過去への行進  2022年05月26日

 明治政府の野望は、内外に亘っての甚大なる戦争の惨禍を齎し、先の敗戦を以って、潰えたかに見えた。

 しかし今、日本国に、"権益"や"膨張主義"が許される余地など、何処にも求めようが無い状況にも拘わらず、明治政府の国家指導層の亡霊に憑かれたように、米国の走狗となって、駆け巡り、機会を狙う。

 そう、末無しの‹狡兎死して走狗烹らる›である。

 総理大臣伯爵山縣有朋の明治二十三年十二月六日 第一議會(通常)施政方針、「建軍國防の確立と帝國の進路」、「守權線の守禦と利益線の保護」から抜粋引用する。

 「されば内治即ち内政は一日も忽にならぬことは勿論申す迄もないことゝ存じます。又是と同時に國家の獨立を維持し國勢の振張を圖ることが最緊要ことゝ存じます。此事たるや諸君及我々の共同事務の目的であつて獨り政府のなすべきことでは御座いますまい。將来政治上の局面に於いて何等の變化を現出するも、決して變化することは御座いますまいと存じます。大凡帝國臣民たるものは協心同力して此の一直線の方向を取つて、比の共同の目的に達することを誤らず進まなければならぬと思ひます。蓋し國家獨立自衛の道に二途あり、第一に主權線を守禦すること、第二には利益線を保護することである。其主權線とは國の領域を謂ひ、利益線とはその主權線の安危に、密着の關係ある區域を申したのである。凡そ國として主權線及利益線を保たぬ國は御座いませぬ。方今列國の間に介在して一國の獨立を維持するには獨り主權線を守禦するのみにては決して十分とは申されませぬ。必ず亦利益線を保護致さなくてはならぬことゝ存じます。今果たして吾々が申す所の主權線のみに止まらずして、其利益線を保つて一國の獨立の完全をなさんとするには、固より一朝一夕の話のみで之を爲し得べきことで御座いませぬ。必ずや寸を積み尺を累ねて、漸次に國力を養ひ又其成績を觀ることに力めなければならぬことゝ存じます。即ち豫算に掲げたるやうに、巨大の金額を割いて、陸海軍の經營に充つるも、亦此趣意に外ならぬことゝ存じます。寔に是は止を得ざる必要の經費である。」

 当然にして、"主權線のみに止まらずして、其利益線を保つて一國の獨立の完全をなさんとする"方針は、主権線→利益線→主権線(利益線が主権線となり)という拡大路線とな。望むべくもなく、斯様な身勝手(希望的観測)思考の先途に待ち構えるのは"抵抗運動"であり、頓挫である。

 また、明治二十四年二月十六日 第一議會豫算案本會議、「帝國の國是を確立し針路を明かにせん」、「國是の確立と完璧を期す」では、次のように述べている。

 「此の二十有餘年の間、日一日も變更することのないものは即ち國是である。而して上下相擧げて希望を共にするものは即ち國是である。今上陛下の祚を践ませられたる以來、其詔勅を拝讀し奉るに、所謂御親征の詔より致しまして、帝國議會開會の勅語に至りますまで、十を以つて數ふるの多きに及びましたが、内には國民保安の道を盡させ給ひ、外には國威を中外に燿かさんことを望ませ給ひたる大御心は終始貫通して變ることのないことで御座います。斯の如き大御心は即ち我が帝國の一定の國是である。故に我が政府の先進諸氏は、此の聖慮を奉戴して、此の與望を擔ひ既往二十餘年間日夜辛苦經營致しまして、本邦百般の制度を立てましたので御座います。」

 では、明治外交とは如何なるものなのか。以下、渡邊幾次郎著『明治外交史話』「帝國外交の本義」から抜粋引用する。

 今から観れば、余りにも独善に陥り、また夜郎自大過ぎる感を与えるが、今に続く本質を衝いている。

 「帝國外交の本義は何處にあるか。その根底となり、その精紳となり、その進路・方向を決定するものは何んであるか。思ふにそれは、明冶維新の精神・目的を恢弘するものでなければならぬ。しからば、明治維新の精神・目的とは何んであるか。それは王政を復古して天皇親政の統一日本を建設し、對外平等を實現して皇威を海外に振張することである。つまり、上下協力、擧國一致して歐米諸國を凌駕する對等平等の帝國を現出するためであつた。それはいふまでもなく、肇國の精神を恢弘することであり、天攘無窮の皇運を扶翼することであるのである。
 維新以來の帝國外交は、これ等の目的を達成するためであつた。要するに天皇親政の統一日本を完成して天壌無窮の皇運を扶翼するがために、國際關係を調整し、處理し、その妨害たるものを芟除せんがためであつた。我が國が、臺灣を征伐し、琉球を併せ、不對等條約を改正し、日清日露の兩戰役を敢行し、世界大戰に参加し、或は朝鮮を合併し、満洲國の獨立を扶掖し、東亞新秩序の建設を標榜するに至つた今次の支那事變はかくして惹起されたのである。要するに帝國外交の窮極目標は、天壌無窮の皇運を扶翼することで、その着手は對外平等の實現を期するにあつたのである。我々の希望は、それ以上でもなく、それ以下でもない。我々が共存共榮といひ萬邦協和といふ理想と根抵とはそこにある。これ等の我が外交は時に消極となり、時に積極となつた。」

 今日、斯様な考えは無いだろうと、否定されるかも知れないが、培かわれた"精神"といものは、例えば戦争の機運が熟するに従い、拠り所となって表出する。米国が自由や人権を御旗に侵略戦争・他国の政権転覆を謀るようなものである。
 日本もいざと言う時の行動発動の精神的裏付けになる。

 従って其の精神が立ち消えた訳でもなく、常に燻り続けているのが、現在の日本である。小国日本では我慢がならないということでもある。

 愚かにも日本、万事に中国を敵視し、煽動し、包囲網を築くことを、与えられた外交目標とし、軍事力を強化に励む。

 米国は言うに及ばず、英国、EU(NATO)などをも此の地域に呼び込む。
 日本(自衛隊の山崎幸二統合幕僚長)は、NATO参謀長会議(05.19)に、初めて加盟国でないオーストラリア、ニュージーランド、韓国と共に出席する。

 つまり、次の硝煙弾雨の地を準備するためである。覇権主義政権は戦争を不断に繰り返す。

 恰も近未来に此の地域で‹伸るか反るか›の一大決戦が繰り広げられるかのようだ。

 ウクライナ問題を‹千載一遇›のチャンスと捉える輩が、日本にも欧米側にも居る。
 しかし、未来を先取りすれば、日本は先の侵略・植民地獲得での、大戦の悲惨な結果を美事し糊塗するような"甘い歴史認識"が、全く通用しない過酷な結末を迎える。

 日本は分割統治されることになる。

 何よりも米国(欧米側)は日本を見捨てる。所詮日本は、欧米側の使い捨ての‹ぱしり›程度役が妥当なのだ。
 米国の真の目的は、中国を弱体化し、米国の思う儘にしようとする、覇権である。従って、米国は戦場へ現れての直接戦争当事者とはならない。
 中国と直接対峙すれば、"核戦争を招く恐れ"がある。現在のウクライナ戦争の如く、"金=兵器投入と口先介入"に従事する。米軍の"Show the Flag 、Boots on the ground"など、望むべくもない。

 いざとなると、基地の兵は日本から事前に引き揚げている。

 欧米側は、中国(+ロシア)・北朝鮮対台湾・日本・韓国(西側陣営)を主とする、アジア人同士の戦いを画策し、西側陣営に軍事支援をし、利を得る。其の為に長期戦に持ち込ませる企みとなる。

 - 万国尚戎馬 故園今若何 -

 ➀台湾を契機として、日本(米国)・韓国が動く
 ②欧米西側諸国(NATO)は動かず、風見鶏を決め込む
 ③北朝鮮は自国が不利となれば、韓国・日本に核使用
 ④米国の核の傘の実効無し、米国発動せず
 ⑤米国・中国・ロシア間の核抑止理論が働く、と云うか、米国が中ロと談合する
 ⑥此の時点で日韓、米国に完全に裏切られる
 ⓻ロシアの権益確保
 ⑧日本、分割(三分割)統治され消える
 ⓽韓国は北朝鮮に統一される
 ⓾台湾は当然にして中国の帰属となる
 ⑪日本の戦争当事者は、そう、帝国主義、覇権主義、軍国主義、全体主義など、悪夢の再現で、戦争犯罪者となり、侵略などの戦犯に問われ、処刑される

 と、大きな筋を描くと此の様になる。

 ヘインズ米国家情報長官、中国は台湾への軍事侵攻に「自信が持てずにいる」、欧米の一致した厳しい対ロ制裁に「驚いている」などと分析する。阿房臭いとしか云いようがない。‹其の手は桑名の焼蛤›の類である。こんな分析が米国家情報長官のものなのか。

 中国は米国のように目先の利益で狂奔しない。中国は百年でも待つことができる国であるのを、忘れないことだ。

 歴史が浅く文化的蓄積も乏しく落着きの無い米国とでは、懐の深さに、中国と大差が出る。  ウクライナの状況を見て、ロシア侵攻前の台湾の人々は、60%以上が台湾救援に米軍隊出兵を信じていた。が、今(04.26)は米軍隊派兵を信じないが、56%にまで及ぶ。

 しかし、フィンランドとスウェーデンのNATO加入、なぜこの時期なのか。この時期だからか。それでも、自治権を捨ててまで、安全な場所から態々御出座しに及ぶとは。‹火中の栗を拾う›のか。

 NATOの拡大は火薬庫に火を放つようにも見える。何故かと云えば、ロシア侵攻の理屈が、NATO拡大にあるからだ。

 トルコのエルドアン大統領、トルコに制裁を科すスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認めないというが…。米国の猛烈な外交駆け引き(取引)で変わるだろう。

 今、中国はウクライナ紛争をじっくり研究する。
 ストレステストで持久力等も試すだろう。かなり欧米側は今次の事で、手の内を曝け出している。ロシアの戦況をも併せ‹他山の石›とするだろう。

 また、「プーチン大統領がウクライナ戦争の敗戦を自分の政権の「存立の脅威」とみなし、核兵器を使用する可能性があるという米情報機関の見通しが示された」(HANKYOREH2022.05.12「米国家情報長官、プーチンの核兵器使用の可能性に言及」)と。

 ならばどうして、ウクライナに軍事支援を増幅し、状況を其れへと向かうよう煽るのか。  核爆弾の非人道的威力は、人類史上初めて実戦で広島に原子爆弾を投下した米国自身が識るところではないのか。
 例え使用されたとしても、戦争を早期に終了させるため等と言われたら、米国はロシアを詰り、非難することができるのか。欺罔者の言である。

 米国が仲介すれば、停戦となる事も可能なうえに、核兵器の使用などと態とらしく、口外する必要もない。

 米国による原爆投下での被害は、「人間ができる最悪のことだ」と、EUのミシェル大統領。(ParsToday 2022.05.14)

 その広島市当局、原爆の犠牲者を追悼する式典にロシア代表を招待しないと。広く世界に反核の意志を伝える式典であるのに、偏頗な対応である。寧ろ現状を考慮したら、是非ロシアに参加して貰うべきではないのか。
 ガルージン大使、「これまで平和記念式典に出席するたびに感じたのは、この恐ろしい民間人大虐殺を行った国はどこなのか、日本側のスピーチからはさっぱりわからない、という思いだ」(ParsToday 2022.05.25 ロシア駐日大使、「広島平和記念式典へのロシア代表招待見送りは恥ずべき措置」)と。

 中国は斯様な愚か者に煽られて、世界経済の破滅を招く、戦争をすると思うのか。今でさえ、逆制裁で欧米諸国民は苦しんでいる。更に制裁に加わらない国にも食料危機が及ぶ。  米国は其れを思え。

 ロシア産エネルギーに頼る東欧諸国のハンガリーやスロバキアなどが難色を示し、EU内で対露制裁(第6弾)の合意ができないでいる。  「現在、欧州諸国へのロシア産天然ガスの供給に長期的に取って代わることができる供給業者はない」。(ParsToday 2022.05.22 仏月刊紙、「欧州が露産ガスの代替物がないことを認める」)

 「ハンガリーとしては、一種の原子爆弾に等しく、前代未聞の集団移民や飢餓を生み出すことになる性急な対ロシア制裁に反対である」、「我々は今後、厳しい冬を迎える。ウクライナでの軍事紛争は、我々を厳しい状況に陥れることになる。それは、我々がEUの加盟国だからだ」、「ハンガリーは、物価高騰を招くことになる非論理的で容認できない対ロシア経済制裁に賛成していない」。(ParsToday 2022.05.22 ハンガリー首相、「対ロシア制裁は一種の原爆」)

 在フィリピン米大使館付近で、バイデン米大統領の極東アジア訪問開始と同時に抗議者らが集結し、警察と衝突。(ParsToday 2022.05.22「フィリピンで、バイデン氏のアジア訪問に市民が抗議」)

 「韓国の一部の市民団体は、同国首都ソウルでバイデン米大統領の訪韓に抗議するデモを開催」(ParsToday 2022.05.21 米大統領の訪韓に、首都ソウルで抗議デモ)

 イタリアでは、複数の大都市で、市民らがNATO北大西洋条約機構に反対する大規模なデモを開催した。(ParsToday 2022.05.21 伊で、大規模な反NATOデモが実施)

 「日米会談・クアッド戦争会議粉砕!中国侵略戦争阻止」、集会の主催者の1人、高山俊吉弁護士は「非常に危険な行動にいま入ろうとしている。日本と米国が中国に対して、また改めて侵略戦争をしようとしている」と。(ParsToday 2022.05.22 東京で、バイデン氏来日に反対するデモが実施) 

 嘘で固めた米国の同盟強化は同盟諸国にとって、逆噴射の効果として作用している。

 しかし中国、核心的利益については、米国に対して強い警告を発する。(Global Times 2022.05.20「China walks the talk, firm in defending core interests: Global Times editorial」)

 楊潔篪氏、米国国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリバン氏との電話会談で、台湾問題に対する最近の米国の行動と発言は全く異なると強調し、米国が「台湾カード」に固執し、さらに誤った道を進めば、必ずや事態を深刻な危機に導くと指摘。中国は自国の主権と安全保障上の利益を守るために断固とした行動をとり、米国は中国がその約束を守ることを期待できると。

 つまり、中国は有言実行すると、厳しい警告を発した。中国の魄力が伝わる。

 また、バイデン米大統領が韓国と日本を訪問する際、米国と同盟国との会談で台湾の島が重要な話題になるだろうことに、米国とその下僕たちは、台湾問題における「サラミ・スライス」戦術の速度と範囲を加速させているとも言う。

 時折、"見当識"に疑問符の付くバイデン氏、確か此れで同様の事が三度目である。

 台湾についての発言の事である。

 ➀ 一度目は2021年8月にあった。同盟国を見捨てたとの批判に、「北大西洋条約機構(NATO)の同盟国が攻撃されればわれわれは(集団防衛を定めた)条約第五条で反撃する」、「日本とも同じ、韓国とも同じ、台湾とも同様だ」と。台湾については米高官が後に、『米国の台湾政策に変更はない』と声明を出し発言の修正を余儀なくされた」

 ② 二度目は10月21日、CNNタウンホールでの発言である。午後8時00分~午後9時29分間の殆どが、バイデン氏が主唱する、「Build Back Better」計画の説明・Q&Aである。台湾に及ぶのは時間にして、最後の十数分程度の時間内ではなかろうか。

 MR. COOPER: So, are you saying that the United States would come to Taiwan’s defense if —

 大統領:はい。

 THE PRESIDENT: Yes.

 MR. COOPER: — China attacked?

 MR. 中国が攻撃してきたら?

 THE PRESIDENT: Yes, we have a commitment to do that.

 大統領:はい、私たちはそうすることを約束しています。

 しかし今度も、後から修正・補完というか、掛合い万歳的に"舌足らず"を弁護する。次にジェン・サキ報道官の応答を見る。

 Q それから、もうひとつ。 大統領は、中国に攻撃された場合、米国は台湾の防衛に乗り出すのかと聞かれ、"Yes, we have a commitment to do that "と答えました。 台湾と防衛協定に関連して、米国の政策に変化があるのでしょうか?

 And then, one more. The President was asked if the U.S. would come to Taiwan’s defense if attacked by China, and he said, “Yes, we have a commitment to do that.” Is there a shift in U.S. policy as it relates to Taiwan and a defense agreement?

 MS. PSAKI:そうですね、変化はありません。 大統領は政策の変更を発表していませんし、政策の変更を決定したわけでもありません。 私たちの方針に変更はありません。

 そう、以上の二つはブログ「老頭児の白昼夢に真理あり」(2021年11月03日)に書いた。そして、‹二度あることは三度ある›で、更に発言が続くかもれない、とも書いた。

 ③ そして、三度目が東京で出た。

 When asked if the US would become directly involved in a conflict between China and Taiwan, including through the use of military force, Biden said “Yes,” adding that “it’s a commitment we made.”(RT 2022.05.23 US ready to fight China over Taiwan – Biden)

  Biden’s handlers have a habit of walking back the president’s unscripted statements and the White House swiftly sought to add clarity, according to TV reports from Tokyo. However, the White House waffle did not contradict Biden’s statement, simply stating that it did not reflect a change in policy.

 が、三度目となると、そう、‹三度目の正直›とも云う。

“Biden has been corrected twice in the past on defending Taiwan and it was dismissed as ignorance or a mistake, but people are looking at this differently now – this could be a historic moment as this is no longer ambiguous, this is strategic clarity,” said Alex Neill, a Singapore-based defense correspondent who specializes in China.(英文:ASIATIMES2022.05.23 In Tokyo, Biden puts two boots into China)

 台湾は、至って冷静に受け止めている。

「ホワイトハウス『台湾政策に変更なし』 ホワイトハウスは記者会見後、バイデン氏の発言について「台湾に関する政策に変更はない」と釈明した。米国の「一つの中国」政策と、台湾海峡の安定と平和への関与を改めて示したものだとし、『台湾関係法にのっとり、防衛に必要な軍事的手段を台湾に提供する約束についても確認した』と説明した。」
 「バイデン大統領と米国政府が、台湾との約束が盤石だと改めて示したことに心からの歓迎と感謝を表明する」と。
(フォーカス台湾 2022.05.23 バイデン氏、台湾有事の軍事関与は「約束」 海峡の平和と安定支持)

 だが、米軍が台湾の為に、中国人民解放軍(PLA)と戦うことは無い。つまりは、認知症的に"ひとつのことにこだわり続ける"、バイデン氏の気質の現れである。むしろ、三度とも直後に釈明されているところから、釈明の方に米政策の本音在りと見るのが妥当である。
 もし、打合せのうえ、漫才の様に"ぼけと突っ込み"を演じているのだとしても、三度目となるとネタ切れ感が出るうえ、老いの繰り言である。

 自民党の佐藤正久氏、バイデン大統領、「”Yes, That’s the commitment we made.”と明確に発言したのだ」とし、「ただ、バイデン大統領がここまで発言した以上、日本自らが外交力、防衛力を車の両輪として更に強化することが極めて大事であり、日本そして我々政治家も覚悟が求められる」、「今日のウクライナを明日の台湾、尖閣にしてはならないという観点から、中国に対してウクライナ侵略に関する明確な批判を行うよう強く求めると同時に、中国の武力による台湾統一、あるいは尖閣有事に備えて、日米同盟における日本の役割・任務・能力を拡大させ、抑止力、対処力を向上させることは待ったなしである」と。(ブログ 2022-05-24 13:58:32「米大統領発言から見る台湾防衛への姿勢明確化」)

 バイデン氏、二期目目は無いと思わなければなるまい。不安定な米政権と歩むには、与する国も、‹危ない橋を渡る›ことになる。

 繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(IPEF)に関する共同声明 に、"よまい言"は含まれないし、台湾は参加させられない。

 つまり、両義性こそ、米国が不利益から遁走するための仕掛けである。

 日本、舞い上がっている場合なのか。岸防衛相は、「日米両国の基本的な役割分担は変わらないとしたうえで、みずからを守る体制を強化し、日本が果たす役割を拡大する必要がある」(NHK 2022.05.24)と。先途の岐路で、大きな陥穽が待ち構える道を選んだか。

 結局は日本も危機を煽られ、防衛費の拡大を迫られ、米国の軍事産業を儲けさせる、という段取りの中に埋め込まれる。米国にとって、同盟諸国は一番の鴨葱なのだ。

‹舟中の敵国›、味方と恃む者でも、いつ裏切って反旗をひるがえすかも分からない。

 米国の核戦力などで、日本を守ることは到底叶わない。日米同盟の抑止力とは何の為か、争いごとの増幅の爲ではないのか。しかも、‹一旦緩急あらば›、日本単独で対処させられるのが、落ちである。
 「自由で開かれたインド太平洋」で、日米とも都合のいい夢を見るか。

 そう、日本、ロシアの超兵器、サルマトRS-28、「NATO北大西洋条約機構への贈り物」を貰うことの無きよう、言動には注意すべきである。

 日米豪印首脳会合共同声明(2022.令和4.年5月24日)、ウクライナ紛争、未だ先行きも、停戦への兆しも見えないのに、そして其の和平への仲介もせずに、対ロシア制裁、対ウクライナへの武器支援等をする側(インドは除く)が、インド太平洋への影響を評価した。
 そして、4か国は、「欧州連合のインド太平洋における協力のためのEU共同コミュニケーション及び欧州のインド太平洋地域への関与強化を歓迎する」と。
 此の“自由で開かれたインド太平洋”を時化空にする積りのようだ。但し、インドに配慮したのか、ロシアには言及していない。つまりは御都合主義なのだ。

 戦争は更に次の戦争を生むことも稀でない。

 日米首脳共同声明「自由で開かれた国際秩序の強化(2022.令和4.5.23)、繁栄のためのインド太平洋経済枠組みに関する声明(5.23)、日米豪印首脳会合共同声明(5.24)、異曲同工である。
 米国の穢い政策の為せることである。

 併しながら日本、米国の核兵器の先制不使用宣言に反対し、米国核兵器の国内配備で核共有をと、安倍晋三元首相は促す。日本は再三再四の核炸裂を懲りずに欲するのか。因果なものだ。

 日米などで、東シナ海や台湾海峡を巡る連携強化を謳っても、米国の空手形に終わるだけだ。上述したように、中国は米国に強い警告を発している。

 其れでも米国を"踏み切り板"にし、日本は冒頭で引用した"頓挫する夢想"を追うのだろうか。

 岸田首相よ、駒となるを喜ぶ勿れ。詭計に嵌る莫れ。

 日本が戦争に勝利することを望む国など、誇大妄想‹夜郎自大›の自国以外、少なくともアジアには無い、歴史を識るならば。本心米国でさえも望まないだろう。

 万が一戦争にでもなれば、逃げ場所もなく狼狽える。危難を免れても食料・インフラ等のパニックは目に見えている。端から他国(米国)頼みなど、全く当てにならない。
 幾ら考えても、此の四畳半日本、もう戦争は不可能であり、そして懲り懲りではないのか。所狭しに設置された原発など、脆弱国丸出しの薄いガラスの城の如くである。
 "騒ぐ者達"は肝に銘ずべきである。

 本質的に無防備国家なのだ。無防備国家は軍事力で庇護することは不可能に近い。

 ならば、有事法制のような事態を想定した場合、特に他国からの攻撃を考慮した時、ジュネーヴ追加議定書の第59条に云う無防備地域であることの宣言を、各自治体が紛争前に恒久的にできるようにすべきである。
 直接住民の福祉を願う地方自治体としては精一杯の出来ることであろう。
 つまり、
 (a)すべての戦闘員が撤退しており並びにすべての移動可能な兵器及び軍用設備が撤去されていること。
 (b)固定された軍事施設の敵対的な使用が行われないこと。
 (c)当局又は住民により敵対行為が行われないこと。
 (d)軍事行動を支援する活動が行われないこと。
との条件で、紛争当事者が無防備地区を攻撃することは、手段のいかんを問わず、禁止される。
 今は無理でも、国際社会に働きかけるべきではないか。

 他国も含め、戦争が誘発されるような事に加担し、巻き込まれるようなことは最も恐れ避けなければならないことである。また一方側に付く制裁などに加担するのではなく、国際社会に平和を期することを訴える国となるべきである。

 例え、土壇場に追い込まれたとしても、戦争は避けるという強い国民的意志を、固めることが肝心である。

 が、今の日本、戦争のできることに自ら首を突っ込みたくて、うずうずしている。態々ロシアを煽り、中国を苛つかせることを遣り捲っている。どのように見ても、愚かな行為としか映らない。何故なら日米(G7)が主張することは根拠薄弱であり、"いちゃもんをつけたくてつける"という類である。そして魂胆も丸見えである。

 ロシア外務省は、日本との平和条約交渉は不可能となったと(SPUTNIK 2022.05.20「日本との平和条約交渉は不可能となった=露外務省」)。また、「日本は信頼できる有望なパートナーのイメージを失った」とも(SPUTNIK 2022.05.20「過去3か月で日本は信頼できる有望なパートナーのイメージを失った=露外務省」)。

 無論、日本側の言い分は、"その責任はロシア側にあり"である。しかし、国益を犠牲にして、ご破算するような外交政策を採るのは、"小判鮫国家"だからだ。

 G7のように徒党を組み、国際社会を二分裂させるような対立関係に持ち込むのでなく、必要なら国際間の事柄を話合い(交渉)で処理すべきなのだ。

 それでも、戦争になれば、勝敗を最終的に決めるのは、"地面対地面、人口対人口"、つまり国土の広狭であり、人口の多少である。勿論広い方が、人口の多い方が勝利を掴み、生き残る確率は高い。

 そう、北方の安全は自ら断ち切り、西方に向かっては態々波風を立て自らを追い込み、南方には其の魂胆が見透かされているとも知らず、賢しら口を叩いて回り、そして肝心の東は‹遠水は近火を救わず›で、‹尾羽打ち枯ら›し、欺瞞に満ちた言動のみが今も達者という体たらくである。

 嘗て宰相山県有朋が演説で打った‹利益線›などは失せた。北も南も疾うに日本を脅かす存在とり、特に北は核ミサイル性能向上に勤しみ、日本近海の水面にミサイルの飛沫をあげる有様だ。
 つまり、利益線どころか日本の‹主権線›も確保でき無い二進も三進も行かない丸裸同然、敵基地攻撃能力(得意の言葉操作で、反撃能力に名称変更)など、真逆の対応であるというのが、実情ではないのか、此の日本。

 東アジア・東南アジアの中の"黄色忌避欧米憧憬症の自尊心欠如国家、アジア忘れのアジア日本"、既に此のアジアの"火薬庫"的存在となっている。

 歴史忘れて、北東アジアに害を為すか。

 頼みの綱のG7、自身が蒔いた剝き出しの新自由主義の毒気が未だに抜けず自家中毒症気味で、最早共食いか或いは新たな植民地獲得かの切羽詰まった状況に追い込まれ、八方破れのいつもの愚策、戦争(揉め事)を画策する。

 日本の首相、意味不明の口癖となっている‹法の支配に基づく自由で開かれた秩序の形成が極めて重要›など、一見名宛人不明の発声で強調し、近隣の諸国を煽るが、一番先に耳元で声を大に言い聞かせる相手が、米国であることを忘れている。

米国主導の新たな経済連携「IPEF=インド太平洋経済枠組み」なども、所詮は食い詰め者の為せる業であり、経済的圧力、軍事的圧力で飽く迄覇権を狙う目的の‹屋上屋を架す›愚策である。

 煎じ詰めれば、他国の足を引っ張る非建設的な在り様は国際社会にとって、忌むべきことである。

 G7の"しゃかりき"になってのロシア産石油の禁止も、基本的には"希望的観測"となるであろう。サハリン1・サハリン2の権益の去就にも影響が出るか。

 食糧もエネルギーも儘ならぬ日本、G7で"右へ倣え"では、国を売るに等しい。
 経済安全保障の強化を図る新たな法律なども、白蟻に食い荒らされたような日本、入るも出ずるも閉じて如何なることになるのか。国民に対する背信行為である。

 米国がそうであるように、不自由な国に限って、法の支配を無視する国に限って、自由を法の支配を、強調してみせる。しかし、国際社会は疾うにお見通しである。

 お隣のユン・ソクヨル新大統領も、「自由民主主義と市場経済の体制を基盤に国民が真の主人となる国へと再建し、国際社会で責任と役割を果たす国をつくらなければならないという時代的な要求を受けてこの場に立った」と就任演説を打つ。

 なぜ自由の国であるのに、自由を強調するのか。つまり、"後ろめたい"との認識があるからか。民主主義の国なら、国民が主であるのは当然なのだが、"真の"というくらいだから、矢張後ろめたいのであろう。

 まさか揃いも揃って、何処ぞの国への"当て付け"の積りなのだろうか。だとしたら、御門違いも甚だしい。‹頭の上の蠅も追えない›のに。

 更に、北朝鮮の核開発の中断と経済改善策の呼び掛け等は、北朝鮮が‹鼻で笑›いそうな提案である。今次のウクライナの件でもそうであるが、核を所有することの意を強くしたことであろう。

 そんな子供騙しが通じる筈がない。ユン・ソクヨル新大統領の先が見える。

 米国は、もう北朝鮮を攻撃することはできないだろう。北は核のターゲットに、韓国及び日本が入っている上に、自国も危うい。北朝鮮は賢いのだ。

 北朝鮮は現在核兵器を45個ほど保有し、2年後には65個程に増えるだろうと。(東亜日報2022.05.21 米核物理学の権威、「北朝鮮、2024年までに核兵器65個を保有」)

 未だ戦争終了の糸口も見えないロシア・ウクライナ(ウクライナにおけるロシアの特殊軍事作戦)であるのに、次の火種を東アジアで準備する始末である。

 そう、斯様なことばで、「ウクライナはあすの東アジアかもしれない」(NHK 2022.05.05「【詳細】岸田首相会見」)と。言わずもがなのことを言う。

 当然、中国からは「台湾は中国領土の不可分の一部で、完全に中国の内政問題だ。ウクライナ情勢と同列に論じることはできない」、「日本は台湾問題についてとやかく言う資格はない」、「いわゆる中国の脅威を宣伝するのは、自らの軍備増強の口実探しのためだ」との反論、批判が飛ぶ。(ParsToday 2022.05.07「中国外務省、岸田首相の台湾発言に反発」)

 岸田政権、一体米国の何を信じて駆け回っているのだろうか。例えば、米国の政策の何処に、中国の言う、建設的な"互恵・ウィン・ウィンの協力"が見出せるというのだろうか。

 他国を仲間に引き入れ、自国の草刈場、若しくは使い走りにし、あとは‹野となれ山となれ›が米国の関の山なのだ。

 つまりは、"身の破滅"に向かわせる、此れが米国手招きの恐ろしさなのだ。

 米国に、正義、人権、人道など在ると思うな。あっても其れは米国人の本の一握りの人の為であり、他国の為には皆無である。
 他国の為に在るように見せ掛ける時は、内部攪乱のため、侵略のため、讒言のための口実等に使うときである。

 バイデン大統領が提唱するIPEF(インド太平洋経済枠組み)構想(2021.10東アジアサミット)なども、結局は中国包囲、敵対視の下であり、中国を讒誣し、間口を彼方此方へと思い付くままに広げ過ぎ、延いては"道連れ"の市場縮小へ向かうか、或は雲散霧消する運命であろう。

 13カ国で立上げた(2022.05.23)IPEF、「繁栄のためのインド太平洋経済枠組みに関する声明」を見ても、中国睨みでは、不確かなものとなろう。世界経済は全てに中国を必要としていることを強いて無視するのであるから、実効性に無理がある。参加国のGDPなども中国がくしゃみをすれば、世界GDPの40%を占める米国と12の国、途端に萎むことになる。

 令和3年度(2021年度)ASEANにおける対日世論調査結果 V.今後の重要なパートナーでは、中国48%で首位、日本43%、米国41%、ASEAN40%、韓国28%、UK27%、EU26%、豪州23%、ドイツ16%、ロシア16%と続いている。
 なお、令和元年度 ASEAN(10か国)における対日世論調査結果では、日本が51%、中国が48%であった。中国は変化なしゆえに、日本が勝手に転けたか。

 時の政権の在り方が色濃く世論に反映され、切り離すことは出来ない。

 攻守同盟が直ちに‹攻守所を変える›ことになるのか。

 バイデン氏は西側の救世主ではない。寧ろ"潰し屋"であり、"仲間食い屋"なのだ。

 世界経済の体系は相互主義であり、事細かなネットワークが張り巡らされている。今や其の中心、大黒柱でもある安定志向の中国を仲間外れにすることなど不可能と云ってもよい。

 それに明日もわからぬ不安定な米政権に、安定した長期的建設的推進が可能かどうか、大いに危惧される。世界経済の混乱と停滞を招くだけである。

 「対立ではなく対話を、壁を築くのではなく壊すことを、デカップリングではなく融合を、排除ではなく包摂を、そして公平正義の理念に基づいてグローバルガバナンス体系の変革をリードしなければならない」と、中国の習近平国家主席。(CRI 2022.05.20「デカップリングでなく融合してこそ、世界経済は早期に危機を抜け出せる」)

まさにその通りではないか。欧米西側は自らの進めてきた搾取政策である、新自由主義、新植民地主義が干涸び、最早旨味も絞り出せなくなり、陋劣な手段、中国締め出しの籠作でパイの奪い合いを謀る。

 奪うしか能の無い米国、共食いはできても、建設的な歩みはせず、パイの創造には不向きである。

 その米国の内政は御寒いものだ。国民の生命保全も儘ならず、新型コロナウイルスによる死者が、100万2742人に上り、感染者数も8350万5417人(2022.05.25日現在 米ジョンズ・ホプキンズ大)となっている。

 此れは大虐殺にも等しい。‹頭の上の蠅も追えない›のに、他国の人権を構うことができるのか。呆れ入る。

 しかし、西側メディア、一人の哀れには大騒ぎするも、百万人の死者には冷淡なのだ。一人の死も百万人の死も同じではある。が、其の政策は問われるべきではないのか。  メディアの感覚が麻痺しているのだろう。

 EUを米英で引っ掻き回し、"商売"し、次の草刈り場としてアジアに迫る。日本、韓国、そして台湾は、米国益(覇権)の対中国用の囮なのだ。

 敵か味方かの思考対立しか持たない米国の対立を求める姿勢では、紛争の火種とはなっても、世界経済に寄与する能力も其の気も無い事は、アジアの国々は知っているし、また知らねばならない。その様な米国に、利用され捨てられる"駒"にはなるまい。

 尚、日本、‹屋上屋を架す›どころか、国益を損なう恐れのあるIPEFへの参加について、政府は如何なる影響を及ぼすのか、アジア太平洋経済協力(APEC)やCPTPPとの関連などと合わせ、国民に説明する必要があろう。

 悪事仲間内に更に秘め事の悪事あり。‹口に密あり腹に剣あり›の米国に踊らされるか。    前政権と同様、"柵"を平気で切って捨てる米政権に、各国が‹下駄を預ける›など、経綸を賭ける、博奕に等しい。

 米国と一蓮托生の西側諸国は、一方的敵対行為の姦策を弄する己たちの自損行為で、ブラックホール化しようとしている。

 要は文化無き文明が滅び行くのを観ることになる。

 欧米諸国は‹餓鬼の断食›の上に"餓鬼化"している。

 米国にいの一番に駆けつける英国については次のような言葉もある。

 「イギリス人は同盟国をだますことに、無上の喜びを感じている。第一次大戦中、イギリスはロシアとフランスをだまし続けた。チャーチルなどは、目を離すと人のポケットに手を突っ込んで、一コペイカでも盗み取る。ローズヴェルトはそうではない。ローズヴェルトは、より大きな額にしか興味がない。しかしチャーチルは、たった一コペイカでも盗み取る。」
 И・スターリン(一九四四年三月、ユーゴ共産党幹部M・ジラスとの会話より)(『ヨーロッパ分断1943』広瀬佳一著 中公新書1994年7月25日発行66頁)

 「日清戰爭頃陸奥外務大臣は、今にして歐洲の一勢力と充分結ぶ所なければ、將來東洋の平和を保持し、我が權益を維持し難しと唱へてゐた。其の一勢力とは英國か露國の外はないが、陸奥は『英國は人の憂ひを憂へて之を援けんとするドン・キホーテではない。日英同盟論の如きは夢想である。虚榮である。畫餅である」と排斥してゐた」(『日英外交裏面史』柴田俊三著)「一〇 日英同盟の締結」130頁)

 「然るに英國は泰然と傍觀し、而して戰爭行進中佛國が渦中に卷き込まれることを怖れ、佛國と協約を結んだ。是れ英國自身同盟により、參戰の義務より免れんとした保身術である。何處までも實利的勘定高いのは英國だ。
 而して坐ながら日露戰爭により利益を占めたのは英國であつた。即ち露國の戰後疲弊せるに乘じ、一九〇七年(明治四十年)英露協約を締結して、波斯(イラン)、アフガニスタンに利權を攘張し、また酉蔵に於ても有利なる權益を得、斯くて英國の賓庫と恃む印度の衛りを鞏固にし、英露間多年の權力爭ひを一掃した。カイゼルは此英國の立廻りを見て、日本は英國の爲め戰つたのだと毒づいたのである。」(『日英外交裏面史』柴田俊三著)「二 日露戦争と同盟」136-137頁)

 また、同上書の自序に言う。長くなるが引用する。
 此の英国の文字を米国に変えて見れば、世界状況判別の一助となろう。

 「硝烟濛々と東西兩洋を包み、爆聲殷々と砲彈の雨を降らしつつ、今や全世界を擧げての非常時、萬國は興亡存癈の断崖に立ち、戰々競々一日とても安き日はない。凡そ戰爭ほど悲慘なる破壊的行爲なく、幾多貴重なる生命も建築物も財産も資材も、倏忽一瞬にして奪ひ去らるゝのである。誰しも此殺伐なる戰爭を好む者はなからう。しかも奸まざるに戰爭は週期的に起り來り、永久に戰爭を絶滅せしむることは出來ない。止むに止まれぬ原因が、そにに伏在してゐるからである。
 戰爭は更に次の戰爭を生むことも稀ではない。ヴエルサイユ平和條約は、既に平和を確保する眞正條約でなく、次の戰爭を豫約する危瞼性を帶んでゐた。是を以て國際聯盟、華盛頓條約ロカルノ條約。不戰條約等、平和論者は如何に藻掻き苦んだことか。然れども戰爭を防止すべく餘りに微力であつた。是等の平和的條約を尻目に、一九三七年支那事變、一九三九年第二次歐洲戰爭起り、平和の女神をして澁面を造らしめてゐる。
 萬國をして各其の所を得せしめよ、これが世界平和を齎らすべき鐡則である。此鐡則を無視し如何に平和條約網を張り廻すと雖も、唯一時の気休めにして何時かは戰爭は起らざるを得ない。殊に華盛頓條約はどうだ。平和の假面を裝つた僞約で、ヴエルサイユ平和條約を改造し惡化した所の戰爭誘導條約ではなかつたか.斯くして満洲事變、支那事變は當然起らねばならなかつたのである。
 英國が歐洲の西陲たる小島を根城とし、僅かに四千餘萬の人口を以て.世界四分の一の領土と、世界四分の一の人口を支配するのは是れ大なる不自然にして、萬國をして其の所を得せしむる所以でなく、そこに戰爭は醞醸せらるゝのである。世界は英國の牢獄だ。英國が後退せざれば世界の平和は望むことは出來ない。換言すれば英國は戰爭の源泉である。
 日本、支那と國は隔つれども、二千年来の親交あり.同種同文、東洋主義の王道により.和やかなる雰囲気中に生々して.共存共榮、太平洋の波打際に平和を樂しむべく、戰爭しなければならぬ原因は何物もない。だが、執念の蛇はアダムとイヴに禁制の木の實を喰はせ、人間苦を與へた。此執念の蛇は即ち英國だ。英國は實利實益を重んずる功利哲學の信奉者である。功利の爲めには凡ゆる智嚢を絞り、老獪陰險なる謀略を廻らす。日支兩國を噛み合せ、蔭に廻つて漁夫の利を占めんと欲するのだ。東洋禍乱の根源を釋ぬれば即ち英國の介在にあり、吸血的英國策の方寸により、同種相食むと云ふ慘劇を演じつゝあるのは、眞に悲愴である。
 日本は今や末曾有の時艱に遭遇してゐる。しかも國の總力を擧げて時艱を克服し、東亞新秩序建設の大使命を果さなければならない。だが其處には英國と云ふ障碍物が横たはつてゐる。日本は此障碍物を排除することにより、初めて天業を全うし得るのである。  凡そ英國に觸るゝ程のものにして、英國の毒牙にかけられ痛手を負はなかつたものはなからう。日本は鎖國の夢に酎醉すること二百有餘年、徳川幕府の末葉に當り、國勢萎靡せる時、英國に接觸したのは最も不幸なるものであつた。日本は英國の飽喫する一臠の美肉たらざるを得なかつたのである。日本は英國の爲めに威嚇され、脅迫され、搾取され、精紳上物質上の大損害を蒙つた。若し一歩を誤れば第二の印度たる運命に陥つてゐたかも知れない。然れども日本は神國だ。自ら發憤して國力を恢弘し英國と桔抗することになつた。英國たるもの晏然たるを得ず、日英の摩擦は遂に今日の時艱に遭逢したのである。古來英國が如何にその魔手を伸ばして日本を苦しめたか。其の跡を檢討し來りて、恐怖すべき英國の手段を知り、知つて以て英國の謀略を退け、事變完遂に資せんとす欲するのが即ち本書の目的である。
 昭和十六年八月」

 また、次のような大隈重信の論も如何か。『大隈伯演説集』から抜粋する。

 「斯ふ云ふやうに其時支那は分割する、支那は滅びるものと極めた。尤も機敏なる外交家政治家は或は夫程までに思はなかつたが、先づ概して支那は再び恢復は出來ない、滅びるものであると斯う見た。僅かの間にさう云ふ變化來して居る。而して夫れから僅五年を經過する内に又變つて來た、なかなか支那と云ふ國は容易に滅ぼすことは出來ないのである、支那は孔子が産れた國である、孔子の産れた國は滅びない、開闢以來の外交史を見ても支那は滅びぬ。我輩も嘗て孔子の門人であるが、孔子の産れた國は容易に滅びるものでない、孔子の産れた國であるや否は措いて、結局我輩の論は當時支那を滅ぼすことはむずかしい、若し支那を滅ぼしたならば――支那の領地を取つたならば、其爲めに歐羅巴の文明を破壊されて仕舞ふに相違ない、陸海軍を以て支那人を年々百萬人殺した所が四百年掛る。年々百萬人殺す爲めに支那は武器を動かさなくとも、少なくとも歐羅巴人の十分の一位は殺す、其時は數百年掛つて立てた歐羅巴の文明は全く亡びて野蠻となつて仕舞ふ。夫程には悟らなかつたかも知れぬが、どうも結局六ヶしいと云ふことを悟つたに相違ない。夫で僅かの間に三變した、私のはま―粗雜の議論であるが……、山田君の御議論は大分明らかである。至極私は御同意を致すのである。最後に歐洲人は嘗て支那人を恐れたやうな怖れはないが、商業の上で將來歐羅巴の文明を壊されはしないかと云ふ虞を懐いて居ると云はれたが、是れ亦誤つて居る。一遍誤ると又同一のことを繰返するものである、歐羅巴人はえらい思つたが、えらくない證據は支那問題であります。僅か六七年の間に五度も違つた。」(『大隈伯演説集』「第四 日英同盟の影響」明治三十五年四月二十日、東邦協會講談會に於ける演説なり。四三-四四頁 明治四十年十月十五日發行 早稲田大學編輯部編纂)

 メディアもロシア悪しの連日報道で、岸田政権を後押しする。が、日露戦争時のように政府と新聞に煽られて、開戦論等に傾かないよう、国民が冷静さを保つべきである。

 しかし、「世界は英國の牢獄だ。英國が後退せざれば世界の平和は望むことは出來ない。換言すれば英國は戰爭の源泉である」と。

 その邪悪性のDNAをそっくり引き継いだのが、米国である。

 が、"ウクライナはあすの東アジアかもしれない"としたら、どうなるのか。無論、台湾植民地化もG7による中国分割なども起こり様がない。

 あるとすれば、物の見事に廃墟・占領化された日本であり、‹元の鞘へ収まる›台湾であろう。

 "ウクライナはあすの東アジアかもしれない"の其のウクライナとは、日本の事である。  であるならば知るが好い。味方とする欧米側の在り方を。丸で"金儲けの権化"である。核炸裂で決着など、固より欧米側は望まない(ウクライナが核攻撃されようとも、傍観する)が、戦争を長引かしての"儲け"、そして敵対国の弱体化(此の場合は中国か)を、日本と台湾を扱き使って、上手く立ち回るという寸法である。

 さて日本、国の長期債務残高が2021年度末で、1017兆1000億円になった。
 何も驚くことはない。日露戦争では国家予算の約6倍を費やし國力の限界を試した。戦費の4割以上が英・米からの借金(外債)で賄ったのだ。(『日本近現代史を読む』新日本出版社2010年1月10日初版)

 安倍晋三元首相、「機関銃の弾からミサイル防衛の(迎撃ミサイル)『SM3』に至るまで、十分とは言えない。継戦能力がない」と、防衛費増の必要性を強調する。(ParsToday 2022.05.22 安倍元首相;日本には「継戦能力がない」、防衛費の増額が必要)

 先に、安倍晋三元首相、「一千兆円ある(政府の)借金の半分は、日銀か買っている」、「日銀は政府の子会社だ。六十年の(返済)満期が来たら借り換えても構わない。心配する必要はない」と(中日2022.05.11「日銀は政府の子会社だ」)。

 実際その通りなのだろう。超インフレでもならない限り、預金の利子がゼロに近くても、下手すれとマイナス状況であっても、国民は何の文句も言わないし、暴動も起きない。
 つまり、国民は満足していると思うべきなのだろう。

 例えば、貸借対照表(単位:百万円)、令和2年度 国の財務書類(一般会計・特別会計)の、本会計年度(令和3年3月31日)を見る。

 資産合計 720,790,938 負債合計 1,375,954,353 資産・負債差額の部 △ 655,163,414である。総括的に655兆1634億円余が公債等による赤字である。公債だけを取り上げれば、1083兆9313億円余となる。

 (注2) 国が保有する資産には、国において直接公共の用に供する目的で保有している公共用財産のように、売却して現金化することを基本的に予定していない資産が相当程度含まれている。このため、資産・負債差額が必ずしも将来の国民負担となる額を示すものではない点に留意する必要がある。
 (注3) 負債の部の公債(本会計年度1,083.9兆円)については、基本的に将来の国民負担となる普通国債残高(956.4兆円)のほか、財政投融資特別会計等の公債残高を含み、国の内部で保有するものを相殺消去している(55ページの「③公債の明細」参照)。

 しかし、(注2)にもあるように、「売却して現金化することを基本的に予定していない資産」なのだ。が、有価証券 119,683,572の中味が不明だが、米国債分があっても、橋本龍太郎首相の件を思い出す。「米国債を売りたい衝動に駆られることがある」と。が、「もし売るようなことがあれば(米国への)宣戦布告とみなすと脅された」
(https://moneyworld.jp/news/06_00014880_news)。

 したがって、貸借対照表の資産、参考にはなっても、既に諸々の結果のストックを表しているだけである。

 民間ならば、倒産法でも適用されない限りは、健全性の指標になる等である。

 日銀と安倍前首相の関係というより、日銀は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」(日本銀行法第二条)、そして、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」(同法第四条)、また、「日本銀行の資本金は、政府及び政府以外の者からの出資による一億円とする」、「2 前項の日本銀行の資本金のうち政府からの出資の額は、五千五百万円を下回ってはならない」等と(同法第八条)定められている。

 民間企業の例を採るなら、"子会社"であり、其の上、方針の決定等も第四条からすれば支配されている状態である。第三条の日本銀行の自主性の尊重及び透明性の確保などは、日本銀行法内で自家撞着に陥っているのだ。第十九条もそうである。

 つまり、実質基準で云えば、第二十三条総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て、内閣が任命する、から云っても、"忖度"や"睨み"も含めて子会社以下なみであろう。法の在り方から云っても、議決権などは無関係にちかい。

 よって安倍前首相の言、軽薄感漂うが、事実を突いている。日銀は、借り換えプラス・アルファで打出の小槌化している。

 財政規律?基礎的財政収支(プライマリー・バランス)、常に先延ばしで、此の頃は話題にもならない。

 ‹大鉈を振るう›ことが出来ないのでは、‹千年河清を待つ›である。
 恐らくプライマリー・バランスとは、長期債務残高と国民の金融資産2000兆円とのバランスのことであろうか。

 岸田首相、内憂外患、課題山積の日本の行く末、安倍派頼みか。

 ハリス(Townsend Harris)は、幕府との間に日米修好通商条約・貿易章程を締結の際、幕府側の岩瀬肥後守忠震全権委員らを称し、「斯る全權を得たりしは日本の幸福なりき、彼の全權等は日本の爲に偉功ある人なりき」(『幕府衰亡論』福地源一郎著 七十六頁)と。

 斯様な本物の知性の持主は、当今の政治家には見当たらず。
 日本の不幸なり。

 孔子曰。益者三友。損者三友。友直。友諒。友多聞。益矣。友便辟。友善柔。友便佞。損矣。

 "世界は米国の牢獄だ。米国が後退せざれば世界の平和は望むことは出来ない。換言すれば米国は戦争の源泉である"と、声高に話すか。

 米国よ、汝らの政策は無駄なり。

    ◇

 酔い痴れて 崖っぷちを覗く 日本危うし

 酔っ払いに 投げ棄てられる 日本国憲法


 身も蓋もない 2022年04月25日

 米国政権の発言は総てが"偽"と断じても過言ではない。逆説的な言辞になるが、偽が"真"であるのが、アメリカ政権の実態なのだ。

 イクライナ侵攻と云うが、侵攻というならば本来、侵攻しているのは欧米側といえよう。それも30年余に亘ってである。

 あの有名なフレーズ、NATO拡大に関する1990年2月9日の保証、"not one inch eastward"(私訳:「一歩たりとも東へ」)が、済し崩しとなった。
 つまり、NATOの東漸(侵攻)である。

 さて戦争の現場は、当然ながら演習とは大いに違い、実弾が飛び交い、被弾すれば命に関る。そこで、勢い混乱の極み、予定外の事が続出する。其の上敵味方側の思惑(戦術・戦略上の欺瞞等)が交錯し、机上のプラン通りには進捗しない。

 今次のウクライナ戦争、ロシア軍側の"弱さ"も指摘されるが、丸腰の相手と戦うのではない。寧ろ欧米側からの武器弾薬・兵糧・医薬品等の軍事支援を得て(当てにして)、交戦中なのだ。

 ロシア軍の弱さを指摘するのなら、20年も最貧国と戦い潰走した"持てる国"米国の正規軍を何と評すればよいのか。一言で云うなら、"間抜け或は腑抜け"とでも評するしかない。

 しかし、戦争というものは無慈悲、残酷ゆえ悲劇の最たるものであるが、余にも愚かしいとなると、喜劇でもある。

 前線からの不正確な情報、或は隠蔽、そして総司令部の内外への偽情報の発表、時には身内をも騙し、都合の良い戦況なりを捏造するという、一筋縄では行かない情報(諜報)戦が展開される。

 <明暗を分ける>判断が中々付かないのも戦争である。しかし、歴史は其処に"通奏低音"の存在を指し示す。

 ストーン著の『秘史 朝鮮戦争』「48 ヴァン・フリートの結論」で、「朝鮮はひとつの祝福でした。この地か、あるいは世界のどこかで、"朝鮮"がなければならなかったのです」、そして「この素朴な告白のうちにこそ朝鮮戦争のかくされた歴史のカギがあるのだ」と。

 その"世界のどこかで"が今、アフガニスタン戦争終結に次いで、ウクライな戦争なのだ。つまりは為る必要もない、話し合いで済むことが可能であった筈なのに、多くの死者、そして500万人以上のウクライナの避難民が欧州近隣諸国、将又大陸の東端の海に浮かぶ島国、日本へと避け来る。

 ウクライナのゼレンスキー氏は当事者能力を失くし、ホワイトハウス報道官の一部と化した役割を果たし、米の代理として戦争をしている。

 もっとも当事者能力と云えば、バイデン大統領も見当識に些か問題が見られるが。

 このウクライナ戦争、停戦の勧めの報道は聞かれない。代わりにG7の西側諸国は武器支援・ロシア制裁等を以て、<行け行け>とばかりに両国を煽る。
 つまり、戦争終結しないことが“目的”なのだ。

 日本の岸田政権、米政権のコピペ政権と化し、ロシア制裁、ウクライナへの軍需品の支援などで、去就を決し、戦争に加担する。ロシアとの国交関係には"吹っ切り感"も窺える。

 「露日関係の凍結状態を物語っており、冷戦時代よりも深刻だ」と、言わせる。(sputnik日本2022.04.22「露日関係は冷戦時代よりも深刻な凍結状態にある=専門家」)

 日本の支援方法も単なる人道上の救援でないことは、次の一端が物語る。
 インドは、インドを経由しての自衛隊機の救援物資輸送に不同意、ただし民間機による物資輸送は許可すると。
 が、日本、経由地のインドの拒否で計画の見直しを迫られる。なぜ民間機では駄目なのか。
 まさかの悪夢、"ショー・ザ・フラッグ"、"ブーツ・オン・ザ・グラウンド"が祟るのか。

 岸田首相は、ニューデリーでモディ首相(04.19)と、カンボジアのプノンペンでフン・セン首相(04.20)と会談していた。目的はロシア包囲網の強化を狙いだが、いずれも共同声明を出すも、ロシアを名指しできずの外交辞令でかわされていた。

 18日フン・セン首相は中国の習近平国家主席と電話会談していた。

 なお、中国の王毅部長、インドのジャイシャンカル外相と会談(03.25)し、「『中国とインドは互いに脅威とならず、互いに発展のチャンスである』という両国首脳間の重要な共通認識を堅持し、国境問題を適切に解決し、溝をうまく管理・コントロールして、両国関係の発展に助力する必要がある」とした。(2022.03.28「王毅部長、『国境問題が中印関係全体の発展に影響を与えるべきではない』」)

 インドは反ロシア的立場を取るよう求めたアメリカの要請を拒否したと。  (ParsToday 2022.04.24「インドが反ロシアを求める米要請を拒否」)

 また最近では日本、中国と安全保障協定の締結をしたソロモン諸島を、米国代表団が訪問したのに続いて、同じく政務官を派遣する。
 中国の趙報道官、「なぜか最近は、ソロモン諸島が急に人気スポットになり、米国からだけではなく、日本からも団体で訪問するようだ。彼らが通常の友好協力関係を発展させることに異議はないが、第三国を標的にすることのないよう望んでいる」と、皮肉たっぷりに 強調する。(CRI 2022.04.22「ソロモン諸島への日本政務官派遣 第三国を標的にしてはならない=外交部」)

米国に与するよう説く日本の魂胆などは疾うに国際社会では見抜かれており、米国の要人が岸田首相の仮面を被ったようで、米国と同一視される日本は、自主外交を持たない非独立国家の様相を呈している。

 実に日本は、平和であることを恐れる国家、戦争で利を貪る山師国家へと変身しつつある。これまでの政権と一味違い、吹っ切れて、躊躇いも無く、米国政権との同一化路線上の轍を辿る。

 ロシアのウクライナ侵攻を奇貨として、岸田首相は戦争国家への、平和を恐れる国家への、アイゼンハワー大統領の指摘を俟つまでもなく現に今米国で破顔一笑する軍事産業(軍産複合体或は軍産学複合体)への途を直走る。

 そして国民も連日のロシア悪し、ウクライナへの憐憫を誘う不確かな記事を報じられ、判官贔屓が昂じ、アンケートみられる結果となる。当然、欧米側よりの記事を垂れ流す。  其処には"なぜ?"は稀となる。

 ロシアのウクライナ侵攻に関する岸田首相の対応を評価するは60%、評価しないは28%で、内閣支持率は69%となる。(Sputnik 日本 2022.03.29「日本 内閣支持率が61%に上昇 12月以来=日経新聞の世論調査」)
 ロシア経済制裁も続行すべきだが、男性74%、女性61%で、そうは思わないが23%である。(同上04.18「岸田首相のロシア非難「戦争犯罪」発言 日本の88%が支持 朝日新聞調査」)。

 とことん儲けをしゃぶり尽くす迄、長引く(かされる)ウクライナ戦争、日本国民も含めて、制裁は国民の生活を直撃するようになり、また国家財政へ負担となり、国民に付けが回って来る。

 さらに、ウクライナからの避難民対応の生活費・医療費・就職斡旋・言葉の問題等など、今は数百人の規模であり、"かわいそう"で済んでいるが、戦争が長引くと避難民1000万人とも予想される中、若し、日本に数十万、数百万と押し寄せて来る状況になったら、如何なものか。

 避難民支援を申し出る自治体や企業、それでも対応可能なのか。勿論、岸田首相、避難民受け入れ拡大を考えているのだが、その受け入れ人数の表明はない。
 もしかすると、大陸の東端の海の中に浮かぶ島国に、そんなに避難民が来るはずはないと高を括っているのかも知れない。

 例えば、その受け入れ対策として日本は、出生率の低下、人口減に憂い、全国に広がる耕作放棄地、空き家、限界集落、御負けに食糧不足に見舞われそうな日本でもある、対応策には事欠かない筈だが。

