演奏 レスリー・ハワード       
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.30 リスト・アット・ジ・オペラ III』
データ
1993年録音 HYPERION CDA66861/2
ジャケット ハインリヒ・デル 『シェルデ河畔にて(ワーグナー“ローエングリン”の第1幕のデザイン)』
収録曲
≪DISC 1≫
1.ウェーバー〜リスト オーベロン序曲
2.モーツァルト〜リスト “フィガロの結婚”と”ドン・ジョヴァンニ”のテーマによる幻想曲
3.ヴェルディ〜リスト ”エルナニ”による演奏会用パラフレーズ
4.ヴェルディ〜リスト  トロヴァトーレのミゼレーレ”トロヴァトーレ”による演奏会用パラフレーズ
5.ヴェルディ〜リスト ”リゴレット”による演奏会用パラフレーズ
6.ヴェルディ〜リスト  シモン・ボッカネグラの回想
7.G・ドニゼッティ〜リスト ”ランメルモールのルチア”と”パリジーナ”の2つのモティーフによる演奏会用ワルツ

S574
S697
S432
S433
S434
S438
S214/3
≪DISC 2≫
 マイアベーア〜リスト ”悪魔ロベール”の回想
1.カヴァティーナ
2.地獄のワルツ

3.グノー〜リスト  別れ”ロメオとジュリエット”のモティーフによる幻想曲
4.エルケル〜リスト ”フニャディ・ラースロー”から白鳥の歌と行進曲
5.ワーグナー〜リスト ”ローエングリン”から聖堂へ向かうエルザの入場

  ワーグナー〜リスト ”ローエングリン”より  第1バージョン
6.祝祭劇と祝唱歌
7.エルザの夢
8.ローエングリンの叱責

9.ワーグナー〜リスト ”リエンツィ”のモティーフによる小幻想曲


S413 a
S413

S409
S405
S445/2

S446
S446/1
S446/2
S446/2

S439
感想 ≪DISC 1≫
1.ウェーバー〜リスト オーベロン序曲    S574    1843年
“オーベロン(または妖精の王の誓い)”はウェーバー1826年作曲の最後のオペラです。テキストのオリジナルはヴィーラントで、ブランシェによって英訳されたものが使用されています。ウェーバーは“オーベロン”を1826年にロンドンで公演し、そのロンドンで客死しました。

リストらしさよりも、ウェーバーらしい趣味の良さがいかされたピアノ編曲で、ピアノ独奏曲として書かれたかのように自然な編曲だと思います。リストは“オーベロン”序曲を1840年ブダペストで指揮した際に取り上げてから、1840年代のリストの指揮のレパートリーとなっています。そんな中で、このピアノ独奏曲版は作られたのでしょう。

Ouverture Oberon
(8:36 HYPERION CDA66861/2)
2.モーツァルト〜リスト “フィガロの結婚”と“ドン・ジョヴァンニ”のテーマによる幻想曲
  S697  1842年
一転して、こちらはリストらしさが存分に発揮された大ヴィルトゥオーゾピースです。冒頭の湧き出てくるような始まりがかっこいいです。中心となる主題は、“フィガロの結婚”から、フィガロのアリア“もう飛ぶまいぞ、この蝶々”Non piu andrai、ケルビーノ“恋はどんなものかしら”Voi che sapete です。“ドン・ジョヴァンニ”の方は、ちょっと聴きこんでいないので、どこが使われているか分かりませんでした。ハワードの解説によるとメヌエット部分だそうです。

曲の全体は、まさに“ファンタジー”という感じで、1曲としてのまとまりは全くありません。おそらくリストの狙った効果というのは、目も眩むような音装飾の中から、“突然浮かび上がってくる耳慣れた旋律”という効果で、その点においてこの作品は成功しています。

リストは1843年にベルリンでこの曲を演奏したとのこと。この作品は完全なオリジナルの楽譜がないらしく、後年フルッチョ・ブゾーニによって完成され1912年に出版されました。ただしブゾーニは“ドン・ジョヴァンニ”のパートを全部排除して“フィガロ・ファンタジー”としてしまったとのこと。ハワードの録音は、ハワード自身による補筆が行われています。

