演奏 レスリー・ハワード       
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.32 シューベルト編曲集 II』
データ
1994年録音 HYPERION CDA66954/6
ジャケット カール・ブレッシェン 『Mountain Gorge in Winter』
DISC INDEX
≪DISC.1≫ ≪DISC.2≫ ≪DISC.3≫
収録曲   ≪DISC.1≫
  シューベルト〜リスト  4つの宗教的歌曲                          
1.連祷
2.天の火花
3.天体
4.ヒム “ロザムンデ”の霊の合唱

  シューベルト〜リスト シューベルトのハンガリーの旋律    第2バージョン 
5.アンダンテ
6.マーチ (ハンガリー行進曲) 第2 ディアベリバージョン 
7.アレグレット

 シューベルト〜リスト 水車屋の歌(ミュラー歌曲集)         
8.さすらい
9.水車屋と小川
10.狩人
11.いやな色
12.どこへ?
13.焦燥

14.海の静けさ     第1バージョン                 
15.ます     第2バージョン                        
16.セレナード(白鳥の歌編曲 第7曲) 第4バージョン         
S562
S562/1
S562/2
S562/3
S562/4

S425 a




S565
S565/1
S565/2
S565/3
S565/4
S565/5
S565/6
・・
S557 b
S564
S560/7 a
感想    シューベルト〜リスト  4つの宗教的歌曲       S562
1.連祷                               S562/1   1840年 
シューベルトの原曲は“万霊節の日のための連祷”D343です。1816年頃の作曲で、詞はヤコービによります。万霊節というのは、広辞苑によると“キリスト教において、この世を去ったすべての信徒を記念する日”とのこと、英語で All Souls Day と訳されます。

ベートーヴェンの“悲愴”の第2楽章のような美しい旋律の曲です。リストの編曲も旋律の美しさを中心にした落着いた編曲です。後半で高音をいかした装飾が入ります。

Vier Geistliche Lieder 〜 Litanei (auf das Fest aller Seelen)
(4:05 HYPERION CDA66954/6)
2.天の火花                            S562/2   1840年
シューベルトの原曲はD651です。1819年の作曲で、ジルバートの詞によります。これも落着いた静かに爪弾くような曲です。中間部の短い音のリズムが強調された部分と、前半、後半の流れるようなアレンジの対比がおもしろいです。

Vier Geistliche Lieder 〜 Himmelsfunken
(4:05 HYPERION CDA66954/6)
3.天体                              S562/3    1840年
シューベルトの原曲はD444です。1816年の作曲で、クロプシュトックの詞で詩編19によるものとのこと。地鳴りのような低音の連打で始まり、その上に美しい和音で旋律が奏でられます。後半では壮大で輝かしく神の栄光を称える劇的な曲です。シューベルトの原曲は初期ロマン派の歌曲らしい(例えばリストも編曲しているローベルト・フランツの“嵐をおかして彼はきた”のような)、少しリズミカルな曲でした。一方リストのピアノ独奏曲編曲は(ハワードの演奏によるのかもしれませんが)重いリズムで通され、和声の展開が強調された、スケールの大きな曲となっています。すでに後のワーグナーを思わせる楽曲に、リストのヴィルトゥオジティが華々しく加えられます。

Vier Geistliche Lieder 〜 Die Gestirne
(6:15 HYPERION CDA66954/6)
4.ヒム “ロザムンデ”の霊の合唱            S562/4   1840年
シューベルトの原曲はD797の劇付随音楽“キプロスの女王ロザムンデ”の第6曲目になります。またシューベルトはピアノ伴奏歌曲(作品25)にも編曲しているとのことですが、詳しくは分かりませんでした。

どっしりとしたリズムの曲ですが、旋律は暗さと明るさの中間のような感じで、神聖な雰囲気を出しています。

Vier Geistliche Lieder 〜 Hymne(Geisterchor aus “Rosamunde”)
(2:59 HYPERION CDA66954/6)
  シューベルト〜リスト シューベルトのハンガリーの旋律  第2バージョン
  S425 a   1846年
5.アンダンテ                        S425 a/1
シューベルトの原曲は1824年作曲の3楽章の“ハンガリー風ディヴェルティメント ト短調”(Op.54 D818)です。第1バージョンは1838/39年に作曲されています。リストの意図は第1バージョンをより一般の演奏か向けに簡単にするため、とのこと。曲自体も半分ほどに短縮されています。

