1998年11月に読んだ本


【詩的私的ジャック】 森 博嗣 講談社

1998.11.30読了.
なるほど,アンフェアと見せかけて,実はってのがなかなかよろしい.服の問題にしても靴の問題にしても,こういう論理の進め方は私の好みに合う.ただ,犀川・萌絵のコンビがちょっとさえていない感じ.まだ,固いですね.ということは,初期の作品は皆こういう感じなのだろうか.それらをこれから読むことを考えると,少し心配.B

【クルーグマン教授の経済入門】 ポール・クルーグマン メディアワークス

1998.11.26読了.
いや,目からウロコが落ちましたねぇ.第一部を読むだけで本代はペイしてるんじゃないでしょうか.つまり,経済にとって大事なことは生産性,雇用,所得配分であり,他のことは枝葉末節あるいは二次的なことであるということ,そして特に生産性を上げるためにどうすればいいのが『わかっていない!』ということだ.そうだったのかー.いやいや,知らなかったなぁ.
第二部以降もなかなかのものです.インフレっていうのは大して怖くないものだとか,日米貿易摩擦も本質的なことじゃないとか,経済は言われているほどグローバルじゃないとか,強盗的ファイナンスの手口とか….しかも著者の意見の押し付けじゃなくて,他の意見と著者の結論にいたるまでの理由をちゃんと説明している.大したものです.
おまけとして,今の日本の現状の説明と,それを打破するためにはどうすればいいかの提言が付加されている.この論文は著者の言う『ギリシャ文字式』っぽいものなのでとっつきにくいし,私は理解しようという努力をまだしていないが,結論はすごいものですね.まあ,日本の当局はこれはやらないでしょう.でも結果的にはこうなるのかも.A−

【空漠の王座 デルフィニア戦記4】 茅田 砂胡 中央公論

1998.11.25読了.
これでデル戦の第一部が終わりですね.全体の印象としてはまあまあといったところ.5巻以降読むべきかどうか悩むところですね.ま,暇で読む本が無かったら読みましょうか.C+

【白亜宮の陰影 デルフィニア戦記3】 茅田 砂胡 中央公論

1998.11.24読了.
文句を言いながらも面白いのでデル戦3を読む.相変わらず戦闘シーンのリアリティが無いのだよなぁ.地下牢への潜入場面なんかも三流映画っぽいしね.だけど悪役がなかなかの味を出してきました.C+

【黄金の戦女神 デルフィニア戦記2】 茅田 砂胡 中央公論

1998.11.22読了.
デル戦2ですね.う〜ん,ちょっとやはり高校生向きだよなぁ.面白いことは面白いけどね.このままでいってしまうのだろうか.リアリティが(っていうのはファンタジィなりのリアリティのことだ)無いんだよなぁ.C+

【馬・船・常民】 網野 善彦 森 浩一 河合出版

1998.11.22読了.
古代史の森,中世史の網野,両専門家の対談であり,教科書で習った日本史がいかに表面的なものであったかが良く分かった.刺激的な指摘が各所にあり,つまりそれは,日本というのは本来多面的な存在が合わさって出来たもので,それを封じ込めてきたのが近代日本だったということなのだろう.
私は米作農民的国民と遊牧民的国民というような乱暴な分類をなにかと人はしたがるのに疑いの心を持っていたのだが,やっぱりそうだよなぁ,そんな単純な話じゃないよなぁ,と心強く思ったのでした.B

【放浪の戦士 デルフィニア戦記1】 茅田 砂胡 中央公論

1998.11.18読了.
いやいや,こういう異世界ファンタジーのツボを心得ていますね.噂通り面白い.リィがちょっとスーパーマン過ぎるけれど,これは何か後で種明かしがあるのでしょう.ウォルのキャラも,悪宰相も,頑固な将軍も,その娘のお転婆おねえさんも,お約束ですね.『狼叫』の後でこういう能天気ファンタジーを読むとなんだかなぁって感じですが,これはこれでよろしい.2巻目も借りよう(買おうとは思わない).B

