演奏 レスリー・ハワード
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.40 さらば楽しまん(ガウデアームス・イギトゥール)』
データ 1997年録音 HYPERION CDA67034
>>輸入盤(試聴あり)
ハインリヒ・アーダム『マックス・ヨゼフ・プラッツのナショナルシアターとレジデンツ』
収録曲
1. さらば楽しまん(ガウデアームス・イギトゥール) - パラフレーズ S240
2. ペッツィーニ〜リスト “ウナ・ステラ・アミカ”のワルツ(フレンドリー・スター・ワルツ) S551
3. ドニゼッティ〜リスト 皇帝アブデュル・メジド・ハーンのための行進曲 S403
4. ティリンデッリ〜リスト ティリンデッリのワルツ第2番 フランツ・リストによる変奏曲 S573a
5. ハンガリーの行進曲 第2番 - ハンガリー突撃行進曲 第1バージョン S232
6. ノクターン (即興曲 第1バージョン) S190a
7. ゲーテ生誕100年祭の祝典行進曲 S227
8. アリャビエフ〜リスト ナイチンゲール 第1バージョン S250a
9. ブルハコフ〜リスト ロシアのギャロップ S478 i
10. ヴィルホルスキー〜リスト 昔、ロマンス 第1バージョン S577 i
11. さらば楽しまん(ガウデアームス・イギトウール) ユーモレスク S509
12. バラード 第2番 第1バージョン S170a
感想 1.さらば楽しまん(ガウデアームス・イギトゥール) - パラフレーズ
  S240 1843年  
ドイツの学生歌によるパラフレーズです。“ガウデアームス・イギトゥール”は古くから親しまれている学生歌で、卒業式や学園祭等で歌われてきたものです。この曲は、ブラームスも“大学祝典序曲”で使用しています。

ハワードによればリストが何の機会、式典のためにこの曲を編曲したかは不明とのこと。最初から最後まで娯楽性に貫かれた曲で、後半部の速度が上がるところなど面白いです。もうひとつの“半音階的大ギャロップ”といった感じの曲です。1853年に作られた第2バージョンはVOL.56に収められています。

リストはこの曲で使用した原曲を、“百年前に”(S347)でも使用している、とのこと。またハワードの指摘では、多くの作品表で“百年前に”はメロドラマのグループに属されているのですが、これは明らかにメロドラマではなく劇音楽とのこと。

Gaudeamus igitur
(9:08 HYPERION CDA67034)
2.ペッツィーニ〜リスト “ウナ・ステラ・アミカ”のワルツ(フレンドリー・スター・ワルツ)
  S551  1880年頃
ペッツィーニはイタリア、ティヴォリの楽団長で、エステ荘に滞在していたリストと知り合った、とのこと。曲は愛らしく軽やかな小品という感じです。

ハワードは録音していないのですが、1990年にMusikverlag (というのが出版社?)から出版されたもので、この“ウナ・ステラ・アミカ”の簡略化された異稿“ポルカ・マズルカ”というものがあります。譜面には“Villa d'Este 4.Gennaio 1876(エステ荘にて 1876年1月4日)”と書かれています。

Una stella amica - Valzer
(3:17 HYPERION CDA67034)
3.ドニゼッティ〜リスト 皇帝アブデュル・メジド・ハーンのための行進曲
  S403  1847年
アブデュル・メジド1世は1839年に即位したオスマン・トルコの第31代スルタンです。タンジマート(恩恵改革)を推進したことで知られます。1856年に自国のキリスト教徒に対し生命・財産の補償を与え、イスラム教徒と平等なものとしたことは画期的なことでした。しかしキリスト教徒の権利が拡大されると、逆にヨーロッパ諸国の干渉を誘発してしまいます。

ウォーカーによると、アブデュル・メジドは、父親のムハンマド2世より、近代西洋的な教育を受けており、彼自身フランス語を流暢に話せたとのこと。

リストは1847年にヴォロニンツェを発った後、6月8日にコンスタンティノープル入りをします。リストはそこでアブデュル・メジドに歓迎されチラハン宮殿でも演奏をしました。アブデュル・メジドはイタリアオペラを好んでいたため、リストは演奏曲目としてガエタノ・ドニゼッティの“ランメルモールのルチア”よりアンダンテ、ロッシーニの“ウィリアム・テル”序曲、ベリーニの“ノルマ”の主題による幻想曲を演奏しました。

リストのコンスタンティノープルでの滞在時に、常に同行したのが、ガエターノ・ドニゼッティの兄弟にあたるジュゼッペ・ドニゼッティでした。ジュゼッペ・ドニゼッティは、当時のアブデュル・メジドの宮廷楽長だったのです。またジュゼッペ・ドニゼッティは、国家のためのアンセムの作曲家であったとのこと※1。この“スルタン・アブデュル・メジド・ハーンのための行進曲”もそのような作品でしょう。勇壮なリズムにエキゾチックな旋律、高音の装飾も魅力的な曲です。簡略版がVOL.56に収められています。


※1
FRANZ LISZT  The Virtuoso Years 1811-1847 Alan Walker Cornell Univwrsity Press 1987 P.440〜441

La marche pour le Sultan Abdul Medjid-Khan
(7:45 HYPERION CDA67034)
4.ティリンデッリ〜リスト ティリンデッリのワルツ第2番 
  フランツ・リストによる変奏曲 S573a 1880年
ハワードの解説によれば、リストはティリンデッリの曲を3曲編曲しているとのこと。そのうち現存しているのが、このワルツ第2番とのこと。

