2001年8月


「アイスバウンド」
- Icebound - Dean Koontz
ディーン・クーンツ 内田晶之訳 文春文庫

 宣伝にあるように、"マクリーンに捧げた冒険サスペンス小説"という言葉がぴったり。
 水飢餓対策のために氷山を曳航して使うという作戦、津波、嵐、氷山は勝手に漂流、さらに時限装置が動き始めたダイナマイト、正体が分からない殺人者、水面下にはロシアの情報収集潜水艦と、たたみかける様に事件が起きる。しかし、スピード感はあるとしても、緊張感は無い。人物像も薄い。

 クーンツ自身の「ベストセラー小説の書き方」に書かれている様に、ストーリライン、プロット、アクション、ヒーロー、背景描写と、それなりに上手く出来ているんだけど何か物足りない。これじゃベストセラーにはなれないんじゃないの。


「アジアリゾートに暮らす」
下川祐治 双葉社

 副題「家族4人が月30万以内で過ごすアジア・リゾート案内」通りの内容。下川夫婦と子供二人がバリ島で一月30万以下で暮らす体験記。
 一月の前半はサヌールのオーキッド・ヴィラ、三棟だけの一戸建て。後半はヌサ・ドゥアの丘の上のクラリオン・スイート、360部屋がすべてスイートという豪勢なホテル。
 子供のためにキッチン必須の部屋選び、食べ物を買う苦労、虫対策など、リゾートとはちょっと違う生活での大変さが見えて参考になる。

 バリ島の作られたイメージの胡散臭さについて随分とページを割いて書いてある。欧米人が作り上げた、庶民の生活から隔絶されたリゾート感覚の嘘っぽさは非常に同感。歴史的に見れば、「バリ島」に書かれている様に、オランダの植民地政策から来たものだろう。特に、著者が詳しいタイの生活感と比較してしまうと、バリ・リゾートに違和感を感じるかもしれない。


「最終審判の日」
- The Last Day - Glenn Kleier
グレン・クライアー 内田晶之訳 徳間書店

 1999年のクリスマス、イスラエルに流星が降り、軍の秘密のバイオテクノロジー研究所が破壊される。2000年が到来した瞬間、聖地エルサレムで大地震に見舞われる、不思議な能力を持つ娘ジーザが奇跡を起こしていく。それを追う、WNNテレビのレポータのフェルドマン、同局のカメラマンのシシー、WNNカイロのエリン、フェルドマンの恋人アンケ、またローマ教皇ニコラウス六世などなど。
 新千年紀の始まり、救世主の復活、バイオテクノロジーなど「イエスの遺伝子」、「聖なる血」と同じ様な設定。最初のノリの良さに比べてラストはすっきりしないのは「聖なる血」と同じかな。

 救世主の肌が抜けるような白さというのは地理的、人種的に非常に違和感があるが、科学的な説明を付けている。現在のキリストのイメージから抜けられない、無理な感じがするが。


「東南アジア四次元日記」
宮田珠己 文春文庫

 旅行しまくりたいと会社を辞めた著者。時間的には「旅の理不尽 」の後の話。旅の予算40万円、半年ぐらいで香港からベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、マレーシア、シンガポールを回る。

 旅行の参考書と言えば、「旅の理不尽」同様に役に立たない、この本で行った所を回っても、かなりなトホホ感に見舞われると思う。(中で行った事あるのはタイガーバーム・ガーデンぐらいか?)
 ただ、読みものとしては面白い。地獄絵図を真面目にたどる著者の感覚って…。そして、さんざんな目に遭いながら手招きされると、ついていってしまうこの著者は…特にオカマの手招きに弱いのか?

 教義を判りやすく伝えるための極楽絵図や地獄絵図のエンターテイメント性について著者は書いている。教会や寺院はそもそも庶民のための娯楽性は高く、ローマのカソリック教会などでも共通した感覚がある。

タマキンガーの部屋 - 宮田珠己ファンサイト


「ファインマンさん最後の冒険」
ラルフ・レイトン 大貫昌子訳 岩波書店

 「ご冗談でしょう、ファインマンさん」は大好きだった。シリーズ最後のこの本は出てから10年ずっと読んでいなかったが、やっと読了。
 著者がリチャード・ファインマンの家で食事をしている時の話が発端。美しい切手を発行していた国チューバ(TUVA)、首都はKYZYLなんてヘンな綴り、この国に行こうという冗談から始まったまじめな企画。冗談に100%まじめに取り組むファインマン流は同じなんだけど、すでにファインマンは体を壊し、手術をし、実際に彼が活躍する部分は少ない。1988年2月15日にファインマンは亡くなってしまう。
 その間も、スペースシャトル計画、スターウォーズ計画、チャレンジャー事故など、時代の記憶が蘇る話が懐かしかった。ホーメイなんかも出てくる。

Friends of Tuva


「アジアン・リゾートに快楽中毒」
島村麻里 講談社

 アジアのリゾートに関するエッセイ。情報的に役に立ったり、視点が面白かったりはしないのだけど、"んー、そうそう"と頷く所が多数有る。円高時期からの旅行へののめり込み方は、同時代的な共感を感じるし。

