こと座の弦


こと座の星座絵の「オルフェウスのたて琴」には弦が描かれております。 その弦は適当に線を引いてあるだけのようにも見えますので、一体何本の弦なのか調べてみましたら 6本・7本・9本の説があることが分かり、その中で「9本説」が有力であるようなのです。

またフラムスチードなどの星座絵として描かれている「竪琴」の種類が違っているようにも 思えるのです。恐らくは「共鳴版のついた竪琴」ではないかと邪推いたしております。

以下少々脱線ぎみに話は進みます。


ヘルメスの作った手琴

ヘルメスはアルカディアの地でゼウスとアトラスの娘マイアとの間に生まれ、 ゼウスや神々の伝令を勤めました。後には亡霊を冥土へと導く役割も加わりました。

ヘルメスは生まれて直ぐアポロンの牛を盗み、2匹を食べ残りをかくしていたところに 海亀が這って来たので、その甲羅に穴を開け、芸術の9女神ムーサイの数に合わせて 9本の糸を通して手琴を作りました。 そこへ牛を取り返しに来た音楽の神でもあるアポロンと口論になります。

しかしヘルメスのもつ手琴の音を聞いたアポロンは「今まで歌は当初ムーサ達の笛の伴奏のみ であった、この楽器はなんと素晴らしい響きだ」と竪琴の音にほれ込んでしまい、 ヘルメスの罪を許すかわりに、ヘルメスが作った竪琴を貰います。 このときからヘルメスとアポロンは仲が良くなり、アポロンはヘルメスに 「伝令杖カデュケウス」をあげたのでした。

アポロンはこのお話の後に、このヘルメスに貰った竪琴を、 詩の才を愛でたオルフェウスに譲り渡します。
しかしオルフェウスは酒神ディオニュソスの秘教を発見したため、 狂乱女(マイナデス)に引き裂かれて殺された(アポロドーロスのギリシア神話)と 言う話があります。


アポロンの竪琴

アポロンが生まれてすぐ蛇退治に向かう話には、弓と琴を貰い1人で行く話と、 レトに弓を持ったまま抱かれてと言う話しがあるようです。
マイナーな話としては「アポロン賛歌」の1つに、アポロンが最初にデルポイにあらわれたときは 弓にゲンをピンと張ってきて、次には良い香りのする長い衣裳を着て手にはリラ(竪琴)を持って オリンポスの神々の前にあらわれ、そのリラの音楽に神々が輪舞したと言うものがありました。

ギリシア神話では、有名な神ほど後の世で変更が加えられており、 わき役の神である程原形を留めているように思います。 故に有名であるアポロンは様々な伝承がありどの話が古い話であるかは分かりませんでした。 伝承の形態としては、デルフォイ神殿に残されている神託・アポロン賛歌・ヘロドトスの歴史 ・ホメロスの詩・ヘシオドスの詩など様々な形があります。


竪琴の弦の数

竪琴の弦は6・7・9本の説があり、また、弦の素材として、「糸」・「牛の腸」・「羊の腸」の 3説があります

まず竪琴がアポロンからオルペウスに渡ったときのは弦の数は7ないし9本。 実は7本弦には後の話がありまして、オルペウスは7本の弦を、 9本に改造したと言う話がありました。 またオルペウス自信が竪琴を作った話での弦の数は9本でした。

こと座の弦の数は7本か9本あるとするのが有力ではないかと思います。 ギリシア神話は教典を持たなかったせいもあり、色々な異説があります。 どれが正しいかと言うことの判定は困難でした、取りあえず9本が妥当かなと思いましたが、 みなさんはどのようにお考えでしょうか。次をご覧くださいませ(^^)

★6本の弦
まず、6本の弦の記載のある本は1冊でした。ギリシアの音楽理論を調べますと、 音階の種類が7種類ありました。どれもオクターブに含まれる音は7つでしたので、 パープ状の楽器としては6本では音が足りません。従って6本はあまり有力ではない気がします。

★7本の弦
民俗楽器の本で「リラ」や「キタラ」を見てみますと、どれも7本の弦の絵で説明されていました。 ケレーニイの本では「亀の甲羅に二本の葦をつけて、葦の上部を結び、 さらにふるい彫刻絵画のなかでこれらの楽器にみられる、いろいろな部品を取り付け、 これに羊のガットの7本の絃をはった。」とあります。音楽の本とケレーニイさんが7本と 言っているので、やはり7本かなぁと思ってしまいます。 前5世紀の陶器画でヘルメスが竪琴を弾いている絵を見つけましたが、その絃の数は7本でした。