 ただ下手やると、国際問題化し、逆効果となる。

 情動的・衝動的に恰好を付けると、大変なことになる。そう、受け入れ避難民の数も増えると、其の不満声も増大する。

 これまでも難民の受け入れには及び腰であった日本政府である、ウクライナ避難民受け入れに限って積極的であるのには、"下心"ありと疑われても仕方がない。

 日本のウクライナ避難民への肩入れ、人権や人道といった普遍性に基づくものでないことは明らかである。

 そう、二枚舌・仮装・偽善・振りである。なお当然、日本は米国の"尻拭い国家"でもある。

 既に欧州では、避難民受け入れ対応への二枚舌に非難が集まる。

 例えば、ドイツ政府はアフガン難民を追放し、かわりにウクライナ難民を受け入れようとしている。(ParsToday 2022.04.24「ドイツ政府が難民に差別的対応」)
 米議員、イルハン・オマル氏は、「世界で起きている人権侵害や戦争犯罪に関する自国政府の主張を、非常に偽善的だ」と。(ParsToday 2022.04.19「米議員が、世界の人権侵害に関する自国政府主張を批判」)

 さて、<身も蓋もない>事も知る。次のようだ。

 (Global Research, April 13, 2022「NATO Admits It Wants ‘Ukrainians to Keep Dying’to Bleed Russia, Not Peace
NATO sees Ukrainians as mere cannon fodder in its imperial proxy war on Russia. By Ben Norton」)からの私訳である。
 なお同様の記事が(BLACKLISTED 2022.04.22「Turkey Says Some NATO Members Want Longer Ukraine War to Hurt Russia 」)が見られる。

・米国主導のNATO軍事同盟は、ロシアを血祭りに上げ、西側の地政学的利益を進めるため、最後の一人のウクライナ人まで戦う用意があることを明らかにした。

・ロシアが政治的利益を得るのを防ぐために、"ウクライナ人が戦い続け、死んでいく"ことを、衝撃的なほど露骨に、一部のNATOの加盟国家が望んでいる。

・4月5日のウクライナとロシアの和平交渉に関する報道では、NATOはキエフがモスクワの要求に屈することを恐れていること。

・"NATOの一部にとって、キエフや他のヨーロッパ諸国にとって早すぎる、あるいは高すぎるコストで和平を達成するよりも、ウクライナ人が戦い続け、死んでいく方が良いのである"。

・匿名の西側外交官は、"NATOの一部が和平を得る支持には、妥協する制限がある"と強調し、ロシアが安全保障上の懸念を抱くのを防ぐことができるなら、むしろウクライナでの戦争を長引かせたいのだという。

・NATO加盟国は、"ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に勝利の形を与えたくない"と必死であり、そのためにはウクライナ人を肉挽き機に押し込むことも厭わない、と。

・ジェイク・サリバン国家安全保障担当補佐官は、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領はワシントンと緊密に連携しており、ホワイトハウスと"ほぼ毎日"連絡を取り合っている、と認めた。誰が本当の責任者なのかが明白である。

・同紙は同様に、米軍がヨーロッパに10万人以上の部隊を展開していることも明らかにした。

・ワシントン・ポスト紙は米国政府と密接な関係にある。同紙のオーナーは、2000億ドルの富豪ジェフ・ベゾスで、歴史上最も裕福な人物の一人である。

・ベゾスは巨大企業アマゾンの創業者兼会長でもあり、CIA、ペンタゴン、NSA、FBI、ICEなど米国政府機関と数百億ドル規模の契約を結んでいる。

・NATOはロシアに宣戦布告したのか?
 もしワシントン・ポストが、ホワイトハウスの高官からの引用で、NATOに関するこの情報を開示しているなら、明らかにワシントンのハンドラーから許可を得ているのだろう。

・この報道は、NATOがウクライナ人をロシアとの帝国的代理戦争における単なる鉄砲の玉と見ていることを半公式的に確認するものである。

・事実、西側諸国の高官の中には、このことを公然と述べている者もいる。

・国務省の元高官で、右翼の戦争タカ派のエリオット・A・コーエンは、『アトランティック』誌の記事で、"アメリカとNATOの同盟国は、ロシアとの代理戦争に従事している"と自慢げに語った。

・彼は誇らしげに言った。"彼らはロシア兵を殺す目的で、何千もの弾薬を供給し、うまくいけば他の多くのこと、例えば情報の共有も行っている"、さらに、"より多く、より速くが良い"。

・国務省のベテランは、"ウクライナに入る武器の流れは洪水のようである必要がある"と宣言した。

・これはまさにNATO加盟国が行っていることであり、ロシアの隣国に武器を溢れさすことである。

・米国とEUはロシアとの和平交渉を支援する代わりに、積極的に戦争をエスカレートさせ、ウクライナに数万発の対戦車ミサイル、数千発の対空ミサイル、数百機の神風ドローン、さらには戦車や装甲車など、数十億ドルに値する武器を送り込んでいる。

・言及されないのは、米国とヨーロッパの軍需企業がいかにこの戦争で大きな利益を得てきたかということだ。2月24日にロシアがウクライナに軍を派遣した後、西側諸国が軍事費の大幅増額を約束したため、民間軍事企業の株価は急騰した。

・ジョー・バイデン政権は2月下旬に3億5000万ドルの兵器を直ちに提供し、3月にはウクライナに136億ドルの追加支援を約束し、うち65億ドルを軍事支援することにした。 ・NATOの外相たちは4月6日と7日にブリュッセルの軍事同盟本部で会合を開き、ウクライナでの戦争をさらにエスカレートさせることを誓い合った。

・西側の政治家たちは、日本、韓国、グルジア、フィンランド、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランドなど、NATO以外の加盟国数カ国の代表と一緒に参加した。

・ウクライナのドミトロ・クレバ外相は、この会議のためにブリュッセルを訪れ、NATOが平和ではなくさらなる戦争を望んでいるという疑念を払拭した。

・"私は今日、3つの最も重要な事柄、すなわち武器、武器、武器について議論するためにここに来た"とクレバ氏は要約した。

・NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も同様に、"侵攻後、同盟国は追加の軍事支援、より多くの軍事装備で歩み寄った。"と宣言しており、同盟国はもっとやるべきだ、もっと装備を提供する準備ができている、というのが緊急性を認識し理解する彼等の今日の会議での明確なメッセージでした"。

・ストルテンベルグは、ウクライナに対するNATOの直接的な軍事支援は2014年にまでさかのぼり、ロシアが侵攻するずっと前の過去8年間に、何万人ものウクライナ兵がNATOによって訓練されたと自慢する。

・NATOは、ロシアの弱体化と不安定化を期して、ウクライナ人が命を犠牲にし続けることを、明らかに選んでいる。

・一方、これ以上の戦争ではなく、平和を解決策と考えるウクライナ人は、悲惨な結末に直面している。

・ロシアとの和平交渉に参加していたウクライナ人交渉官、デニス・キレーエフが殺害された。ネオナチなどの極右過激派の影響を受けていることで有名なウクライナ保安局(SBU)が殺害したと伝えられている。

・このような極端な暴力や戦争挑発は、"防衛的"同盟であるはずのNATOの主張と真っ向から対立するものである。

・実際、NATOは民主主義はおろか、防衛に専念したこともない。1949年の創立メンバーの中には軍事同盟を設立したメンバーの中には、ポルトガルのファシスト独裁政権も含まれていた。

・第一次冷戦時代、NATOは悪名高いグラディオ作戦で、かつてのナチスの協力者とファシストを支援した。NATOの支援により、極右過激派は左翼を抑圧するためにヨーロッパでテロを行い、特にイタリアの悪名高い"鉛の時代"の時はそうであった。

・第一次冷戦が終わると、NATOはロシア国境への拡張を続け、1990年のドイツ再統一後、軍事同盟は「1インチも東に移動しない」という米英仏の約束を繰り返し破った。

・1990年代の空爆で、NATOは旧ユーゴスラビアを破壊し、切り刻んだが、この国はもう存在しない。

・そして、NATOは2001年に米国が開始したアフガニスタン戦争に協力し、2021年まで共同軍事占領を維持した。

・2011年、NATOはアフリカで最も繁栄した国であるリビアに戦争を仕掛けた。欧米の軍事作戦は、リビアの国家を粉々にした。化石燃料を扱う外国企業が、北アフリカの膨大な石油資源を略奪した。

・2022年の今日も、リビアには統一された中央政府が存在しない。しかし、サハラ砂漠以南のアフリカ難民のための野外奴隷市場は存在する。

・リビア、アフガニスタン、旧ユーゴスラビアの破滅は、NATOが本当に世界に何を提供しているのかを示している。

・そして、アメリカ主導の軍事同盟は今、ワシントンとウォール街の利益を促進するために、ウクライナを餌食にしようとしているのだ。

 岸田政権も欧米の本音を遂行すべく、ロシア制裁に、ロシア人外交官の国外追放に走る。されど、ロシア非難には時間を割くも、積極的に停戦を国際社会に訴えることはない。

 そして斯様な政治状況を良いとする国民がいる。既に翼賛政治会に近似する。
 利潤を追求する資本主義社会、そして其の急先鋒となる新自由主義の考えをG7という枠の中で政策に取り入れ、推奨・先導してきた日本でもある。当然、企業優先となる。
 が、本来なら労働者擁護のため企業と対峙する関係にある筈の連合トップが、堂々と自民党に靡く時代だ。それに国民も奇異の感を抱くことはない。

 鋭い政権批判での議論も聞こえず、野党も自民党化している。
 総じてウクライナ"ショック"なのだろうか。危ない時代になったものだ。

 日本は政策の因果で、包囲されている。ロシア、北朝鮮、中国によってだ。更に三カ国は核を有する。
 また、日米豪印の「クアッド」仲間のインド、ロシア寄りは鮮明となった。

 今次のウクライナ戦争を観れば判るが、欧米は、"ショー・ザ・フラッグ"、"ブーツ・オン・ザ・グラウンド"など無視である。
 つまり、<濡れ手で粟>である。

 制裁をばら撒く米国をはじめ西側諸国(G7)は"包囲している"のだろうか、或は"包囲されている"のだろうか。よく考えるべきだ。

 いずれにしろ、制裁は<諸刃の剣>となる。<股を割きて腹に啖う>国を仲間とする日本、自身が既に<鴨葱>になっていることに気付かなくてはならない。

 戦争を<金の成る木>とし、次から次へと"争いの種を仕込む"不逞の国家、米国を制御できない国際社会も、少しずつではあるが、米国主導の西側諸国に振り回されない自主外交の機運が生まれてきたのは、よい兆しである。

 直近では、世界銀行と国際通貨基金の定例の合同開発委員会を開くも(04.22米ワシントン)、ウクライナ侵攻に対する非難にロシアなどが反発し、1979年以降の現運営休制で、初めて共同声明の発表を見送った。日米欧のG7はロシア発言の際、退席した。

 G20財移相・中央銀行総裁会議(04.20)、国際通貨金融委員会(04.21)等もロシア等の反発で共同声明が出せなかった。

 退席し聞かずの態度はまるでガキの仕種である。

 G7側、尤もらしく"国際協調や国際秩序"云うも、その意味はIMFも世銀もG7の思うままに操ってきたことを指すのであり、その歴史は死屍累々の惨憺たるものである。

 例を挙げれば、「一帯一路」での中国の発展を阻止しようとするG7側が、讒言する"債務のワナ"であるが、その走りと元凶は欧米側であり、1973年以降のサミット体制にあり、無理な貸し出し等で債務危機を惹き起こした。また、IMFと世銀は"構造調整政策"を以て更なる追い打ちをかけ、貧困化に拍車を掛けた。

 今見る、貧富の差が如実に語る。

 そう、讒言された中国の例、スリランカの対外債務5百億ドル(約六兆二千五百億円) 超の約1割が対中債務である。一割の中国を以て他の九割には口を閉ざし、米国、日本などは嘘を云い、中国の「債務のワナ」に陥ったと非難する。
 そして、飽き足らず中国企業などの多額の「隠れ債務」の存在を匂わすも、確たる事実も示されない。(中日2022.04.18「スリランカ」)

   中国の「債務のワナ」と擦り付けるが、日本の場合はどうか。スリランカの対外債務に占める割合は、「急スピードでスリランカの債権国になった中国だが、財務省の公式データによると、スリランカの対外債務に占める割合は10%と、日本並みにとどまっている」と。(REUTERS 2022.01.12「コラム:スリランカの対中債務問題、ウォール街にも波及へ」)

 また、「スリランカの対外債務は4月時点で350億ドル(約4兆円)程度だが、そのうち10%ほどを中国からの負債が占めると、AFP通信が報じた。中国は国際金融市場、アジア開発銀行(ADB)、日本に続くスリランカの4番目の債権者だ」と。(YAHOON!JAPAN 2022.01.11「一帯一路の「債務の罠」に陥ったスリランカ、中国に債務再調整を要請」)

日本のメディアも反問的に、ならば日本の場合はどうなのか、と思わないのだろうか。他国の<痛くもない腹を探>るくらいならば、自国の腹を探りまくるべきではないのか。

 まさに<どの口が言う>ではないのか。

 更にスリランカについての資料を見る。(出典:政府開発援助(ODA)国別データ集(2020)外務省国際協力局 編)

 2019年度対外債務残高:560.95億ドル
 以下は、円借款が対象。
 我が国の対スリランカ援助形態実績(年度別 2015~2019年度累計):1,889.41億円
 我が国の対スリランカ援助形態実績(累計): 11,267.00億円

 儲けの為、平和を嫌悪し、米国政府と一体化する巨大企業(軍産を含め)等、それを支持するG7の存在そのものが、久しい"通奏低音"なのだ。

 何時でも、何処ででも偽を真とする、指導力も責任感も失くした"オレオレ詐欺国家の群れ"、G7には呉々もご注意を!

 そして彼らの悪魔の"祝福"である戦争を止めるのは、世界の民である。 


 追放なのか 2022年04月11日

 "ロシア追放"の見出しが黒地に白抜きで一面トップに。

 さて、追放されたのか、それとも資格停止なのか。いずれにしても、読者に"衝撃"を与えようとする、意図が働いているのだろう。

 そして、読み進めれば、ロシアの理事国資格停止を求める決議案を賛成九十三ヶ国、反対二十四ヶ国で採択したと。

 先ず、この追放でなく、資格停止であるが、創設決議によれば、「総会は、出席し勝頭皮要する構成国の三分の二の多数によって、重大かつ組織的な人権侵害を行った理事国の理事国としての権利を停止することができる」とある。

 つまり、追放という言葉ないし、生まれようもないのだ。なぜなら、「理事国の資格は、全ての国際連合加盟国に開かれていることを決定」(参照1)しているからだ。そして、国際連合憲章第2章第6条【除名】に、この憲章に掲げる原則に執拗に違反した国連加盟国は、総会が安全保障理事会の勧告に基いて、この機構から除名することができる、とあるが、"総会が安全保障理事会の勧告に基いて"とあるので、除名の難度は極めて高い。

 因みに、【除名】では、原文にexpelという語が使用されている。expelには、追い出す, 追い払う, 駆逐する、放逐する等の意味があるから、"追放"と云えるだろう。

 権利を停止とは、一時的なことであり、復帰の途が閉ざされた訳でもなく、況して、追放されたのでも無いのである。

 「12 理事会の作業方法は、透明、公正かつ公平であること、真の対話を可能にし」云々とある。また、国際連合人権理事会の制度構築のB 原則及び目的(g)には、「客観的で透明性があり、非選択的、建設的、非対決的、かつ政治化されていない方法で行われること」を謳うが、今次の件、其の実効性を担保することができたのだろうか。

 が、ロシアは国連人権理事会から離脱してしまった。が、これとて時が解決する。

 米政権の前任者トランプ氏のように、TPP(2017.1永久離脱)、ユネスコ(2017.10離脱)、イラン核合意(2018.5離脱)、UNHRC(2018.6脱退)、INF(中距離核戦力全廃条約)(2019.8離脱)、パリ協定(2019.11離脱)、WHO(2020.7脱退)などで、揺さ振りをかけ、列を崩す。

 が、米国、その人権理事会理事国に3年余りで復帰した(2021年10月14日)。

 米国内法によって、他国等に制裁をしまくる。その制裁が人権問題や貧困・暴力をもたらす。

 アレナ・ドゥハン(Alena Dohan)国連特別報告者は国連人権理事会の会合で、「アメリカや一部のヨーロッパ諸国による一方的な制裁は違法だ」と強調し、「これらの制裁の解除および、一方的制裁行使の制限に向けた、安保理の枠組みでの明白な方策の採択を求めて」いる。(2021.09.19 「国連特別報告者、「米の一方的な制裁は違法」」)

 さて、国連総会での数値を追ってみる。

 ロシアの理事国資格停止を求める決議案(04.07)

 (加盟国数193ヶ国)
 賛成 93カ国 =48.2%
 反対 24か国 =12.4%
 棄権 58カ国 =30.1%
 無投票18カ国 =9.3%

 即時停戦など求める二度の決議

 一回目 141賛成 =73.1%
 二回目 140賛成 =73.1%

 そして今次が、48.2%で、24.9%も減らしたことになる。

 決議を主導した米国のトーマスグリーンフィールド国連大使、演説で「歴史的な瞬間だ」と評価するも、その瞬間は米主導の西側の退潮にとってであろうか。(中日2022.04.08「ロシア追放、国連初の強制措置 巻き返しで賛成半数以下」)

 欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、「ロシア軍は、ウクライナで民間人を標的にして戦争犯罪を行ったように見られる」と主張するも、同時に「この点における十分な証拠は存在しない」と。(ParsToday 2022.04.10 欧州委員長、「ウクライナでのロシア軍戦争犯罪疑惑は十分な証拠なし」)

 ブチャ事件に関する国際調査団の結成は、未だ国連の場で議題となっていない。

(参照1)「8 理事国の資格は、全ての国際連合加盟国に開かれていることを決定する。理事国を選出する際に、国際連合加盟国は、立候補国の人権の促進と保護に対する貢献及び立候補国が人権との促進と保護について行った自発的な誓約と無約束を考慮する。総会は、出席しかつ投票する構成国の三分の二の多数によって、重大かつ組織的な人権侵害を行った理事国の理事国としての権利を停止することができる。」出典: 3 国連人権關係決議 (1)人権理事会創設決議(国連総会決議六〇/二五一)採択二〇〇六年三月一五日(国連第六〇回総会)(『国際条約集2022』有斐閣)

8. Decides that the membership in the Council shall be open to all States Members of the United Nations; when electing members of the Council, Member States shall take into account the contribution of candidates to the promotion and protection of human rights and their voluntary pledges and commitments made thereto; the General Assembly, by a two-thirds majority of the members present and voting, may suspend the rights of membership in the Council of a member of the Council that commits gross and systematic violations of human rights;


 米国版大本営発表 2022年04月07日

 日本陸軍・海軍の最高・統一司令部として「大本営」が設置され、ここから出される命令は天皇による最高軍事命令である。

 そして、其処から発表される戦争に関する情報が、大本営発表である。しかし、何時しか戦争が進むにつれて、自らに都合の良い情報を流すようになった。

 「大本営発表は、日本メディア史の最暗部である。
 軍部が劣勢をよそに「勝った、勝った」とデタラメな発表を行い、マスコミかそれを無批判に垂れ流す。そして国民は捏造された報道に一喜一憂させられる。かつて日木にはこうした暗い時代があった。
 戦後七十年以上がすぎてなお、大本営発表が「あてにならない当局の発表」の比喩として盛んに使われている事実は、この体験がいかに比類なく強烈だったのかを物語っている。」(『大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争』辻田真佐憲著二〇一六年九月十日第四刷発行)

 まさに今、その"大本営発表"盛んなりし時代ではないか、と思われる。
 捏ち上げ記事や画像で、憎悪心を掻き立て、悪感情抱かせ、そして目標とする相手を瞬時にして悪者、敗者へと転落させる時代の到来である。
 立ち止まって検討を加え、判定・評価する過程を明らかに手抜きし、ただ騒ぎ立てる時代は、インターネットの普及により情報の加速性、鮮度性を求める余り、次々と消費され、陳腐化をはやめる故に起こりうる現象である。

 メディアは<社会の木鐸>・<金口木舌>であるとの自負心は疾うに失せた。ただ目先のもっぱら捏ち上げの土砂降りの如き情報に振り回され、まるで右から左への投げ棄て報道が罷り通る有様なのだ。

 得た情報を"データ"として、更に検討を加えて報道するという慎重さは見受けられない。無論、誰もが情報発信者・受信者となる時代であるから、個人とても心すべきことである。

 誰かが操って自らの意図に沿わせることは容易なのだ。そう、利用されている、操作されているのではとの大局的判断が求められる時代なのだ。

 恐らく利用され易いのは玉石混じりあう情報に接する民主主義、自由主義を標榜する、米主導の西側に与する諸国のメディアである。
 取り分け米国も含めてのG7((G7=アメリカ合衆国、イギリス、フランス、カナダ、ドイツ、イタリア、日本)となろうか。

 この僅かのグループが拡声器となり、偽情報(陰謀)を垂れ流す。否、偽と知らずに偽情報を横流し、更には偽情報の本営に平伏して"偽を実として踊る"国もある。

 つまり、捏造の出処が権力を持つ側であり、其れを無批判に垂れ流す、"報道屋(newsmonger)"、全くおめでたいのである。否、害となる。

 戦争には情報攪乱、偽情報を掴ませる或は偽旗作戦などあらゆる手法が用いられる。現代は瞬間にして全世界を思う儘に操れるうえ、その反応も直に得られる。権力側にとってみれば、"好き時代が到来"している。

 当然相手側(蹴落としたい敵方)の対抗情報発信に対して、制限ないしハッキング等で邪魔をする。兎に角、大量の操作情報を<雪崩を打つ>ように打ち出し、敵方のか細い情報を圧倒し、消してしまう。

 つまり、<一人虚を伝うれば万人実を伝う>状態となるのが、狙いだ。その具となるのが、マス・メディアだ。

 「美しい朝であった.一九六八年三月一六日午前八時、南ベトナム、ソンミの小村落に近い稲田に着陸した。一群の重ヘリコプターからおり立った約八〇人の米軍兵士は、何らの抵抗も受けることなく村落に入り、その総人口七〇〇人ほどのうち、四五〇人を虐殺した。すべては老人、婦女子、幼児であり、若い男はほとんど見当らなかった。捕獲した火器は小銃三挺であった。」

 「当時の米軍発表によれば、ベトコン死者一二八の戦果であり、時のベトナム米軍司令ウェストモーランドからは、部隊に称賛の辞が与えられた。事件の一ヵ月後、パリの北ベトナム当局は、この米軍の残虐行為に対して抗議を行なった。しかし、ソンミ虐殺の真相が、アメリカ国民一搬に伝えられたのは、二〇ヵ月後の一九六九年一一月であった。事件の報道に対して、『アメリカ』の若者達が、そんなことをするはずがないというのが、初期の一般の反応の基調であった。それは、たとえば、『ドイツ兵か、日本兵がしたというのならよくわかる。しかし、アメリカ兵の行為としては、全く信じ難い』という、明快極まる雑誌投書の形をとった。」

 そして、「米兵達は、嫌悪と侮蔑をこめて『よいグーク(ベトナム人)は死んだ奴だけ』(Only good gook is a dead one)という。」
(『アメリカ・インディアン悲史』藤永茂著1994年2月20日第15刷発行 朝日選書)

 グーク(gook)は米俗・軽蔑語で、東洋人を意味するのである。

 西側諸国を束ね主導する米国が、改竄・隠蔽・捏造の総元締めというか、元凶というか、首魁というか、覇権を握り、いわゆる全世界を恣にする。意の儘にならない国を、新植民地主義を基調としてきたG7という小集団グループが、"十八番"の、<有る事無い事>ではなく、"無い事を有る事"し、国際社会に報じる。後は<一瀉千里>という訳なのだ。

 勿論、情報をコントロールするのは、米大本営である。故に米国は、石を投げつけておいて、間の手を入れながら、高みの見物というより、利益を壟断する。

 さて、ウクライナの首都キエフ周辺(ブチャ)で民間人410遺体を、ウクライナ司法当局が3日発見。ゼレンスキー大統領は4日ブチャの現場を確認。そして報道陣に「これは戦争犯罪であり、世界から『ジェノサイド』と見なされるだろう」と(JIJI.COM 2022.04.04 ロシアの「集団殺害」追及 捜査へ特別機構創設―民間人犠牲でウクライナ)、宣巻いた。

 が、米国、本来なら、<鬼の首を取ったよう>に燥ぐ筈なのだが、何故か傀儡の"持って来い"の集団殺害の件を否定して見せる。

 Q Jake, I know you’re not willing to call it a genocide, but does the U.S. government have information that you can — that you can use to independently corroborate Ukraine’s allegations about atrocities in Bucha?

MR. SULLIVAN: So we have — obviously got access to a lot of the information that you all have. We also have information that the Ukrainians have provided us directly. And we will also work with fact finders — independent fact finders as we go forward to get to a level of documentation that allows us to help build very strong dossiers of evidence for war crimes prosecutions. And that is what we intend to do.

Now, on the question of the genocide determination: Obviously, we will continue on a daily basis to have consultations with the Ukrainians to reach determinations. And if at some point we reach the judgment that there, in fact, has been a level of atrocity, a level of killing, a level of intentional activity that rises to meet our definition of genocide, we’ll call it for what it is.

We have never hesitated to call out the Russians for what they have done in Ukraine, and we will not start now.
(Press Briefing by Press Secretary Jen Psaki and National Security Advisor Jake Sullivan APRIL 04, 2022)

 まあ、何とも歯切れの悪いというか、<奥歯に物が挟まったよう>な説明である。しかしながら、ロシアに対する"イメージ・ダウン"を謀るにはゼレンスキー氏、よくやった、となるか。

 米メディア、ソンミ村虐殺事件のことは脳裏を掠めなかったか。集団(ソンミ村)のおよそ64.3%が殺害されたのだ。これぞ集団殺害犯罪(ジェノサイド)ではないだろうか。

 何れにしても"目的"である、"ロシア悪漢・虐殺者"のイメージを、あっと言う間にロシアの顔に塗り付けることができた。

 そして、バイデン大統領。

THE PRESIDENT: I have one comment to make before I start the day. You may remember I got criticized for calling Putin a war criminal. Well, the truth of the matter — you saw what happened in Bucha. This warrants him — he is a war criminal.

But we have to gather the information, we have to continue to provide Ukraine with the weapons they need to continue the fight, and we have to get all the detail so this can be an actual — have a wartime trial.

This guy is brutal. And what’s happening in Bucha is outrageous, and everyone’s seen it.

I’ll — I’ll —

Q Do you agree that it’s genocide?

THE PRESIDENT: No, I think it is a war crime.
(Remarks by President Biden After Marine One Arrival APRIL 04, 2022)

 バイデン氏、ジェノサイドを否定するには歯切れがよい。しかし、ウクライナに武器を与え戦争継続を願うようだ。

 朝鮮戦争においても、アメリカの考えていることは、朝鮮の戦争が終ることでなく、拡大することであった。

 米国、物事が収束に向かうとすると、其処に石を投げ入れ、波紋を広げる。或いは要求を吊り上げる、米国の常套手段である。
 核合意に違反した米国とイランとの合意プロセスにも見受けられる。

 なお、米国防総省の高官、匿名を条件に「ブチャ の残虐行為に関する報告を我々は独自に確証することができない。... 独自に、独立した形で確証することはできない」

 つまり、"その報告を独自に検証することも、証拠を新規に得ることもできない"という訳である。此の遣らせ・捏造・詐略の"達人"がである。
 ある意味では"沈静化"を望んでいるようでもある。迸りを受けるのを警戒してなのか。

 ペスコフ露報道官の言うように、「データはもうそろった。だが、集団的な西側世界はブラインダーで目、耳を覆ってしまった感がある。そして何も聞きたいとは思っていない。残念なことにこれが現実だ。我々はいかなることがあろうと、自分たちの論拠を積極的に前に出していくつもりだ」(Sputnik2022.04.05「集団的西側社会は目、耳を覆い、何にも耳を貸そうとしない 露大統領府報道官」)と。

 そして、ラブロフ露外相、西側の外交は「ウクライナ危機の本質に関して、デマに満ちた憶測の中にブチャ市におけるこのフェイクを盛り込むことが課題である」(SPUTNIK2022.04.05「ウクライナ危機に関連したフェイクをすべて暴露する=露外相」)と。

 「アナトリー・アントノフ駐米ロシア大使は、ロシア軍によるブチャでの民間人殺害疑惑に反論し、「アメリカは、ブチャ市内での銃撃がウクライナ軍によって行われたという事実を、意図的に隠蔽している」と」(ParsToday2022.04.04)。

 西側諸国は、目を覆い・耳を塞ぎ、ただ口だけが達者に喋り捲るという訳だ。

 ロシアの言うことに真実があるのなら、西側メディアは毎度のことながら、担がれたことになる。が、報じ終われば何も無し、何も為さず、恥じることもない。又次のネタを探すだけとなる。

「ロシアの行為はジェノサイドとウクライナ大統領 ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、グテレス国連事務総長との電話会談で、ロシアの行為が「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと訴え、国連安全保障理事会での投票権を剥奪すべきだと伝えた。ツイッターで明らかにした。」(中日2022.02.28【タイムライン】ロシア、ウクライナ侵攻)

 つまり、ゼレンスキー氏は早くからジェノサイドを認識し、予防線を張っていたことになるか。

 しかし、何ともまぁ、手回しの良いことで、「ウクライナ国防省の情報総局は、ブチャでの戦争犯罪に関与した可能性があるロシア兵1600人余りの名簿を4日、公式ホームページで公開」(NHK 2022.04.05 “市民殺害に関与の可能性” ロシア兵1600人余の名簿公開)。
 兵士の名前や生年月日、階級、パスポートナンバーなどが掲載されている。

 御膳立てがすっかり整っていたのか。オンラインで世界をステージとし注目されるも、戦禍を被る国民に視線は向けられている(いた)のだろうか。

 ただ政治の場を独演の舞台とし、名(迷)台詞を吐くも、<地に足の着いた>ようには映らない。足をすくわれないように。

 ゼレンスキー氏、国民の苦難を救うために、停戦を何故に早く進めないのか。ロシア制裁・目先の問題と無関係・不可能に近い安保理の改革を声高にするも、何故に早期停戦をカメラの前で叫ばないのか。駆引き延ばしで、国民を更に殺した国もある。
 敵方を煽るような言動が好い方向に向かうとは思われない。
 つまり、ゼレンスキー氏も米国の意図を汲み、戦争を長引かせる気なのか。

 ゼレンスキー氏よ、米国の広告塔を果たすも、自国民を救うことはできないし、悲惨な状況が増すばかりだ。

 更に国連安全保障理事会での演説で安保理が自ら解散するか、ロシアを排除するよう提案するも、米国のリンダ・トーマス・グリーンフィールド国連大使は、「安全保障理事会は、第二次世界大戦後、国連創設の結果として設立された。ロシアは安全保障理事会のメンバーである。これは事実だ。この事実を変えることはできない」と。(Sputnik 2022.04.06 「国連安保理からのロシア排除はできない=米国連大使」)

 そのロシア、「我が国の国防省の専門家らは、この西側メディアの公開した映像内に様々な改変の痕跡を見つけた」(ParsToday 2022.04.05「ウクライナ・ブチャ映像問題;どちらの側が真実を語っているか?」)と発表し、安保理会合開催を要請するも、現在の安保理議長国イギリスが拒否。

 しかし、ゼレンスキー大統領の国連安全保障理事会でのオンライン演説は出来たようだが。

 「ウクライナ軍の兵士らが一般市民に殴る、蹴るの暴行を加え、嘲笑している場面を自ら撮影した動画をSNS上に公開した」(sputnik 2022.04.06 ウクライナ兵が一般民に殴る蹴るの暴行を自ら撮影 RTが入手動画をSNS公開)。

 戦争は、"感情と利害の衝突"から起こるとも云える。しかし、その感情、利害が操作され支配されて、国民の生命・財産と引き換えに、特定の国(企業)の利益に寄与していたとしたら、踊らされる国の未来は消え、執拗に餌食とされる。
 今以て、米兵に銃を向けられる、東洋の島国が適例である。

 さて困ったもんだ、と一国民は思うのだ。
 <打てば響く>、<夫唱婦随>に非ず、"兄唱弟随"の安倍晋三元首相と岸信夫防衛相のことだ。今やウクライナ戦争をチャンス到来と見て<箍が外れ>たのか、憲法も無視し、堂々と敵基地攻撃能力・中枢を攻撃することも含むべきと語る。其の為には23年度の当初予算で約六兆円の防衛費の確保することが大切だと。
 弟の岸信夫防衛相、当然<以心伝心>で通ずる、と云うか示し合わせて、谺するという訳だ。

 しかしこの二人、台湾を弄り、台湾海峡有事を言い募るが、本当に有事となった時どうする積りなのか。

 敵基地攻撃能力は当然相手側も敵基地攻撃能力を保有する。中枢とは何かは不明だが、日本が定義すれば、同様に同じ内容が相手の攻撃対象となる"中枢"となる。
 軍事大国のロシアを相手にウクライナ軍の健闘ぶりを観て、日本も互角に戦えると思っての事なのだろうか。其れに日米同盟を或は欧州の助っ人を当てにしているのだろうか。
 否、“大切なことは自助努力”と云う位だから、先ずは"タイマン"なのだろうか。
 が、少し違うようだ。最低でも、台湾有事を前提とするから、台湾が逸早く戦争に突入している(或は寸前の状況)ということになる。
 つまり、台湾と共に戦うのが基本となろう。

 逃げ場のない日本、ウクライナと比較できないほどの戦禍を蒙ることになる。
 が、此の弟(兄)の思惑の「日本を攻撃すると高くつくと思わせ、抑止力向上」(中日2022.04.05「岸防衛相インタビュー」)などは、噴飯ものである。
 南北に細長く東西に狭い土地に住む島国日本と比較して、ロシアも中国も広大な面積を持ち、東西南北にも奥行がある大陸である。余程性能の良いミサイルで攻めまくっても、それこそ核攻撃をしても、余裕がある。日本の面積ぐらいを破壊されても、立ち直れる。が、日本は文字通り全滅である。当然相手も日本の軍備程度以上に備えはある。
 そう、言うことが、<夜郎自大>、<蟷螂が斧>ではないか。
 敵基地攻撃能力で、国民の生命・財産・安寧は護れない。

 今のところ、ウクライナ軍がロシア領を攻撃したのは、国境を接する南部のベルゴロド市にある石油基地だけと、知る。(2022.04.02 「ゼレンスキー大統領、露ベルゴロド市の石油基地に対する攻撃命令を認める」)

 ウクライナの状況を観れば、街は廃墟、キエフを奪還などと云うが、ロシアが捨て置いたのだ。善戦したかもしれないが、善戦とは敗者の戦いぶりにいうのだ。
 ゼレンスキー氏の話柄から察することもできる。

 で、台・日相携えて戦えば、米軍にはグークの同士討に映るかも知れない。
 兵士にとって、戦争は諸々の感情の中でも、嫌悪、侮蔑、恐怖、そして差別が戦う原動力となる。
 なぜ俺達(米軍)が、グークの戦いで血を流すのか、となる。

 或る意味、ウクライナは米国に裏切られたのだ。ピエロの如くのゼレンスキー氏、吐く言葉に時折本音なのか、欧米よ、約束を果たせと聞こえる場合がある。

 "北東アジア戦争"で、<うまい汁を吸う>のは何れの国か。

 さて、ゼレンスキー氏のジェノサイドの訴えの行方は?
 凡その見当はつくというものだ。

 メディアは、ウクライナ危機の発端となる30年の歴史を、米国に問うべきだ。

 日本よ、誰のために<火中の栗を拾う>のか。
 日本よ、<二の舞>を演ずる愚は避けよ。
 日本よ、米国の麗句に騙されるな。
 日本よ、米国に煽られるな。
 日本よ、四海同胞を思え。


 デタント、そして大いなる正午へ 2022年04月01日

 「いずれにも与しない。北京も支持しない。ワシントンも支持しない。どこの国とも同盟を結ぶつもりはない。我が国が支持するのは緊張緩和(デイエスカレーシヨン)だ。わかるか?」(『2034米中戦争』著者 エリオット・アッカーマン ジェイムズ・スタヴリディス 2021年12月10日初版発行 二見書房)

 「人々が命をも顧みず祖国のために戦う姿を拝見し、その勇気に感動している」、  「祖国の独立を守り抜くという強い決意が伝わってくる」(共産党の志位和夫委員長)(中日2022.03.24「ゼレンスキー大統領国会演説」)

 勇気や感動や決意も時によっては個人的には大切なことに違いない。しかし、国会議員であるならば、一歩踏みとどまり、何かが"おかしい"、何かを欠如し"内心忸怩"たるものがある、と考えないだろうか。

 ゼレンスキー氏は現実には"戦争"当事国の大統領なのだ。全く一方的に攻め込まれたのではなく、はっきり云えば、ロシアからの再三の警告と其の軍事的包囲、そして筋道を辿ったロシア国営テレビでのプーチン大統領演説(2022年2月24日)から判断すれば、開戦に関する条約、第一条【宣戦】最後通牒の形式を有する明瞭事前の通告に該当しないだろうか。

 政治家としてゼレンスキー氏、此の時点でも戦争を食止める機会は有った。しかし、戦争へと突入した。その後、なんども交渉をロシアと持った。

 日本の国会演説で、「数千人が殺され、そのうち121人は子どもです。およそ900万人のウクライナ人がロシア軍から逃れ、自宅や住み慣れた土地を追われました。多くの人が生命の危険から逃れているため、ウクライナの北部、東部、それに南部から人がいなくなっています」と。

 しかし彼は、斯様な状況下においても、「ロシアとの戦争を終えるための妥協案は、最終的には国民投票で決定される」(HANKYOREH 2022.03.23 ゼレンスキー大統領、プーチン「最後通牒」拒否…「いかなる妥協にも国民投票が必要」)と云うのだ。
 凡そ20%以上の国民が難民化、なお増え続けようとする中、国民投票を言うのだ。

 ロシアと進行中の停戦協議について、「安全保障に関する内容になれば、憲法改正と法律改正について話をしなければならない。(この問題は)いかなる場合も、大統領一人で決めることはできない。議会とウクライナ国民によって決められる長い過程を経ることになるだろう」と(同上)。

 つまり、大統領としては全く無権限に等しく、これでは<千慮の一得>も無い。各国の国会で訴えるも、無意味であり、武器援助等によって、更に深みにはまる戦争を継続するだけである。そして停戦は遠のく。

 ゼレンスキー大統領、何の為の平和への感慨なのか。結局は国民を顧みることのない政治家なのか。

 "祖国の独立を守り抜くという強い決意が伝わってくる"などが、仕舞には<一億玉砕>を叫ぶようになるのではないか。

 <命あっての物種>が肝心要なのだ。平和のための戦いなど欺瞞であり、偽善である。

 即刻、停戦せよ、と言い易い"ウクライナ"に要請すべきである。ウクライナの人々を苦境へと死へと追いやっているのは、西側諸国なのだ。その元凶は米国、そして米国主導のG7でもある。

 ウクライナは米国の餌食であり、人身御供であり、ゲームのキャラなのだ。

 愚か者米国の強引な計策に対抗できず、NATOの知性は黙するのみか。

 否、NATOも含めて、貪欲な"米大蛇"に飲まれるか。

 米国を制御できなければ、国際社会は破滅に向かう。

 今や生物毒素兵器・核兵器の使用を、西側諸国はウクライナで促すかの如くである。

 日本のドローン首相、懸命にロシア制裁を喚き、ウクライナ避難民受け入れに奔走する。冷静に考えれば、何か異常だ。

 例えば、イエメンである。2015年3月以来、サウジアラビアは米国、UAEアラブ首長国連邦などの国の支援を得て、イエメンへの軍事侵攻を開始した。これまでに数十万を超えるイエメン人が死傷、そして数百万人が難民となっており、女性・子供6000人以上が死亡していると。

 此方はどうでもいいのか、岸田首相。そう云えば、アフガニスタンも、似た様な状況だが。G7は揃いも揃って視野狭窄に陥っているのだろう。

 しかし、西側諸国、殊に米国に属し、ダブルスタンダードを地で行く日本、人権・人道など元より持ち合わせはない。なぜか。米国に徹底的に隷属化しているからだ。<知らぬが仏>の国民も多分に其のことを善しとする。

 そう、西側諸国は自己の存在を見失い、破壊・劫略に向かい人類最大の危機を招こうとしている。

 偏頗な考えが罷り通り、嘗てのCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)が復活したようだ。日本、米国に追随の余り、日本、ぜいたく品の対ロ輸出禁止など、物売らずに国を米国に売るか。

 結果、自国の利益を投げ出し(米国の為に)て、ウクライナを支援し、ロシアに制裁をと、国民も共に熱をあげる。また、TICAD=アフリカ開発会議などで結束を呼び掛ける。  何処までおめでたいのか。

 台湾に首を突っ込み、<火中の栗を拾>い、敵基地攻撃能力、核三原則を無視し核共有を言い募り、自ら存立危機自体を招き、集団的自衛権を行使するという"遣らせ"如きを想定し、声高に騒ぐ。其処には国民・国家の安危を論ずるも、何の手立ても講ずることなど無く、内実は国民の犠牲を一顧だにしない無能な輩が跳梁跋扈する何時もの日本である。

 「台湾問題で火を焚き付ける行為は焼身自殺という結末を迎えるだけだ」(CRI2022.03.28「台湾問題で火を焚き付ける行為は焼身自殺=外交部」)との警告を、米日共に<心に刻む>べきである。

 投げつけられたことを忘れ、相手に投げつけることだけを考え、日本上空でまた核炸裂するとの想像を働かせる脳味噌は、既に粉みじんになっているようだ。

 そう、只の鼠でない、米国が後ろ盾になると見込んでの戦争挑発屋が此の日本にも、ウヨウヨいる。ウクライナの現状を見ても、米国を信頼し続ける御人好しの国なのだ。

 しかし、ウクライナでも見るように米国は、頭陀袋に詰め込んである"制裁、無駄口、偽情報"を出し捲るだけで、対峙し米兵の血を流すことも、使える兵器類の提供も、ロシアと核戦争になるのを恐れ、動けない。

 ただ<犬の遠吠え>である。どうやら英雄気取りは映画の中だけで、実態はチキンのようだ。何の解決能力もなく、世界の<足を引っ張る>のに長けているだけの悪賢い国である。

 <口舌の徒>よ、どの口が言う、バイデン!(MARCH 26, 2022「Remarks by President Biden on the United Efforts of the Free World to Support the People of Ukraine」)
 30年早い!

 米国は他人の庭では騒いでも、自分の庭が荒らされることを最も恐れ嫌う国である。

 米国への映像的幻想を懐いていては、最早世界は何も解決しない。

 米国よ、戦争で"儲かりまっか"。

 「米国の軍産複合体の戦争で金を儲けるやり方は世界を不安定にしただけでなく、米国社会の多くの富を飲み込みました。米国防総省元高官のフランクリン・C・スピーニー氏はかつて著した文章で「政府は過去30年間、軍産複合体の影響が大きいために世界平和を維持する政策を打ち出せなかった。軍需産業が競争を排除したことが腐敗を引き起こすと同時に、米国の経済競争力も年を追って低下した」と指摘」(CRI2022.03.31「米国の軍産複合体、戦争を扇動して金もうけ」)。

 NATOの誘い水、ウクライナの二の舞となるか、日本。例え、NATOに加盟しても、欧米の態度は日本を金づるか、駆け引きのツールと見るだけである。

 ウクライナの避難民も、疾うに民主主義、人権、人道を失くした欧州で侮辱的な仕打ちを受ける。つまり、厄介者扱いなのだ。

 日本は、数十万或は数百万のウクライナ避難民の受け入れなどが可能なのか。如何なる見込みで駆け回っているのか。

 さて、無駄話を好むウクライナの木偶坊大統領、米国(NATO)を信じ、国民を犠牲にしたうえ、領土も<秋波を送>り続けた西側(NATO)への加盟も、<元の木阿弥>となりそうだ。

 此処で少し頭を冷やすために、只今休戦中(53年7月)の朝鮮戦争の一コマを振り返って見よう。(注:オドンネル=オドンネル少将 ラッセル=ラッセル委員長)

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 オドンネル ええ、そうです。あとになってとにかくやりました。……全部が、ほとんど朝鮮半島全部かめちゃめちゃだといった方がよいでしょう。みんな破壊されました。とくに名をあげるだけの町で、無傷なのはひとつもありません。中共軍が入ってくる直前には、われわれ航空隊は地上におりました。朝鮮にはもう目標がなくなっていたのです。
 ラッセル ……軍人の本分をよく発揮されました。それに対しアメリカ国民はその労を多といたしましょう。

 北朝鮮に対する態度はこれくらいとして、南朝鮮に対する態度はどんなものか?イギリスの軍事刊行物、ブラッシーの『陸軍年鑑』一九五一年版は、次のようにのべている。
 「戦争は韓国人におかまいなしにおこなわれ、彼らの不幸な祖国は、解放さるべき国というよりは、戦闘の場所とみなされた。その結果、戦争は全く仮借なくおこなわれ、もはや韓国は国家でないといっても過言ではない。都市は破壊され、生計の手段の多くは根こそぎ奪われ、国民は施しに頼るみすぼらしい群衆になり下がった。……アメリカ兵になぜたたかっているのかを説明しようとしたことは、ほとんどなかった。……たいていの場合、民族的憎悪と共産主義に対する恐怖だけで、アメリカ兵は盲めっぽうの敵愾心をもえ立たせるに十分であった。……これれらの憎悪や恐怖は、しかし、韓国人へのどんな同情をももたらさなかった。ただし、子供や迷い犬に親切を示したのはいうまでもないが。……韓国人が三十八度線以北の同胞と同じく、"グック"(アメリカ兵が朝鮮人をよぶ蔑称)とみなされているのは、不幸なことである」。

 こういう背景と対照させて、リッジウェイの確言、「国連軍司令部の第一の目的は、非戦闘員住民の生命の損失や財産の破壊を避けることにあった」という言葉を読まなければならぬ。」(『秘史 朝鮮戦争』著者ストーン1996年12月1日再版発行 青木書店 307頁)
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 "グック"アメリカ兵が朝鮮人をよぶ蔑称とあるが、gook:米俗で東洋人の意味もある。日本人なら、言わば"ジャップ:Jap"なのか。それとも、いざと言う時、同じく"グック"と、蔑まされるのだろうか。

 明治来、井上馨は「我帝國ヲ化シテ歐洲的帝國トセヨ。我國人ヲ化シテ歐洲的人民トセヨ」と。欧州的人民化政策を声高にしてきた。
 今では"甲斐?"あってか、西側の雄、米国の手下になり、スッカリ白人気取りである。

 大分昔になるが、"黄色いバナナ"という言葉が聞かれた。多分に日本人を指すのだが、"膚は黄色でも一皮剥けば白い"と。しかし、これも蔑みの言葉である。

 しかし、彼ら欧米側からしてみれば、日本も"グック"であり、"ジャップ"であり続けるのだろう。

 上述に引用した例は、今以って変わらぬ人種差別が続くことでも、根強いことが示される。

 特に命に係わる場面になると、必ず本音が出て来る。彼らには区別がつかなく、一緒くたでグック、つまり東洋人なのだ。日本であるからとて例外ではない。

 日本の近未来、台湾と日本は爆殺自殺をする積りなのか。

 台湾を頻繁に煽る米国、逆上せ上がって台湾にちょっかいを出す日本、米国と共に中国そして今やロシアも敵に廻す。

 包囲しているのか、されているのか。

 そう、冒頭に引用した中で、"我が国が支持するのは緊張緩和"だと、日本が言える日が来ない限り、狭い国土を更に狭め住めなくする。

 自衛隊の配備で、原発攻撃に対処など、自衛隊に憐憫の情をかけたくなる。
 正に白昼夢である。


 マインドハッキング 2022年03月24日

 今の世の中、ある意味、為政者は非常に楽だ。

 スマホ(SNS)社会の恩恵を受けている。

 あらゆる層が勝手に自己思想統制、そして画一的に組織化される。因って飼い慣らすなどという手間もかからない。何かと使い回しが利き、防壁となり、都合の良いマスゲームが可能となる。

 そのような社会は、誰が何と言おうが、本物の下手人が同じ嘘を繰り返せば、<嘘から出たまこと>で、事が巧く運ぶという訳だ。

 白か黒か、嘘か実か、善か悪か、真か偽かの二値原理を用い流せば、ネット・マスメディアが飛び付いて、それこそ<干天の慈雨>の如きに取り扱い、触れ回り報ずる。
 それも尾鰭を付けてだ。

 黒を白に、嘘を実に、悪を善に、偽を真に巧みに変様させる。つまり、偽情報・偽旗作戦であるかも知れない情報等で風靡する。一か月も要さず、民主主義が全体主義へと変容する絡繰である。

 民主主義(自由主義)の特筆すべき点は、特に権力層に対する批判精神の筈なのだが、いともたやすくマインドハッキングされ、疑問も批判をも失くし、有らぬ方へ誘導されてしまう。

 特に民主主義の危機を叫んでいた米国主導の西側諸国(G7)、危機を自ら作り拡大するのに長ける。此のG7、国際社会の"ならず者国家"と呼ぶも何ら過言どころか、それでも不足である。

 此の小集団国家、国際社会を乗っ取る悪の権化である。黒を白と言い包めることなど、得意の芸である。

 例えば、尾鰭を付けるメディア、斯様に報じる。「ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、国連が機能不全に陥っている。常任理事国であるロシアが「拒否権」を行使する一方、根拠を欠く主張で混乱させているためだ」(中日2022.03.24社説「国連の機能不全」)と。

 さてここで、"根拠を欠く主張"とは何か。生物兵器開発計画がウクライナに存在するとのロシアの主張のことである。

 なぜロシアの主張は"根拠を欠く"と、社説子は断じることが可能なのか。どうやら社説子の確言根拠は"国連も存在を否定する"からである。

 では具体的に国連の如何なる立場の人間が言っているのかついては言及なしである。

 ロシアの国連大使は「ウクライナと米国は生物毒素兵器禁止条約(BWC)に違反しており、ウクライナでの危険な活動に関する新たな証拠がどんどん見つかっている」(sputnik2022.03.19)と言うのであるから、本来調査すれば済む話である。

そう、管見によれば、恐らく記事になった国連の人間は、国際連合事務次長・軍縮担当上級代表の中満泉氏ではないだろうか。

 中満氏は「ロシア連邦がウクライナでの生物計画の実施を非難することに関する文書を提出したことは知っている。国連はウクライナにおけるなんらかの生物計画について把握していない。国連にはこの情報を調査する権限と技術的能力がない」と(sputnik2022.03.19)。

 つまり、<黒白を弁ぜず>ならば、"国連も存在を否定する"ことになるのであろうか。次の記事でも、"生物兵器計画も認識していない"というだけだ。

 なお、同様の記事(中日2022.03.12「ウクライナに生物兵器ない」国連事務次長、ロシアの主張否定)があり、軍縮担当上級代表の中満泉事務次長は「国連は(ウクライナで)いかなる生物兵器計画も認識していない」と否定。

 しかしながら、「ウクライナには生物研究所の施設があり、ウクライナ政府と米国政府はこの研究所で管理される資料がロシア軍の手に渡らないよう協力する」(sputnik2022.03.09「ウクライナの生物研究所がロシア軍に制圧されることを懸念=米国務次官補」)と。

 この事は、バイデン大統領が述べる、「ロシアが偽旗作戦を遂行する上での口実として、ウクライナで生物兵器が用意されているというデマを流していること」に、なるのであろうか。

 偽旗作戦で云うならば、バイデン氏の“ロシアが生物兵器など使用するおそれ”(NHK2022.03.22)なども、ロシアからの生物計画非難への揉み消し策の一環として、米国側の"偽旗作戦"とも受け取れる。偽旗作戦、非常に問題を含む米国の言及である。

 さて次のような記事も如何か。

 米国の歴史学者ジェフリー・ケイ氏は、「米国は秘密裏に生物兵器プロジェクトを推進している」、「米国が近年になり公開した文書により、米国が朝鮮戦争で生物兵器を使用したことは確実になった。米国は核・化学・生物兵器を多くの戦争で使用した唯一の国であり、今後も使用する危険な傾向があると、世界は懸念している。さらに深刻なことに、米国政府が真実を隠匿しつづけ、やりたい放題であることだ。米国は一方で、生物兵器禁止条約による検証メカニズムの確立には反対している。国際社会がなすべきことは、米国に情報開示を求め、ハイレベルの調査団を結成するよう働きかけることだ」と強調(CRI2022.03.24「米歴史学者が独占インタビューで衝撃的な秘密を暴露」)。

 カナダのジャーナリスト・政治評論家ジョン・ボスニッチ氏、「ロシアが化学・生物兵器を使用するための下地を作ろうとしている、とするアメリカの対ロシア非難は信頼できない。自国外における化学兵器や生物兵器の開発を専門としているのはアメリカである」、「アメリカは常に軍事兵器を製造し、自国の経済の原動力として戦争を勃発させている一方、世界で民主主義を追求する国を自称しようとしている」と(ParsToday2022.03.14「政治評論家「米は、世界での化学・生物兵器の開発専門家」」)。

 中国は、「米国自身が公表したデータによると、ウクライナには米国の生物学研究所が26ヶ所ある。ウクライナ国内の危険なウイルスは全てこれらの研究所で保管しなければならず、全ての研究活動も米側が主導し、米側の許可なしには、いかなる情報も公表できない」、「ウクライナでの米国の生物軍事活動は氷山の一角に過ぎない。米国防総省は「バイオセーフティ・リスク軽減のための協力」、「世界の公衆衛生の強化」などの名目で、世界30ヶ国で計336ヶ所の生物学研究所をコントロール下に置いている。米国は自国内のフォート・デトリックでも数多くの生物軍事活動を行ってきた」と。(人民網日本語版2022.03.09「米国の生物学研究所は世界に336ヶ所 中国が初めて明らかに」)

 なお序であるが、拒否権は明示的には国際連合憲章に定められていないが、【表決】第27条に「…常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる」と定める。

 拒否権を行使するかしないかは、当事国の事であろう。

 本来なら、生物兵器開発計画が存在するのかどうかを、一義的な問題とすべきことであろう。

 ロシアのウクライナ侵攻の抑論を追及しないのでは、ロシアへの対応も不可能となろう。制裁で問題が片付くことなど有り様がない。

 ウクライナ問題を観ても、民主主義を主張する側の人道・人権に対する二重基準、二枚舌が見て取れる。

 報道機関が世界を広く視て報道せず、また偏見を持った報道では自殺行為である。SNSでの与太話に比しても力量が劣って敵することができなくなる。

 ロシアからの発言を遮断し、排除するのでは、民主主義がそれこそ、正真正銘危殆に瀕する。

 何が事実なのか。事実は立場によって変わる。だから意見を交わすのではないか。


 竹箆返し 2022年03月22日

 <雉も鳴かずば打たれまい>であるが、鳴かずには済まされないアメリカ隷従一辺倒の姿を、此の日本に見る。

 1951年9月、片面講和のサンフランシスコ対日講和条約、日本丸呑みとなる日米安保条約に調印、翌年4月28日発効。既に70年が過ぎる。

 そう、70年過ぎようが、百年過ぎようが、此の日本の脳髄を侵すインベーダーの如き米国の魔手にかかっては<蛇に見込まれた蛙>である。骨の髄までしゃぶり付き、巻き揚げ続ける。

 岸田首相の眼を見ると、常に焦点は、無限の彼方に発散しているようだ。遠隔操作された無人航行のドローンのようにも見える。

 此の時期になぜ岸田首相、インド・カンボジア訪問(2022.03.19-21)なのだろうか。突然で奇異な感じを抱かせる。

 勘繰れば、まさかの"あの説得"ではあるまいと思うが。

 日米豪印、クワッドの仲間なのだ。否、仲間と勝手に思い込み、仲間であるなら、米国の策謀には従う筈だと、丸呑みされ、飼い馴らされた側は躊躇いもなく思うのだ。

 が、インド、其のまさかの国連総会緊急特別会合(3月2日)で、中国と並んでの棄権である。自主外交の<是々非々>の判断なのだが、大袈裟に言えば、日米豪にとっては<寝耳に水>であり、クワッドの仲間割れに等しく、存続に影響を与える仕打ちと映ろう。

 しかし、反対、棄権、或いは意志を示さなかった国々は、米国という短期決算国に害を受けない限り、将来のある国々ではないのか。

 インフラ整備、そして経済発展と向かうには、何よりも重要なことは安定した"長期計画"に基づく、海外の支援が必要なのだ。
 今それを提供できる国は中国以外にないのではないか。

 世界的規模での「一帯一路(the Belt and Road)」構想などは其の好例であろう。長期安定国(政権)でなければ、相手国への真の確約は不可能である。
 政権が変わる度に"出入り"を繰り返すような不安定な国には不可能である。

 つまり、ロシアも今次の事が済めば、恐らく発展が大いに期待できよう。

 そして反面、世界に嫌悪の情を抱かせていることに気づかないほど、米国は政治的鈍感、さもしい国に成り下がっている。米国は世界の足を引っ張るしか能のない国である。
 実態は世界の爪弾きものであろう。

 今次のウクライナへのロシアの侵攻を招いたのも、其の淵源は米国主導の西側諸国(NATO)にある。其の下手人は明解に米国である。
 西側諸国も米国に引き摺り込まれる形で、自国民を苦しめている。

 さてカンボジア、「フン・セン首相より、今般カンボジアが国連総会決議の共同提案国入りするに至った問題意識」の紹介があったと
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/kh/page4_005534.html)。其の問題意識というのは、「フン・セン首相は、自分自身の経験から、戦争で戦争を終わらせることは決してできず、平和的解決が追求されるべきであると強調した」(日本・カンボジア王国共同声明:和文仮訳)を言うのであろうか。

 だとしたら、侵略国、そして敗戦国の日本、権略の米国に追従政策を取るだけでなく、フン・セン首相と経験を共有・共感できたであろうか。

 まあ、無理筋か。「自由で開かれたインド太平洋」などを持ち出すようでは、見透かされている。

 岸田首相にとっては総理大臣として初対面となるフン・セン首相と会談(3月20日、午後5時35分から約2時間10分)。
 そのフン・セン首相、8日午後、習近平国家主席と電話会談を行った。

