1999年6月に読んだ本


【笑わない数学者】 森 博嗣 講談社

1999.06.30読了.
これは私にとってはあまり面白くなかった.メインのトリックがわかりやすいんだもんなぁ.でも,そこから先の論理の進め方はなかなかよろしい.特に毎年チャンスを狙っていたなんていうのは私好みの理論ですねぇ.
しかし,森博嗣ってのは変な生活環境(っていう言葉も変だね)を考えるのが好きなんですね.そのへんもなかなかよろしい.B−

【大事なことは,ぜーんぶ娘たちに教わった】 青山 南 毎日新聞社

1999.06.30読了.
いやー,どこも同じなんだなぁ,というのが最初の感想.翻訳家青山南に子供ができて,家事や育児をしなくちゃいけなくなって,で,根がこの人マメなんですね,結構まじめにやってしまった顛末を書いております.それが第一部.他には子供向けの本の紹介とか対談とか,全てが子供がらみ.
私も家事,育児については世の平均の男性よりもマメであろうと思われるので,同感するところが多い.そうなんだよなぁ,実にねぇ.うんうん.という具合ですね.しかし,自由業ってのはやっぱりうらやましいところがあるよね.B−.

【思考するクワガタ】 池田 清彦 宝島社

1999.06.29読了.
池田清彦のエッセイ集.日本の政治制度について,天皇制について,差別について,等々ラディカルな意見が並ぶ.陳列されている言辞について,賛成のこともあれば,どうかなぁということもあるけれど,ま,傾聴すべき意見ではありましょう.
しかし,面白いのはやはり生物学についてのことであって,特に昆虫関連のものが楽しい.人間,好きなことを書いているのがやっぱり一番いいんだろうねぇ.C+

【高く孤独な道を行け】 ドン・ウィンズロウ 創元推理文庫

1999.06.28読了.
待っていたニール・ケアリーの第三作.中国から帰ってきたニールは今度はカウボーイのまねをするハメに陥る.面白いし,読み始めたら本を閉じさせない力を持っているのは確かであります.しかし潜入工作が行き当たりばったりというか偶然にまかされているっていうのが,ちょっと引っかかるところ.それから最後の決闘シーン(って大時代だけど,実際大時代なんだよねぇ)のあたり,変なインディアンの登場は味の一つとしていいとしても,どうも安易に流れているような感じが少々.ま,それもいいんだけどね.
そうそう,ダビデの星のシーンなんていいなぁ.インディアンと並んでウィンズロウの面目躍如でありますねぇ.比較するのは唐突だけどエドマンド・クリスピンのユーモア感覚と一致するような….B+

【射程圏】 J・C・ポロック 早川書房

1999.06.25読了.
久しぶりのポロック.『ミッションMIA』や『樹海戦線』は多分途中で放り投げているはずで,つまり気に食わなかったのだけど,新生ポロックという噂を聞いて,だまされたつもりで読んでみたところ,なかなか結構でありました.
主人公は多分警官なんだろうけど,マフィアの殺人を目撃した娼婦のほうが断然光っていて,こっちをメインにもってくればよかったのに,そういうわけにもいかず,この辺計算違いではなかったのかなぁ.この女性,やるときはやるくせに,突然中途半端に逃げたりして,そのくせ最後には根性を見せるという,ちょっとよくわからん人でありまして,わからないのが女の人って言われればそれまでだけど,都合良すぎないか?.B

【新世紀日米大戦8】 大石 英司 中央公論

1999.06.24読了.
さて,今回は硫黄島をめぐってのやりとりでありまして,相変わらずの一気読み.
とうとう司馬のおねーちゃん(あ,もうおばさんだよなぁ)が出てきましたねぇ.次の巻では白兵戦でしょうねぇ.これは楽しみ.あのおばさん(とか言ったらひっぱたかれそう)遠慮が無いからなぁ.
しかし,作者も落とし所を考えているようで,終り近くに色々ありまして,しかしこんなことなら戦争なんてやってる場合じゃないだろうが,といいたいですね.ま,それでもやるのが戦争であるとも言えるけど.多分,10巻で完結なのでしょう.B
【カブキの日】 小林 恭二 講談社

