演奏 レスリー・ハワード       
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.36 エクセルシオール!(より高く!)』
データ
1995年録音 HYPERION(輸) CDA66995
輸入盤
カール・フリードリッヒ・シンケル『川辺の中世の町』
収録曲
1.より高く! シュトラスブルク大聖堂の鐘へのプレルディオ                 
2.ノンネンヴェルトの僧房  第2ヴァージョン                   

 コンソレーションズ(全6曲)   第1シリーズ                    
3.第1曲 ホ長調
4.第2曲 ホ長調
5.第3曲 嬰ハ短調
6.第4曲 変ニ長調
7.第5曲 ホ長調 
8.第6曲 ホ長調 

9.ノンネンヴェルトの僧房    第2ヴァージョン 異なるテキスト            

   戦士の歌曲集                                          
10.戦いの前に
11.臆するな!
12.神は我らを呼ぶ
  
   ロザリオ                                            
13.歓ばしき秘跡(ミステリア・ガウディオーサ) 
14.悲しき秘跡(ミステリア・ドロローサ)
15.栄光の秘跡(ミステリア・グロリオーサ)

16.Schlummerlied im Grabe (悲歌 第1番の 第1ヴァージョン)        
17.Entwurf der Ramann-Elegie (悲歌 第2番の 第1草稿)             
18.ワイマールの民謡 第2番 へ長調                             
19.Nathional Hymne ヴィルヘルム皇帝!                        
20.カール・アウグスト記念碑の除幕式の序曲                         
21.ワイマールの民謡 第1番 ハ長調                             
S500
S534 bis

S171 a








S534 bis

S511




S670





S195 a
S196 a
S542
S197 b
S542 b
S542
感想 1.より高く! シュトラスブルク大聖堂の鐘へのプレルディオ     S500   1874年
この曲は1874年に作曲された合唱曲“シュトラスブルクの大聖堂”の第1曲目を編曲したものです。この曲の冒頭は、後に“リヒャルト・ワーグナーの墓に(S202)”に使用されました。楽曲はスケールの大きな序曲です。

シュトラスブルク(ストラスブール)はフランス北東部アルザス地方の主要都市です。ドイツとの国境に近いため、二通りの呼び方が定着しています。シュトラスブルク大聖堂は11世紀から建築が開始され、15世紀ごろには尖塔が作られています。

合唱曲の詩の内容は次のような感じです。嵐の夜、シュトラスブルク大聖堂に、悪魔が尖塔の十字架を破壊しにやってきます。しかしシュトラスブルク大聖堂の鐘の音が、悪魔達を追い返す事に成功するのです。テキストとなった詩は、アメリカの詩人H・W・ロングフェロー(1807−1882)によります。リストとロングフェローとの関係は分かりませんが、当時欧米においてロングフェローは広く愛読されていたのだと思います。1845年にリストはアルザス地方へ演奏旅行に行っていますが、リストの個人的体験よりもロングフェローの詩を題材としたというほうが正しいのだろうと思います。

Excelsior! - Preludio(to the Bells of Strasburg Cathedral)
(3:41 HYPERION CDA66995)
2.ノンネンヴェルトの僧房  第2ヴァージョン           S534 bis    1844年
ノンネンヴェルトはライン川にある島です。リストは1841年、42年、43年にマリー・ダグーとそして子供たちと何週間かを、この島で過ごします。この頃の2人にはすでに破局の兆候が見えていました。

≪ノンネンヴェルトの尼僧院≫
8世紀から9世紀の、英雄的武将ローラントは、カール大帝の命を受けスペイン宗教戦争に出陣。そして残された妻ヒルデグントの元に、ある日“ローラント戦死”の知らせが届きます。悲しみにくれたヒルデグントは、ノンネンヴェルトの尼僧院に入り余生を送ります。しかしローラント戦死の知らせは誤報でした。ローラントは戦地から帰還しますが、尼僧院に入った妻ヒルデグントとは2度と会えない事を知らされます。そこでローラントはノンネンヴェルト島を見下ろす事のできる崖上に城を作り、死ぬまでヒルデグントの住む尼僧院を眺めながら暮らしました。

