演奏 レスリー・ハワード       
タイトル 『リスト ピアノ独奏曲全集 VOL.18 リスト・アット・ジ・シアター』
データ
1991/92年録音 HYPERION CDA66575
ジャケット カスパル・ダーヴィト・フリードリヒ 『The Temple of Juno at Agrigentum』
収録曲
1.ベートーヴェン〜リスト “アテネの廃墟”からの行進曲
2.パストラール 刈入れの合唱“解き放たれたプロメテウス”
3.ウェーバー〜リスト “プレチオーザ”より”孤独なり我は、ひとりにあらねども”
4.メンデルスゾーン〜リスト “真夏の夜の夢”より 結婚行進曲と妖精の踊り 
5.ベートーヴェン〜リスト “アテネの廃墟”による幻想曲
6.ラッセン〜リスト シンフォニック・インテルメッツォ

  ラッセン〜リスト ヘッベルの“ニーベルンゲン”とゲーテの“ファウスト”への付随音楽
  1)ニーベルンゲン
7.ハーゲンとクリームヒルト
8.Bechlarn
  2)ファウスト
9.Osterhymne
10.Hoffest 行進曲とポロネーズ
11.ベートーヴェン〜リスト “アテネの廃墟”のモティーフによるトルコ風カプリッチョ
S388 a
S508
S453
S410
S389
S497

S496

S496/1
S496/2

S496/3
S496/4
S388
感想 1.ベートーヴェン〜リスト “アテネの廃墟”からの行進曲   S388 a   1846年
ベートーヴェンの管弦楽と独唱、合唱による“アテネの廃墟”から有名なトルコ行進曲の編曲です。ベートーヴェンはこの曲をリストが産まれた1811年に作曲。そしてベートーヴェンの死後1846年に出版されています。リストの編曲は出版されたときのものになります。

リストによる“アテネの廃墟”関連の編曲作品は、他にこのディスクにも収められている、S389“アテネの廃墟による幻想曲”と、そのピアノ協奏曲版S122、そしてS388の“アテネの廃墟のモティーフによるトルコ風カプリッチョ”があります。この“アテネの廃墟からの行進曲”は、トルコ行進曲のみを編曲したものです。他のアレンジと比べて小品としての楽しみがあります。

March from “The Ruins of Athens”
(3:01 HYPERION CDA66575)
2.パストラール 刈入れの合唱“解き放たれたプロメテウス”  S508 1861年 
世俗合唱曲の“ヘルダーの『解き放たれたプロメテウス』のための合唱”より、“刈入れの合唱”の部分を編曲したものです。元が合唱曲であるとは、言われなければ分からないほど自然なピアノ曲です。リストのパストラールとなると、“巡礼の年 第1年 スイス”のうちの何曲か、そして“クリスマス・ツリー”を思い出させます。第56巻には様々な装飾効果を試みている第1バージョンが収められていますが、こちらはより洗練されて曲として統一感が出ています。

Pastorale − Schnitter‐ Chor aus dem Enfesselten Prometheus
(5:26 HYPERION CDA66575)
3.ウェーバー〜リスト “プレチオーザ”より“孤独なり我は、ひとりにあらねども”
  S453  1848年
ウェーバーの“プレチオーザ”は1821年にベルリンで初演された付随音楽です。付随音楽とは当時の演劇のBGMのために使われる音楽です。演劇はセルバンテスの“ジプシー娘”を元にヴォルフがテキストを書いたものです。和音の奏でられ方が、まるでギターを爪弾くような小品で、その上にリストらしいピアノならではの高音の装飾が施されます。

Einsam bin ich,nicht alleine aus der Oper Preciosa
(4:57 HYPERION CDA66575)
4.メンデルスゾーン〜リスト “真夏の夜の夢”より 結婚行進曲と妖精の踊り 
  S410    1849〜50年
有名な“真夏の夜の夢”の結婚行進曲の編曲です。メンデルスゾーンは1826年に序曲をまず作曲し、その後1842年に付随音楽を作曲しました。付随音楽と伴ったかたちでは、1843年に作曲の依頼主であるプロイセン王フリードリッヒ・ヴィルヘルム4世の誕生祝賀会で初演されました。演劇はシェイクスピアの戯曲です。

“結婚行進曲”の方は、原曲のシンバルを打ち鳴らす華々しさはなく、リストは細やかな表現と華やかな装飾で結婚行進曲を彩り、どことなく奥ゆかしい響きになったと思います。そして途中に原曲での3曲目“妖精たちの行進”が入ります。

ハンス・クリストフ・ヴォルプスの『メンデルスゾーン』によると、リストは“「小さな妖精」の「虹の香り」や、「真珠のようなきらめき」をとらえるメンデルスゾーンの類まれな天賦の才能を賞賛した
※1”とのこと。リストのこの“結婚行進曲”の編曲を聴くと、リストが確かにメンデルスゾーンの“真珠のようなきらめき”をピアノに移し変えようとしていると思われ、そしてそれは見事に成功しています。

※1 『メンデルスゾーン』 ハンズ・クリストフ・ヴォルプス 尾山真弓訳 音楽之友社 1999年 P184

Hochzeitsmarsch und Elfenreigen aus dem Sommernachtstraum
(4:57 HYPERION CDA66575)
5.ベートーヴェン〜リスト “アテネの廃墟”による幻想曲         S389  1852年
ピアノ協奏曲版もある“アテネの廃墟”による幻想曲です。他に2台のピアノのための版、ピアノ連弾版もあります。ベートーヴェンは“アテネの廃墟”を、その後ヨーゼフシュタット劇場のこけら落しの時のための作品“献堂式”という曲にも転用しています。