 そして、「フン・セン首相は、「カンボジアは『一つの中国』政策を揺るぎなく遂行し、台湾地区関連や新疆関連の問題における中国の立場を揺るぎなく支持している。来年の両国国交樹立65周年を契機に、『一帯一路』の共同建設を推進し、カンボジアと中国の包括的な戦略的協力パートナーシップを新たな水準へと高めていきたい。そして今年のASEAN輪番議長国として、引き続きASEAN・中国関係の発展を積極的に促進していきたい」と。
 また、「両国首脳はウクライナ情勢についても意見交換を行った。そしてバランスの取れた公正妥当な立場を堅持し、和平交渉促進のために積極的に努力するべきとの考えで一致した」と。(「習近平国家主席がカンボジアのフン・セン首相と電話会談」人民網日本語版 2022年03月21日11:42)

 その上での、岸田首相との会談である。果たして"にこぽん"の効果があったのか。

 インド、既に<賽は投げ>たのだ。そのインドと、「平和で安定し繁栄した新型コロナ後の世界のためのパートナーシップ」と題する声明も、その真逆の世界を構築し覇権を遺憾無く発揮する落ち目の米国に、<一言半句>も抗言しない日本、丸で文句を着飾っただけではないのか。

 「核兵器のない世界」を目標にするも、政権内部の否定とは裏腹に、チャンス到来とみて、「核共有」などを声高にする者が政権党内外にある。

 ロシアからは、早速<竹箆返し>が来た。「ロシア 日本との平和条約交渉を拒否」(sputnik2022.03.22)である。

 これに先立ち何かと日本、対露制裁を発動していた。

 日露関係の損なわれた全責任は日本にあるとし、次の報復措置を発表した。

 ➀日本との平和条約締結交渉を拒否
 ②日本国民の南クリル諸島へのビザなし渡航を停止
 ③南クリル諸島における共同経済活動にむけた対話を取り下げ
 ④黒海経済協力機構の分野別対話パートナー国としての日本の地位延長を封鎖

 この決定は「ウクライナ情勢に関して日本がロシアに対して一方的に行った制限措置のあからさまな非友好的性格を鑑みて」とられた(同上sputnikの記事)、とする。

 岸田ドローンも、米国同様に己の立ち位置が他国から如何に見られているかについては、無頓着のようだ。

 映画「007/危機一発」から捩れば、此の幽囚の島国日本、世界中から多くを学んで、さようならよりは賢いこと、それはあなたの元へ飛んで行くこと、だから"ロシアから愛をこめて"と、何時言えるのだろうか。


 民主主義危機の怪 2022年03月11日

 民主主義の危機が叫ばれる。不思議にも叫ぶ側は民主主義側である。勿論、自由の名の下に、いわゆる自由主義を標榜しているのであるから、何を喚こうと勝手であるが、その声高に話す者が、民主主義の雄米国を始めとするG7の面々であることは、摩訶不思議である。

 民主主義といっても、その態様は様々であろう。まさかG7、千篇一律、右向け右式の民主主義、自由主義ではあるまいと思うが。
 しかし、そうでもないようだ。異口同音に危機を唱えるくらいだ。

 米国、自分の声に驚き狂気染み、うろたえ騒いで、民主主義のためのサミットなるものを開催(12.09-10)した。兎に角、米国の息が掛かる範囲の者共、全員集合というわけで掻き集めた。

 サミットでは、腐敗との闘い、権威主義からの防衛、人権尊重の促進が議論されたようだ。つまり、自分たちが唱える民主主義が民主主義内で破綻を来し、その原因が三つの題目に絞られたのである。

 各国の政府、市民社会等からも幅広く多様なリーダーが搔き集められた。民主主義の強化のため、喧喧諤諤の議論となったであろうか。
 折からの新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)の問題もあり、オンラインでの非対面形式で開かれた。内容は隔靴掻痒の思いではなかっただろうか。それと、バイデン大統領、誰々の区別はつけられただろうか。

 が、それにしても例えば此の題目などは、各国等がそれぞれの立場で実施すればよいわけで、何もバイデン米国大統領が主宰することでもなかろうと思う。此れでは米国による"米国の民主主義"という権威での各国・各団体・各市民等への統制、或いは締め付けであるとも云える。
 そう、それは米国の民主主義が腐敗し、堕落し、軽佻浮薄となり、挙句の果て権威主義となり、人権尊重から大きく逸脱していることを、米国自身が気付いたと云えば、多少なりとも米国を庇うことになるが、事実は真逆である。米国には自己正当化の屁理屈を捏ねたり、他に責任を転嫁したり、他国を陥穽に嵌めたりすることはあっても、自己の責任を問うという自省力は皆無である。

 当然、西側メディアも米国の"よいしょ"に余念が無い。したがって、ロシアのウクライナ侵攻でも、落ち着きのない声を張り上げるばかりで、その真相に食らい付くという執念は端から無い。

 そう、雑音メディアにプーチン大統領の警告は搔き消される。結果、事が起きて、<寝耳に水>の如くに騒ぎ立て、煽りまくる。釣られて、西側諸国の“偽善者”がチャンス到来とばかりに、お祭り騒ぎを彼方此方で繰り広げる。

 プーチン大統領、対ロシア制裁を行使した国のリスト作成を命じ、"西側の制裁は宣戦布告"に近いと。

 ロシア政府は7日、非友好国のリストに、EU加盟国、英国、米国などに加え、日本も含むとした。

 日本も忘れはしまい。米国による航空機用ガソリンの輸出制限、屑鉄と鉄鋼の輸出禁止、仕舞に石油をはじめ重要軍需物資の対日輸出禁止だ。石油備蓄の枯渇を恐れた軍部、対米開戦論へと急くことになった。

 今次のことも、ロシアの言い分、つまり、欧米側の"うしろめたい所"を直隠し、火を付け、煽り、武器を与え、問題を拗らせ、傷口を広げ、ロシアを国際社会の悪者に仕立て上げ、制裁する。米国の狡猾な常套手段である。

 が、メディアも言わざる米国の弱み、其れはウクライナを直接助けないし、ロシアとは直接戦争をしないという事実である。ウクライナとロシアの戦争が長引くのは、ロシアに不利(制裁などで)な様な情報を流すが、本当の不利益は米国側に齎される。

 つまり、米国はアフガニスタンに続く無能ぶりを世界に曝し、米国の覇権国としての地位の更なる低下は免れない。当然、米国流民主主義もフェードアウトする。
 大国としての問題解決能力の欠如はもとより、有言実行ならず、有言不実行、空言の米国という訳である。

 国連総会のロシア非難決議で、最大の民主主義国であるインド、そしてバイデン肝いりの対中国包囲網となる日米豪とのクワッド仲間インド、そして日米がちょっかいを出すベトナムが、棄権する。この事実もメディアはダンマリである。クワッドは機能するのか。バイデン氏も"為す振り"、虚仮威しを使うが、その実態は中国に見抜かれている。
 非難決議、数を誇るが、地政学的には何れが優勢なのだろうか。青大将が巨像を飲み込もうとするかのようだ。

 台湾自身、そして台湾問題を弄る日本の或る筋なども、米中の戦争など夢想だにしないのがよい。米国は傍観者であり、火に油を注ぎ、武器を売り付けるだけだ。同盟を破る言訳など米国は常に用意してある。

 早くも、ウクライナの亡命政権云々が欧米側で口の端に上る。口先だけの無能のゼレンスキ―大統領、国内で踏ん張っている積りでも、パペットの悲しさである。

 <一寸先は闇>、米(NATO)とロが戦争となれば、米国側の基地は叩かれる。北朝鮮も逸早く呼応するかも知れない。
 なお、日本が非友好的行為をしながら、非友好国に指定されたことをロシアに抗議するのも疑問だ。単なる外交上のプロトコルなのか。

 直近のアフガニスタン戦争、そして其の後のアフガニスタンの惨状に声をあげ、今次のデモ、騒ぎ(関心)のような鉾先を、米国に向けたことがあるのか。街頭で、ロシアを糾弾するデモ、ウクライナを支援する団体等、本当の悪には向かわず、其の巨悪に"正義面"をさせた儘に放置するか。
 否、イエメンなども今、数十万人を超える死傷者、数百万人の難民が出ている。其処でも米国が絡む。
 つまり、それでは利用され、自己満足に陥るだけで、悪に加担する偽善者となる。

 何故それを偽善というか。米国が世界中で繰り広げている戦争、虐殺、無差別殺人、テロ行為などについては、"黙り"を決め込んでいるからだ。

 米国を制するのは、恐らくダブルスタンダードを排した各国の民の力の結集でしかない。

 中国、「アメリカは、アフガニスタン人民に『二次的被害』を与えず、アフガニスタンが厳しい冬を乗り越え、春を迎えられるよう手伝うべきだ。そのため、アフガニスタンに対する在米財産の凍結や一方的制裁を即時解除し、無条件でアフガニスタン人民の資産を返還すべきだ」と。

 が、バイデン大統領、冷酷にも其の約100億ドル内、凍結解除された70億ドルの半分に当たる約35億ドルを、9.11同時多発テロ犠牲者の遺族への賠償支払いに充てると。
 まるで詐欺師であり、盗人根性丸出しである。

 なお、「世界銀行首脳陣は同行のアフガン復興信託基金内で凍結されている、アフガン名義の資産10億ドルのうち、6億ドル分を同国の教育や各世帯への支援に充当する旨を提案」(ParsToday 2.19 世銀が、アフガン名義の資産凍結の一部解除を提案)。

 米国務次官補、ウクライナの生物研究所がロシア軍に見つかり、制圧されることを心配するくらいだ、米国の関与は事実なのだろう。中国が其の軍事生物研究所に関するデータの公開を米国に要請する。米国は生物兵器開発に対する査察を受けるべきとも。
 なお、米国の生物学研究所は世界に336ケ所あると、中国が明らかにした。

 また、米国はロシア産原油の輸入禁止措置後、原油価格の高騰を抑制できず、サウジアラビアとUAEアラブ首長国連邦に原油採掘量の増強を説得しようとするも、バイデン氏、話し合うことを拒まれている。

 今や世界安定の軸足は中国へと移りそうだ。所詮気紛れの自国本位の米国には世界を導く資格も能力もない。他を陥れ、民を無視し、金儲けに邁進してきた企業用心棒国家米国、世界から見捨てられる。

 米国の巧みな麗句、それは国際社会を欺く嘘なのだ。

 更に問うことだ。米国の侵攻、侵略、策略等はなぜ其れが許されるのか。同じ民主主義、自由主義の国だから許すのか。米国は何をしても無謬だとでも思うのか。
 が、米国は共食いも何ら躊躇しない。其の民主主義は米国流の民主主義で、世界向かって汎用性・普遍性のある思想・主義ではない。単に戦争のツールであり、他を欺き目眩ましする手段なのだ。

 既に米国主導の西側諸国の偽情報、二重基準にどっぷり浸かり、或いは其の筋から多少の小遣いを貰うなどで、マインドコントロールされている。

 ネット等からは悪魔の誘いが、罠がかかる。

 民主主義サミットは、世界覇権に破綻を来し敗れそうな米国が仕掛けた、世界を敵か味方に二分する踏絵であり、悪足掻きなのだ。
 それこそ、他を受け入れないことで、民主主義を国是とする国々を愚弄し、民主主義其のものを破壊する、論理矛盾となる、行為なのだ。

 斯様な愚かな、非生産的行為に突き進む米国を、国際社会が見逃していては、争いの種は尽きない。争いは米国の儲けの種なのだ。

 岸田首相、「各国の歴史的経緯を尊重することこそが、民主主義の定着に寄与する。我が国はこうした信念の下、アジアの国々における和平プロセス、平和の定着、復興の後押しなど、二国間対話を通じ、各国の自主的な取組を後押ししてきた」とは、本音なら至極真っ当ではないか。

 米国は内政問題に加え、自分が作り出した世界の混乱までを他国に転嫁する、国際詐欺師である。

 民主主義の乱れ=退廃の最大の原因は、米国の愚かな政治家の絶え間ない非生産的、非建設的な所為である。

 呼びつけられた約110の国・地域の参加者に問う、米国が云う民主主義とは何なのか。米国は正しいのか。追随し利用されるだけで事は済むのか。

 <寄らば大樹の蔭>、<長い物には巻かれよ>では、民主主義の根腐れか、民主主義が根付いていないのか、である。

 今の状況は 1970年代初頭のブレトンウッズ体制の崩れ、そしてサミット体制へ移行した時期と似る。それは、固定相場制から変動相場制への移行、管理された自由貿易体制から弱肉強食の自由貿易体制と。結果は、貧困・格差問題となってあらわれた。
 国家主権からグローバル企業(主権)を支援するサミット体制が、大きく揺らぎG7の在り方が問われる。

 次なる体制は如何なるものになるのか。G7は自ら制裁を振り撒き、自らにも降りかかるという資本主義的再生産過程の逆に陥っている。
 が、新しい体制を生み出す力も尽きているようだ。

 欧米西側の悪足掻きと<天を仰いで唾する>行為が続く。


 ありえる現実 2022年03月06日

 南相馬市の女性、「ウクライナの人は原発事故に遭った仲間。原発への攻撃なんてありえない」(中日03.06)と、憤る。

 この女性の言を批判する積りは毛頭ないが、ちょっと待てよ、と思うのだ。

 "原発事故に遭った仲間"と"原発への攻撃"とは、如何なる関係にあるのだろうか。
 原発事故に遭った仲間なら、原発への攻撃は避けられる、又は"ありえない"、という因果関係が成立するとも思われない。

 寧ろ世の中の諺としてならば、<二度あることは三度ある>とも云う。

 つまり、戦争では何が起きるかは予断を許さないし、先行き不明なのが常である。  例えば、事前に取り決めしたとしても、敵味方或いは第三による故意・偶発の結果で事故が起きる可能性だってある。

 そう、この女性の憤りの言葉を発した時点で、既に"ありえない"ことが"ありえた"のであり、"嘆き"に変容している。
 つまり、因果関係は失せた。

 この女性はウクライナの、或は自分の状況などを比し慨嘆し、失望を表したのだろうとは思うが…。

 それとも、ありえないことが、救いとなるのだろうか、それは美しい誤解に過ぎないのだが。

 が、「原発への攻撃なんてありえない」は本当なのか。否、ありえる想定をしている、此の日本でも。

 事態対処法(平成15年=2003年6月成立)、つまり、「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」は、有事法制全体の基本的な枠組みを示した法律となる。

 事態対処法においては、武力攻撃事態と武力攻撃予測事態をあわせて「武力攻撃事態等」という。

 そして翌平成16年、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」が成った。これで、万全の態勢を整備し、国民の保護のための措置を的確かつ迅速に実施する基本的な法制が、全国ベースで整備されたのだ。

 しかしながら、2011年3月11日に発生した東日本大震災での福島第一原子力発電所事故では、政府並び自治体の右往左往を観た。
 そして何年か後に、複数の県に確認したのだが、例えば騒がれた安定ヨウ素剤等の準備などは一切無いとのことだった。

 要するに此の福島第一原子力発電所事故に至る経過は、そう、有事法制下の状況と捉えるべきであった。が、原発事故に対する住民(国民)保護などは正に絵空事、画餅であることを証明した。
 それを指摘したメディアを未だ知らず。

 国民保護は平和時のお話ごと。いざ有事の時の国民保護は"ありえない"と考えれば諦めがつく。

 ウクライナの人々は他国への避難が可能だが、此の海に囲まれた島国、避難することも、逃げ出すことも容易ではない。人々はガラス張りの部屋に閉じ込められ、爆弾を投げつけられる如しだ。

 核シェルターなどもない、防空壕など在っても今の時代何の役にも立たない。建物に避難しても、建物自体が破壊される。

 収容所列島、幽囚の国民(住民)であることを忘れて、核爆弾を身に着けようとする愚か者が騒ぐ。

「原発が国籍不明のテログループによる攻撃を受け、多数の死傷者が発生し、原発の施設の一部が故障し、放射性物質の放出に至る事態となった」というシナリオで、共同訓練も実施されている。

 当然、弾道ミサイル攻撃、航空機による攻撃等での、原子力事業所等の破壊、石油コンビナートの爆破等、或いは炭疽菌やサリンの大量散布等、航空機による自爆テロ等も緊急対処事態の例となる。

 救われようのない事態なのだ。

 そう、原子力災害は重大な事故の範疇なのだ。国民保護を枕詞にするも、事態対処法は戦場となるため覚悟の法制であり、国民保護は真っ赤な嘘でも、ミサイルの炸裂の場となるは必定であり、真実だ。

 日本でも「ありえる」現実なのだ。


 糞も味噌も一緒、そして六日の菖蒲なのか 2022年03月02日

 冗談ではない。今やハッカーと云えば、何と定義づけしようが、破壊行為あるいは不正アクセスを働く、言わば"欺瞞"の輩ではないか。

 正義の味方などでは決して在り得ない。百歩譲っても、"平和を望む"として、他国などを攻撃するとは、矢張り無法であると言わざるを得ない。平和の徒でもない。

 ロシアを違法行為と決めつけるのも早計であり、ウクライナ及び西側諸国を含むNATOの正義面が偽善でないと、どうして言えるのか。況してや政治的局面の真相も定かでない今、匿名を好い事にして、何をほざくのか。

 国際社会にとっての真の危機は米国を制御できないことだ。
 そして、其の米国といえば<五里霧中>という訳だ。
 つまり、アイマスクをして運転する車に、西側諸国を同乗させている。

 現にトヨタの仕入れ先企業の受発注システム、サイバー攻撃受けランサムウェアに感染したのではないか。

 また、大手テスラ社がウクライナに、衛星によるネット接続サービスを提供するなど、他国に干渉している。
 が、裏で糸を引く米国等が、間接操作しているのではないか。

 米国は総包みでウクライナ問題に関わる。何せ傀儡ウクライナの操り師なのだ。

 つまり、斯様な状況下で、危機の到来は、"一方向側からのディスインフォメーション"による国際社会の攪乱であり、容易に事実に辿り着けず、誤った方向に誘導されるということである。

 ロシア側の偽情報を心配するが、特に米国の偽情報を鵜呑みにする西側陣営の無責任マスメディアは、偽情報を掴まされ、振り回され、挙句その嘘を拡大し、撒き散らす役割を果たしている。"マスゴミ"の所以である。

 それに反応も遅い。次の例だ。

 岸田首相は参院予算委で、自国の領土内に米国の核兵器を配備し共同運用する核共有政策は、非核三原則を堅持するわが国の立場から認められないと(2月28日)。

 そして、松野官房長官が核共有検討を否定・非核三原則を堅持(3月1日)、岸防衛相も非核三原則を堅持・米核兵器の共有運用は認められない(同日)、日本被団協は米核兵器の同盟国共有運用議論を強く批判(同日)など。

 ある新聞などは、自らの記事で、"安倍氏、米との「核共有」議論を ロシア侵攻で「タブーなしに"と載せ(2月27日)ながら、政府の見解等が出揃った後、社説で「核共有発言 非核三原則否定するな」(3月2日)と、"やっとこさ"の記事である。

 が、末尾で更に「冷静な議論を望みたい」とは何か。岸田首相は既に非核三原則を堅持すると言明する。冷静な議論?望みたい? これでは、エコーチェンバー効果が作用しないか。

 平和憲法を抱く日本の新聞社、<貧すれば鈍する>のか。

 因みにGLOBALTIMESは「Alert! Abe's remarks are unlocking Japan's militarism: Global Times editorial」、"警戒!安倍元首相の発言は日本の軍国主義を解き放す グローバル・タイムズ社説"(私訳)と、2月28日に反応する。

 退いたとは言え、政権を執る党、自民党の最大派閥を率いる安倍元首相の言である。それこそ、米国要人と並んで、要注意の人物の発言となり、misinformationでは済まされない。

 台湾を弄る安倍氏、特にメディアは漫然とやり過ごす訳にはいくまい。

 台湾を煽る欧米西側、特に主導する米国、そして<好機逸すべからず>と共に騒ぐ日本の其の筋、日本周辺で第二のウクライナを期するのか。

 マインドハッキングに要注意!


 冬扇夏炉の欧米側 - 2022年02月27日

 ロシアがウクライナに侵攻と声高に云うも、口を噤む事実あり。

 其れは米国が、EUへの加盟を勧誘していた、或いは加盟を望んでいたウクライナ(憲法に明記)を見捨てたことであり、取りも直さず、EUの危機をも<拱手傍観>しているという事実である。

 2月24日、プーチン大統領はロシア系住民の保護を目的にウクライナへの侵攻を決断した。
 但し、ウクライナの占領は考えていない、と云う。

 しかし英国の離脱(2020年)があったにせよ、逓増するEU加盟国は、ロシアに取り東方に向かって押し寄せる津波の如しとなる。

 原加盟国数6か国(タリア,オランダ,ドイツ:加盟時西ドイツ,フランス,ベルギー,ルクセンブルク)から現加盟国27カ国の現在、ロシアの凡そ3.2倍の4億4,7余人、そのGDPは15兆6,362億ドル(2019年)でロシアの10.6倍ほどである。
 安全保障政策等の統合体であるEU、ロシアにはひたひたと迫り来る安全保障上の危機と映る。

 そしてウクライナ側の現政権、欧米側のまるで"傀儡"のごとくに振る舞い、ゼレンスキー大統領などは事態の収拾に携わっているのか、或いは米政権の言葉の伝達役なのか、一国を担う責任感が伝わらない。

 ウクライナ東部地域の和平合意である、ミンスク2(【参考】安保理第2202号決議に採択)の履行を協議していたのではないか。そして何よりもNATOの東側への不拡大保障、欧州にある軍事施設を1997年時に戻すというロシア側の安全保障も其の要であった。
 が、欧米側の回答は<木で鼻を括る>内容で、ロシアの要求には<馬耳東風>を決め込み、平和を謳いながら、西側諸国はロシアを戦争へと煽り立て、制裁を以って囃し立て更に駆り立てた。

 筋を通す中国は、ミンスク2を対話と協議を以てしての履行を求めた。

 が、ブリンケン米国務長官は22日、ウクライナのクレバ外相との会談直後の共同記者会見で、「私はロシアのラブロフ外相と24日に会い欧州の安全保障に対するそれぞれの懸念を協議することにしていた。ただそれはロシアがウクライナに侵攻しなかった場合に限ってだった」と。
 「プーチン大統領は前日ウクライナ東部地域の親ロシア派勢力の独立を承認し、ここに兵力投入を命令した。」、「米国はこれを「侵攻」と判断し、該当地域に対する制裁に続きこの日ロシア最大の政府系銀行など銀行2社と子会社42社に対する全面遮断などの制裁を追加した。」(中央日報 02.23 09:23 ブリンケン長官「もう意味がない」、ロシアとの外相会談キャンセル…仏ロ外相会談も中止)

 「プーチン・ロシア大統領が24日木曜未明、ロシア人居住地域であるウクライナ東部ドンバス地域の防衛を目的とした、特別軍事作戦命令を出しました。
 プーチン大統領はまた、ウクライナの軍国化の停止を要請するとともに、ウクライナ軍に対し、武器を捨てるよう求めています。
 さらに、「今後予想される流血のすべての責任は、ウクライナ政権に帰するだろう」とも述べました。
 ドンバス地域をはじめとしたウクライナ各地では、ロシア軍の進軍が始まり、ウクライナ政府は同国東部ルガンスク州内の2つの市が占領されたことを明らかにしました。一部の報道からは、黒海沿岸のオデッサおよびマリオポルの2つの港湾都市に、ロシア軍が入ったことが明らかになっています。
 こうして、ウクライナに対する再三のロシア当局の警告、そしてウクライナがこれらの警告を無視した後、今度はロシアが実際の行動に踏み切っています。
 バイデン米大統領はプーチン大統領の演説の後、声明を発表してウクライナ戦争とその悲惨な人的被害の責任はロシアにある、としました。しかし、その一方でアメリカ政府は、自らが現在の悲惨な事態の発生に直接関与している現実を無視しています。
 ウクライナでのロシアの軍事作戦は、国際舞台での新新たな時代の幕開けになるといえるものです。
 トルコの政治評論家Borhan Uddin Duran氏は、「東西両陣営間の対立の多くは行き詰まりに陥っており、事実上解決策がないように思われる。このため、世界の安全保障構築は近く変容するだろう」と語りました。
 これまでに、ロシアと西側の対立、特にロシアと米およびNATO北大西洋条約機構の対立は、政治・外交面での対峙、さらにはメディア・プロパガンダ戦という枠組みでのものでした。ロシアはこれまでに何度もNATOに対し、この組織の東方への拡大や、ロシアとの国境近辺での軍事基地設置に向けた工作について警告し、こうした行動がロシアの国家安全保障を直接脅かすものだと表明してきました。しかし、米主導のNATOはロシアの要求には耳を貸さず、依然としてウクライナのNATO加盟への固執などにより、そうした行動を継続しています。
 もう1つの重要な問題は、西側寄りのウクライナの指導部が特に2014年の政変、そして当時の親ロシア派のヤヌコビッチ大統領の解任の後に、その後のプルシェンコ政権およびゼレンスキー現政権時代にかけて、ウクライナのNATO加盟に向けた努力を倍増させていることです。プルシェンコ前大統領は2019年2月、ウクライナ憲法に同国のNATO・EU加盟の必要性を盛り込んだ法案が議会で承認された後、この法案に署名しました。そして現在のゼレンスキー政権もロシアの懸念をよそに、NATOやアメリカの支援により、ロシアに対抗できると考えています。その一方で、2008年のジョージア戦争といった過去の経験や歴史は、ロシアが自らの国家安全保障、および西側・NATOの陰謀への対抗という分野において、断固たる行動をとってくることを示しています。
 現在も、プーチン大統領はウクライナでのロシアの軍事作戦に対する外国の干渉に対し、強く反発すると警告しています。実際に、ウクライナ現政権は今や、地域にNATOを前進させ、西側に歩調を合わせることや、ロシアに敵対することなど自らの行動の結果を突きつけられています。ゆえに、ウクライナはNATO加盟に向けた努力では自らに有利な安全保障を推進できなかったのみならず、今や自らの国土の破壊、分裂につながる戦争にさらされているのです。」(ParsToday 2022.02.24 ウクライナでの露の軍事作戦、その原因と結果)

 さて、米ロとも通常戦争下でも、NATO絡みとなれば、その戦況次第では戦術核兵器(無意味な区分)の投げ合いとなる。それ以上の戦略核兵器の飛ばし合いも現実味を帯びて来る。

 西側諸国は、何かと云うと国際社会を口に出すが、ハッキリ云えば、狭小なるG7の身内同士を指す言葉である。そのG7が何かと徒党を組んで<異口同音>に、自陣営の悪さを顧みることなく、相手を非難し声高に騒ぐのである。つまり、正義は我にありと。
 そして、反戦運動も、人権運動も米国を其の対象から外す。否、現実には反米運動等もあるのだが、西側陣営メディアが"大きく"取上げない。
言わばメディアも、"民主主義という遮眼革"で覆われて、複眼的な考察が出来なくなっている。

 「ロシアの無法を許さぬ」(中日02.25社説)と。では、米国の無法は許し、野放しでよいのか、と半畳を入れたくなる。
 また、「米ロによって分断は極まった。悲劇である。ただ、ロシアの蛮行をウクライナ人は忘れまい。ロシアがウクライナを支配したとしても、もはやウクライナの民心を失っている」と。
 蛮行には或る意味で、ミンスク2協議に容喙し無責任な結果を導きだした加担者としての米国にも、ウクライナ人の恨みつらみが残らないのだろうか。<後は野となれ山となれ>式が米国の常套手段なのだ。アフガニスタンでの米国の蛮行・非道・人権無視等の跡形無いとでも思うのか。

 何も民主主義国だからと云って、特別な免罪符が附与されている訳でもない。

 それと、"忘れまい"で思い出したが、日本のある国会議員などは忘却どころか、逆恨みに近い詞を投げつけ、日本国憲法も国民をも傷付け、非国民的言動に及ぶ。全く歴史を無視しているのか、無知なのか、態とがましいのか。しかしメディアは報ずるも批判せず。

 そう、「途中で参拝をやめるといった中途半端なことをするから、相手がつけ上がる」、「淡々と続ければ、だんだん周りもあほらしくなり、文句を言わないのではないか」と。

 先の大戦では、日本だけでも、軍人・軍属が230万人(日中戦争期含む)、民間人が、80万人、合計310万人の戦没数に達する。その悲惨な犠牲の結果、得た日本国憲法であるのに、そして「尊重し擁護する義務を負ふ」者なのに、上述のような暴言を吐く。

 此の当の議員、他国侵略のことも忘却の彼方へ追い遣ったようだ。

 実に<灯台下暗し>ではないか。

 為政者は事実の上に嘘を振掛け、歴史を小箱に閉じ込め、傍へ抛り、新たな偽りを以て治めるために、忘れる或は忘れなければならない。其れが現実という未来への処し方なのだ。
 だから為政者は方便として言う、"未来志向"でと。"忘れまい"でなく、"忘れろ"と。"忘れまい"では憎悪と悲劇の悪循環が待つだけだ。
 そして国民も今を生きるために、台風一過の如くに気持ちを切り替える。

 そう、まことに「人間萬事嘘計り」なのだ。

 日本人を見よ、核爆弾を二発落とされても、米国を救いの神のよう扱い、憧れの国であり、そして遂に傀儡・属国に甘んじているではないか。これなどは"忘れまい"だからではなく、"忘れた"からではないのか。

 無法であるかないかなどは、単に物の見方、相対的な捉え方なのだ。だから、事前に事後にも、話し合い、協議することが重要なのだ。

 "ロシアの無法を許さぬ"では悪循環である。其の上国民を有らぬ方向に誘導・煽動し、新たな憎しみを増幅させ、戦禍を招くことになる。
 他国への憎悪を掻き立てるのでは、"忘れまい"、"忘れろ"の無益なことを招くだけだ。

 しかし、今次の戦争勃発で、尖閣諸島問題等を抱える日本、そして台湾、揃って侵攻される心配をする。が、ピント外れである。
 ウクライナ、いまだNATOに未加盟ゆえNATO・米国軍の助っ人(集団防衛義務)は出来ないし、望めないと。そう、米国は自らが現在の悲惨な事態の発生に直接関与する当事者でありながら現実を無視し、無責任にも見捨てたのだ。

 ウクライナのゼレンスキー大統領、「西側はもう完全にウクライナを見捨てた」、「すでに欧州の27カ国の指導者に北大西洋条約機構(NATO)に加盟できるかどうか尋ねたが、いずれも返事をしてくれなかった」と。そして、「ウクライナはウクライナの安全およびウクライナの中立などの問題をめぐってロシア側と交渉することを恐れない。なぜなら、ウクライナはまだNATOの加盟国ではないからだ」と強調した。(CRI 02.25)

 「我々はロシアを怖れていない。しかし、我々の国の安全を保障するものは何なのだろう?そのような保障を与えてくれる勢力や国はどこにいるのだろう?」、「我々を単独で対ロシア戦闘の中に置いた」と。(ParsToday 2022.02.26)

 ゼレンスキー大統領、政治的センスがゼロに近い。そして無責任である。<生き馬の目を抜く>米国・ロシアとの駆引き材料に使われただけだ。これではEUに加盟しても、小突き回されるだけの下っ端加盟国となるだけだ。端から欧米を信じるとはナイーブ過ぎる。

 国民を護るという気構えが揺れ動き、自分は何処かに隠れて、徹底抗戦を呼び掛けたりする。恐らく此の期に及んで血迷い、他国の領土が焦土化しようがしまいが、何ら痛痒を感じない米等に未だ操られているのだろうか。
 否、既に其の好戦国はウクライナに潜り込んで、煽りを入れているかも知れない。

 愚かな為政者を擁すると国を失い、国民が路頭に迷う。

 そう、相手がロシア(中国)でなく、弱小国であったなら、米国は国際規範を無視し、躊躇なく強引な軍事介入を為るだろう。
 米国の手の内などはプーチン大統領にシースルーである。故にプーチンに屈する。  この見捨てた事実、そして特に、米国の両義性ついて仔細に検討すべきなのだ。島々を巡って、米国が自ら危険を冒すと思うのか。いずれにも米国には逃げる口実を持っている。

 同盟を守る、日米はアフガンとは別? <口に蜜あり腹に剣あり>である。

 EU加盟国の首脳、「このような力の行使が存在する余地は二十一世紀にはない。EUはウクライナ側に立ち、政治、経済、人道面での支援を供給する」(中日 02.25)。

 何と都合のよい忘れ方をするものだ。21世紀の幕開けは、正に米国のアフガニスタン侵攻(2001年10月7日)で始まり、其のファンファーレが吹き鳴らされた。
 そして、<尾羽打ち枯ら>した米国の敗北を見た。勿論、NATO・西側諸国も同罪である。

 ロシアと対峙できない米軍・NATO軍が、尖閣諸島や元来中国に所属する島々のために、自国民の血を流すと思うのか。彼国は島を失ったところで何も失わないし、日本などは捨駒なのだ。

 日本よ、勿体ぶるな、単に駒であることを忘れるな。

 結局は妄想・希望的観測によって、自国民が危殆に瀕する。

 むしろ中国の出方を邪推するより、米国の出方に注意を払うべきだ。

 それに制裁は制裁する側の国民を窮地に追い込むことになり、結局は自国民を制裁する事と肝に銘ずべし。欧州・日本は寒空にガス欠となるか。

 制裁の効果を「時間と共に物価は上がり、人々は物を買えなくなり、生活水準は下がる」と、米政権幹部。(中日 02.26 EU難色 制裁に限界)
 この"ナレーション"は真実味がある。なぜなら制裁大国、米国内の現実だからだ。が、日本にも及ぶ。

 欧米側の制裁など今や、虚仮威しの文句をならべるに過ぎない。

 北朝鮮を見よ、制裁慣れして其れが常道となる。制裁の効果は如何。
 プーチン大統領、「ロシアのビジネス界は危機への適応を学んだ。準備はできている」と(中日 02.26 制裁への準備できている)。

 危機は一つの機会なり、だ。来るべき世界は何を以て「理」とするのか。いずれにしろ古きものが去ろうとしている。

 マトリョーシカ構造の安全保障、平和時には微笑み抱えてくれても、肝心の<いざ鎌倉>時には、入れ子の小さなものから放り出し捨て駒とする。それはEUにも及ぶことなのだ。況してや日本・台湾など……、即、用済みとなる。

 真に不安定な国とは常に特定国の権謀術数に踊らされている国を言う。

 プーチン大統領、ミンスク合意はもう存在しないと。
 ならば、ウクライナの占領、事と次第に依っては………。

 そう、プーチン大統領を「天才的だ」と、トランプ氏は称賛する。

 欧米側の"バカ騒ぎ"を傍ら目に理詰めの戦略を展開する。
 二進も三進も行かないのは徒党を組むも参謀なしのG7側である。
 今や米国に在るのは自国の生き残りを賭けた奸策あるのみだ。

 G7、決して国際社会と云う勿れ。単なる性悪グループなのだから。
 国連加盟国数だけでも、193カ国である。

 昨年に続き、米国は国際社会の嘲笑を買うことになった。
 そして、信頼も失せた。空言、虚空に消える…。

 軍事基地も精密ミサイル攻撃で逸早く消える…。
 近未来の戦争をウクライナに観る。

 「べらぼうめ。講釈師見て來たやうにうそをつきッ。講釈のうそッつきやい。」(『一盃綺言』明治廿一年九月二十日出版 〇ひとりおもしろくなる酒癖 三十四頁)

 捩って、"マスメディア見てきたように嘘をつき。マスメディアのうそッつきやい"。

【参考】

安全保障理事会決議 2202(2015)(国際連合広報センターHP)

2015年2月17日、安全保障理事会第 7384 回会合にて採択

安全保障理事会は、

国際連合憲章に記されている目的および原則を想起しそしてウクライナの主権、独立並びに領土保全に対する安保理の十分な尊重を再確認し、
ウクライナの東部地域における悲劇的な出来事および暴力に安保理の深刻な懸念を表明し、安保理決議 2166(2014)を再確認し、

ウクライナの東部地域における状況の解決は、現在の危機に対する平和的解決を通してのみ達成できることを強く確信し、

1.2015 年2月 12 日にミンスクで採択されまた署名された、「ミンスク合意の実施のための措置のパッケージ」(添付文書Ⅰ)を是認する。

2.ロシア連邦大統領、ウクライナ大統領、フランス共和国大統領およびドイツ連邦共和国首相による、ミンスクで 2015 年2月 12 日に採択された、「ミンスク合意の実施のための措置のパッケージ」を支援する宣言(添付文書Ⅱ)およびミンスク合意の実施に対するそこに含まれた彼らの継続した公約を歓迎する。

3.全ての当事者に対し、その中に規定されたように包括的な停戦を含む、「措置のパッケージ」を完全に実施することを求める。

4.この問題に引き続き取り組むことを決定する。

添付文書Ⅰ
 ミンスク合意の実施のための措置のパッケージ
        ミンスク、2015年2月12日

 1.ウクライナのドネツィクおよびルハーンシク地域の特定の地区における直ぐのまた包括的な停戦並びに 2015 年2月 15 日現地時間 12a.m.現在でのその厳格な実施。

 2.口径 100 以上の大砲システムのために互いから少なくとも 50km の幅の安全地帯を、MLRSのために 70km の幅のそして MLRS「タルナード S」、ウラガン、スメーチおよび戦術ミサイル・システム(トーチカ、トーチカ U)のために 140km の幅の安全地帯を造るため、平等な距離で両側によるあらゆる重火器の撤退。
  -ウクライナ軍にとっては:事実上の接触線から
  -ウクライナのドネツィクおよびルハーンシク地域の特定の地区からの武装編成にとって   は:2014 年9月 14 日のミンスク覚書に従って接触線から 上記に特定された重火器の撤退は、遅くとも停戦の二日目に始まり 14 日以内に完了するものとする。
 過程は、OSCE により促進されまた三者接触グループにより支援されるものとする。

 3.衛星、ドローン、レーダ装備等を含む、必要なあらゆる技術装備を用いつつ、撤退の一日目から OSCE による停戦体制および重火器の撤退の効果的な監視と検証を確保する。

 4.ウクライナの法令および「ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区における暫定的な地方自治体制に関する」並びにこの法に基づくこれらの地区の将来の体制に関するウクライナの法に従った地方選挙の態様について、撤退の一日目に、対話を始める。

 本文書の署名の日から遅くとも 30 日までに、2014 年9月 19 日のミンスク覚書の線に基づいた、「ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区における暫定的な地方自治体制に関する」ウクライナ法のもとで、特別な体制を享受する地区を特定しているウクライナ議会の決議を迅速に採択する。

 5.ウクライナのドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区において起こった出来事に関連して人の起訴と処罰を禁止する法を制定することにより恩赦や特赦を確保する。

 6.“all for all”原則に基づき、全ての人質および不法に拘束された人の解放と交換を確保する。この過程は、遅くとも撤退後5日で完了するものとする。

 7.国際的な制度に基づいた、困っている者に対する人道援助の安全なアクセス、引渡、貯蔵および配布を確保する。

 8.年金支払いや他の支払い(収入および歳入、全ての公共事業の時宜を得た支払、ウクライナの法的枠組内での元に戻っている税)のような社会的移転を含む、社会経済的結び付きの完全な再開の態様の定義。

 この目的のためにウクライナは、紛争に影響を受けた地区における銀行制度の部分の支配を元に戻すものとし、そしてできる限りこのような移転を促進する国際的な制度が確立されるものとする。

 9.第11項に規定された、地方選挙の後一日目に始まり 2015 年末までに完了することになっている包括的な政治的解決(ウクライナの法および憲法改革を基礎としたドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の地方選挙)が、三者接触グループの枠組内でドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の代表者と協議してそしてその合意で実施された後で終わる、紛争地区全体のウクライナ政府による国境の完全な支配の回復。

 10.全ての外国の武装編成、軍用装備並びに傭兵の、OSCE の監視の下でのウクライナ領土からの撤退。全ての違法集団の武装解除

 11.主要な要素(ドネツィクおよびルハーンシクの代表と合意して、これらの地域における特定地区の特殊性に対する関連を含む)としての地方分権を規定している 2015 年末までに効力を発する新しい憲法でのウクライナにおける憲法改革を実施すること、並びに 2015 年末までに脚注で定めたような措置に一致してドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の特別な地位に関する恒久法令を採択すること〔注〕。

 12.「ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の暫定的な地方自治体制に関する」ウクライナの法に基づき、地方選挙に関する問題は、三者接触グループの枠組内で、ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の代表者で議論され、合意される。選挙は、関連する OSCE 標準に従って行われ、OSCE/ODIHR によって監視される。

   13.ミンスク合意の関連する側面の実施に関する作業部会の設立を含む、三者接触グループの作業を強化する。彼らは、三者接触グループの構成を反映する。

〔注〕

ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の地方自治のための特別体制に関する法に従って、当該措置は以下とする。
 -ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区で起こった出来事に関与した人に対し、処罰、起訴および差別の免除。
 -言語を自ら決める権利。
 -ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区における、検察庁や裁判所の長の任命における地方自治機関の参加。
 -ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の経済的、社会的および文化的発展に関する地方自治機関との合意を始める中央政府当局の可能性。
 -国家がドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区の社会的および経済的発展を支援する。
 -ドネツィクおよびルハーンシク地域における、ロシア連邦の地区との国境を越えての協力の中央政府当局による支援。
 -ドネツィクおよびルハーンシク地域の特定地区における公の秩序の維持のための地方議会による人民警察部隊の創設。
 -本法によりウクライナのヴェルホーヴナ・ラーダにより任命された、早期の選挙で選出された地方議会の議員および職員の権力は、早期に終えられてはいけない。

三者接触グループの参加者
ハイジ・タリアビーニ大使
ウクライナ第二代大統領、L. D. クチマ
ウクライナ駐在ロシア連邦大使、M. Yu. ズラボフ
A. W. ザハルチェンコ
I. W. プロトニツキー

添付文書Ⅱ
 ミンスクで 2015 年2月 12 日に採択された、「ミンスク合意の実施のための措置のパッケージ」を支援する、ロシア連邦大統領、ウクライナ大統領、フランス共和国大統領およびドイツ連邦共和国首相の宣言

ロシア連邦大統領、ウラジミール・プーチン、ウクライナ大統領、ペトロ・ポロシェンコ、フランス共和国大統領、フランソワ・オランド、およびドイツ連邦共和国首相、アンゲラ・メルケル博士は、ウクライナの主権および領土保全に対する彼らの十分な尊重を再確認する。彼らは、平和的解決に代わるものはまったくないことを固く信じている。彼らは、この目的のために、全ての可能な個々のまた合同の措置を果たすことを十分に約束した。
この背景に対して、指導者達は、2014 年9月5日のミンスク議定書と 2014 年9月 19 日のミンスク覚書にもまた署名した全ての署名者により2015年2月12日に採択されまた署名されたミンスク合意の実施のための措置のパッケージを是認する。指導者達は、この過程に貢献しそして同措置のパッケージの実施を促進するため関連する当事者にその影響力を行使する。 ドイツおよびフランスは、紛争に影響を受けた地区における銀行制度の部分の回復の為に、できる限り社会的な移転を促進するための国際的な制度の設立を通して、技術的専門知識を提供する。
指導者達は、EU、ウクライナおよびロシアの間の改善された協力が、危機解決に資するという確信を共有する。この目的のために、彼らは、ガス冬季パッケージに対する事後段階を達成するためにエネルギー問題に関する EU、ウクライナおよびロシアの間の三者会談の継続を是認する。
彼らは、ウクライナと EU との間の高度かつ包括的な自由貿易協定の実施に関してロシアにより提起された懸念に対する現実的な解決を達成するため、EU、ウクライナおよびロシアの間の三者会談をまた支持する。
指導者達は、国際法および OSCE 原則に対する充分な尊重に基づく大西洋から太平洋に至る合同の人道的および経済的場の構想に対して引き続き誓約している。
指導者達は、ミンスク合意の実施に対して引き続き誓約する。この目的のために、彼らは、原則として外務大臣から高官のレベルで、定期的な間隔で開会するノルマンディー・フォーマットにおいて監視手続を設立することに合意している。


 一犬虚に吠ゆれば - 2022年02月19日

 時代は覇道か王道かの分水嶺に差し掛かるか。

 何れを採るのか、選択を迫られているわけでもないが、覇道主義の米国一犬が虚に吠えれば、追随する西側諸国の万犬が実を伝える、世界を二分化する謀略策を取る限り、ある程度は色分けに染まらざるを得ない。

 特に米国の民主主義・自由主義体制が意外と脆弱であり、単なる烏合の衆的様態であることが露顕した。その民主・自由・平等が、諸に新型コロナウイルスによって、押し流された。
 不思議なことに、突出して今や其の死者が百万人に達しようとしている米国に、国際社会は一向に焦点を絞らない。マスコミも一人の死は事件にするも、大量の死は"ゴミ"扱い並みで捨て去る。

 その米国は、新型コロナウイルスの発生源をめぐり、中国を名指し最大限に侮辱した。結果は御門違いの曰く付きのCIAによる報告でさえ、武漢と特定できない、正に讒言事であった。
 つまり、この偽り劇も無能な体制を隠蔽する目眩ましなのだ。

 米国は中国に謝罪すべきなのだが、今もって其れを聞かない。それどころか、北京オリンピックのマスコットにまで人権を持ち出して、難癖を付けるさもしさである。

 民主主義の精神を、平等の真意を、自由の本旨を履き違えているということだ。と云うよりも、此の国には元々無かったのだ。存在したのは"山師の自由・民主・平等"という一発屋の成金願望、其れが自由の国の正体だった。別言すれば、"アメリカン・ドリーム"というわけだ。 其れが米国という国を落ち着きのない、物欲しい国にしている。

 そもそも米国などは、国家統治体制の基本である憲法の成り立ちからしても、資本主義なのであり、畢竟、新自由主義で市場の自由化、貿易の自由化で人々の富を最大化するという矛盾した考えに帰着する。しかし、国民の生きる保障である社会保障までも資本主義の対象として切り捨てるのでは、本末転倒となる。
 富は極端に偏在し、貧富の格差も極大化となって顕現する。

 誰もが其のドリームを容易に達成できるのなら、"ドリーム"とは云わない。なぜならば、其処は勝者総取りの激戦が展開されるアリーナなのだから。

 が、米国民自身も異常に気付き始めた。米国の民主主義が崩壊の危機にあるかとの問いに、58%が、そう思う、と。(ParsToday 2022.01.13 米世論調査で、58%が米民主主義は崩壊の危機にあると回答) 

 米国の民主政治は目標を見失い、煽動政治家が幅を利かせ衆愚政治の様態を示し、富の極端な偏在は経済的、社会的平等をも蝕む。しかし、それが彼らの根本精神であるからして、更に公共の生活には無関心となる。新型コロナウイルス感染による他国に抜きん出ての感染者数や死者数(感染者数:7826万9443人 死者数:93万1741人 2月18日現在ジョンズ・ホプキンズ大)にも拘わらず、増々個人主義が風靡し、ワクチン接種の義務化には大規模な反対集会・デモが繰り広げられる。

 民主主義、自由主義の国ならば、相異なる意見も受け入れ、相異なる体制の手法も国民の生命(究極の人権)保全のためには参考にすべきで、断じて誹謗中傷を代わりに投げつけることではない。異なる制度の理解は、本来自己の属する社会を相対化し客観化する視点をもたらす。自己の在る位置を把握し省察することは、よりよい世界を創造するのには必要なことである。

 が、米国に引き摺られての西側陣営、民主主義も自由主義も平等主義もかなぐり捨てて、御旗の"主義"の危機を声高にし、敵対する国を非難し悪者に仕立てる。内実はその掲げる主義が危機に瀕しているのではなく、劣化した無知蒙昧な政治家が真の危機の正体であることには気付かない。
 最も愚かしいことは、他国を批判することで民主主義の危
機が回避できると考えていることである。現実には解決するどころか、悪化する一方なのにだ。

 前大統領トランプ氏の集会では、参加者がマスクもつけず参加し、「子どもたちのかわいい顔をマスクで覆うのか」に呼応し、「ノーッ!」と叫ぶあり様だ。(中日 2022年2月1日 米フェニックス ノーマスクでの集い)
 
 しかし、これでは造物主に与えられている生命、自由及び幸福の追求も儘ならぬではないか。自由・個人主義の履き違え、行き過ぎではなかろうか。つまり、他国から観れば、放縦に流れる。

 民主主義であるならば、日本国憲法の前文にもあるように、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである」筈なのだ。

 つまり、"福利は国民がこれを享受"する、これが肝要なのだ。

 勿論アメリカ合衆国憲法にも「一般的福祉を増進し」と謳う。

 問題は民主主義の本旨を体するなら、自国の悲惨をきわめる斯様な状況に、満足な対応策も打ち出せ無い米国が、人権・人道等を唱え他国を讒言・糾弾し、国の内外で死屍を累累させておける筈がないのだ。
 其処には形骸化された普遍性皆無の偏狂な自由・民主主義があるのみで、他国にごり押しできるような"代物"ではない。単に、“戦旗に血染めで大書する惹句”用でしかない。

 墨子は無差別的な愛、兼愛を説き、君臣・親子などの区別の上に立った愛を否定した。が、無差別の愛は結局社会の秩序を乱すことになる。
 また楊朱は義(宜)を重んじた事により、今でいう個人主義に陥ってしまった。

 孟子は博愛平等の墨子や極端な個人主義を力説した楊朱の説を排し、孔子の教えが乱世を治世に変え、世道人心を保つ正道であることを主張した。孟子は「人間の性は善なり」と、性善説を説き、慈愛を基調とする王道政治や仁義の道徳生活は人間の本性に基づくものであるとした。

 因みに、王道・覇道とは、次のように説明される。

 王道は王道政治のことであり、帝王が徳を施して國を治めることであり、古來支那民族の理想とした政治的思想であつた。その代表的なものとして彼の堯舜とか、夏の禹王とか、周の文王、武王とかの行つた政治をあげる。
 覇道といふのは、表面は仁徳によつて國を治める如く見へて、實は強權によるもので、國民の利福を第二にまづ治者の利福に重點をおくもので、周末の春秋の五覇のごときものである。
 「孟子」に「力を以て仁を假る者は覇たり覇は必ず大國を有つ。徳を以て仁を行ふ者は王たり。王は大なるを待たず。湯は七十里を以てし、文王は百里を以てす」とある。
(『机上常識 故事・成語典』教材社編輯部 昭和十五年四月二十日發行 教材社)

 格調高い憲法を持つ日本、米国の意の儘に操られている。憲法にも手を付け、骨抜きにしている。
否、骨を抜き取られたがっていると云った方が正確かもしれない。<同じ穴の貉>でもあるから。

 井上馨は、「我帝國ヲ化シテ歐洲的帝國トセヨ。我國人ヲ化シテ歐洲的人民トセヨ。歐洲的新帝國ヲ東洋ノ表ニ造出セヨ。(以下省略)」と、繰り返した。

 「廣ク各國ノ制度ヲ採リ開明ニ進マントナラバ、先ヅ我國ノ本體ヲ居エ風教ヲ張リ、然シテ後徐カニ彼ノ長所ヲ斟酌スルモノゾ、否ラズシテ猥リニ彼レニ傚ヒナバ、國體ハ衰頽シ風教ハ萎靡シテ匡救ス可カラズ、終ニ彼ノ制ヲ受クルニ至ラントス、」(『西郷南洲翁遺訓及遺文』五頁)

 非アジアを目指す国、日本の侵略により各国が蹂躙され、日本の敗戦を以て其の膨張・軍拡路線は終焉した、かに見えた。

 敗戦に伴い、対日講和条約に日米安全保障条約が膏薬の如く貼られ、以後日本を陰に陽に支配し、今や全土が基地化している。基地を使用すれば、日本への出入りは米国内と同様にフリーパスである。見えるもの見えないものの"何が"持ち込まれても一切不明である。追及しても、国民を誑かす詭弁を弄し、言い逃れるのが此の国の性となっている。

 未亡人製造器と呼ばれながらも強行配備されたオスプレイ、つい最近そのオスプレイに搭乗した岸防衛相、僅10分ほどの"東京湾上空の遊覧飛行"並みで、安定した飛行を確認、そして国民の生命・財産を守れると、豪語する。が、何れわかる。

 なお、オスプレイについては、「米国のアジア太平洋地域重視の戦略の中で、在日米軍、なかでも沖縄の海兵隊の存在は大きな意義を有しており、MV-22オスプレイは、その海兵隊の能力の中核を担う装備。オスプレイは、換装するCH-46Eに比べて、速度2倍、搭載能力3倍、行動半径4倍という優れた性能を有しており、同機の沖縄配備により、在日米軍全体の抑止力が強化され、この地域の平和と安定に大きく寄与する。
 なお、CH-46Eは、既に自衛隊でも退役させた機種であり、これ以上の継続使用は困難。長期的に見た安全性の観点からも好ましくない。」(MV-22オスプレイの沖縄配備について(概要)平成24年9月19日 防衛省 外務省」

 また、在日米軍の新型コロナウイルス検査取り止めで、外務省との検査免除事前通知の齟齬問題などは、米側からの通達一本で、意の儘であろう。つまり、米国の御意のまま、である。
 林外相、外相としては奥の院の日米合同委員会を持ち出す、ぜひ協議内容を詳しく公開してもらいたいものだ。

 バイデン政権は原油高騰に伴い、日本などに石油備蓄の放出を、更にウクライナ情勢関連で日本に欧州向けにガス供給を打診してきた。日本は天然資源自活国ではない、輸入国なのだ。
 事態を鎮静化しようとしないバイデン政権が元凶では、備蓄の放出も補助金も<焼け石に水>である。

 米国は自国内の問題を他国に割り振り押し付ける。岸田"ドローン"政権が忠実に実行する。

 欧州が自らガス調達への懸念を示し、日本に訴え融通を打診するなら未だしも、米国から日本への打診、つまりは指示ないし命令でLNGを融通する。理由は同盟国間の協調をいうが、米国の放縦な戦争煽り策略の実効を上げるための、強制である。ウクライナへのロシア侵攻を言い募り、欧州各国の鎮静化を計る努力にもかかわらず、米国はロシア制裁を強調し、ノルドストリーム2にも及ぼそうとしている。

 恐らく欧州エネルギー市場狙いか。いずれにしろ、米国はマッチポンプ式の火事場泥棒という訳だ。

 「国連にとって当時の根本問題は三十八度線ではなかった。敵に明らかに事実上の停戦の用意があり、この停戦の間に世論も冷却しようし交渉で和平もできるかもしれないとき、マッカーサーに戦争だ、戦争だと陣太鼓をたたかせておいてよいものかどうか、これこそが根本問題であった。」(『秘史朝鮮戦争』ストーン著 259頁 1966年12月1日再版発行 青木書店)

 ゼレンスキー大統領との会談で岸田首相、「ウクライナは自由、民主主義といった基本的価値を共有する重要なパートナーだ」と。(中日 2022.02.16 (首相、ロ侵攻なら「制裁適切に対応」)
 此の枕詞のような文言、決して自由、民主主義を称えているのでも、誇っているのでも、内実を問うているのでもない。ましてや、民主主義や自由などが、当然のことながら、相対的であり、発展的なものであることに言い及んでいるのでもない。

 そう、此のまくら言葉もよく聞かれる。"自由・民主主義・法に基づく支配といった普遍的な価値観"である。が、その普遍的な価値観の最大の破壊者は紛れも無く米国である。

 其の暗喩するところは、西側諸国の盟主米国に"逆らう"国家などを許さないとする、"覇権主義国家"其の物をいう。勿論、米国を凌駕するなど、言語道断の振舞いとなる。<鳥無き里の蝙蝠>である餓鬼大将の米国を支えるのが、"基本的価値を共有する"真の意味なのだ。云わば仲間内の符丁である。

 だから、蝙蝠の云うことを聞いているうちは、絶対君主制であろうが何の問題もなく"仲間内"である。米製武器で他国を攻撃すれば、更に好い。すべては米国の掌の中に在ればよい。

 米国は決して跪くことはないだろう。が、他国からは見下げられるであろう。

 中国には「損人利己(他人に損をさせ自らの利益を図る)」という成語がある。米国は今や、他者の前進の障害となり、損害を他者に押し付ける結果をもたらす、ほとんどありとあらゆることをしている。中国は繰り返し強調する。自らの発展を追い求めることは、いわゆる「世界一」を奪取することではなく、自国の人々に幸せで素晴らしい生活をさせることだ。もしもこの正当な権益をいずれも脅威と見なして、横暴にも阻害するならば、中国国民は決して承服しない。中国の発展を通じて人類運命共同体を共に協議し、共に建設し、共に享受することを望む各国の人々も承服しない。(CRI 2022.02.16【観察眼】米国が「ヒステリー・モード」に突入)

 日本で云えば、<人の褌で相撲を取る>が近いか。

 岸田首相、国の来し方行く末には無関係に、ロシア侵攻時の制裁にまで及ぶ。そしてオマケに一億ドルの円借款供与も言及する。どの様に費消されるのか。

 気が触れたかのような、米国のロシア対するクライナ侵攻への煽り(=米国の期待度)は顰蹙を買う。米国は抜け出せない自己破滅型悪循環に陥っている。そして非生産的、非協調的な愚策の連発が世界を同時に悪化させる。

 ロシアとウクライナの衝突ではアメリカでの生活費が高騰するという、米(政権)の因果が国民に降り掛かる。

 米国の間抜けな政治家の"穢い遣り口"は、建国以来の相も変わらずのウンザリする“ねた割れ手品”を、ブーイングされているにも拘わらず、演じ続けているようなものだ。

 其の手品を民度は太平洋島嶼国でも演ずるか。恐らく寄せては返す白波の如く無限の空回り。

 「経済安全保障推進法案」なども、計画発案そのものが米国追随であり、対中国敵視法であり、恐らく自国の経済安全どころか、自国経済を縊ることになる。
 今や中国、特許・実用新案・論文の引用に於いても、世界の首位を占める。むしろ"経済安全保障"を考慮しなければならないのは中国側である。核や兵器開発に関連での守秘義務などは言わずもがなことを言う。その他は中国市場を狙うなら、マイナス要因となり、自国企業の萎縮効果でしかない。米国の有様をよく観察してから法案を国会に出すべきだ。