Schberts Ungsarische Melodien 〜Andante
(8:28 HYPERION CDA66951/3)
6.マーチ (ハンガリー行進曲) 第2 ディアベリバージョン   S425 a/2
第1バージョンに比べると、後半の迫力のある部分が、かなり簡略されています。“シューベルトのハンガリーの旋律”の3曲は、明瞭な主旋律に魅力があるため、簡略化されたバージョンでも音楽的な魅力は失われません。

Schberts Ungsarische Melodien 〜Marche hongroise
(5:50 HYPERION CDA66951/3)
7.アレグレット                              S425 a/3
最終楽章は小品としての魅力的な旋律を持つ曲調に変わります。第1バージョンに比べると、後半が大幅に削減されています。第1バージョンよりもコンパクトに主旋律を中心にまとめた感じです。

Schberts Ungsarische Melodien 〜Allegretto
(5:49 HYPERION CDA66951/3)
  シューベルト〜リスト “美しい水車屋の娘”より6つの旋律
  S565  1846年
ミュラーの詩集“ワルトホルン吹きの遺稿からの詩集”より作られた、シューベルトの最初の連作歌曲集です。シューベルトの作品番号はD795になります。全部で20曲あり、リストはその中から6曲を編曲しています。またリストは1844年に“シューベルトの6つの旋律”(S563)というタイトルの曲集で18曲目の“しおれた花”、7曲目の“焦燥”をとりあげています。

Six melodies favorites de la belle meuniere de Francois Schubert
(Total 17:07 HYPERION CDA66951/3)
8.さすらい                               S565/1
シューベルトの歌曲でも1曲目になります。“さすらい”というと、何かもの哀しい感じがしますが、とても明るい曲調です。リストの編曲では、主旋律に軽やかな装飾を混ぜていくことで、より楽しげな感じがうまく表現されています。

Das Wandern

(2:01 HYPERION CDA66954/6)
9.水車屋と小川                           S565/2
シューベルトの歌曲では19曲目になります。“美しい水車屋の娘”は、水車職人の失恋の歌集で、この“水車屋と小川”は中でも、もっともその悲しみが歌われた曲です。テキストは水車屋 − 小川 − 水車屋、と替わって歌う形式になっており、真中の明るい部分が小川の歌になります。リストは抑制を効かせ落ち着いた編曲をしています。

Der Muller und der Bach
(6:00 HYPERION CDA66954/6)
10.狩人                                S565/3
シューベルトの歌曲は14曲目です。歌の部分の盛上がりを表現せずにシューベルト作曲のピアノ伴奏のみに、さらに装飾を加えた感じです。原曲よりも短く終ってしまいまい、“いやな色”へと続きます。リスト編曲の場合“狩人”は“いやな色”の序曲のようです。

Der Jager
(0:39 HYPERION CDA66954/6)
11.いやな色                             S565/4
シューベルトの歌曲は17曲目です。こちらでは歌の盛上がりを、ピアノ独奏で上手く表現しています。主旋律がもともとピアノ独奏に向いていると思います。そして不思議なことにリスト編曲では、後半、再び前曲の“狩人”の旋律に戻ります。“狩人”と“いやな色”は、リスト編曲では続けて演奏されます。

Die bose Farbe
(2:51 HYPERION CDA66954/6)
12.どこへ?                             S565/5
シューベルトの歌曲は2曲目です。原曲の急速な曲調に対して、流れるような伴奏と明確な主旋律がピアノの音で奏でられることで美しいピアノ小品となっています。

