2002年9月


「脳のなかの幽霊」☆
- Pantoms in the Brain:Probing the Mysteries of the Human Mind -
V.S.Ramachandran and Sandra Blakeslee
V.S.ラマチャンドラン サンドラ・ブレイクスリー 山下篤子訳 角川書店

 脳の働きと認知、意識という問題を判りやすく解説している、面白かった。始まりは幻肢(Phantom Limb)、幻肢は「火星の人類学者」「妻を帽子と間違えた男」などにも出てくるが、患部である腕が無くなっても痛みだけが残るというのは確かに驚き。

 中に出てくる自分で簡単に試す事が出来る盲点の実験など、簡単で有りながら人間の認知がいかにいい加減かが判って面白い。盲点では切れた直線がつながって見える、切れたスポークが収束して見えるようになるなど、実際に体験すると驚き。サヴァンの話題も出てくる。
 そしてクオリア問題(あるいは主観的感覚問題)、"身体や意識は脳が作り出した幻影"であるという意味は考えさせる。まとまりは無く、内容的には発散しているけど後味がいい。


「何もそこまで」
ナンシー関 角川文庫

 平成8年(1996年)世界文化社から刊行されたものの文庫本化。時代的には95〜96年あたりの話題。泉ピン子パッシング、藤田朋子騒動、花田家プチ皇室化、欽ちゃん仮装大賞、いいともの田原俊彦の悲しさ、「ピュア」の純粋無垢は免罪符なのか、などなど。
 時代的に古いので新鮮さは無く、懐かしさが強くなってしまう。

 糸井重里を80年代の亡霊と見る目、りえママが白髪を染めない理由など、切れ味は相変わらずいい。今回は休業宣言吉田栄作には抱腹絶倒。 今回、住人も気がつかない点を誉めあげるヨイショの天才「建もの探訪」渡辺篤志が出てきて嬉しい。


「廃虚の歩き方」探索篇
栗原亨監修 イースト・プレス 

 廃虚がちょっとしたブームで何冊かの本が出版されている。そんな中の一冊。軍艦島、松尾鉱山、雄別炭坑、中村精神病院、ホテル望洋、摩耶観光ホテル、伊万里造船所などなど。写真が中心。廃虚の魅力は確かに判るが、廃虚探検の違法性を注意をしながら、その魅力を説くのは微妙に苦しい。
廃虚と心霊スポットが、物件的に重なるというのはなるほどと思わせる。

「廃虚Explorer」


「ジェラルドのゲーム」
- Gerald's Game -
スティーヴン・キング 二宮馨訳

 人里離れた避暑地の山小屋で手錠を使ってセックスプレイ中、夫ジェラルドが心臓発作で突然死。両手に手錠をはめられたまま取り残された妻ジェイシーは身動き一つ取れず、寒さ、渇き、野犬、そして妄想が襲う…。

 極めて極めて単純な設定を、力にモノを言わせて長編に仕立て上げてしまうというキングの力量はアッパレではあるけど、それほど面白くなかった。中編ぐらにしておいてくれればよかったのに。途中の妄想、幼いころのトラウマ、記憶の入り乱れなど、詰まらなくは無いだけに残念。
 放置プレイもの(?)としては、「ミザリー」があるけど、設定を真っ向勝負で使ったのはやはり失敗ではないか。


「会社観光」
泉麻人 朝日文芸文庫

 週刊朝日の1993年10月15日号〜1994年12月31日号に連載されたもの。
 アポ無しでフラリと人気企業を訪れるという、安上がりな企画。三菱銀行本店、東京海上、アサヒビール、大昭和製紙、三井物産、フジテレビ、チェリオ社、女子医大、TBS新社屋などなど。元々、芯が無い企画だから途中から随分と趣旨がフラフラと変わっている。入院して病院観光になったり、外米輸入で食糧庁の食堂に行ったり。まあ、内容は大して面白くない。
中でニューヨークのワールドトレードセンターの住友銀行の友人に会いに行く話があるが、すでに跡形も無いと思うとシミジミと思ったり、友人は無事だったのかなどと思う。訪問したのは最初の爆破事件からちょうど1年半前になり警備は厳重だったらしい。