 米国の2021年度の貿易統計では、貿易赤字は前年比27%増の8591億米ドルで、過去最大となった。制裁などは自国経済を崩壊に導き、<墓穴を掘る>ことになる。

 「2022年米国競争法案」の米議会下院での可決に、中国のインターネット上で「自分の光を出せばいい。他人の光を吹き消すな」との言葉が流行したと。(CRI 2022.02.11【CRI時評】「競争」という上着で覇権を覆い隠す米国 )
 全く同感である。

 これは米国の悪辣な政策が同盟国、そしてその国民にも影響を及ぼすことになる。同盟国だからと云って諾々と従うのでなく、米国の理非曲直を問うてたしかめるべきである。

 孟子曰、「不仁者可与言哉。安其危、而利其菑、楽其所以亡者・・・国必自伐,而後人伐之。太甲曰、『天作孼、猶可違。自作孼、不可活。』此之謂也。」

 羞悪の心失くした国家の行く末は暗澹たるものとなろう。

 更にウクライナ関連で対ロ制裁の検討を求めてくる。
 米国がアフガニスタンとイラクから撤退させた後の部隊配備(3000人規模・第一陣がドイツとポーランドに到着・8500人の米軍を東ヨーロッパに展開の可能性)である。危機を高め周辺国からロシアとウクライナ間の武力衝突を煽動する。

 アフガニスタンのスパンター元外相が、同国資産のアメリカによる凍結に反応を示し、ツイッターで「米国を同盟国および友好国と呼んだことを後悔している」と。
 米ホワイトハウスは、タリバンがアフガニスタンを掌握した昨年8月15日以降、約100億ドルにのぼる同国の資産を凍結しました。その後70億ドルは凍結解除されましたが、バイデン大統領はそれから間もなく、「凍結解除されたこの資産の半分(約35億ドル)は、9.11同時多発テロ犠牲者の遺族への賠償支払いに充てられる」と述べた。(ParsToday 2022.02.13 アフガン元外相、「米を友好国と呼んだことを後悔」)
 アフガニスタンのカルザイ元大統領が、自国資産を差押さえないようアメリカのバイデン大統領に要請。(ParsToday 2022.02.13 アフガン元大統領が、自国資産を差押さえないよう米大統領に要請)

 全く米国、<貧すれば鈍する>を地で行くか。米国は狂っている。

 米国と一体化・身内化することにより、敗戦国であることを忘却でき無要な劣等感をも払拭でき、云わば気分は戦勝国並みで、中・韓などに対応できるという"隠れ蓑"外交であるからにして、進んで日本国憲法の改悪、つまりアメリカと共に或は手先となって、アメリカの許可を得ながら、単独で戦争可能な国へと変貌させるべく企む。米国が後ろ盾・味方なのだと信じてだ。

 有事における在外邦人救出などは、危険回避の対策を講じることができれば救出活動可などと、後からどうとでも解釈可能な好い加減な自衛隊法改正案を以って処す。いわば在外邦人等救出の名目で為す周辺事態状況発生、救出即軍事作戦、有事である。

 ことさら<火中の栗を拾う>真似をしなくても、事前に避難・出国が可能な体制を如何に整えるかに腐心すべきである。例えば、ウクライナ問題でも、米国一国のみが"狼少年"のようにロシア侵攻を言い募り騒ぐ、斯様な欺瞞・偽旗作戦に基づく情報を分析する能力も必要だ。

 <始めは処女の如く後は脱兎の如し>、つまり、済し崩しに既成事実を作り上げる国家、日本という訳だ。

 ただし、日米安保の深化・強化等と云うも、米政権が代わる都度確認し、安堵を得るという情け無い姿を国民に見せつけながらだ。

 明治維新以降における薩長藩閥政治の流れを汲む遺策への思いが燻る。<見果てぬ夢>を追い求めるか。

 乱を求めるアメリカとの同盟で、真に日本国民を護ることができるのか。北東アジアで、米国の謀略・挑発等による戦争勃発は、如何なる場合でも、日本国民を、否、アジアの民を守ることはできないと知るべきである。ましてや日本自らが加担し、戦禍を引き起こしてはいけない。安倍前首相のような人間の存在は罷り間違えば第三次世界大戦を引き起こし兼ねない。

 「習近平主席は、中国を訪問中のパキスタンのイムラン・カーン首相と北京で会談した際、「中国は国際情勢における公正と正義を守り、問題を起こさず、また問題を恐れない。中国は自らの主権、安全、発展の利益を守る能力と自信がある」と、述べた。(CRI2022.02.06 習主席、「中国は問題を起こさず、問題を恐れない」)

 米国は他国の領土で戦争する。自国温存が彼らの基本である。従って他国が灰燼に帰しても、自国領土で爆弾が炸裂することは念頭にないし、逆に言えば、それが彼国の恐怖の最たるものとなる。よって北朝鮮を最も恐れる。其の北朝鮮もミサイル・核技術の進展、配備と急ピッチである。無論、敵の先制攻撃能力にも対応可能だ。

 そう、海外に基地を持つことが其の表れである。自国が巻き込まれる前に他国の領土で戦うということだ。常に"怯える国家"、それが米国だ。

 遣られる前に遣れ、の真相は、遣られる前に戦争という現実をつくれなのだ。現実に戦いになれば対処可能だからだ。引き籠ってブルブル怯えているのには耐えられない国なのだ。平和という言葉は発しても、全く成遂げようとも実現するとも思わない。
 それは自らの来し方のあくどい手口が、行く末を妨害するからだ。

 全領土が基地化された日本、戦場としては持って来いの場所なのだ。そして愚かな政府筋は米国が書いたあくどいシナリオに嬉々として従い、台湾を弄ることで、<火中の栗を拾う>のだ。
 しかし台湾も、<鼻っ柱が強い>が、住民の事も深く考えるべきだ。戦争など誰も望まないだろう。自由も民主主義も穏やかな日常の暮らしがあっての上だ。戦争の不安に怯えての人権など無きに等しい。平和は待っていても来ないし、勿論戦争でも得られない。

 米国は日本を矢弾にしようと企む。日本が台湾を防備するなど御門違いも甚だしい。米国に乗せられている。
 日本の自衛隊は出撃しても帰航することも出来ない。通常ミサイルだけでも数日で廃墟である。基地は使い物にならない。後方陣地は灰燼に帰する。衛星通信等も使用不能となる。敵基地攻撃など夢語りだろう。攻撃側が先に対象となる。北朝鮮を観れば判る。相手は動く標的なのだ。手招きしてくれる訳ではない。日本は端から沈黙させられる。
 何よりも国民は何処に避難するのだ。国民の生命・財産のことを考えたら、戦争など出来る国ではない。避難場所の無い「Jアラート」など無意味である。

 欧米の西側が挙って日本に援軍を向けようとも、戦場と化すのは此の日本、脆弱なガラスの日本なのだということが、理解も想像もせずに、口走る。否、援軍は来ない、北東アジアの戦争は世界戦争となるからだ。

 如何なる戦争を想定しているのか。如何なる戦禍までを許容しているのか。恐らく米国の助っ人を期待し、楽観的な実践では役立たずの机上の計画を振り回して事足れりとしているのだろう。
 日本には史上三度目、四度目以上の核が炸裂する。小島獲り程度の小競り合いの戦いの訓練では追い付かない現実を叩き付けられる。
 核の抑止力など当てにはならない。米国は常に核を使用する機会を狙う。現実には、今次のウクライナ情勢でも核でロシアを牽制する。使用すれば、核での報復は当然覚悟すべきだ。

 日本は本来人身御供なのだ。米国の保護下に在るや否やに関係なく、同盟の"捨駒"となる運命である。換言すれば、仮想敵国からは日米共々寄辺のない状態にする格好のターゲットとなる。

 結果次第では、日本は朝鮮半島のように分断国家となるやも知れない。北日本・南日本とに分断統治されるということになるか。そう、米中ロの戦争幕引きの交渉の材料としてだ。

  牛の兒にふまれるな庭のかたつむり
      角あればとて身をばたのみて  古歌

 日本の明治以降の基本的精神が変わったとも思えない。その精神とは、<夜郎自大・誇大妄想>のうえ、裏付け無視、結果は犠牲甚大にして失うもの極度となる。
 つまり、<猿猴月を取る>の結末なのだ。

 "民主主義国家は共通の価値観を発展させるため"などと、特定国を宛先とした辞令を欧米西側諸国は発するが、疾うに民主主義など語る資格を失っている。その為に民主主義を殊更言挙げする滑稽さを露出している。

 取り分けて、米国などはまるっきり自国の状況が見えず、或は見えていても手の施しようがないのか、最早、"死者の国"と間違えそうだ。有り触れ過ぎて、故に死者の数など<歯牙にも掛けない>のだろう。
 内外共に殺戮を続ける国家の姿を曝け出している。確かに、人権・民主主義の国家ではないようだ。そして、<血も涙もない>という言葉が当て嵌まる。欺瞞国家、讒言国家そして挙句の果てが、究極の人権喪失国家、それが建国以来引き摺る"性"である。

 自国民に対し"大量虐殺"の状態にある米国、他の追随国のメディアも、中国の新コロナ対策については、14億の民の一人等を取り上げ、<一事が万事>式の批難をするも、死者100万人に届かんとする、この米国の異状さについて、メディアは単に統計としか取り上げてない。国際社会はこの米国の状況を人権・人道、民主主義、自由等の観点から取り上げ、国連などで対応しなくてよいのだろうか。

 〈網呑舟の魚を漏らす〉の類か。

 米国の状況は、民主主義・自由主義の極端に走った、或は失われた状況を物語っておる。が、何も昨日今日始まったわけではない。

 さて、外務大臣会見記録(令和4年1月7日11時19分於:本省会見室)を読むと、<為にする>という言葉が浮かぶ。

 米国の思う通りの内容を国民に垂れ流し、世間に片寄った意見を吹き込み、政府行動の正当性を保つという訳だ。

 一体何処にその下心があるかと云えば、今次の場合、第二の「日米同盟の抑止力・対処力の抜本的強化に向けて、具体的な議論を進めること」であり、そして米国の御墨付けを得ての、国家安全保障戦略の改定等を通じて、自身の防衛力の抜本的強化を行うことであろう。

 その走りが、次の内容である。しかし、否定もせず敵基地攻撃能力に言及するなどは、明らかに憲法に牴触することであり、行政機関の一存で決められることでもないうえ、「憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」者が、臆面もなく述べるのは不謹慎であると考える。国の乱れの主要な原因となろう。
 そう、敵基地攻撃能力の保有とは、明確に"先制攻撃であり"、"侵略行為"となり、自衛手段能力をなし崩し的に解釈し拡大しての軍事国家への道である。
 軍備拡大する、それ自体が既に、平和憲法を護持する観点から外れ、国民の生命・財産を侵すことになる。

 が、"猿猴"の二の舞は始まった。

 「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成26年7月1日 国家安全保障会議決定閣議決定)で、憲法前文や憲法第13条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」、そして憲法第9条などを詭弁を以て骨抜きし、戦争の出来る国へと転じた。
 「憲法上許容される上記の『武力の行使』は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。この『武力の行使』には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである」と、集団的自衛権行使容認に及ぶ。

 国民の生命・財産を守るために、戦争を避ける、戦争をしないというのが、日本国憲法の趣旨である。屁理屈を幾ら並べても、憲法自体が要請する平和の希求を挫くことはできない。如何なる場合でも、戦争は愚の骨頂の策である。ましてや仮想敵国を作り、その国々を刺激するなど、戦争を誘引する行為に外ならない。

 が、此の国、因って以て憲法改悪を急ぎ、国民の犠牲を物ともしない。否、枕詞に使用する"国民"はいても、実在の国民を無視する政治が進行する。

 自衛のためか、侵略のためなのか現実には不可能に近い。これまでの歴史的事実は"侵略"と判断する。

 以下、(林外務大臣会見記録 令和4年1月7日金曜日 11時19分 於:本省会見室から抜粋)

▶日米安全保障協議委員会「2+2」(敵地攻撃能力の保有)

【読売新聞 阿部記者】先ほど発表された「2+2」の共同文書では、日本側として国家の防衛に必要な、あらゆる選択肢を検討する決意を表明したという趣旨が盛り込まれております。岸田首相は、いわゆる敵基地攻撃能力の保有について有力な選択肢だとの考えを示していますけれども、林大臣として、今後3文書の改定に向けて、どういう基本的な考えで検討されるか、お考えをお聞かせください。

【林外務大臣】極超音速滑空兵器や変則軌道で飛翔するミサイル等、近年、ミサイル技術が急速なスピードで変化・進化をしておりますことから、我が国として、国民の命や暮らしを守るために何が求められるのか、ミサイルの脅威に対抗するための能力も含めて、あらゆる選択肢を排除せずに、現実的に検討していくこととしている旨、米国側にも説明をいたしまして、日米で、このプロセスを通して緊密に連携をすることで一致をしておるところでございます。

 また、戦略3文書でございますが、この日米同盟の抑止力・対処力の抜本的強化に関する議論の文脈で、日米双方の安全保障に関する戦略文書についても議論が行われて、今後作成をされます日米それぞれの安全保障戦略に関する主要な文書を通じて、同盟としてのビジョンや優先事項の整合性を確保することで一致をしました。

▶【読売新聞 阿部記者】関連ですけれども、いわゆる敵基地攻撃能力の保有というものは、従来の日米の盾と矛の関係の見直しにも繋がると思うんですけれども、この点については、どのように大臣としてお考えでしょうか。

【林外務大臣】そうですね、共同発表で、ミサイルの脅威に対抗するための能力というふうにしておりますが、これは、ミサイルの脅威に対抗するためのあらゆる能力を包括的に表現しておりまして、いわゆる敵基地攻撃能力のみならず、ミサイル防衛に関わる能力等も含まれておるというふうに考えておりますが、共同発表においては、この敵基地攻撃能力という記述はしておりませんけれども、詳細の調整については、米国との関係もあるので、お答えは差し控えたいと思います。

▶日米安全保障協議委員会「2+2」(防衛費、台湾)

【日本経済新聞 三木記者】「2+2」の共同文書についてお伺いしたいんですけれども、文書の中で、日本が今後、防衛力を抜本的に強化する決意を改めて表明したというふうにあるんですけれども、今回の「2+2」で文章の改定を含め、また、防衛費をこれから増やしていくような考えなどを、米国に日本側から伝えられたということがあるのかというのが1点と、もう一点、台湾海峡のところなんですけれども、昨年3月の「2+2」で、まさに台湾海峡について言及があり、そのあと国際認識として広まっていったのですが、今回、台湾海峡の問題について、今、その中国の脅威であったり、この現状について、日米双方から具体的な言及があったのか教えてください。

【林外務大臣】中国・台湾海峡ということですが、このまず地域の戦略環境の中で議論する中で、中国についても、じっくりと議論を行いました。特に、日米間で、ルールに基づく秩序を損なう中国による取組、これが地域及び世界に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題を提起していることへの懸念を共有をいたしたところでございます。また、地域の平和と安定を更に損なう、中国の東シナ海における活動に対する懸念につき一致をいたしました。
 また、安保条約5条が、尖閣諸島に適用されること、また、尖閣諸島の現状変更を試みる、あるいは、同諸島に対する日本の施政を損なおうとする一方的な行動に、日米で引き続き反対することを確認したところでございます。
 地域の戦略環境について議論をする中でですが、台湾をめぐる状況についても議論が及びまして、米国と、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促していくということでも、一致をしたところでございます。
 また、この最初のお尋ねでございますけれども、日米同盟の抑止力・対処力の抜本的強化に向けて、具体的な議論を進めることを確認したと申し上げましたけれども、その中で、日本としても、国家安全保障戦略の改定等を通じて、自身の防衛力の抜本的強化を行う旨、説明をいたしたということでございます。

▶日米安全保障協議委員会「2+2」(共同研究・開発・生産)

【毎日新聞 飼手記者】防衛関連の共同研究・開発の協定について伺います。共同文書には、極超音速技術に対抗するための将来の協力という文言が盛り込まれましたけれども、これは、極超音速ミサイルを迎撃するためのものなのか、また、そのミサイルを保有するための研究なのか、先ほど包括的に、というお言葉もあったと思いますが、改めて、その目的について伺います。
 また、それ以外に宇宙など、どのような分野で研究開発をしていくのか、説明をお願いします。

【林外務大臣】従来、我が国政府は、我が国の防衛能力を強化するために、いわゆるMDA協定、「日本国と米国合衆国との間の相互防衛援助協定」の下で、米国との間で、共同研究・開発・生産等を実施してきたところでございます。
 今回の交換公文ですが、MDA協定に基づく日米間の共同研究・開発、それから生産等の案件一般に共通する諸条件を規定する枠組みを設けておくことで、共同研究・開発・生産等に関するプロセス、これを一層合理化するものであります。日米間で協議を行った結果、先ほど申し上げましたように、本日、私(林大臣)とグリーン駐日米国臨時代理大使との間で、本交換公文への署名を行ったところでございます。
 日頃から、両国間で、安保や防衛協力に関する様々な事項について、緊密に意見交換を行っておりまして、共同研究等のプロジェクト等の今後の実施についても、そうした意見交換の中で意思疎通を行っておりますが、具体的内容については、この日米間の外交・防衛協力上のやり取りであるので、お答えを差し控えたいというふうに思います。

 林外相は、「我が国として、国民の命や暮らしを守るために何が求められるのか、ミサイルの脅威に対抗するための能力も含めて、あらゆる選択肢を排除せずに、現実的に検討していくこととしている旨、米国側にも説明」と。
 が、"あらゆる選択肢"の中に"戦争"という選択肢は無いと考えるべきだ。真に"国民の命や暮らしを守る"に必要なのは、際限のない武器開発・軍備の拡張などでは絶対にない。  中国は当然のこと、北朝鮮にしろ要は真に脅威ならば、相手の懐に飛び込んでの"話し合い"があってのことだ。ただ国民に危機の増大を言い募り、誤誘導するのでは、間違いなく日本を再び焦土と化す。

 益々のめり込んで行く日米、高性能・高精密ミサイルの戦争で、此の"脆いガラスのような日本"が持ち堪えられる筈がない。なぜ日本は対外・近隣外交に平和外交を以て臨めないのか。偏に米国の所為ばかりとは云えない。日本の在り方自身が薩長藩閥政治の対外膨張・軍拡政策を脱し切れていないからだ。

 そもそも「安保条約5条が、尖閣諸島に適用されること」を米国に確認し、中国にメッセージを伝えること自体が、既に“領有権の問題が存在する”ことだ。
 そう、日本は明快に領土問題を中(台湾=中国台北)・ロ・韓国(北朝鮮)との間に抱え込んでいる。
 米国が他国の係争中の主権問題に"自国民の血を流す"と思うのか、せいぜい中立的立場をとるだけであろう。

 仲間食いをする米国を全面的に信頼できるのか。今次の会見でも、またもや確認せざるを得ない曖昧模糊の"尖閣諸島"への安保条約5条の適用だ。日米同盟の更なる強化などとも云うが、投資は、駐留経費の負担増と同様、米国に強いられての事だろう。骨の髄まで日本は米国にしゃぶられる。

 「政治家や有識者と呼ばれる人々は『日米同盟』が虚構であると知っていながら『日米同盟が基軸』とお題目を唱え続けている。日米地位協定に見る通り実体は米国支配下の植民地なのだ。米国は先の世界大戦の戦利品である日本を手放さず、徹底的に米国の利益のために利用している。食料自給率が下がり続けているのは米国の要請で貿易自由化を進め、政策的に食料輸入を拡大して日本農業を弱体化させてきたからだ」。(長周新聞 2022.01.10 米国隷属が招く食の危機 食政策センター・ビジョン21 安田節子)

 そう、「日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中」とは、捏ち上げで、日本国民を誑かすことではないのか。単に米国が日本を矢弾にし、後方に退く"危機を煽って儲ける"謀略の手の内ではないのか。若し米中が正規戦になれば、核戦争迄エスカレートするのに、多くの時間を要さない。核戦争に生き残るには、ある程度まで国土の面積が物を言う。

 そのような戦争を幾ら愚かな米国でもやらないと思うが。それも台湾や尖閣諸島の争奪戦に参戦してである。考えられることは台湾も日本も精々武器の補給を受けて自国民の血を流す戦争となる局地戦という訳だ。米国は洒落込んで<高みの見物>という訳だ。
 そして頃合いを見計らって仲裁に出る。

 朝鮮戦争の一端の経緯を見る。

 「条件の組合せひとつで、世外大戦と朝鮮撤退は必然になったかもしれない。もしもマッカーサーが満州を爆撃すれば、ことに彼が原爆の使用を許されるようになれば、中国との戦争が起り、さらにほとんど確実にソ連との戦争も起ったであろう。そうなれば、朝鮮にいる軍隊は袋のネズミだ。満州爆撃を実行するつもりなら、まず朝鮮から軍隊を引揚げておく方がよいわけだ。」

 「スタッセンは、こういう事情にかんがみ中国軍に対し四十八時間の期限つきで無条件降伏の最後通告を出すべきであり、もし中国側が同意すれば調停がおこなわれるが、もし同意しない揚合には、最高司令官は『朝鮮ないし中国のあらゆる軍事日標をあらゆる方法で攻撃することにより』これに報復することを許さるべきだとのべたのである。その場合、原爆の使用も含まれるかとの質問に、彼は『あらゆる方法で、あらゆる軍事目標を、といったが、それには何でも含まれる』と答えた。そして、空爆と封鎖を補充するため、『ダグラスーマッカーサ元帥に指令を出して、長い目での攻撃のため、できるだけ整然と朝鮮から地上軍を撒退さすべきだ』とつけ加えた。」(『秘史朝鮮戦争』ストーン著 228-229頁 1966年12月1日再版発行 青木書店)

 米国、ウクライナから、駐在米大使館職員の家族に避難命令を、日本も米国に釣られて出国を強く勧める。米国、ウクライナでは今のところ、はったりをかけている。が、余りにも執拗にロシア侵攻の脅威を煽るので、ウクライナのゼレンスキー大統領、平静保つ必要性訴える。そして、「ロシア国民はウクライナを相手にした戦争を望んでいない」(SPUTNIK 2022.02.02)と。欧米諸国の危機の高まりに当のロシアは否定する。にも拘わらず、米軍・NATOも増派などで、緊張を高める。
 そして極め付きは侵攻(侵略)の"事実"、つまり、何れが"正義面"できるかという、ディスインフォメーション(偽情報)のでっちあげに至る。そして、恐らくは先に流した方が"フェーク"の作り手なのだろう。いずれにしろ、斯様な偽旗作戦は眉唾ものである。事実はその内露顕する。

 そして、メディアは<一犬虚に吠ゆれば万犬実を伝>えてくれるからだ。その様なメディアの使い方は米国の十八番である。

 つまり、自軍は日本周辺或は朝鮮・グアムからも遠く引き上げるか。そして、核の引き金を引くという交渉に出るか。これは米国にとっても賭けである。その際米本土の被爆か日本の割譲か、勿論台湾は本来中国のものであるとされるから、賭金の対象とはならない。
 恐らくロシアも参戦するだろうから、各国とも二正面、三正面の攻防となる。やはり緒戦での核攻撃(含む戦術核=意味のない区別である)で、勝敗は決まる。

 しかし、如何なる戦争を日本は想定しているのか。ただ米国に追随するだけの戦争突入なのか。

 さて、注目したいのは、いずれの上記の引用で、"満州爆撃を実行するつもりなら、まず朝鮮から軍隊を引揚げておく方がよい"、"できるだけ整然と朝鮮から地上軍を撒退さすべきだ"の点だ。
 当然、其処には朝鮮半島に残る民・兵への配慮はない。自国(同盟=遠征側)本位である。

 もし万が一の場合、米軍、尖閣諸島奪還等のために共に訓練を積んだ米(西側)兵が<人っ子一人いない>という状況が生じた場合、つまり、彼らはより<安全な場所>に避難する訳だが、どうする日本。
 考えられることは只一つ、即白旗を上げることだ。

 又もや"本土決戦一億総玉砕"と云うか。否、端から本土決戦なのだが。決して戦争は大陸の地で遂行され、国民は銃後でというような悠長な話ではない。米中の間での緩衝国でもなく、正真正銘の当事者なのだ。
 国民が自衛隊と背中合せで縛り付けられ、同時に戦争の渦中に頭を突っ込むことになる。否応無しである。当然、スマホのやり取りなども禁止・不可とされる。四畳半の部屋に閉じ込められ、其処に爆弾がさく裂するような事態となる。

 いずれにしても日本は米国を核とする西側派、地域の不安定を“利益”と看做す、非建設的な体制を構築している。それも新たに中国をターゲットとしてである。ハッキリ言うと、今や欧米派は劣後国家となりつつある。
 其の大きな要因が、"米国主導の嘘=frame-up"のon paradeが、先ず自国を台なしにし、他国に悪影響を及ぼしている。日本はその毒の影響下にある。

 そう、辛うじて朝鮮戦争では次のようなことで、更なる大悲劇は避けられた。

 「朝鮮からの撤退と満州爆撃をほのめかしたまさにその日、ワシントンでは別な決定が下されたようであった。トルーマン=アトリー会談に関するこの日のニューズは、国連軍部隊が実際に海に追い落されないかぎり、朝鮮からの撤退はないと報じたのである。これは少なくとも当分の間は、マッカーサーが満州爆撃の許可を得られないという意味であった。」(同上『秘史朝鮮戦争』228-229頁)

 しかし、米国、朝鮮戦争当時の時代とは相違して、核爆弾で脅し落し前をつける訳にはいかない。中国も核を保有する。そしてロシアも、壊滅的な報復措置を仄めかす。

 あるいは想定されるのは小競り合い(skirmish)かもしれない。それも米国に遠隔操作された自衛隊ということになる。限定戦争の勃発である。ある意味では大国間の"ガス抜き"に利用される代理戦争である。それも出来レースであり、台湾は当然、尖閣諸島も完全に中国領有となるような、勿論、北方領土など二島どころか、全く口出し無用となる。

 小競り合いであれ、米国に操られ、積極的に諍い事を起こすようなことを、日本は絶対に為してはならない。思い止まるべきだが。

 <火に油を注ぐ>か、日本。

 米国は<いざと言う時>の言い訳は用意してある。

 つまり、それは、何んと台湾・尖閣諸島に関する"中国の言い分"を通すことだ。台湾は中国の内政問題、尖閣諸島は領有権問題ありで日本の施政権下にない、そして安保条約5条適用には米国内の手続き問題が残るという訳だ。
 北朝鮮、当然日本の味方とはならない。米国は北朝鮮がミサイルを発射しないように、即交渉する。誤って米本土を狙われたのでは<元も子もない>。

 北朝鮮外務省は声明で、「大半の国が対米折衝や、盲目的な対米追従により時間を浪費している現代の世界において、わが国は世界で唯一、アメリカ本土に到達できるミサイルの発射により、世界を震撼させることのできる国家である」と。(ParsToday 2022.02.09 北朝鮮が対米ミサイル攻撃を示唆)

 そうすると、台湾の蔡英文も、安倍元首相に煽られ掻き回されている一派も、米国の"策略の危機詐欺"にまんまと乗せられてキャッシュカードを渡し、"現金支払い機"になった。日本は過ぎし病的夢、中国大陸侵攻の<見果てぬ夢>を見る。

 国税を費消する最新鋭のステルス技術を施した"電子戦闘機"、本当に航空自衛隊が思いの儘に操縦可能なのだろうか。米国に"操縦桿"を握られていないと断言できるのだろうか。何しろ遠隔操作に長ける米国だ。バックドアどころか、正面玄関から堂々と指図されることにならないか。

 "鵜呑み国家"の末路は如何。

 先の林外務大臣の弁は、「ルールに基づく秩序を損なう中国」・「地域の平和と安定を更に損なう中国」・「日米間で、ルールに基づく秩序を損なう中国による取組」云々、米国が絡んでは<噴飯もの>、<臍で茶を沸かす>である。国際社会を観察すれば、明白となろう。
 試しに、中国を"米国"に、日米を"国際"と言葉を換えてみたらよい。一番相応しいのは、保証付きで米国となろう。米国は国際社会で"下手人"の立場となろう。

 さて日本、今や、国家防衛戦略も米政府の其れと同様のものを"コピペ"するほど、"国家戦略"を失くし、国の威信を投売り、属国化の道を突き進む。頭を使わなくて楽か。<楽は苦の種苦は楽の種>というではないか。金ばかりでなく、今後は血もふんだくられ、国民を苦境に陥らせる。この国でも人権・民主主義は喪失している。
 メディアの在り方も、そして何より政治家の性質も米国に酷似している。<焼け棒杭に火がつく>ように、権謀術数、欺瞞性、国民に強いる犠牲などは薩長そのものである。

 国民は<我関せず焉>である。日本も、コロナの陰で"自主崩壊"している。

 政治上も主権を有しない完全な属領としての日本、米国との一心同体を喜ぶという倒錯国家の日本、最早独立した主権国家としての矜持も捨て、米国に従う。

 日本は国民も国会も及ばぬ奥の院に鎮座する"日米合同委員会"が此の国の真の実力者である。つまり、米国という侵入者=invaderが此の国を制御する。執拗に日本列島に狙いを付けてきた結果である。

竜馬に小栗が云う。
「ついでがあったら、そやつにいうておけ。おれは外国から金は借りても国は売らん。日本国を亡滅させぬために、造船所をいそいでいるのだ。薩摩や長州のように、イギリスに頭をさげて武器をせっせと買うて、日本の国うちで戦争をおっぱじめるような馬鹿こそが国を滅ぼすのよ。それこそ、イギリスの思う壷というものではないか」(『ジパングの艦下巻 小栗上野介 国家百年の計』吉岡道夫著2001年10月19日発行 光人社 189頁)

 そう、所謂薩長による"明治維新"は、倒幕が一部始終であつた。それは形態としての幕府組織たけではなく、徳川幕府三百年の真の果実としての"知の空間"をも踏みにじり、喪失させてしまった。

 知の空間とは、生きるものへの眼差しを向ける場であり、公私人の生き方を問う場でもあり、そして何よりも知を醸成し形作りする場であった。

 斯様な知性・礼儀が海外、特に米国で際立った時があった。

 「『役人達は、日本人が黑奴と呼ばれたる事を報告したり。又同時に、彼等一行中の一人をその馬車より引き出さんとの企てがなされた事も確められたり』
 かうした理由なき侮辱、更に野蠻なる蔑視の中にあつて、日本使節團は、如何なる態度を持してゐたか。公論は敵側より出る。アメリカの論者の傳へるところを、抜いてみる。

 『到る所、彼等に附き纒ひ、凝視し、侮辱する所の群集を知る。最も滑稽なる事は、吾々が日本人に付て彼等が恰も野蠻人か未開人なるかの如く話すことである。然し日本紳士たちが、何の國又は何の時代に於ける何の紳士等と同じく、十分に威嚴あり、才智あり、躾よきことに付きて知るべきである。野蠻的未開的行爲は全く我々の方にあつたのだ』(スタイナー)

 千里に使ひして、日本の國威を墜さざるやうに、わが使節はみな相戒めて自重したのである。夷狄の町人共が、何を罵り騒がうが、彼等にとつて、何等歯牙にもかける必要もないのだ。彼等はただ、國家の恥辱になることを、最も恐れ、且つ愼しんだのである。

 大統領に面會する時、村垣淡路守は、
『かかる胡國に行きて、皇國の光りを輝かする心地』
 と云つて昂然としてゐるが、現代の日本人にとつて、かうした氣慨と自尊心ほど大切なことはないと思ふ」(『明治史話 ―事件と人物―』菊池寛 著 遣米施設物語三九-四十、四一頁)

 喜び勇んで就任もしていない次期大統領に会う。品格は彼ら国を背負う覚悟の使節程には無い。
 此の調子者の先の首相、自己の政治信条など皆無に近く、人間の権利や尊厳を尊重するなど<薬にしたくても無い>というわけだ。

 が、<狡兎死して走狗烹らる>の憂き目に会わないという保証はない。

 其の知性の破壊を為した薩長は掌を反し、強いものに靡き、欧米化に勤しむ。此処に経綸なき国家の誕生である。大局観無しの局面弥縫策国家、手前味噌の希望的観測国家、民の犠牲を大にし無謀な戦争を仕掛ける夜郎自大国家である。
 その挙句の果てが、維新後70年余にして後の徹底的な敗戦であった。しかし、此の民の犠牲を強いる道理にはずれた行為の脈絡は、現代あって猶も通奏低音となっている。

 狂った米国が民主主義、自由・人権・人道を口の端に掛けるとき、本来一元で無差別である世界を二元の争いの場にする。政治が知性を喪失したことにより生じる。

 同じ空を飛ぶといっても、其の飛び方、形姿は様々なのだ。が、鴨の脚を継ぎ足し鶴の脚を切断しなければ、同じ空を飛べないと言い張るのが、"民主主義という価値観を共有する国々のルールのようだ。
 そう、民主主義・自由の価値観は多様性を受け入れることが出来ないという偏頗で矛盾に満ちた価値観なのだ。
 鴻大な自由・民主主義の真理に大きな穴をあける木食い虫のような存在が、同じ価値観を強調する欧米西側一派の知性不足の政治家達なのだ。

 米国は智慧が無く腕力だけの国となり。米国に追随する日本は智慧も力も無く、只<螻蛄の五能>・<夜郎自大>の国となる。中国は智慧もあり力も有る国となる。

 そう、米国の力も衰えが見えてきた。他国の<足をすく>ったり、<足を引っ張>ったりするだけでは、真の実力は得られない。
 この差が生じた理由は、民主主義を唱えるなら一番肝心なこと、偏に民の生活への実質的思いやりであり、其の為の政策行動であることを忘れ、他国批難、侵略、殺戮等に明け暮れていることによる。

 民主主義、自由主義、人権擁護等の長久の大河の中へ汚物を大量に流し続け、生きとし生けるものを窒息させる米国が何をか云わん。民主主義国家の実質も無く、声高に唱え他国を毀損するのに利用するだけの民主国家では崩壊しかない。

 広大中正の民主主義に傷をつけ、挙句には国策的偏狭・放縦・謀略・讒言を以て、貧富の格差・人権無視を解き放す。

 「アメリカがどれだけテクノロジーや文化の面で先進的な社会であるとしても、その他の分野では依然として遅れている」と、ノーム・チョムスキー氏(ParsToday 2022.01.18 米思想家チョムスキー氏、「米は『ソフトなクーデター』に遭遇」)

 米国は世界のどの国とも仲良くなれないという、不信感を内在した国である。
 例えば、林芳正外相の云う、"自由.民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値や国際秩序が厳しい挑戦にさらされている"との認識は、誰が挑戦しているのか。
 はっきり言えば、挑戦にされているのではなく、誰が破壊しているかを問うべきであ。そうすれば、米国であるとの確信が直ぐに得られる。日本が先ず諌めるべき相手は盟主と仰ぐ米国である。

 日米同盟の抑止力が日本の平和と安全に寄与することなどは、先ず在り得ない。却って冒険心を醸成するだけである。つまり、<蟷螂の斧を怒らかして隆車に向かふがごとし>の"或る一派"を暫し勢い付かせるだけである。

 大体に於て「自由で開かれたインド太平洋」の実現というが、今、自由で開かれていないのか。其処をハッキリすべきである。また鸚鵡返しのように、南シナ海を巡る問題で、緊張を高めているというが、煽っているのは日本であり、米国であるという認識はあるのか。台湾海峡の平和と安定を願うなら、余計な容喙は無用である。

 以前には、「中米は多くの分野で明らかに利益を共有し、対抗、競争と協力が併存し、かつ対話によって誤解を減らすことを望んでいる。また、米国は『一つの中国』をずっと支持していく」と強調もしている。国なのだ。(人民網日本語版 2021.05.06 ブリンケン米国務長官、「『一つの中国』政策を支持」)

 あの香港の暴動、或はカザフスタンの暴動等、日本で起きた時の対処は如何にする。否、先住民の子どもの無名の墓が新たに数十基見つかったカナダ、ワクチン反対トラックデモで初の緊急事態法発動である。

 米国の連邦議会襲撃事件(2021.01.06)を見よ。米国自身が恥ずかしげもなく、民主主義、法の支配維持を叫ぶ有様なのだ。米国は反面教師となった。

 世界的視野も持てず、世界を二項分断に導く遣り方は最早通用しない。

 対岸の暴動は自由であり、民主主義の発露と捉え報道する。が、例えば、日本の刑法は以下に定めを置く。
 (内乱)
第七十七条 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。
三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。

(予備及び陰謀)
第七十八条 内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。
(内乱等幇助)
第七十九条 兵器、資金若しくは食糧を供給し、又はその他の行為により、前二条の罪を幇助した者は、七年以下の禁錮に処する。
(自首による刑の免除)
第八十条 前二条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する。

第三章 外患に関する罪
(外患誘致)
第八十一条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。
(外患援助)
第八十二条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。
(騒乱)
第百六条 多衆で集合して暴行又は脅迫をした者は、騒乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一 首謀者は、一年以上十年以下の懲役又は禁錮に処する。
二 他人を指揮し、又は他人に率先して勢いを助けた者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。
三 付和随行した者は、十万円以下の罰金に処する。
(多衆不解散)
第百七条 暴行又は脅迫をするため多衆が集合した場合において、権限のある公務員から解散の命令を三回以上受けたにもかかわらず、なお解散しなかったときは、首謀者は三年以下の懲役又は禁錮に処し、その他の者は十万円以下の罰金に処する。

 林芳正外相、新疆ウイグル自治区の人権状況も懸念すると云うが、何処からの確証ある情報で物を云っているのか。日本国自身が中国で調査した結果なのか。ならば国民に具体的に教示して欲しいものだ。或いは中国当局と話し合うべきだ。又聞きのような話、或は米国の思惑ある垂れ流しを其のまま右から左へでは、中国の言い分と論理的に嚙み合うことはない。

 林外務大臣会見記録(令和3年12月24日)での「日米同盟を基軸に、世界の日本への信頼と3つの強い覚悟、こういった、普遍的価値を守り抜く覚悟、我が国の平和と安定を守りぬく覚悟、地球規模の課題に向き合い国際社会を主導する覚悟を持って、対応力の高い、低重心の姿勢で、国益を守り抜く毅然とした外交、安全保障を展開し、「自由で開かれたインド太平洋」、これを強力に推進していきたいと考えております。この低重心という姿勢は、リアリズムということにも繋がっていくのかなと考えています」と。

 この"低重心という姿勢"も、"新時代リアリズム外交"に繋がるということも、意味不明である。

 ならば、日本の抱える問題は米国に武器を押し付けられ国税を費消する事でなく、中国・韓国・北朝鮮等と、すべて相手との"平和裏の話し合い"でしか解決しないことを先ず認識することが、リアリズムであり、アメリカに低重心を置いた外交でなく、均衡の取れた善隣外交を展開するのが、北東アジア並びに世界平和外交の基本ではないのか。

 常に近隣諸国との摩擦を紡ぎ出す外交の<遠交近攻>策では足もとも覚束無い。拗ねた思考では米国と同様、国民にとっても碌な事にならない。

 頼みとする同盟の米国、世界的視野に立った建設的な政策も皆無、唯々世界を勝手気ままに米国の覇権・一部の者の利益のために、利用しまくり荒廃させる。その結果が自国にまで跳ね返り今や、死者の国・欺瞞の国に成り下がっている。それでも他国の批難に明け暮れる見下げ果てた国である。

 口から出るのは、協調皆無で国際社会を争いの場に陥れる詞に限られる。

 民主主義が衰弱し、危殆しているのではない。民主主義を利用する愚かな政治家(屋)の腐敗ゆえに、起きている現象である。

 「この20年間で米空軍とその同盟国は33万7000発以上の爆弾やミサイルを他国に投下してきました。これは毎日平均46回の攻撃を行ってきた」(ParsToday 2022.01.12 米は過去20年間で世界最大の破壊者)と。

 いまや"黄泉の国"と化す忌避すべき米国、新型コロナウイルスによる死者數は100万人に近ずく。更に銃撃で毎年数千人が死傷、加えて最近の竜巻の死者数が88人、他120人余の人との連絡が未だ途絶えている。米国には死のイメージが付いて回る。もちろん此れは米国内でのことである。更に謀略・権略・侵略よる他国人の死が重なる。

 その大量死(云わばジェノサイド=genocide)の米国、中国の防疫政策に難癖をつける。しかし中国は言う。「中国の防疫政策は国民の生命と健康、経済・社会発展を力強く保障し、その成果は過去2年間で検証されている。14億以上の人口を擁する大国である中国が、最少の社会的コストで最大の防疫成果を収め、感染拡大による医療崩壊を防ぎ、経済と社会への打撃を最小限に抑えた」、「『中国が現行の感染防止・抑制戦略を堅持し続けるかどうかは、世界的な感染状況の趨勢、ウイルスの変異状況、重症化率の変化、中国におけるワクチン接種率などの要因によって決まる』」(人民網日本語版 2022.01.13「中国の防疫政策によるリスク論」は政治的偏見に満ちた憶測)と、極めて冷静な対応をする。

 14億余の民を有する中、4874人の死者数、感染者数12万7796人(2022.02.18)に抑え、努力を続けている中国を、3億3千余の国で死者数100万にのぼろうとする国が、けちを付けるとは言語道断ではないか。学ぶべき手本ではないのか。1.258億人の日本も同様である。死者数、20,986人、感染者数4,155,027人である(2022.02.16現在 アワー・ワールド・イン・データから)。

 現実直視を避ける米国、何ともまあ、落魄の身を曝すものだ。中国を誹謗中傷しても自国の問題は解決しない。哀れを誘う。馬鹿げたことである。

 嘉永6年6月(1853年7月)以来である。

 「『吾々にあつては、特異にして孤立した人民を文明國と親しませようとする吾々の企圖が、流血の惨事なしに成功するやうにと神に祈つたがためであると解されるだらう』と。」(『ペルリ提督 日本遠征記(二)全4冊』196頁)

 「晝の間に艦隊中の各艦から一艘づゝのボートを派遣して、浦賀灣と浦賀港とを測量させた。これを見た奉行は何をしようとしてゐるのかと訊ねた。港を測量してゐるのだと答へたとき、奉行は、かゝる調査を許すことは日本の法律に違反するものであると語つた。これに對しては、アメリカの法律の命ずるまゝに行ふのであり、貴下が日本の法律に從ふが如く、アメリカ人はアメリカの法律を遵守すべき義務を有するのだと答へた。『これは吾々が成就した第二の重要な點であつた』と提督は述べてゐる。」(同上書199頁)

 そう、日本に対する脅迫・傲慢外交の走り、ペルリだ。この引用した部分、現在の米国のあり方が如実に読み取れる。
 「特異にして孤立した人民を文明國と親しませようとする吾々の企圖が、流血の惨事」云々では、手前勝手の狭い料簡、人権・民主主義等の名の下に他国に介入、侵略する米国が、そして、「アメリカの法律の命ずるまゝに行ふのであり」は、米国内法に基づき、事実無視の<我田引水>で、他国などを制裁しまくる、今の米国に照応する。

 世界に支配者は必要でない。民主主義に君臨する者は必要でない。異なる制度があってもよい。そして何よりも世界は米国の為に在るのではない。

 米国は、人権・民主主義を云うものの、他国の民主・人権は排除し、侵略を以て殺戮為尽し、策謀による他国政権の転覆を繰り返し、更に意に添わないと、国内法による経済制裁などを人道・人権・世界経済への影響を無視し、独断的に発する。国際社会を軍事力で脅し牛耳るという、無理無体を通す、覇権国家そのものだ。既に制裁そのものが違反である。

 米国の何処に人権が、どこに民主主義が存在するというのか。
 米世論調査の結果でも、「米国人の58%が、自国の民主主義が崩壊の危機にあると」と(ParsToday 2022.01.13 米世論調査で、58%が米民主主義は崩壊の危機にあると回答)。

 「習主席がダボス会議での演説で示した立場は、常に世界が直面している試練とつながっている。習主席がわれわれのプラットフォームで全世界の協力を提唱するという一貫した立場を継続的に発信していることに、大変感謝している」
 「習主席が2017年のWEFの演説で言及した人類運命共同体の提案は、後に国連安保理決議に盛り込まれた。中国が最近打ち出した共同富裕も同様に世界から注目されている」
 「中国は、過去5年間で経済が大きく発展し、コロナ禍への対応においても大きな責任を担ってきた。中国の経験は世界的課題を解決するうえで大いに参考にすることができる」(CRI 2022.01.19 WEF創設者シュワブ氏「中国の経験が世界的課題の解決の参考になる」)

 これが世界の良識ある人々或いは国家の見解なのではないか。軍事・経済・金融力を翳しての制裁主義や一国支配体制は世界の人々に何の幸せも齎さない。

「新年早々、アジア太平洋地域の人々が平和と安定を待ち望む中、日豪首脳によるテレビ形式の会談と、日米の外務・防衛の閣僚協議、いわゆる『2プラス2』がオンライン形式で相次いで行われた。冷戦思考に満ちたこの二つの会談で、米国は同盟国の日豪を集めてうそをまき散らし、武力をひけらかし、他国の内政に干渉し、地域の平和と安定に暗い影を落とした。

 日豪が6日の会談で署名した防衛・安全保障分野の協力強化に関する『円滑化協定』は中国国内の問題にあれこれ口出しするもので、日豪は、米国におとなしく従う先鋒として米国とぐるになって、南海の平静な局面や台湾海峡の友好的な局面をかき乱している。

 日米は7日の2プラス2で日米同盟の重要性を強調した上で、いわゆる『中国の脅威』に対処するため、軍事技術を共同で研究開発するための新たな協定に署名したことを発表したが、それは自らの軍事力増強のための一貫した口実にすぎない。日米同盟は冷戦の産物であり、防衛費を絶えず増加させている両国は、アジア太平洋地域で一体何をしたいのか。

 他にも、米英豪は原潜協力を発表して、核拡散と地域の軍拡競争のリスクを高めている。日本は福島原発の放射能汚染水の海洋放出を強行し、地域の生態環境と人々の健康に危害を及ぼしている。日米豪の合同軍事演習も絶えず行われている。こうした一つひとつが、日米豪などによる「小さなサークル」が地域の平和と安定、安全を損ねていることを示す動かぬ証拠であるとともに、そうした国々が口々に言う『自由で開かれた包容力のある』がでたらめで偽りであることも裏付けている。」(CRI 2022.01.09 【CRI時評】アジア太平洋地域にとって誰が「脅威」なのか )

 中国は7日付で、次のように申し入れをする。

 「日米はいわゆる『ルールに基づく国際秩序』を標榜しながら、ルールは公認の国際法に基づかなければならないという点は受け入れておらず、偽のルールを名目にして、実際には覇権行為をしている。世界には一つのルールしかない。それはつまり、国連憲章の趣旨を基礎とした国際関係基本準則だ。日米には国際秩序を定義する資格はないし、ましてや自分たちの基準を人に無理やり押し付ける資格もない」

 「台湾地区や新疆、香港地区などの事は完全に中国の内政であり、中国の主権と領土保全に関わり、いかなる外部による干渉も許さないし、外部の人がみだりに手を出すことも許さない。釣魚島及びその附属島嶼は中国固有の領土だ。日米が何を言い、何をしようとも、釣魚島が中国に属するという客観的事実は変わらない」

 「中国側の海域関連問題についての立場は一貫した明確なものであり、領土主権と海洋権益を確固として守っていくと同時に、対話と話し合いにより溝を解決し、関連海域の平和と安定を守るよう努めていく。海域関連問題でもめごとを起こし、紛争を挑発し、緊張をあおっているのがいったい誰なのかについては、国際社会はおのずとその答えを知っている」

 「日米同盟は二国間関係であり、本当であれば自分たちの事をしっかりと管理するべきであって、第三国を念頭に置くことばかりを考えるべきでないし、ましてや第三国の利益を損なってはならない。日米はしきりに自由で開かれたインド太平洋を守ると言っているが、その実態は冷戦思考に固執し、イデオロギーで『小集団』を作り、政治的対立をあおるもので、完全に時代の潮流に逆行している」

 「中国側は日本側に対し、二国間や多国間の場を利用して中国に関する問題をあおり、悪意をもって中国を中傷し、中国側の利益を損なう間違ったやり方をやめ、中日関係の発展にとって新たな問題をもたらすのをやめて、両国関係の大局を守るという正しい態度を実際の行動で示すよう厳粛に促す」  と、以上である。(人民網日本語版 2022.01.07 日米「2プラス2」開催と中国に関する共同声明に中国が厳正な申し入れ)

 最後などはハッキリ言えば、米日とも、<頭の上の蠅を追>え、ということだ。米国同様劣化している西側諸国の政治家は、米国に煽られ半強制的に連なり、他国を貶すだけでは、現実逃避であり政治家としては最低である。それに何ら自国の問題解決に結び付かない。

 妬み深さで他国の<足を引っ張る>だけを露呈するだけだ。
 欧米西側には論理性も知性も今や欠けている。中国に対する誹謗中傷は空回りするだけだ。砂上の楼閣さえも築けない。何れ自国に跳ね返る。

 国際社会は見ている。

 中国も更に余裕ができたというか、真面目に相手するのが馬鹿々々しくなったというか、将又新たな言葉も憶えられないオウムの如き欧米諸国メディアを新たな角度から往なそうというのか、兎も角理屈の通らないバカに付き合うというか。ステレオタイプに複眼的な考察を加えようとするのか。それでも<児戯に類する>西側メディアをそれなりに扱うことには違いないか。中国はやはり奥が深い。

 「そうだ!今回は逆に、彼ら西側メディアの報道を紹介することに『協力』してあげましょう!」と(CRI 2022.01.08「【カンカンSHOW】新たな一年、でたらめな『中国攻撃』はもうやめたら?」)。

同盟であろうがなかろうが、"うざい"と思えるときには無慈悲に相手を切り捨てる、それが米国なのだ。驚天動地の"頭越し外交"を展開する。同盟国であるとの情緒纏綿に寄りかかるなど歯牙にもかけない。
 腰を抜かして倒れてしまった佐藤内閣に代わり、"コンピュータ付きブルドーザー"と呼ばれた行動力抜群の田中角栄首相、機を見るに敏なりで、即、"ブルドーザー"で日中の井戸を掘ったのである。中国では尊敬される政治家である。それが以下である。

 日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明

 日本国内閣総理大臣田中角栄は、中華人民共和国国務院総理周恩来の招きにより、千九百七十二年九月二十五日から九月三十日まで、中華人民共和国を訪問した。田中総理大臣には大平正芳外務大臣、二階堂進内閣官房長官その他の政府職員が随行した。
 毛沢東主席は、九月二十七日に田中角栄総理大臣と会見した。双方は、真剣かつ友好的な話合いを行った。
 田中総理大臣及び大平外務大臣と周恩来総理及び姫鵬飛外交部長は、日中両国間の国交正常化問題をはじめとする両国間の諸問題及び双方が関心を有するその他の諸問題について、終始、友好的な雰囲気のなかで真剣かつ率直に意見を交換し、次の両政府の共同声明を発出することに合意した。
 日中両国は、一衣帯水の間にある隣国であり、長い伝統的友好の歴史を有する。両国国民は、両国間にこれまで存在していた不正常な状態に終止符を打つことを切望している。戦争状態の終結と日中国交の正常化という両国国民の願望の実現は、両国関係の歴史に新たな一頁を開くこととなろう。
 日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する。また、日本側は、中華人民共和国政府が提起した「復交三原則」を十分理解する立場に立って国交正常化の実現をはかるという見解を再確認する。中国側は、これを歓迎するものである。
 日中両国間には社会制度の相違があるにもかかわらず、両国は、平和友好関係を樹立すべきであり、また、樹立することが可能である。両国間の国交を正常化し、相互に善隣友好関係を発展させることは、両国国民の利益に合致するところであり、また、アジアにおける緊張緩和と世界の平和に貢献するものである。

一 日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態は、この共同声明が発出される日に終了する。
二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。
四 日本国政府及び中華人民共和国政府は、千九百七十二年九月二十九日から外交関係を樹立することを決定した。両政府は、国際法及び国際慣行に従い、それぞれの首都における他方の大使館の設置及びその任務遂行のために必要なすべての措置をとり、また、できるだけすみやかに大使を交換することを決定した。
五 中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。
六 日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する。
 両政府は、右の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、日本国及び中国が、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
七 日中両国間の国交正常化は、第三国に対するものではない。両国のいずれも、アジア・太平洋地域において覇権を求めるべきではなく、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国あるいは国の集団による試みにも反対する。
八 日本国政府及び中華人民共和国政府は、両国間の平和友好関係を強固にし、発展させるため、平和友好条約の締結を目的として、交渉を行うことに合意した。
九 日本国政府及び中華人民共和国政府は、両国間の関係を一層発展させ、人的往来を拡大するため、必要に応じ、また、既存の民間取決めをも考慮しつつ、貿易、海運、航空、漁業等の事項に関する協定の締結を目的として、交渉を行うことに合意した。
千九百七十二年九月二十九日に北京で

 日本国内閣総理大臣  田中角栄(署名)
 日本国外務大臣  大平正芳(署名)
 中華人民共和国国務院総理  周恩来(署名)
 中華人民共和国 外交部長  姫鵬飛(署名)

 次いで人民網日本語版(2014年07月28日14:20)から「日本がポツダム宣言第八項を恐れる理由」を以下に引用する。

 「69年前の7月26日、中国、米国、英国はポツダム宣言を発表し、日本軍国主義に滅亡を告げた。世界各地がポツダム宣言を改めて振り返る中、日本国内にはポツダム宣言を抹殺する潮流が存在し、日本右翼勢力は長年にわたりポツダム宣言を敵視し、ポツダム宣言第八項に対して一種の恐怖感を抱いてすらいる。(文:賈秀東・本紙特約論説員、中国国際問題研究所特別招聘研究員。人民日報海外版コラム「望海楼」掲載)

 ポツダム宣言第八項は「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」とした。これは戦後日本の領土範囲を確定し、日本が盗み取った他国の領土を返還することを再確認したものだ。

 履行されるべきカイロ宣言の条項とは、「日本国ガ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト並ニ満州、台湾及澎湖島ノ如キ日本国ガ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコト」「日本国ハ又暴力及貪欲ニ依リ日本国ガ略取シタル他ノ一切ノ地域ヨリ駆逐セラルベシ」が自ずと含まれる。

 両宣言は長い文章ではないが、計り知れぬ影響を持ち、戦後の国際秩序を打ち固めた重要な原則であり、戦後中国が台湾の領有権を取り戻した国際法的根拠でもあり、かつ中国が釣魚島(日本名・尖閣諸島)の領有権を守るうえでの重要な国際法的基礎を構成する。ポツダム宣言やカイロ宣言といった国際的法的文書に基づき、日本に盗み取られた中国の釣魚島及びその附属島嶼(日本名・尖閣諸島)は台湾に伴い国際法上すでに中国に返還されたのだ。

 現在日本政府が「釣魚島は日本固有の領土」と再三公言しているのは、歴史を抹殺し、ぬけぬけとずうずうしいことを言う行為に他ならない。120年前の7月25日、日本は甲午戦争(日清戦争)を発動。翌年1月に秘密裏の閣議決定によって釣魚島を沖縄県の管轄に「編入」した。だがいわゆる「沖縄県」は日本が琉球併呑後に「廃藩置県」を行った結果なのだ。第2次大戦後、沖縄は米軍が占領。1971年の米日「沖縄返還協定」に基づき米国が日本に引き渡したのは施政権であって領有権ではない。つまりたとえ当時の米日二国間協定に基づいたとしても、日本は沖縄の領有権も得ていないのだ。一歩譲って、米日がサンフランシスコ講和条約と「沖縄返還協定」によってひそかに授受したのも、釣魚島のいわゆる「施政権」であって、領有権ではない。琉球(沖縄)の領有権ですら日本に属するのか否か改めて議論されるべきなのだから、日本に盗み取られ、不法に、秘密裏に「沖縄」の管轄に組み込まれた釣魚島の領有権については言わずもがなであり、「釣魚島は日本固有の領土」との主張は全くのでたらめだ。 ポツダム宣言とカイロ宣言に基づき、敗戦国である日本は釣魚島さらには琉球(沖縄)の領有権の帰属について発言できる立場にないのだ。戦勝国は日本の主権の範囲を明確に画定した。すなわち日本列島の本州、北海道、九州、四国の4島であり、他の島嶼に日本の主権が及ぶか否かについてはポツダム宣言第八項が「吾等」すなわち戦勝国「ノ決定スル」ものと明確に定めており、日本が一方的に決定できるものではない。

 従って、日本が口を開けば「釣魚島は日本固有の領土」と言ううえ、いわゆる「島購入」などの茶番を演じるのは、歴史的事実に反するのみならず、国際法上の基礎も欠くのだ。ポツダム宣言第八項と照合すれば、釣魚島の領有権が中国に帰属するのは明白で間違いがなく、琉球(沖縄)の領有権自体改めて議論されるべきであり、戦後の米国による日本へのかばいだてには何ら根拠がなく、国際問題で「法の支配」を強調する日本がかえって国際法に背いているのだ。

 ポツダム宣言第八項は鏡のように、日本がいかに歴史を歪曲し、回避しているかを映し出す。

 ポツダム宣言には重大な歴史的意義があるのみならず、歴史、領有権、安全保障の問題における日本の誤った姿勢のために、依然として現実的意義もある。ポツダム宣言の精神を再確認し、堅持することは、日本右翼勢力および日本政府の代表人物にとって急所を突かれるようなものだ。ポツダム宣言第八項を日本が恐れ、ポツダムで中国指導者の行った演説に日本政府が強く反応するのも無理はない。日本はポツダム宣言第八項を恐れれば恐れるほど、歴史の否認さらには改竄に懸命になる。これは一種の悪循環を形成している。

 このような悪循環に陥って、日本はいつ真の「普通の国」になれるのか?」

 話変わって、米駐日新大使ラーム・エマニュエル氏の弁。「2つの民主主義国家は共通の価値観を発展させるため、重要な局面を迎えている」、また「『中国はよき隣人ではなく地域の利益を発展させる存在でもない』と指摘して民主主義という価値観を共有する日米両国こそが地域の発展に貢献できることを示すべきだと強調」した。(NHK 2022.01.06 アメリカの新駐日大使 中国念頭に「日米共通の価値観を発展」)