この頃の“ノンネンヴェルトの僧房”は最終稿とは違い、晩年の重苦しさがなく、ゆったりとした美しい曲です。旋律の1部にリストの他の作品にもよく現れるシューベルトの“さすらい人”の旋律がきこえました。Die Zelle in Nonnenwerth(6分49秒)
 コンソレーションズ(全6曲)   第1シリーズ         S171 a    1845年
コンソレーションズ第1シリーズは、よく知られた最終稿と決定的に異なるのは、最も有名な第3曲目が、全く別の曲であることです。その他の曲は第1ヴァージョンと位置づけられますが、基本的に最終稿に比べ、曲自体が長いのが特徴的です。Consolations
3.第1曲 ホ長調           第1ヴァージョン     S171a/1          
最終稿に比べてくり返しが少し多い感じです。
Consolations No.1 in E major (1分51秒)
4.第2曲 ホ長調           第1ヴァージョン     S171a/2
少しだけショパンを思わせます。コンソレーションズの中でも、特に愛らしい旋律が魅力の小品。Consolations No.2 in E major(4分3秒)
5.第3曲 嬰ハ短調          S171a/3 
不思議な事に、“コンソレーションズ”の最も有名な第3番は、初めは全く存在せず、第1シリーズの頃の第3番は、なんとハンガリー狂詩曲の第1番です。曲集全体の中から非常に浮いているのですが・・・。

Consolations No.3 in C# minor(6分31秒)
6.第4曲 変ニ長調         第1ヴァージョン     S171a/4   
これはザクセン=ワイマール大公妃マリア・パヴロヴナより与えられたテーマによるものです。マリア・パヴロヴナはリストがワイマールにいた時分のパトロンです。なかなか魅力的な主題だと思います。

Consolations No.4 in D♭ major(3分16秒)
7.第5曲 ホ長調           第1ヴァージョン     S171a/5
これも第2曲と同じく、旋律線を前面に押し出した作品です。

Consolations No.5 in E major(3分17秒)
8.第6曲 ホ長調           第1ヴァージョン     S171a/6
第3曲目を除くと、最終稿と一番異なっている感じがします。

Consolations No.6 in E major(4分17秒)
9.ノンネンヴェルトの僧房    第2ヴァージョン 異なるテキスト   S534 bis  1844年
ひたすらキレイな“ノンネンヴェルトの僧房”。ハワードの演奏によるのだと思いますが、こちらの演奏の方が好きです。Die Zelle in Nonnenwerth(6分54秒)
  戦士の歌曲集                                  S511  1861年
これは世俗的合唱曲集の“男声のための曲集(S90)”の第4曲目から第6曲目になります。ハワードの解説によると、このピアノ曲集は、1860年出版のS90から編曲されたのではなく、その前身のピアノ伴奏版から編曲されたとのこと。S90は1861年出版ですが、全12曲の作曲年代はバラバラで、第4曲目から第6曲目までの3曲は1845年に作曲されているものです。全12曲はそれぞれテキストの詩人も異なりますが、この“戦士の歌曲集”にあたる3曲はテオドール・マイアーによります。

Geharnischte Lieder
10.戦いの前に                                  S511/1
序曲風の第1曲目です。すぐに終ってしまいますが、イントロはダンテソナタを思わせます。Vor der Schlacht(1分35秒)
11.臆するな!                                   S511/2
一転して静かな曲調の第2曲目です。後半で非常に盛上がり、そしてまた静かに終っていきます。Nicht gezagt!(3分00秒)
12.神は我らを呼ぶ                                S511/3
後半のマーチのような部分の低音の使い方は“詩的で宗教的な調べ”の葬送曲”を思い出させます。曲の途中で終ってしまうような感じがあります。
Es rufet Gott uns Mahnend(2分6秒)
 ロザリオ                             S670   1879年
13.歓ばしき秘跡(ミステリア・ガウディオーサ)      S670/1
これらの3曲はエステ荘で作られました。3曲とも同じ主題のアレンジです。オリジナルはハーモニウムと合唱のための作品、ハーモニウム独奏のための作品です。

