2001年7月に読んだ本


【拳銃を持つヴィーナス】 ギャビン・ライアル 早川書房

2001.7.31読了.
20数年ぶりの再読.最近,後期のライアルが肌に合ってきている感じなので読み返してみた.昔読んだときはあまり感心しなかった記憶がある.
美術品の密輸を副業とする骨董拳銃屋の主人公が怪しげな絵画購入グループに雇われる.ヨーロッパの美術品業界の魑魅魍魎相手の売買交渉と密輸,そして殺人事件がからむ,というお話.主人公が金にセコいというのと,密輸やごまかしの色々な手口が調味料ですね.こういう怪しいお話の細部が楽しくなってきたということは私がトシをとったということだろうか.B

【パン屋のお金とカジノのお金はどう違う?】 広田 裕之 オーエス出版

2001.7.25読了.
題名通り,日常で使うお金と投資やマネーゲームで使うお金は違うのではないか,という疑問から,エンデの著作を通して地域通貨を考えるという本.
お金とは何かというところから書かれていてなかなかわかりやすいし,私は今まで地域通貨というものを知らなかったので興味深かった.ただ,本書に書かれていることをすべて受け入れるかというとちょっと疑問なところも少々.私は通貨というものは,もともと不合理なものを四捨五入して作った一種架空なものだと思っているのだが,その不合理性(というか宗教性)についての考察,あるいは原始的な通貨と現代の想像もつかない大量にある通貨(しかも発行されてもいないのに存在している)との比較などをもって詳しく論じてもらいたかったかも(ま,これはこの本の任ではないよなぁ).
しかしアルゼンチンではそんなに地域通貨が流通しているのか….一回見てみたいものだ.B−

【石油争覇3】 大石 英司 中央公論

2001.7.24読了.
待っていた3巻目.
舞台はグァムから日本に変わる.グァムから消えた武器はどこに行ったのか?,北朝鮮−中国国境では怪しげな動きがある.そこで偶然から北朝鮮コマンドとの戦いが日本国内で始まってしまい,サイレント・コアも巻き込まれていく.というお話.
田口(このシリーズで出てきた新人)の鑑別所仲間が元北朝鮮コマンド(で今何やっているかは不明)で,こいつが今回の主人公といっていいのだが,行動がクールで素晴らしい.謎もたっぷり残っているし先が楽しみ.小説的にもこのシリーズはなかなかいいと思うんだよね.B

【週刊エビスランチ】 泉 麻人 文芸春秋

2001.7.23読了.
95年あたりに泉麻人が週刊誌に連載していたもの.
当然ながらオウム真っ盛りの時の頃で,オウムネタがバンバン出てくる.ただ,私はオウムにはあまり興味が無くて,そのころでも新聞を斜め読みした程度で,TVのたぐいはほとんど見ていなかったため,わからないことが多い(一本差でサリン地下鉄に乗らずに助かったのだけどね).それから芸能ネタはまったくわからない.それでもなんというかもう懐かしいんだよねぇ.『もうなつかしい平成の年表』と連続して読んだからかもしれない.
しかしどうも泉麻人のちょっとした臭み(というか雰囲気なんだけど)が少し気にくわないかも.これは好きずきなんだろうけどさ.B−

【もうなつかしい平成の年表】 清水 義範 講談社

2001.7.18読了.
タイトルの通りの平成の年表.後書きによれば最初は半村良からのギャグっぽいアイデアだったということ.だけどもう平成13年だもんな,もうほとんど大正と同じなわけで,これは年表があってもいいかも.
で,何といっても平成ってのはバブルの崩壊だよねぇ.傷が浅いうちになんとかしておけばよかったのになぁ,としみじみ思うのだけど,ま,これは後知恵だよね.それからオウムと阪神大震災.首相もずいぶん替わっている.平成最初は竹下だったのか.う〜む,はるか昔のような気がするよね.
ということでなかなか面白かった.B−

【楽園の泉】 アーサー・C・クラーク ハヤカワ文庫

2001.7.18読了.
再読.『ふわふわの泉』に触発されて読み返した.だけどあまり覚えていないんだよねぇ.静止衛星軌道までのエレベーターを作るっていうことは覚えていたけど,宗教との軋轢とか最後のトラブルの話とかは全然記憶にない.ホントに読んだんだろうなぁ?.確かハードカバーを買った記憶はある.
で,お話としては,そのエレベーターを作る話にファーストコンタクトがからむのだが,最後に機械的なトラブルが出てくるのがクラークらしくて面白い(これはホメているのではない).小説的にはアンバランスな感じがする.ファーストコンタクトがちょっと唐突な感じがするし,最後のトラブルも別のお話といった風情だよね.まあなんといいますか,全体的にバランスが良くないような….B

【私の旧約聖書】 色川 武大 中公文庫

2001.7.16読了.
タイトルのとおり色川武大が旧約聖書について語る.ちょっと意外な組み合わせであったので手に取った.
で,著者の見方は私にとって意外な角度であり,ちょっと目ウロコ.例えば神との契約についていえば,人間もそれにしばられるが神もしばられているという観点を私は見ていなかった.なるほどねぇ.それからエホバの弱みとか性格とか,なかなか興味深い.ま,もっとも私は旧約聖書なんて読んでいなけどさ.ということでちょっと読みたくなるかも.B.