 まるで言い草が、ペテン師のようである。それとも未だに日本は"12歳の少年"とでも思っているのだろうか。この大使の技量のほどが判るというものだ。

 "重要な局面を迎えている"のは、自損事故なのであり、中国の影響の所為ではるまい。"日米両国こそが地域の発展に貢献"云々などは否定はしないが、<引かれ者の小唄>であろう。"中国はよき隣人ではなく地域の利益を発展させる存在でもない"とは、狭隘で国際社会に争いごとのみをもたらす国家の妄言に過ぎない。噴飯ものを通り越して、憐れむべきである。

 民主・自由・人権の実現の仕方は一様ではない。

 米国の自由・民主主義は山師のもの<山師の玄関>、<一山当てる>がその実態である。

"The US-led NATO was born to be hostile toward Soviet Union and Russia, because it serves US hegemony and not regional peace. The organization doesn't care about Ukraine's security at all, so while Russia remains powerful then NATO won't stop its expansion. Maybe the more dangerous the situation is, the more interests the US can receive from the tension," said a Beijing-based expert on Russia and Eastern Europe studies who asked not to be named. (GT 2021.12.19 Showdown over Ukraine looms as Russia, NATO unlikely to reach deal)

 「米国主導のNATOは、地域の平和ではなく、米国の覇権に奉仕するため、ソ連・ロシアに敵対するために生まれた。この組織はウクライナの安全保障には全く関心がなく、ロシアが強力なままではNATOはその拡張を止めないだろう。北京在住のロシア・東欧研究の専門家(匿名)は、「状況が危険であればあるほど、米国は緊張から多くの利益を得ることができるのかもしれない」と語った。(私訳)

 米国は今、東北アジアに頻繁に"死の影"を映す。米国は<地獄の馬は顔ばかりが人>となり下がり、最早理性の欠片も失くし、中国などへの当てつけに"民主主義サミット"を開くも、何ら国際社会に訴えるものも、納得させることも出来ず幕を閉じた。
 元々"底意地の悪い目論見"で、民主主義や自由の良い面を照らし出すなどは有り得ない。却って民主主義を自由を貶めることになるだけだ。国際社会に米国の欺き等を見破る知力が無いとでも思っているなら、大間違いであり、<知らぬは亭主ばかりなり>となる。

 米国は連鎖的に下降する悪循環に嵌ったようだ。当然に同盟国等も道連れとなる。
 それに比例して、台湾を利用(22年環太平洋合同演習への招待等)しての"中国弄り"が度を増す。
 が、中国は此の愚昧な米国を如何に去なすかを、5000年の歴史を懐く大国として、貫禄を見せ付けたらよい。決して破落戸の誘き出しに乗らないようにすべきだ。

 中国には、世界が悲劇的な終局に至るのを止めて欲しい。

 2021年12月のバイデン政権初となる、ブリンケンの東南アジア訪問は中国に対抗するためである。彼は中国を中傷し、中国と東南アジアの間にくさびを打ち込もうとし、東南アジア諸国をワシントンの反中陣営に引き込もうとしたのである。しかし、この歴訪が東南アジア諸国に引き起こしたのは、共鳴ではなく、警戒である。東南アジア諸国を中国の敵にするのは、アメリカ自身の希望的観測である。また、同行記者の新型コロナウイルスの陽性確認で、あっけない幕切れともなった。

 疫病神のお出ましは願い下げである。

 他国に責任を押し付け、挙句制裁の連発では安易すぎ、結局は自らの首を締め付けながら米国は益々問題解決処理能力を失くす。

 「孟子がいわれた。『不仁者はともに語り合うことはとうていできない。なぜなら、彼らは危険な行為なのに安全だと思い、恐るべき災害なのに利益だと思い、自分の身の亡びる原因なのを知らずに楽しんでいるからだ。もし不仁者でも私たちとともに語り合うことさえできれば、[きっと過ちに気がついて]国を亡ぼし家を没落させるようなことは決してあるまいに。』」(『孟子(下)』小林勝人訳注 岩波文庫2001年6月5日第37刷発行26頁)

 そもそもが民主主義を"アメリカ教"の"お題目"化とし、対立する相手を折伏する道具とする米国に、民主主義や自由が存立しているなどは、今や都市伝説の類に過ぎない。人権なども同様である。人権を繁く口にするも、生命の尊重が失われているのでは、最大の人権侵害国となろう。

 それでも他国を対し人権を声高に言募るなど、駄駄っ子の言い種で、噴飯物と云いたいところだが、事が他国に害を及ぼし、それも世の中が米国中心に動いていると勘違いし、自省心も自制心も無くしているのでは、国際社会は斯様な米国を正気に戻す方策を、国連の場で検討すべきである。

 米国は理性を失っている。<尾羽うち枯ら>した米国が、世界を壊滅的状況に陥れる前に。

 アメリカの有事は日本の有事たりえるかも知れないが、逆に日本の有事がアメリカの有事に即なるかについては錯覚であり、眉唾ものである。

 おそらく日本の有事に託けての"安倍晋三元首相"と"岸信夫防衛相"の"有事望"なのだろうか。そう、若しかすると、"散々な目に遭う"のは日本かも知れない。

 その時、幾ら"逃げ足の速い"安倍氏でも、米国傀儡政権のガニ大統領のように脱兎の国外逃亡は期待できまい。
 否、問題を起こした張本人として中米両国から犯罪者扱いされるかも知れない。
 米国は得意の"両義性"と"責任転嫁"で、普段の言動から安倍氏を捉え、"戦争首謀者"として、"平和に対する罪"で、中国の法廷に引き摺り出すかも知れない。

 安倍晋三元首相の「台湾有事は日本有事である」の発言に対する中国の抗議へ、「一国会議員に注目してもらい大変光栄だ」と。軽薄子である。

 「外交部の趙立堅報道官は6日の定例記者会見で、『日本のある政治家は自分の誤った言動を恥じるどころか、誇りに思っているようだ。これは、彼らの認識に問題があることを、改めて露呈した』と述べた。」(CRI 2021.12.06 安倍氏、中国台湾を巡る発言への中国の抗議を「大変光栄」中国はこれを非難=外交部)

 民主主義を御旗に、陰険な権謀と軍事力を以て中国を倒そうとする米国の手合と相似形、まるで錦旗を陣頭に振り翳し、江戸幕府を倒した薩長の如くか。

 核カタストロフィの撃鉄を起こすという想像力も欠如した他力依存型の<螻蛄の五能>ぶりである。

 「隣人は選べるが、隣国は選べません。「徳は孤ならず、必ず隣あり。」中日両国人民が心 から友好的で、徳をもって隣り合いさえすれば、必ず末長い友好を実現できるでしょう。
中日両国は共にアジアと世界の重要な国であり、両国人民は勤勉、善良で、知恵に富んでいます。中日の平和、友好、協力は、人心の向かうところであり、大勢の赴くところです。」(2015 年5月23日 日中観光文化交流団訪中に際しての習近平演説)

 志士と浪人などの一派は、現実を無視した空疎な臆断と一種の狂信によって、幕府の国策を破壊せんとするものであった。当然の如く鎖国や攘夷の主張や行動は敗亡した。

 斯くて『舊來の陋習を破りて天地の公道に基』づき、『廣く知識を世界に求めて皇基を振起す』べく大に努力したのであるが、世界の事情に明くなればなる程、萬國に通ずる純理なりと信じて居つた國際法が怪しく觀へで來る。結局は理論で無くて國力であるといふ方へ考が飛ぶと、今度無暗に外國が偉らくて怖くなる。嘗ては禽獣視して彼等が來れば神州が汚れると迄憤慨して居つた外人に對し、今は文化國の優等民族として三拝九拜、唯是れ及ばざらんことを虞ふるのみである。其昔し槍を提げた鎖港攘夷の志士と、鹿嗚館裡に外人とダンスに興ずる紳士と同一人であろとは殆んど信ずべがらざる程の變りやうであるが、夫れ丈け我國の進展は急激なものであつた。斯ふなると富初は憫むべき未開國として寧ろ温情的に國際法に準據して導いて居つた列國も今度は生意氣なる半可通の國なりと目し侮蔑的の限を以てその鋒釯を露はし來つた。國際法は基督教國間の承認に依りて行はるとの原則は、國際法は基督教國以外に行はれぬとの解釈なりと爲し白人の本音を露骨に發輝し來つた。それは排日問題以上の大問題であるにも拘はらず冷静なるべき學者迄が當然の學説として臆面もなく麗々しく主張して居る。これを見た日本人は攘夷説當時の意気込を以で憤慨するか、思ひきや、時勢は夙に幾變轉して居る、文化國の學者の説であるから尤ではあるが、どうも少し腑に落ちかぬるといふ位の反尊説あるが、さりとて起つて堂々と挑戰するの勇氣は無い、否その勇気はあつても、これを辯駁する丈けの資料が無い。維新の元勳ともいはるゝ大政治家連も歐米各國と尊等になるには彼れに同化せねばならぬとて盛んに歐化主義を鼓吹して居る時勢では、學者だとて彼の學説に盲従せねばならぬ苦しい羽目となる。といふのが明治中期の有樣であつた。世界の第一等國として宇内に濶歩する今日の我國情から考ふると眞に隔世の感がある。(『国際法より觀たる幕末外交物語』尾佐竹猛 著 文化生活研究会, 1926 2-3頁)

 「世界の第一等國として宇内に濶歩する今日の我國情から考ふると眞に隔世の感がある」と。果たして、1946年10月に他界した尾佐竹猛は歴史の遷移を、如何様に脳裏に去来させたであろうか。

 「ブリンケン国務長官によると、米国は世界をより自由で相互に連携したものとすることを目指していると主張した」、更に「国際社会のシステムをロシアと中国による覇権争いから防衛する用意がある。アントニー・ブリンケン国務長官が発言」。(SPUTNIK 2021.12.22 バイデン時代の米国、覇権争いから露中を退ける=米国務長官)

 中国とロシアも当然にして、国際システムに組み込まれているのではないのか。なぜ国際システムが覇権争いから防衛する対象と看做されるのか。米国は意味不明の言葉を並べているだけではないのか。誰が覇権争いをしているというのか。少なくとも中国は恒言として、覇権を求めないと。だとしたら、独り呑込みしているのか。

 現地取材もせず、最低限の常識と知性を欠く日本のメディアの多くは他国への反感を醸成・指嗾するだけ。サブリミナル効果を狙うか。

 「中曽根氏は、事態は切迫し、戦争のおそれが高まっているとして『日本は平和国家として平和的解決のために努力したい。憲法改正などもしていないし、自衛隊を戦闘に参加させるものではない』などと述べ、日本は軍事行動に加わらないと明言しています。」(NHK 2021.12.22 中曽根元首相の “交渉術” 外交文書で明らかに)

 しかし、現在の平和をかなぐりすてるような日本、もうこのような交渉は不可能に近い。むしろ、米国と一体故、標的となるか。

 国際社会は何時迄、アメリカの"付け"を払い続けさせられるのか。此の放蕩無頼国家を国際社会は制御することが出来るのか、否、しなければならない。できなければ、世界は阿鼻叫喚の巷と化す。

 他国の発展を嫉妬し、他国の足を引っ張り、国際ルールを守れと言い募るも、それは自国が勝つ如何様ルールであり、気に入らないと軍事力を背景に嵩に回り、一方的な制裁と批難を投げつける、典型的な暴君であり、覇権・権力政治の国家が米国である。

 相手国に自国の姿を投影し、その影に怯え喚く病的国家、米国。正気に戻るのだろうか。

 我々は如何なる世界を求めているのか。自問すべきではないのか。

 王道は成るか。此の乱世に。

 「忠孝仁愛教化ノ道ハ政事ノ大本ニシテ、萬世ニ亙リ宇宙ニ彌リ易フ可カラサルノ要道也、道ハ天地自然ノ物ナレバ西洋ト雖モ決シテ別無シ、」(『西郷南洲翁遺訓及遺文』五頁)

 北京冬季五輪の開会式を観れば、単なる演出だけというには、世界を抱擁する慈しみが溢れていないか。
 しかし、米国はけちを付け捲る。

 『長安の月 寧楽の月――仲麻呂帰らず』の「あとがき」にある、著者松田鐡也氏の言葉に深い感銘を受けた。ここに引用させていただく。

 あとがき (688-690頁)

 奈良朝時代の遣唐留学生阿倍仲麻呂の生涯を物語風に書いて見た。出来るだけ史実によったつもりだが、かなりフィクションもある。その理由は古い時代の話で歴史資料が極めて乏しいこともあるが、一つには仲麻呂を生きた人間らしく書きたかったからである。
 千三百年の遠い昔十九歳という若さで海を渡り唐国に学んだ一人の留学生の生きざまを書きながら、筆者は幾つかのことについて感謝と反省を新たにせざるを得なかった。
 その一つは中国及び朝鮮半鳥に興亡した諸国に対する感謝である。日本がアジア東端の孤島で営んでいた未開野蛮の生活から次第に脱却して、文化文明の恩恵に浴することが出来たのは、ひとえに大陸と朝鮮半島からの物質精神両面の文明文化の伝来のお蔭である。稲の作り方から蚕の飼い方、機織裁縫の技術、鉄や飼の製錬から農器具の作り方、農耕技術、暦、薬、文字から宗教(仏教)に至るまですべてが、或いは揚子江沿岸の江南地方から、或いは黄河流域から、又は朝鮮半島経由で日本に入って来た。日木民族は約一千年の間、熱心にこの文化先進地帯の技術文物を探り入れ学んだ。この大陸文化摂取によって日本は次第に古代国家の体をなして来た。七世紀に入ると大陸には嘗てない大帝国が出現した。隋とそれに続く唐である。大和朝延は文化摂取の強化に一段と力を入れる力針を樹て、律令制によって国政を行うこの両国へ積極的に使節を送り留学生まで同行させた。十五回二百年に互る遣使である。仲麻呂は八回目遣唐使の際の留学生である。もしこの積極的文化受容施策が行われなければ日本は律令国家への衣替えも出来ず、文化レベルの向上も停頓し大陸から数百年遅れてしまったのではないか。今の日本人は日本国は肇国以来の以来の文化国家だと思っているようだが、これは大間違いで、古代日本文化はすベで大陸から或いは朝鮮半島を経由して渡来したもので、そのお蔭で祖国日本は成育し伸展したことを忘れてはならないのだ。我我は生命を賭けて欠陥の多い船に乗り大海を渡り隋や唐国に赴いた使節や留学生に敬意を表すると共に、次々と母乳のような栄養物を栄養不十分児日本に送り続けてくれた文化の母なる国に、改めてお礼を言うべきだと思う。
 次は謝罪である。日本と中国の歴代王朝諸国は隋唐以後も友誼的国交を続け、学芸や宗教面での影響指導を受けなから幕末に到った。日中関係がおかしくなったのはそれからの百年である。具体的には本文で述べたので繰り返さないが、両国の間には常にトラブルと敵視憎悪の存在する百年間であった。原因はすべて日本の間違った態度に在った。日本が西洋式帝国主義を信奉する国となり、往時の如き徳義の国でなくなったためである。特に大正初めから両国関係は歪みを大きくし、昭和に入って関係悪化は頂点に達した。十五年戦争の勃発である。我々はこの時代を痛恨と悲涙なしには回想出来ない。日支事変にはどう考えても名目も理由も無い。要するに日本軍閥と厭くことなき好戦主義と侵略慾である十五年の間に中国大陸でどれ位多くの兵士と無辜の民が故なく殺傷され辱しめを受けたか。その無辜の民衆の父父祖達は遠い昔日本の庶民に農耕や機織りを教えてくれた人々であり.仲麻呂や真備や玄昉を長い間あれだけ温かく遇し学ばせてくれた国なのだ。最近靖国神社問題等を契機として中国の北京大学などの学生達が日本の経済侵略反対の叫びをあげていると聞いたが、日本人はこの辺でもう一度十五年戦争への反省と徳義心の振起を行わないと過去の大さな過ちを再び犯し兼ねない恐れがある。経済侵略と武力戰爭は同根で裏と表の関係にあるものだ。口に友好を唱え心に利益計算を行うようなつきあいをやっていると日本人は又信頼を失う破目になるだろう。永く信頼される日本人になるために手本とすべき格好な人物か二人いる。それは阿倍仲麻呂と内山完造だ。本文で紹介した如く、この二人には今でも中国の人々が信頼の気持ちを変えず、感謝と拍手を贈り続けているのだ。
 第三は残留孤児についてのお願いである。昭和四十七年日中国交が恢復し五十六年二月から東京で面会による残留孤児の肉親捜しが行われるようになり已に六回目となっている。肉親との再会が実現し、なお年々面会が実施され続けているが、年を逐うにつれて親族発見率は低下していると聞く。日出たく日本の肉親が発見されてもそろそろ老齢に入りつつある養父母の扶養の問題などが発生している。この際日本政府や国民は更に残留孤児問題に関心を持ち力を入れて、親族発見と関連問題の解決のために力を貸してやるべきではないか。一面から見れば仲麻呂も遠い昔の残留孤児でもあるのだ。
 最後に仲麻呂の着物について語りたい。仲麻呂が日本人に親しまれている舞台と機会は百人一首のカルタ会である。「あまの原」の歌が百人一首に載っているからだ。しかし気になるのはカルタの絵姿の仲麻呂は日本官人の服装をしていることだ。五十六歳で日本へ帰ることになり、蘇州で船に乗るとき仲麻呂が日本の朝服など着ていた筈はない。自分はこの二年問唐服姿の仲麻呂のカルタを捜したが、ついに見つからなかつた。諦めかけていたとき北海道旭川のホテル(駅前・旭川ターミナルホテル)の食堂で唐衣姿の仲麻呂を見つけた。出所は佐賀県有田の陶器製造会仕「陶装」だった。
 個人としては何の怨みもない藤原氏や近衛家に対し失礼な言辞をかなり弄したが、筆者の期待が大きかっただけに残念さも大きかったと御諒解いただきたい。ヌ、字句の煩雑な本書の誕生まで絶えず激励を続けられた時事通信社染谷幾雄氏と編集のお手伝いをしていただいた山元文子氏に深く謝意を表する次第である。

 昭和六十千十一月         著者
(『長安の月 寧楽の月――仲麻呂帰らず』松田鐡也著 昭和60年12月15日発行 時事通信社)


 北方領土問題とエマニュエル駐日大使 - 2022年02月08日

 エマニュエル駐日大使が「北方領土の日」に合わせてツイッターに動画を投稿し、「北方四島に対する日本の主権を(米国)一九五〇年代から認めている」と説明し、北方領土問題の解決に向け日本を支持すると強調した。(中日 2022.02.08)

 気になるのは"一九五〇年代から認めている"である。その根拠は何か。
 一九五〇年代であるならば、「(14) 日ソ交渉に対する米国覚書 (1956年9月7日)」であろうか。
 1956年9月7日 ワシントン国務省の覚書には、確かに、次のような文言が並ぶ。

 「米国は、歴史上の事実を注意深く検討した結果、択捉、国後両島は(北海道の一部たる歯舞群島及び色丹島とともに)常に固有の日本領土の一部をなしてきたものであり、かつ、正当に日本国の主権下にあるものとして認められなければならないものであるとの結論に到達した」と。

 しかし、これには続きがある。むしろ上述とは真っ逆さまの解釈とも取れる。

 次のようである。

 「米国は、このことにソ連邦が同意するならば、それは極東における緊張の緩和に積極的に寄与することになるであろうと考えるものである」と。
 つまり、ソ連邦が同意すれば成り立つ"結論"ということであろう。

 連合軍最高司令部訓令(SCAPIN)第677号(1946年1月29日)によれば、以下である。

 日本の範囲に含まれる地域として
 日本の四主要島嶼(北海道、本州、四国、九州)と、対馬諸島、北緯30度以北の琉球(南西)諸島(口之島を除く)を含む約1千の隣接小島嶼

 日本の範囲から除かれる地域として
 (a)欝陵島、竹島、済州島。
 (b)北緯30度以南の琉球(南西)列島(口之島を含む)、伊豆、南方、小笠原、硫黄群島、及び大東群島、沖ノ鳥島、南鳥島、中ノ鳥島を含むその他の外廓太平洋全諸島。
 (c)千島列島、歯舞群島(水晶、勇留、秋勇留、志発、多楽島を含む)、色丹島。
 (典拠:weblio)

 なお、サンフランシスコ平和条約当時、日本は明確に、国後、択捉は南千島である、としている。

 まあ、しかし「この指令中の条項は何れも、ポツダム宣言の第8条にある小島嶼の最終的決定に関する連合国側の政策を示すものと解釈してはならない」とあり、この解釈は、本覚書の半ばに「同条約とは別個の国際的解決手段に付せられるべきものとして残されている」と(同条約=サンフランシスコ平和条約)あり、平和的な話し合いでと解釈しておこう。
 ツイッターでエマニュエル駐日大使は、ミハイル・ガルージン駐日ロシア大使とも遣り合っていると。しかし、これでは、ソ連邦(ロシア)が"同意"してくれるどころか、逆効果である。

 いくらエマニュエル駐日大使が力んでも、北方領土は動かない。支持すると、この時期になって急に言われても、もう、エマニュエル氏よ、七十年近くも経っている。
 そう、<夏炉冬扇>っていうのだろうね。

 それに、<口に密あり腹に剣あり>なのか。

 支持すること、解決すること、それは全く解釈が違う。米国流では、支持=煽り、解決=分断し制御すること、となる。

 この時期、ウクライナ関連で対ロ制裁を日本に迫るためかね。その口吻は。いずれにしろ、日ロ関係を悪化させるような、煽動はやめてもらいたいものだ。

 米国に問題解決能力皆無と知るべし。

 むしろ、トラブルメーカーが米国の本来であると知るべし。

 今次、煽られているのは日本と知るべし。


 老境とは - 2021年12月17日

 貝原益軒は『養生訓』(第八卷養老◇老後は)の中で、「老後は、わかき時より、月日の早き事、十倍なれば、一日を十日とし、十日を百日とし、一月を一年とし」と云う。

 その感を懐くのが老境に入った者の本音であろう。否、目覚めている時のみであるならば、更に十倍に何倍かを乗じなければならないであろう。

 しかし何故に老後に起きる感懐なのか。

 一方、確かに十八、九歳頃は月日の経つのが歯痒い思いであった。早く大人の境地に達したいと願う気持ちがそうさせたのであろう。

 今その境地になると、勿論個人差もあろうが、それこそ、あっと言う間に一日が過ぎ去る。
 それは何故か。問うのも答えを探すのも自分ということになる。己の内なる存在に起きていることであるから、先ず自分に問わなければならないことであり、そして何よりも自身が了解しなければならないことだからだ。

 時を隔てて、後世から歴史を眺めた時、数百年、或は数千年も、それこそ圧縮され時間差を失い、今此処に想起され、蘇生させられ、在り在りと俯瞰することが可能である。もっと身近な数十年前の個人的過去なども、一瞬の技の如くに短縮された時間として現前する。

 例えばその"個人的過去(個人的歴史)"、当時は勿論一瞬のうちに生じた訳ではなく、相当の時を経て成り立った筈なのだ。それゆえ其の渦中(個人的歴史生成過程)に在る時には、全体を見渡すことは不可能に近い。暗中模索の状態で踠き、出来れば早く抜け出したい情況下にある。当然、俯瞰するその歴史も底が浅く、経験も満足の行く状態でなく、<底が知れない>人生の途上に放り出されている。

 しかし年季が入るにつれ、過去(自分史)が真空包装され全貌が見えてくる。そして"じたばた"することもなく、整理され保存された過去を冷静に鳥瞰し、<内に省みて疚しからず>かどうかは別にして、内界化することになる。
 云わば内なる世界の広大無辺の心境に遊ぶ、まるで大空を舞う鳥の如くに<天上天下唯我独尊>の由である。

 貝原益軒の云う"月日の早き事"ではなく、月日が十倍にも百倍にも千倍にも真空包装され、"一日"として提示されるのである。一日が千年に通ずるならば、最早時間を超越し、其処には"永遠の時"が体現されていると見做すしかない。

 老境とは"永遠の時間"に生きることであると、定義為直さなければならない。つまり、過去・現在・未来が此の瞬間に実在することである。別言すれば、時は消失する。

 では永遠とは何か。

 話は飛ぶ。「『空が青い(青くある)』とか『ぼくはうれしい』(うれしくある)など、だれでも分かっています。しかしこのだれにでも[ふんわりと]分かっていることが、かえってだれにも分かっていないことを示しているのです。このことは、存在するものとしての存在者に対するすべての関わり合いと、存在のなかに、先天的に、一つの謎があることを明らかにしています。わたしたちがすでにそのつどひとつの存在了解の中に生き、しかも存在の意味が暗黒に包まれていることは、『存在』の意味への問いを繰り返さねばならない、原理的な必然性を示しているのです」(『存在と時間』岩波文庫 1987年12月10日第31刷発行 上21頁)と。

 そこでの存在は了解事項としてあり、われわれ人間を"現存在"と呼称し、その在り方を特に"実存"という。
 しかし、実存の不確かさは此の存在、つまり、拠り所とする存在が"ふんわり"では心許無い。

 さて、更なる段階は、"渾然一体"なり。現存在をも否定(抹殺の意味でなく包含した、いわば"無"化)し、永遠も否定した、言語道断の真理感得に到達する。従ってそこでは当然にして"ある"も"あるの否定"も消える。

 貝原益軒は"楽しめ"と助言する。が、「喜樂してあだに日をくらすべからず」とも云う。つまり、飲めや歌えの放蕩・嗜欲を推奨しているのではなく(養生訓であるから当然)、真理を探求する内なる声に耳を傾け、或は内なる声を消した境地に楽しむことを勧めているのではないかと、勝手に解釈する。

 たぐいまれな幽玄の出世間に心遊ばせる。これぞ老境の醍醐味ではなかろうか。

 今、真空包装された三百年余の時を開き、益軒が現前し、語りかける。

 まこと老後の楽しみなり。


 浜の真砂は尽きるとも世に日韓の火種は尽きまじ - 2021年12月11日

 「現在、韓日間の対立の中心には、半世紀以上も雷管として作用してきた過去の問題がある。このうち慰安婦被害問題、強制徴用問題で触発した日本の輸出規制および韓国の韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に関連」と。(中央日報2021.01.09「バイデン氏、慰安婦問題に関与しないがGSOMIAには強硬」)

 また、韓国野党大統領候補、野党「国民の力」の洪準杓氏は、「韓日関係に対して、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を維持し、岸田文雄首相と「韓日間の未来協力のための包括的パートナーシップ共同宣言」を推進すると明らかにした。また、慰安婦および強制労役問題は早期に解決されるようにすると約束した」(中央日報2021.10.27「韓国野党大統領候補の洪準杓氏、外交公約を発表「GSOMIA維持、慰安婦強制労役問題の早期解決」」)と。

 日韓には、石川五右衛門の辞世風に云うと、"浜の真砂は尽きるとも世に日韓の火種は尽きまじ"、となるだろうか。

 さて、元徴用工賠償判決による日本企業の韓国内資産の現金化、日本の輸出管理強化、協定破棄と、日韓の危機の頃(2019年)の話だ。

 安倍外交の失策に鋭鋒を向けるのであれば未だしも、一斉に韓国の、それも文在寅大統領のGSOMIA(General Security of Military Information Agreement=ジーソミア=軍事情報に関する包括的保全協定)破棄の決断に、批判の的を絞っている日本のメディアは、韓国悪しへと国民を煽っているようにみえる。

 もちろん破棄されることは無いと河野太郎外相同様に高を括っていた韓国メディアも、文在寅大統領の果断な行動に意表と甘さを突かれ、その分に見合う取って付けた様な批難を文在寅大統領に打っ付けている。

 敵対国(第三国)への軍事情報の洩れを防止する協定は、米国は当然、日本も韓国もあちらこちらの国と結んでいる。韓国はその一つの環を今次余儀なくされ外したというわけである。

 つまり、日本側が安全保障上の問題があるとして、殆どの日本国民にとっては寝耳に水のような製品、レジスト、高純度フッ化水素、フッ化ポリイミドに関する輸出規制強化を以て韓国(経済)に激震を走らせたのだ。

 そして、それは事実上の“強制徴用工賠償判決への報復措置”なのだ。河野外相は「日本企業に実害が生じれば速やかに対抗措置をとる」(2019.5)と、強調していた。
 これより先に麻生副総理兼財務相は、「対抗する措置というのが幾つもあるのはもう御存じのとおりなので、関税に限らず、送金停止とかいろいろな方法がありますので、ビザの発給停止とかいろいろな報復措置があろうかと思いますけれども、そういったものになる前のところで今交渉されているというところだと思いますので」(2019.3)と、“報復措置”に言及する。

 「GSOMIA締結国は21カ国だったが、日本との協定が今年11月に終了すればGSOMIA締結国は20カ国に減る。韓国政府の関係者は『タイが新たに含まれれば、再び21カ国になる』」と、数合わせでは気にしていない。
 問題は情報共有なのだが、これについても、充分に検討したようだ。韓国はGSOMIA締結(2016年11月)以来、日本から受ける情報量が少なく情報交流の非対称性等が深刻であったとする。

 日本側から安全保障上の問題を出されたのでは、韓国も当然にして軍事機密を共有する基がが失われたと判断するのも已むをえないではないか。寧ろ理に適っている。

 さて肝心の米国が日韓の険悪状態に梨の礫の状態では、米国が失望しようが、日本が抗議しようが、その判断は韓国のものであり、韓国の国益を考えてのものである。米国自身も積極的には調停する積りはないようだ。

 米国にとってみれば、意思疎通の欠いた日本と韓国を両手にぶら下げ、顔を左右に振りながらの“伝言ゲーム”となる、“やじろべえ”型情報共有となる。
 いずれにせよ、日米韓ともに安全保障に大局観を失ったことになる。

 トランプ政権の出現以来とくに、外交儀礼(condemn、dsappoint、deplore、concern、regret)等の生温い言辞の応酬だけでは済まず、国際社会を文字通り俄然混乱、萎縮、非建設的、非生産的な御先真っ暗な状況に投げ入れてしまった。
 国際社会は経済低成長率に暗い見通しの警告を発し続ける。トランプ政権発足後国際社会は様変わりをしているのだ。
 偏にそれは内省力のない幼稚性の抜き切らない米国の行動に起因するのだが、米国の立場は如何にも危うい。

 トランプ政権、過去の取り決めも何のそので、反故にしディール(取引)優先で、非理を物ともせずに、批難の言葉を他国に投げ付けながら、御家芸の“制裁”を食らわし続けるのである。
 米国は独裁者として事を為している。他国の法治や政治の自由を否定し、国内法を以て国際社会向かい適用し律している。

 その批判や行動の裏返しは、その国の“国益”に関することだ。殆ど自国に無関係の国が、“断固として非難する”といようなことは皆無に等しい。米国の国益とは何か。米国の貿易収支が黒字になれば満足なのか、世界が米国の言うがままになれば気が済むのか。今や、トランプも支離滅裂にして且つ収拾つかずである。なぜなら次から次へと決めごとを御破算にしているからだ。火は付けるが揉み消すことはしないという状態である。

 国際社会といっても国連加盟国数193か国(2017年10月現在)の僅か十数か国、約5%程の国、更に絞れば1%程度の特定の国が国益を貪ろうとするために国際社会は揺らぐのである。

 つまり、僅かな国が国際社会をを牛耳り、その命運を握っているのである。是正不可能な不都合ごとなのである。その不合理を根底で支えているのが“軍事力=暴力と経済力=金”である。決して、自由主義や民主主義という高邁な精神ではないのだ。否、むしろ米国にとって自由や人権、そして民主主義は、あらゆる“戦”を“正当化”するために戦旗に血染めされた印と化しているのが実態である。

 米国は世間に向かって“綺麗事の非難”を言う前に自国の醜怪さを凝視すべきである。

 さて、日韓の悪しき例となる露骨なる其の典型をトランプ政権は示している。日本がとった“報復”、そしてそれに対抗する韓国の反応のやりとりは、米中抗争のミニ模倣版といってよい。つまり、“好き放題”にやっていいのだという、或は放縦たれという、トランプ盟主の許可が出ているという訳だ。
 恫喝外交の繰り広げである。

 河野外相は政府が検討している対抗措置について、「万が一、韓国政府の対応が日本企業に実害を生じるような状況になれば、日本として、速やかに必要な措置をとる」と強調していたことの発現となった。
 その措置は先述した輸出規制強化による経済報復である。

 これから日本国会の七十五年ほどの会議録で何が事実であるのかを追う。が、真相は結果的に闇の中なのか、更なる資料もあればと思うが、一応公式の議論が展開されている会議録は道筋にもなる。

 ところが韓国から八月二十二日にGSOMIA終了通告され、十一月二十三日午前零時に迫る午後六時、韓国政府は破棄通告の効力を停止すると発表した。協定失効の回避の前提条件となる問題が片付いたとの発表もなく、怪し気な捨て台詞、「いつでも協定を終了させることができる前提」とし、「一時的措置である」ことを強調したのだ。
 これで一先ず安心というには、歯切れが悪すぎる。

 一見この発表は日本側にとって棚牡丹であり、チキンゲームで相手が先にハンドル切ったかに見える。しかしそれは韓国側の脅し文句の羅列である。例えば日本は、日米韓連携を続けたい、輸出規制に対する協議開始で合意、そして輸出規制は韓国として対韓輸出規制撤回の土台である。韓国はWTOの紛争解決手続きを中断する。
 その極め付けが、米国に脅され(米国会にも)て、今度は先にハンドルを切ったが、次はないぞという、いつでも終了させられる、一時的措置であると。

 ここにも両国間の意思の疎通を欠く、そして今日の問題となった“思惑”違いがすでにみられるのだ。斯様なことではお先真っ暗である。

 日本側の反応は沈黙に等しく国民に説明を果たしていない。否、説明ができないのだ。条件付き延長とは言うものの文在寅大統領は安倍首相を買い被らないのがよい。

 このゲームよくて五分五分等でなく、また安倍政権の一方的勝利などでもない。そしてこれが騙し船安倍首相の引き際となろう。迚もじゃないが手放しで喜べる情況ではない。両国には土壇場にきて脅し付ける米国が睨みを利かす。日韓両国間では“ゲーム”も端からできないのである。単なるガキ同士の砂場での喧嘩である。

 依然として、両国間は根本問題を抱えたままである。何ともはや、文在寅大統領の理屈を放棄し何も得ず弱気の判断である。河童の川流れと気取るわけにもいかない。日韓の根本問題である歴史の葛藤に目を瞑ったのであるから。  本来なら韓国は、論理を通しGSOMIAを破棄するべきだった。そして日本政府が何を云うとも、強制徴用工賠償判決に基づく日本企業の資産現金化を済ますべきなのだ。米韓關係、日韓関係に慮っていては日韓の歴史問題に根差す揉め事の決着は未来永劫付かない。

 「知に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張向ふ三軒両隣にちらちらする唯の人である。唯の人が作つた人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行く許りだ、人でなしの国は人の世より猶住みにくからう。」(『草枕』ザ・漱石全小説全一冊1984年11月1日2刷発効第三書館)

 韓国民への説明はあっても、騙し船安倍首相とアセチレンランプ並の顔立ちの河野防衛相は、相手の決定に、23日午前零時の失効を前に協定は維持されることになったとささやいて、「北朝鮮への対応のため、日韓・日米韓の連携は極めて重要だ。韓国も戦略的観点から判断したのだろう」と、それぞれ第三者顔である。  日本はどのような働きかけを為したのかについては触れずじまいである。韓国の独り相撲なのだろうか。相手を見くびったコメントである。

 国会会議録を閲覧していたら、藤田 進議員の興味ある発言(第050回国会 参議院日韓条約等特別委員会 第2号 昭和四十年十一月二十二日)に当った。引用する。
 「汽車をまず出してからの話にしようじゃないか、こう言うのですね。それじゃダイヤに組んでいない列車を出したらどうなりますか。いわんや、新幹線に乗るのか旧東海道線で行くのか、青森か下関かわからないままに、とにかくけんかをぶっ始めていけば何とかなるだろうというような」、である。

 つまり、一年足らずで問題が噴出した慰安婦合意(2015年12月28日)と同様に詰めの甘さ(論理性の欠如)と、委細を尽くさず、事理を通さずの玉虫色の希望的観測の決着の仕方で、後は野となれ山となれ式で、問題が起きたらごり押しか、“未来志向”で現実問題を直視せずに決着を企む。そしたまた、蒸し返すのである。
特に未来志向とは、未来へ問題を残すことであり、刹那主義に通ずる。

 韓国は日本から安全保障の問題で絶縁されたのであるから、軍事情報共有を終了するのは当然である。今次この件で先に譲歩・妥協するようであれば、前車の轍を踏むことになる。日本への対応を誤ってはいけない。米国の脅しなどの容喙は無視したのがよい。韓国に強請するのでなく、米国は日本を矛先を向けるべきである。それでなくとも米軍駐留費で韓国は強請られているのだからだ。

 米国は、得するのは中国・北朝鮮などと言い募り、実際は自己の利益を確認しているのである。米国の常套手段である。米国の一極“覇”は衰退の途上である。自らが招いているのだ。世界は多極化に向かっている。あの馘首されたボルトンさえ感じ取って述べている。
 日韓とも似たような波長の性格の政権の時に問題を残しているのだ。

 その淵源は1965年に締結した日韓請求権・経済協力協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)であり、その協定で国家及び国民の請求権の問題は「完全かつ最終的に解決された」と規定しているのだが、解決された所か、今や焼け棒杭に火がつき、燃え上がっている始末なのだ。

 日本に動員された元徴用工の個人請求権を認める判決が韓国で相次いでいる当時、岸田文雄外相は韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相と会談(2015年6月21日)し、解決済みと日本側の立場を伝えている。
 つまり、日韓請求権協定(「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」1965年)により、完全かつ最終的に解決済みとの主張である。

 日本政府の一貫するこのフレーズは、「第122回国会 参議院本会議 第4号 平成三年十一月十三日」で、宮澤喜一首相が「被徴用者への補償の問題を含め日韓間の財産・請求権の問題は、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定により、完全かつ最終的に解決済みでございます。日朝間の財産・請求権の問題については、日朝国交正常化交渉の場においてさらに話し合っていく必要がございます」と、述べた。

 宮澤喜一首相、「第123回国会 衆議院本会議 第7号 平成四年三月三日」では、日本社会党・護憲共同を代表の山元勉議員の「従軍慰安婦問題や強制連行問題等に関連し、南北朝鮮及び日本に居住する朝鮮半島出身者に誠意ある補償を行う考えはないのかどうか」問いに、「日韓両国間では、六五年の日韓請求権・経済協力協定により、御指摘の補償の問題をも含め、日韓両国及び両国民間の財産・請求権の問題は、完全かつ最終的に解決済みであります。また、これに並行して、五億ドルの経済協力をも実施したことは、御承知のとおりでございます」と。

 つまり、“無償分三億合衆国ドル(360円レートで千八十億円)、長期低利の貸付け分二億合衆国ドル(同じレートで七百二十億円)”が、山元勉議員を受けて、“従軍慰安婦問題や強制連行問題等関連の補償”ということになる。
 それで、請求権の問題は、完全かつ最終的に解決済みなのだと。

 この文言は、「日韓請求権並びに経済協力協定(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)の第二条、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。」に見られる。

 が、この文言の効き目の範囲は如何ほど迄に及ぶのであろうか。

 「第121回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日」で、谷野作太郎外務省アジア局長は、「強制連行者あるいは元軍人軍属の方々、サハリンの残留者の方々、元戦犯あるいはその家族の方々から補償あるいは未払いの賃金の支払い等を求めでいろいろな訴訟なりを行う運動」起こってきていることを承知し、その上で、「政府と政府との関係におきましては、国会等でもたびたびお答え申し上げておりますように、六五年の日韓間の交渉をもってこれらの問題は国と国との間では完全にかつ最終的に決着しておるという立場をとっておる」と。

 さらに柳井 俊二外務省条約局長は補足し、「日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます」。

 ここで「新日鉄住金徴用工事件再上告審判決(大法院2018年10月30日判決)」を讀む。(資料元:「法律事務所の資料棚アーカイブ」)

 しかしながら、初鹿 明博議員の平成三十年十一月九日提出 質問第四九号「日韓請求権協定における個人の請求権に関する質問主意書」の「この度の安倍総理並びに河野外相の発言は一九九一年の柳井俊二条約局長の答弁を変えるものであるのか」の答弁では、微妙に変化し、「日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保護権の観点から説明したものであり、また、韓国との間の個人の請求権の問題については、先に述べた日韓請求権協定の規定がそれぞれの締約国内で適用されることにより、一方の締約国の国民の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果救済が拒否されることから、法的に解決済みとなっている。このような政府の見解は、一貫したものである」と。

 ならばなぜ“韓国との間の個人の請求権の問題については、日韓請求権協定の規定がそれぞれの締約国内で適用される”と述べずに、態々補足してまで、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」と述べたのか。

 質問主意書への答弁では、「国際法上の概念である外交的保護権」と日韓請求権協定の規定とは別物であるというように取れるが、柳井俊二条約局長は外でもなく、六五年の日韓間の交渉をもって、問題は国と国との間では完全にかつ最終的に決着した、つまり、一般論の外交的保護権でなく、日韓請求権協定から導き出された答弁を為したのだ。
 個人の請求権そのものを国内法的な意味、“日韓請求権協定の規定”で消滅させたのではないのだ。

 この点に関し、柳井俊二条約局長は「第123回国会 衆議院予算委員会 第2号 平成四年二月三日」で、「一九六五年、昭和四十年の日韓請求権経済協力協定の第二条におきまして、日韓両国及び両国国民間の財産請求権の問題がこの協定をもって完全かつ最終的に解決したということを確認しているわけでございます。また、この協定の第二条三項におきましては、いわゆる請求権放棄についても規定しているわけでございます。
 それで、これらの規定は、両国国民間の財産請求権問題につきましては日韓両国が国家として有している外交保護権を相互に放棄したことを確認しているものでございまして、これ自体はいわゆる個人の財産請求権そのものを国内法的な意味で消滅させるものではないということは、今までも何度か御答弁申し上げたとおりでございます。
 これらのいわゆる条約上の処理の問題でございますが、この日韓の場合におきましては、これも御承知のとおり二条三項におきまして、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であって同協定の署名の日に他方の締約国の管轄のもとにあるものに対してとられる措置につきましては今後いかなる主張もなし得ないというふうに規定いたしまして、一定の国民の権利、我が国におきましては韓国及び韓国国民の財産権等を、法律をもって、法律を制定いたしまして消滅させたということでございます。
 長くなりますのでこの程度にとどめますけれども、冒頭申し上げましたとおり、日韓両国間におきましては、両国間の問題といたしましてはこの請求権の問題というものが完全かつ最終的に解決したということでございます」。
 しかし、韓国大法院(最高裁判所)は、先立って、「強制動員被害者の損害賠償請求権は消滅していない」という1次判決を下していた(2012年5月24日)。

 日本と韓国の両政府が述べるように、“解決済み”或は“無償で受け取った3億ドルゆえに日本政府に請求権を行使するの困難”との見地を超えて、韓国大法院によって“請求権は有効で消滅していない”との判断が下されたのである。

 韓国大法院は、「日本政府の不法的な植民地支配および侵略戦争の遂行に直結する日本企業の反人道的な不法行為を前提とする慰謝料請求権」は、韓日請求権の適用対象に含まれていないため消滅していないと判断」する。

 河野外相は言う、「請求権の問題は日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みで、 国際的な合意事項を国内の司法がひっくり返せるとなったら、国際法の基本が崩れる」と。

 が、日本側の言う“六五年の日韓請求権経済協力協定により完全かつ最終的に解決済み”を繰り返し強調されると、何故にか疑問が生じてくる。つまり、国民に明かされていない秘密合意事項が存在するのかと。

 その疑問は韓国高裁民事2部が2015年6月の判決、「日本が、請求権が消滅したとして、これまでも請求権協定関連の情報公開すら拒んでいる事情などを総合すると、原告らが(2012年5月の最高裁判決後の)2012年10月に訴訟を提起する頃までも、権利を行使できない障害事由があった」とし、消滅時効が終わったとの主張を斥けていることからも、肯けるものである。

 では当時(現在・過去)の国会では如何なる論議がなされたのであろうか。最新の議論は「第198回国会 参議院外交防衛委員会 第16号 令和元年五月二十八日」である。
 のっけから結論を言うようであるが、核心をついているようなので引用する。

 以下は日本維新の会、浅田均委員の発言をめぐる抽出部分である。

○浅田均君 この日韓請求権協定あるいはこの徴用工のような問題に関して調べていくと、一番問題になると思われるのが、柳井条約局長の一九九一年八月の発言というところになると思います。それで、もちろん韓国側政府もこれをよく理解していた上でいろんな作戦を講じているんだと思います。
 それで、皆さん方にその一九九一年八月の当時の柳井条約局長の請求権に関する協定に関しての御発言を紹介しておきますと、柳井条約局長は参議院の予算委員会で次のように御発言になっているわけであります。「いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。」、これは河野大臣あるいは安倍総理の御発言と一致するところでありますが、その次に、「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。」というふうに答弁されておりまして、ここをこれからついてくると思うんですね。
 これ、もう一度、この九一年の当時の柳井条約局長発言に関しての外務省の御認識、御見解を伺っておきたいんですが。

○政府参考人(岡野正敬君) 個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるというのが日本政府の一貫した立場でございます。
 具体的には、日韓両国は、ただいま申し上げました請求権協定第二条一項で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認しております。それとともに、第二条三項で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることはできないとしていることから、一切の個人の請求権は法的に救済されないものというのが政府の理解でございます。
 その結果、我が国及び韓国並びにその国民の間の請求権の問題については、日韓請求権・経済協力協定により、韓国及びその国民の請求権に基づく請求に応ずべき日本及び日本国民の法律上の義務が消滅していると、その結果、救済が否定されることになるということで、法的に解決済みになっているというのが政府の一貫した立場でございます。
 柳井答弁について御指摘がございましたが、当時の答弁は、そのやり取りの中での文脈の中で、国際法上の概念である外交的保護権との関係でどういうふうにして整理されるべきかという議論の中で説明があったものと理解しております。

○浅田均君 確認ですが、外交保護権の行使としては取り上げることはできないと。だから、外国で何か損害を受けた人が訴えた場合、国がそれを言わば応援することはできないということを言われているだけであって、個人が請求することに関してノータッチであるよというふうに言われたにすぎないというふうに私どもは受け止めるんですが、間違いないですか。

○政府参考人(岡野正敬君) 国と国との間の関係で外交保護権はどういうことかということになりますと、先ほど申し上げたとおりでございます。
 実際、今御指摘がありましたように、ある国が他方の国に対して訴えることができるかどうかということでございますけれども、請求権協定の第二条一項及び第二条三項の規定を読めば明確に分かることは、日本及び日本国民が相手方の請求に応ずべき義務というのは消滅しているというのが我々の協定の解釈でございます。

○浅田均君 それで、外交、国と国の間はそういう解釈が成り立つと思うんですけれども、それは必ずしも個人が請求することを禁じているということではないというふうに受け止められるので、今回のこういう状況に至っていると思うんですね。
 だから、これから仲裁委員会あるいはICJへ進む可能性もありますけれども、そういうところをついてこられると思いますので、国としてもどういう対応を取られるのか、これは注目していくしかないんですけれども、そういうところをついてくるということを肝に銘じて、河野大臣あるいは所管、担当の方々におかれましては対応をよろしくお願いいたします。これから非常に重要な問題であって、これがうまくいかないと、どんどんほかのところに波及しますので、対応方よろしくお願い申し上げます。

 と、以上であるが、生煮えで歯切れが今一の感がある。

 つまり、もう一度、柳井条約局長の発言(「第121回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日」)とその前後を含めて引用する。

○清水澄子君 そこで、今おっしゃいましたように、政府間は円滑である、それでは民間の間でも円滑でなければならないと思いますが、これまで請求権は解決済みとされてまいりましたが、今後も民間の請求権は一切認めない方針を貫くおつもりでございますか。

○政府委員(谷野作太郎君) 先ほど申し上げたことの繰り返しになりますが、政府と政府との間におきましてはこの問題は決着済みという立場でございます。

○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これはいわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございますしたということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。

○清水澄子君 七月十日の韓国の国会で、野党が強制連行された朝鮮人の未払い賃金を請求することについて質問したことに対し、韓国の李外相がそれは日本から返してもらう権利があるという趣旨の答弁をしておりますが、このこととどういう関係になりますか。

○政府委員(谷野作太郎君) 韓国政府も、先ほど私が御答弁申し上げましたところ、あるいは条約局長が御答弁申し上げたところとこの問題については同じ立場をとっておるわけでございます。
 ただいまお話のありました李相玉韓国外務大臣の発言がこの問題についてございますので、そのくだりを読み上げてみたいと思います。「よくご存じのように、政府レベルにおいては、一九六五年の韓日国交正常化当時に締結された、請求権及び経済協力協定を通じこの問題が一段落しているため、政府が」と申しますのは韓国政府がという意味ですが、韓国政府が日本との間において「この問題を再び提起することは困難である」、これが韓国政府の立場でございます。

 以上から、かなり明瞭になってきた。

 「日韓請求権協定によって両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決」し、「日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄」、ゆえに韓国政府が日本との間で「この問題を再び提起することは困難」、ということになる。
 「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない」との意味である。
 個人の訴権を奪うものではないのである。

 第123回国会 衆議院予算委員会 第15号 平成四年三月九日

○伊東(秀)委員 社会党・護憲共同の伊東秀子でございます。
 まず外務省にお尋ねいたしたいと思います。
 従軍慰安婦の補償に関してでございますが、二月三日の我が党の山花議員の質問に対しまして政府は、従軍慰安婦の補償の問題について政府の基本的な考え方はどうかと聞いたのに対し、訴訟の手続がとられているので「その帰趨を見守る」、「あえて申し上げますれば、この種の問題も含めて法的には六五年の日韓の正常化の折に決着済みである」というふうにお答えになっておりますが、現在問題になっております請求というのは、個人が日本国政府に対して民族的な迫害及び人格権を侵害された、人間の尊厳を冒涜されたという精神的な損害に対する慰謝料請求でございます。こういったものが最終的に解決されたという答弁だということになるわけですが、それで間違いないでしょうか。

○柳井政府委員 この問題につきましては、これまでいろいろな機会に私どもの考え方、るる申し上げておりますので、それを繰り返すことはいたしたくないと思います。
 結論から申し上げますれば、一九六五年の日韓請求権・経済協力協定におきまして、その第二条で、財産請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと規定しているわけでございますが、具体的には、この第二条のそれ以下の規定におきまして、いわゆる国内法的根拠のある実体的権利については、相手国でそれを消滅させる等の措置をとったとしてもそれに対して文句は言わない、それから、法律的な根拠のないその他の請求についてもいかなる主張も行うことができないということでございまして、財産権であれば、我が国の場合には、韓国及び韓国国民の財産権を消滅させる法律を当時制定してこれを消滅させたわけでございます。それ以外の請求につきましては、日韓間の問題としては、いわゆる外交的にこれを取り上げることはしない、すなわち外交保護権を行使することはしないという意味で解決をしているということでございます。
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 (註)第二条

1 両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。

2 この条の規定は、次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締約国が執つた特別の措置の対象となつたものを除く。)に影響を及ぼすものではない。

(a)一方の締約国の国民で千九百四十七年八月十五日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産、権利及び利益

(b)一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつて千九百四十五年八月十五日以後における通常の接触の過程において取得され又は他方の締約国の管轄の下にはいつたもの

3 2の規定に従うことを条件として、一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もすることができないものとする。
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○伊東(秀)委員 そうしますと、外務省としては、一身専属権であると言われております慰謝料請求、精神的な損害に対する慰謝料請求というものはその者にしか専属し得ないし処分し得ないと言われている権利でございますが、これを完全かつ最終的にこの慰謝料請求権を国家が解決できるという立場に現在でも立っておられるということなんでしょうか。

○柳井政府委員 先ほども申し上げましたが、この協定上措置をとって、そして権利を消滅させる等の国内的な処理をするということの対象は、いわゆる「財産、権利及び利益」と協定で称しているものでございます。合意議事録で了解が確認されておりますように、このような「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。  いわゆる慰謝料請求というものが、いわゆるクレームというものがどのようなものと国内法上観念されているかにつきましては、私必ずしもつまびらかにいたしませんけれども、いわゆるこの「財産、権利及び利益」というものには該当しないものが多々あろうと思います。そのようなものにつきましては、この協定上は、いわゆる財産、権利、利益というもの以外の請求権というふうに観念しているわけでございまして、そのような請求権につきましては、国内的に、国内法的に処理をとるということはここでは想定しておりませんけれども、いずれにせよ、そのような問題を国家間で外交的に取り上げるということはこの協定の締結後できないというのが当時の日韓間の合意であったというものでございます。

○伊東(秀)委員 今、私の質問にお答えいただいてないわけでございますが、私は、本問題、今韓国の女性たちが日本政府を訴えているのは個人としての慰謝料請求である。それが最終的に解決済みであるというのが政府の答弁でございますが、こういった一身専属権を国家が本人の承諾もなしに勝手に放棄できるのかどうかということの外務省の見解を簡潔に答えてください。

○柳井政府委員 当時の協定上の処理といたしましては先ほど申し上げたとおりでございまして、いわゆるクレーム、財産権以外の、実体的権利以外のクレームにつきましては、外交保護権の放棄という形で決着を図る一方、それと並行して経済協力というものを行ったわけでございます。いわゆる無償三億、有償二億という経済協力を供与いたしまして、そういう全体の合意によってこの問題も含めて、日韓国家間では最終的に解決したという処理を行ったわけでございます。
 そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しないと思います。そのようなものについては、いわゆる財産的な権利につきましては国内法的な処理をしても文句を言わないという規定があるわけでございますが、それ以外のものについては外交保護権の放棄にとどまるということで当時決着をした。これはいわゆる請求を提起するという地位までも否定しないという意味においてそのような権利を消滅させていないわけでございますが、しかしそれが実体的な法律上の根拠を持った権利である、実体的に法律上の根拠を持った財産的価値を認める権利であるというふうには当時観念されなかったろうと思います。

○伊東(秀)委員 今の条約局長の御答弁を伺っていますと、慰謝料請求権そのものは消滅してないという御答弁になるわけで、放棄したのは外交保護権であるということをはっきりおっしゃいました。そうすると、慰謝料請求、彼女たちが今問題にしているのは慰謝料の問題でございまして、そうしたら最終的に解決したとは言えないじゃないか、論理的にも。全くそれは最終的に解決してはいない。
 ただし、今もう一つ条約局長は重要なことを御答弁なさったと思いますが、彼女たちの権利は実体法上の根拠があるかないかというようなことを問題になさいましたが、条約局長としては、慰謝料請求権は消滅はしてはいない、残っている、しかし、実体法上の根拠がある請求権ではないという趣旨に御答弁なさったと伺ってよろしいでしょうか。

○柳井政府委員 協定の解釈に関します、いわゆる「財産、権利及び利益」の定義につきましては、先ほど読み上げましたとおりでございます。いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではないのだろうと私は考えます。いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶しておりません。

○伊東(秀)委員 慰謝料請求権は入っていなかった。そうしたら、政府がこれまで繰り返してきました彼女たちの請求権は完全かつ最終的に解決したということが、全く答弁を覆さなければいけなくなると思いますが、官房長官、いかがでございましょうか。

○柳井政府委員 官房長官の御答弁の前に一点だけ補足させていただきたいと存じますが、いわゆる個人の請求の問題については解決していないのじゃないかという御指摘もあるわけでございますけれども、先ほど私答弁いたしましたとおり、この日韓請求権・経済協力協定におきましては、これは繰り返しませんけれども、先ほど申し上げたような規定によって日韓両国間においては完全かつ最終的に解決を見たということで合意がなされたということでございます。ただ、いわゆる法律的な根拠に基づかない財産的な実体的な権利というもの以外の請求権については、これは請求権の放棄と申しますことの意味は、外交保護権の放棄ということでございますから、それを個人の当事者の方々が別途裁判所なりなんなりに提起をされる、そういうような地位までも否定するものではないということは、これまでもいろいろな機会に政府側として御答弁申し上げているとおりでございます。

○加藤国務大臣 条約局長が答弁したとおりでございます。

○伊東(秀)委員 そこが大変論理的に矛盾であるところでございまして、訴権があるのは当然である、だれでも裁判所に訴える権利はあるわけでございまして、訴権とそれから慰謝料請求権という実体法上の権利とは全く別である。裁判所に訴える権利というのは手続法上認められている訴権でございまして、今条約局長が答弁なさったのは、従軍慰安婦だった方々の慰謝料請求権については消滅していない、これは解決の枠外というふうに答弁されたわけですから、とすれば訴権にすりかわる論拠は全然ないわけでございます。それがなぜ手続法上の裁判所に訴える権利だけで実体法上の権利は消滅したんだということになるかが全く論理矛盾である、そういうことで私は先ほど官房長官の御答弁を求めているわけでございますので、もう一度、慰謝料請求権を当人の承諾なしに国家が消滅させることはできないという条約局長の見解を前提にして、何ゆえにそれでは政府は解決したと言うのか、この点を明快にお答えいただきたいと思います。

○柳井政府委員 官房長官へのお尋ねがどうやら私の答弁が原因になっているようでございますので、一点だけ補足させていただきたいと存じます。
 先ほども申し上げましたとおり、我が国としては、この協定上外交保護権を放棄した、そして関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないということを申し上げたわけでございますが、しからば、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じます。ですから、その点についてはちょっと誤解があるといけませんので補足させていただきます。

○加藤国務大臣 条約上または法律上のかなり専門的なことでございますので、条約局長の答弁の方が正確かと存じます。私がかつて答弁申し上げましたのも、今条約局長が申し上げたとおり、双方の政府の間で外交上はこれは決着したものである、ただ、韓国の国内にいる方の一人一人の訴権というものを否定しているものでありませんという答弁はいたしております。それが、訴える権利というものがいわゆる手続法上のものであるのか、それとも実体法上のものであるのか、そういうような点につきましては、専門家の答弁の方にお任せしたいと思います。