Wohin?
(3:15 HYPERION CDA66954/6)
13.焦燥                             S565/6
シューベルトの原曲は“美しい水車屋の娘”(D795)の、7曲目になります。リストは1844年に“焦燥”を編曲しており、そのため、こちらは第2バージョンということになります。最初が和音で奏でられ、2コーラス目で、高音の装飾が加わっています。第一バージョンとは違い、エンディングを静かにまとめ、より洗練されています。

Ungeduld
(2:17 HYPERION CDA66954/6)
14.海の静けさ     第1バージョン             S557b   1837年
シューベルトの原曲は、1815年に作られたD216で、テキストはゲーテによります。これは第1バージョンとなります。完成版は、1837〜38年に作られる“12の歌”(S558)の5曲目に収められます。ハワードの演奏だと録音音質の違いから、音圧がないように聞こえますが、それほど違いはないように思います。

Meersstille
(2:57 HYPERION CDA66954/6)
15.ます     第2バージョン            S564   1846年             
第1バージョンから2年後の編曲となります。第1バージョンに比べ装飾が簡略化されています。有名な主題だけにシンプルにまとめられているところが第2バージョンの魅力です。

Die Forelle
(4:10 HYPERION CDA66954/6)
16.セレナード(白鳥の歌編曲 第7曲) 第4バージョン     S560/7a  1880年
晩年にさらに手を加えた版です。第2バージョンと比べて、最後のカデンツァ以外はほとんど違いはみられません。このカデンツァはリナ・ラーマンのために作られたものです。スコアには、最後のところに、何やら意味深な言葉が書き加えられているようです(うまく訳せないのですが、ハワードの解説に載っています)。

Standchen“Leise flehen”
(6:55 HYPERION CDA66954/6)


DISC INDEX DISC.1≫ ≪DISC.2≫ ≪DISC.3
収録曲
≪DISC.2≫
  シューベルト〜リスト 白鳥の歌  シューベルトの14の歌曲 D957
1.都会
2.漁夫の娘
3.わが宿
4.海辺で
5.別れ
6.遠い国で
7.セレナード  第2バージョン
8.彼女の絵姿
9.春のあこがれ
10.愛の便り
11.アトラス
12.影法師
13.鳩の使い
14.戦士の予感

15.春のおもい   第1バージョン
16.ハンガリー行進曲  Troisieme 版
S560
S560/1
S560/2
S560/3
S560/4
S560/5
S560/6
S560/7
S560/8
S560/9
S560/10
S560/11
S560/12
S560/13
S560/14

S557 c
S425/2v
感想  シューベルト〜リスト 白鳥の歌  シューベルトの14の歌曲 D957 S560 1838/39年
リストによるシューベルトの歌曲集“白鳥の歌”の編曲は、シューベルトの曲順と異なります。

シューベルトの順番 リストによる順番
愛の便り 都会
戦士の予感 漁夫の娘
春のあこがれ わが宿
セレナード 海辺で
わが宿 別れ
遠い国で 遠い国で
別れ セレナード
アトラス  彼女の絵姿
彼女の絵姿 春のあこがれ
10 漁夫の娘 愛の便り
11 都会 アトラス
12 海辺で 影法師
13 影法師 鳩の使い
14 鳩の使い 戦士の予感

シューベルトの曲順は、詩人のグループで別れています。シューベルトの方で#1〜#7までがレルシュタープ、#8〜#13がハイネです。シューベルトの生前、ここまでの13曲を“レルシュタープとハイネの詩による13の歌”として出版しようと思っていました。それは実現せず、シューベルトの死後、ハスリンガーによってザイドルの詩による#14を加え“白鳥の歌”とされて出版されました。“白鳥の歌”という題名は、“白鳥は死ぬ前に美しく鳴く”という謂れからつけられました。シューベルトの最期の美しい鳴き声という意味が込められたのでしょう。

Schwanengesang − Vierzehn Lieder von Franz Schubert
(Total 64:16 HYPERION CDA66954/6)
1.都会                           S560/1
シューベルトの歌曲はハイネの詩によります。詩の内容は、詩人はかつての恋人がいる町のおぼろげな光景を霧の中に見る、という何か深い悲しみからくる恐ろしさを感じさせる内容です。
不思議で幻想的なイントロで始まります。リストはこの幻想的で印象深いイントロを持つがゆえに“都会”を1曲目に持ってきたのだと思います。

