1999年1月に読んだ本


【水霊 ミズチ】 田中 啓文 角川ホラー文庫

1999.01.28読了.
ちょっと読むのに苦労.ってのは主人公にあまり親近感を抱かなかったのと,彼の行動が???だったことが大きいような気がする.何しろこの人,その場逃れのうそつきだしロリコンだしで,ちょっとねぇ.お話としては裏表紙に書いてあるあらすじどおりでありまして,これは何ともネタバレそのものでしょう.水霊の正体が書いてなくて幸い.
基本的には面白かったのだけど,粗削りかなぁ.しかし,地震が起きて10分で原因が特定できて,しかも現場にヘリは飛ばないぞ普通.B

【青猫の街】 涼元 悠一 新潮社

1999.01.27読了.
久しぶりにツボにはまる小説でした.
知り合いが失踪して,主人公は彼を捜す.96年の年末の話だ.失踪した友人は牛飼いの筈なのだけど,空っぽのアパートに残されたのは98のVM2だった….というお話.主人公はSEで友人はゲームデザイナー.謎の青猫を求めて主人公はインターネットとアングラBBSを探索する.うん,このメインのストーリィも良いんだけど,主人公が同僚とかわす会話とかメチャリアルでこれが私にとってツボ.VBのソースをストックフォームに打出して机上デバッグしてる上司なんて,いやー目に浮かびますねぇ.設定年齢をもうちょっと上にした方が良かったかも.エヴァ論も笑えるし.
結末はちょっと弱いかなぁ.でも許す.A.
でも私,FM8で業務プログラム作ったことあるのだったって年寄りだねぇ.

【人間の測りまちがい】 スティーヴン・J・グールド 河出書房新社

1999.01.24読了.
副書名は『差別の科学史』.人種とか階級とかそういうものが遺伝的な根拠があって現在があるっていうような理論,つまりは黒人は遺伝的に知能が遅れているので差別されて当然だとか女は男よりも馬鹿であるとかの理論の歴史であります.ま,このへんの前世紀の実例については馬鹿なことを昔は考えていたんだねぇと読み飛ばせばいいのだけど(しかし今の日本にだってこういうことを考えている奴は相当数いるはずだ),IQについての話になると,これはまだまだ深刻な話ですね.
グールドの理屈っぽい話は相変わらず頭に入りにくいけれど,大事なことを彼は述べているんだよね.B

【小説探検】 小林 信彦 本の雑誌

1999.01.18読了.
『本の雑誌』に連載していたのをまとめたもの.小林信彦の本の好みと私の好みは大分違うし(例えば私はスティーブン・キングやパトリシア・ハイスミスは好きではない),読書経験も随分違う.重ねて言えば私には彼の持つ芸能一般への知識とか関心が欠如している.にもかかわらず,読書傾向が似ている評論家のものよりも面白いんですねぇ.
これはまあ長年読んでいるとか,芸があるとか,偏見が楽しいとか,つまりそういうことなのでしょう.それに話題になる本がいかにも面白そうに書いてあるんだよね.これが一番かなぁ.B+.

【東南アジアの伝統と発展】 石澤 良昭 生田 滋 中央公論

1999.01.13読了.
いやどうも地名と人名になじみが無いので読みにくい.しかし知らないことばかりなので面白いことも確かだ.インドシナの歴史なんて知らなかったもんなぁ.そういう具合だったのですえねぇ.ふーん.貿易が盛んだったというのもなるほどなぁであります.反面,海賊がいわば生活の手段として長く行われていたんですね.ちゃんと読めばもっと面白かったかも.C+.
【植木等と藤山寛美】 小林 信彦 新潮社

1999.01.11読了.
実を言うと,植木等も藤山寛美も良く知らない.ま,植木等は知らないでもないけれど藤山寛美なんて見たこと無い.で,なんでこの本を読んだかというと,それは著者が小林信彦であり,この頃あまり読んでいないのだけど,やはり嫌いじゃない著者であるからだ.
著者の喜劇への思い込みの深さは,20年以上前アルバイト先で『日本の喜劇人』を読んでから知っていて(いやあのときかっぱらっておくんだった),以来鑑賞眼も確かだと信じている.ただし,私はあまり喜劇を見ない.演劇や映画を見るよりもそれらについての本を読む方が好きという邪道な人間なのだ,私は.
小林信彦はこの頃とみに頑固爺ぶりを発揮していて,しかも恨みが深いという人間性がなんとも興味深いですねぇ.ということで,あまり興味のない分野について書いた本なのだけど面白く読めた.B

【ブラッククロス】 グレッグ・アイルズ 講談社文庫

1999.01.08読了.
戦争活劇であります.ただそこにナチの人体実験がからんでいて,ちょっと苦みを感じさせる.その苦みが私の読書速度を鈍らせたようだ.いや何かこの年齢になると人の痛みというのが分かってきて,それが骨身にしみるような気がして,どうも困ってしまう.それと作者の正義感がどうも垣間見えてしまって,垣間見えるだけなら良いんだけど,それが湾岸戦争とダブって見えてきて(多分作者も意識して書いていると思う)それもまた困ったことなのです.面白いんだけどね,確かに.B

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