○伊東(秀)委員 訴権があるのは、だれも訴権を否定されている人はいないわけでございますから、訴権があることは当然である。問題は、今問題になっているのは、訴権のあるなしじゃなしに、彼女たちの慰謝料請求権、個人としてそれは消滅しないという答弁をされたわけですから、それをなぜ解決したと言うかが問題だということを私は伺ったわけです。
 それはおきまして、内閣法制局長官に伺いますが、条約でもって国家が個人の精神的な損害に対する慰謝料請求、これを放棄できるかどうかということが第一点と、今政府はできないということを前提としつつも、その残っている慰謝料請求権は裁判所に訴える権利、つまり訴権でしかないんだというふうに非常に限定的にしているわけでございますが、この二つの点に関する法制局の見解をお答えください。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 ただいま条約局長あるいは官房長官からもお答えございましたように、現実に日韓の請求権協定といいますかで放棄しておりますのは、我が国の外交保護権あるいは韓国の、双方の外交保護権でございますので、そういう意味で外交保護権についての定めというもの自身が直接個人の請求権とかこういったものの存否に消長を及ぼすものではない、こういうことだろうと思います。
 次に、第二の点のお尋ねでございますが、それ自身につきましては、現在訴訟になっておりまして、現実に裁判所でどのようないわゆる法規の適用といいますか、そういうものが行われるか、私の方から予断を持って申し上げることはいかがかと存じます。

○伊東(秀)委員 私は、裁判の中身のことをお伺いしているのではございませんで、今法制局長官がお答えくださいましたように、外交保護権の放棄が個人の請求権の消滅には何ら影響を及ぼさない、とすれば、全く影響を受けていない個人の請求権が訴権だけだという論理が成り立つか否かという見解、解釈を伺っているのでございますが、いかがでしょう。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 訴権だけかというお尋ねでございますけれども、現実に訴えを起こしまして、私もその内容を詳細には存じませんけれども、損害賠償請求をされているわけでございます。その損害賠償請求について、いかなる取り扱いがされるか、これは裁判所の判断にまつところであろう、こういうことでございまして、訴権だけであって、あと損害賠償請求権があるとかないとか、そこの部分を私の立場で申し上げる……

○伊東(秀)委員 あるなしの問題じゃなくて、損害賠償請求権は消滅しないと言いながら、それが訴権だけという論理が成り立つかどうかを潤いておりまして、裁判所の判断をかわって言ってもらいたいと言っているのじゃないのでございますが、その点について、そういう論理が成り立つかどうかを答えてください。

○工藤政府委員 訴権だけというふうに申し上げていることではないと存じます。それは、訴えた場合に、それの訴訟が認められるかどうかという問題まで当然裁判所は判断されるものと考えております。

○伊東(秀)委員 今の御答弁で、つまり今まで政府が、請求権は消滅してすべて解決済みとかあるいは消滅していないけれどもそれは裁判所に訴えるという権利のみだということが、大変論理的に矛盾であるということが明らかになったのではなかろうかと思います。
 そこでその問題はおきまして、次にもう一つ、条約局長の二月三日の御答弁に即してお伺いいたします。
 二月三日の山花議員の質問に対して、柳井条約局長が、「日韓の条約の上ではこ「当時具体的に取り上げられなかった問題も含めてすべての請求権の問題が両国間では完全かつ最終的に解決されたというふうに規定しているわけでございます。したがいまして、この点につきましては、日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。」という答弁がございます。
 そこで一点目。まず、私はここに請求権及び経済協力に関する協定、議事録、すべての書類を持ってきておりますが、この最終的に解決されたというふうに規定してあるというのはどこの部分に規定してあるのでしょうか。最終的に解決されたというのが、つまり対日八項目要求、これも私ここに用意してございますけれども、これ以外に取り上げられなかったこと、議題にならなかったこともすべて解決するというふうにこの協定に規定されているというふうにお答えになっているわけでございますが、取り上げられなかった問題まで解決するというのがこの協定のどこに書いてあるのか、教えていただけますでしょうか。

○柳井政府委員 それは協定の第二条の一項に、ここにいわゆるサンフランシスコ平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて完全かつ最終的に解決されたというふうに言っているわけでございまして、国交の正常化でございますとかあるいは平和の回復ということを行います場合に、平和条約あるいはこのような日韓間の協定等いろいろな条約を結びまして請求権の問題を解決するわけでございます。
 その際に、大抵の場合は個々の請求項目についていろいろ議論をするということがあるわけでございまして、御指摘のとおり日韓の当時の交渉におきましては、いわゆる八項目の請求というものが韓国側から出されて、その請求に対する補償の積み上げというような話し合いもしたわけでございますが、当時既に戦後相当時間もたっていた、そしてその間にいわゆる朝鮮動乱というものも介在したということで、一件一件の積み上げではこれは到底解決のめどが立たないということで、いわゆる一括解決方式というものが日韓間で基本的に合意されまして、そしてそのような線に沿ってこの条約が起案され合意されたわけでございます。
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 (註)第四条
 (a) この条の(b)の規定を留保して、日本国及びその国民の財産で第二条に掲げる地域にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で現にこれらの地域の施政を行つている当局及びそこの住民(法人を含む。)に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とする。第二条に掲げる地域にある連合国又はその国民の財産は、まだ返還されていない限り、施政を行つている当局が現状で返還しなければならない。(国民という語は、この条約で用いるときはいつでも、法人を含む。)
 (b) 日本国は、第二条及び第三条に掲げる地域のいずれかにある合衆国軍政府により、又はその指令に従つて行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力を承認する。
 (c) 日本国とこの条約に従つて日本国の支配から除かれる領域とを結ぶ日本所有の海底電線は、二等分され、日本国は、日本の終点施設及びこれに連なる電線の半分を保有し、分離される領域は、残りの電線及びその終点施設を保有する。
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 (註)
 特別取極については、「5月10日請求権小委員会第13回会合における吉田主査代理の発言要旨」昭和36.5.10」

 「第5次日韓全面会談予備会談の一般請求権小委員会の第13回会合 昭和36.5.10北東アジア課」

 「第038回国会 参議院予算委員会第二分科会 第4号 昭和三十六年三月三十日」

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 この協定上の根拠ということになれば、それは「完全かつ最終的に解決された」ということでございまして、これが八項目にあるかないかということで判断するというよりは、日韓間の請求権の問題を一括して全部解決したと。そこで論議されたものもあったでしょうし、あるいは具体的な論議の対象にならなかった請求というものもあったと思います。しかし、そのような論議されなかったものあるいは場合によっては八項目の請求の中に関係のあるものもあるかもしれませんが、論議されなかったものを後になってあれもあった、これもあったということでは、いわゆる一括解決というのはできないわけでございますから、それはこの条約の趣旨、そしてこの第二条の規定から申しまして、現在問題になっているような請求についても、これは日韓間の問題としては一括、完全かつ最終的に解決されたという趣旨であるということを申し上げた次第でございます。

○伊東(秀)委員 今、取り上げられなかった問題も請求権もすべて解決したというのは、条文上の規定としてはこの二条一項でしかないということが明らかになりました。しかしこれは、法の一般原則に反するのではなかろうかというふうに私は考えるわけでございます。
 というのは、二つの理由から法の一般原則に反しております。一つは、政府はこれまで昨年の十二月まで、軍の関与はない、民間人が勝手にやっていたことだという公式見解をずっと表明してまいりました。つまり、前提となる事実認識において全く新たな事実が判明したという、つまり、前提事実に錯誤があったということに法律上はなろうかと思います。つまり、こういう場合には、契約の前提になる事実に変更が後で発見され、かつその変更が全く予期できなかったような場合には、法の一般原則として事情変更の原則というものがとられるわけでございます。
 これは何も日本だけの問題ではなくて、フランスでは、例えば不予見の理論とか、つまり予見できなかったことが契約の後に発見されたらその契約の効力はなくなる、あるいはドイツでは行為基礎の理論と言われておりまして、行為の前提となった、契約の前提となった基礎が崩れたときにはその基礎の上に立っていた契約は無効になるという論理があるわけでございますが、こういった法の一般理論からいっても、全く事実認識が変わってきた今も、しかも全然それが事実認定が違っていたために取り上げられなかったことに対して、それがこの請求権の中に入っているんだという論理はどうしてもとり得ないんじゃないか。その点について法制局長官にお伺いしますが、今のように、条約の解釈において法の一般理論というものは適用になるということが私は当然だと思うのですが、いかがでしょうか。

○柳井政府委員 法制局長官から御答弁がある前に、私の方から一点だけお答えさせていただきたいと存じます。
 いわゆる慰安婦の問題につきまして、政府が関与したか否かという問題が確かにあるわけでございますが、いずれにいたしましても、この日韓の協定上は、韓国国民の我が国政府に対する請求あるいは財産権というものだけではなしに、我が国の政府に対する請求ももちろんでございますが、両国国民間の請求の問題あるいは財産権の問題というものも含めてこの条約上の処理の対象にしているわけでございます。

○工藤政府委員 お答えいたします。
 個別具体の事情を離れまして一般的にと申されますと、非常に私の方もお答えしにくいわけでございますが、もちろん国内法的にも事情変更といったようなものは一つの考え方として働き得ると思いますが、ただ同時に、事情変更というものをただ安易に、容易に認めていくというのもまた問題があるということだと存じます。

○伊東(秀)委員 今の御答弁で、安易には認められないけれども、その考え方は条約を解釈する場合にも適用になるというふうに理解いたします。
 このことは、私は事前に質問通告の中にお渡ししておきましたが、法制局長官にもう一度お伺いしますが、国際間の紛争を解決する場合の国際司法裁判所規程の第三十八条の一項Cというところにも認められているんですね。つまり、どういうものに準拠して国際的な紛争を処理するかというときのその適用するものの中に、「文明国が認めた法の一般原則」というふうに書いてございますが、つまり事情変更の、原則的なその前提事実が変わった場合の条約の解釈に関するものが、この国際司法裁判所規程の中では「文明国が認めた法の一般原則」という形で認められているというふうに解釈してよろしいかどうか、いかがでしょうか。

○柳井政府委員 事情変更の原則等につきましていろいろ御指摘があったわけでございますが、まず一般的な問題といたしまして、もとより各国の国内法で認められた、事情変更の原則を含めましていろいろな原則があるわけでございますが、そのようなものがそのまま国際法の原則として適用されるというものでないことは当然でございます。したがいまして、もちろん国際法の解釈につきまして、いろいろ類推でございますとかあるいは参考になるということが各国の国内法の中にあることは事実でございますし、事情変更の原則というのも、特にその条約の無効取り消し原因という観点から非常に議論されておりまして、これについては非常に議論の多いところでございます。
 その条約の無効取り消し原因というのはただいまの問題ではございませんのでこれ以上触れませんけれども、例えばそういうような問題につきましては、国際間で条約法条約というようなもので合意されて、その意味あるいはそれを適用する場合の一定の手続というものをきちっと決めて適用するということになっているわけでございます。したがいまして、事情変更の原則というようなものがそのまま国際法に適用されるということはむしろ言えない、そういう考え方はあるけれども、そのままの問題ではないということでございます。
 他方、国際司法裁判所規程の三十八条一項には、御指摘のとおり法の一般原則というものが挙げられているわけでございます。この三十八条一項のいわゆる柱書きのところは、「裁判所は、付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。」とありまして、aとして条約等を挙げております。それからbとして、法として認められたいわゆる国際慣習というのを挙げておりまして、そしてcとして、「文明国が認めた法の一般原則」というものを挙げております。さらにその他の点も書いておりますが、いずれにいたしましても、裁判所が法の一般原則を適用するというのは、個々具体的な国際間の争いについて、特に条約あるいは国際慣習法というようなもので解決ができないというような場合に「文明国が認めた法の一般原則」というものも適用して判決を下すということでございまして、そのような個々具体的な争訟を離れて何が国際的に適用される法の一般原則がということは言えないことでございます。
○伊東(秀)委員 それは当然でございまして、今回従軍慰安婦問題では大変日韓間の重要な、外交レベルには乗っているかどうか別に伺いますけれども、国民感情の問題として、これはもうどうしようもない状況に来ているんじゃないかと思われるわけですね。
 つい先日の新聞報道によりましても、三月一
の独立記念日を前に韓国紙が韓国国民に日本観を問うた、アンケートをしたところ、日本人に好感を持てないというのが六七・四%、日本という言葉を聞いただけで気分が悪くなる、二六・一%、日本政府は南北統一に反対していると思う、七九%、こういう形で大変反日感情がふだんより高まっている。その大きな原因として従軍慰安婦、自分たちの民族がこれほど凌辱されたという事実が明るみになったことが大きく問題があるというふうに報道されているわけですね。だからこそ、この問題は国際間のこういった条約の解釈において非常に重要な問題になってくるであろうと私は考えるわけでございます。
 しかも、先ほど読み上げました柳井条約局長の答弁では、もう解決済みというのは、「日韓両国政府間で合意の上でそのような処理をしたということでございます。」というふうに答弁なさっておられますが、実はそうではない、韓国の方にも、私は政府要人にもお会いしましたが、それは別としまして、韓国政府はことしの一月二十一日、各省庁の実務責任者会議を開いて、日本政府に対して徹底した真相究明と適切な補償などを求めていくという、そういった方針を決定したというふうに伝えられているわけですね。つまり、韓国政府はここで処理済みということには納得していないということがこの報道で明らかにされるわけでございますが、そういう意味でも国際司法裁判所規程に用いられているようなこの法の一般原則ということは大変重要になろうかと思うわけでございます。
 そこで、外務省にもう一度お伺いしますが、外交ルートを通じてこのような徹底した真相究明及び適切な補償というようなことが韓国政府から伝えられておりますでしょうか。

○谷野政府委員 ただいま先生がお示しになりました韓国側の措置について、その部分を読み上げてみたいと思います。
 まず徹底真相究明に努めてほしい、そしてこれを基礎に補償、賠償等の問題について国内の専門家あるいは当事者の意見をよく聞いて、その上で日本と外交交渉を展開する、こういうことでございまして、私の申し上げたいのは、今までのところ韓国政府が外交ルートを通じまして日本政府に要請してきておりますのは、まずは徹底して真相の究明をしていただきたいということでございまして、補償あるいは賠償という話は今のところございません。

○伊東(秀)委員 私が韓国の方からお伺いしたところでは、この問題は非常に民族の尊厳の根幹にかかわる問題であり、基本的な新たな事実が判明した現時点においては要求したから払うという性質のものではない。申しわけなかったというふうに謝罪するのであれば、日本側が信義のある国として自発的に補償を申し出てくるというのが国際間の信義であろうと考える。だからそれを今は見守っている。ただし、日本政府があくまでも解決済みということを、前提を早急に変えないのであれば法的な措置をとるということを、私は直接韓国の政府関係者の方からお伺いいたしました。ということは、今は適切な補償の要求が外交ルートに乗ってないにしても、早晩、いつまでも裁判を見守るとか決着済みということを繰り返している限り外交ルートに乗るであろうということが予想されるわけでございます。
 外交ルートに乗った場合どうなるかということを私は調べてみましたが、これは先ほど条約局長も条約の無効や取り消しの問題にちょっと触れましたが、条約法に関するウィーン条約というのがございまして、この四十八条というところに「錯誤」の項がございます。つまり、条約を締結するときにその基礎をなしていた事実関係に錯誤がある場合には、この場合は韓国側ですけれども、韓国側はこの条約の無効、だから、日韓条約の一部、従軍慰安婦については請求済みと日本が主張し続けているこの部分に関してのものをたとえ前提にしたにしても、これの無効を主張して、国際的な、国連への平和的解決の協議の申し出とか、あるいはそれでも日本政府が聞かない場合には国際司法裁判所へ訴え出るというような重要な外交問題になるのではなかろうかということが予想されるわけでございます。
 こういったこれまでのことを前提にして、渡辺外務大臣、まだ真相究明ができるまでは裁判の結果を見守るという態度を続けるのか、あるいはとにかく新たな事実が発見された、しかもその前提事実には錯誤があった、条約の解釈としても錯誤無効という、一部条約の無効という問題が外交ルートに乗るかもしれないということを前提にして、どうお考えになりますでしょうか。お答えお願いいたします。

○渡辺(美)国務大臣 日韓条約が交渉が始まって締結されるまでには十三年ぐらい長い時間がかかっているんです。当然その中では意見の違いがあるから、交渉が長引いた。最初は賠償というようなことも出たでしょう。いろいろ出ました。しかし、いや、こちらは別な意見を出した、そして最終的には賠償でなくて、それで請求というようなものに決着をつけようということになり、それは経済協力という形をとろう。で、無償三億ドル、有償二億ドルということで決まったわけです。
 じゃ、何でそれを算出したんだ、無償という金の中身を。これについても私など当時の交渉の記録等に出ているところを見ると、やれ軍隊の徴用だとかいろんな問題が出たそうです。出たけれども、それじゃそれらを全部金目にして、何が幾ら何が幾らと積み上げることは事実上、事実上ですよ、これは不可能に近い、評価の仕方が。そこで、政治決着ですから、こういうものは。だからそれはひっくるめて、それで無償三億ドルでお金を差し上げますから、経済協力で、どういうふうにお使いになるも向こうにお任せする。それから有償については二億ドル出します。当時は、まあ三百六十円ぐらいのレートだったと思いますが、予算も今の恐らく十分の一ぐらいじゃないですか。正確なことはちょっとわかりませんが、一千億円ぐらいの金を出したんですから、今でいえばまあ数兆円か一兆円か、それぐらいの金額に匹敵するでしょう、経済の規模あるいはGNPの大きさ、予算の規模等から比べると。そういう中ですから、当時としては日本の国力もそれほどじゃありませんし、かなりのものを出すことで決着がついたということですね。
 そこで私は、法律論争をこれは幾らやっても同じことの平行線で、これは繰り返したと思うのです。しかし、現実の問題として、大きな人道問題としてこれが提起され、それでまた政治問題になっている。これは事実ですから、だからこれは法律論争で負け勝ちを決めると言ったって、実際は、それはそう簡単に決まる話じゃない。幾ら国際裁判所へ訴えようが何しようが、年数ばかりかかっちゃって、私は決着しないんじゃないかと思う。したがって、非常に悲惨な方々ですから、だれが考えたってお気の毒だ、本当に申しわけないという気持ちはあるんですよ。だから、そういうものについて何か、まあ申しわけなかったというんなら申しわけなかったようなことを、目に見える形で何かするのがやはり政治かなという感じを受けているんです、実際は。
 しかしながら、そうはいっても、じゃ、だれとだれがその対象なんですか、今訴え出た人だけなんですかと。すると、数名という話になっちゃうわけですね。だからもっと実際はいるんじゃないかというようなこともあって、しかし、そういうような方の実態がわからないことにはやりようがありませんから、裁判は裁判でそれは継続されるのは結構ですが、一方はそういうような実態調査をやって、大体この程度の人が確実ということになれば、しかし、この問題についてやり方を間違うと、どんどんどんどん広がっていっちゃって、何のために日韓の条約を結んで、ここで一切終わりと決めたかわけがわからなくなってしまいますからね。
 そこらの兼ね合いも、これは日本としては国益の問題ももちろんありますし、負担が多ければ多いほど日本国民が喜ぶという話じゃありませんから、これは国の税金との関係もあるわけですから、だから、ほかのところにどういうふうに広がるか広がらないかという問題も含めて、韓国政府は政府として当時の軍人さんとかなにかには何がしのものを出したということも聞いていますよ。だから、そことの兼ね合いというものも一体どうなるのかというもの等も含めて考えなきゃならぬ。
 しかし、お気の毒であったということも事実ですから、どういうふうにするかは、これはまあそこらのところを全部見た上で解決をするというのが政治じゃないかなというように私は思っているんですよ。しかし、それは今訴えられている方の御希望どおりになるかどうか、それはわかりませんよ、それはわかるはずがないんですから。だから、そこらのところでどうなるかはもう少し調べていかないと結論は出せないと私は考えています。

○伊東(秀)委員 大変積極的な御答弁で私としてはうれしいわけでございますけれども、今の御答弁で伺いますと、つまりだれが慰安婦であったかが、調査というか真相究明は、だれが慰安婦であったか。つまり、支払い先を確認しなければいけないということが、それがわかれば支払います、軍が積極的に、しかも組織的また計画的に関与していたという事実を前回私は明らかにしたわけでございますが、支払いはするけれども支払い先を明確にしたい、そういうことと受けとめてよろしいんでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 そこまで私は具体的に言っているわけじゃないんですよ。何かの記念事業という問題もありましょうし、よく戦没者等に忠霊碑を建てるというようなこともございましょうし、何かそれはこれから考えることであるが、しかし大体どれくらいの人数でいるかということも全くわからないのですね。もう三人や五人の解決なら話は簡単ですよ。しかしそういうこと、実態がまずつかめなければ話のしようがもちろんないわけですから、ですからそういう点については向こうでもよく真相を究明をする、調査をしてみると言っているそうだし、我々の方でも調査をしますと言っているわけですから、そこは友好国との間でございますから、よく相談をしながらやるということではなかろうかと存じます。

○伊東(秀)委員 実態調査は当然しなければいけないことでありますし、宮澤首相も誠実な調査を韓国に約束してきたという事情もございますので当然かどば思いますが、ここに、日朝の交渉に出席しておられる第六回交渉の中平代表の発言というものの中に大変気になるのがあるんですよ。従軍慰安婦の問題の噴出に驚いている、朝鮮の指摘する罪行の真相が解明されるには何世紀かかるかわかもないというようなことを言っているわけです。つまり、何世紀かかるかわからないような調査のことを考えているとしたら大変問題なわけで、あくまでも誠実に、実態が解明したら、形はともあれ支払う気持ちがあるということを前提にするのかどうかのことは大変重要な問題だと思うんですね。払うか払わないかはわからないけれども、何世紀かかってでもとにかくえっちらほっちら調査しましょうなんというんじゃ、大変国際関係の、重要な外交のパートナーとしての韓国との日韓関係はますます悪くなるんじゃないかと思うわけでございます。宮澤さんが初めての外国訪問に韓国を選ばれたというのも、やはり北東アジアの平和とか安定にとって非常に重要なパートナーだというお考えのもとに私は韓国にいらっしゃったんだというふうに理解しておりますし、やはり調査というからにはいつごろをめどに何と何を明らかにするということを明確にしなければいけないんじゃないかと思うわけですね。
 それと、あとこういうことは、私が従軍慰安婦でしたということを名のり出て受け取る側も非常に恥ずかしい。もう今お金が欲しくてこういう訴えをしているのではなくて、やはりあれは軍は関与してない、民間人が勝手にやったんだというふうに言い切っていた政府の態度に対する自分の屈辱に、汚辱にまみれた人生は何だったのかという、戦後五十年たって彼女たちの人間としての憤りと憎しみが噴出したのが今回の訴えであり、日本政府に対する請求だと私は思うわけでございますけれども、そういう意味からいっても、だれに払うかわからないというんじゃなしに、とにかくこういう事実が従軍慰安婦と言われる人たちに対して行われた。そうすれば、とにかく、基金にするかあるいは記念碑を建てるか歴史博物館を建てるか、あるいはそういった人たちの生活保障、名のり出てきた人たちに蓋然性が証明されれば生活を援助いたしましょうと、何らかの形をとるとか、そういったことが非常に私は、日本は経済大国と言われているわけでございますけれども、大事なことじゃなかろうかと思うわけでございます。そこまでもういま一歩踏み込まなければだめなんじゃないかなという気がするわけでございます。
 それで、それを前提にしまして、また今までこういった措置が幾つかとられておりますので、こういったことは考えられないかという形で提起できる例があるわけでございますが、昭和六十二年の九月に台湾住民の戦死傷者への補償という形で弔慰金を払っているんですね、議員立法をつくって。こういう方法もあるのじゃなかろうかと思うわけですが、これをすることに何か支障があるかどうか、この辺の見解はいかがでしょうか。

○渡辺(美)国務大臣 これは、日本の軍に徴兵されてそれで戦死した方とか、それかも重度の負傷を受けて目が失明したとか、あるいは腕が足がなくなったとか、いろいろなそういうような方、悲惨な方があって何もされていない。そういうようなことで議員立法をされたことは事実ですが、こういうのはどんどんそれはもう申し出がありますよ。だから人の確定もしやすい。しかし、この従軍慰安婦の問題というのは、申し出の問題というのはなかなか実際問題として、これは生存されておったとしても、あるいは遺族にしても薄々わかっておってもそれはなかなか言いづらい問題ではなかろうかと私は思います。したがって、そういうものも含めて何らかの済まないという気持ちをあらわす何がいいか、それは今後考えていきたい。それには一人一人の者がみんなわからなければなんて、そんなことはそれはもう不可能ですから、大体大ざっぱなところがわかれば政治的な配慮をしていくということ以外に私はないんじゃないかという感じですよ。これは内閣で決まったわけじゃないからちょっと言い過ぎかもしらぬけれども、よく相談をしていきたいと思っています。

○伊東(秀)委員 大変積極的な御姿勢でうれしいのですが、もう一つ、立法は難しいとすれば、在韓被爆者への処置として、九〇年の五月に盧泰愚大統領来日の折に、総額四十億円の支援を表明された。つまり、人道的な立場から、本来ならもう日韓条約で決着しているけれども、政治的な決断として、四十億円在韓被爆者への支援をしたわけですね。そして、医療費とか診療体制とか、あるいは福祉センターをつくるとか、そういった韓国に住んでおられる被爆者の方々への四十億円予算措置をして、去年十七億、ことしの平成四年度の予算でも二十三億円計上しているんですね。こういった措置は考えられないか。つまり、個々人を特定しなければというんじゃなくて、もう政府の関与がここまで明らかになった、そうしたら、この在韓被爆者への措置的な一種の基金をつくって、そして後は、基金の使い道は、当事者とかあるいは韓国にそういった関係者が集まった機関をつくってもらって、その機関に任せるというような方法、これはいかがでしょうか。

○谷野政府委員 私の方から、事実関係だけ確認のために申し上げたいと思いますが、在韓被爆者の問題、確かに四十億円の基金をつくりました。ただいまお願いしております予算案でそのうちの二十三億円をお願いしておるわけでございますが、その前提になりますのも、先生もお触れになりましたように、六五年でこの種のことも含めて日韓間においては決着済みだということを日本側は明確にいたしました上で、この問題を特に取り出して、人道的な見地から何とかしてさしあげなければいけないということで、四十億円の手当てを基金の形でさせていただいておるわけでございます。

○渡辺(美)国務大臣 私が今答弁した中で、大ざっぱな調査と言ったみたいですが、それは語弊がありますから訂正しますが、おおよそという意味ですからね。正確な一人一人、何千何百何十何人という意味じゃないという意味です。
 それから、その後のことは、数字を挙げて何をするというような具体的なことをここでまた申し上げられる段階ではない。

○伊東(秀)委員 いや、外相として、こういった政治的な解決、立法までしなくても、基金を設置して、そして関係者の福祉に役立ててもらうというような構想についてはいかがですかというお伺いをしているのです。
○渡辺(美)国務大臣 そういうことがいいのか、もっと気持ちがすっきりするような形がいいのかも含めまして、それは内々、相談をする場合は、内々話をするということじゃないのか。ここで一方的にこっちが決めちゃってどうのこうのという話じゃないと私は思っています。まだその段階ではありません。

○伊東(秀)委員 内々というのは、韓国との間でというふうに私は理解してよろしいんでしょうね。
 それから、調査の問題にもう一回戻りますが、誠実な調査、それから真相を徹底的に究明するというのであれば、今まで政府がやってきたような調査では大変私は、まさしくふまじめだと思うんですね。どういう調査をやってきたかを伺いましたところ、ヒアリングを平成二年の六月に五名、二日間にわたって厚生省の勤労局にもと勤めていたような人から聞いたということとか、あと、やはり平成二年度に、二日から三日かけて九万人の強制連行者の名簿を当たったが従軍慰安婦らしき人はいなかったとか、それで、裁判が起きてから、昨年の十二月十二日に、自治体への調査とか、六省庁に調査を指示したというのですけれども、もっと本格的に、韓国の方の方々も含めたり、韓国へ出かけていくぐらいの実態調査が必要じゃないかと思うわけです。それには、たとえ数百万円でも予算措置を講ずべきだと思うわけですが、この点について、大蔵大臣、いかがでございましょうか。

○羽田国務大臣 この点につきましては、昨年の末から官房の中で調整、調整といいますか連絡をとりながら調査を始めているということでありますし、また先ごろも、たしか先生に対する御答弁だったですか、総理からも誠心誠意やります、調査をしていきたいということを申し上げて、実際に調査に各関係省庁が今当たっておるということでございまして、今予算的な問題があるというふうに私どもは聞いておりません。予算的に、予算がないからどうこうということじゃなくて、各省の中でそれはやりくりしながら十分調査ができ得るものであろうというふうに考えております。

○伊東(秀)委員 特別には予算措置は講じるつもりはないというふうに御理解してよろしゅうございますでしょうか。

○羽田国務大臣 関係省庁の中でそれは手当てしながら対応しておるというふうに承知しております。

○伊東(秀)委員 ぜひともこの問題については、誠実にして現実的な対処をお願いしておきたいと思います。

 さて、日韓請求権協定によって、「両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決」したとの主張には抜けがあった。つまり、外交保護権の放棄が“個人の請求権の消滅”には繋がらないということである。
 この請求権の処理も何ら根拠があっての、つまり、法理に適った、或は個々の事実の積み上げ額に依るのでなく(既に協定当時において資料・事実が不明で、事態収拾がつかなかったのである)、丼勘定、摑み金なのである。
 日本国の海外経済協力基金で二億合衆国ドル貸付、それと十年の期間にわる無償供与の三億合衆国ドルで、手を打ったということである。当然の結果として当事者である個々の国民の声には耳を塞いだ。問題は積み残した。

 日韓請求権協定の1に「前記の供与及び貸付けは、大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」とあり、韓国政府は外交的保護権の放棄は承知し、協定の字面によれば何ら問題はないようにみえる。
 ならば、河野外相の云う、「国際法の基本が崩れる」とは何を意味しているのだろうか。
 また、外交保護権については、「ある国が他国に対して外交保護権を行使する場合には、国籍継続の原則と国内的救済完了の原則という2つの要件を満たさなければならない」と。韓国にとっては1910年韓国併合の事もあり紆余曲折が予想されるが、外交保護権は放棄しているので何ら問題は生じない筈である。

 政治的合意の未履行を指しているのだろうか。例えば、秘密協定の存在とかである。

 第031回国会 衆議院外務委員会 第12号 昭和三十四年三月十三日」

○竹内(俊)政府委員
 次に日韓会談における秘密協定があるかどうかという問題でありますが、韓国の駐日柳公使が日韓会談にはその途上において秘密協定がある、場合によってはこの秘密協定を暴露してわが方に報復するという意味のことを公言しておるのであるが、秘密協定が実際あるのかという大西委員のお尋ねに対して、そのような秘密協定はない、ただ会談中に日韓間で取りきめた事項でこの部分だけは公表しないでおこう、いわゆる非公表を双方合意した部分が若干あるとお答えしたのでありますが、その非公表事項は何々かというお尋ねでありますので、その点をお答えするわけでありますが、これは昭和三十二年十二月三十一日抑留者相互釈放及び日韓会談再開に関し日韓間で取りきめた事項中非公表分の項目を申し上げるわけであります。
 その第一は合意議事録についてでありますが、その中に三点あるわけでありまして、その第一は抑留者相互釈放の実施期間、第二は日韓会談の議題及びその細目、第三は日韓請求権問題の処理、これが合意議事録についての今申し述べました非公表事項であります。
 第二は文化財問題の取扱いに関する口頭伝達事項であります。これも双方合意の上に非公表事項としております。
 第三は大村収容所の仮釈放者の帰還について。以上非公表事項としては今申し述べました一、二、三の三件がございます。

 第038回国会 衆議院外務委員会 第9号 昭和三十六年三月十七日

○松本(七)委員 さっき出た相殺思想なんですが、三十二年十二月三十一日付のいわゆる合意議事録の中の請求権に関する部分についてというのは発表になったわけですが、これの全文はお出し願えないのですか。

○中川政府委員 合意議事録はその会談の際に双方の代表がどういうことを言ったか、そのうち将来に証拠に残しておく必要があるものを合意議事録にするわけでございまして、これは慣例といたしまして、やはり非公表のものでございます。しかしながらそのうちの今の請求権に関する分といいますか、財産請求権に関する分だけはアメリカの解釈とどうしても関係がありますので、アメリカの解釈を会談の中途ではございますが公表するということになりました関係上、その分だけは特にあわせて公表しようということでこの間双方で同意いたしまして、一緒に公表いたしたわけであります。従ってそれ以外の合意議事録につきましてはやはり日韓双方としては依然としてこれは非公表にしておく方が適当であるという考えに立ったわけでございまして、従ってこれは公表しないことになっております。それ以外の分は公表しないことになっております。

○松本(七)委員 それは両国の話し合いですか。

○中川政府委員 両政府間の話し合いでございます。

○松本(七)委員 それからこの前川上さんの質問に対する御答弁だったと思うんですが、請求権に関する日本の従来の主張を撤回する、アメリカ側の解釈が出てから日本の主張を撤回したわけでしょう。そうすると三十二年の十二月三十一日から日本の主張は変わった、こう解釈していいですね。その点ちょっと確認しておきたいと思います。

○中川政府委員 撤回いたしましたのは、三十二年の十二月三十一日でございますので、それから日本の解釈が公に変わったということがはっきりしたわけでございます。

○松本(七)委員 そうすると結局それ以後は日本側が一方的に請求権を放棄して、そうして韓国側の請求権だけが残るということを日本政府は同意した、こう理解していいですね。

○中川政府委員 その点が第一点でございますが、そのほかに、要するに日本側の請求権が放棄されたという事実は韓国側の請求権を交渉する際に考慮に入れるべきであるということが第二点としてあるわけでございまして、その両方について日本は同意したわけでございます。

○松本(七)委員 そうするとその次に問題になるのは、日本政府としてはさっき大臣がちょっと言われたようにどの程度で韓国の請求権が消滅したとかあるいは満たされたと考えられるか、これは問題になるわけですね。

○中川政府委員 そういうことでございます。

○松本(七)委員 だからどの程度で満たされるものと考えるんですか。

○中川政府委員 その点をこれから交渉できめようというわけでございます。

○松本(七)委員 そうするとまだ全然めどがつかない……。

○中川政府委員 これから交渉するわけでございます。

○松本(七)委員 これはいつですか、だいぶ前ですね、中川さんが書いておられるのは。例の久保田発言のとき久保田発言が一九五三年の十月二十一日ですね。この決裂した日韓会談の様子が翌年の一九五四年の初めに出たんです。これは「世界の動き」特集号ですね。中川さん、あれを見られたでしょう。

○中川政府委員 特に記憶しておりません。どういうことが出ておりましたか……。

○松本(七)委員 それにこういうことが書いてあるんです。この会談は約二週間続いた。この決裂したときの会談は……。韓国側の主張は、従来の通り日本側が明治四十三年韓国を併合し、自来三十六年間占領を続け、韓国を奴隷にした、まあそういう観念で出発しているということが解説されているわけですよね。そうしてここから一切の議論を引き出す態度であった。これには中川さんもちゃんとそれを書いておられる。たとえば財産請求権の問題に関して日本側が戦前韓国にあった日本の公有財産は平和条約によって韓国がこれを取得することは認めるが、日本国民が持っていた私有財産、カッコして終戦時の価格で約百二十億円ないし百四十億円、金額が出ているんですよ、に対しては請求権を有すると主張するのに対し、これは日本側がそういう額をあげて主張したのですね、に対して韓国側は日本人は在外私有財産に対しても一切の請求権を認められないのであるとして抗弁した。そうして、続いて財産請求権の問題は、日本における韓国人の財産九十億円ないし百二十億円に関する請求権だけに関して考えられる、韓国側が主張した。こうして両方の主張は金額をあげてなされたように書いてあるのですね。そういう事実はあるのですか。

○中川政府委員 会談の過程におきまして金額が正確に言及されたということはないと考えます。従って日本の韓国における財産が百四十億ですか、百八十億ですか、そのころの価格であったということも、それは日本側のその当時の推算ではないかと思います。また韓国側が日本に対し百二十億ですか、そこでいわれておる、それを主張したということも、それは非公式の推算ではないかと思います。会談録を見ましても、特に金額が双方の代表から言及されたということはない模様でございます。

○松本(七)委員 続いてこの米国の解釈なるもの、見解、三十二年十二月三十一日に示された米政府の見解というのは、平和条約締結当時は日本は全然それは知らなかったわけですか、どうですか。

○中川政府委員 一番最初のアメリカの解釈のいわば中核をなすクォーテーションで引用してある部分、これが韓国側に提示をされましたのが、平和条約が発効した日かその次の日でございます。従ってそのときに韓国側に知らされたわけでありますが、同じ年の五月十五日だったかと思いますが、在ワシントン日本大使館にもその写しをアメリカ側から送ってきておるわけであります。このときはすでに第一回会談は終わったあとでございまして、従って第一回会談中は、日本政府はアメリカ側の解釈なるものをはっきりは知っていなかったわけでございます。

○松本(七)委員 そうすると、平和条約当時は依然としてこのような、そのあとわかったアメリカの解釈というものは、国際法違反だという考えであったと理解していいわけですね。

○中川政府委員 第一回の会談でわが方から主張した通りの解釈をとっていたわけでございます。

○松本(七)委員 第一に問題になりますのは、その平和条約の当時は、それがわかっていなかった。それから日本側の解釈もまたアメリカの見解とは違った解釈を持っておった、こういうことになると、その後解釈を変えるについて日米間だけでこれは解釈を変えていいものかどうか、平和条約というのは日米間の条約じゃないのだから、はたして日米間だけで、つまりそういった米国だけの解釈によってこれをやることが正しいのかどうかという問題があると思う。その他の連合国の意見を一体聴取したことがあるのかどうか、その点はどうでしょうか。

○中川政府委員 本件につきましては、このアメリカの解釈ということは、もちろん向こう側から知らしてきたわけでございまして、五七年になりましてまたそれを敷衍いたしまして、さらに知らしてきたわけでございます。アメリカの解釈はそれではっきりわかっておるわけでありますが、それではほかの連合各国の意見を聞いたかどうかというお尋ねでございますが、これは特に聞いておりません。というのは、日本の政府が解釈を変えました理由は、アメリカの解釈といわれるものが、それが条約のすなおな解釈である、それが適当である、それの方がむしろ初め日本側がやっておりました解釈よりも適当である、と考えましたから変えたのでございまして、特に連合各国がみなその解釈をとっているから日本もそれに従ったのだということではないわけでございます。条約の解釈は、それぞれ当該国がこれをなし得るわけでございまして、従って、特にこの条約に参加いたしました連合各国の意見を聞きまして、その過半数がこういう解釈だからというわけで何も解釈を変える必要はありません。また解釈について疑義があれば、最後には国際司法裁判所に訴える道も開かれておるのでございまして、むしろ日本政府が自発的にアメリカの解釈が適当であるというふうに考えまして、これを採用したわけでございます。

○松本(七)委員 解釈は独自にできるとしても、そうするとその次に起こる問題は、三十二年に解釈を変更したことによって、解釈の変更だけで国の財産あるいは私有財産を放棄することが一体できるのかどうか。その法的根拠はいかがですか。

○中川政府委員 解釈の変更と申しますけれども、最初からそういうふうに解釈すべきであったということでございまして、その政府の解釈を変えたから、それによって放棄されたのだという法律論にはならないのでございまして、要するに、最初からそういう意味の条項であったということになるわけでございます。従って平和条約発効と同時に在韓日本財産は権利をすべて持ち去られたというふうに解釈するわけでございます。

○松本(七)委員 それはちょっとおかしいじゃないですか。あなたは最初からそうすべきだったと言っても、最初は全然違う解釈が政府の正式の解釈として出されておるのです。その解釈に基づいて国会は承認しているわけでしょう。

○中川政府委員 国会で御審議のありました際の議事録を詳細に私も調べてみたのでございますが、この四条(b)項につきましては、明確な発言が政府当局からも特になされておりません。また御質問もないのでございますが、その当時の政府当局のこの条項についての説明は、これは新しく実は最後の草案が示された以後に入った条項であって、十分これについての連合国側、起草者側の解釈を聞くいとまもなかった。またあのときの状況を振り返ってみますと、結局条約は草案の段階で非常に関係各国と協議して、アメリカ、イギリス両国が起草にあたりまして協議したのでございますが、サンフランシスコに会議が開かれましてからは、各国の意見というものをそれぞれ各国代表が演説する、それが一応終わりますと、そこで調印ということになったわけでございまして、その会議の席上であらためてこれの修正を申し出るとか、そういうような形の会議ではなかったのでございます。四条(b)項というものはむしろ最後の段階において入ったということで、日本代表団としても、はっきりその解釈について、いわば公定解釈というようなものについてアメリカ側と打ち合わせたという記録がないのでございます。それで国会における御審議におきましても、むしろそういう趣旨の説明が政府当局からありました。しかしここに書いてあることは、日本の財産はこれでなくなったものである、しかしながらその事実は韓国との請求権問題の協定をする際に考慮に入れるということになるであろう、こういうような説明をその当時政府委員からいたしております。従って、そういう趣旨で国会は通った、国会の御承認を得たものであると思うのでありまして、政府側のそのときの答弁を見てみますと、今のアメリカの解釈とそう違ったものでもないようでございます。むしろ、わが方が日韓会談において当初から正規な法理論を展開いたしまして、請求権というものは依然として日本に残るのだということを主張いたしましたのは、むしろ交渉の最初の過程におきまして、初めから日本が全然日本財産はないのだ、こういうような主張をいたしますと、これはほんとうなら韓国から請求権の膨大な要求がありましても断われるものも断われなくなるといういろいろな事情を考慮いたしまして、いわば交渉技術という点も考えに入れましてこういう主張をしたとも見られるのでありまして、交渉がだんだん進みますと同時に、わが代表団といたしましても、やはりよりすなおな、より適当な解釈に変える必要を認めまして変えた次第でございます。初め調印し、国会の御承認を得ましたときの解釈と違った解釈を特に政府が三年前からとったということでは必ずしもないと思うのでございます。これは日韓交渉という交渉を片方にやっておりました関係上、このような過程になったわけであります。

○松本(七)委員 いろいろ交渉の過程で戦術上だとかその他の理由から解釈を変えるのだという、その経過は別として、いやしくも私有財産なり国の財産についての取り扱いがこれで変わるわけですね。あなたの書いておられるシリーズによっても、最初の解釈は、「日本側は、サンフランシスコ条約第四条(b)項で、日本が認めた米軍の処置は、占領軍としての米軍が戦時国際法で合法的に行いうる限度の処置であって、私有財産を没収するようなことは、戦時国際法において認められないところであるから、サンフランシスコ条約で認めた限度には入らないと主張した。又、いわゆる「取得命令」それ自体も必ずしも日本財産を完全に没収したものと解すべきでなく、戦時国際法で認められた限度内の敵国私有財産管理の処置と見るべきであり、従って原権利者の補償請求権は依然残っていると解釈すべきであると主張した。」こういうふうになっているのです。そうすると、日本の国民の私有財産の補償は、今度は日本国政府に対しては依然としてこれは要求できるということになりますか。憲法二十九条や八十三条の関係になってくると思うんですがね。

○中川政府委員 その点は、平和条約十四条(b)項あるいは十六条によりまして、在外日本私有財産があるいは連合国あるいは国際赤十字に引き渡されております。その処置と同じことになると思うのでございまして、平和条約によりましていわば所有権が持ち去られた在外日本財産というものに対する措置と同じことになると思います。

○松本(七)委員 在外日本財産と言われるけれども、朝鮮の場合は日本の法秩序の中にあったのですね。だから、その点は普通の在外財産とは法律的には違うと思うんですが、どうなんでしょうか。

○中川政府委員 日本の法秩序のもとにあったと申されますが、たとえば関東州租借地も日本の法的秩序のもとにあったわけでございますが、ここの財産もやはり同じようなことになると思います。戦争まであるいは終戦まで日本の法的秩序のもとにあったかどうかは別といたしまして、平和条約によっていわばきれいさっぱりと、そういうものが要するに日本の手から離れることになったのでございます。従って、日本の法的秩序のもとにあったかどうかということにおいて特にその点の差異は出てこないように思います。

○戸叶委員 関連して、今松本委員の質問を伺っておりますと、中川局長は、日本はアメリカが韓国にある日本の財産を勝手に所有してしまっても、それは戦時国際法上違反でないというような考え方を最初から持っていたかのような発言をされておるのでございますけれども、そういうふうな態度で私は最初から臨まれたのではないというふうに考えます。なぜならば、この間木原さんが予算委員会で質問されたときに、小坂外務大臣の御答弁を速記で読みますと、こう書いてあります。「これは御承知のように一九四五年に軍令によりまして、韓国にありましたわが方の財産については取得し所有するということに、米軍がいたしておるわけであります。四八年にこれが韓国へ引き渡されておるのであります。一九五一年に平和条約ができまして、その四条(b)項におきまして、引き渡されておるという現状を認めたのであります。そこで一九五二年に日韓の交渉が最初に行なわれましたときに、ただいま木原さんが言われたような趣旨をもって、わが方から、占領軍は戦時国際公法に認めたことしか行なえないのであるから、これは私有財産には及ばない、従って四五年の軍令においては、これは管理したにすぎないから、管理権の移転というものはあったけれども、それを認めたにすぎないのだという主張をした」が、これがもとになって韓国を刺激して先方が激高して、そしてこの交渉を断わったんだ。それからアメリカの見解というものが出てきて、そして日本はアメリカの見解が正しいのだというふうに見直したということを答弁されております。こういうふうにこの答弁を見ましても、アメリカが韓国にあった日本の私有財産まで全部没収してしまうというその権利というものは、国際法上認められないという考え方に日本は初め立っていたはずです。それがこのアメリカの見解というものに日本が服従したということになるのではないか。これはすなわち国際法上の考え方というものを、このときから日本が曲げて考えてきたとしか私たちは考えられないのでございますが、この点はいかがでございますか。

○小坂国務大臣 一九五二年の最初の交渉のときに、さような主張をわれわれがしたことは、今お読み上げになった速記録の通りでありますが、そういう主張をこっちがして、そして韓国側との間に全く意見が対立して膠着している。そこで米軍解釈というものが出て、これは五七年に出たわけではなくて、その前から出ておって、結局五七年になって双方が中に立った米軍の解釈というものを認めたわけなんです。アメリカの解釈にわれわれは屈従したのではなくて、両方意見が全く相反しておるので、こういう解釈でどう思う、これはもっともですということで両方合意したわけなのです。その中には先ほどから申し上げておるように、日本が私有財産を放棄したという事実を、今度は四条(a)項の特別取りきめの際に考慮するのだ、こういう相殺思想において認めたわけなのです。確かに占領軍が軍令によって私有財産を取得し所有するということは、それをまた没収を認めるということは、ハーグの陸戦法規の四十六条を越える措置だと思います。しかしこの越える措置というものは、やはり戦争の規模がいろいろ変わり、五十年前のハーグの陸戦法規ができた当時といろいろ状況が変わっておるのだから、そのもとにおいて新たなる解釈というものが出てくることは、これは国際法というのは御承知のように慣習法のような、慣習の積み重ね的なものが国際法の一つの基礎になっておるわけですから、そういう意味においてわれわれはそれを認めた、こういうことであるのであります。

○戸叶委員 関連ですからこれ以上追及しませんが、それではこういうふうに占領軍がどこかの国へ行って私有財産を没収して、そうして勝手にそれをすることができるというようなことが国際法上許されると、これからの国際法はそういうふうに解釈するのだと、こういうふうにお考えになるのでしょうか。そしてまた世界各国ともそういう解釈のもとにあるのかどうか、この点も伺いたいと思います。

○小坂国務大臣 この韓国財産に関する問題は四条でございますけれども、そのほかにもさっき話が出ましたように、十四条(b)とかあるいは十六条においては、ことに中立国にある財産まで国際赤十字に出しておるわけです。ドイツの場合においてもこれは同様なことが行なわれておるのであって、やはりこうしたことが一つの先例になっていくということになろうかと思います。

○戸叶委員 これは先例になって、そして戦前の国際法上から見たこういう問題に対する解釈が戦後は変わった、こういうふうに理解するわけでございます。

○中川政府委員 国際慣習法が今度の戦争以後に変わったというのは行き過ぎだと思います。そこまでまだ慣習が確立したわけではございませんが、そういう事例が相当出てきておるということは事実でございます。

○戸叶委員 この問題は非常に重大な問題ですから、この次の機会にもう少し深くやってみたいと思います。

○松本(七)委員 最後に相殺思想についてですが、これは外務省の見解と言われている。だれが言われたか知らないけれども、他の機会で述べられているところと一致するところを見るとおそらく中川さんではないかと思うのですがね。例の外務省が日韓請求権に関する文書を公表したときの外務省の見解として、どの程度まで相殺されるかが問題だ。しかしこれは機械的に財産権の大小を比較して突き詰めたものではない、こういうことが言われているのです。そうすると何で一体はかるのですか。この相殺の定義といいますか……。

○中川政府委員 これは何ではかるかということは非常にむずかしいことでございまして、はかるものさしというものがきまっていないわけでございます。これを考慮に入れるということだけはさまっているわけでございますが、どの程度考慮に入れるかということは、アメリカの解釈でも、要するに的確な材料を持ち合わせていないからこれは日韓双方の話し合いできめるべき問題であるということを言っておるのでございまして、それをこれからの会談できめるわけでございますが、ものさしがございませんので、これは非常に困難な交渉になろうかと思いますけれども、その点は今後双方の交渉でお互いの意見の開陳によってそこで打開をはかるということになろうと思います。

○松本(七)委員 そうすると、ものさしがなくてこれはなかなか困難だということはわかるのですが、少なくとも朝鮮内に置いてきた日本の資産が総額どのくらいあるか、日本側としてはどの程度に考えておられるのですか。

○伊關政府委員 完全なものかどうかわかりませんが、日本に引き揚げてきた人たちからの報告を徴しまして、大蔵省でそういう資料を持っております。私はそれが当時の金額で幾らかということは覚えておりませんが、大蔵省で資料は集められるだけ集めております。

○松本(七)委員 それは出していただけるのですか。

○伊關政府委員 大蔵省とも相談いたしまして出します。

○松本(七)委員 しかし軍令三十三号によって接収した財産は、これは韓国に引き渡したわけでしょう。韓国に引き渡したという証拠は何でしょうか。

○伊關政府委員 四八年九月何日でございましたか、アメリカと韓国の間の財政並びに財産に関する取りきめというものがございます。これによって渡しております。

○森島委員 関連して。先ほど在外公館設置法で自由に韓国大使が任命できるというふうな御発言があり、小坂さんからは御相談をするというふうな御発言がありましたが、これは国内的な措置と対外的な措置とを混淆しているからこういうことになるのではないか。少なくとも韓国との間には、私は外交使節の交換とか国交の回復とかあるいはその他実質上国交開始に至る諸条項を含んだ条約等ができるものと思う。これらのものを基礎として大使が任命されるということで、国会に対してはぜひとも審議が必要だと思うのですが、これに対するはっきりしたお答えを外務大臣から伺っておきたい。

○中川政府委員 条約的な見地の分を私からまず最初に御説明したいと思います。
 基本関係についての条約を日韓間で作る必要ありやいなやという問題は、実は非常に大きな問題でございまして、ただいま森島委員御指摘のように、作る方が自然であるという考えもあるわけでございます。われわれ初めはそういう考えでいたのでございますが、この際日韓間に基本的なことをきめる条約を作る方が、大きな政治的な意味ではたして適当であるかどうかという別な見地もございます。従って、そこらのことは今後の様子を見た上で、いわば弾力的にきめていく方がいいんじゃなかろうか。従って、もしそういう基本条約ができないという場合がかりにありとすれば、その際大使の交換だけということであれば、形式的には今の設置法だけでそれでもできるということもあり得るということを申し上げた次第でございます。

○森島委員 先日の御説明によりますと、私ここに速記録を持っておりますが、日本政府に対する準外交機関として設置をされたのだ、こういうような御説明があって、やはり両国政府間に相互承認なり何らかの法的な措置がとられなければ、そのまま在外公館設置法だけで任命するということは私は不可能だと思う。その点対外的な関係と国内的な関係とを混淆しておるんじゃないかと私は思っておるのです。この点をもう一度はっきりしていただきたい。

○中川政府委員 もちろん日韓間に大使館をお互いに設置するということをきめます際には、両国政府間の合意が必要でございます。しかし、その合意は従来のほかの国の例に見ましても、必ずしも国会にお出しして御承認を求めるような格好での条約とかなんとかいうことではなくて、あるいは文書の交換とかその程度のものでやられることがむしろ多いんじゃないかと思います。従って、合意は必要でありますけれども、特に条約というような形はとらなくてもよろしいということを申し上げた次第でございます。

○委員長 川上貫一君。

○川上委員 私は前会の質問が残っておりますし、また、きょう松本委員の御質疑に対する政府の御答弁の中には、片言隻語ではありましたけれども、大へんな重要な問題を含んでおると私は思います。この点についてはきょうは時間がありませんから私の質問は留保させていただいて、次の国際情勢に関する質疑の場合に適当な時間を与えていただくように、これをお願いして終わります。

 第038回国会 参議院予算委員会第二分科会 第4号 昭和三十六年三月三十日

  ○国務大臣(小坂善太郎君) 韓国の政情につきましてはいろいろと言われておるのでありまするが、何としましても韓国の国内に、やはり三十六年間にわたる日本の圧制というものに対する非常な反発がございます。もちろんわれわれはそれと異なった見解を持っておるわけでありまするが、そういうことに対しての非常に強い反発もある。そこで親日というものを掲げている張勉政権に対しまして、これに反発する力も相当あるわけでございます。で、韓国の民議院におきましても、なぜ李承晩ラインを侵犯されることを黙認しているのかという強い突き上げもあるようでございます。そういうような点がときどきああいう拿捕事件になって現われるのだろうと思いますけれども、何としましても公海上にああした排他的な線を引くということは、これは国際法上から見ましても私どもは不当だと考えておるのであります。まあ、やっていいことをやめてくれというのではなくて、不当なことをやっているということについては、これはあくまでも先方の翻意を求めなければならぬというわけで、さような点でいっているわけでありますが、これは民主主義の国でございまするから、当然いろいろな意見が勝手に言われるわけであります。その勢いのおもむくところ、なかなか各種の困難な情勢も出ることは、現象といたしましては、ある程度そういう現象はあり得ることと考えます。

○田畑金光君 先ほど冒頭に申し上げました日韓請求権問題に関する米国務省の口上書、これはどういう背景のもとに出されたのか、日本の要請によって出されたのか、それとも日韓両国の要請によってこの口上書というものが出されたのか、その点承りたいと思います。

○政府委員(中川融君) 米政府の解釈に関する覚書というのは、これは昭和三十二年の十二月三十一日に出されておるのでございますが、御承知の通り、同じ内容――その中核をなす内容は、それより先に、すでに一九五二年当時から、日韓双方に示されておるのでありまして、その間数年のあれがあったわけでありますが、日韓の交渉の進捗状況にかんがみまして、アメリカの解釈というものをさらに敷衍したものをこの際アメリカが出すということが、交渉の円満な進捗に適当であるということを日韓双方が認めまして、またアメリカもそれに同意いたしまして、それで昭和三十二年の末にああいう形のものが出されたわけでございます。

○森元治郎君 私今持ってないんだが、その口上書中に、対日平和条約の起草者は云々ということが書いてあるのですね。条約の起草者とは一体だれを言うのか、条約の起草者にアメリカ政府が委託されてしゃべっているのだということが、一体どこに書いてあるのか。ありますね、何とか、条約の起草者は云々という、その起草者ということは一体だれか、そうして、どことどこの国が起草者かしりませんが、一応アメリカ政府がこれらの国々を代表して対日口上書というものになってきた、この間のことがわからない。
 もう一点は、条約の四条(b)項の解釈――日本は管理権だけをアメリカに譲り、アメリカがさらにこれを韓国に譲ったんだと、こういう主張であったのだけれども、いや、そうではなくて、日本の財産は取得し、没収されてしまったんだと、こういう解釈になっておるのだが、もしほんとうに日本の当初の主張が正しいと信ずるならば、アメリカのその解釈に飛びつかないで、平和条約の終わりの方にある、何項ですか、専門家の中川さん知っておるだろうが、国際司法裁判所にかけるというところを援用していくという措置をなぜとらなかったか、この二点です。

○田畑金光君 関連質問ですから、それにお答え願いたいと思います。そういうような点、私これから質問しようと思っていたところですが、そこで、実は今条約局長の御答弁を承りますと、この米口上書はすでに数年前米国から示されていた、昭和三十二年十二月三十一日で、それをさらに敷衍して確認したと、こういうお話ですね。一体数年前とはいつごろなのか、この点を明確にしてもらいたいと思うのです。

○政府委員(中川融君) 初めに森委員の御質疑の点からお答えいたしたいと思いますが、平和条約の起草者ということが米国の解釈に出ております。平和条約の起草に当たりましたのはアメリカ政府でございます。なお当初平和条約の準備にあたりましては、アメリカが起草いたしまして、起草した案をおもな連合国、生としてイギリス、フランス、あるいはソ連等に見せたのでありまして、それらの連合国の意見を聞きまして、さらに起草し直し、またその段階において日本にも見せまして日本の意見も取り入れまして、最終的な案をきめたということになっているのでありますから、起草者というのは、ここではやはりアメリカ政府を指すものであろうと考えるわけでございます。
 なお、どうして平和条約自体の解釈の、紛争がある際には、国際司法裁判所に出すという規定があるにかかわらず、そういう方法をとらなかったかという点でございますが、これは一番初めの御説明で明らかになったと思うのでありますが、日本政府がアメリカ政府の解釈とあくまで反対であるという場合であれば、これは国際司法裁判所まで提訴して解釈をきめるということも必要であったでありましょう。しかしながら、日本政府はアメリカ政府の解釈の方がより適当であるという考え方に変わったのでありまして、従ってそういう手続はとる必要がなかったわけでございます。

