1999年8月に読んだ本


【友と別れた冬】 ジョージ・ペレケーノス ハヤカワ文庫

1999.08.24読了.
いやー,センチメンタルな話.そんなにストレートに青春時代を思い出すなよなぁ>主人公.
昔の友人が突然現れて失踪した妻の捜索を依頼される.また,主人公の別の友人が殺されていて,その犯人探しをしている.アメリカの私立探偵小説の典型的な二つのストーリィを混ぜ合わせているのですねぇ.そして妻を捜している方の友人との思い出.う〜む,恥ずかしいなぁ.
解決の方法は,妻の捜索の方はこれまた典型的な昔からの結末であり,殺人の方もおなじみのやり方.うん,後者はR・B・パーカーが得意だよね.まあこれはこれで悪くない.
レスビアンの友人とのお話とか,ちょっとエスニックなお話とか,酔っ払いかたとか(こういう酒の飲みかたをすると日本人は体を壊す.でもおいしい),細部はいいんだよねぇ.音楽もよく出てきて主人公の雰囲気を多分あらわしているんだろうけど,私にはよく分からん.これは残念.B
【ドラキュラ戦記】 キム・ニューマン 創元推理文庫

1999.08.19読了.
今回はイギリスを追い出されたドラキュラがドイツ帝国にとりついて第一次世界大戦を引き起こすという趣向.相変わらず実在の人物や小説・映画の登場人物が出てきて楽しめる.しかし,シャーロック・ホームズが出てこなかったのがちょっと残念.混乱期に死んじゃったのかなぁ.
前作よりもグロっぽいのも今回の特徴で,吸血鬼のストリップってのはアイデアでしたねぇ.しかし塹壕の中の病院にモロー博士がいるなんていうのは絵になるかも.いや実際いたら怖いよねぇ.
本筋ではリヒトホーフェン達の変身のアイディアがやっぱりいいよね.なるほど.B+
【前日島】 ウンベルト・エーコ 文藝春秋

1999.08.13読了.
どうにも読みにくい本でしたねぇ.いや,つまらなくはないんだけど,字面を追うのに時間がかかるというか.ジョイスの悪影響を受けているんじゃないか,エーコは.
いや,最初の舞台がいけないのかも.だって30年戦争だもんねぇ.高校の時世界史をサボったからよく分からんのですよ.『世界の歴史』でも読んだけど今度は頭が固くなってて全然覚えていないしね.ま,主人公は30年戦争を戦った貴族で,戦後パリに出て,色々あって結局マザランにスパイとして船に乗せられてしまう.何のスパイかというと経度を正確に測る方法を探るってことでありまして,この船が日付変更線のあたりで難破し,主人公は別の船(一種の幽霊船)にたどり着く.そして『前日島』を目の前にしてモロモロのことが起きる.ま,そういうお話.
面白いのはその頃の科学知識の羅列と『三銃士』を始めとする書物からの本歌取りでありまして,その辺の知識が少ない私としては隔靴掻痒の感があるのはしょうがないよね.しかしポルトスと剣を交えた(だったと思うけど)彼がああなっちゃうとはねぇ,かわいそうに.そうそう思わぬクスグリもある.本に毒を塗ってページをめくる指をなめさせて毒殺するとか.
でもやっぱりエーコは『薔薇』だけ書いておけばよかったのでは….B

【虫の宇宙誌】 奥本 大三郎 青土社

1999.08.3読了.
虫に関しての,ちょっと高踏的なエッセイ集.最初少し若さが出ているような感じがするかも.しかし,途中からはよろしい.特にトンボに関しての章(盛夏のギンヤンマについて書いたところ)などは感動的.しかしどうして虫屋の人が虫について書くとこんなに魅力的なんだろうねぇ.たとえば映画狂が映画について書いた本てのもずいぶんあるけど,虫についての本ほどあたりは多くないような気がする.ということは私もどこか深いところで虫が好きなのかも.B

【ドラキュラ紀元】 キム・ニューマン 創元推理文庫

1999.08.2読了.
いや,やっぱりモトネタを読んでいないってのは良くなかったかも.しかしそれにもかかわらず面白い.ただ登場人物が多岐にわたりすぎていて,巻末に詳細な人物一覧があるんだけど,そんなのいちいち読んでられないよねぇ,世紀末のイギリスについての知識が無いのがくやしい.しかもニューマンは登場人物で相当に遊んでいるらしくて,これはじっくり読んで楽しむのが優雅な趣味というものでしょうねぇ.しかし『M』の先祖まで出てくるとはねぇ.いや,この人はわかったんだけど,ナポレオン・ソロの上司の先祖まで出てくるってのにはまいったよね.
ということで,暗黙の了解がありすぎているってのが弱点かも.しかし主人公(男の方)がなぜ切り裂きジャックの捜査をさせられているのかっていうのが最後に明らかになるんだけど,これはお見事.B+

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