ピエル・アドルフォ・ティリンデッリ(1858-1937)はヴァイオリニストで作曲家とのこと。

軽やかな導入部の主題の後に、少しもの悲しい感じのする主題が続き、その後導入部の主題を様々にアレンジしながら華やかなエンディングとなります。

Seconda Mazurka di Tirindelli, variata da F.Liszt
(5:36 HYPERION CDA67034)
5.ハンガリーの行進曲 第2番 - ハンガリー突撃行進曲 第1バージョン
  S232 1843年
冒頭はまるで、ショパンのピアノソナタ第3番の第4楽章を思わせます。これは第28巻に収められている“ハンガリー突撃行進曲”の第1バージョンになります。ハワードの演奏にもよるのかもしれませんが“ハンガリー突撃行進曲”の方がテンポも早く、まさに“突撃”という感じであるのに対し、この第1バージョンは、通常の行進曲のような感じです。全体としてよくまとまっておりエンディングは非常に華やかです。ハワードの解説によれば、どうもリストは、S231の“ハンガリーの英雄行進曲”に続くものとして作曲したため、“第2番”とふられているようです。

Seconde Marche hongroise - Ungarischer Sturmmarsch (first version)
(5:51 HYPERION CDA67034)
6.ノクターン (即興曲 第1バージョン)   S190a  1872年
美しく典雅な曲なのですが、晩年の曲らしくどことなく不可思議な響きを持っています。この曲の与える印象は“瞑想”(S204)に近いです。ハワードの演奏によるのかもしれませんが、イントロが“ため息”を思わせます。これは第2バージョンでは感じられなかった印象でした。全体の印象は第2バージョンと変わりません。いくつかの旋律が異なっているようです。

Nocturne( Impromptu)
(3:19 HYPERION CDA67034)
7.ゲーテ生誕100年祭の祝典行進曲 第1バージョン  S227 1849年
ゲーテ生誕100年祭は、ワイマールにて1849年8月28日と29日に開催されました。リストはこの100年祭で、初日に交響詩“タッソー”、“ゲーテ生誕100年祭の祝典行進曲”を指揮し29日に、シューマンの“ファウスト”から一部、ベートーヴェンの交響曲第9番を指揮しています※1。

※1 FRANZ LISZT The Weimar Years 1848-1861 Alan Walker Cornell Univwrsity Press
1989 P119〜121

このピアノ独奏曲の第1バージョンは管弦楽版のためのスケッチとのこと。有名なワーグナーの“結婚行進曲”、ところどころ暗い和声が顔をのぞかせるところはリストの“リヨン”を思わせるようなところがあります。第1バージョンでは楽想の発展がまだ未成熟の感じです。

Festmarsch zur Sakularfeier von Goethes Geburtstag(first version)
(7:48 HYPERION CDA67034)
8.アリャビエフ〜リスト ナイチンゲール 第1バージョン   S250a  1842年
第2バージョンは第35巻に収められています。第2バージョンに比べ、第1バージョンは半分ほどの長さしかありません。後半の勢いづいてからの魅力的な箇所がまだ短く、第2バージョンで幻想的に奏でられるエンディング部分もありません。

Soloveoi - Le Rossignol Air russe
(2:37 HYPERION CDA67034)
9.ブルハコフ〜リスト ロシアのギャロップ   S478 i   1844年
第2バージョンは第35巻に収められています。なぜかハワードのクレジットだと、第1バージョンは1844年、第2バージョンは1843年以降、となっています。矛盾はしませんが、妙な表記です。

第1バージョンでは、まだ主題を装飾を変えながら繰り返しているような感じです。第2バージョンの迫力のあるイントロダクションはまだありません。第1バージョンでは適当な感じをうけるにしても、エンディング部分はなかなか迫力があります。

Galop russe
(2:44 HYPERION CDA67034)
10.ヴィルホルスキー〜リスト 昔、ロマンス 第1バージョン
   S577i 1842年
静かで美しい曲です。第1バージョンは第2バージョンに較べるとまだ変化に乏しいですが、この小曲の穏やかな性質には特に大きな影響は感じられません。

Lyubila ya
(3:26 HYPERION CDA67034)
11.さらば楽しまん(ガウデアームス・イギトウール) ユーモレスク  
   S509  1869年
イェナのアカデミック・コンサート(詳細分かりません)の百年記念祭のために編曲されたものです。リストは、管弦楽と男女混声合唱(世俗合唱曲)、ピアノ二重奏、ピアノ独奏版を作曲しています。
リストはこの編曲を1869年9月18日から11月17日の間に編曲している、とのこと。※1

※1 LISZT LETTERS IN THE LIBRARY OF CONGRESS - FRANZ LISZT STUDIES NO.10 translated by Michael Short 2003 PENDRAGON PRESS LETTER NO.193 P178〜179

導入部等は明るい感じになり、娯楽性は低くなったものの、音楽性、芸術性ははこちらの方が高いと思います。晩年の作品である、という理由もありますが、ゲレリヒによるマスタークラスの記録を参照すると、こちらのユーモレスクの方のみ何回か取り上げられています。

Gaudeamus igitur - Humoreske
(8:39 HYPERION CDA67034)
12.バラード 第2番 第1バージョン   S170a  1853年頃
ハワードの解説によれば、第1バージョンについてリストは出版する意図はなかった、とのこと。しかしこのバージョンは以前より知られており、いくつかの出版された楽譜に見出されるとのこと。

決定的な違いはエンディングです。最終版がクライマックスの後、静かに余韻を残しながら終っていくような感じであるのに対し、この第1バージョンはヴィルトゥオーゾ・ピースのように、華々しく終っていきます。ハワードも指摘していますが、芸術性は最終版の方が高いことは間違いありませんが、この第1バージョンのエンディングもしっかりとまとまっており魅力があります。

Ballade No.2 (first version)
(13:43 HYPERION CDA67034)


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