1998年10月に読んだ本


【マイルス・デヴィスの芸術】 平岡 正明 毎日新聞社

1998.10.30読了.
平岡正明を読むのは久しぶり,『山口百恵は菩薩である』以来だから,もしかしたら20年位たっているのかもしれない.しかし,変わらないねぇ.塩野七生が1ページに一回箴言を書かなければいられないように,平岡正明は1ページに一回テーゼを書かねばいられないようだ.相変わらず対象(山口百恵なりマイルス・デヴィスなり)を語りながら,常に革命を,叛乱を,暴動を,そして自己を語る.その語り口はジャズだ.B+.Aじゃないのはわかんないことが多いんだよねぇ.そういうところは遠慮が無い.そこもいいんだけどね.

【ローマ人の物語7】 塩野 七生 新潮社

1998.10.27読了.
おなじみのシリーズだが,今回はアウグスティウス以降五賢帝以前の時代を描いている.私,完全に勘違いしてたんですけど,カリグラとかネロとか五賢帝より前だったんですね.つまり私は五賢帝の時代まではまともで,そこにネロとか出てきて,ローマは衰亡に向かう,と思い込んでいたのですが,どうしてなんでしょう.
ともあれ,ティベリウスからネロまでの4人の皇帝の時代,ほとんど知るところの無かった時代であり,興味深く読んだ.ただ,読んでは見たものの,肌身として実感できない,隔靴掻痒の感がある.どうにもローマ帝政というのが理解できないところがある.これは8巻以降の宿題としましょう.
塩野七生は箴言を多く書きすぎる僻があるけれど,歯切れはいいし,読みやすいし,何よりも面白い.A

【ねじのかいてん】 椎名 誠 講談社

1998.10.23読了.
ちょっと異常な世界を描いた短編集.SF的な世界なのだけれど,椎名誠の妄想世界がSFがかっているって言えばいいのだろうか.収録されている作品はだいたいいいものなのですが,『ねじのかいてん』『水域』が結構.昔の筒井康隆的な作品もあり,そうか,椎名誠は筒井康隆の後継者だったんですねぇ.
椎名誠の作品は色々なジャンルにまたがっているけれど,私としてはこういうSF的な作品が一番できがいいように思う.だけど,あまり売れないんだろうなぁ.B+

【日本語八ツ当り】 江國 滋 新潮社

1998.10.22読了.
『スイス吟行』の中でちょっと本書にふれているところがあり,そういえば結構書評でも見たし,売れていたよなぁ,と思い図書館で借りた.この本は『波』で連載されたものらしいが,確かにどこかで読んだことのあるものもあった.
読み終わり我が身について言えば,忸怩たるものを感ぜずにはいられないけれど,私は言語については保守的であるので,著者の見解はおおむね首肯できる.B

【スイス吟行】 江國 滋 新潮社

1998.10.22読了.
連続して『旅券は俳句』を読む.吟行は銀行の語呂合わせであり,くだらないといえばくだらないけれど,声に出してみるとなかなかよろしい.今回の相棒はプロの俳人で,著者の俳句を添削するのだが,これを見ると確かに,ふーむと思う.『イタリアよいとこ』よりいいね.このシリーズはこれで全部読んだのかなぁ.C+

【イタリアよいとこ】 江國 滋 新潮社

1998.10.19読了.
『旅券は俳句』シリーズ.相変わらずの手慣れたものだけれど,今回はちょっと中身が薄かったように感じた.でも,うまいよね.このシリーズも完読が近づいてしまい,少しさびしい.C

【騎乗】 ディック・フランシス 早川書房

1998.10.17読了.
ディック・フランシスも老いてしまったのか.大きな盛り上がりも無く,淡々と物語は進む.事件は終わったかと思われても,そこがクライマックスでは無く,まだ先は続く.まるで人生のように.枯れてきちゃったんですねぇ.しかし,つまらないという訳ではない.愛読している作家が駄作を書くと非常に腹が立つのだけれど,この作品はフランシスのものの中で言えば,評価は下の方であろうが,やはり何というか,他の作者のものとはものが違う.品がいいというか.ということで,1800円出しても後悔はしない
しかし,イギリスの社会というのは,どうにも理解に苦しむところがある.特に最近のフランシスの作品を読んでそう思うのだが,一回行ってみたいものである.B
【頭弾】 樋口 明雄 講談社