【レキオス】 池上 永一 文芸春秋

2001.7.13読了.
いきなり逆さ吊りになった化け物女と米軍攻撃ヘリとの戦いが始まる.で,その逆さ女が主人公(黒人系日本人の女子高生)に憑いてしまいレキオスなる存在をめぐって秘密機関とのすったもんだ…,というお話.
登場人物は主人公,前世からレキオスを追いかけていくアメリカ軍情報関係者,その子分の日系人パイロット,天才女性科学者(しかも変態),ライバルの天才男性科学者(秘密結社所属),おなじみユタのおばあさん,中国秘密情報部員のばあさん,パッパラパーの女子高生等が時空を越えてからみ合う.池上永一の語り口は相変わらず過剰でやりすぎであるけれど,それが一種の味であって決して悪くない.
ま,読む人の好みで評価が全然違うだろうなぁ.私としてはとても面白かったけれども絶賛ではないといったところか.B.

【ST黒いモスクワ】 今野 敏 講談社

2001.7.10読了.
今回は題名にあるとおりモスクワが舞台.STのメンバーが偶然モスクワに集まってしまい,現地の殺人事件の捜査をすることになってしまうというお話.
この本では特定のメンバーの特殊能力がヒューチャーされるわけではなく,今野敏得意の古武道ネタが印象の半分くらいを占める.また役立たずだと思われた係長が結構頑張ったりして,これはこれでなかなかの好印象.シリーズとしては結構快調かも.B−

【東京自転車日記】 泉 麻人 新潮社

2001.7.9読了.
私の家の近所に住んでいるらしい著者が自転車で走れる範囲での見聞記.著者のサイクリングコースがそのまま私のジョギングコースなので地元の話が満載なわけで,当然私としては読んで楽しい.写真もどのアングルから撮ったものかとかよく分かるわけで,この本は図書館で借りたのだが,勝ってもいいかも.
読んでちょっと残念なのは,私がここに越して来る前の文章だったことで,今では少し変わっている.ま,それはこういうものの宿命だけどね.さて,私も自転車を買って(今は妻と共用のママチャリしかない)子供とちょっと遠出をしてみようかな.水道道路を果てまで行くってのはそそられる.B

【襲撃待機】 クリス・ライアン ハヤカワ文庫

2001.7.7読了.
妻をIRAのテロで殺された主人公(たまたまSASの軍曹)が復讐するお話.
ま,設定がご都合主義だよなぁ,ってのがあらすじを読んだ感想で,読み始める前は偏見を持っていたのだが,結構いける.特に前半でのSASの日常の場面.あるいは北アイルランドに派遣されることになってからの訓練,北アイルランドでの行動など,とてもテンポも良いし,うまく書けていて興味深い.しかし悪役がどうもステロタイプであってちょっとしらけるなぁ,と思っていたところ,突然場面はコロンビアに移ってしまう.で,強引にIRAのテロリストと麻薬商人と主人公がめぐりあって,最終的にはアクションが始まる.いやちょっとこれはねぇ….ということで前半はならなら良かったのだけど,後半はイマイチ.ただ続編は読んでみるつもり.B

【銃・病原菌・鉄】 ジャレド・ダイアモンド 草思社

2001.7.3読了.
なぜ人間は大陸によって異なる発展をとげたのか.例えば,なぜインカ人がスペイン帝国を滅ぼさずスペイン人がインカ帝国を滅ぼしたのか.という疑問(本書ではヤリの疑問<-ヤリってのはニューギニア人)に答える本.
著者は人種間の能力の差というようなものを排除し,農耕生活を採用するにあたっての条件を考察することから始めて差異の発生を考察する.特に利用しやすい農作物の不均衡な分布(肥沃な三日月地帯の圧倒的な有利さ)や家畜にできる動物のやはり不均衡な分布についての考証が印象的だし,納得させてくれる.確かに,なぜシマウマは家畜にならなかったのか?,シマウマが悪いのかアフリカ人が悪いのか?,という疑問は良い点をついている.
そして私が今まで知らなかった人類史,例えばニューギニア史とかにあたり論証が続く.ただ,政治形態についての章では,国家について国民国家とそれ以前の国家を混同してるのがちょっと気になるかも.ま,総じて見ると,大変妥当だけれど刺激的な意見を丁寧に論じてくれた印象がある.面白かった.B+

戻る