1999年9月に読んだ本


【暴虐の奔流を止めろ】 クライブ・カッスラー 新潮文庫

1999.09.29読了.
カッスラーなんか買うのはよそう,と決心したので,出版されてからおおよそ一年でやっと図書館から借りることができたのだけど,やっぱりこんなもの買わないでよかったなぁ.
まあこの物語が絵空事であることは十分承知してるけどさ,絵空事には絵空事なりの必然性とかリアリティってのが必要であって,しかもそのリアリティが厳密であればあるだけ快い物語になっていくのだけど,最早このシリーズではそういう期待をすることはできないなぁ.『QD爆弾…』位まではなんとかとどまっていたと思うんだけどね,今は糸の切れたタコになってしまった.
翻訳もちょっとねぇ,というところが散見されるのでは….C

【思考のレッスン】 丸谷 才一 文藝春秋

1999.09.25読了.
問答形式の本でした.だから基本的に口語口調で書かれていて軽く読める.物足りないといえば物足りないし,偉そうにしゃべっていると思えばそんな感じだし,インタビュアーが茶坊主みたいだという感じも確かにするよね.ついでにいえば結構読者を限定している所があって(つまり知的スノッブの上の方)その辺も鼻持ちならないかも.
それにもかかわらず指摘されている事柄は首肯に値するものが多い.例えば,文章を書く時はマルのところまで頭の中で作ってから書き出せ,とかね.あるいは,ひいきの学者を作れとか,自分で索引を作れとか,本を読むより考えろとか(読むべき本は読んでいるのが前提ってのがくやしい),モロモロ.
たまにはちゃんとした本を読もうかなぁ.B

【無法投機】 ポール・アードマン 新潮文庫

999.09.24読了.
悪くはない.しかしねぇ….
いきなり逮捕された主人公が,どういう風に当局に対応して,どうやってなぞを解き,いかにして脱出するか,と期待していたら,いきなり悪い方のネタばらしをやっちゃうんだもんなぁ.脱力することおびただしい.で,脱出もあなたまかせで,しかも悪い方の実行部隊がとんでもないアマチュアだもんねぇ.そして主人公のやったことはメールを一本うっただけ….
なまじ面白かっただけにけなしたくなるのでありました.C+

【ローマ人の物語8】 塩野 七生 新潮社

1999.09.22読了.
相変わらず私の知らない世界を詳しく教えてくれる.そして相変わらず面白い.しかし自家撞着に陥っているところもあるんじゃないのかなぁ.それから箴言好きなのは相変わらずですねぇ.それでも今回は題材がパッとしないのばっかりだからそれほど多くなかったけれど.
このシリーズを読むと,どうもアメリカってのは(少なくともアメリカの過去の支配層は)自分の国が現在のローマ帝国だと思い込んでいるのでは,と想像したくなる.多分そうなんだろうなぁ.B

【海軍大将ボライソー】 アレクサンダー・ケント ハヤカワ文庫

1999.09.16読了.
久しぶりのボライソー.ちなみに今回初めて買わず図書館から借りた.
いやどうも陸上での人間関係がうっとうしいなぁ.さっさと海に行ってしまえっ!,と思うのだけどなかなか先に進まない.海に行ってからだって場面をイギリスに変えるなよなぁ,鬱陶しい.
しかし海に出てしまえばさすがですねぇ.出港のシーンなんか手慣れたもので目立たないけどうまいよね.ただ今回戦闘場面が短いなぁ.あっさりし過ぎている.キャサリンに言い寄る奴等なんかどうでもいいからこういう所をしっかり書いて欲しいよね.B−

【スキナーのフェスティバル】 クィンティン・ジャーディン 創元推理文庫

1999.09.14読了.
これも強引な話.
目的がこれならクライマックスの事件だけで十分だと思うんだけどなぁ.脅迫とか爆弾事件とかする必要無いよねぇ.それでまたこのスキナーのオヤジはまったくのジョン・ウェインだもんなぁ.いや,つまらないってわけじゃなくて,とても面白いんだけどさ,いやはや,しかしねぇ….B