Die Stadt
(2:46 HYPERION CDA66954/6)
2.漁夫の娘                         S560/2
シューベルトの歌曲はハイネの詩によります。詩の内容は美しい漁師の娘に恋のささやきをするような感じでしょうか。

前曲の不思議で陰鬱な雰囲気から、一転してパステル調のように澄み渡る明るい世界が広がります。この曲のリズムは、“冬の旅”の“まぼろし”と同じなのですが、リストはS560の方では“都会”の後に“漁師の娘”を、そしてS561の方では“辻音楽師”の後に“まぼろし”を持って来ています。リストが目的とした効果には似たものがあると思います。

後半のアレンジが原曲よりも、より装飾が加えられており、ピアノ小品としての佳曲に仕上がっています。

Das Fischermadchen
(3:48 HYPERION CDA66954/6)
3.わが宿                          S560/3
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。詩人の苦悩に満ちた心情を、凍てつく厳しい自然の情景に重ねあわせたような内容です。ドラマティックな表情を持つ曲です。原曲よりも音数を増やし、ヴォーカルの迫力をうまくピアノに移し変えています。

Aufenthalt
(3:36 HYPERION CDA66954/6)
4.海辺で                          S560/4
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。詩の内容は、かつて黄昏時の海辺で詩人が恋人と過ごした思い出を詠うという内容のようですが、いまでは恋人を失い、曲調には穏やかさと苦悩が入り交じるような感じです。シューベルトの曲順で、“漁夫の娘”“都会”“海辺で”“影法師”の4曲は、内容がつながっているとも考えられているようです。

シューベルトのピアノソナタD960に似た旋律です。主旋律を和音で奏でていくことで、主旋律の存在感を失わずに曲の穏やかさをそのままピアノに移し変えています。

Am Meer
(4:53 HYPERION CDA66954/6)
5.別れ                         S560/5
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。詩の内容は、楽しく過ごした町に別れを告げて、馬車で旅立つ様を、明るく歌ったものです。馬車のリズムで軽快に描いた曲で、この印象は、同じ馬車のリズムを描いた“冬の旅”における“郵便馬車”に近似しています。

Abschied
(5:19 HYPERION CDA66954/6)
6.遠い国で                         S560/6
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。詩の内容は荒涼とした風景と、詩人が失望を恋人に語るという内容のようです。シューベルトの曲、およびリストの曲にも多く現れる“さすらい人”のアダージョ部分の旋律に似ています。シューベルトにとって、この旋律は“旅人、さすらい人、荒涼とした風景、失望”というものを象徴するものなのかもしれません。

原曲が非常に音数が少ないため、この曲でのアレンジは装飾がかなり加えられています。

In der Ferne
(8:35 HYPERION CDA66954/6)
7.セレナード  第2バージョン                         S560/7
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。離れた恋人を恋焦がれる歌を、鴬の歌に重ねあわせるような内容です。第1バージョンとは、ハワードの演奏によるのかもしれませんが、微妙なニュアンスが変わっているように思います。細部において変更があるようです。

Standchen“Leise flehen”
(6:29 HYPERION CDA66954/6)
8.彼女の絵姿                         S560/8
シューベルトの歌曲はハイネの詩によります。かつての恋人の肖像画を見ながら、輝かしい記憶を回想し、恋人を失ったことに絶望するような内容です。力強いリズムを持つ曲で、シューベルトらしい和声を持つ曲です。そのまま“春のあこがれ”につなげられて演奏されます。

Ihr Bild
(2:53 HYPERION CDA66954/6)
9.春のあこがれ                         S560/9
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。希望と期待に満ちた明るい春の到来を歌った内容です。ピアノはとにかく輝かしく、細やかな装飾が施され、光に満ちた情景を描き出します。“彼女の絵姿”につなげられて演奏されることで、そのまばゆさの対比は見事なものです。

