演奏 レスリー・ハワード       
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.55 “鐘”の主題によるブラブーラ風大幻想曲』
データ
1995/97/98年録音 HYPERION CDA67408/10
ジャケット ジャン=フランソワ・ミレー『晩鐘』
DISC INDEX ≪DISC.1≫ ≪DISC.2≫ ≪DISC.3
収録曲
≪DISC.1≫
1.パガニーニ〜リスト  パガニーニの“鐘”の主題によるブラブーラ風大幻想曲     S420
2.アンジェルス!                     第1草稿                 S162 a/1
3.プティット・ワルツ・ファヴォリート          第1ヴァージョン            S212 i
4.憂鬱なワルツ                      第1ヴァージョン            S210
5.ポーランドの旋律                    短い草稿                S249 a
6.伝説 No.2“波を渡るパオラの聖フランシス”   簡略ヴァージョン           S175/2 bis
7.メフィストワルツ 第4番                 第1ヴァージョン            S216 b
8.即興的ワルツ                                           S213 a
9.憂鬱なワルツ                       中間ヴァージョン          S210 a
10.ワレンシュタートの湖にて               中間ヴァージョン          S156/2a/bis
11.アンジェルス!                      第2草稿               S162 a/2
12.エステ荘の糸杉に  悲歌2               第1草稿               S162 b
13.パガニーニ〜リスト ベニスの謝肉祭による変奏曲                   S700 a
感想 1.パガニーニ〜リスト  パガニーニの“鐘”の主題によるブラブーラ風大幻想曲 
  S420    1832年
この曲はちょうどリストがパガニーニの演奏を実際に聴いて、強烈な影響を受けた1832年に作られています。この曲が“ラ・カンパネラ”主題が使われる一番最初の作品です。長い曲ですが、作品の内容としては、サロン音楽のような軽い作品です。パガニーニから受けた影響を実際にリストが成果として実らせるのは、この曲から5〜6年後のこととなるのでしょう。

Grande Fantaisie di bravura sur La Clochette de Paganini
(17:57 HYPERION CDA67408/10)
2.アンジェルス!  守護天使への祈り       第1草稿    S162 a/1   1877年
これは“巡礼の年 第3年”の第1曲目の第1草稿です。“1877年9月27日”と草稿に記されているとの事。“アンジェルス”はジャン=フランソワ・ミレーの有名な絵画“晩鐘”と同じタイトルです。朝、昼、晩の3度に行なわれる“お告げの祈り”、またその時の“お告げの鐘”のことです。

リストの曲は“鐘の音”よりも、不可思議な魅力の和音、旋律に満ちている曲です。楽譜の指示によるものでしょうか?ハワードの演奏では最終稿の版よりも遅く演奏されています。最終稿に比べて音数が少ないです。Den Shutz -Engeln Angelus!(3分59秒)
3.プティット・ワルツ・ファヴォリート  第1ヴァージョン   S212 i   1842年
第2ヴァージョンとはイントロがちょっと違います。Petite valse favorite(2分38秒)
4.憂鬱なワルツ              第1バージョン     S210   1839年
イントロの低音の使い方が、ハンガリー狂詩曲第15番を思わせます。この曲は“メランコリー”といっても、イントロの旋律が沈鬱である以外は、響きの明るい曲です。Valse Melancolique(5分6秒)
5.ポーランドの旋律            短い草稿     S249 a   1833年頃
これは後に“ヴォロニンツェの落穂拾い”の第2曲目(S249/2)となるもの。断片のようなものです。また1835年にこの主題を使って“ヴァイオリンとピアノのための2重奏曲(またはソナタ)”(S127)が作られています。

Melodie polonaise
(1:11 HYPERION CDA67408/10)
6.伝説 第2番“波を渡るパオラの聖フランシス”    簡略バージョン   S175/2 bis
  1863年  
これは演奏を容易にしたヴァージョンです。波をイメージさせるような感じではなく、行進曲のような感じとなっています。

Legende No.2 St Francois de Paule Marchant sur les flots
(7:14 HYPERION CDA67408/10)
7.メフィストワルツ 第4番   第1バージョン             S216 b  1885年
これは最終稿の後半ゆるやかなアンダンティーノの部分がついていないものです。響きも全体的に音が少ない感じがします。

Vierter Mephisto−Walzer(2分52秒)
8.即興的ワルツ                          S213 a  1880年
リストがヴィルトゥオーゾ時代の後半(1842年)から、ワイマール時代(1852年)に作曲した“即興的ワルツ”を、晩年に弟子たちのために旋律をいくつか追加したものです。