【狼叫】 樋口 明雄 講談社

1998.11.17読了.
『頭弾』の続編.『頭弾』のようにスカッとしていないけれど,そこが味ですね.う〜ん,皆死んじゃうんだね.そこが時代というか,戦争というか,しょうがないんでしょうね,この無情感は.さて,柴火は死んだのかどうか.是非,続編をお願いしたいところです.このままで十分死んでいるんだけど,何というか,もう一花咲かせてもらいたい.B+

【時空ドーナツ】 ルーディ・ラッカー 早川書房

1998.11.15読了.
実はラッカーを読むのは初めてなんだけど,解説によるとこの本がラッカーの処女作らしい.順番として良かったのでしょう.
物語としては,SFのアイデア一つと,『ビッグブラザーを打倒する』って話であって,単純明快この上ない.そしてストーリーをドラッグで味付けしている.眼目としてはこのドラッグでの味付けにあり,こいつがなんともリアルで,つまりこの小説はドラッグ小説なのですね.そう思ってみれば,終わりの方の何ともすっ飛んでいるのも納得.C+

【アジアと欧米世界】 加藤 祐三 川北 稔 中央公論

1998.11.11読了.
いままでの常識に疑問を投げかける刺激的な一冊.といっても私の常識ってのは中学高校で習ったことなので,それからの歴史学の進歩で常識が変わってしまったのかもしれないけれど.
特にアジアの交易システムにヨーロッパが参入していくところ,産業革命の考え方,ペリー来航の折の幕府の対応,世界システムにおける中心と辺境の考え方,その他非常に面白かった.これからの世界はまったく新しい変化が起きるんでしょうね,きっと.B+

【幻惑の死と使徒】 森 博嗣 講談社

1998.11.08読了.
味をしめてしまった森博嗣.偶然『封印再度』の次の作品を借りることができた.この作品もなかなか良くできたものでした.所々にあるくすぐりが結構.トリックは,まあ,私はそんなものはどうでもいいのだけど,最後のところはうまく出来ていましたね.ただ,無理はあるなぁ.といってもミステリって無理があるのが当たり前なんだけど.B
【手塚治虫の冒険】 夏目 房之介 筑摩書房

1998.11.07読了.
著者は手塚治虫を線とコマを論じることによって,特徴と変遷を述べている.長年模写してきたから良く分かるんでしょうね.私は漫画なんて描いたことが無いので,なるほどなぁ,と感心するばかり.これまで漫画を読んで漠然と感じていたことを明確に(遠慮がちであるけれど)文章にしてもらい,感謝ですね.う〜ん,もしかしたら名著かも.ただ漫画論なんて読んだこと無いから評価のしようが無いけどね.
手塚治虫についていえば,私にとってはアニメの印象の方が強い.初期の頃(っていっても手塚にとってみれば中期か?)では『ゼロマン』が好きだった.後期ではそうだなぁ,『ブラックジャック』かなぁ.どちらにしろ,私の人格形成にはあまり影響が無かったのではないか.そう,『ちょっと前の人』っていう印象がありましたね.B+

【封印再度】 森 博嗣 講談社

1998.11.04読了.
私は本格ミステリについて弱いのだが(古典的なのは昔一応読んでいるけどね),ふとした気まぐれで図書館で借りたのがこの本でした.講談社ノベルズだから新本格って奴なのでしょうか?(こういうのって偏見?)
読む前は,無理な設定と強引な論理の偏頗な小説であろうと思っていたのですが(これも偏見ですね),きわめて真っ当な良くできた小説でした.トリックとミスディレクションと偶然性についていえば,まあ,こんなものでしょう.ワトスン役のおねえさんは少しう〜むなところがありますけど結構いいキャラだし,ホームズ役の助教授も類型的であるけれどこれもなかなかよろしい.何といっても光っていたのは萌絵(ワトスンのおねーちゃんだ)のおばさんでしたね.
しかし,ミステリ部分よりも光っていたのは別のところであって(う〜む,これは私の個人ページだからネタバレしたって別にかまわないんだけど,そうもいかんよなぁ),何といいますか,早春に読むのに絶好の本だね.B+

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