 いかにも海外通という感じの言葉の使い方(アコモとか)、「なんとなくクリスタル」的な脚注のしつこさは雑学的に面白い。オンナっぽい所多数ではあるが、妙にオヤジ臭い所もあって、さらにこだわり方がオタクっぽい。
 表紙のラジカル鈴木がいい感じ。


「ぼくたちが大人になれない、12の理由」☆
- New Year's Day - Ralph Brown
ラルフ・ブラウン 金原瑞人訳 角川書店

 映画「ニュー・イヤーズ・デイ-約束の日」の脚本家によるノベライズ。ノベライズではあるけれど、小説として非常に完成度が高い。知らずに読んだので、これがノベライズとは思わなかった。
 著者は、「エイリアン3」、「スター・ウォーズ エピソード1」(パイロット役)にも出ている役者でもあり、プロデュース、脚本家でもある。

 イギリス南部に住む、ジェイクとスティーブン、仲間と出かけたスキー旅行で雪崩に遭い二人だけが助かる。自分たちの命を一年と決め、12の課題である、全国紙の一面を飾る、学校を燃やす、銀行強盗などを実行する。死と生の微妙な関係、生き残った人間の孤独感の表現も上手い。面白かった。


「一冊で世界地理と日本地理をのみこむ本」
目崎茂和監修 東京書籍

 監修の目崎茂和の専門は、地理学、環境学、珊瑚礁学など。「5日でわかる世界歴史」のような本当に一冊で地理の概要を理解できるような内容を期待していたが、まったくの雑学の集合。プレートテクニクス、フィヨルド、海流、気象など様々。つまらなくは無いのだけど、所詮雑学の寄せ集めという感じ。


「マネー・メーカーズ」上 ☆
- The Money Makers - Harry Bingham
ハリー・ビリガム 山本光伸訳 産業編集センター

 事故死した億万長者のバーナードの遺言状は、三年後のこの日までに100万ポンドを稼いだものに全財産を与えるというもの。病身の母を末の妹ジョセフィンにおしつけ、長男ジョージは家具メーカーに、次男ザックは哲学の道からコーポレート・ファイナンシャーに、三男マシューは投資銀行のトレーダーになる。
 いかにも英国好みのストーリ。ジェフリー・アーチャーの「チェルシーテラスへの道」とか「百万ドルを取り返せ!」などを思い出させる。
 オチはそれ程驚かないが、軽い文章とノリの良さで一気に読ませてくれて、エンターテイメントとしてはいい出来。


「マネー・メーカーズ」下
- The Money Makers - Harry Bingham
ハリー・ビリガム 山本光伸訳 産業編集センター


「フランドルの呪絵」
- La tabla de Flandes - Arturo Perez-Reverte
アルトゥーロ・ペレス・レベルテ 佐宗鈴夫訳 集英社

 原書はスペイン語だが、これはフランス語訳。著者はテロ、密輸、国際紛争などが専門のTVジャーナリスト。本書が3作目で世界的なベストセラーになったとか。

 修復家のフリアは、画廊の女性経営者メンチェ・ローチから、フランドル派の巨匠ファン・ハイスの修復を頼まれる、X線撮影により、謎めいた言葉「QUIS NECAVIT EQUITEM?」(誰が騎士を殺したのか」が絵の下から見つかる。5世紀前の事件を追うフリアの周りで実際に殺人事件が起きていく…。複雑に多層化した物語の構造が、ウンベルト・エーコを思い起こさせる。

 絵に隠された秘密、チェス盤のコマの謎、殺人、多重構造に入り組んだ物語。美術、歴史、チェス、音楽などの博覧強記の世界は、エーコの「薔薇の名前」への挑戦にも思える。バッハの音楽の話が多く出てくるが、「ゲーテル、エッシャー、バッハ」のホフスタッターの言葉も出てきたり、この多層構造はかなり意識的なものらしい。
 そういう構造は面白いのだけど、全体としてはミステリーとしてはイマイチだし、文章に乗れない部分は多い。


「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」
- Harry Potter and the Prisoner of Azkaban -
J.K.ローリング 松岡祐子訳 静山社

 「賢者の石」「秘密の部屋」に続くシリーズ第三巻。
 ハリーの命を狙いアズカバン要塞監獄を脱獄したシリウス・ブラックの危機が話の中心。「闇の魔術に対する防衛術」の新任教師リーマン・ルーペン、「占い学」の教師シビル・トレローニーなど新しい登場人物も多い。ガード役の吸魂鬼のディメンターもいい味がある。

 面白かったんだけど、前半では登場人物が捉えられなくてストレスたまった。登場人物リストには3に初登場の人しか出てこないし、「賢者の石」「秘密の部屋」での登場人物を全部覚えてないと、スラスラと読んでいけない。リストには重要な人物は全員入れて欲しい(^^;)。
 それでも後半のノリはいいし、ラストのまとめ方とか上手い。さらに読んだ後に、表紙を見ると感慨深いものがありました(^^)。

 映画化も予告編を観る限りはイメージ通りで期待が持てる。ペーパーバックを見ると、第四巻は厚さが倍ぐらいあるので、不安な様な期待出来るような…。

「ハリーポッター友の会」


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