1999年10月に読んだ本


【野鼠戦線】 景山 民夫 徳間書店

1999.10.29読了.
能天気な戦争活劇.こういうのは景山民夫うまいよねぇ.
各々特技を持った面々がそろう小隊がかっぱらいをやりながら(というのは補給が無いから)アメリカ軍と追いかけっこをする.かっぱらう相手はアメリカ軍であり時には味方である日本軍でもある.気楽に楽しく読めるのが美点.貴重な才能だったのになぁ.C+
【決戦!太陽系戦域】 デイヴィッド・ファインタック ハヤカワ文庫

1999.10.28読了.
やっと読むことができたシーフォート.今回も困難苦難の連続だなぁ.
ま,あの性格で地上勤務は駄目だよねぇ.ホーンブロワーもボライソーも駄目だもんなぁ,ましてやシーフォートじゃねぇ.そのゴタゴタも面白いけど,今度はニューヨークのトランニー達とのやり取りが最初の山場.エディとチャン爺さんがなかなかいい味.こういうの翻訳の野田昌宏は得意だよね.で,クライマックスのドンパチ.こいつも迫力がありますねぇ.う〜む,苦悩の塊のシーフォート.これだよねぇ,このシリーズの読みどころは.
だけど,前の話をだいぶ忘れちゃってるからなぁ,それが残念.B

【新宿熱風どかどか団】 椎名 誠 朝日新聞社

1999.10.25読了.
『本の雑誌』についてはちょっと思い入れが深いので,やはり読んでしまう.今回は椎名誠が会社員を辞めるあたりの事が書かれている.あの頃,『本の雑誌』が発行されそうになると毎日本屋に行って雑誌の棚を見たなぁ(いや『本の雑誌』が出る頃じゃなくても,毎日本屋に入っていたのだけど,毎日雑誌の棚は見ていなかった).ということで,その頃の内幕が書かれているので,ま,実話週刊誌的な興味で読んでいるのですねぇ.しかし,知っていることが結構多いかも.C+

【ウィチャリー家の女】 ロス・マクドナルド ハヤカワポケットミステリ

1999.10.22読了.
これまた20年ぶり位の再読.しかし,『長いお別れ』と違って内容は全然覚えていない.
少女が行方不明になり,私立探偵(リュー・アーチャー)が捜査を依頼される.う〜ん,古典的.そして私立探偵は少女の身の回りの人々に聞き込みを始め,殺人がおき,意外な真相が解明される.う〜む,古典的だなぁ.マクドナルドは変った手など使わない.主人公はホモでもアル中でもホームレスでも無く,依頼者も金持の市民だ.ま,こういう小説の形式は彼が完成させたといっていいのだろうから,当たり前といえば当たり前だよね.
古典的なパズラーは探偵のところに証人がやってきて話し,古典的なハードボイルドは探偵が証人のところに行って話す.なるほどねぇ.
教科書的な作品.今の世の中では半ば過ぎまでちょっと退屈だが(風俗の描写は面白いかも)終りの展開は素晴らしい.やはり名作なんだろうなぁ.B+.

【長いお別れ】 レイモンド・チャンドラー ハヤカワポケットミステリ

1999.10.20読了.
20年ぶり位の再読.
若い時私にとってフィリップ・マーロウはヒーローだったけど,だんだん単なるキザな感傷的な捨てぜりふだけがうまい奴というような評価になってしまい,今更なぁ,と思ったのだけど読んでみた.
うん,結構いけるんだねぇ.チャンドラーってのはいやみったらしい爺さんだなぁと思うけど,イヤミがうまいことは事実.それに可愛げが無いことも無い(面と向かってお話をする気はしないけどねぇ.ま,死んでいるか).またそのイヤミ(あるいは自己嫌悪,気取り)で全編が書かれているっていっても誇張じゃないかも.う〜む,イヤミで長編をもたせているってのは希有のことかも.B+.

【仏陀の鏡への道】 ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫

1999.10.18読了.
ニール・ケアリー再読第2弾.悪くはないんだけどなぁ,気に食わないところが少々.
1.なぜニールが香港に行かなきゃいけないのか納得できない.
2.ニールは結局何もしていない(ビルの屋上からビンを落す以外).
3.主人公以外の思い出話が長いってのは作者の怠慢じゃないかなぁ.
4.偶然が多すぎるぞっ.
てなところで,最初読んだ時と印象がほぼ同じ.成都で『ロデリック・ランダム』を見つけることろなんていいんだけどなぁ.サンフランシスコのクロウもいいし,紹伍も,ホテルの警備員もいい味してる.だけどさ,人物はいいけどさ,物語への関わりかたがちょっとあまりにもあまりだよねぇ.B