Valse−Impromptu(6分38秒)
9.憂鬱なワルツ          中間ヴァージョン     S210 a  1840年頃
第1ヴァージョンとの違いはちょっとわかりません。最終稿とは明らかに異なり、第1ヴァージョンと中間ヴァージョンには、特徴的な高音が跳ねるような感じの旋律があります。

Valse Melancolique(5分40秒)
10.ワレンシュタートの湖にて   中間ヴァージョン   S156/2a/bis  1839年
“巡礼の年 第1年 スイス”の第2曲目です。この“ワレンシュタートの湖にて”は“旅人のアルバム”と“巡礼の年”の中間にあたるものです。

Le Lac de Wallenstadt(2分44秒)
11.アンジェルス!         第2草稿       S162 a/2  1877年
第1、第2草稿では、この曲の旋律が明確に聞こえてくる感じで、稿を重ねる度に、不可思議さが強められていきます。

Den Shutz -Engeln Angelus!
(3:56 HYPERION CDA67408/10)
12.エステ荘の糸杉に  悲歌2     第1草稿    S162 b    ?年
“巡礼の年第3年”の第3曲です。クレジットには1882年頃作曲となっていますが、最終稿が1877年には完成しています。ハワードのライナー本文に“Undated”という記載があるので、クレジットはミスプリントでしょうか。“エステ荘の糸杉に 悲歌2”は暗く重々しい感じと、とても煌びやかな明るさを持つ曲です。

Den Cypressen der Villa d’Este−Threnodie 2
(8:33 HYPERION CDA67408/10)
13.パガニーニ〜リスト ベニスの謝肉祭による変奏曲   S700 a  ?年
ハワードの解説によると、この旋律はパガニーニ作曲のものではないそうです。民謡等のひとつでしょうか。定かではないそうですが、1843年に作曲されたという資料もあるそうです。確かに、DISC 1 #1の“ラ・カンパネラ”原型(S420)が1832年、DISC 3 #1の“ラ・カンパネラ”と“ベニスの謝肉祭”を合わせた(S700 i)が1845年ですから、その中間ということで辻褄があいます。曲は華麗な装飾が随所にでてくる、軽い感じのサロン音楽のようです。

Variations sur Le Carnaval de Venise(5分35秒)


DISC INDEX DISC.1≫ ≪DISC.2≫ ≪DISC.3
収録曲
≪DISC.2≫
1.ハンガリー(交響詩 第9番)                            S511 e
2.ラコッツィ行進曲 (管弦楽版からの簡略編曲)                S244 b
3.ものみな涙あり 〜ハンガリー風に                        S162 c

  オラトリオ“聖エリザベス”より二つの曲                   S693 a
4.バラの奇跡
5.嵐

6.忘れられたワルツ 第3番    (終結部の異なるヴァージョン)      S215/3 a
7.半音階的大ギャロップ      簡略ヴァージョン              S219 bis
8.忠誠行進曲             第1ヴァージョン               S228ー1
感想 1.ハンガリー(交響詩 第9番)                S511 e   1872年
1840年にリストはハンガリーに演奏旅行し、絶大な歓迎を受けます。その時に詩人ヴェレシュマルティより詩を献呈され、その詩をもとに“ハンガリー風の英雄行進曲(S231)”を作曲します。※1そして“ハンガリー風の英雄行進曲”を元に1854年に交響詩“ハンガリー”が作られます。

※1 これはアルパド・ヨーの交響詩全集の解説に載っていたデータです。ハワードによると“ハンガリー風の英雄行進曲”は
    ポルトガルの国王のために作曲されたとのこと。ちょっとわかりません。


一連の交響詩のピアノ独奏曲版と同じく、この“ハンガリー”もリストの弟子が編曲し、リストによる手直しを経て完成しています。“ハンガリー”はフリードリヒ・スピロによる編曲です。

沈鬱な導入部のあと、メランコリックな小さな行進曲(この部分がS231です)となり、勝利を称えるような雄大な響きへと変わります。この部分は交響詩“前奏曲”を思わせます。
Hungaria(Poeme symphonique No.9)(22分37秒)
2.ラコッツィ行進曲 (管弦楽版からの簡略編曲)       S244 b  1871年
管弦楽版からの編曲なので、“狂詩曲”としての性格は少なく、“行進曲”ぽいです。これはVOL.28に収められているヴァージョンより簡略した形での編曲です。