ハーモニウム独奏とは異なり、ピアノ独奏版の第1曲目は静かにつぶやくような曲となっています。Rosario Mysteria gaudiosa(1分46秒)
14.悲しき秘跡(ミステリア・ドロローサ)          S670/2
1曲目をマイナー調で奏で、美しさが増しています。Rosario Mysteria dolorosa(2分10秒)
15.栄光の秘跡(ミステリア・グロリオーサ)        S670/3
それぞれタイトルにつけられた言葉が、曲のアレンジを的確に表しています。3曲目では華やかで輝かしく奏でられます。Rosario Mysteria gloriosa(1分39秒)
16.Schlummerlied im Grabe (悲歌 第1番の 第1ヴァージョン) 
   S195 a   1874年
これは悲歌(エレジー)第1番の第1ヴァージョンです。名づけられたタイトルは“墓場の子守歌”という意味のようです。確かに半音下がる特徴的な旋律は、有名な“詩的で宗教的な調べ”の第7曲“葬送曲”と同じです。この曲はマリー・ムハノフ・カレルギスの死を悼んで作曲されたので、葬送曲としての性格があるのでしょう。マリー・ムハノフ・カレルギスはリストの友人であり、またショパンの弟子でもあります。別のCDのライナーには、“クリノリンに身をつつんだ皇帝のスパイ”であったと書かれていましたが・・・、どうもエカテリーナ2世と深い関係がある貴族のようです。この曲はもともと室内楽として作曲されました。オリジナルはチェロ、ピアノ、ハープ、ハーモニウムのための作品で、リスト自身はヴァイオリンとピアノのためのアレンジで演奏したとのこと。Schlummerlied im Grabe(Premiere Elegie,1st version)(5分52秒)
17.Entwurf der Ramann-Elegie (悲歌 第2番の 第1草稿)   S196 a  1877年
この曲はエステ荘で作曲され、リナ・ラーマンに献呈されました。ハワードの演奏で最終稿よりも50秒近く長くなっています。エレジーは第2番の方がドラマティックで親しみやすい曲だと思います。Entwurf der Ramann-Elegie(Zweite Elegie,1st draft)(4分23秒)
18.ワイマールの民謡 第2番 へ長調                  S542 a  1873年
この曲は“忠誠行進曲S228”と同じ旋律を使用しているそうですが、聴きくらべましたが、ちょっとわかりません。似たようなアンセム風の曲ではあります。Weimars Volkslied(No.2 in F major)(1分15秒)
19.Nathional Hymne ヴィルヘルム皇帝!               S197 b  1876年
簡単な行進曲のようなものです。ハワードの解説によると、合唱曲とも、そのアレンジとも思えないこの曲の最初の音に、不思議な事に“Kaiser Wilhelm!”と書かれているらしいです。National Hymne:Kaiser Wilhelm!(1分3秒)
20.カール・アウグスト記念碑の除幕式の序曲            S542 b  1875年
カール・アウグスト公はワイマールの領主で、18世紀後半の人のようです。 1775年にゲーテをワイマールに招聘したのが、カール・アウグスト公とのこと。1875年9月3日にこの除幕式は行なわれました。ゲーテを招聘してからちょうど100年ですが、その記念でしょうか?除幕式のための曲は2曲あり、これは第1曲目にあたります。2曲目は男声合唱曲の“カール・アウグストはわれらと共に”です。Fanfare zur Enthullung des Carl-Augusts Monument(1分4秒)
21.ワイマールの民謡 第1番 ハ長調                S542   1857年
これも民謡というよりも、アンセム風、式典用曲のような作品です。1857年に作曲された合唱曲“ワイマールの民謡 ワルトブルク城の前で”(S87)のピアノ編曲版です。この“ワイマールの民謡”からの編曲作品の関連がちょっとわかりません。合唱曲は全6曲あるので、そのうちの1番がS542、2番がS542 a ということでしょうか?S542bと同じく、カール・アウグストの記念石碑の式典用に作曲されました。しかしS542 b とは作曲年代に差があるのですが・・・。断片のようなS542 a よりも曲として完成されています。Weimars Volkslied(No.1 in C major)(5分50秒)


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