Fruhlingssehnsucht
(2:30 HYPERION CDA66954/6)
10.愛の便り                         S560/10
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。恋人への愛の便りを小川の流れにのせて伝える、というような内容です。ピアノの伴奏も川の流れを描写しています。細やかな装飾は“春のあこがれ”が“光”を描写しているのに対し、“愛の便り”は“水の流れ”を描写しています。また主旋律がこちらのほうが叙情的です。

Liebesbotschaft
(3:04 HYPERION CDA66954/6)
11.アトラス                         S560/11
シューベルトの歌曲はハイネの詩によります。詩の内容は、恋人の悲しみを思う苦痛を、アトラスの苦痛に例えたもののようです。前曲までの親しみやすい小品の連続の中で登場すると、迫力が際立ちます。リストのアレンジは、ピアノの高音部の旋律をかなり盛り込み、より疾走感とドラマティックな盛上がりを強めており、シューベルトの作品というより、同じ頃に作られている“マゼッパ”(S137、S138の方)を思わせます。

≪アトラス≫
ギリシア神話にでてくる巨神族の一人です。巨神族がオリュンポス山の神々との戦いに敗れた結果、アトラスは、ゼウスによって、天体をその肩で支え続けるという罰を与えられました。“天体を支える”という姿から、現在では“地図帳”を意味する言葉になっています。

Atlas
(2:56 HYPERION CDA66954/6)
12.影法師                         S560/12
シューベルトの歌曲はハイネの詩によります。“ドッペルゲンガー”とは、もう一人の自分を別に意識してしまうという心理学用語で有名です。歌詞の内容もそのようなものです。原曲の呪文のような抑揚のない旋律は、そのまま葬送曲の弔鐘のようにF♯の音として単音で鳴り続けます。音数がとても少ないですが、ドラマティックにまとめられています。

Der Doppelganger
(4:36 HYPERION CDA66954/6)
13.鳩の使い                       S560/13
シューベルトの歌曲はザイドルの詩によります。伝書鳩に恋人への便りを託す想いを歌ったものです。親しみやすい旋律の明るい曲調の作品です。この曲でも高音部の音数を増やすことでより明るさを強めています。曲の終わりの方になると豪奢な響きとなっていきます。

Fruhlingsglaube
(5:31 HYPERION CDA66954/6)
14.戦士の予感                     S560/14
シューベルトの歌曲はレルシュタープの詩によります。戦地において、不安と疲労の中で恋人のことや、残してきた温かい生活のことを想う兵士の感情を歌ったものです。曲の構成も、不安に満ちた部分から、穏やかな回想の部分など、変化に富む曲です。

Kriegers Ahnung
(7:12 HYPERION CDA66954/6)
15.春のおもい   第1バージョン          S557c
シューベルトの歌曲はウーラントの詩により、D686、Op.20/2、1820年に作曲されたものです。ハワードの解説に作曲年が書いてないのですが、この曲は1837/38年に編曲された“シューベルトによる12の歌曲”の第7曲目の第1バージョンということになります。なので1837/38年以前の作曲となります。“巡礼の年 第1年”の何曲かを思わせる、おだやかな流れを持った曲です。

Fruhlingsglaube
(3:50 HYPERION CDA66954/6)
16.ハンガリー行進曲  Troisieme 版       S425/2 v      1879年
この Troisieme 版は、リストの晩年の編曲になります。新しいイントロが付け加えられています。メイジャー調の箇所への移り方、後半のアレンジが Richault版とは大きく異なります。ハワードの演奏による違いとも思いますが、全体的に大人しくなった感じで、リストのアレンジも細かいニュアンスが大切にされたものとなっていると思います。

Marche Hongroise
(7:20 HYPERION CDA66954/6)


DISC INDEX DISC.1≫ ≪DISC.2≫ ≪DISC.3
収録曲
≪DISC.3≫
  シューベルト〜リスト シューベルトの12の歌曲 “冬の旅”より D911
1.おやすみ
2.幻の太陽
3.勇気
4.郵便馬車
5.かじかみ
6.あふれる涙
7.菩提樹
8.辻音楽師
9.まぼろし
10.宿屋
11.嵐の朝
12.村で