1871年はリストがハンガリーの宮廷顧問に任命された年です。Rakoczi - Marsch(10分43秒)
3.ものみな涙あり 〜ハンガリー風に    第1ヴァージョン    S162 c  1872年
これは“巡礼の年 第3年”の5曲目です。非常に重い曲です。タイトルはヴェルギリウスの詩句からとられています。辞典の方では“哀れならずや”という邦題となっていますが、“ものみな涙あり”の方が響きがいいので、こちらを。Sunt lacrymae rerum(7分52秒)
オラトリオ“聖エリザベス”より二つの曲         S693 a   1862年
Zwei Stucke aus der heiligen Elisabeth
4.バラの奇跡                          S693a/1
“聖エリザベス”を表す旋律の周りを、アルペジオによる装飾が飾り、とても神秘的な雰囲気を出しています。

≪バラの奇蹟≫
これはオラトリオ“聖エリザベスの伝説”の第1部の2番目のエピソードです。ある日、エリザベスが貧しい人々のためにパンとワインを持って行こうとした時、道で夫ルートヴィヒに見つかってしまいます。エリザベスは“バラを摘んでいただけです”と嘘をつきます。おおよその見当のついたルートヴィヒは“その籠の中を見せなさい”と言います。そして籠の中身を見ると、パンとワインはそこにはなく、バラに変っていたのです。
Das Rosenmirakel(8分57秒)
5.嵐                           S693a/2
これは第2部の最初、全体では4番目のエピソードにあたります。ルートヴィヒが戦死すると、ルートヴィヒの母であるソフィーが城内の権力を持つようになります。そして嵐の夜にエリザベスと子どもたちを城の外へ追放します。すると神の怒りに触れ、雷が城へ落ち、城は炎上します。Der Sturm(6分32秒)
6.忘れられたワルツ 第3番    (終結部の異なるヴァージョン)  S215/3 a
  1883年
僕は忘れられたワルツの第3番には、宗教的性格を感じるのですが、“聖エリザベス”の2曲の後に弾かれると、その感はいっそう強まりました。このヴァージョンは曲の終わりに少し華やかな旋律が加えられています。Troisieme Valse Oubliee(5分29秒)
7.半音階的大ギャロップ      簡略ヴァージョン   S219 bis 1840年頃
有名な“半音階的大ギャロップ”の簡略版です。簡略となった分、この曲の魅力である豪快な迫力が半減していますが・・・。同じ頃に作られている“グランド・ワルツ・ドゥ・ブラブーラ(S209)”のエンディング部分が登場します。Grand Galop chromatique(2分36秒)
8.忠誠行進曲             第1ヴァージョン   S228-1 1853年
この曲はザクセン=ワイマールのカール・アレクサンダー大公(1818−1901)の祝典のために作曲されました。カール・アレクサンダー大公は、ワイマール時代のリストのパトロンで友人でもありました。中間部は後に世俗的合唱曲“ワイマール民謡「ワルトブルク城の前で」”に使用されました。Huldigungsmarsch(7分42秒)


DISC INDEX DISC.1≫ ≪DISC.2≫ ≪DISC.3≫
収録曲
≪DISC.3≫
1.パガニーニ〜リスト パガニーニの”鐘””ベニスの謝肉祭”のテーマによる大幻想曲  第1ヴァージョン   S700 i
2.アンジェルス! 守護天使への祈り                                第3稿         S162 a/3

  ハンガリーの歴史的肖像                                                   S205 a
3.第1曲 セチェーニ・イシュトヴァーン
4.第2曲 デアーク・フェレンツ
5.第3曲 テレキ・ラースロー
6.第4曲 エトヴェシュ・ヨーゼシュ
7.第5曲 ヴェレシュマルティ・ミハーイ
8.第6曲 ペテーフィ・シャンドール
9.第7曲 モショーニ・ミハーイ