○森元治郎君 その起草者にアメリカ大使がかわってしゃべるという、その起草者とアメリカ大使――米国との関係はどうですか。そういうことを起草者にかわってやれるのか。

○政府委員(中川融君) アメリカ政府の解釈というのは、要するにアメリカ大使館からよこしておるわけであります。従ってアメリカ政府の解釈でありますが、アメリカ政府が平和条約を作ったとき――ときというのでは、権威があまり十分でないのであります。やはりそれはアメリカ政府でありましても、平和条約を起草しましたアメリカ政府という意味で、これに平和条約起草者ということを特に書いたのであろうと思うわけでございます。

○田畑金光君 あなたの、先ほど私の質問に対して、数年前に、すでに解釈については、アメリカの方から示されていたと――数年前というのはいつごろですか。

○政府委員(中川融君) 一九五二年四月二十九日に、韓国側に提示されまして、同じ年の五月十五日に日本側に提示されております。

○田畑金光君 その当時、すでにアメリカ側から解釈が示されておる。なるほどこの口上書によりましても、アメリカ合衆国国務省は、「千九百五十二年四月二十九日付の韓国大使あての書簡において、日本国との平和条約第四条を次の通り解釈した。」こういうようにすでに一九五二年の四月に韓国の大使あてに書簡で示されておる。そうして日本にも、五月にはこれが示されておる。ところがその当時の日韓交渉において、さらにその後の交渉においても、日本政府としては一貫して、特に第四条のこの問題等については、あくまでも請求権というものを日本は持っておるのだ、こういう立場で交渉を進めてきておるわけです。その当時においては、明確にそんな立場をとってやっておられるわけです。ところが、それから昭和三十二年の十二月三十一日を契機にして百八十度転換したというのは、これはどういうことなんですか。

○政府委員(中川融君) 請求権問題についての平和条約四条の解釈について、日韓間の解釈が根本的に相違したという事実は、実は第一回の日韓会談ではっきりしてきたのでありまして、第一回の日韓会談というのは、五二年の二月に始まりまして四月にこれが決裂したわけであります。この四月に決裂しました大きな原因が、この日韓の請求権の解釈が違っておるという事実であったわけであります。これは一九五七年の末に日本が、この今のアメリカの解釈をとりまして、そうして従来の請求権の主張を撤回したときに公表されましたものがございますが、その公表いたしましたものの中でも、一九五二年三月六日に日本国代表が行なった在韓財産に対する請求権の主張をここに撤回する、ということをいっておるのでありまして、日本代表の主張というものは、実は五二年の三月六日に正式に先方に提示されたわけであります。従ってそこで日韓の見解が非常に食い違って交渉が難航した、そういう事実にかんがみまして、アメリカがその後四月二十九日にその解釈というものを示したわけでございます。従ってその次に、一年後に第二回会談が行なわれたのでありますが、五三年春に行なわれました第二回会議におきましては、日本側は従来の請求権の主張は変えはしませんでした。法理論は変えはしませんでしたけれども、やはりアメリカの解釈等におきましても考慮いたしまして、法律問題を展開しないで、現実の事実問題から片づけようということで、各項目ごとにどういう事実はどうなっているかということから討議しようということで、あまり正面切っての議論はやらないようにということで始まったのであります。先方もそれに同意いたしまして、そういう形で実はこの法理的衝突を回避しながら問題の妥結をはかろうということで、第二回会談を始めたのであります。従って第二回会談におきましては、あまり法理的な見解は主張は表に出していなかったのでありますが、第三回会談、同じ年の秋でありますが、第三回会談で妙な行きがかりから、いわゆる久保田発言というものが表に出て参りまして、結局、これが決裂してしまった。従って法理的なこの日本の見解というものは変えはしませんでしたけれども、事実上は表にして強く主張することは避けて、第二回、第三回を行なったと、その後相当長い間会議は中絶したのでありますが、その間にいろいろ考えました結果、今の解釈につきましてはアメリカの解釈をとるという立場に変わったわけでございます。

○田畑金光君 昭和二十八年ですね。その第二回の会談のあとと思いますが、外務省の情報文化局で発行しておられる「世界の動き」、これを見ますと、請求権問題等について明確に見解を述べておられるのです。その前に請求権、請求権といっておりますが、これはその財産請求権は国有財産なのか、公有財産なのか、私有財産なのか、問題になっているのはどの財産のことを意味しているわけですか。

○政府委員(中川融君) これは平和条約四条に番いてあります通り、国有も公有も私有も全部含んでおるのでございます。従って問題になりました法律的解釈は、その全部にやはり適用される法律的解釈でございます。

○田畑金光君 先ほど申し上げたこの「世界の動き」という外務省の発行されておる雑誌によりますと、こう書いておりますね。「わが国が韓国に請求しているのは、そのうち私有財産の返還である。それは私有財産尊重の原則が、歴史的にいつの時代にも認められてきた原則であるし、また朝鮮からの引揚者の利害がこの問題と、密接に結びついているからである。しかも、日本人が朝鮮に残してきた財産は、はるばるわが国から渡鮮して三十余年の長きにわたり粒々辛苦働いた汗の結晶にほかならない」。それから「平和条約で日本が認めているように、韓国にあったアメリカの軍政府の手で処分されてしまったものについては、その対価の返還を求めることになるわけである。」非常にこの点については財産権の請求権、特に私有財産の請求については国際法あるいは先例慣行、これによってあくまでもこれを確保しなくちゃならぬ、こういうことは昭和二十八年の交渉のときに明確に出しているわけです。しかるにあなたのお話のように、すでにアメリカからは一九五二年、その前の年の五月に、日本に対して条約四条の解釈はこうであるべきだということが示されておる。政府としてはアメリカの解釈があったにかかわらずなおかつ主張を通してきておる。こういうことを見たと声、なぜ突如として一九五二年の十二月の末にそういう解釈に発展しなければならなかったのか、この点を明確にしてもらいたいと思うのです。

○政府委員(中川融君) 今御指摘になりました「世界の動き」でございますが、これは久保田発言を契機といたしまして、第三回会談が決裂いたしました直後に、日本の立場はどういうものであったかということを国民に明らかにする意味で、実は解説的な意味で出したものであるのでございます。その中で私有財産だけを取り上げておりましたのは、結局財産問題の交渉におきまして、国有、公有につきましては国家相続の原則によって、結局これは新しくできた韓国政府に引き渡すのが自然であろうという日本側の考え方でありましたので、従って国有、公有については特に問題はないけれども、私有財産だけは日本としては基本的にいえば、やはり請求権があるのだ、という立場をとっておりました関係上、私有財産について強調しておるわけでございます。「世界の動き」の説明ぶりは、久保田発言に基づきまして決裂した直後でありますので、勢い日本の立場というものを強調して出しておるわけでございます。しかしながらその後三年間日韓会談が一歩も進まない。これは結局請求権にについての日本の主張と韓国の主張が百八十度違っておるからということが大きな原因でありました。また平和条約の起草者であるアメリカの解釈もこうであるということはすでに明らかになっていたのでありますので、その点についていろいろ検討いたしました結果、日韓会談を円満に進めるという上には従来の解釈は解釈そのものがやはり少し適当でない、つまり法理論としてはいろいろな理屈をつけ得るのでありまして、その一つの理屈をつけて主張もしたのでありますが、その理屈を押し通すということは、やはり平和条約の素直な解釈として適当でない、むしろアメリカの解釈は韓国の主張しておったこととちょっと違うのであります。御承知のように、日本の財産がなくなったということは、韓国側の財産権を検討する際に考慮さるべしということが入っておるのでありまして、アメリカの解釈がやはり最も適当な解釈であるということを信じまして、その解釈にのっとって日韓間の話し合いを始めようということ、幸いに韓国側もそれに同意いたしましたので、そこで初めてその措置に踏み切ったわけでございます。

○田畑金光君 いや、アメリカの解釈解釈と言われておりますが、さっき森さんからも質問があったように、この条約の解釈について紛争が起きたとか、疑義が出たとかという場合については、これは当然アメリカだけの解釈に待つことでなくて、国際司法裁判所等の手続を経てもっと公正な機関においてこの解釈の問題を解決すべきだとこう思うのですが、どういうわけでアメリカの解釈をもって即わが国の解釈とすることになったわけですか。

○政府委員(中川融君) いろいろ研究いたしました結果、アメリカの解釈というものがより適当な解釈である。それは平和条約のいろいろの経緯から見まして、平和条約の素直な解釈としてはやはりアメリカの解釈のような解釈の方がより適当であると考えまして、日本政府はいわば積極的にその解釈をとったのでありまして、日米間に解釈が違うという問題ではありませんので、国際司法裁判所等の手続は取らなかったわけでございます。

○田畑金光君 少なくともあなたの先ほどの答弁にありましたように、一年以上の間……、これは昭和二十六年の末から韓国とは予備会談が行なわれて、昭和二十七年に、さらに昭和二十八年にと、こう会談が重なってきて、おるわけでありますが、その間においては、アメリカの解釈が示されたにかかわらず、なおかつ日本はあくまでも私有財産尊重の原則に立って日本の立場を貫いてきたわけで、さらに一九四五年の十二月でしたか、アメリカの軍令によって韓国にある日本の財産の帰属の変更とか、あるいは管理とか、こういう点についてはどこまでもそれは財産のアメリカ軍の管理を日本としては認めたのだと、そういう立場に立って条約の第四条を解釈してこられたわけですが、なぜ一年以上も問題となって、日韓会談において日本政府の方針として主張されてきたことを、アメリカだけの解釈によって曲げたのか。そうしますと、当時皆さん方が外務省の情報文化局で流されたこの解釈この態度というものは、これは間違いだったのですか。これをちょっと明確にしてもらいたい。

○政府委員(中川融君) 前の解釈が間違いであったかというお尋ねでございますが、先ほども申しました通り、法律的にはまあ二つの解釈をし得るわけでございまして、その一つの解釈を最初に主張したわけでございますが、やはり検討いたしました結果、この解釈よりはもう一つの解釈の方がより適当である、よりすなおであるというふうに考えましたので、それを採用いたしたのであります。どういうわけでそれじゃ第二回会談、第三回会談の際にそういう解釈を採用しなかったかというお尋ねもございましたが、これは、その当時は韓国側が、はたしてこのアメリカの解釈をそのまま受け入れるやいなやということがわからなかったわけでございます。その後もなお数年間は実はわからなかったのでありまして、その点がはっきりいたしましたのは五七年、三十二年の暮れでございます。暮れといいますか、三十二年になりまして、韓国側の態度はアメリカの解釈を基礎としてよろしいというふうにだんだんはっきりしてきたのでありまして、従って、その際にこれに踏み切ったというわけでございます。これは一つ、日韓交渉、長い交渉でございますが、交渉の過程におきまして、やはりそういう時期が、一番適当な時期が五七年の暮れであったと、こういうことでございます。

○田畑金光君 米口上書というのは、日韓両国の立場に立って見た場合、一体これはどちらの側に有利であり、どちらの側に不利であると皆さんは考えておられるか、これをちょっと外務大臣から承りたいと思うのです。

○国務大臣(小坂善太郎君) これは、日本が韓国にありました財産を放棄する、その財産に対する請求権を放棄したという事実を頭に入れて、韓国の日本に対する財産請求権を考慮するということでございますから、この解釈そのものは、今、条約局長から申し上げましたように、非常にすなおな解釈であろうということで、われわれも同意したわけでありますが、問題は、それを適用するにあたってどの程度考慮するかということによって問題は違ってくると思うのであります。どちらに有利であり、どちらに不利だということは、特に言えないと思いまするが、この解釈通りするということが、最も日韓間の請求権の問題を解決するにふさわしいことであろうと思っておる次第であります。

○田畑金光君 この日韓合意議事録というものもあわせて発表されておりますが、合意議事録を簡単に説明すればどういう内容なんですか、簡単に一つ御説明願いたいと思う。心政府委員(中川融君) 合意議事録で公表された部分は、この財産請求権に関する点でございますが、それは、このアメリカの解釈を採用いたしましたことに関連いたしまして、韓国側は、韓国は、もし会談が再開された場合においては、従来韓国側が出した請求権についての案をやはり出したいということを言いまして、日本側は、その場合には韓国側のその請求について誠意をもって討議することに異存はないということを答えたのが第一点でございます。第二は、日本側から、韓国もこのアメリカの解釈について同意見であると考えるが、そうか、ということを言ったのに対して、韓国側が、同意見であると言いまして、なお、第三点といたしまして、形式的には日本側から言ったことになっておりますが、このアメリカの解釈というのは、財産請求権の相互放棄――レシプロカル・リナウンシエーションと英語では書いておりますが、相互放棄を意味するものではないと了解する、と言ったのに対して、韓国側が、その通りであるとうことを言っておる。こういうのが合意議事録の内容でございます。

○田畑金光君 今三つの点について御説明がありましたが、その第一の点において、韓国側は引き続き請求権を日本に要求する、そしてまた日本側は今までの請求を引っ込める、こういうことを第一にはっきり認めているわけで、どこにも今伝えられているように、日本側が請求権を放棄したから韓国の日本に対する請求権については相殺の思想で軽減されるのだ、こういうようなことは合意議事録の中に全然出ておりませんが、その点はどうですか。

○政府委員(中川融君) その考慮するという点は合意議事録でなくて、アメリカの解釈そのものにはっきり出ているわけでございます。合意議事録はアメリカの解釈そのものに関連いたしましてのいろいろの問答をここに記録にとめたということでございます。従って、その考慮するという点についてはいささかも変化はないわけでございます。

○田畑金光君 口上書に基づいて合意議事録ができているのですから、少なくとも相殺の思想が当初においてあったとするならば、当然これは合意議事録の中において、韓国側も請求権については、日本の財産請求権を放棄したことを考慮する、こういうようなことが入れられてしかるべきであって、合意議事録に問題がない限りにおいては、あなた方のその御答弁というのは、解釈というのは、一方的な日本政府の解釈もっての当時から今日まで継続しているにすぎない、こう見られるわけですが、この点は外務大臣はどうお考えでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) この最後のところに、「アメリカ合衆国の見解の表明については、大韓民国政府もこの表明と同意見であると了解する。」、こう言っているのでございます。なお、われわれのそのことに対しまして、そういうことを申しましたのに対して、大韓民国代表部代表も「本代表の了解も、そのとおりである。」と、こう言っているわけであります。このアメリカの解釈についての見解というものに、そこで完全に同意されたものと考えているのであります。

○田畑金光君 それは何ですか、合意議事録のあれですか。

○政府委員(中川融君) 発表されたものと同じものであります。つまりアメリカの解釈と同意見である……。

○田畑金光君 それは合憲議事録の中に載っているのですか。

○政府委員(中川融君) 載っております。三月九日に発表したものに載っているのでございます。

○田畑金光君 あなた方の、政府の今日までこの問題に関していろいろ述べておられる解釈は、われわれ常識的に判断すれば、当然相殺的な思想によって考慮さるべきである。日本国民として、また日本国民の利益の上から当然そうでなければならぬ、こう考えておりますけれども、しかし、この口上書の文章を読みますと、政府の解釈のようにとれるところもあるし、ところが最後のところに参りますと、アメリカもこの厄介な問題について逃げている。たとえば、「合衆国が千九百五十二年四月二十九日付の韓国大使あての国務省の書簡に述べた解釈を示したことは、平和条約の規定に対する合衆国の責任からして、適当であった考えられる。しかしながら、平和条約に定められている特別取極の締結に当たって、韓国内の日本財産の処理が当事国によりまさしくいかに考慮されるべきかについて合衆国が意見を表明することは、適当とは思われない。」、こう書いてあります。また、「特別取極は、関係両政府間の問題であり、かかる決定は、当事国自身又はその決定を当事国が委任する機関のみが、当事国の提示することのある事実と適用される法理論とを十分に検討した後に行なうことができるものである。」、この点になっていきますと、政府の解釈とはどうも、相殺的な思想でこの口上書が書かれているとは読みにくいのです。その最後のところにいきますと、こういうようなところが、韓国との話し合いが、日本は請求権を放棄したが、韓国はあくまでも当初の方針をくずしていない、こういうことであろうと考えますが、この点どうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 日本の財産請求権放棄の事実が、この特別取りきめにあたって考慮されるということは、双方で合意されているわけです。そこでアメリカの解釈でありますが、今お読みになりました通り、「韓国内の日本財産の処理が当事国によりまさしくいかに考慮されるべきかについて合衆国が意見を表明することは、適当とは思われない」云々と書いてあるのであります。そこで、との程度考慮されるか、これはその当事国が話し合ってきめることだというだけでありまして、考慮されるという事実はここに明々白々に書いてあると思います。

○田畑金光君 そこで、私はさらにお尋ねしたいわけですが、私有財産の尊重の問題について、当初申し上げたように、こんなに強く外務省はこの問題については明確な見解を昭和二十八年の当初においてはとっておられるわけですね。このように、また、たとえば、読んでみますと、請求権の問題は非常に複雑であるが、日本側の主張の妥当性を考える場合、第三者の判断を求めていない現状では、先例をたぐってみることも便法であろう。この点、第二次世界大戦後のイタリア平和条約の場合は、割譲地域やトリエステ自由地域にあったものは、国有財産と準国有財産(例えば公有財産やファッシスト党の財産)は無償で譲受国や分離地域に譲渡されたが、私有財産については、これらの地域に居住していたイタリア人の財産は譲受国の国民の財産と同様に、またこれらの地域に居住していなかったイタリア人の財産については第三国の国民の財産と同様に、それぞれ尊重されている。またヴェルサイユ条約では、割譲地域にあるドイツ財産は、国有財産はイタリア条約の場合と同様に無償譲渡され、私有財産も留置、清算される建前であったが、実際には、原則として割譲地の住民であったドイツ人の財産は、国籍選択によってドイツ国籍を恢復した場合にも、留置、清算から除外されていたので、事実上私有財産尊重の原則は貫かれている。こういうことを明確に外務省は国際法の解釈あるいはヴェルサイユ条約、イタリヤの平和条約、こういう点々等から見て、私有財産をあくまでも尊重されねばならぬ、その原則は貫くのだ、こういう態度できているわけです。この点については政府の見解は今日変わったのかどうか、この点を外務大臣から承りたい、こう思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 先ほど条約局長が御答弁いたしましたように、その解説者なるものは、当時決裂後の会談のあとを受けて、日本政府はかくいう態度をとったのであるという解説であるわけです。従って私有財産の没収というものに対してのわれわれの見解というものを非常に強く強調したものと考えております。しかし、累次における研究の結果、現在のような解釈になっておるわけでありまして、平和条約の全体の流れを見ましても、たとえば十四条において、あるいは十六条においては、中立国における財産までも国際赤十字に引き渡しておるのでありまして、全体としてこの第四条問題だけについて言うということも不適当であろうというふうに考えておるのが現在の解釈でございます。

○田畑金光君 韓国との話し合いが決裂した直後書いたものであるから、こういうことになったというお話ですが、そうしますと、外務省は、この国際法の解釈や条約の解釈等についても、そのときそのときの事情によって解釈を右にし左にするのですか。

○政府委員(中川融君) 国際法あるいは条約の解釈をそのときそのときによって左右する、そういうふうに曲げてやるということでは決してないのでありますが、たとえば二つの解釈があり得る際に、そのうちの日本国にとって、いわば有利である片方の解釈をとる、そのときの日本の立場なり主張なりに有利なものを傍証として取り上げるということは、当然することでございまして、今の韓国側の主張に対抗する意味でのこの文書で、啓発文書でございますので、日本側は解釈に有利な面を取り上げて書いておるわけでございます。それ自体が間違いであるとは申せませんが、そのほかの面もあるということでございます。

○田畑金光君 この財産請求権の問題は、この条約四条の問題ということですが、この条約の四条というのは、これはどういうことですか。適用されるのは当然北鮮も含めて朝鮮全体をさしておると考えますが、この点はどういうことですか。

○政府委員(中川融君) 条約四条の(a)項(b)項とあるわけでございますが、(a)項は第二条地域、この全部にもちろん適用あるわけでございます。なお(b)項は第二条、第三条の地域にそれぞれ適用あるわけでございます。

○田畑金光君 ですから、私のお尋ねしておるのは、北鮮も含めて、朝鮮全体について適用されると、こういう意味でしょう。

○政府委員(中川融君) 北鮮の問題でございますが、たとえばこの第四条の(a)項の取りきめを結ぶ際に、相手が必要なわけでございまして、日本は、ここには当局という言葉、その当局と、こういう取りきめを結ぶということになっておりますが、朝鮮半島におきまして、日本がこういう権限のある当局として承認しておりますのは、結局今の大韓民国政府でございます。従って、大韓民国政府とこの財産の取りきめは行なうといへうことになると思います。なお四条の(b)項でございますが、これは、ここに書いてあります通り、合衆国軍政府によって行なわれた措置を承認するということになっておるので、合衆国軍政府は、朝鮮におきましては、南鮮だけに存在したわけでございますから、(b)項が適用あるのも、これは南鮮だけでございます。

○田畑金光君 外務大臣にお尋ねしたいわけですが、この条約第十四条が賠償の問題と在外財産の問題を書いておるわけです。先ほど第十六条の中立国にある日本資産の問題について、何か述べておられたようですが、その前に、この第十四条の賠償と在外財産の点について、ことに第十四条の(a)の二項に掲載されておる内容です。すなわち日本国及び日本国民――ここでは国有財産、公有財産も含んでおりますが、特に私有財産について連合国の中にあった私有財産というものが、すべて差し押え、留置、清算する権利を認めておる。相手方の国が処分する権利を日本はこれを認めておる。この在外財産の没収というか、処理を認めておる。このことはどういう性格のものなのか、この点について外務大臣の一つ見解を承りたいと思います。

○国務大臣(小坂善太郎君) 正確とおっしゃいますと、ここに書いてある通りでございますが、要するに日本が無条件降伏したということによって生じた結果だというふうに考えるのであります。

○田畑金光君 これは私有財産も没収されたわけですが、賠償の一部として引き当てられたものとして見るのですが、この点はどうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) そういう点は解釈のしようだと思いますが、要するにここに書いてある文書から読むよりほかはありませんけれども、実質的にそれだけのものをとったから、それだけ賠償をやめたとも考えられないこともないかもしれませんけれども、要するに、それとそのままつながるというふうには読めないのであります。

○田畑金光君 これは第十四条を通して読めば、明確に(a)項の一においては賠償ということを規定しているわけです。生産賠償、沈船引き揚げによる賠償、役務提供による賠償、そうして、同じ賠償の(a)項の中の第二項ですよ、今私の問題にしておるのは。その中には国有財産、公有財産、その他いろいろのものがあるわけです。これらは含めて実質的な私は賠償として読むべきだ、賠償に充当されたものとして見るべきだ、こう思うのですが、この点は外務大臣としてはどうお考えになりますか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 賠償にとるにはまだ十分でない状態に日本はある、日本の戦後の状態は賠償をとるということに適さない、そういう賠償をとるということが、その次に来たるべき世界平和の建設のためによくない、こういう思想から平和条約ができておると思いますのですけれども、しかし、そういう思想からいたしまして、とにかく日本に対し、この十四条の二項にある、ここに記載してあるようなものを没収する、かようなことになったと読むのが一番すなおだと思います。

○田畑金光君 没収したわけですが、その没収したものはただで、何らの根拠なしにやったわけではないので、戦勝国家が敗戦国家の財産を、戦争の損害や苦痛の一つの代償という立場から、賠償の一部に引き当てたのだ、こう見るのがこの条文のすなおな見方だと思うのですが、この点はどう解釈されるか。

○政府委員(中川融君) この十四条の(a)項の2の解釈につきましては、平和条約を御審議願っておりましたころから、いろいろの問題の議論が取りかわされた条項でございます。なるほどこの前文的なものとしては、賠償をとるのには日本の資源が十分でないということから、第一にある限定された範囲における役務賠償というものが1として掲げられ、2に、在外財産を勝手に処分することを連合国に認めるという規定があるのでございまして、賠償の問題と全然無関係ということはいえないと思いますが、しかし、これが賠償にかわるものだ、賠償にかわる意味でこれをとったのだというところまでも関連づけるそれだけの根拠もない。要するにここに書いてある通りのことを日本は受諾したのだという以外に、これの的確の解釈はないというのが、そのころからの政府の説明だったと思います。現在でも大体そういうふうに考えております。

○田畑金光君 その当時の平和条約審議等の特別委員会等の際にも、政府はこの点については、非常に今あなたは不明確なお答えをなさっておりますが、賠償の全体に相当するものでなくても、賠償の一部にやはりこれは該当する、充当されたのだ、こう解釈されていたのが、その当時の政府の態度であったと、われわれは見ておりますが、どうでしょうか。その点はっきりしてもらいたいと思うのです。

○政府委員(中川融君) これは平和条約を作る際の過程を考えてみますと、平和条約の第一草案では、役務賠償という問題もなかったのでありまして、連合国もきれいさっぱり賠償を放棄いたしました。そのかわりと申しますか、連合国にある日本財産は、そのかわり全部取ってしまうことができるという規定になっていたのでありますが、その後この役務賠償の規定が、アジア諸国の希望で入ったために、この十四条が非常に賠償関係の条項のようになってきたのでありますが、十四条はむしろその当初の意図したところは、在外財産を勝手に処分できるという意味の規定であったわけであります。従ってこれが賠償そのものである、賠償の一部であるというふうにまで解釈することは、必ずしも適当ではない。しかしながら、賠償権を放棄したことと実質的な関係はもちろんあるというところがすなおな解釈であろう、私はそのように、平和条約を御審議願ったころから、政府は大体そういうような答弁をしているように、私が読んだところでは、そういうふうに記憶いたしております。

○田畑金光君 時間もないので、この点は不明確なお答えのままでありますが、沿革から見ても、この条文の構成から見ても、これは賠償の全部ではないにしても、とにかく連合国家においては、その国にある日本の財産あるいは日本国民の財産を処分することによって、実質的には賠償の一部に、あるいは賠償の全部に充当しているわけで、事実関係から見ても、そういう結果になっているわけです。そうでしょう。また国際法学者の中でも、明確にこれは賠償だといっているわけです。すなおに読むなら、そう見るのがほんとうだと思うのです。そこで私は大臣にお尋ねしたいのですが、憲法二十九条との関係です。「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」、明確になっているわけです。しかも私有財産は、申し上げたように、公共のために用いる場合については、当然法律によってきめられた場合でなければ、個人の財産というものを使用することはできない、こういう建前になっているわけです。私有財産というものが、今申し上げたように賠償の一部に充てられた。賠償というのは、私は国民の債務だと思うのです。国民全体の債務だと思う。国民全体の債務であるなら、個人の財産が賠償に充当されたとするならば、その限りにおいて、当然国はこれに対して補償措置というものを考えなければならない、こう考えるわけですが、この点は外務大臣どうお考えでございましょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) 憲法二十九条に書いてあります通り、わが国の政府が、公共のために私有財産を使用するという場合には、これに正当な補償を支払わなければならぬということでございます。平和条約によりまして日本が放棄いたしましたる財産につきましては、これは敗戦の結果、日本がこれらの財産というものを外国の圧力によって放棄した、こういうことでございまして、これは今いろいろ申し上げました、ように、十四条二項の問題は、賠償とは読めないのでありまするし、また、そういう趣旨の違いがございまするので、私は今、田畑さんのおっしゃられたような解釈はとらない次第でございます。

○田畑金光君 それから二十九条ですね。正当な補償のもとに、公共のために用いることができる。ただそれを読み上げられただけにすぎませんが、これは公共のために用いる、使用すると、こういっておるわけで、収用するということじゃないのですね。もっと広いことをこれは意味していると、われわれは考えておるわけです。先ほど私があげましたこの資料を見ましても、外務省のこの雑誌を見ましても、私有財産の尊重というものは、長年の国際的な慣行である。それが第二次世界大戦以後いろいろ事情があって変わっておる点は、われわれも見ておりますが、イタリアの平和条約を見ましても、明確にこの点については国が補償するということを書いておるわけですね。イタリアの平和条約には書いております。その点はどうですか。

○政府委員(中川融君) イタリアの平和条約によりまして、在外財歴は、やはりおのおののその連合国がいわば自分の方の請求権の引き当てにこれを勝手に処分できる。その限度では勝手に処分できるという規定になっており、それを受けまして、そういう私有財産を奪われた個人に対しては、イタリア政府が適当な補償をするということが条約の中に書いてあるのでございます。

○田畑金光君 現にイタリアの平和条約においてはそのように書いてあるじゃありませんか。これをなぜ日本政府が落としたかということは、これは日本政府の責任です。先ほど外務大臣は、戦争の結果、日本はいくさに敗れてこの条約を無条件に認めて、そうして財産の処分権を相手方に渡したのだと、こう言っておりますが、大体戦争行為自体、これは国家の責任として起きたことじゃございませんか。そう見てくるならば、当然戦争の結果起きた事態であり、講和条約締結の結果財産権が放棄されたとするならば、われわれの見るところですよ、条約を締結するのも、これは国家の行為です。国内において土地収用法によって、法律によって処分するのも、これは国家の行為です。条約締結と、すなわち条約と国内法というものとは別にそう違ったものじゃないと、こう思うのですが、その点どうでしょうか。

○国務大臣(小坂善太郎君) イタリアの条約には、先ほど条約局長が申し上げたようにそうした規定が、補償のことが書いてあるのでありますけれども、これは実際問題として実行されておらないというように聞き及んでおります。そうした規定を入れることすでに無理があったという解釈のもとに、実行されておらないというように聞いておるのであります。私どもは、この条約に書いてある通りにすなおに読んで処分するのが適当と、処置するのが適当であると、かように思っておるのであります。

○主査(塩見俊二君) 田畑君に申し上げますが、発言の時間が……。

○田畑金光君 わかりました。時間がきましたから、やむを得ませんけれども、イタリアの平和条約が実行されていないというのも。一つ資料を提出願いたいと、こう思うのです。今の答弁は、外務大臣、私は答弁としてなっていないと思うのですがね。もっと法律的な根拠、条約上の解釈を明確にして説明願わぬと、私はやっぱり条約の締結ということも国家の権力の一つの発動である、法律、国内法の制定もそうだと。国内法によって、土地収用法なら土地収用法によって、個人の財産を正当な対価を払うことによって使用することができる。同じように、戦争による敗戦の結果、国民全体の債務として支払うべき賠償が、一部国民の、たまたま外地に居住したその人の私有財産をもって充当する、こういうことになってきますならば、その限りにおいて、当然政府はこの私有財産の問題については考慮を払うべきである、こう考えておりまするが、この点もう一度大臣の見解を承りたいと、こう思うのです。
 さらに私、時間がないので、この際あわせてお尋ねいたしますが、台湾の問題でも、日華平和条約によって、同国間の取りきめということになっておるわけですね。この点は一体その後話し合いをしたのかどうか。日華両国間によってこれが話し合いになってきたのかどうか。この点はどう解釈すべきであるか、その点を一つ伺いたいと、こう思うのです。

○国務大臣(小坂善太郎君) このたびの戦争の結果、われわれは北方において、あるいは南方において、あるいは旧満州地帯において非常に多くの権益を放棄いたしておるのであります。で、また敵国にあった――その当時の旧敵国にあった財産、これも放棄いたしておる。それから中立国にあった財産も放棄しておる。こういう関係は田畑さん御承知の通りであります。で、そこで、こうしたものに対して、先ほどから御説明しておるように、この平和条約を結ぶ際に、今度の条約においては、賠償なき講和というものをやろうじゃないかというのが当時の原案でございましたが、それについて、日本がその放棄した地帯で持っておったものに対しては、その財産権を放棄するということになった。ところが、その賠償なき講和というものが、いろいろな関係国の言い分を入れまして、賠償という字も、役務賠償という形において入ってきておるのは、御承知の通りでありまして、先ほどから御説明しておるように、この賠償ということと、この日本の外地に持っておった財産権というものを放棄したこととの間には、直接の条約上の関連はないのであります。ただそうしたことが、同じ財産の放棄である、財産の失権であるという形においてのつながりが、全然ないとも言い切れぬところも、これは問題の解釈のしようによって多少あるかもしれませんが、すなおな解釈からすれば、これは関係ないということであります。
 それから台湾の問題についてお話がございましたけれども、この点については、当方からいろいろ話をしようという申し入ればしておるようでございますけれども、しておったと聞き及んでおりまするけれども、この問題については、先方からまだそれについて応諾して、話し合いをしようということになっておらないというふうに了解いたしております。

○田畑金光君 最後に一つ。この台湾の問題ですね。私はこれもっと詳しく条約に基づいて、あるいは議定書に基づいて質問しようと思っていたんですが、時間の関係でやむを得ませんけれども、この問題については昭和三十一年の在外財産問題審議会の当時、中川さんが何か外務省を代表して出ておられて、その当時も、まだ話し合いをしていない、こういうようなことを言っておられるのですが、話し合いをしておらないのじゃない、話し合いができないのでしょう、事実上。

○政府委員(中川融君) 日華条約に基づきまして、相互の財産について交渉することになっておるのでありまして、これはその日華条約ができました直後から再三先方に交渉開始を申し入れておるのであります。三十一年当時にもそのようなお答えをしたと思いますが、申し入れ、また最近もこれを申し入れております。しかしながら、遺憾ながら、中華民国政府の方は、この問題について、まあいろいろな事情が、複雑な事情があるからということで、まだこれを応諾するに至っていない。従って、まだ交渉が始められていないのが現状であります。

○田畑金光君 これで私は終わりますけれども、きょうの質問は、外務大臣の御答弁も、局長の御答弁も、非常に不満足でして、特に外務大臣の答弁は、条約上の根拠とか法律上の根拠というものを確信のできるような御答弁になっていないことを非常に残念に思っているのです。まあたとえば、「昭和二十七年(ワ)第三千六百五十号」、これは東京地裁の判決でしたが、「在外公館等借入金返還請求訴訟事件」、これを見ますと、この判決の理由書の中にこういうことを書いてあるのです。被告、これは国ですが、国は、「本件借入金を支払うことは在外財産を持ち帰ったと等しく、他の戦争犠牲者との負担の公平を失すると云うが、平和条約第十四条によって、日本国民が喪失した在外財産についても、被告が」――すなわち国が、「之を補償することは望ましいことであるのみならず」、云々と、こう書いてあるわけで、この判例の一つをやはり見ましても、裁判において明確にこういう解釈を十四条について下しておるんです。また国際法学者の、あるいは憲法学者等の意見を聞いてみましても、第十四条の解釈については、やはりこの在外財産の処分というものが賠償に振り充てられておるんだと、従って国は憲法二十九条に基づいて、これについての補償措置を講ずべきだ、こういう意見が私は多いように見受けられるわけです。政府のとっておられる解釈というものは、憲法学者の一部の人は、確かにそういう解釈をとっておりますが、しかし、この条約をすなおに読む限り、政府の解釈には非常に無理がある。それを私は率直に認めていただきたいと思うんです。しからば、そのあとの処理はどうするかという問題は、私はそこまで今触れているわけじゃないのです。もっとこの問題については、政府としてもすなおに条約を読んで、またこの条約を結んだ前後の事情、連合国と日本国との関係、あるいはまた国際法の建前等々から十分この問題については掘り下げて検討願いたい。このことを要望して、いずれまた別の機会にさらに質問を続けたいと思っております。

 日本の主張を見てみる。

 ◆ 論点の日本側の主張は、「ファクトシート『旧朝鮮半島出身労働者問題とは?』」(平成30年11月19日)によれば、次のようである。

 事実その1
 1965年の「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」は,請求権に関する問題が`完全かつ最終的に解決されたことを確認しています。

 事実その2
 同協定はまた,署名日以前に生じた全ての請求権について,いかなる主張もすることができないことを定めています。

 ところが,
 2018年10月30日及び11月29日,韓国大法院は,日本企業で70年以上前に働いていた旧朝鮮半島出身労働者の請求を認め,複数の日本企業に対し,慰謝料の支払を命じました。

 これらの判決は,1965年の日韓青求権協定に明らかに反しています。日韓関係の法的基盤を覆すのみならず,戦後の国際秩序への重大な挑戦でもあります。

 「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(1965年)
 第2条
 1両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益  並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
  (中略)
 3…一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとする。

 ◆ 次に韓国の言い分を見てみる。韓国は青瓦台のHP内に、「日本の損害賠償請求権に関する虚偽の主張と不当な輸出規制措置」と、日本語で論点をまとめ掲載(2019年09月18日)した。
 それによれば、次のようである。

 1 日本政府は虚偽の主張(「韓国大法院(最高裁判所)が1965年韓日請求権協定に違反」)に基づき、WTO協定に違反して輸出規制措置を取っています。

 2 2018年に下された韓国大法院の判決は、決して1965年の韓日請求権協定に違反したものではありません。  ・韓国大法院は、「日本政府の不法的な植民地支配および侵略戦争の遂行に直結する日本企業の反人道的な不法行為を前提とする慰謝料請求権」は、韓日請求権協定の適用対象に含まれないため消滅していないと判断。

 3 強制動員の不法行為に対する個人の損害賠償請求権は消滅していません。
 ・1965の韓日請求権協定は、日本との特別取極めによる財産上の債権・債務關係を予定し ・1951年、連合国はサンフランシスコ対日平和条約に沿って日本の戦時不法行為による賠償請求権を放棄したが(第14条)、大韓民国は連合国ではなく植民支配被害国であり、この条杓に署名したことがない。

 4 賠償合意が終了したとtヽう日本の主張は虚偽です。戦後の日本政府の立場も、個人の損害賠償請求権は消滅していないということでした。
 *'65.11.5椎名外相の衆議院での発言(「個人の請求権を放棄したという表現は私は適切でないと思います。」)、'91.8.27柳井外務省条約局長の参議院での発言(「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消減さゼたというものではございません。」)

 5 自分たちの輸出規制措置が強制動員間題と関係ないという日本の主張も事実ではなく、話が二転三転しています。
 ・話が変わる日本:「韓国による国際法遵守義務の不履行(請求権協定違反)」→WTO違反が明らかになると 「戦略物資の北朝鮮流出による安全保障上の問題」→「国内の輸出管理体制見直しの一環」

 6 日本政府は、韓国司法府による正当な判決に対して不当に干渉し、圧力をかけることで自由貿易を根幹とする世界の市場秩序を脅かしています。

 7 日本政府は、自由貿易主義に反する措置を直ちに撒回し、今からでも強制動員の不法行為に対して責任のある措・をまず取らなければなりません。
 ・ドイツは2000年に「記憬・責任・未来」基金を設立し、強刮動員被害者に謝罪すると共に適切な対策を講じた。

 北朝鮮との請求権問題については、「北朝鮮との間の請求権問題につきましては、今の段階で申し上げられることは、これは将来に残された問題であるという認識で政府としては考えております」と、当時(第112回国会 衆議院内閣委員会 第7号 昭和六十三年四月二十一日)、小渕 恵三国務大臣(内閣官房長官)は答えている。

 第118 衆議院社会労働委員会 第8号 平成二年五月三十一日で、
○渡部(行)委員 大体どこにあるという見当もつかないでどういう調査ができるのでしょうか。見当をつけてあるからこそ、これから調査をしてその人数を確認するというなら話がわかるけれども、どこにあるか全然わからないで調査する、調査すると言うのは、言葉だけの調査になって結局何にもわからなかった、大山鳴動してネズミ一匹も出なかったということになりはしないか、その点はいかがでしょうか。

○有馬政府委員 今本当に存在しているかどうかわからないのでございます。そして、当時このようなことをどこが所管していたかということを含めて調べているわけでございまして、繰り返して申しわけありませんが、何分にも古い話でございまして、関係あり得るところにお集まりいただいてそれを調べているということでございます。

○渡部(行)委員 そうすると、海部総理の言ったことは何のために言ったのだか何か全然わけがわからなくなってしまうのですね。そして八月にそういう関係している犠牲者の方々から訴訟が出されたときに、それは日韓問題の中で終わったのだということで、果たしてその締めくくりができるでしょうか。その辺についての見通しをお聞かせ願いたいと思うのです。

○川島政府委員 強制連行された韓国人の方たちのお話と申しますのは、国交正常化に至る大変長きにわたる交渉があったわけでございまして、そこでも一つの大きな問題としてずっと取り上げられてきた次第でございますけれども、当時の記録等々を洗ってみますと、請求権の法的根拠とか事実関係についていろいろ詰めてはみたのですが、結局のところ、終戦の混乱とそれから朝鮮動乱による韓国側の資料の散逸等によって積み上げて見るということができなくて、そうして一括解決するという形で決着が図られた、こういうことのようでございます。そこで、強制連行に関します請求権もその中で最終的に解決されたということになっております。

 第121回国会 参議院予算委員会 第3号 平成三年八月二十七日(火曜日)午前十時開会

○政府委員(柳井俊二君) ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
 その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。
○清水澄子君 七月十日の韓国の国会で、野党が強制連行された朝鮮人の未払い賃金を請求することについて質問したことに対し、韓国の李外相がそれは日本から返してもらう権利があるという趣旨の答弁をしておりますが、このこととどういう関係になりますか。

○政府委員(谷野作太郎君) 韓国政府も、先ほど私が御答弁申し上げましたところ、あるいは条約局長が御答弁申し上げたところとこの問題については同じ立場をとっておるわけでございます。
 ただいまお話のありました李相玉韓国外務大臣の発言がこの問題についてございますので、そのくだりを読み上げてみたいと思います。「よくご存じのように、政府レベルにおいては、一九六五年の韓日国交正常化当時に締結された、請求権及び経済協力協定を通じこの問題が一段落しているため、政府が」と申しますのは韓国政府がという意味ですが、韓国政府が日本との間において「この問題を再び提起することは困難である」、これが韓国政府の立場でございます。

 第122回国会 参議院国際平和協力等に関する特別委員会 第3号 平成三年十二月五日(木曜日)午前十時一分開会

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは国際社会にいろいろな例があるかもしれません。また、個人的、人情的には同情するものも多々あるということも事実でしょう。しかし、我々としては、平和条約を結ぶ、そして国家間の正常化を図るという段階で個々のいろんな問題にそれぞれ政府が対応するということは、言うべくしてこれは非常に不可能に近い。そういうことであるので、一応賠償その他、請求ですか、あるいは賠償を払った国もありますが、そういう中で全部含まれているという解釈をとってきておるわけであります。

○矢田部理君 その解釈は間違っています。これも政府見解とも違う。
 国家間では、日韓交渉とか日中交渉もそうでありますが、なかなかそういう個別の被害者の積み上げで具体的積み上げをしてまとめるのは難しいということで、日韓などでは、つかみでまとまったお金を差し上げて一応国家レベルでは処理をした経緯があります。しかし、個人と国家との関係はそれで終わったわけではない。わかりますか。個人の請求権を国内法的な意味で消滅をさせたものではない。
 例えば日韓請求権協定。日韓両国が国家として持っている外交保護権を相互に放棄はしたけれども、個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない。したがって、請求権が残っているというのが日本政府の立場なんです。それはお認めになりますか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは十分法律的な問題ですから、事務当局から説明させます。

○政府委員(柳井俊二君) 政府間で今までいろいろな取り決めをしておりますけれども、そのいわゆる請求権の放棄の意味するところは外交保護権の放棄であるという点につきましては、先生仰せのとおりであります。したがいまして、例えば韓国政府が韓国の国民の請求権につきまして政府として我が国政府に問題を持ち出すということはできない、こういうことでございます。
 ただ、個人の請求権が国内法的な意味で消滅していないということも仰せのとおりでございます。

○矢田部理君 渡辺さん、そういうことで個人の請求権は消滅していないんです。その個人から請求があったとき、現にあるわけですね。それぞれの国であるわけです。オランダでも、中国からも、あるいは朝鮮の人々にもこういう問題がずっと底流にある。底流だけではなくて、具体的にやっぱり行動として起きている。
 私は、なぜこのことを言うかというと、やっぱりこれから日本が国際協力を本格的にやるためには、もう一度半世紀近くもたった今日いまだに解決をされていない諸課題についてきちっとけじめをつけて、そこから国際貢献だとか協力だとかをするべきだという立場から申し上げているのでありまして、そういう請求権が残っている以上、それを政治的に解決する。アメリカもドイツもみんな最近になって、最近ここずっとやってきているんです。(「抑留者」と呼ぶ者あり)抑留者も請求したらいいです。
 こういうことを処理していくことが、ただ謝罪とか気持ちとかというだけでなくてもっと実質的に大事だということを申し上げて、この宮澤内閣、渡辺外務大臣、ぜひこれは踏み切ってほしいと思うんですが、いかがでしょうか。少なくとも重要な検討課題にのせる、渡辺外交の重要なポイントにするというふうにしたらどうでしょうか。

○国務大臣(渡辺美智雄君) これは国際法上その他国益にも関する問題でもあります。一応政府間の条約を結んで、政府間では要求がないということになれば、他国の国民に随分被害を与えていますから、日本は中国であろうと何であろうと、今度はそういうような個人の請求を日本政府がじゃ全部受けて立つのかと、莫大な国民の負担になってくるわけであります。
 したがって、そういうこととの絡みもございますので、ソ連抑留者等についても、それは勝手に向こうが抑留したんだから、こちらからは、その抑留者はソ連政府に向かって請求をするかということの理屈もあるんでしょう。しかしながら、これはまだ条約をつくってありませんからどういうふうになっていくかわかりませんが、我々は国内の問題については、それはできるだけ抑留者とかなんかに対してお気の毒だということで、何らかの慰労の措置は講じております。しかし、同じ国内でも戦災者もあれば爆撃によって死んだ人もあるし、そういう人に対して国は一々補償も見舞いも出してないんですよ、現実は。
 戦争というのは、そういうようなことでまことに嘆かわしいことでありますが、どこまで広げていくのか、どこでとめられるのか、そういうようなものも含めまして、これは今までの慣例、国益、国の負担、総合的に考えなければならない問題ではないかと思います。

○矢田部理君 総合的に考えるのはいいんですが、渡辺さんね、みんなどこの国も頭を痛めているんですよ。一人一人に払うのはいかがかという国もある。しかし、アメリカのように一人二万ドルずつ払った国もある。それから、ポーランドについては基金というのを設けて、この基金の運用で処理できないかということで基金で処理をした国もある。それから、年金制度の適用をもう少し拡大する方向で処理ができないかと考えたドイツの国内の法律など、補償法があるわけです。そこをやっぱり検討をしてみる、一回これは自分でやってみる、難しいことは私ども承知していますよ、ということで踏み込めませんかと聞いている。

○国務大臣(渡辺美智雄君) この問題は、もうかねていろいろ議論が出たことでありますから、ある程度の検討の結果は出ているんじゃないかと思うので、事務当局、ちょっと答えてください。

○政府委員(柳井俊二君) 条約上の処理につきましては、先ほど申し上げたとおりでございますが、ただ我が国が賠償あるいは請求権の処理に関連して支払いましたものを相手側でどのように国民に分配するかということは、それぞれ韓国なりあるいはその他の条約の相手国の国内的な処理に任されたわけでございます。
 したがいまして、我が国との関係で政府間でいわゆる請求権の放棄をやったと申しましても、一切処理をしなかったということではございませんで、例えば韓国の場合では無償三億ドル、有償二億ドルだったと記憶しておりますけれども、これを請求権、経済協力という形で支払った、そして恐らくその一部が関係の個人にも韓国側で支払われたというふうに記憶しております。また、ほかの国につきましてもそのような関係だったわけでございます。  しからば、そういうような処理をした上で、なおかつ日本の占領中あるいは戦争中に大変に苦労をされた方々がおられるわけでございますから、その方々の個人個人に対して政策的にどのような補償をすべきかどうか、そういう点につきましてはちょっと私の所管ではございませんので、その点は差し控えさせていただきたいと思いますが、法律的な関係あるいは条約上の関係につきましては以上申し上げたとおりでございます。

○矢田部理君 事務の人が説明する問題じゃないんですよ。説明はともかくとして、やっぱり政治的に問題を受けとめて処理をする姿勢を明確にすべきだ。
 労働省が今、朝鮮の人たちの名簿を集めているでしょう。この集まりぐあい、集めた結果これからどう処理するのか。労働省、どうですか。

 日本には戦後しかなく、事あるごとに戦後を想起させられ、決して戦後を忘却の彼方へ追いやることも、決して闇に葬ることもできない国なのだ。そして都合の良い歴史隠蔽の言辞“未来志向”などでは現在の未来の日本国民にも一層の重荷を背負わせることになる。

 明治維新から第二次世界大戦の敗戦に至る迄の大日本帝国の歴史を忘れるのでなく、却って深く刻み込まなければ、新憲法の下で成った日本国民自身にも不幸となる。
 忌避すべき歴史こそが、未来への教訓であって、そして其れにって一歩先に進むことができる。
 そうでなければ、“美しい日本”や“強い日本”など現成しない。
 “美”語る為政者からはなぜか捨象性が強く感じられないか。

引用・参照

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徴用工問題は本当に「完全かつ最終的に解決」されているのか(前編)

韓国大法院判決をめぐる日韓の相違点

2019/02/05 時事オピニオン

吉澤文寿 (新潟国際情報大学国際学部教授) 殷勇基(弁護士)

 大韓民国(韓国)での徴用工問題を巡る裁判で新日鉄住金への賠償判決が確定した。ところが、この判決を巡って日韓双方の意見が異なる。この食い違いはどこから生じているのか。韓国ではなぜこのような判決に至ったのか。「元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明」の呼び掛け人の一人で弁護士の殷勇基さんと、日韓請求権協定に詳しい新潟国際情報大学教授の吉澤文寿さんに話を聞いた。

韓国大法院判決と日本政府見解

 2018年10月30日、韓国の最高裁判所に当たる韓国大法院は、戦時中の元徴用工4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、新日鉄住金の上告を棄却。4人合わせて約4000万円の賠償を命じた。

 韓国大法院判決は、「原告ら損害賠償請求権は、『日本政府の韓半島に対する不法的な植民支配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権』であって請求権協定の適用対象に含まれない」(大法院広報官室「事件報道資料」)としている。

 しかし、日本政府は「日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している。この判決は、国際法に照らしあり得ない」と、一貫して判決を認めない姿勢を取っている。その主な根拠は1965年に締結された「日韓財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(日韓請求権協定)の第二条1項にある。

【日韓請求権協定 第二条1項】

両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。

Q. そもそも日韓請求権協定とは何か?

「日本と韓国の間では1965年12月18日に国交が正常化しましたが、それに先駆けて同年6月22日に、旧植民地と宗主国との関係を正常化する目的で、日韓基本条約と日韓請求権協定などが結ばれました。

 日韓請求権協定は、その前文にあるように、日韓両国及びその国民の財産と請求権に関する問題を解決し、両国の経済協力を増進することを定めたものです。

 第一条では、日本は韓国に、無償で3億米ドル相当、また貸付で2億米ドル相当、合わせて5億米ドル相当の経済協力を10年かけて行うことが取り決められました。

 そして、第二条1項(前述参照)で、請求権に関する問題が『完全かつ最終的に解決された』とし、同3項では、すべての請求権に関して『いかなる主張もすることができない』としています」(吉澤文寿氏)

Q. 約5億ドルのうち、無償の約3億ドルの経済協力で戦後賠償を行い、請求権問題を解決したということか?

「同協定の前文には、請求権問題の解決と経済協力の増進が併記されているだけで、関連づけられていません。当時の日本政府も請求権と経済協力が無関係であると説明しています。日本は韓国の経済を助けるために経済協力を実施したのです。また、経済発展のための資金といっても、実際は日本の資材やサービスを提供したのであって、現金を支払ったわけではありません。韓国はそれを使って高速道路を整備したり、浦項総合製鉄(POSCO)などの事業を起こしたりしました。だからこの無償経済協力3億ドルは植民地支配時に受けた被害に対する賠償金とは言えません」(吉澤文寿氏)

Q. 今回の徴用工裁判はいつ始まったのか?

「新日鉄住金を訴えた今回の裁判は20年以上も続いているものです。今回の大法院判決はいわば『第8審』にあたります。原告たちの一部は、日本でも裁判を起こしていたからです(1997年に大阪地裁に提訴し、2003年に日本の最高裁で敗訴)。その後、韓国でも裁判が続いたのですが、韓国での1審2審(『4審』『5審』にあたる)とずっと敗訴し続けてきました。しかし、『6審』の12年5月の大法院判決(上告審)で勝訴し、高等法院(日本の高裁に相当)に破棄差し戻しとなりました。7審の高等法院判決を経て、今回の18年10月の大法院判決(再上告審)で勝訴確定となりました。今回の再上告審と同内容の判決は既に上告審で6年前に出ていました。ところが、日本では、今回の再上告審の判決のほうが大きな問題となっているわけです。

 韓国は独裁政権が続くなどして、個人が日本による戦争や植民地支配の被害を訴えることが難しい状況がずっと続いていました。しかし1987年以降、民主化されて自由に発言できる社会になったことなどから、90年代に入ってようやく元徴用工問題を含む、『戦後補償裁判』と呼ばれる裁判が日本で起こされるようになりました。当時、日本ではこういう裁判は『戦後補償裁判』と呼ばれることが一般的で、現在でもそう呼ばれることも多いのです。それは、戦争による被害が戦後も放置されてきた、という意味合いがあるからです。ただ、戦争被害というと、日本の対米英戦争(1941年~)、対中戦争(1931年~)などの戦争による被害に限定されてしまいます。しかし、韓国と日本との関係の場合、日本による植民地化(1910年)さらには植民地以前からの侵略の被害についても意識されますから、厳密にいうと『戦後』補償の問題にはとどまらないことになります。

 もっとも、この判決での徴用工の問題は、戦時である1941年~43年の強制動員(連行)、強制労働が問題になっています。日本は対米英戦争までを引き起こし、成人男子の労働力が不足し、日本人(内地人)が働きたがらない危険で、重労働な現場で朝鮮の人たちを強制労働させた――その意味で『戦争被害』の問題であるのです。ただ、他方で、そういう強制動員、強制労働を日本政府が有無を言わさず朝鮮人に強いることができたのは、日本が植民地支配をしていたからでした」(殷勇基氏)

Q. 徴用工とはどんな人たちなのか?

 「日本人も日本政府による徴用の対象とされたのですが、ここで問題になっている徴用工は、戦時に、植民地だった朝鮮半島から強制動員(強制連行)され、強制労働させられた人たちです。徴用『工』というと、軍需工場での労働を想像させます。ただ、実際には朝鮮人は炭鉱などの鉱山や、土木作業現場などに多く動員されていました。もっとも、今回の判決の徴用工たちの被害は、41年から43年までに動員され、日本製鉄(新日鉄住金の前身)の大阪製鉄所などで強制労働をさせられた、というものです。いずれにしても、多くの朝鮮人(ただし、当時は朝鮮人は植民地化により、日本国籍を持つ日本臣民=日本人だとされていた)が動員されたのは日本人(内地人)が働きたがらない危険で、重労働な現場でした。粗末な食事で、逃亡できないように監視されました。逃亡は命の危険を伴うもので、逃亡に失敗すると激しい体罰を受けたり、殺されたりしました。賃金が強制貯金されるなどして、最後まで支払いを受けないまま日本の敗戦で朝鮮半島に戻った徴用工も多くいました」(殷勇基氏)

Q. 原告は何を訴えているのか?

 「原告ら(4人)の境遇は、いまの日本の『技能実習生』の問題と似ているところもあります。

徴用工問題は本当に「完全かつ最終的に解決」されているのか(後編)

韓国大法院判決をめぐる日韓の相違点 時事オピニオン

2019/02/05 吉澤文寿 (新潟国際情報大学国際学部教授)
殷勇基 (弁護士)

 大韓民国(韓国)での徴用工問題を巡る裁判で新日鉄住金への賠償判決が確定した。ところが、この判決を巡って日韓双方の意見が異なる。この食い違いはどこから生じているのか。韓国ではなぜこのような判決に至ったのか。「元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明」の呼び掛け人の一人で弁護士の殷勇基さんと、日韓請求権協定に詳しい新潟国際情報大学教授の吉澤文寿さんに話を聞いた。

Q.  日韓請求権協定で請求権は解決したのではないのか?

 「法的な用語が一般の日本語とズレることがある、というのがここでのポイントと思います。1991年8月27日の参議院予算委員会で、柳井俊二外務省条約局長(当時)が請求権協定第二条にある『日韓間の請求権が完全かつ最終的に解決』されたということについて、次のように答弁しています。

 日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。

 このように日本政府は、日韓請求権協定の『解決』とは、『国家が持つ外交保護権を放棄した』という意味にすぎず、『被害者個人の請求権は消滅していない』、という見解を示してきました。つまり日本政府は、法的用語の『解決』を、『完全解決ではない』と意味に理解してきたのです。」(殷勇基氏)

Q. 日本政府はなぜ個人請求権が消滅していないと言うのか?

 「日本が独立を回復したサンフランシスコ平和条約(1951年)との関係があります。日本はサンフランシスコ平和条約で、連合国の政府との間で、お互いの権利を放棄し合いました。それにより、たとえば、原爆の日本人の被害者がアメリカ政府に賠償を請求することができなくなります。そのため、アメリカに対する自分の権利を勝手に日本政府に放棄されたことを理由に、原爆の日本人被害者が(アメリカ政府ではなく)日本政府を訴えたのです(原爆訴訟)。これに対して、日本政府は、『いや、その放棄というのは国家が持つ外交保護権を放棄しただけで、被害者個人の請求権を勝手に放棄したわけではない』『したがって、日本政府への賠償請求は認められない』と反論したのです。

 サンフランシスコ平和条約での『放棄』についてこのような見解に立ったため、日本政府としては、ソ連や韓国などとの関係でも同じ見解に立つことになりました。たとえば、韓国内に財産を持っていた日本人から『権利を勝手に放棄した』と訴えられても、日本政府としては同様に『個人の権利を勝手に放棄したわけではないから日本政府には責任はない』という反論をすることになります。