【突破者】 宮崎学 南風社

1999.09.10読了.
いや,これも面白かった.
めちゃくちゃやっている人生なんですねぇ.こういう人もいるんだ.感慨.
私なんか根っからの市民だもんねぇ恐れ入るしかない.でもつらつら昔のことを考えてみると少しこういう匂いをかいだ感じはあるねぇ.それから仕事上のお客さんにもいてもおかしくはない雰囲気.
しかし60年代末の学生運動ってのはこうだったのか.確かに毎日お祭りみたいだったなぁ.A−

【異常犯罪捜査官】 大石英司 天山ノベルズ

1999.09.7読了.
久しぶりの再読.やっぱり傑作だよね.
細かいところで忘れていたのがいくつか.例えば円納寺は東京でもダウジングで遊んでいたとか,クールベの絵について書いていたのはこの本だったとか.モロモロ.
しかし,円納寺ってマジで異常なところがって楽しい.他の本でもこういうキャラクタをしまっておかないでちゃんと活躍させてもらいたいよね.そうそう『首都壊滅作戦』でもそんな風な人が出てきたなぁ.
キロ級をパンツァーファウストで迎撃するような大石英司もいいけど,こういうのもいいんだよなぁ.A−(マイナスはもっと長いの書けっていうこと)

【スキナーのルール】 クィンティン・ジャーディン 創元推理文庫

1999.09.6読了.
いやいや噂は聞いていたけどこういう風になっちゃうとはなぁ.
出だしは普通のミステリ.連続殺人があって,しかも殺されかたがあんなんで,登場人物表に日本人が出てくる(日本人の名前じゃないよな,あれは)ので,こりゃどうなるのかと思ったら,そこんところはさらっと流れて,しかもまだまだ本は半分以上残ってる.どうするのかなぁと思ったところで国際謀略小説になるんですねぇ.目が点.
でもって,これが違和感無く(いや無くは無いな)つながっていくのは作者のお手柄ですね.写真を見るとタフなおっさんぽいけど,小説の腕のほうもタフだ.しかし真相はねぇ,ちょっと無理筋じゃないのかなぁ.いやぁ強引.でも面白かったから許してあげよう.B

【可愛い娘】 ロス・トーマス 立風書房

1999.09.2読了.
発行されたのは1974年だから25年前.それを差し引いても相変わらず立風書房のロス・トーマスの翻訳はいただけない.根本的に文章や会話のリズムがいけないんだよねぇ.ということは訳者の英語能力というより日本語能力に問題があるのかもね.それにしてもバカタマ(これ主人公が飼っている猫の名前らしい)っていったい何なのだろう?
そんな翻訳にもかかわらず,ほとんど一気読み.面白かった.会話も描写も物語が展開するテンポもよろしい(翻訳文から感じるためには少し想像力が必要だけど).出てくる人物は魅力的(多分)で,ちょっとした驚きもあるし,飽きさせない.ただ読み終わって振り返ってみるとちょっと無理な話だったなぁとは思うけど,だいたいミステリってそういうものだよね.B+

【ミネルヴァのふくろうは日暮れて飛び立つ】 ジョナサン・ラブ 文春文庫

1999.09.1読了.
はしょっていえば,ラドラムタイプの陰謀物.政治・経済テロを連発してアメリカ社会をカオスに陥れ,新しい永続的な政体を作り上げようという陰謀に,かつてプロであった女性諜報員とアマチュアの大学教授が立ち向かう.目新しいのはテロの理論的根拠が16世紀に書かれた書物であるということ.
しかし何といってもトロトロ進んでいく筆致がもどかしい.どうも作者の作った筋立ても首尾一貫しているのは言い難い.意外な結末も,しらけるだけ.そうそう,途中まで読んで登場人物表を見直せば誰が黒幕か分かってしまうのも減点対象だよね.C
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