2000年10月に読んだ本


【ウィーン薔薇の騎士物語3】 高野 史緒 中央公論

2000.10.30読了.
さて四重奏がそろったところで,コンクールに応募したが,バイエルン王のそっくりさんが出てきて大騒ぎというお話.相変わらずフランツ君はトラブルに巻き込まれるのですねぇ.まあトラブルがなければ話にならないけどさ.
今回はあまり四重奏団の演奏シーンがなくてちょっと残念.奥ゆかしかったのかも.ソプラノの女の子ももっと出てきて欲しかったなぁ.しかし作者はホント結構やりたいことをやりまくっている感じで楽しそうですねぇ.やっぱり好きが一番.B−

【神様がくれた指】 佐藤 多佳子 新潮社

2000.10.27読了.
『しゃべれどもしゃべれども』がなかなかよろしかった佐藤多佳子の新作.今度はスリと占い師のお話.オビを見てこれはてっきり恋愛ものだと思っていたのだが(だもんで積極的に読もうとは思っていなかった),全然違っていて,年少グループスリ団を追求するお話(う〜む,思いっきりはしょってるなぁ)でありました.
登場人物は皆個性豊かでよろしいのですが,特に占い師(マルチェラ)が生き生きとしている.だものでもう一人の主人公スリのマッキーの方が良く分からない奴という印象があるのがちょっと残念.あ,その幼なじみの咲って女の子もちょっと不可思議.ま,不思議が悪いってことじゃないけど.
マッキーと悪役のハルに通底することろがあるってのが読みどころかも.でもそのへん,納得しがたいところもある.B+

【愛は血を流して横たわる】 エドマンド・クリスピン 国書刊行会

2000.10.25読了.
思いっきり久しぶりのクリスピン.イギリスの学園(中学から高校程度か)で起こった殺人事件をフェン教授が解決する.
多分,クリスピンは『金蠅』『お楽しみの埋葬』を読んでいると思うのだけど,ユーモア感覚が気に入っていてお気に入りなのだ.考えてみればイギリスのミステリってのはあまり好きじゃないかも.冒険小説は好きだけどさ.学校の先生が二人殺され,誰が何故殺したのかということで,のんびりした殺伐としていない古き時代の良きミステリであります.特徴としては,ちょっとひねったユーモア感覚でありまして,こういうところは全然よく覚えていないけど昔の翻訳に比べてずいぶん良くなっているのではないでしょうか.ということで『消えた玩具屋』を読まねばいかんなぁ(多分未読のはず).B

【ヒトラーの震え毛沢東の摺り足】 小長谷 正明 中公新書

2000.10.24読了.
20世紀の指導者を神経内科から見た本.例えばヒトラーはパーキンソン病であったし,レーニン,スターリンは脳梗塞で死に,毛沢東はALS(筋萎縮側索硬化症)であったらしい.ルーズベルトの血圧は上が300になるときがあったとか興味深い事例が続く.政治家だけでなく,ルー・ゲーリッグのこととか(彼もALS)作曲家のラヴェルは頭の中には音楽が鳴っていたのにそれを表現できなくなってしまったとか,知らなかったことが多い.ということでなかなか面白い本でありました.B−

【シンメトリーな男】 竹内 久美子 新潮社

2000.10.18読了.
相変わらずの生物学をネタにしたお話.
今回はシンメトリーなオスというテーマなのだけど,栄養状態が良くて病気にもなっていない個体は,そうでない個体に比べて,左右対称であるべき器官はよりシンメトリーである,っていうことだよねぇ,結局.それに異性への好みの傾向とかをちょっと書いてあるだけで,何とも怪しげ.いや,怪しげまでも行かないかも.C

【環境問題はわかるとおもしろい】 野口 哲典 オーエス出版

2000.10.17読了.
著者はFADVのアクティブであり,出版もそこで知った.で,たまたま図書館で目に入ったので借りて読んだ次第.
近頃よく目にする環境問題をざっと取り上げて問答形式でわかりやすく書かれている.例えばダイオキシン,環境ホルモン,温暖化,人口問題,とかモロモロ.こういう形式なので深くは書かれていないのはしょうがないわけで,とりあえずその問題がどんなものかを知ることができるという意味で便利な感じですね.ちょっと残念なのは公共事業(ダムとか埋め立てとか)にふれられていないことかなぁ.あと個人的には冷静な鯨問題のレポートを読んでみたいのだが.B−

【コンプレックス作戦】 リチャード・テルフェア 早川書房

2000.10.16読了.
60年代おふざけスパイ小説だと思って読み始めたのだが,マジに書いているのですねぇ.アメリカでは59年の出版で反共真っ盛りの頃だったわけ.
全世界の重要地点に秘密裏に水爆を仕掛け,爆発させて一挙に世界征服をしてしまおうというソ連の陰謀(!)があり,それに対してアメリカでのピカイチスパイである主人公が立ち向かっていくというお話.糸口はコンプレックスという言葉と怪しげな死に方をした不動産屋だけ.主人公はポーカーをプロから習い,未亡人に近づいていく….
今となって読んでみると設定はひでーもので笑うしかないけど(色香で重要人物をたらし込み脅迫して自殺に追い込んだだけでも18人というおねーちゃんが出てきたりして)そういうことも含めて結構面白い.アメリカ黄金時代のニューヨークの風俗も楽しいしね.B−