1998.10.16読了.
いやー,結構でした.久しぶりに読んだ真っ向勝負の冒険小説.主人公の柴火おねえさん,かっこ良すぎるけど,それに他の登場人物,魅力的すぎるけれども,いいですねぇ,やっぱり.私は戦前,戦中を舞台にした日本製の冒険小説がいまいち好きじゃないんですが,というのも,結果論から読んでしまうところがどうしてもあって,また,書き手の方にもそういう意識があるような気がするのですが,この作品はよろしい.筋がぴしっと通っています.続編が出ているわけで,これは読まねばならない.A−(マイナスは柴火の拳銃の腕が腕が良すぎることと不死身だってこと.イーストウッドみたい)

【深川澪通り木戸番小屋】 北原 亞以子 講談社

1998.10.14読了.
えー,何といいますか,下町人情物語っていう奴なんでしょうか.面白いし,うまいし,読ませる力があるんですけれども,今一つ,私の好みじゃない.こういう傾向のものは半村良も良く書くけれども,私はそちらの方が好きであって,その違いがどこにあるのかって言われると,わからないんですね.これが.
私にとって深川っていうのはなじみの無い土地で,心の奥底にふれてこないのはそのせいもあるかもしれない.そうそう蚊が多いところらしいですね.昔は(っていっても戦後だ)蚊帳に団扇で蚊を追い払ってから入ったという話を聞いたことがある.深川って言うとそれを思い出すし,私は蚊が嫌いなので,好きになれないのは案外こんなのが原因だったりして.そうだったら八つ当たりだね.B+
【ムガル帝国から英領インドへ】 佐藤 正哲 中里 成章 水島 司 中央公論

1998.10.12読了.
私はインドに関してほとんど無知であり,ざっとした歴史も知らなかった.個人名で知っていたのはアショカ王,カニシカ王ときて,その後いきなりネルー,ガンジーだもんなぁ.多分,一般的な日本人もそんなものでしょう.この本では10世紀あたりからイギリス統治時代にかけてを扱っている.随分厚い本だけど,多様性を誇るインドだけあって,総括的であるという印象をまぬがれることはできない.いや,とても工夫をしてるんですけどね,相手が大きすぎる.しかし,なんとなくインドの歴史の流れが頭に入ったような気になったのは収穫だった.人名とか地名とかとても覚えられなかったけどね.B+
【漱石先生ぞな,もし】 半藤 一利 文藝春秋

1998.10.08読了.
私は夏目漱石の読者とはまったく言えないのであるが(坊ちゃん,猫,こころ,後ほんの少ししか読んでいない),話題の1/3位は,坊ちゃんと猫だったので,面白く読めた.また,著者の語り口がなかなかよろしく,素人探偵を気取っているけれども衣の裾から鎧がちらちらするのもまた楽しく,なんといっても漱石に愛着を持っているのが良く分かるのがうれしい.でも,こういう本を読むと,自分も旧世代の人間になってしまいつつあるのだなぁと感じるのがちょっとさみしいかも.B
【凶刃】 藤沢 周平 新潮文庫

1998.10.06読了.
用心棒シリーズの最終巻.第三巻は読んでいないけれど,多分かまわないでしょう.主人公は中年になっている.中年というよりも300年位前なんだから,そろそろ隠居かという年代ですね.でも,それにしては行動や考え方が若い.それに少し違和感がある.また,どうも私はこの主人公になじめない感じがぬぐわれない.
しかし,例えば旅篭町なんて出てくると,無条件にうれしいのも確かだ.B−
【俳句旅行のすすめ】 江國 滋 朝日新聞社

1998.10.05読了.
あちこちの雑誌に俳句旅行について書いたものを集めている.そのせいか,統一が少し取れていない.枚数の関係なんでしょうか,急ぎすぎているところが散見されて,ちょっと残念.でも,冒頭の『旅行俳句こつのこつ』なんて秀逸.それにやっぱり文章がうまいよね.俳句に関しては私はわからないけれど.C+
【激闘ホープ・ネーション!】 デイヴィッド・ファインタック ハヤカワ文庫

1998.10.01読了.
おなじみシーフォートシリーズ三作目.相変わらずシーフォートは分らず屋のがんこ野郎の嫌な奴なんだけど,このシリーズはそれがおもしろいんだよね.それに相変わらずシーフォートはひどい目に合うんだけど,今回はいつもに倍して苦しむはめになる.しかし,金魚が地上にも降りてくるとはっ.B
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