演奏 レスリー・ハワード
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.49 シューベルトとウェーバー編曲集』
データ
1997年録音 HYPERION CDA67203
ジャケット ハインリヒ・フォーグラー『帰還(Homecoming)』
収録曲
1〜4.シューベルト〜リスト 幻想曲ハ長調 “さすらい人幻想曲” Op.15  D760
5.シューベルト〜リスト 即興曲変イ長調 Op.90/2 D899
6.シューベルト〜リスト 即興曲変ト長調 Op.90/3 D899
7.シューベルト〜リスト “ばら” D745
8.ウェーバー〜リスト  “祝典序曲” Op.59
9.ウェーバー〜リスト コンツェルトシュトゥック
10.ウェーバー〜リスト “華麗なるポロネーズ” 
S565 a
S565 b/1
S565 b/2
S556i/bis
S576
S576a
S455
感想
1〜4.シューベルト〜リスト 幻想曲ハ長調 “さすらい人幻想曲” Op.15  D760 
     S565a   1868年頃
シューベルトの“さすらい人幻想曲”は1822年に作曲されました。これは編曲というよりも、リストは当時、他の作曲家の楽譜の校正とかも行っておりく(リストの名前を冠した楽譜はよくセールスに結びついたそうです)、そのグループに属するものです。

1870年1月10日にジークムント・レーベルトに宛てた手紙で、次のような記述が読めます。
“ウェーバーとシューベルトのソナタの校正は、おととい、鉄道便で2つの小包でシュトゥットガルトへ発送したよ。(中略)もうすぐ、待望のニ短調のソナタを送ってくれるんだろう?あとウェーバーのコンツェルトシュトゥック。私はそれらをすぐに改訂してあげるよ。まもなく君のところにシューベルトの即興曲やワルツ、etcが届くよ。”

これはシュトゥットガルトのコッタ社という出版社からの依頼で始まった仕事になります。この企画を主導していたのが、レーベルト(高名なピアノ教師で、シュトゥットガルトのコンセルヴァトワールの設立者の一人、レーベルトとシュタルクの教則本にも関係しています)のようです。その出版楽譜のタイトルは、『クラシック・ピアノ作品の教則版(Instructive ausgabe klassischer klavierwerke)』というもので、もともとこの改訂が教則的、指導的な目的を持っていることがわかります。もともとシューベルトの“さすらい人幻想曲”は、非ピアニスティックな作品と考えられており(ピアノ演奏上の人間の身体能力面で)、それをリストがもっとピアノ奏法に適した形で改訂したようです。またシューベルトの時代からは格段に進歩したリストの時代のピアノに合わせるためという目的もありました。

ハワード、あるいはマリア・エックハルトによるCDライナーを参照すると、リストはいくつかのアルペジオや16分音符をより簡易に、あるいはほとんど削除したり、アーティキュレーション、ペダル使用などを加え、オシアを追加し、より演奏効果がでるように変更しているようです。楽譜を見比べていないのですが、聞き比べると、いくつかの部分でリスト的なニュアンスを感じるものの、ほとんどシューベルトの作品を聴くのと同じです。その結果はリストの編曲が当初の目的を達していることのあらわれだと思います。

次は1868年12月2日、エステ荘において、同じくレーベルト宛に書かれた手紙から。

“現代のピアニスト達はシューベルトのピアノ作品が持つ輝かしい魅力にほとんど気づいていないね。ほとんどのピアニストは演奏すると、あちらこちらの繰り返し、長ったらしさ、配慮のなさに気づき、それでそれらの作品を放ってしまうんだ。確かに、シューベルト自身も、彼の類稀なピアノ作品で用いられているとても不十分な様式の点で、いささか非難されてしかたがない。シューベルトは、つまらないことと重要なこと、偉大な作品と凡作をごったまぜにして、非常に多作で、絶え間なく書き続けたからさ。。批評なんかを気にせず、いつも自分の翼で舞い上がるのさ。まるで大空の鳥のように、彼は音楽の中に生き、そして天使のように歌うんだ。安住することのない、真実の天才、絶対の優しさ!おお、私の愛すべき、若き日の天国の英雄!高貴な魂と心の奥底から注がれる、調和、新鮮さ、力、典雅さ、夢、情熱、和らぎ、涙と炎。そして、シューベルトは私達に彼の精神の魅力にある彼の素晴らしさを忘れさせてしまう。(略)私は、シューベルトがこの改訂版を気に入らないことなんてないだろうと、自分で得意に思っているよ。”

シューベルトの“さすらい人幻想曲”はリストにとって、非常に重要な作品で、1851年にはピアノと管弦楽のための作品(S366)に、また2台のピアノのための作品(S653)に編曲しています。それは明らかに同年に作曲が開始されるピアノソナタロ短調に影響を与えました。またリストの他の作品を聴いていても、“さすらい人幻想曲”のアダージョ部分の旋律に似たものがよく登場します。