★9本の絃
最初に調べたように、ヘルメスは9人芸術の神に敬意を表して9本の絃とのこと。 ブルフィンチさんの本でも絃は9本とありました。
9人の芸術の神(ムーサイ又はミューズ)の名
名前意味役割
クレイオ讃える女歴史の記述
エウテルペ喜ぶ女笛を吹く
タレイア華やかな女喜劇
メルポメネ歌う女挽歌と悲劇
テルプシコラ踊りを楽しむ女竪琴
エラト憧れを呼ぶ女舞踏
ポリュムニア賛歌を沢山持つ女物語
ウラニア天の女天文学
カリオペ美しい声の女英雄叙事詩
この中のカリオペの子供がオルフェウスですから、9本の絃といいますのも捨て難いですね。


リラ

手琴(リラ)は初心者又は素人用の楽器でした。玄人用の琴は一回り大きいキタラが使われたようです。ホメロスはフォルミンクスとかキタリスと言っておりますが、キタラのことのようです。

★リラ
リラは小型で簡単な構造の竪琴で、音量は小さくて、複雑な技巧も必要なかったようです。 リラは私的な場で「歌の伴奏用」として使われたようで、古代ギリシアに於いて 「音楽は初等教育科目」で「文字」と「体育」とならんで主要な科目であったようです。 その音楽の授業で伴奏用の楽器として使われたのが「リラ」であったそうです。
また祝い事の後の酒宴では「アポロン賛歌」が合唱されて、招かれた客はそれに続いて、 めいめいの持ち歌を披露したそうです。この時に使われた楽器が「リラ」「バルビトス」などで あったようです。

★音楽の変遷
古代ギリシアでの音楽の発達史では、まず最初の段階では「歌」あるいは「合唱」が 主であったそうです。それにアウロス(オーボエ属の笛)の伴奏が付くようになり、 それから「リラ」「バルビトス」などで伴奏するようになり、次いで大型で複雑な構造の 「キタラ」が専門家により弾かれるようになったそうです。

上記のように神話でも、楽器の最初は「ムーサ達の笛」。次に「オルフェウスのリラやバルビトス」。 最後に「ディオニュソスのキタラ」に変化して行きますね。「ディオニュソスの音楽」とは 酒神ディオニュソスに関わる職業芸術組織(テクニタイ)であったようです。 このテクニタイの人々が使った竪琴が「キタラ」であったようで、 それ以前の音楽などのコンクール(パナテナイア祭)のようなものでは、 素人と玄人の色分けがなかったようと言いますか、何と言いますか・・・・・ 「オリンピック的」であったようです。

オルフェウスの話は「リラ」と言う楽器の運命をあらわしているようにも思えます。 また後世においてつけ足された話であるかもしれませんね。このへんは調べようがなかったです
琴座の絃の数は、実際のリラの7本。 又はムーサの9人の女神にちなんでの9本のいずれかであると思いますが、 それは「神のみぞ知る」ことのようです。


オルフェイス

これも様々な形の伝承のほか、オルフォウス教やディオニュソスの秘儀などの言い伝えなどが ありどの話がいつの時代かが、サッパリ分かりませんでした。確かなのは、 オルフェイスの詩の才をアポロンが愛で、持っていた竪琴をオルフェウスに渡したことでした。 ・・・と言うのもつかの間・・・これも違う話がありまして、 オルフェウス自信が7絃の竪琴を発明し、その竪琴は金で出来ていたとの話もありました。 (もう完全にわかりません)

★オルペウス教
オルペウスは宗教の指導者で、革新的な神秘家であったという伝説もあります。 宗教の中身は、肉体は魂の墓場で、魂は地上の堕落から開放されたときに、 天に昇り、天国の調和の中に住むことができるとするものでありました。
またどのように革新的であったかと言いますと、生贄の習慣に強く反対するとともに、 地平線から昇ってくる太陽を、夜明けにおきて丘に登り祝福したそうです。 これはアポロン信仰に繋がり、アポロン信仰に言わば敵対する バッコス(ディオニュソス)信仰の人々から相当の反感を買い、 オルペウスは狂信者達に八つ裂きにされたと言う話も残っています。
八つ裂きにされたオルペウスの頭は洞窟に保存されました。その頭は話す事が出来て、 その頭が予言したことが正確であったので、アポロンは自分自身の神託 (アポロン神殿で行われる神託)の影が薄くなって来たと感じその頭を埋め、 竪琴を星座に加えたそうす。神々の中で音楽が好きなものは、その回りに車を繋ぎ、 また琴の音に踊り出した動物達が回りを取り囲んだそうです。 黄道帯はギリシア語ではゾテイアクで、獣帯を意味しますね。

