若水 ▲天文民俗学目次へ■ホームへ


 沖縄は宮古島のお話で、

人にはどうして寿命があるのかのお話です。

●月のアカリヤザガマのお話
 むかしはむかし、それは大昔の事でありました。この美しい宮古(島)に始めて人間が住むように なったときのことだそうです。

 美しい心の持ち主であられた、お月様とお天道様は、人間をいつまでも変わらぬ美しさを 保ち長寿の命を授けてあげようと、お思いになられまして、 アカリヤザガマを節祭の夜にお呼びになられました。

 お月様とお天道様はアカリヤザガマに2つの桶をお渡しになって、こうおっしゃいました。
「この桶の1つには変若水(シリミズ)、もう一方の桶には死水(シニミズ)が入っています。 この変若水を人間に浴びせて世が幾度変わっても生まれ替わるように長命を持たせなさい。 そして蛇には肝心(きもごころ)がないので死水を浴びせなさい」

 こうしてアカリヤザガマは重たい桶を2つ持って節祭の夜に島へ使者として旅立ちました。

●気の早い蛇
 アカリヤザガマは天から長い旅して降りてきました。 重たい桶を担ぎっぱなしだったので、とても疲れてしまい草むらに臥せて体を休めようと、 担いできた桶を傍に置き、道端で小便をしていたところ、 その隙に何処からともなく一匹の大蛇が現れました。

 その大蛇は人間に浴びせるはずの変若水をジャブジャブ浴びてしまいました。 アカリヤザガマは驚いて「いやはや、これはなんとしよう。まさか蛇の浴び残しを 人間に浴びせるわけにもいかないし。・・・こうなったら、仕方が無いから 死水の方を人間に浴びせよう」と泣き泣き死水を人間に浴びせてしまいました。

●月へ
 アカリヤザガマは気が重かったのですが、そのまま天まで昇り、 ことの次第をお月様とお天道様にお話申し上げました。

 お月様とお天道様はたいそうお怒りになられ 「長命や美しさを守ろうと思っていましたが、アカリヤザガマ! お前のために心づくしが台無しになってしまいました。 お前の人間に対する罪は償いきれるものではない。人間のある限り、そして 宮古が青々としている限り、その桶を担いで永久に立っていなさい!」

 こうして今でもなお、お月様の中に桶を担いで罪の償いをしているアカリヤザガマが 見えるのだそうです。

●若水
 人間が蛇のように気が早かったら、いつまでも長命でいられたのに、 死水を浴びてしまった人間は死んでいかなくてはならなくなりました。そうして 蛇は変若水を浴びてから今まで、始終脱皮を繰り返し、生まれ替わり長生きしているのです。

 お月様は人間に不死を与えてあげようとしましたが、神様は永遠の生命でなくとも 多少は若返りさせてあげようとお思いになられました。 その時から毎年節祭(シツ)の祭日に向かう夜に大空から若水を送るようになりました。

 今に至るまで祭日の第一日の黎明に、井戸より水を汲み、若水と呼び家族全員が 水浴をする習慣があるそうであります。


参考文献:月と不死・Nネフスキー著/岡正雄編・東洋文庫185
ISBN4-582-80185-4 c0139 P2781E

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