Schubert〜Liszt Grosse Fantasie in C-dur “Wandererfantasie” Op.15 D760
(22:38 HYPERION CDA67203)
5.シューベルト〜リスト 即興曲変ホ長調 Op.90/2 D899
  S565b/1 1868年頃 
シューベルトの“4つの即興曲集”Op.90は1827年に作曲されました。リストによるこの校訂も“さすらい人幻想曲”と同じグループに属します。他にもリストは校訂をしているのですが、ハワードの選択基準は、リストの創造的な部分が含まれているか否か、という点で、そのためこの3曲が選ばれています。

速く流れるような美しい旋律線で通される曲で、リストは楽譜の下に多くの変更した旋律や、指示等を書き加えているとの事。

Impromptu in E♭ major
(4:58 HYPERION CDA67203)
6.シューベルト〜リスト 即興曲変ト長調 Op.90/3 D899
  S565b/2  1868年頃
 
ハワードの解説によるとシューベルトの原曲の調性は変ト長調なのですが、当時出版されていた楽譜はト長調に移されていたものとのこと。リストはおそらくそのことを知らずに、そのとおりにト長調のままです。

美しい旋律とアルペジオで彩られるこの曲に、僕は“愛の夢 第3番”との親近性を感じます。
原曲の歌曲“おお、愛せるだけ愛せよ”は1847年に作曲されています。ヴィルトゥオーゾ時代の終盤にあたります。当時、リストはコンサートレパートリーとしてシューベルト歌曲を編曲したものを常にとり上げてる頃なので、そのあたりから影響を受けたのかもしれません。

Impromptu in G♭ major
(5:53 HYPERION CDA67203)
7.シューベルト〜リスト “ばら” 中間バージョン D745 
  S556i/bis 1837年頃
シューベルトの原曲は1822年に作曲されたシュレーゲルの詩による歌曲になります。この“ばら”の編曲は、第1バージョンがVOL.31に、第2バージョンがVOL.33に収められており、このVOL.49に収められたバージョンはその中間バージョンとなります。出版社名でしょうかライヒャウト(?)版と呼ばれるそうです。

第1バージョンと異なるのは、中間部のクライマックスからマイナー調の第1主題へ戻る直前の部分がだいぶ異なります。またエンディング前に再度、ドラマティックに盛り上がる箇所が追加されています。

Die Rose
(5:07 HYPERION CDA67203)
8.ウェーバー〜リスト  “祝典序曲” Op.59       S576    1846年
原曲はウェーバーの1818年作曲の管弦楽曲“祝典序曲”Op.59になります。ザクセン選帝侯フリードリヒ・アウグスト1世の治世50年を記念して作曲されました。曲のエンディングに“ゴッド・セーブ・ザ・クイーン”の旋律が使われます。当時のザクセン国歌は英国国歌と同じ旋律を使っていました。

大演奏旅行時代の作品にふさわしい、華麗で壮大なピアノ独奏曲となっています。

Jubelouverture
(8:09 HYPERION CDA67203)
9.ウェーバー〜リスト コンツェルトシュトゥック
リストが若い頃から演奏し続け、多大な影響を受けたウェーバーの“コンツェルトシュトゥック”の編曲です。この版は先のシューベルト改訂版と同じく、コッタ社から出版された教則版シリーズのものになります。リストは、コッタ社の教則版出版に際し、ピアノパートだけに改訂を加えたもの(Vol53bに収められているS367a)と、オーケストラパートも含めたピアノ独奏曲版(S576a)の2つを用意しました。

“コンツェルトシュトゥック”のピアノ独奏版は、ヴィルトォーゾ時代の主要レパートリーでした。おそらくその頃のスタイルからはだいぶ抑制された版だと思いますが、オーケストラパートの組み入れ方などの点では、ヴィルトゥオーゾ時代のスタイルが、基本的に使われているのでしょう。

Konzertstuck
(17:10 HYPERION CDA67203)
10.ウェーバー〜リスト 華麗なるポロネーズ       S455   1851年頃
ウェーバーの“華麗なポラッカ(華麗なるポロネーズ)”作品72を編曲したものです。ウェーバーの“華麗なポラッカ”は1819年に作曲されており、“笑いこける”という標題がつけられています。先の2曲と異なり、こちらは自由なアレンジとなります。ピアノと管弦楽に編曲(S367)したものと、2台のピアノのための版もあります。すべての版は1851年頃に編曲されています。イントロはウェーバーの1808年作曲の“大ポロネーズ”作品21からとられています。ウェーバーの趣味の良さが感じられる軽やかで華やかな曲です。

Polonaise brillante
(10:54 HYPERION CDA67203)


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