1998年7月に読んだ本


【七十の手習ひ】 阿川 弘之 講談社

1998.07.31読了.
いや何といいますか,頑固爺ですね.でも四十代五十代の頑固ってのは作ったところがあるんですけど,七十代になれば本物,いい味を出しています.世の中に対する意見については私とずいぶん違うようですが,些末の事柄では納得させられるところが多々あり,所詮人生で重要なのは細部の出来事だと思えば,同じ屋根の下に住むのはごめんだけど,ちょっと近所くらいだったらいいかも.
旧かなづかいであり,遠慮無く難しい漢語をつかうのも文体に合っていてよろしい.B
【分類という思想】 池田 清彦 新潮社

1998.07.30読了.
生物の分類を構造主義の立場から見るとどうなのかという内容.構造主義というものに対して私は無知なのだが(主義と名の付くものに対してはみんな無知だ),なるほどと思わせられる.ただ,構造主義の原理から著者の主張する分類学への道筋に,幾分かの飛躍があるように思えるのだが,これは私の理解不足か.再度熟読すべきかもしれないが,今日図書館に返しちゃうから,ま,いいや.
しょっぱなのつかみは非常にうまく,本の世界にうまく入って行けるが,途中からかなり難解になる.私,よく理解していないところが多い.
NDCが116の本なんて読むの久しぶり.もしかすると初めてか? B+
【東京旅日記】 嵐山 光三郎 マガジンハウス

1998.07.29読了.
このごろの嵐山光三郎のエッセイはあまり感心しないが,この頃はよかったですね.東京を散歩して食べるお話なんですが,行く場所によって力が入ったり抜けたりでそこがまた面白い.私としては自分にとって大切なところが出ているし,そういう所を読むのは楽しい.
嵐山光三郎が食べ物のことを書くと,おいしそうなんですが,私の嗜好と合うかどうか不安なところもある.ということで,確かめたくなるのが罪ですね.B−
【老イテマスマス耄碌】 吉行 淳之介 山口 瞳 新潮社

1998.07.28読了.
気軽にさらっと読めるんですが,やはりなかなか鋭い会話をかわしています.一つのせりふの裏に膨大なものが潜んでいる感じ.しかし小説家ってのはやっぱり不良なんだねぇ.C+
【旅券は俳句】 江國 滋 新潮社

1998.07.27読了.
この人も山口瞳同様文章がうまいよなぁ.ついでに言えば,同じように絵もうまい.頭がノンフィクション系の今の私には結構な読み物でした.ま,言っては何ですが,暇つぶしとか寝る前とかに絶好.時折混じる俳句は私にとっては豚に真珠だけれど,アクセントにはなりますね.何か勉強した気分にもなるし.B

【年金老人 奮戦日記】 山口 瞳 新潮社

1998.07.24読了.
若いときに山口瞳を読んだときには,『ふ〜ん,そうなんだ』という感想が主であったが,この頃では感心すること,同感すること,反発すること,苦笑すること,色々あります.これはやはり私も年をとってきて偏屈になりつつあるからなんでしょう.自戒.
食べ物屋にしろ買物をする店にしろ,結構なところに行ってますねぇといやみを言いたくなるけれども,本音を言えば私も行ってみたいや.
いや,お金なんて無くったって行けるんですよ,ほんとは.お金が無いときにやせ我慢して買い物しても何とかなるときは何とかなるものなんですけど,私,根が貧乏性なもので,そいつができない.こういう店は若いときから無理して行かなきゃいけません.
『丸谷才一さんの文庫の解説みたいなことを言う.すなわち褒めているんだか貶しているんだか,わからない』ってのはいいなぁ.笑いました.B+

【釣り時どき仕事】 夢枕 獏 読売新聞社

1998.07.21読了.
タイトルどおり,釣りに関する軽いエッセイ集.気楽に読めます.釣れたときの喜びが素直に伝わってくる文章が良い.釣りといえば開高健であるが,彼の本では釣れないときを書くときは確かによろしいのだが,釣れたときにどうも嬉しさのやり場に困っているような気配がある.その辺の屈折の無い(ということもないか)ところが値打ちです.
小説は少し打ち止めにして,釣りがテーマの長いの書いてくれないかなぁ.ちなみに私,釣りは一切やりません.どうも面倒くさいんですね.C+

【一少年の観た<聖戦>】 小林 信彦 筑摩書房

1998.07.17読了.
『観た』というのは,映画を観たということであって,太平洋戦争中というかそれ以前からのいわゆる十五年戦争中,著者である小林信彦がどんな映画を観たかという点から書かれている.相変わらず映画についての意見は鋭いが,印象に残るのは後半での怒りというか恨みをいまだに引きずっていることですね.確かにそうだろうなぁ.
『大統領の密使』などの初期作品とマキノ雅弘の自伝を読み返したくなった.B
【絶対音感】 最相 葉月 小学館

1998.07.07読了.
タイトルがいい.装丁もいい.ついでにいえば,著者名もいい.外観は非常にそそる本であります.内容は絶対音感についてのノンフィクションで,でだしは非常によろしいのですが(ちょっと気取りすぎか),後半少し散漫なというかバラバラな印象を受けます.素材は良いんですけど料理のしかたが余りうまくなかったという感じ.B−
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