  シューベルト〜リスト シューベルトの6つの旋律
13.ヴァイローハ〜リスト 告別
14.シューベルト〜リスト 乙女の嘆き
15.シューベルト〜リスト 弔いの鐘
16.シューベルト〜リスト しおれた花
17.シューベルト〜リスト 焦燥
18.シューベルト〜リスト ます

19.シューベルト〜リスト ハンガリー行進曲 Richault版
S560
S561/1
S561/2
S561/3
S561/4
S561/5
S561/6
S561/7
S561/8
S561/9
S561/10
S561/11
S561/12

S563
S563/1
S563/2
S563/3
S563/4
S563/5
S563/6

S425/2iii
感想  シューベルト〜リスト シューベルトの12の歌曲“冬の旅より” D911 S561 1839年
シューベルトの“冬の旅”(D911)はすべてヴィルヘルム・ミュラー(1794−1827)の詩によります。シューベルトは“冬の旅”を、自身の死の前年1827年に作曲しました。若い詩人がさすらうように旅をし、そこで受けた印象などが、旅人の荒涼とした気分とあいまって歌われていく、という感じです。同じミュラーの詩集“水車屋の歌”に比べ、詩の内容はより孤独感を強め内省的なものとなります。全部で24曲ありますが、リストが編曲したのはその半分の12曲です。

Zwolf Lieder von Franz Schubert − (Aus) Winterreise
(Total40:01 HYPERION CDA66954/6)
1.おやすみ                       S561/1
原曲でも1曲目になります。4分の2拍子のリズムで通される曲で、原曲では“歩行のリズム”でと書かれているそうです。孤独な旅の始まりを歌います。ピアノ独奏のみとなることで、葬送行進曲のような印象を受けました。

Gute Nacht
(5:14 HYPERION CDA66954/6)
2.幻の太陽                       S561/2
原曲では23曲目になります。目の錯覚で見える3つの太陽。旅人はその3つの太陽に、ひとつは自分、残る2つにかつての友人を思い重ねます。しかし友人2人との交友は、今では途絶えてしまい、旅人は絶望的な気持ちとなります。

原曲のAブロックはベートーヴェンやシューベルトのピアノ・ソナタを思わせるような伴奏の上に、ほとんど同型の歌の旋律がのる曲です。そのためリストのピアノ独奏曲版編曲も、自然なピアノ独奏曲として聞こえます。Bブロックでは感情が高まるような感じとなり、リストの編曲版でも輝かしく奏でられます。

Die Nebensonnen
(4:06 HYPERION CDA66954/6)
3.勇気                           S561/3
原曲では22曲目になります。絶望の中の詩人が、自分の気を奮い立たせようとするような内容の詩です。力強い特徴のある主題を繰り返すような感じです。

Mut
(1:37 HYPERION CDA66954/6)
4.郵便馬車                         S561/4
原曲では13曲目になり、第2部の第1曲目となります。スタッカートを効かせた軽快なリズムの曲で、郵便馬車が走る姿を、心が弾むような気持ちで歌います。その郵便馬車は旅人がかつて恋を経験した町からきたものだからです。曲のBブロックでは悲しげな曲調となり、旅人は自分あての郵便があるはずのないことに対する気持ちを歌います。リストの編曲では、エンディングがとてもきらびやかに鳴り響いて終ります。

Die Post
(2:51 HYPERION CDA66954/6)
5.かじかみ                         S561/5
原曲では4曲目になります。ハ短調の悲壮感に貫かれた劇的な曲です。凍てつく雪道を歩いて行く旅人のつらさ、孤独感、過去の思い出に想いをよせる様が歌われます。

Erstarrung
(3:44 HYPERION CDA66954/6)
6.あふれる涙                         S561/6
原曲では6曲目になります。静かな曲で音数は少ないながら、美しい旋律を持つ曲です。雪道を歩いたゆく旅人は感極まり、涙を流します。シューベルトの原曲ではヴォーカルが感情の起伏、曲の起伏を作り上げていますが、リストのピアノ独奏曲では、原曲に素直なアレンジである為、ヴォーカルがなくなった分、さらに静かな曲となっています。