Fantasie uber Themen aus Figaro und Don Giovanni
(21:37 HYPERION CDA66861/2)
3.ヴェルディ〜リスト “エルナニ”による演奏会用パラフレーズ    S432  1859年
ヴェルディの“エルナニ”は1844年にヴィネツィアで初演されました。ユゴーの戯曲を元にフランチェスコ・マリア・ピアーヴェがテキストを作成しています。ハワードの解説によれば第3幕のスペイン大公のアリア、カルロ大帝の墓での合唱を使用しているとのこと。リストの他のトランスクリプション作品であるベリーニのオペラ編曲を、少し小規模にしたような導入部、つっかかるような感じで歌い上げていく旋律など、なかなか魅力的な編曲作品です。続く、“トロヴァトーレ”、“リゴレット”のパラフレーズといっしょに出版されました。

Ernani − Paraphrase de Concert
(8:34 HYPERION CDA66861/2)
4.ヴェルディ〜リスト
  トロヴァトーレのミゼレーレ“トロヴァトーレ”による演奏会用パラフレーズ
  S433   1859年
ヴェルディの“トロヴァトーレ”は1853年にローマで初演されました。その中から第4幕の合唱曲“ミゼレーレ”を伴う、レオノーラとマンリーコの二重唱の部分の編曲です。夕陽を背景に、僧侶達が歌うミゼレーレが聞こえてくる中、レオノーラと囚われの身のマンリーコが歌う2重唱というオペラの場面がうまく編曲されています。#3の“エルナニ”もそうですが、ヴェルディの歌劇の朗々たる歌いまわしが、楽しめる編曲です。

Miserere du Trovatore − Paraphrase de Concert
(8:48 HYPERION CDA66861/2)
5.ヴェルディ〜リスト ”リゴレット”による演奏会用パラフレーズ   S434  1859年
ヴェルディの“リゴレット”は1851年にローマで初演されました。“エルナニ”と同じく、ユゴーの戯曲を元に、ピアーヴェがテキストを書いています。ユゴーの戯曲は“王様はお楽しみ(1832年)”というものです。ユゴーの原作ではフランスが舞台ですが、“リゴレット”では登場人物も含めイタリアに置き換えられています。

ドンファンのようなマントヴァ公爵の色事と、マントヴァ公に仕える道化のリゴレット、リゴレットの娘ジルダ、リゴレットに雇われる殺し屋スパラフチーレ、スパラフチーレの娘マッダレーナが主な登場人物です。

リストの編曲作品の中でも非常に有名な作品で、“リゴレット・パラフレーズ”と呼ばれ親しまれています。物語の終盤、第3幕の4重唱(リゴレット、ジルダ、マントヴァ公爵、マッダレーナ)の歌が使われています。スパラフチーレの家でマントヴァ公がマッダレーナをくどき、家の外からジルダと、その父リゴレットがその様子をうかがう場面です。マントヴァ公にかつてくどかれ恋慕するジルダに、マントヴァ公の正体を見せることでリゴレットはジルダを説得しようとするのです。物語はこのあと悲劇へとつながっていきます。

高音の短い旋律による装飾がとても涼しく響き、優雅な曲調が人気の秘密でしょうか?

Rigoletto− Paraphrase de Concert
(7:45 HYPERION CDA66861/2)
6.ヴェルディ〜リスト  シモン・ボッカネグラの回想    S438   1882年
ヴェルディの“シモン・ボッカネグラ”は1857年にヴィネツィアで初演されましたが、1881年に改訂されミラノで上演されています。リストの編曲は改訂後の作品によるそうです。リストのオペラトランスクリプション作品の最後となるものです。リストは第2幕のフィナーレ、第3幕の導入部とフィナーレを使用しています。他のCDライナーでは、全く違うことも書かれていて、“シモン・ボッカネグラ”と聴き比べてみないとわからないです。