1999.06.23読了.
もう一つの日本を舞台にしたファンタジーっていえばいいのかなぁ.題材はカブキ(歌舞伎とは微妙に違うようだけどよくわからん),といえば筒井康隆『美藝公』っぽいよねぇ.といっても相当に違うけどね.
出だしが秀逸(こっそりいえば,私にとってこの本は最初の30ページと最後の数ページだけでもよかったんだけどね).主人公の少女が親と一緒に舟で劇場に行くんですが,読者を微妙に混乱させる書き方がいいし,主人公の蕪(かぶら)もよろしい.世界座の3階での地獄巡りもなかなか結構.カブキの世界(異世界)と現実が(パラレルワールドだけど今の日本の現実を意識的に使っている),そして異世界の中でもまた異世界があって,それらが小道具を通じて交差するところが魅力的であります.しかし,設計図通り書きましたっていう感じがどうもするのですねぇ.『五匹のこぶたとチャールストン』とか『グッバイジョーの歌』(ひょっこりひょうたん島だ!)を出したり,コンビニのシーンとか少しあざといかも.あざとさも芸のうちっていえばいえるけどねぇ.B+
【無法の正義】 クレイグ・トーマス 新潮文庫

1999.06.22読了.
やっとのことで読了.並列読みしていたのは6冊にのぼる.読みにくかったか,というとそうでもない.並列に読んでいた他の本の方が読みやすかったということですね.
今回のトーマスはガントもハイドも出てこない.舞台はシベリアの新興都市とアメリカの上流社会であって,二つの視点から交互に物語は語られる.主人公はシベリアの警官とワシントンの元CIA現国務省に勤める役人で,後半に向かってスピードアップしながら両者の軌跡が交わる.
構成は単純だけど魅力的.そしていつものトーマスであって,走り始めたら後は一気呵成の読書を楽しめる.特に後半,主人公達がストレスに押しつぶされていって,先のことなんか考えられなくなりながらもひたすら獲物を追いかけていくのがやっぱりトーマスの独壇場ですねぇ.
そういえば原題に動物の名前が入っていないぞ.あ,『ディファレント・ウォー』もそうか.趣味が変ったのかなぁ.B+
【構造主義科学論の冒険】 池田 清彦 講談社学術文庫

1999.06.21読了.
いや,たまにはこういう本を読むべきですねぇ.面白かった.
まず,科学とは何か,そのためには現象とは何か,そしてそれを認識するということはどういうことか,記述するとは…,著者はまじめに考える.そしてできるだけ分かりやすくその思考過程を文章にしてくれる.一通り読んだだけではとても理解できたとはいえないし(第一,ここは分からないなぁ,とか考えながら読んでいる),読後ちゃんと思考しなければいけないんだろうけれど(考え直さないんだよなぁ),少なくともそういう哲学的思考を経て科学史を振り返るというのはとても興味深いし,とても刺激的だ.
最後の章で科学と社会との関係を論じ,これからのあるべき社会について主張しているが,これも耳を傾けるべき主張ですねぇ.この本の対象は多分若い人向け(高校から大学生)だと思うんだけど,中年のおじさんとしても読んでみてよかったと思うぞ.この本を読んで,おじさんでなきゃわからない事だって多分あるはずだしね.A
【星界の紋章3】 森岡 浩之 ハヤカワ文庫

1999.06.20読了.
ということで完結編.なかなか面白かった.一気に読めるところが値打ちだよね.しかし読み終わるとちょっとむなしくなるのがこういう本のサガでありますねぇ.いや,いいんだけどさ.続きやっぱり読みたいしね.B−
【星界の紋章2】 森岡 浩之 ハヤカワ文庫