Wasserflut
(2:28 HYPERION CDA66954/6)
7.菩提樹                         S561/7
原曲では5曲目となります。シューベルトの“冬の旅”の中でも、最も有名な曲です。旅人はかつての幸福な頃の自分が、菩提樹の木陰で過ごしたことに想いを馳せます。その温かい光に満ちた思い出と、自分の今のつらい境遇とが交錯するように歌われます。

シューベルトの原曲でも、ピアノ伴奏は、様々な感情、表情、描写を盛り込んだものです。リストは、その世界をピアノ独奏のみで表現するために、さらに装飾を加え響きの豊かなものとしています。

Der Lindenbaum
(5:05 HYPERION CDA66954/6)
8.辻音楽師                       S561/8
原曲では全24曲の最後の曲となります。原曲はとにかく不思議な曲で、侘しさ、空しさ、孤独、絶望、を感じさせる曲です。何か日本的な、俳句などの研ぎ澄まされた空気を感じさせる世界です。“冬の旅”の最後を飾るにふさわしい曲です。旅人は、村のはずれで老人が筒琴を奏でているのを見ます。その孤独な様子に自分の境遇を重ねあわせます。

英語タイトルは“The Organ Grinder”で、筒琴、ライアー、というのはアコーディオンのことだと思います。

ハワードの演奏によるのだと、思いますが、リスト編曲の方には、空気を切るような鋭さをあまり感じませんでした。リスト編曲の場合、続く“まぼろし”へつなげて演奏されます。

Der Leiermann
(1:56 HYPERION CDA66954/6)
9.まぼろし                         S561/9
原曲では19曲目になります。詩人はひとつの光が舞い踊るのを見ます。その光に温もりのある生活を営む人々の姿を見、みじめな境遇の自分に絶望します。8分6拍子というリズムの持つ明るさの上に、半音階を含む旋律が、涙が流れてしまう寸前のような限界にある感情を、上手く描きだします。温かさと絶望とが同居した見事な曲です。リストの編曲では、後半のアレンジが小さな装飾を伴うようになっています。

Tauschung
(1:51 HYPERION CDA66954/6)
10.宿屋                         S561/10
原曲では21曲目になります。曲調は“幻の太陽”に似ています。旅人の感情は、さらに死を願うようなものとなります。旅人は旅の果てに、どこかの墓地にたどり着き、墓地を宿屋に見たて、“そこに眠りたい”と死を願うように思います。

リストの編曲では、後半徐々にドラマティックに盛上がります。そして沈み込むような主題に戻り、静かに終ります。

Das Wirtshaus
(4:54 HYPERION CDA66954/6)
11.嵐の朝                  S561/11
原曲では18曲目になります。荒れ狂う冬の嵐に、旅人は自分の感情を重ねます。力強い曲でブロック間に入れられる下降するパッセージが、リストらしく、さらに迫力あるものになっています。リスト編曲の場合、この曲は続く“村で”につなげられて演奏されます。また面白いことに“嵐の朝”は“村で”の後に、もう一度ワンコーラス分演奏され、曲集を締めるような感じになります。

Der sturmische Morgen
(1:01 HYPERION CDA66954/6)
12.村で                         S560/12
原曲では17曲目になります。旅人は、とある村で、村人達の慎ましいささやかな生活を想像します。そして自分には、もう夢すらないことを嘆きます。

低音のトレモロに近い、地を這うような、静かな効果で始まります。リストの編曲では11曲目とつなげられて演奏されますが、力強い曲の後に、低音の地を這うような効果に落とされる変化は、リストがよく使う効果だと思います。同じような効果に、“ヘクサメロン”(S392)の1曲目、“パガニーニ大練習曲”(S141)の1曲目で行なわれていると思います。