【戒厳令下のチンチロリン】 藤代 三郎 角川文庫

2000.10.14読了.
主に競馬を中心としたギャンブルについてのお話.
私はギャンブルに関心が無く,昔は麻雀とか少しはやったけど,今は何もやっていない.ラスベガスに行っても何もやることが無くて困るような状態なのですね.でもギャンブルを題材とした本は嫌いでは無く,特に偏見とか無く読んでいるつもり.で,この本は北上次郎の裏技でありましてなかなか楽しく読んだ.ホワイトフォンテンとかよく覚えているしね(競馬は全然やらないけどたまにレースは見る).
しかしこの人,筆名によって文体を変えてるんですねぇ.B−

【ストックホルムの鬼】 薄井 ゆうじ マガジンハウス

2000.10.12読了.
薄井ゆうじを読むのは初めて.
物語は主人公が街角で知らない男に声をかけられるところから始まる.この男と関わることで主人公は社会的に抹殺され,不思議な世界(物理的に不思議なわけではない)に行くことになる.これが鬼の世界なのですね.で,ここで彼は自分が誰であるかとかいうような根源的なところで不安にとらわれていく.まあ,こういったたぐいのお話であります.私としては結構好みの線をいっていますね.
ただ全般的につじつまとか考えちゃうとちょっと弱いよね.B

【ボーン・コレクター】 ジェフリー・ディーヴァー 文芸春秋

2000.10.11読了.
さてやっと話題の(っていうかもうかなり遅い.去年のベスト1だもんなぁ)ボーン・コレクターがやっと図書館で借りられたので読んだ.う〜ん,一気読み.ディーヴァーは今まで途中下車していたのだが問題なし.
みんなも言っているけど(っていうのはこの本の書評はいやっていうほど読んだ)主人公達の造形がいいよね.首から上と左の薬指しか動かせない障害者の探偵役+トラウマを持っている美人警察官.まあこれで勝利は動かないところ.そして事件がテンポよく展開する.ただ展開はしていくのだが,主人公の推理があまりにも当たりすぎてちょっと非現実的だなぁと感じる(しかし最後のネタばらしの後では納得するかも).それに最終章のどんでん返しの連続.これもサービスのやりすぎかも.ここまでやったらウソでしょう.
ついでにいえば,アクションシーンがまことに結構.燃える教会のシーン,最後のシーン,いいよねぇ.B+

【狂った殺し】 チェスター・ハイムズ 早川書房

2000.10.10読了.
読み損ねていたチェスター・ハイムズ.いや,読もうと思ったのが二十数年前で何となく読むチャンスを逸していたのですねぇ.
物語は50年代末のハーレム.ボス的人物(やくざではない)が死に,その通夜の夜関係者が殺される.で,棺桶エド・墓掘りジョーンズのコンビが捜査を開始する.この二人のシリーズということになっているけれど,重点は捜査活動ではなく,被害者の周辺の人間模様にある.ハーレムの熱気が(舞台が夏ってこともある)ページからわき上がってくるような雰囲気がして圧倒される.そうですねぇ,馳星周の原点的といえばいいのかなぁ.ただし,翻訳がちょっとねぇ,なのが残念.B

【燃える女】 マイクル・アヴァロン 早川書房

2000.10.5読了.
アンクルから来た女シリーズ第二弾.
今回の悪役はスラッシュではなくて,これまた60年代スパイ小説おなじみのネオナチ.舞台はバルカン半島の某国〜ブダペスト〜南アフリカとなる.相変わらず苦笑したくなる小道具も登場.例えば清涼飲料水のビン一本でビルが全壊するような爆薬とか.隊列を作っておそってくる毒蜘蛛ってのも笑っちゃうよね.
でもしかし,どうも全体的に散漫としてノリが悪い.こういうアホな物語は勢いが大事なので,そのあたりが欠けているのがいかんですねぇ.ま,翻訳がいけないのかもしれないが….
そうそうこのシリーズ,脇役の女の子を平然と殺してしまうってのは珍しい.C

【ローマ人の物語9】 塩野 七生 新潮社

2000.10.3読了.
五賢帝の内の三人.トライアヌス,ハドリアヌス,アントニヌス・ピウスが書かれている.
私は名前は知っていたけれど何をした人かは全然知らなかった.あ,ハドリアヌスについてはイギリスで何か壁を作ったんだなぁとかいう印象は持っていましたね(しかしまさか現地に行っているとは知らなかった).で,読んでみてやっぱりあまり強い印象を受けない.まあハドリアヌスっていやな奴だったんだろうなぁ,程度….
でも考えてみればこの頃ってのはローマが一番安定していた頃で,つまりおとぎ話で『それから長く幸せに暮らしましたとさ』というまさにその時点のお話なわけで,そうそう面白いことは無かったのだよね.ということで,興味深くはあるけれど,題材的にはあまり面白くなかった.そうそう,塩野七生の語り口にもだいぶ飽きてきたような気がしてきたぞ.B

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