン・ベネック(ベン・アフレック)は1億7000万ドルがかかったサイモン・ザン財閥の遺言検定法廷へ急ぐ。アルコール依存症で妻子と別居中のドイル・ギブソン(サミュエル.L.ジャクソン)は親権裁定のため裁判所へ急いでいた。ギャビンの無理な車線変更で接触した二台の車、二人の運命は大きく変わる…。

 大作では無いモノのそれなりの期待はあったが、中盤までの執拗な心理戦に比べて、最後には上手にまとめ過ぎて、優等生的な印象が強い。「ノッティング・ヒルの恋人」の監督だけに性善説的にいい人間で終わらせたかったのか。なんか落差が激しくて納得出来なかった。
 一番性格が怖い人間は、ギャビンの奥さんかな…。

「チェンジング・レーン」Official Website


「明日があるさ THE MOVIE」

 岩本仁志監督、浜田雅功、東野幸治、藤井隆、遠藤章造、田中直樹、柳葉敏郎、田村亮、田村淳、間寛平、花紀京、仲間由紀恵、山田花子、松本人志、酒井美紀、相楽晴子、青島幸男、伊東四朗、中村嘉津雄

 中堅総合商社「トアール・コーポレーション」、望月課長(柳葉敏郎)率いるエリートの営業1課は日本初の官民共同ロケットの開発プロジェクトに、ロケット工学の第一人者上条沙紀(酒井美紀)を加え取り組む。一方、なんでも屋の浜田課長(浜田雅功)らの営業13課は売れないセラミック陶器のジョッキを売り歩く毎日。そんな営業の日々、浜田は偶然に自分でロケットを作って宇宙へ行く、という老人野口(中村嘉葎雄)に出会う…。

 元気の無い日本へのエール、"大人は夢を見ちゃいけないのか"っていうメッセージも単純、判りやすくいい。それでも吉本的なギャグの入れ込み方が全体のリズムをくずして映画として駄目にしている。松本人志の出番などは笑いはあるけど、映画からバラエティに雰囲気を変えてしまっている。
 最後がもっと上手くまとまってれば、映画としてのメッセージ性も強く打ち出せたと思うので残念。浜田はやや演技過剰であるが、頑張っていい味を出していた。浦沢直樹の「NASA」をちょっと連想させる。

「明日があるさ THE MOVIE」Official Website


「ジョンQ」- John Q -

 ニック・カサヴェテス監督、デンゼル・ワシントン、ロバート・ヂュヴァル、アン・ヘッシュ、ジェームズ・ウッズ、レイ・リオッタ、キンバリー・エリス。

 イリノイ州シカゴ、ジョン・クインシー・アーチボルド(デンゼル・ワシントン)は妻デニス(キンバリー・エリス)、息子マイク(ダニエル.E.スミス)の三人家族。マイクの心臓に欠陥が見つかり、心臓移植が必要となるが、会社の保険は勝手に変更され、さらに移植待機者名簿に乗せるために手術費の30%7万5000ドルが必要となる。ジョンは心臓外科医ターナー(ジェームズ・ウッズ)に銃を突きつけ緊急病棟の立て篭もる…。

ストーリ展開にまったく意外性がなく、先が見えてしまい飽きてしまう。さらに登場人物も人質、医者、警官、近所の人々がステレオタイプで面白みが無い。基本的には感動作なのだけどこれでは物語として楽しめない。間抜けなSWATとその計画や、細部の出来も悪い。交渉役グライムズ警部補(ロバート・デュヴァル)はもっと活躍していいし、存在としてはワイルドカードと思われた冷酷なホープ記念病院院長レベッカ・ペン(アン・ヘッシュ)もちょっと平凡で活かされてない。

「ジョンQ - 最後の決断」 Official Website


「凶気の桜」

 薗田賢次監督、ヒキタクニオ原作、窪塚洋介、RIKIYA、須藤元気、原田芳雄、江口洋介、高橋マリ子、本田博太郎。
 
 2002年、山口(窪塚洋介)、市川(RIKIYA)、小菅(須藤元気)はナショナリスト集団ネオ・トージョウとして白い戦闘服に身を包み渋谷で不良狩りを続ける。右翼系暴力団・青修同盟の会長青田(原田芳雄)は三人を可愛がるが、若頭兵藤(本田博太郎)、消し屋三郎(江口洋介)の企ての中に飲み込まれていく…。
 
 前半のファッション、音楽、映像の美しさはなかなか期待させる出だしだったが中盤からの展開はイマイチ。江口洋介のキャラは中途半端でつまらないし、ヒロインの景子(高橋マリ子)の存在は物語の中で浮いている。山口の漠然とした不満、イデオロギー、葛藤などが面白いし、在日の絡ませ方もよくて「GO」みたいな勢いが出るかと思ったが、ラストにかけてはまったく面白くなくて残念。しかし「オヤジと思ってました」はナイでしょ(;_;)。

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「DOLLS ドールズ」

 北野武監督脚本編集、山本耀司衣装、菅野美穂、西島秀俊、三橋達也、松原智恵子、深田恭子、武重勉。

 松本(西島秀俊)は結婚式当日、別れた婚約者の佐和子(菅野美穂)の自殺未遂を知り、式を中止し佐和子の元へ向かう。精神を病んだ佐和子と松本は体をヒモで結び彷徨う…。顔に怪我を追ったアイドルと目を貫く熱烈なファン、若い頃に別れた女が毎週約束通りに待っているのを知るヤクザの親分の二つの物語が同時進行する。

 ツマラナイ、ツマラナイという余りの前評判に期待度ゼロだったので落胆はしなかったが、やはり面白くは無かった。日本色を強く出す始まりの文楽、色彩の使い方などから映画賞狙いという揶揄があるのも判る。物語は重要視されたないのかもしれないが、3つとも平凡なエピソードだし、アイドルの話は谷崎潤一郎の「春琴抄」そのままな感じで余りにオリジナリティに欠ける。ラストも凡庸。

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「ジャスティス」- Hart's War -

 グレゴリー・ホブリット監督、コリン・ファレル、ブルース・ウイリス、テレンス・ハワード。

 父は上院議員、イェール大学で法律を学んでいたハート中尉(コリン・ファレル)は任務中に捉えられ拷問の末にアウクスブルク郊外のドイツ軍捕虜収容所へ送られる。白人の米兵が殺され、容疑者として黒人将校が捉えられる。ナチスが陪審員の茶番劇の裁判を、ハートは弁護を命じられ上官のマクナマラ大佐(ブルース・ウィリス)するが、やがて脱走計画の疑惑が浮かぶ…。

 収容所の中の捕虜の人権、その中での人種的な差別などなど、脱走計画など基本的には面白い要素が満載なのだが、 結局、オイシイ所をすべてブルース・ウィリスが持っていってしまっているのがこの映画を徹底的に詰まらなくしている。コリン・ファレルは頑張っているのに、最後にはいいトコ無しで可哀想の一言。

「ジャスティス」Official Website


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