様々な装飾が施された、1840〜50年代のオペラ・ファンタジーに比べ、音数も少ない作品です。冒頭の落着いたアレンジには晩年のリストらしさが感じられ、続く主題と和声は“ハンガリーの歴史的肖像”などを思わせます。

Reminiscences de Boccanegra
(11:02 HYPERION CDA66861/2)
7.G・ドニゼッティ〜リスト 
  “ランメルモールのルチア”と”パリジーナ”の2つのモティーフによる演奏会用ワルツ
  S214/3    1850年
ドニゼッティの“ランメルモールのルチア”は1835年にナポリで初演されました。“パリジーナ”の方は、正確には“エステ家のパリジーナ”という1833年にフィレンツェで初演されたオペラです。これら2つのオペラからそれぞれのワルツの主題が取り扱われます。2つの別作品の主題を使っていますが、編曲はとても自然なもので、リストらしい華やかなワルツとなっています。

第1バージョンは第54巻に収められている1842年作のS401です。リストはこのS401と、“ワルツ・ドゥ・ブラヴーラ(S209)”“憂鬱なワルツ(S210)”といっしょにして、“3つのカプリース〜ワルツ(S214)”として1850年に出版しました。ここでのハワードの録音はこちらの1850年版になります。

Valse de concert sur deux motifs de Lucia [di Lammermoor] et Parisina
(9:08 HYPERION CDA66861/2)
≪DISC 2≫
 マイアベーア〜リスト ”悪魔ロベール”の回想
1.カヴァティーナ                           S413a 1846年
マイアベーアの“悪魔のロベール”は1831年にパリで初演されたオペラです。“カヴァティーナ”はオペラの中で歌われるアリアから発展したもので、小規模でより歌曲風のものになったものです。

トレモロによる伴奏が非常に効果的で旋律線も親しみやすい美しい曲です。後半の方で非常に盛上がり、そこからおどろおどろしい“地獄のワルツ”へとつながっていきます。“カヴァティーナ”は“地獄のワルツ”の序曲のような感じに聞こえます。

リストは第4幕のイサベラの“ロベール、私の恋人”を使っています。

Reminiscences de Robert le Diable 〜 Cavatine
(6:12 HYPERION CDA66861/2)
2.地獄のワルツ                           S413 1841年
第3幕で使われる舞踏曲です。非常に特徴的な主題で、僕はこの主題を聴くと“チム・チム・チェリー”を思い出します。中間にでてくる高音部を跳ねるように奏でる装飾は“ラ・カンパネラ”を思い出させるところもあり、あまり演奏されないことが不思議なくらいのヴィルトゥオーゾピースの傑作です。“悪魔のロベールの回想”はパリにおいて出版された初日だけで500部が売れるという成功を収めました(現代のマスメディアの感覚から、当時の盛況がどの程度なのか推察するのは、なかなか難しいですが)。

ドレーク・ワトソンの『リスト』によると、この曲は1841年3月27日のパリでのリサイタルで演奏され、4月25日のベートーヴェンの記念碑建立のための基金リサイタルでも取り上げられました。リストはこの時、ベートーヴェンのピアノ協奏曲“皇帝”をベルリオーズの指揮の下で演奏したのですが、パリの聴衆は“地獄のワルツ”の方に盛大な拍手をおくったとのこと。リスト自身もベートーヴェンよりも“地獄のワルツ”が喜ばれるという状況に、面白くない思いをしたようです。

Reminiscences de Robert le Diable 〜 Valse Infernale
(10:17 HYPERION CDA66861/2)
3.グノー〜リスト  別れ”ロメオとジュリエット”のモティーフによる幻想曲  S409 1867年
グノーの“ロメオとジュリエット”は1864年に作曲され、1867年にパリで初演されました。