琴座は星のメリーゴーランドの話だったんですね。

★ホメロスとオルフェウス
ヘーシオドスの「仕事と日」にホメロスの系譜の一説がありました。

          ポセイドーン
            |
  アポローン===トオーセー
        |
       リノス
        |
       ピーエロス===メトーネー(ニンフ)
             |
           オイアグロアス===カリオペー
                   |
                ★オルペウス  
                   |
                                  オルテース
                   |
                 ハルモニデース
                   |
                 ピロテルペース
                   |
                 エウペーモス
                   |
                 エピプラデース
                   |
                 メラノーポス
   アポローンの娘         |
   ピュキメーデー===ディーオス ̄ ̄ ̄アペライオス   
           |
   ★ヘーシオドス ̄ ̄ ̄ペルセース
               |
             マイオーン
               |
             マイオーンの娘===メレース河
                     |
                  ★ホメーロス 

 上記のように、ヘーシオドスやホメーロスは、オルペウスの子孫という
 説がありました。このほかには、ホメーロスはヘーシオドスより時代が古
 いですとか、同じ時代である説があるようですね。

リラの形

星座絵に描かれている竪琴からは「リラ」の形が容易に想像できませんね。 1つの楽器には色々の種類があるものなので、幾つかリラには種類があるので 民族楽器や音楽の歴史の本を調べましても、 リラの形を知る一番の方法は、陶器や壁画などが主なようでした。


  ■ 構造の簡単なリラ ■

   _‖______‖_   陶器に描かれている「リラ」は左図のよう
    ‖   iiiiiii ‖   なものが多いです。またよく星座絵に描かれ
    ‖  iiiiiii ‖   ている「リラ」は、このリラの装飾モデルの
    ‖  iiiiiii ‖   ようです。
     \  iiiiiii /
           \___/

  ■ 共鳴板のついたリラ ■

       _‖_____ ‖_     「リラ」には左図のように、共鳴板がつい
        ‖ iiiiiii ‖   たものがあり、共鳴板には亀の甲羅が使われ
         ‖  iiiiiii ‖   いました。ヘルメスは亀の甲羅を使って竪琴
         \ iiiiiii/    を作ったので、この形の「リラ」ではないか
            \/\/     推測します。 
          |亀|      「亀」とある6角形の部分に、そっくり亀の
              \/      甲羅が使われます。

★竪琴の素材
これは亀で共通していますが、山にいる亀と海にいる亀の2つの説があるようです。 またヘルメスが琴を作った時点が、生まれてすぐとアポロンの牛を盗んだあとの2つの説があります。

★ヘルメスとアポロン
ヘルメスの元々はアルカディア地方の旅人を守る「道祖神」でありました。 ヘルメスとアポロンの出会い方から竪琴の材料を考えますと、 アポロンは北方から来たとする説をとれば、竪琴の材料となった亀は陸亀で、 小アジアから来たとする説を採れば海亀が有力なような気もします。

★では何亀?
共鳴板のついた「リラ」に使われる亀は何の種類かは、まだよく調べられないのですが、 サイズ的に丁度よい亀がいました。「ギリシャ陸亀」です。体長は12〜17chぐらいです。

★琴座の形
フラムスチード等の星座絵の解説で、こと座はリラの1部であると書かれておりますが、 共鳴板ついたリラを横から見ますと

   _
  /亀\――――弦
     \___/2本の柱

  −−−−−これが−−−−−

   ☆ベガ     このようにあらわされた?
  ・ ・  ・
     ・  ・

以上、私の推測でした。状況証拠ばかりで、バーンとした確証がないのが残念ですが、 竪琴調べが暗礁に乗り上げてしまいました。


琴座について情報をお持ちでしたら QWE00275@niftyserve.or.jp  Apollonまでご連絡くださいませ。

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〜主な参考引用文献〜
●ギリシア神話−神々の時代○カール・ケレーニイ著○中公文庫
●ギリシア神話−英雄の時代○カール・ケレーニイ著○中公文庫
●ギリシア○西村太良監修○新潮社
●ホメロスの世界○藤縄謙三著○新潮選書
●仕事と日○ヘシオドス著○岩波文庫
●神統記○ヘーシオドス著○岩波文庫
●ギリシア神話○アポロドーロス著○岩波文庫
●イリアス○ホメロス作○岩波文庫
●ギリシア・ローマ神話辞典○高津春繁著○岩波書店
●ギリシア神話小事典○B・エヴスリン著○教養文庫D204

★ギリシア神話(付北欧神話)☆山室静著☆教養文庫D178
★ギリシアの神々☆ジェーンEハリソン著☆ちくま学術文庫ハ51
★ギリシア神話☆串田孫一著☆ちくま文庫く81
★星空のロマンス☆野尻抱影著☆ちくま文庫の32

■改訳音楽の歴史□ベルナール・シャビニュール著□白水社 文庫クセジュ88
■音楽の歴史□山根銀二著□岩波新書E52
■音楽の基礎□芥川也寸志著□岩波新書E57
■音楽と言語□T・Gケオギアーテス著□講談社学術文庫1108

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