この後に、もう一度“嵐の朝”が演奏されます。

Im Dorfe
(5:09 HYPERION CDA66954/6)
   シューベルト〜リスト シューベルトの6つの旋律  S563  1844年
13.ヴァイローハ〜リスト 告別               S563/1
リストは原曲をシューベルトの作品と思い編曲したのですが、原曲はハンス・フォン・ヴァイローハという人の作品とのこと。ハワードの解説によると、ヴァイローハは1788年生まれの作曲家で、1824年にこの曲(もともとは“東へ!”というタイトルとのこと)を作曲しました。他に詳しいことがわかりません。背景が分かりませんが、1843年に再出版されたときに、タイトルが“告別”となり、シューベルトの名前が冠せられたとのこと。そのためリストが、シューベルトの曲と思うのも仕方がありません。

曲は、シューベルトの“さすらい人幻想曲”のアダージョ部に似た旋律を持っています。

Lebe wohl!
(4:29 HYPERION CDA66954/6)
14.シューベルト〜リスト 乙女の嘆き               S563/2
シューベルトの原曲はD191b Op.58/3になります。これは1815年に作曲されました。で、シラーの詩によります。高いCの音が印象的な曲です。曲集“シューベルトの6つの旋律”は、叙情的なものが集められていて、なかでも“乙女の嘆き”は、とりわけドラマティックに悲しさを表わした曲です。旋律の一部がモーツァルトの“ラクリモサ”に似ています。

Des Madchens Klage
(5:22 HYPERION CDA66954/6)
15.シューベルト〜リスト 弔いの鐘               S563/3
シューベルトの原曲はD871b Op.80/2になります。これは1826年に作曲され、ザイドルの詩によります。冒頭の音が鐘の音を模しているのでしょう。静かな弔鐘の音が響き続け、途中よりすばらしい高揚をみせます。ピアノの高音の響きが美しい曲です。原題は“Das Zugenglocklein”の方で定着していますが、リストは“Das Sterbeglocklein”で覚えていたとのこと。

Das Sterbeglocklein [ Das Zugenglocklein]
(8:49 HYPERION CDA66954/6)
16.シューベルト〜リスト しおれた花               S563/4
シューベルトの原曲は“美しい水車屋の娘”(D795)の中から、リストが1846年にS565の編曲集ではピックアップしなかった18曲目になります。作曲年は1823年になります。単純なリズムの伴奏の上に旋律線がのる感じです。主旋律が強調されたアレンジです。

Trockne Blumen
(3:05 HYPERION CDA66954/6)
17.シューベルト〜リスト 焦燥     最初の編曲               S563/5
シューベルトの原曲は“美しい水車屋の娘”(D795)の、7曲目になります。リストは1846年に“水車屋の歌”から、この“焦燥”を含む6曲を編曲しており、そのため、こちらは最初の編曲ということになります。特徴のある低音の旋律、急速なリズムがかっこいい曲で、ピアノ独奏曲としても非常な魅力となっています。続く“ます”と共に、このS563の曲集に明るい変化を与えています。

Ungeduld
(2:20 HYPERION CDA66954/6)
18.シューベルト〜リスト ます    第1バージョン               S563/6
有名な“ます”の編曲です。シューベルトの原曲はD550 Op.32で、1816〜17年頃作曲。詩はC・F・D・シューバルトになります。この“ます”は、1819年に“五重奏曲 イ長調”(D667 Op.114)の第4楽章の主題となり、むしろこちらの方で有名となります。

響きが増強され、リストによって川の流れを思わせるようなイントロがつけられ、全体も流麗なアレンジで行われています。2年後に作られる第2バージョンよりも音数が多く、流れるような輝かしい響きが魅力です。

Die Forelle
(3:55 HYPERION CDA66954/6)
19.シューベルト〜リスト ハンガリー行進曲 Richault版   S425/2 iii  1840年頃
ハワードはロシアの音楽出版社からだされた復刻を使用しているとのことで、初期のRichault版と同じではないか、と推察しています。細かい変更とオシアが加えられています。

Marche Hongroise
(6:35 HYPERION CDA66954/6)


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