とにかくエンターテインメント性、ヴィルトゥオジティに優れた作品です。トルコ行進曲の出だしのところが、よりピアノの効果を狙ったのか調性が、ピアノ協奏曲版と異なるようです。

Fantasie uber Motive aus Beethovens Ruinen von Athen
(12:30 HYPERION CDA66575)
6.ラッセン〜リスト シンフォニック・インテルメッツォ         S497 1882/83年頃
エデュアルド・ラッセン(1830−1904)は、リストの後を継いでワイマール宮殿の宮廷楽長になった人物です。今日ではほとんど忘れられていますが、ユリウス・カップの“フランツ・リスト伝”では、ラッセンの“ルートヴィッヒ方伯の新婚旅行”というオペラが成功したことが記載されています。ワイマール時代以降のリストと晩年にいたるまで交友関係をもった人物で、リストの書簡には数多くその名前がでてきます。リストの作品を室内楽作品に編曲したりもしました。ラッセン自身の作風は、やはりリスト、ワーグナー派の作曲家と呼べるものです。

“シンフォニック・インテルメッツォ”はもともと管弦楽作品で“Carderons de la Barca(Above all Magic,Love)”という劇のための付随音楽です。冒頭の旋律はとても美しく、ワーグナーを思わせます。エンディングの方ではハワードも指摘していますが“パルジファル”を思わせる旋律が登場します。

Symphonisches Zwischenspiel zu Calderons Schauspiel
(10:35 HYPERION CDA66575)
 ラッセン〜リスト ヘッベルの“ニーベルンゲン”とゲーテの“ファウスト”への付随音楽
 1)ニーベルンゲン
7.ハーゲンとクリームヒルト            S496/1       1878/79年
この“ニーベルンゲン”はワーグナー の“ニーベルングの指輪”ではありません。同じ“ニーベルング伝説”を題材にしたフリードリヒ・ヘッベルの“ニーベルンゲン”です。この劇は1861年にワイマールで初演されました。これの付随音楽がラッセンによります。ラッセンの作品は全部で11曲ありますが、これは5曲目にあたります。ハーゲンは、ワーグナーの方にも出て来て、英雄ジークフリートを倒す人物ですが、クリームヒルトはワーグナーの“指輪”の方ではグートゥルーネにあたります。

前半は男性的な力強く、後半は緩やかな旋律となります。おそらく前半がハーゲン、後半がクリームヒルトなのだと思います。

Aus der Musik von Eduard Lassen zu Hebbels Niebelungen und Goethes Faust
1)Nibelungen Hagen und Kriemhild
(5:31 HYPERION CDA66575)
8.Bechlarn                               S496/2   1878/79年
これは吟遊詩人がうたったセレナードとのこと。哀愁を帯びた緩やかな曲です。リストはかつてこれら二つのラッセンの曲を、ピアノ連弾曲に編曲し、それをエステ荘で1878年に思い出しながら独奏曲に編曲したようです。1878年12月7日付けのオルガ宛て書簡で、その記述が見られます。その後リストは12月18日に楽譜をオルガ宛てに送っており、書簡では“届いただろうか?”ということをしきりに気にしています。

Aus der Musik von Eduard Lassen zu Hebbels Niebelungen und Goethes Faust
1)Nibelungen Bechlarn

(5:10 HYPERION CDA66575)
 2)ファウスト
9.Osterhymne                             S496/3  1878/79年
ラッセンの作曲したファウストのための付随音楽は、全部で64曲あり、リストは第1部の2曲目を編曲しました。タイトルは“復活祭の賛歌”というような意味なのですが、ファウストのどの部分なのかちょっとわかりません。序曲のような感じの華やかな曲です。

Aus der Musik von Eduard Lassen zu Hebbels Niebelungen und Goethes Faust
2)Faust Osterhymne
(3:41 HYPERION CDA66575)
10.Hoffest 行進曲とポロネーズ                   S496/4  1878/79年
これはラッセンの曲では第2部の2曲目と3曲目をつなげたものです。1878年9月12日のオルガ宛の書簡で、リストは“昨日仕上げた”と伝え、楽譜をオルガに送っています。リストはこの2曲はコンサート・ピースにしようと思っていたことが書かれています。確かに先のニーベルンゲンに比べ、ファウストの2曲は華やかな作品です。1879年の1月にはフランスの作曲家のジュール・マスネがブダペストに移ったリストのもとを訪れ、リストはマスネを前にこのファウストの2曲を弾いて聴かせたとのこと。

Aus der Musik von Eduard Lassen zu Hebbels Niebelungen und Goethes Faust
2)Faust Hoffest:Marsch und Polonaise
(8:11 HYPERION CDA66575)
11.ベートーヴェン〜リスト “アテネの廃墟”のモティーフによるトルコ風カプリッチョ
   S388 1846年
この曲は#1のトルコ行進曲のみのアレンジと、#5の幻想曲との中間のような作品です。ピアノ協奏曲版、と独奏曲版の幻想曲の後に作られました。トルコ行進曲のアレンジがさらに華やかにさまざまな装飾が試みられます。中間部の幻想的な箇所はものすごい迫力です。

Capriccio alla turca from “The Ruins of Athens”
(8:46 HYPERION CDA66575)


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