10.アンジェルス! 守護天使への祈り                                第4稿         S162 a/4
11.パガニーニ〜リスト パガニーニのテーマによる大幻想曲                  第2ヴァージョン   S700 ii
感想 1.パガニーニ〜リスト パガニーニの”鐘””ベニスの謝肉祭”のテーマによる大幻想曲
  第1ヴァージョン   S700 i  1845年
これは“ラ・カンパネラ”原型の“パガニーニによる超絶技巧練習曲集”第3曲(S140/3)と、最終稿の“パガニーニ大練習曲”第3曲(S141/3)の間に作られている曲です。リストがリスボンに滞在している頃に作られています。前半が“ラ・カンパネラ”5分ほどで“ベニスの謝肉祭”のテーマとなります。その後は、それらの主題を使って変奏されていきます。全体としてゆったりした曲調で、幻想曲という感じがあまりありません。“ラ・カンパネッラ”部分はS141/3に近くなっています。Grande Fantaisie (Variations) sur des themes de Paganini−La Clochette et Le Carnaval de Venise(14分21秒)。
2.アンジェルス! 守護天使への祈り    第3草稿  S162 a/3 1880年
第2草稿の最後にもう一度イントロダクションに戻る感じになります。イントロの響きが非常に不可思議が強くなっています。第1、第2草稿から3年後に作られています。Den Shutz -Engeln Angelus!(3分59秒)
 ハンガリーの歴史的肖像   (全7曲、最終の順番による)  S205 a 1885年 
通常知られた順序とは異なります。VOL.12に収められている順序は出版された際のもので、正しい順序はこちらとのこと。出版された順序と比べると、次のとおりになります。2曲目から5曲目が入れ替わっています。

    S205           S205 a
 1.セチェーニ         セチェーニ
 2.エトヴェシュ       デアーク
 3.ヴェレシュマルティ   テレキ
 4.テレキ           エトヴェシュ
 5.デアーク         ヴェレシュマルティ
 6.ペテーフィ        ペテーフィ
 7.モショーニ        モショーニ

非常に重苦しい曲ばかりです。
3.第1曲 セチェーニ・イシュトヴァーン              1885年
セチェーニは政治家・著述家です。民族的な旋律と、とても重たい低音のリズムをもつ曲です。
Szechenyi Istvan(2分32秒)
4.第2曲 デアーク・フェレンツ                   1885年
デアークは政治家で著述家です。7曲の中では比較的、親しみやすい旋律を持っています。

Deak Ferenc(2分8秒)
5.第3曲 テレキ・ラースロー                   1885年
前半部分がどことなく“死のチャルダッシュ”に似ています。この曲は同年に作曲されている“葬送の前奏曲と行進曲”と同じです。テレキは政治家でありまた著述家で、迫害され自殺したそうです。

Teleki Laszlo(2分47秒)
6.第4曲 エトヴェシュ・ヨーゼシュ                 1885年
エトヴェシュは政治家です。似ているというわけではないのですが、印象的な導入部から華やかな部分に移る感じが、同時期に作られている“メフィストワルツ”の3番、4番あたりを思い出させます。

Eotvos Jozsef(2分18秒)
7.第5曲 ヴェレシュマルティ・ミハーイ
ヴェレシュマルティは詩人で、リストが1840年にハンガリー演奏旅行を行った際、リストに詩を献呈しました。

Vorosmarty Mihaly(2分40秒)
8.第6曲 ペテーフィ・シャンドール                1877年
この曲は“ペテーフィの追悼に”と同じです。ペテーフィはハンガリーの国民詩人で、1848年の革命では中心的な活動をし、革命の戦火の中、1849年25歳の若さで生涯を終えました。またペテーフィ作の詩“ハンガリーの神”にリストは歌曲を作曲し、ピアノ独奏曲、オルガン曲に編曲しています。この第6曲は7曲中最も静かな曲となっています。

Petofi Sandor(4:47)
9.第7曲 モショーニ・ミハーイ              1870年
この曲は“モショーニの葬送”と同じです。モショーニ(1814−1870)はハンガリーの作曲家です。リストはモショーニの死を悼み、この曲を作曲しました。この新しい順序による“ハンガリーの歴史的肖像”の中で、唯一曲自体にも変更が加えられているものです(他の曲はVOL.12と録音時間が同じです)。よく知られた“モショーニ”は、エンディングが静かに終る感じですが、このヴァージョンではもう一度、弔鐘が鳴るような感じで終ります。ハワードの解説では違いが詳しく解説されているのですが、ちょっとわかりませんでした。Mosonyi Mihaly(8分7秒)
10.アンジェルス! 守護天使への祈り    第4草稿  S162 a/4 1882年
中間部に主旋律を壮大に奏でる部分が追加され、“アンジェルス!”の数ある草稿の中で、最も長い版となっています。第3草稿からさらに2年後に作られています。Den Shutz -Engeln Angelus!(7分33秒)
11.パガニーニ〜リスト パガニーニのテーマによる大幻想曲  第2ヴァージョン
   S700 ii  1845年
ハワードの演奏で、第一ヴァージョンよりもさらに5分ほど長くなっています。第1ヴァージョンのエンディングを少しおとなしくして、トレモロが魅力的な“謝肉祭”の変奏が追加されています。Grande Fantaisie (Variations) sur des themes de Paganini (19分32秒)

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