いくつかの旋律が使われ、ハワードによると、バルコニーの場面、結婚の翌朝の場面、ジュリエットの墓の前での場面の旋律が使われている、とのこと。

“幻想曲”と名づけられていますが、他の巨大な幻想曲群とは全く異なり、非常に静かな作品です。ラベルの作品に通じるような品位を感じさせる美しい作品です。

Les Adieux − Reverie sur un motif de Romeo et Juliette
(11:26 HYPERION CDA66861/2)
4.エルケル〜リスト ”フニャディ・ラースロー”から白鳥の歌と行進曲  S405  1847年
エルケルの“フニャディ・ラースロー”は1844年にペストで初演されました。フニャディ・ラースローは詳しいことがわからないのですが、ハンガリー独立運動の英雄だそうです。

冒頭の旋律が、管弦楽版の“ラコッツィ行進曲”に似ていて、いきなりハンガリーらしさが楽しめます。全体として“ハンガリー狂詩曲”のようで、後半では美しい高音部の装飾が楽しめます。1846年のペストでの演奏会でリストはこの曲を演奏しています。

Schwanengesang und Marsch aus Hunyadi Laszlo
(11:09 HYPERION CDA66861/2)
5.ワーグナー〜リスト ”ローエングリン”から聖堂へ向かうエルザの入場   
  S445/2  1852年
ワーグナーの“ローエングリン”は1846年から48年にかけて作曲され、1850年にリストの指揮によってワイマールで初演されました。リストはこの曲と、“タンホイザー”から“ワルトブルク城への客人の入場”を合わせて、“『ローエングリン』と『タンホイザー』から2つの小品”として1852年に出版しました。

第2幕第4場からの編曲です。原曲の方はオーケストラ伴奏によるなかなか重厚な響きであるのに対して、リストの編曲は静かに音を紡いでいくような編曲です。オーケストラとピアノとで“厳かな”感じを表現するアプローチが異なる点が興味深いです。

Elsas Brautzug zum Munster
(8:53 HYPERION CDA66861/2)
 ワーグナー〜リスト ”ローエングリン”より  第1バージョン  S446  1854/61年
6.祝祭劇と祝唱歌                     S446/1             
これは第3幕の前奏曲と、続く有名な“結婚行進曲”の編曲です。どちらも非常に有名な旋律ですので楽しめます。“結婚行進曲”が終った後に、もう一度“前奏曲”に戻ります。この曲のみ1861年に改訂されています。

Aus Richard Wagners Lohengrin 〜 Festspiel und Brautlied
(11:09 HYPERION CDA66861/2)
7.エルザの夢                       S446/2
第1幕の第2場の場面からの編曲です。無実の罪に問われたエルザは、自分を裁く“神の裁判”を受けることになります。“神の裁判”は、エルザを訴えたテルラムント伯との戦いを意味します。エルザは、自分の代わりに戦う騎士に、夢で見た騎士ローエングリンを選ぶのです。これも静かに奏でられる小品です。

Aus Richard Wagners Lohengrin 〜 Elsas Traum
(5:08 HYPERION CDA66861/2)
8.ローエングリンの叱責                 S446/2
この3曲目はハワードの録音ではトラックが独立して設けられているのですが、サールの作品表では、先の“エルザの夢”といっしょになって、“エルザの夢とローエングリンの叱責”とひとくくりにされています。そのためS446/2ということになります。

第3幕に登場する場面です。原曲の弦楽のゆるやかな伴奏を、リストは8分音符できざむようにアレンジしています。

Aus Richard Wagners Lohengrin 〜 Lohengrins Verweis an Elsa
(5:08 HYPERION CDA66861/2)
9.ワーグナー〜リスト ”リエンツィ”のモティーフによる小幻想曲    S439  1859年
“リエンツィ 最後の護民官”はワーグナー3作目のオペラで、1838年から40年にかけて作曲され、1842年にドレスデンで初演されました。ワーグナーは、マイアベーアやオベールのグランド・オペラに影響を受け、この“リエンツィ”を作曲しました。リストの編曲も、他の作曲家のグランド・オペラを編曲したときのように、ファンタジーの形式をとっています。

Phantasiestuck uber Motive aus Rienzi
(8:47 HYPERION CDA66861/2)


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