「地下鉄の素」
泉麻人 講談社文庫

「新地下鉄の友 上り」改題。地下鉄絡みのエッセイが主と思ったけど、冷凍みかんとか、新幹線でのケータイ、遮断機くぐりとか鉄道の話題も多い。さらに、高田馬場のスズ質店の看板(すでに無いけど)、真夏のクリスマスと化している花火とか、まるで関係ないのも多い。つまり雑多。途中、阪神大震災、地下鉄サリン事件と大事件があり、時事ネタも多い。巻末に酒井順子との対談。
夕刊フジで連載したエッセイ、って事は夕刊フジを買って地下鉄の中で読む、友って意味か。ま、どうでもいいけど。


「エア・ハンター-相続人を探せ」
- The Heir Hunter - Chris Larsgaard
クリス・ラースガード 雨宮泰訳 集英社

 エア・ハンターとは相続人探し屋。身寄りが無い人が資産を残して死んだ時、遠縁の親族を探しだし、遺産から歩合で報酬を受ける仕事。エア・ハンターの小さな会社マーチャント探偵社のニック・マーチャントとアレックス・モレノ。ニックは元刑事で父がこの会社の創業者。
 ニューヨークの片田舎で80歳で死んだ大富豪ジェラルド・ジェイコブズが死に2200万ドルの遺産が残った。大手のエア・ハンター、ジェネラル調査、FBI、殺し屋がジェイコブの死の謎を巡って入り乱れる。

 純粋な冒険サスペンス、ハードボイルド、ノリのいい展開がいい。なにしろ、この仕事の内容が面白いし、著者がエア・ハンターの経験者なのでリアリティがある。小さな話に収まらずに、スイスの銀行に眠るナチスの隠し財産など謎は大きく膨らむ。主人公がまっすぐな性格で、エア・ハンターという仕事を愛しているのがいい。面白かった。


「図説映像トリック 遊びの百科全集」
広瀬秀雄、矢牧健太郎 河出書房新社

 雑学的でまとまりが無いが、興味がある分野なのですごく面白い。マジック・ランターン、ファンタスマゴリア、ワヤン(ジャワの影絵)、カメラ・オブスクラ、江戸時代の写し絵(幻灯機)など写真以前の技術、また写真術の発明、マイブリッジの連続写真、マレーの写真銃。動画ではソーマトロープ、フェナキスチスコープ、ゾートロープ、フィリップブック、映画の始まり、エジソンのキネトスコープ、メリエスのトリック映画、アニメーションなどなど。
 江戸時代の写し絵の、投影技術が現在のMacromedia Flashでの表現方法に似ているのがなんか笑えてしまった。


「ロボットにつけるクスリ- 誤解だらけのコンピュータサイエンス」
星野力 アスキー出版局

 人工知能、ロボットなどの話題。世間の誤解を解く形で判りやすく説明しているが、その内容は結構難しいものでフレーム問題、記号化と記号着地、ゲーム理論など。SFの話題を多くいれながら、面白くしているのでSFマニアとしてはなかなか楽しめる。特にハードSFマニアとしては。
 遺伝的プログラミングの話題も面白い。


「考えるものたち-MITメディア・ラボが描く未来」
- When Things Start to Think - Neil Gershenfeld
ニール・ガーシェンフェルド 中俣真知子訳 毎日新聞社

 MITメディアラボの目指すものを解説。内容的には「ビーイング・デジタル」の方が面白いけど、実際のプロジェクトの例が上がっていて、具体的に理解しやすい。
カオス理論、エージェント、ニューラルネットワーク、ファジー、誤解との戦い、産業界と関係などなど。特にヨーヨー・マのチェロの共同プロジェクト、デジタル版ストラディヴァリウスの話は面白い。コンピュータがテクノロジーであってチェロはテクノロジーでは無いという思い込み、ストラディヴァリウスをデジタル化するという試みへの反発など、テクノロジ以外の障害の大きさが判る。

 ネットを使うモノの数が人間を越えている現在、モノが持つ問題をモノ自体に組み込み、人間が自由になる必要がある。「ものユーザー権利の章典」として次の様にまとめている。

* 情報が欲しいときに、欲しい場所で、欲しい形態で入手できる
* 欲しくもない情報を送受信することから守られている
* テクノロジーのニーズに気を配る必要なく、それを使える

TTT - 著者が共同指揮しているコンソーシアム


Books Top


to Top Page