 韓国に住む韓国人が1990年代に入って日本の裁判所で日本政府などを訴えるようになると、この韓国人たちについても日本政府の見解が適用されることになりました。つまり、韓国人被害者の個人請求権は残っていることになっていたわけです」(殷勇基氏)

Q. 個人請求権は消滅していないのに、なぜ日本政府は韓国の判決を否定するのか?

 「ここでは、『救済なき権利』というのがポイントです。日韓請求権協定の『解決』を、『国家間の外交保護権を放棄しただけ』『被害者個人の権利は残っている』と理解してきたのが日本政府の見解でした。ただ、日本政府は2000年頃からそれまでの見解を変え、こんどは、『解決』を、『国家間の外交保護権を放棄した』+『被害者の権利は救済なき権利に変わった』という見解に立つようになりました。

 『救済なき権利』というのは、〈訴訟では救済されないけれど、訴訟の外では救済される権利〉のことを言います。つまり、裁判で被害者個人が賠償を請求する権利はないけれど、裁判外で、加害者が賠償金を払えば被害者はそれを正式に受け取る権利があるということです。とはいえ、被害者個人の請求権について、訴訟上の権利もそのまま認めていたのがそれ以前の政府見解だったわけですから、その重要な点が、日本政府の新見解では変更されていることになります。

 2007年4月27日には、中国人原告による戦後補償訴訟で二つの最高裁判決が同日に出され、最高裁は、日本政府の『救済なき権利』という新見解を追認しました。この判決は日中間についての判決だったのですが、日韓間など、他国との間でもこの判決の理屈は適用されるとされました。被害者個人の権利については、裁判上の権利がなくなったというのですから、裁判を起こしても負けてしまいます。このため、以後、日本国内の裁判所では、被害者個人の救済が認められることはむずかしくなりました。

 とはいえ、なぜ日本政府は韓国の今回の判決を否定するのか、という質問については、日本政府の旧見解でも新見解でも理屈に合わないのは同じことです。旧見解なら〈日韓請求権協定で『解決』といっても個人の権利は残っている〉わけですから、日韓請求権協定を理由に日本政府は韓国の判決を否定できません。日本政府の新見解だと、被害者は裁判にはもちこめなくなってしまうわけですが、訴訟の外で自発的に支払うことは問題ありません。つまり、日本政府の新見解でも、韓国の判決に従って新日鉄住金が訴訟外で賠償金を支払うことを日本政府は否定することができません。

 結局、『日韓請求権協定の『解決』が法的な障害になるので、加害企業が被害者個人に支払いをすることができない』という日本政府による韓国大法院判決への批判は、日本政府自身の見解からしても理屈が合っていないのです」(殷勇基氏)

Q. 韓国では個人請求権が消滅したとしていたのに、なぜ韓国大法院は個人請求権を認めたのか?

「日韓請求権協定の理解については、以前から日韓間には『ねじれ』がありました。日本政府は前述のように『被害者個人の権利は(そのまま)残っている』としていたのですが、韓国政府は、『被害者個人の権利は全部消滅している(ので、裁判もできない)』としていたのです。

 その後、日本政府は前記のとおり新見解に変更しました。また韓国政府も1990年代には見解を変更し、被害者個人の権利は残っているという立場に立つようになりました。韓国では、今回の大法院判決よりもかなり以前から個人請求権は残っている、という見解になっていたわけです」(殷勇基氏)

 「日本側が2000年頃から個人請求権が日韓請求権協定で法的には解決しているという主張になったことを受けて、韓国の戦争被害者らは協定交渉時に何が話し合われたのかを明らかにするため、02年に交渉文書の公開を韓国外交通商部に要求しました。05年に韓国で約3万6000枚の文書が公開されると、日本でも強制動員被害者や日本の市民などにより外務省に情報開示請求が行われ、08年には約6万枚の文書が開示されることになりました。

 これらの文書によって、今回の裁判で訴えられているような、戦時中の不法な支配における反人道的な不法行為に基づく問題については、請求権協定を結ぶ際にはそもそも前提になっていなかったことが明らかになりました。このことが『個人の請求権は消滅していない』という韓国大法院の判断に結び付きます」(吉澤文寿氏)

Q. 請求権協定の交渉当時、何が請求権消滅の対象とされたのか?

 「韓国側は、日韓請求権協定の交渉時に『対日請求要綱』として以下の8つを日本側に請求しました。
 この8項目の中で特に5が個人請求権に関するものです。

 【韓国の対日請求要綱】(日本の外務省公開文書より)

5.韓国法人又は韓国自然人の日本国又は日本国民に対する日本国債、公債、日本銀行券、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権の弁済を請求する。
(1)日本有価証券 (2)日本系通貨  (3)被徴用韓人未収金  (4)戦争による被徴用者の被害に対する補償  (5)韓国人の対日本政府請求恩給関係その他  (6)韓国人の対日本人又は法人請求  (7)その他

 これらは当時の日本の法令などに基づく未払い賃金や預貯金などの財産に関連するもの、また戦傷病者戦没者遺族等援護法における障害年金など、日本の法的根拠のあるものに限られていました。(4)の『戦争による被徴用者の被害に対する補償』というのも、日本の法律だった国民徴用令に則って補償金を受け取る資格があるという主張です。

 この8項目については合意議事録のなかで完全かつ最終的に解決されたとし、いかなる主張もできないとされました。

 ところが、この8項目の請求は、全て日本の植民地支配を合法とした前提のうえでなされたものです。今回の大法院判決では、植民地支配自体が違法だったとしており、その前提が異なっています」(吉澤文寿氏)

Q. 国交正常化交渉では、植民地支配について議論されたのか?

 「日本は、ビルマ(1955年)、フィリピン(56年)、インドネシア(58年)、ベトナム(60年)の4カ国と賠償協定を結び、戦争賠償を行いました。韓国との国交正常化も一連の流れに沿ったものであるものの、日本は韓国に対しては植民地支配を合法的に行われたものとして過ちとは認めず、賠償という形にはなりませんでした。

 53年の日韓会談に参加した久保田貫一郎外務省参与が、『日本の朝鮮統治は必ずしも悪い面ばかりでなく、良い面も多かった』『日本が進出しなければロシアか中国に占領されていただろう』と発言し、韓国側の怒りを買って会談が決裂したことを見ても分かる通り、日本側は一貫して植民地支配に対する謝罪はしませんでした。条文のなかにも謝罪や賠償については明記されていません。

 日韓基本条約の第二条に『千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される』という条文があります。この『もはや』という表現には、『以前は国際法上有効だった』と解釈する余地が残されています。つまり、当時の日本の植民地支配が合法であったとする日本側と、不法であったとする韓国側とで異なった解釈をし得るあいまいな条文になっているのです。結局、植民地支配を巡る認識については決着することなく先送りしたまま、日韓国交正常化が実現しました」(吉澤文寿氏)

Q. 請求権を巡って両国の意見が食い違う場合、どうしたらいいのか?

「請求権協定の第三条では、『まず外交上の経路を通じて解決し、それができなかったら第三国を交えた仲裁委員会を開く』と取り決めています。

 日本政府は韓国大法院の判決が下された当初、韓国が請求権協定違反をしているとして国際司法裁判所(ICJ)へ提訴する可能性を示していました。そこには補償を求める動きを封じ込めたい意図があるのでしょう。

 協定の解釈を巡って起きた紛争であれば、まずこの第三条に則った手続きが取られるべきです。2019年1月に日本政府は協定発効後初めて政府間協議を韓国政府に要請しましたが、それでも解決しなければ、ICJへの提訴ではなく、仲裁委員会を設けて解決策を探るべきです」(吉澤文寿氏)

「なお、韓国政府も慰安婦問題などについて以前、政府間協議を日本政府に要請したのですが、日本政府は要請に応じなかった、ということがありました」(殷勇基氏)

Q. なぜ対立が激しくなるのか?

 「時に殴られたり食事を抜かれたりするなどの過酷な現場で、命の危険性がある労働をさせられてきた徴用工の問題は日本の企業と朝鮮人労働者における、人権問題なのです。それを日韓のナショナリズムの問題として捉えるから、感情的な対立が生まれるのではないでしょうか。

 植民地支配への責任を問う動きは韓国だけでなく、01年に南アフリカで行われた『ダーバン会議』で議題になったり、イギリス統治下のケニアで起きた独立闘争『マウマウ団の乱』で弾圧された人たちの遺族に対して13年にイギリスが補償金を支払ったりと、21世紀に入り顕在化しています。今後は更に世界中で問われていくと思います」(吉澤文寿氏)

Q. 今後この問題の解決のためにはどうしたらいいのか?

「新日鉄住金が韓国大法院判決に従わず賠償金を支払わなかった場合、今後同社の海外資産が差し押さえられる可能性もあります。ただ、差し押さえはあくまで手段だと原告側は言っているようです。違法な行為への被害としてお金を払う場合は『賠償』金になりますが、『見舞金』だと法的責任が認められないことになってしまいます。

 被告となった企業は被害者をどれだけ悲惨な目に遭わせたかを思いおこし、(1)『何年何月どこどこで、こういう事実があった』というようなかたちでキチンと加害の事実の認定をしたうえで(事実認定)、(2)賠償として支払をするなど法的な責任を認めて謝罪し(法的評価)、(3)さらに被害者が受けた悲劇について将来世代への教育を約束する(将来教育)、という3点を踏まえてほしいと思います。

 また日本のメディアは『国別対抗戦』『パンドラの箱を開けた』という方向からのみ問題を捉えるのではなく、過去の人権侵害・不正義を解決する作業を共に行うことによって両国関係の平和の基礎をも固くする『鎮痛へのプロセス』という面からも問題を理解してもらいたいと思います」(殷勇基氏)

「徴用工として働かされた人たちは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)にもいるものの、日本は現在まで北朝鮮との間で何も協定を結んでいません。だから韓国だけではなく、北朝鮮在住者からの訴訟提起もあり得ない話ではないでしょう。被害者は皆高齢ですから、賠償金の支払いは急がないとならない。しかしそれ以上に、日本側が加害の事実を認定することが大事だと思います。

 慰安婦被害者に1995年に支払われた『アジア女性基金』も、2015年の日韓合意での『見舞金』も、賠償金ではありませんでした。お金を支払ったことに対して『日本はよくやっている』と見る人もいますが、これはお金ではなく過去の植民地支配をめぐる戦争責任の問題なのです」(吉澤文寿氏)
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旧朝鮮半島出身労働者問題に係る日韓請求権協定に基づく協議の要請
平成31年1月9日

1 平成30年10月30日及び同年11月29日の日本企業に対する韓国大法院判決は,日韓請求権協定第2条に明らかに反するものです。このため,これまで,日本政府は,韓国政府に対し,国際法違反の状態を是正することを含め,適切な措置を講ずることを求め,韓国政府の対応を見極めてきたところですが,現在に至るまで具体的な措置はとられていません。このような中で,本9日午後,原告側による日本企業の財産差押手続の申請が認められた旨の通知がなされたことが確認されました。

2 旧朝鮮半島出身労働者問題については,日韓両国間に,日韓請求権協定の解釈及び実施に関する紛争が存在することは明らかであり,上記1.の状況も踏まえ,本9日午後,関係閣僚間の打ち合わせで確認したとおり,秋葉剛男外務事務次官が李洙勲(イ・スフン)在京韓国大使を召致し,同協定第3条1に基づく協議を要請しました。

大韓民国大法院による日本企業に対する判決確定について
(外務大臣談話)

平成30年10月30日
1 日韓両国は,1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約及びその関連協定の基礎の上に,緊密な友好協力関係を築いてきました。その中核である日韓請求権協定は,日本から韓国に対して,無償3億ドル,有償2億ドルの資金協力を約束する(第1条)とともに,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」されており,いかなる主張もすることはできない(第2条)ことを定めており,これまでの日韓関係の基礎となってきました。

2 それにもかかわらず,本30日,大韓民国大法院が,新日鐵住金株式会社に対し,損害賠償の支払等を命じる判決を確定させました。この判決は,日韓請求権協定第2条に明らかに反し,日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであるばかりか,1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって,極めて遺憾であり,断じて受け入れることはできません。

3 日本としては,大韓民国に対し,日本の上記の立場を改めて伝達するとともに,大韓民国が直ちに国際法違反の状態を是正することを含め,適切な措置を講ずることを強く求めます。

4 また,直ちに適切な措置が講じられない場合には,日本として,日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも,国際裁判も含め,あらゆる選択肢を視野に入れ,毅然とした対応を講ずる考えです。この一環として,外務省として本件に万全の体制で臨むため,本日,アジア大洋州局に日韓請求権関連問題対策室を設置しました。

[参考]「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(1965年12月18日発効)
第二条

1 両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。

(中略)

3 2の規定に従うことを条件として,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとする。

大韓民国大法院による日本企業に対する判決確定について
(外務大臣談話)

平成30年11月29日

1 日韓両国は,1965年の国交正常化の際に締結された日韓基本条約及びその関連協定の基礎の上に,緊密な友好協力関係を築いてきました。その中核である日韓請求権協定は,日本から韓国に対して,無償3億ドル,有償2億ドルの経済協力を約束する(第1条)とともに,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題は「完全かつ最終的に解決」されており,いかなる主張もすることはできない(第2条)ことを定めており,これまでの日韓関係の基礎となってきました。

2 それにもかかわらず,10月30日の判決に引き続き,本29日,大韓民国大法院が,三菱重工業株式会社に対し,損害賠償の支払等を命じる2件の判決を確定させました。これらの判決は,日韓請求権協定第2条に明らかに反し,日本企業に対し一層不当な不利益を負わせるものであるばかりか,1965年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的基盤を根本から覆すものであって,極めて遺憾であり,断じて受け入れることはできません。

3 日本としては,大韓民国に対し,日本の上記の立場を改めて伝達するとともに,大韓民国が直ちに国際法違反の状態を是正することを含め,適切な措置を講ずることを重ねて強く求めます。

4 また,直ちに適切な措置が講じられない場合には,日本として,日本企業の正当な経済活動の保護の観点からも,引き続き,国際裁判や対抗措置も含めあらゆる選択肢を視野に入れ,毅然とした対応を講ずる考えです。

(参考)「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(1965年12月18日発効)

第二条
1 両締約国は,両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。

(中略)

3 2の規定に従うことを条件として,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であつてこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であつて同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとする。

「日本政府、強制徴用被害者訴訟で原告勝訴ならICJ提訴」
登録:2018-10-21 20:50 修正:2018-10-22 07:25 ハンギョレ


 信義なき米国は、人類の危機 - 2021年11月27日

 「けだし国家経営の目的は、社会永遠の進歩にあり、人類全般の福利にあり。然り単に現在の繁栄にあらずして永遠の進歩にあり、単に小数階級の権勢にあらずして全般の福利にあり。而して今の国家と政事家が奉持せる帝国主義なる者は、吾人のためにいくばくか這箇の進歩に資せんとするか、いくばくか這箇の福利を与えんとするか。」(『帝国主義』幸徳秋水著 岩波文庫 2005年10月25日第2刷発行16頁)

 資本主義は当然のごとく新市場を求めグローバル化し、伴い大企業は政治的支配をも凌駕し、今や帝国主義を気息奄々にまで使い切り、巨大資本の傀儡と化した政治家は更なる市場獲得へと、<同じ穴の貉>を糾合し、利益分捕りの先兵として駆り立てられ、悪足掻きをする。

 其処ではムジナ同士の共食いも何の其のなのだ。

 幸徳秋水の云う、人類全般の福利、永遠の進歩に資するなど微塵もない。あるのは国益という名を持つ企業利益なのだ。其の為に兵士はもとより国民も死地に赴くことになる。

 二十世紀を"無間地獄"に陥れ、二十一世紀をも災禍の地獄詰めに堕さんとする。

 先兵の"巨魁"たる米国、第二次世界大戦以降、すべての戦争にほぼ結果的には敗けている。其の軍事力・経済力等からいえば、勝って当然の戦争に敗けている。端から勝敗は抜きなのだ。つまり、目的は戦争することそのものにある。したがって、<後は野となれ山となれ>で、根本的"問題解決"には全く無関心なのだ。

 誰かの"利益"になれば最良の選択なのだ。惨めな敗走なども意に介さない。大国としての矜持など皆無に近い。あとは得意のレトリックで取り繕う。

 米国は正真正銘の"詐欺国家"である。したがって一貫性のある誠実な論理は見当たらない。相手を欺くため、貶めるため、敵対するため、嘘で固める。内省力が皆無のため、丸っきり信用が置けない。

 中国の秦剛駐米大使は、「中国は世界で発生したさまざまな問題の起因ではなく、その解決策だ」と。更に、「『中米関係はこれまでにない困難な時期を迎えている。現行の国際システムの中において、中国とアメリカはオペレーションシステムが異なる犬猿の仲だと考える人もいる』と指摘した上で、『先見性と決断力、行動力を示し、中米両国と世界のために明るい道を示さなければならない。初心を忘れず、責任を胸に刻み、原則を堅持し、協力に焦点を当てるべきだ』」(CRI 2021.11.20中国駐米大使「中国は世界のさまざまな問題の起因ではなく、解決策だ」)と。

 米国には、差し伸べた中国の手を握る様子もなく、却って仇になる。

 その米国、自由・民主・人権・人道等を特に強調する。しかし、其れを一番欠くのは、米国でもある。

 今、この瞬間にも餓死・子を売る破目に陥っているアフガン関し、最早過去の事とし、アメリカの戦争責任を糾弾もしない御座なりのメディア、報道の自由などあっても、行使せず、その叫びは標語のように中国に向かう。
 その在り方というか、性向は"アメリカ其の物"なのだ。

 イエメン戦争では、「戦闘・封鎖やその悲惨な影響により、1日あたり5歳未満の子ども300人以上が命を落としている」・「サウジ主導アラブ連合軍による対イエメン戦争は、2015年3月26日に開始されました。この戦争の直接的・間接的な影響により、これまでに10万人以上のイエメン人が死亡しており、その主な犠牲者は子どもたち」と。
(ParsToday 2021.11.21「アラブ連合のイエメン攻撃で、1日に5歳未満の子ども300人以上が死亡」)

 表は勿論、戦争の裏にもアメリカがいるのだ。なぜメディアは執拗に其の責任を追及し、世論を喚起しないのか。そう、出来ないのでなく、しないのだ。メディアも利益追求の末端に雁首を並べる企業だからだ。<長い物には巻かれよ>の"忖度"である。

 成れの果がゴシップ記事に毛のはえた物程度の記事で日々紙面を汚す。

 現実には民主主義・自由主義という価値観が体現されてもいない米国に脅され、徒党を組む西側諸国すべてにも、米国の内外に亘る見苦しい有様が同様に及ぶのは必須である。民主的であるとの幻想に浸される国民もまた同様に毒される。

 民主主義は危機に瀕している。その原因は米国のあり様なのだ。国際社会に対し非建設的・破壊的対応に従事し、他国の進歩には嫉妬深く狡猾な策略を以て<足をすくう>。そのあり様は米国自身はもとより、徒党を組む仲間さえも毒することになる。

 米国はとても信頼できる国ではない。

 もし中国が米国式の民主主義制度を採り入れたら、数%を除いて14億余の民は<塗炭の苦しみを舐なめる>ことは必然であり、国は乱れ、<虎視眈々>の他国にいい様に扱われ隷属化することだろう。

 14億余の民が避難民となり、韓国へ陸続とやって来る、数千隻の小舟に群がりしがみつく難民が日本沿岸へ漂着したら、どうするのか。日本の国民ほどの数、例えば一億人が波状的に押し寄せてきたら、日本は壊滅する。

 日本も韓国も中国と対峙するときは、想像力を逞しくすべきではないか。軍事力・同盟の助などでは対応不可能な事態が発生する。人道を無視し大量の死人の山を築いたとしても、間に合わない窮極事態の発生である。
 日本も韓国もその時点で国を乗っ取られる。戦わずして"人力"によって自国民は海に落とされる。
 中国の最終兵器、"無手勝流"である。欧米も例外ではありえない。

 日本・韓国、ある意味では中国の現体制に感謝すべきことかも知れない。米国の攪乱・敵視戦略に乗るなど<愚の骨頂>であり、短見と言わざるを得ない。
 否、今でさえ、西側の底の浅い、見掛け倒しの人権の旗印を目指す難民に苦慮し、旗を引き下げるかの諍いをしている。米欧とて耐えきれない。まして台湾などは<目と鼻の先>、浮塵子の大群のごとき難民に持ちこたえるなどあり得ない。

 世界はカオスに陥る。アメリカの"何某かの政策"が成功した暁に起こる現象だ。

 米国の自由とは、"一発屋の山師"の意であり、いわゆる"アメリカの夢"なども原義を大きく外し、この類に堕している。民主主義も一皮むけば、特定の利益団体に牛耳られる専制政治が罷り通り、民主を"それらしくよそおうこと"で、国民を欺く制度なのだ。空しき夢見るなかれ、である。

 米中いずれに真の民主主義が存在するのだろうか。

 忖度し阿諛追従するメディアが民主主義、自由主義の形骸化に<拍車を加える>という図式である。最終責任は国民が貧富の格差・福祉の劣化などで蒙る。そして更に国民は国税の<情けごかし>に縋るという、主権在民を大きく外れた民主主義に逢着する。

 米国の現状を見よ。国民を放置し、欺き、他国には不道徳な仕方で覇権を何度でも試みる。

 「半導体不足 サンタも大変」(中日 2011.11.23)などと少しく我慢すればよい生活に憂いを投げかけ、日々をやり過ごす。既に文が笑っている。

 <針小棒大>に書き立てる、その裏には米国自身の隠蔽工作・米国の正義面を証明する魂胆が隠されている。そして西側メディアがそれに<輪をかけ>、<尾鰭をつける>という寸法である。死まで連想し、騒ぎ立てる始末だ。

 中国の女子テニスプレーヤー、彭帥選手についての外国メディアの問いに、中国外務省の趙立堅報道官は「これは外交問題ではない。状況を把握していない」(18日)、「あなたたちは、中国外務省の報道官は何でも答えられると思っているのか」(17日)と。(NHK 2021.11.18「中国国営メディア 不明のテニス選手記したとされるメール公開」)

 そう、日本の松野官房長官や外務報道官に同様のことが生じた時、根掘り葉掘り訊ねて見たらどうだ。

 さて、その趙立堅報道官、「私は関連の報道に注意している。福島原発汚染水の海洋放出は本当に避けられないことなのか、それとも日本が自分たちの利益のために進める独断専行なのか。もしも原発汚染水が本当に無害なら、日本はなぜ自国内の湖に放出しないのか。日本に答えて欲しい」と(人民網日本語版 2021年11月20日「外交部『福島原発汚染水が無害ならなぜ日本の湖に放出しないのか』」)。

 日本のメディアも答えを得るべきではないのか。それと、「WHO(世界保健機関)の基準の7分の1まで(放射性物質トリチウムの濃度を)希釈してある。そこが一番肝心。飲めるんじゃないですか。普通の話なんじゃない」と語った麻生太郎財務相(朝日新聞DIGITAL 2021.04.16「原発処理水『飲めるんじゃないですか、普通』 麻生氏」)の実証を迫るべきである。

 言動には責任が伴うことを麻生氏に理解させたのがよい。

 彭帥氏の件を報道したニューヨーク・タイムズ、「彭さんの告白への中国の対応について、『否定し、うそをつき、しらを切ってやり過ごそうとするが、どれもうまくいかないと全力で反撃してくる』と批判」(KYODO 2021.11.21「米紙、中国の五輪適格性に疑問 彭帥さん不明でNYタイムズ社説」)。北京冬季五輪開催国の適格性についても疑問を呈する。

 まるで<鬼の首を取ったよう>に燥ぐ。
 しかし、この批判、まさにアメリカにそっくりそのまま返上できるではないか。

 ニューヨーク・タイムズ流に言うならば、"アメリカは国際社会に<何の面下げて>出て来れるのか、閉門を命ず"となるであろう。

 なお、それより先、バイデン大統領(18日)、北京五輪の外交的ボイコットについて「我々が検討しているもの」と。(ハンギョレ 2021.11.22「英国も北京五輪ボイコット検討…文大統領の北京行きに暗雲」)

 中国の習近平国家主席との首脳会談など何の其ので、<手の平を返す>。バイデン氏、どうやら馬のごとしで、念仏の有難みがわからないようだ。信義則を欠いては、国際社会で無法者同然である。

 同様に国際人権団体(HRW)、「人権が踏みにじられている現実を世界に知らせます」、「ヒューマン・ライツ・ウォッチは、客観的かつ徹底した調査を」(「HRWについて」HP)という割には後追い的であり、冷静さに欠け、IOCは「中国政府のプロパガンダに加担するな」(中日 2021.11.24「IOC中国に加担するな」)と、まるで当たり散らすようだ。

 HRWに特定の標的狙うという政治的配慮が働いていないという保証はあるのだろうか。

 「『国際人権団体、とくにヒューマンライツ・ウォッチと国境なきジャーナリストさらにそれほどではないがアムネスティ・インターナショナルも、ハイチ人権全国協議会(NCHR)の報告を鵜呑みにして、ハイチにいる不偏不党の組織から話を聞くことを怠った』と結論づけている。つまり、国際社会――資金提供者であることを忘れてはならない――は、人権侵害を記録する専門的知識や姿勢を欠き、明らかに政治的意図を持った地域内や海外の党派的団体に依存していた。」(『権力の病理 誰が行使し誰が苦しむのか 医療・人権・貧困』ポール・ファーマー著 みすず書房 2012年7月6日第2刷発行 17頁)

 「国連の人権問題専門家は同問題について、『米国には、その国際的な人権義務に相応しい国家による全面的な人権の立法を欠けている』との考えを示し、『国家レベルの人権保護の欠如によって数百万人もの米国人、とりわけ少数のエスニックグループに属する人々が、日増しに深刻化する不平等さや差別、排斥に直面している。さらに、ヘイト発言や、憎しみによる犯罪が急増している』と」(CRI 2021.11.23「国連専門家、米国に人権問題の是正を求める」)。

 <重箱の隅を楊枝でつつく>だけでは、真の"人権の巨悪"を取り逃がす、<臭いもの身知らず>の米国を庇い、<臭いものに蓋をする>のでは、"御為倒し"となる。

 さて、彭帥氏、「北京の自宅で安全に暮らしている。プライバシーの尊重を望む」(中日 2021.11.23「IOC会長がテレビ電話『彭帥さん元気』幕引き図る中国」)と。西側メディアへの要望でもあろう。更なる執拗な追い打ちは"パパラッチ"か、将又"ストーカー"ですぞ、西側の"よいしょ"諸君。
 そっとして置くことも、"人権"の中ではないか。

 14億余人の内の一人の人権を問題にし、大きく取り上げて騒ぐが、西側の論理で<贔屓の引き倒し>とならないよう注意すべきだ。いま中国、此の14億余人の生活を保障し、更なる共同富裕の促進等を目指す。それこそが幸徳秋水の云う、「単に小数階級の権勢にあらずして全般の福利」を目指す社会なのではないか。

 米国の外面向け仮面の国是が揺らぐ。計らずも新型コロナウイルスが米国の化けの皮を剥ぐことになった。米国の人口、3億3,006万人(2021年1月 米国国勢調査局)で、あれよあれよという間に、感染による死者は77万5797人、感染者は4812万6574人(2021.11.26現在 米ジョンズ・ホプキンズ大による)にのぼる。

 米国起因の戦争等以外で、それも米国内でこれほど如実に自由・民主・人権・人道・福祉などが軽視されている状況は、残酷非道でしかありえない。

 が、米国は14億余人の内の一人に絶大なる関心を向け、その体制をも非難する。
 しかしである、その体制の違いが、徹底した対策を打ち出し、死者数4849人、感染者数11万1077人(典拠:同上)に抑えている。

 そのためか、米国(西側)は躍起になって、民主主義・法の支配・専制主義・覇権主義等と言い募り、中国封じ込めの非難に明け暮れる。
 例えば覇権とは、「武力や権謀をもって競争者を抑えて得た権力」(『広辞苑第六版』)とするなら、ぴったり隙間なしに合うのは米国ではないのか。
 米国は国際社会という湯船に糞をたらす存在でしかない。醜いとしか言い様がない。

 昨年に比し増え続ける米国ばかりか、「欧州で再び新型コロナウイルスの感染拡大が起きていることを受け、WHO・世界保健機関が、同地域で新たに70万人が同ウイルス感染により死亡する可能性があると警告」(ParsToday 2021.11.24「WHOが、欧州で新たに70万人のコロナ死者が出ると警告」)する。

 「新型コロナウイルスの大流行以来、民主主義の凋落は加速化し、より深刻化していることが判明」と、IDEAの報告。(ParsToday 2021.11.22「IDEAが、米での民主主義の凋落に関して警告」)
 と、ここでも化けの皮が剥がれる。

 つまり、米国の民主主義は劣化・溶暗化、否、民主主義が劣化・弱体化しているのではなく、その体制を活かす政治が極劣悪化している所為なのだ。

 大体において民主主義・自由主義国家を自認するのであれば、体制の違いを容認できないというのは、自家撞着に陥っている。

 新型コロナウイルス起源をめぐり、情報機関を用いてまで執拗に中国を責め、自国の襤褸を隠すのに勤しむ。(人民網日本語版 2021.09. 09「新型コロナ起源解明の政治化で露呈した米国の『保健覇権主義』」)

 中国を非難しても感染者数は減らないことを、米国は知るべきだ。

 米国の政治家は知性を喪失している。知性とは国民の福祉増進の絶え間ない努力と向上を指す。すなわち、生命への限りない畏敬と尊重である。<のべつ幕無し>の人殺しの為、政治家の頭脳も良心も麻痺したのだろう。

 そう、西側に列する日本、「自由で開かれたインド太平洋」をアイ・キャッチャーにEUをも引き入れ、民主主義・法の支配或いは自由を合言葉にして徒党を組む。そして中国の琴線に触れる台湾にも言及する。

 そして日本、中国を念頭に米国をはじめ西側諸国を引き入れ共同訓練すると、中ロの爆撃機が日本周辺上空をランデ・ブー飛行する。<鼬ごっこ>である。

 しかしこの日本、防衛費をGNPの1%未満の制限から防衛費をGDP比2%に増額しようが、日米地位協定違反の思いやり予算を増額しようが、いざ戦争となれば、"ガラスの城"同然であり、木端微塵となる。助けと頼む米国にとっても、日本・韓国・台湾は確実に最初の犠牲となるため、足枷なのだ。
 防衛費が嵩む毎に、国民の安全・安心は遠のき、生命・財産への保障は薄れゆく。御為倒しを言うだけでは、この日本、危難の陥穽にはまる。

 が、其の前に問う、如何なる戦争を予測しているのか、或は如何なる戦争に備えようとしているのか。
 今の中国は清朝末期の中国ではない。日本を含む西側が<寄ってたかって>搾取の対象とする病人ではない。
 北東アジアで世界戦争の引き金を引くのは、日本か台湾か、或は中米の偶発が契機となる。
 世界戦争、それも核戦争となることを覚悟の上なのか。愚かな政治家に任せる訳にはいかぬ。

 「忠君愛国の精神で死を決心している軍隊などは有利な目標ではありません。最も弱い人々、最も大事な国家の施設が攻撃目標となります。工業都市や政治の中心を徹底的にやるのです。でありますから、老若男女、山川草木、豚も鶏も同じにやられるのです。かくて空軍による真に徹底した殲滅戦争となります。国民はこの惨状に堪え得る鉄石の意志を鍛錬しなければなりません。また今日の建築は危険極まりないことは周知の事実であります。国民の徹底した自覚により国家は遅くとも二十年を目途しと、主要都市の根本的防空対策を断行すべきことを強く提案いたします。」(『世界最終戦争』新書版 元陸軍中将 石原莞爾 著 毎日ワンズ 第二刷 二〇一九年十二月九日 50頁)

 おそらく本質的にはこの通りだろう。空軍というより、先ずミサイルが雨霰と目標に炸裂するだろうし、「国民はこの惨状に堪え得る鉄石の意志を鍛錬」しても無意味であり、防空壕など在っても1.3億人弱にとって、皆無に等しい。其の上核爆弾が投下されたら、何をか言わんや。石原莞爾の云うように、「老若男女、山川草木、豚も鶏も同じにやられる」、有機物ばかりか、無機物も含めてだ。
 むしろ、国民はピンポイント攻撃に期待するかも知れない。今や、特定の人間だって狙える、米国が為すように。

 我らの生命のため、そして豚と鶏の為、否、生きとし生ける物のために、平和憲法護持を。

 さて日本、COP26での2040年までにハイブリッド車・ガソリン車・ディーゼル車の新車販売中止に対し、萩生田光一経済産業相、完全EVの約束には不参加と。そして「地域性や国の事情を含め、最善の方策をとることが必要」と。そして不参加は「後ろ向きな話ではない」とも。(中日 2021.11.11「ガソリン車『40年ゼロ』英など宣言、日米中不参加」)

 この不参加の理由にある類似性を感じ興味をひかれた。

 「民主主義は各国国民の権利であって、少数の国家の特権ではない。民主的であるかどうかはその国の国民によって判断されるものであり、外部の少数の人間から口出しされ、評価されるものではない。民主主義の実現にはさまざまな形があり、型にはまったものではない。米国の民主主義が抱える問題は米国人の手で解決されるべきであり、ほかの国に解決できるものではない。同様に、各国の民主主義の道筋も形も、その国の国民自身によって模索され、発展させられるべきものだ」と(CRI 2021.11.02「その国の民主主義はその国の人々の手で発展するべき=外交部」)。

 そう、この民主主義に関する発言、決して"後ろ向きな話ではない"と、思わないか、萩生田光一経済産業相。
 それとも、其れと此れは別なのだろうか。

 日本は危ない橋を造らず、渡らず、平和憲法に恃め。

 何かというと徒党を組んでの西側の対中国策は、彼らが相対的に落魄の身にある証である。そして殊更、自由や民主主義を<口の端に掛ける>のは、其れが失われている証であり、機能していないことを前提としている。

 ASEAN首脳を呼んでのG7、「自由や民主主義を推進し、志を同じくする国々の協力を促す世界的なネットワークを築きたい」とトラスト英外相。(中日 2021.11.23「米に対抗 関係格上げ」)

 自由や民主主義で徒党を組むとは理解不能である。なぜなら自由や民主主義は其の様な政治的ツールではない。人類福祉増進のための一方法論であるかも知れないが、それがすべての解決手段ともは思われない。将来に俟つ。

 ASEANが、隙を狙う詐欺を見抜くことが出来るのならば、新たな形を変えた植民地化になることは避けられるであろう。
 東南アジアは西側諸国の草刈り場と化すのか、ASEANは<遠くの親類より近くの他人>で結束するのか、或は<遠交近攻>を以て廃れるのか。

 あっ、そうだ今一つ。<知らぬ仏より馴染の鬼>ではどうかね。

 G7(8)、新自由主義を鼓吹し、全世界へ貧富の差・不平等化を拡大してきた張本人である。環境問題、貧困問題などもこれまで宣言はするものの、実際のところ此のG7、ハッキリ言えば、"仲良しクラブ風"で、その中での考えの摺合せを、公言するも、国際法的には何らの権限もなく、守る義務もないのだ。他国荒らしの常習犯の"掟つくり"ようなものだ。

 新自由主義、競争主導型市場を手本とする。<伸るか反るか>の夾雑物排除型市場を目指す。市場とはアリーナに比することができる。誰もが参加可能だが、勝者は極端に少なくなる。他は敗者同然となる。人権?不純物となる。
 死屍累々となる。米国内を見よ。

 其処では自由という名のもとに、民主という詐称のもとに、国民の福祉を重視した政策は縮小される。

 しかし、中国は此の新自由主義を上手く乗りこなし、世界経済大国に伸し上がった。つまり、巨大資本に隷属することはしなかったし、出来ない、なぜなら、建前も本音も、基本は国民本位、民主だからである。それが正当な理論だからだ。

 米国という極悪超大国をどのように制御・管理するのかは、21世紀国際社会の最大の課題であり、人類の未来にとり<焦眉の急>となる。が、依然として"民主主義・自由主義"等という"美名"に引きずられて、真面な検討も加えられていない。

 国際社会は、"猛獣"を恐れて野にあるままにするのでなく、コントロールする施策を考えなければならない。
 アメリカは"スポイラー(物事を台無しにする国)"なのだ。

 さて、米国主催の「民主主義サミット」(12.9-10)、「権威主義への防衛・汚職との戦い・人権尊重の推進」を掲げるも、実は中国という対抗馬の競争相手を囲い込み、貶め、蹴落とし、足蹴にし、跪かせるためである。

 上述のテーマを真剣に議論するのならば、中国、ロシアなどの国々を招かないのは逆に奇異の感を抱く。全くこの点でも米国は論理矛盾を起こしている。

 なぜなら、"招待した国・地域など(participant list=参加者リスト)"に、"権威主義が罷り通り、汚職が蔓延し、人権尊重が軽視または無視されている"実状なので、それらを是正・改善するための議論となるからである。

 そうではなく、もし招待しなかった国々や地域などが"その状況"なら、なおさら招き討議する必要がある。でないならば、無意味な集まりとなる。

 何れにしても、必要なら国連の場で議論すればよいテーマでもある。

 民主主義という衣装を着けた<茶番狂言>でもやる積もりだろうか。

 この凋落しつつあるアメリカ式民主主義・人権主義、そして経済的にも衰退し悪足掻きする米国、国内法を以て世界に<天に唾する>制裁を振り回し、人道的にも劣り、約束事は踏みにじり、遣ること為すことが大国に似ず、"えげつない"のである。

 米国は何がしたいのか、つまりは中国"憎し"の一点であり、これでは非生産的、非建設的な言動を伴うサミットとなろう。

 そして各国・地域を一堂に集めるのは、弱体化した米国の補強策、ツール・キットにするためである。が、今の米国では既に見透かされている。良識ある国家、地域は既に片足はドアの外へと出ていることだろう。

 なぜ米国は中国から逃げ腰なのか。なぜ徒党を組まなくては対峙できないのか。
 まさに<犬の川端歩き>のような対応しかできないのか、仲間内で<犬の遠吠え>し、そして<犬の糞で敵を討つ>ようなことを臆面もなく為す、全く鉄面皮な国に堕ちたものだ。

 中国を取り囲んで何が期待できるのか、高度に発展しつつある14億余の中国市場を今さら蚊帳の外に置けると思うのか。自らの首を締め付けるようなものだ。世界を民主主義とそれ以外に分断・対立させ、甘い汁を吸うための制御ができるとでも考えているのなら、明らかに多様な存在の否定であり、それこそ民主主義・自由主義に悖る。

 民主主義や自由主義は米国の専売特許でもなく、そもそも米国に民主主義や自由主義は存在したのだろうか。大いなる疑問である。それらの主義は米国によって<弊履を棄つるがごとし>でなかったか。
 米国に人権やそれらを語る資格はない。見下げ果てた国になったものだ。
 この国は何よりも先ず、<頭の上の蠅も追>うことだ。

 <不義にして富み且つ貴きは浮雲の如し>というではないか。

 問題解決能力もなく、自国利益最優先の<遣らずぶっ手繰り>の米国に、14億余の中国市場の代役が務まるのか。世界経済をどん底に落とすのか関の山だろう。

 しかし、馳せ参じる国々も地域も、ふと思う、何か物足りないと。そう今や米国よりも、世界の隅々まで中国という経済大国との取引が盛んになり、日常の生活まで浸透している。中国を毛嫌いする米国でさえ、クリスマスシーズンともなれば更に中国が必要になる。

 その中国が居ないのでは、<尻がこそばゆい>こと此の上ない。

 米国、中国対抗で、クアッド中心にインド太平洋経済枠組み構想、自らが不公正な経済横行の"オン・パレード "にもかかわらず、一帯一路の<向こうを張る>も、実現不可能に近い"よりよい世界を築く"など、次から次へと中国潰し策を繰り広げるも、十中八九<虻蜂取らず>か、むしろ西側諸国が更に疲弊・衰退へと向かう。

 しかし、計らずも招待された国々地域は、この際、前向き思考を持ち、前述した"米国という悪事を重ねる大国をどのように制御・管理"するかの討議の場に変えて欲しいものだ。三つのテーマ、特に権威主義への防衛、人権尊重の推進では、米国を諫める喫緊の要事となろう。

 米国に阿諛追従するだけでは、世界の将来、<地獄の上の一足飛び>となる。

 吾聞用夏變夷者。未聞變於夷者也。
  *
 吾れ夏を用つて夷を變ずる者を聞く。未だ夷に變ずる者を聞かざるなり。
*  自分は兼々中國の教えを以て夷狄の風を變化させたといふことは聞いてゐるが、未だ其の反對に夷狄の風を以て中國の教えを變じさせたといふ例を聞いたことがない。
  (『大禮記念昭和漢文叢書 孟子新釋 上』内野台嶺著 昭和四年四月廿三日發行 滕文公章句(四)三五四頁:国立国会図書館デジタルコレクション)
*
 滕の文公が國を治むる道を孟子に問うた時、「人民の生活をを裕かにするといふことを政治の根本義としなければならない。それには上に居る人が奢りを愼むことが肝要である」と。(『経書大講 第三卷 孟子』小林一郎講述 平凡社 昭和十四年四月十九日發行 滕文公章句上二四三頁:国立国会図書館デジタルコレクション)

 「世界がよくあってこそ、中国はよくなる。中国がよくあってこそ、世界はよくなる」。中華民族の血には他国を侵略し、覇を唱える遺伝子はなく、中国共産党の辞書には過去・現在・未来も「覇権」の二文字はない。(CRI 2021.11.13「中国共産党の辞書に「覇権」の二文字はない」)

 「『人民が主人公』は空論ではなく、目に見え、手で触れられる具体的な実践となっている。」(CRI 2021.11.14「『人民が主人公』こそ真の民主主義」)


 眠れない夜 - 2021年11月12日

 古本を入手した時、見返しに次のようなことが、シャーペンでだろうか、女性の筆の跡のように見え、書かれていた。

   *

 眠れない夜
 私は きまって操車場に行く、
 せかせかした奴、おっとりした奴、
 年老いた奴、
 汽車にも人間と同じ表情がある、
 私はそんな夜の操車場に立ちながら、
 なにもかも忘れて、
 ポカッ!と旅にでかけられたら いいなと思う。
 そして、渺漠たる冬の原野に、
 このからだをさらしたい。

  あなたの心に 私は美しい言葉をのこしたい
  いつもそう思ってうまく言えないで別れてしまう、
  また あしたの夜も会えますね!

   *

 2016年10月15日にネットで購入した此の本、再版発行日が1966年12月1日のものである。半世紀を過ぎようとする。
 人間に譬えれば、五十五歳となる、人生百年といわれる時代でも、五十五年の月日はそれなりの趣が出てこよう。
 此の本も如何なる遍歴を持つのか、想像をめぐらすしかない。今は、私のところに在る。が、それも仮寓と心得え、諦めの境地にあるのだろうか。
 多くの読み手を密かに観察して来たかもしれない此の本、"見返しに"どのような"思い"を頼まれたのだろうか。否、本が読み手に伝言を託したようにも思える。

   *

 眠れない夜の詩

 私は眠れないでいる 灯もきえている
 あたりは寝しずまりまつ暗だ
 ただ單調な時計の昔がけが
 私のそばで鳴つている
 運命の女神のかすかな呟やきか
 眠りにおちた夜の戰慄か
 生活のあわただしい足音か.......

 ものうげな囁きよ! どうして
 お前は私の心をさわがせるのだ?
 お前は何を語つているのだ?
 私が空しくすごした日日を
 責めているのか 嘆いているのか?
 お前は何を求めているのだ?
 私を呼んでいるのか それとも豫言をしているのか
 私はお前のいうことを知りたい
 お前のぼんやりした言葉を聞きわけたい.......

 (『プーシキン詩抄』田進 訳(山川書店, 1948 昭和二十三年十月十五日發行)181~182頁)
   *

 「何故にこの眠られぬ夜が自分に来るのかが、一つの大きな恵福であることがある。」こうゆう恵福についてすでにヨブ記が、いとも深い経験から明かに語っている。

  かつて語られたことのない
  ただ脈とうつ言によって、
  またうつつのまぼろしによって、
  この邪悪の生活から
  既に我らを生きながら
  その魔術の眼鏡によって
  救おうとするは、暗い寂かな
  眠りを奪られた夜である。」

 (ヒルティ著作集第四巻『眠られぬ夜のためにⅠ』1959年10月30日四版発行 白水社 10頁)
   *

 眠れないのは、本なのかも知れない。ぎっしりと本棚に詰め込まれ、ただ辛抱強く開かれるの待つ、本自身の独白なのかもしれない。

 そしてまた、人そのものも生涯をかけて、読了しなければならない一冊の本なのだろう。

 "あなたの心に 私は美しい言葉をのこしたい"

  "また あしたの夜も会えますね!"


 朝鮮半島終戦宣言 - 2021年11月09日

 平和に繋がることならば、例えば<藁にも縋る>思いが必要であろう。
 そうすることが、平和を希求する憲法を擁護する義務といえる。

 が、朝鮮戦争の終戦宣言をという韓国に対し、高官協議で"時期尚早"と、日本の立場を明示した。
 休戦協定からでも、70年に及ぶというのに、時期尚早とは如何なる政治判断によるのだろうか。その間、隣国は戦争終結ができず、"休戦中"下に置かれたままである。

 異常な関連産業の好景気を経験した日本、"平和の恐怖"症にでも罹っているのだろうか。
 拉致問題や北朝鮮の非核化などは恐らく言い訳に過ぎない。況して"蚊帳の外"の思惑など論外である。

 強調すべき最大の矛盾は、休戦中下に在る一方の国家、北朝鮮に対し、戦争遂行に有力な"武器類"の開発制限・制裁が置かれる。
 国連を後ろ盾に使い、制裁決議1695はじめ陸続と決議される。決議2397に至ると、輸出入規制の経済制裁を伴い、ほとんど北朝鮮は窒息状態である。
 他方の国家は武器開発が自由であり、軍備拡張も問題ない。経済制裁は勿論皆無である。
 この一方の国家には、理論的には中国も入るだろうが、現実的には"一抜けた"状態で、北朝鮮がすべてを負う代表格なのだ。他方は国連軍22ヵ国の内、内実は兎も角、残る米国・韓国が表の顔となろう。

 北朝鮮の制裁逃れを監視する理由で、今や朝鮮半島周辺海域にニュージーランド・オーストラリア・フランス・カナダ・英国・ドイツを含む6ヵ国が加わり、遊弋する。
 が、真の目的は何なのか。

 トランプ政権時に、首脳間の所謂トップダウン式が米朝間にもたらされた。が、バイデン政権に代ると、北朝鮮を"悪党"呼ばわりで、トップダウンは望むべくもなく、その上内外に多くの問題を抱え、前向きに対処するとは考えにくい。
 バイデン氏も、後手に回ったオバマ政権時の"戦略的忍耐"より、むしろ問題放置(典型的な米国の遣りっ放し政策指向)の中で、政治的利益を得るという汚い政治を維持するだろう。
 まあこれとて、北朝鮮は苦しい中でも先に進むため、後手に回ることは避けられない。

 したがって、文在寅政権を支える共に民主党が進める"朝鮮半島終戦宣言"にも冷ややかにならざるを得ない。
 今次の米国の態度留保は単なる<高みの見物>で、腹は決まっている。言い訳に恐らく、同盟国内の日本の"時期尚早"の意見(日本は米国に根回し済みかも知れない)が利用され、米国は<三方一両損>の一両も出さずに、三両も取り上げる寸法だ。
 米国が一番忌み嫌うのは、みんなが仲良く"平和"になることだ。
 米国に子分肌目一杯の日本も同様で、憲法改悪を唱え、敵基地攻撃能力を策し、平和を疎んじる。

 文大統領は、板門店宣言(2018.04)で、休戦協定を平和協定に換え、平和体制を構築すると盛り込み、終戦宣言を推し進め始めた。その後南北両首脳も、在韓米軍の存在を容認する雰囲気だったが、ハノイでのノーディール決裂後、終戦宣言のムードは急速に冷えた。

 バイデン氏は、北朝鮮に関する国家非常事態を2021年6月26日以降も有効であるとした。

 朝鮮半島における兵器使用可能な核分裂性物質の存在と拡散のリスク; 朝鮮半島を不安定にし、核およびミサイルプログラムの追求を含み、地域の米軍、同盟国、および貿易相手国を危うくする北朝鮮政府の行動および政策; 北朝鮮政府のその他の挑発的、不安定、抑圧的な行動や政策は、米国の国家安全保障、外交政策、経済に対する異常で並外れた脅威を構成している。 このため、北朝鮮に関して大統領令13466で宣言された国家非常事態を継続する必要があると判断した。

The existence and risk of the proliferation of weapons usable fissile material on the Korean Peninsula; the actions and policies of the Government of North Korea that destabilize the Korean Peninsula and imperil United States Armed Forces, allies, and trading partners in the region, including its pursuit of nuclear and missile programs; and other provocative, destabilizing, and repressive actions and policies of the Government of North Korea, continue to constitute an unusual and extraordinary threat to the national security, foreign policy, and economy of the United States. For this reason, I have determined that it is necessary to continue the national emergency declared in Executive Order 13466 with respect to North Korea.
(2021.07.21「Letter to the Speaker of the House of Representatives and the President of the Senate on the Continuation of the National Emergency with Respect to North Korea」から抜粋。)

 同様に、私たちは、朝鮮半島の完全な非核化を追求するための真剣かつ持続的な外交を求めています。

 朝鮮半島とその地域の安定性を高め、朝鮮民主主義人民共和国の人々の生活を向上させるような、具体的な約束を含む利用可能な計画に向けた具体的な進展を求めます。

Similarly, we seek serious and sustained diplomacy to pursue the complete denuclearization of the Korean Peninsula.

We seek concrete progress toward an available plan with tangible commitments that would increase stability on the Peninsula and in the region, as well as improve the lives of the people in the Democratic People’s Republic of Korea.
 (2021.09.21「Remarks by President Biden Before the 76th Session of the United Nations General Assembly」かせの抜粋。)

 踏み込んだようでもあるが、これでは具体性もなく意味不明である。

 文在寅大統領は任期一年を切っての国連総会演説(第76回)で、終戦宣言について言及した。
 文在寅氏は至って本気なのだ。ASEANでも東アジア首脳会議(EAS)でも、そしてG20等でも終戦宣言支持を訴える。
 まるで遮眼革を装着された馬のように、最終コーナをホームストレッチへと疾走する。

 米国側のソン・キム北朝鮮担当特別代表は、北朝鮮と条件を付けずに会うとの考えを示すが、条件を付けずに何を話すのか。むしろ条件を明示すべきである。
 菅義偉前首相も金正恩氏と無条件で会うと。全くこれでは金正恩氏に言われそうだ、"閑じゃないよ"と。
 折衝にならない。

 「北朝鮮が、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験をはじめとする国防力強化について『主権国家の堂々とした権利』だと重ねて強調」した。(ParsToday 2021.11.04「北朝鮮外務省が、国防力強化の権利を強調」)
 当然の主張であろう。

 本当に拉致問題・朝鮮半島の非核化や不安定について憂いるのなら、"藁にも縋れ"なのだ。
 が、日本も米国同様、他国を敵視し脅威を声高にし、国内で軍備拡張等を謀るという、見透かされた愚かな政策へと邁進する。
 しかも、未来を破壊するアメリカの"核の傘=死神"を守護神と崇め、有り難がり、米国の核攻撃政策の検討に、日韓共々狼狽する。
 それでは終戦宣言も、拉致問題も、非核化なども単に"御為倒し"を言ったに過ぎない。

 核の傘に在ることを望むのは、核戦争を前提・想定しなければ成り立たない論法である。

 常に火種を抱えたような政治屋が治政に与る現状では、国民は<枕を高くする>訳にはいかない。
 敵基地攻撃能力を声高に話すが、敵基地攻撃能力は少なくとも先制攻撃でなければ意味をなさない、そして敵国の反撃余地を残すのでは此れまた無効・無意味となる。よって成り立つのは至難の業となる。

 デンマークの陸軍大将フリッツ・ホルムの起草した「戦争絶滅受合法案」も、戦争抑止にはならない。また戦争という手段で国民を護るなどは、自家撞着に陥る。
 やはり、主権者として、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意」し、戦争手段(軍備)を取り上げ、戦争の権限を"代表者"から奪うほかない。
 「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」し、我々は腹を括ったのだ。

 それとも、平和への灯を吹き消し、御先真っ暗の中、ミサイルの炸裂が闇を照らす瞬間を見たいのか。

 以下、『秘史 朝鮮戦争』から引用する。

 「どちらの側も相手方に条件ををおしつけることのできぬ世界は、平和的解決 ― 少なくとも戦争なしの解決 ― が軍事的現実によって左右される世界である。この本の印刷中に、このことはワシントンを除くあらゆる首都で、ますますはっきりわかりはじめたようだ。誰がどのように戦争をはじめたかは、いまでも謎である ― かつてアメリカがどうしてスペインとの戦争に入ったかが謎であるという意味で。この点、新任の駐ソ米大使ジョージ・F・ケナンは、一九五一年初めシカゴ大学におけるアメリカ外交政策について抜け目ない手のこんだ演説で、米西戦争について、語ったが、その言葉は朝鮮戦争についても使うことができるようになるかもしれない。<省略>『われわれがいえるのは次のことだけである。つまり、この場合には、アメリカ政府の行動を決定する基礎となったものは、主としてワシントンの戦略的地位にいた少数の人間による非常に巧みな、非常に目だたぬ陰謀であったらしい、その感じが非常に強いということだけである。この陰謀は戦争ヒステリーのおかげで、責任を免除され、容赦され、いわば公衆の祝福をうけたのである』。どのようにしてアメリカが朝鮮戦争に引き入れられたかは、誰にもたしかなことがわからないようだ。」(338-339頁)

 「アメリカの政治・経済・軍事上の考え方の支配的傾向は、平和の恐怖であった。ヴァン・フリートは一九五二年一月、来訪のフィリッピン代表団に語って、以上すべてを要約して次のように結論した。『朝鮮はひとつの祝福でした。この地か、あるいは世界のどこかで"朝鮮"がなければならなかったのです』。この素朴な告白のうちにこそ、朝鮮戦争のかくされた歴史のカギがあるのだ。」(341頁)

 「ところが、この休戦を喜ばず、にがりきった顔をしているものがいるのだ。二十七日のJNSソウル電は報じている。『待望の休戦 ― あげよ盃よというわけで、二十七日の夜は前線でもソウルでも、バーというバーは喜色満面の兵士たちが、勢いよくウィスキーのグラスを傾けている。……ところが抜き打ち的に、テーラー第八軍司令官からキツイお達し。いわく、"今後四十八時間、バーを閉鎖し、あらゆるアルコール飲料を禁止する" ― 理由についてはこうのべている。"今は祝盃などあげている時ではない。勇気ある兵士ならば、朝鮮での任務を完うしたと満足を感ずる前に、まだなすべきことがたくさん残されていることを悟らなければならない。休戦は戦争の終結ではないのだ"』

 休戦は戦争の終結ではないという趣旨は、クラーク司令官の布告でも、ダレス国務長官の布告でも、アイゼンハワー大統領の放送でも、いやというほど強調されている。むろん休戦は文字通り戦闘行為の一時休止であり、ただちに最終的平和を意味するものではない。しかし、平和に向かっての大きな一歩前進であり、その方向への努力の出発点であり、国際緊張の緩和の一端を示すものと、多くの人々にはうけとられている。行きつまりの休戦交渉が妥結したことを一転機として、東西間の冷戦を終らせる努力を一段とすすめるべきだ、というのは、ロンドンでもパリでも、デリーでも北京でも、あるいはアメリカ国内でも、休戦を喜ぶ鐘を鳴りひびかせた人々が、心から望んでいることであろう。」(361-362頁)

引用・参照

「長谷川如是閑(1875-1969年)によるデンマーク紹介も挙げられよう(13)。長谷川は1929年に雑誌『我等』において、戦争の危険という「火の手の風上にあるのはデンマーク位なものだらうといふことである」と述べ、その一例としてデンマークの陸軍大将フリッツ・ホルムが起草した『戦争を絶滅させること受合ひの法律案』を紹介している。その法律案というのは、戦争開始あるいは宣戦布告後、10時間以内に国家の男性元首(君主、大統領)、元首の16歳以上の男性親族、総理大臣・国務大臣・次官、戦争に反対投票をしなかった立法部の男性代議士、戦争に反対しない僧正・管長・高僧を最下級の兵卒として最前線に送り、実戦に従わせ、さらに上記有資格者の妻、娘、姉妹等も看護婦、使役婦として最も砲火に接近する野戦病院に勤務させることを提案していた(なお、原典では元首、君主にあたるところは伏字となっているが、文脈から容易に想像できる)。長谷川は、この法案を名案としつつも、各国にこれを採用させるためには、ホルム大将に「戦争を絶滅させること受合の法律を採用させること受合の法律案」を起草してもらわねばならないと、このエッセーを結んでいる。この紹介は、現在においても極めて大胆な提案であり、当時としては衝撃的な内容であったと思われる。
(13)如是閑「戦争絶滅受合法案」(『我等』第11巻第1号、1929年1月)2頁。なお、この長谷川のエッセーは第二次世界大戦後、政治学者の丸山真男により取り上げられている(丸山真男「憲法第九条をめぐる若干の考察」『世界』第235号、1965年6月、51頁)」
(「『地域政策研究』(高崎経済大学地域政策学会) 第3巻 第1号 2000年7月19頁~48頁 日本・北欧政治関係の史的展開 ─日本からみた北欧─ 吉武信彦」)
(国立国会図書館デジタルコレクション)

『秘史 朝鮮戦争』著者ストーン 訳者内山 敏 1966年再版発行 青木書店)
引用者註:ジェームズ・アルワード・ヴァン・フリート(James Alward Van Fleet)・休戦協定 1953年7月27日

中日新聞 2021.11.07「朝鮮戦争終戦宣言に難色」岸田政権、韓国に「時期尚早」

註:訳は私訳です。