1999.06.18読了.
ということで続編.この手のものの傾向として,物事が都合よく進み過ぎる(全体としては主人公は危機に陥るのだけど,細部では都合のいいことが起こる)という僻があるわけで,このシリーズもそれをまぬがれてはいない.
それに登場人物が減らず口をたたくのは,ほんの時折にした方が効果的だよね.少しうんざりするかも.ま,面白いんだけどさ,少しだけ文句も言ってもいいのではないかと….B

【星界の紋章1】 森岡 浩之 ハヤカワ文庫

1999.06.17読了.
確かに噂通り面白い.
分類としてはシーフォートとかと同じジャンルになるのかなぁ.ああいった傾向に銀英をふりかけたような感じですかねぇ.語り口はなかなか巧みだし,設定も無理は無く安心して読める.なにより先を読もうと思わせるのがよろしい.
しかししかし,いいところで終ってしまって2巻目が楽しみ.B
【もっとおもしろくても理科】 清水 義範 講談社

1999.06.16読了.
『おもしろくても理科』の続編.前編はいまいち消化不良だったけど,こちらはなかなかよろしいのでは.まず,著者が分からないことは分からないと正直に書いているのがいいよね.特に遺伝子関連のところなんて私も良く分かんない分野なもので分かりやすく書いてもらってよかったし,瀬名秀明の注があったりして(比喩がうまい)ラッキー.そうだよね,遺伝子のことって普通そう分かるわけないよなぁ.
ということで楽しめる本でした.B
【三人寄れば虫の知恵】 養老 孟司 奥本 大三郎 池田 清彦 洋泉社

1999.06.14読了.
虫屋三人の鼎談集でありまして,最初から最後まで虫の話(ま,少しは環境の話とかあるけど)で,そこが何とも面白い.どうも一般人と発想が違うんですよねぇ.例えばハエとジェット機ではどちらが優れているか?とか(ジェット機2台置いておいても勝手に数は増えない),小さいクワガタはコンプレックスを感じているか?とか,ページをめくるごとにいつもと違う思考に触れることができる.確かに昆虫ってのは哺乳類と根本的に違っているようですねぇ.それを相手にしている愛好家達も当然違う発想を持つのもしかたが無いか….頭の洗濯には絶好.A−.

【すべてがFになる】 森 博嗣 講談社

1999.06.09読了.
いや,こういう話だったんですねぇ.うん,Fになるんだよね,確かに.なるほど,BとDねぇ,Eがあるから7は孤独じゃないと….納得.
あまりにも人工的な世界での人工的な話だけど,ツボでしたねぇ.そうか,こういう話,私は結構好きだったんですねぇ.まるっきりの嘘な話で現実にはありえないんだけど,妙に筋は通っていて,細部の伏線が後で効いてくるってのがいいですねぇ.B+
【「科學小説」神髄】 野田 昌宏 東京創元社

1999.06.08読了.
相変わらずの野田節でありまして,またそれを期待して図書館で借りたのだが,初出を見ると60年代の『SFマガジン』なんですねぇ.それだった多分ほとんど持っているのでは….ま,忘れちゃっているけどね.
しかしまだ人類が月に行っていない頃(話題で月周遊をしたアポロ8号の話が出てくる)でさえ昔話だった話を今世紀が終ろうとしている時に読むのだから感慨深くて懐かしいけど,別世界の話だなぁと思うことしきりであります.そう,SFも色々と変ったのですねぇ.一の日会がカスミだもんなぁ,ノーブルに変ったのはいつの事なんだろう.そしてあの頃既にボロかったノーブルはどうなったのでしょうねぇ.一回見に行こうか.B−
【フリーダムズ・チョイス】 アン・マキャフリィ ハヤカワ文庫

1999.06.03読了.
う〜ん,面白いんだけど,ちょっとねぇ….
悪役の異星人が,まあ何というか類型的で,レンズマン以来って感じでありまして(アリシア人みたいのもいるしね),しかもそこはかとなくモンゴル帝国のイメージが漂っていると思うのは私の偏見かなぁ.そうそうロン・ハバートの臭いもするしねぇ.ま,買わないで図書館で借りているのは正解.C+
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