【沈黙】 古川 日出男 幻冬社

1999.10.15読了.
『13』は色だったけど今度は音.
生の象徴としての音楽と根源的な悪=闇の物語.話は『獰猛な舌』を持つ男が太平洋戦争後タイに現れるところから始まる.そこで暗示される悪.『地獄の黙示録』?
そして現在の東京.安楽死させられる猫を救おうとして保健所を襲撃する主人公,薫子.彼女が自らの出自を探り,見つけ出す音楽がルコ.ルコとは何か?.ルコについてのノートを書き残した男と『獰猛な舌』を持つ男の関係は?.
音楽.ジャケットもレーベルも無いレコードの数々.言語.音.ラジオ.闇.悪.特異な漢字の表現.料理.猫.そして憑依.心臓のリズム.う〜む.A

【ぼくらの鉱石ラジオ】 小林 健二 筑摩書房

1999.10.12読了.
ちょっと前にどこかの書評でほめていたのを思い出して図書館で借りた本.
最初はおだやかに鉱石ラジオの世界にいざなってくれるのだが,途中から著者は工作オタクの本性をあらわす.最後の例じゃヴァリコンを作っちゃうんだもんなぁ,半端じゃない.ケースも検波器もダイヤルもコイルも(コイルったって普通の奴じゃない)自作.すごいよねぇ.
ラジオの原理も分かりやすく書かれていていいかも.ただ私はもう忘れちゃったなぁ.私はあまり理科少年じゃなかったのが残念.子供の頃に理科が大好きだった手先が器用な人にはおすすめ.理科が嫌いな人でも著者が作ったラジオは一見の価値がある.展覧会をみたいなぁ(著者は芸術家のたぐいであるらしい)B.

【歓喜の島】 ドン・ウィンズロウ 角川文庫

1999.10.7読了.
どうってこと無いお話で,しかもあとがきでネタバレしてるのだけど,私のツボを突いた本でしたねぇ.
私は東京で生まれて育ったのが良かったと思っているのだけど,もし別の場所に生まれなければならないとしたらニューヨークを選びたい.そういう気持ちを刺激するのですねぇ.ウィンズロウはほとんど私と同年代だから,50年代のマンハッタンは知らないわけで,全て調べたのだろうけど,そのために美化されているのでしょう.いいなぁ.
ガーシュウィンとカポーティが話し合っているシーン(名前は出てこないけど,そうだよね).アドレイ・スティーブンスンに投票したCIA局員.ブロードウェイ.主人公とケネディ夫妻(をモデルにした登場人物)とマリリン・モンロー(をモデルにした登場人物)は『ミュージック・マン』を見る.ある登場人物を主人公が尾行するとウィンター劇場の楽屋口から中に入る(ウェストサイド物語がロングラン中).人名の海.
物語も悪くはないよ.B+.(+は涙で目が曇っているからだ)

【黒猫の三角】 森 博嗣 講談社

1999.10.5読了.
新シリーズ.そして読み終わってみると,それが一つの必然性を持っているんですねぇ.なかなかよろしい.
でも密室トリックも全てそこに寄りかかっちゃっているわけで,そこが弱いかも.ま,うまいミスディレクションはあるし,いいでしょ.登場人物も悪くない.変な凝った名前はこれも一つのミスディレクションかも.
へっ君ってのがいいなぁ.B

【ストリート・キッズ】 ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫

1999.10.4読了.
ウィンズロウが続々と出版されているので原点を思いだそうということで再読.やっぱり面白いや.
本書ではニールの紹介に忙しくて(っていう程でもないけど)他の変な人間を出す余裕が無かったけど(スモレットをめぐる人間だけで十分面白いけどね),私がウィンズロウを偏愛するのは,変なキャラクタが変な行動をするからなのですねぇ.ま,この本ではニールだけで十分.B+

【スキナーの追跡】 クィンティン・ジャーディン 創元推理文庫

1999.10.2読了.
今回はいままでと雰囲気を変えてあまり風呂敷を広げる展開にはならない.
ちょっとした詐欺かも?っていう事件だけど,スキナーが顔を突っ込むとどんどん大きくなっていって,最初に出てきた殺人事件はいったいどこに行っちゃったんだ,もしかして犯人はあいつだろうか?,とか思っているとそうなっちゃう展開だもんなぁ.で,今度はスキナーに息子が生まれてデレデレの親馬鹿を見せる.う〜む,これはスコットランド風鬼平かも.そういえば悪い奴を迫力で睨み倒すなんて鬼平にもありそうだよね.ま,しかし下手な鬼平だよなぁ.C+.

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