2000年9月に読んだ本


【深海の悪魔 下】 大石 英司 中央公論

2000.9.29読了.
さて楽しみにしていた下巻.
第一印象としては,ちょっと短かったなぁ,というところでしょうか.主人公の女子高生の活躍をもっと見てみたかったような….最後の修羅場をもっと続けるとかできなかったのかなぁ,それが少し残念.しかしヲタクのボーイフレンドがいい味だしていてよろしい.あの司馬さんも苦手っててのが楽しい.
スピードフィッシュ発生の原因がなかなか今日的で面白い.いや確かにそういう可能性はあるわけで,このあたり新味がある.そして原因を探るのに潜水艇を使い,こいつは作者の得意技でありましてやっぱりいいですねぇ.ということで,まあ満足といったところでしょうか.一気読みだったしね.B

【わたしのグランパ】 筒井 康隆 文芸春秋

2000.9.29読了.
久しぶりに読む筒井康隆.
刑務所からおじいさんが帰ってきて中学生の女の子の主人公との交流が始まる.この女の子のまわりにはいじめとか校内暴力とか地上げあってややっこしい状況なのだけど,おじいさんが帰ってくることにより解決していく.このおじいさんはちょっと得体の知れないところがあって,そこがなかなかかっこいい.
あっというまに読み終わることができて,ちょっといい気持ちになる物語とでもいえばいいのか.B

【あの頃マンガは思春期だった】 夏目 房之介 ちくま文庫

2000.9.29読了.
マンガ批評についてもっとも私が信用している(といってもだいたい批評というものはほとんど読んでいないから大きな事は言えない)夏目房之介のマンガをからめた青春記とでもいえばいいのでしょうか.
出てくるのは石ノ森章太郎から鴨川つばめまで,著者の小学校時代から会社員をやめるまででありまして,章ごとにマンガとそれに関する私的な思い出が語られる.マンガはメジャーなものも多いけれど,マイナーな作品が結構あって(作者はよく知られているけど初期の珍しい作品 とか)楽しい.私はマンガに関しては詳しくないのでわからないことが多いが.
青春記の方は時代性が出ていてこれも面白い.いやもうずいぶん昔のことだよねぇ.B

【島津奔る】 池宮 彰一郎 新潮社

2000.9.27読了.
朝鮮からの撤退〜関ヶ原での島津義弘を描いたもの.
なぜ島津は関ヶ原で負けたにもかかわらず本領を安堵されたのかという疑問は漠然としてだけれども私も感じていた.で,これが一つの回答というわけですね.うん,確かに納得できるものではあります.
そしてまたこの本での見せ所の一つが各大名の描写なのですが,例えば徳川家康は小心,石田三成は度し難い官僚だけど清廉,主人公の島津義弘はかっこいい,というようなもので,これもそれなりに納得できるのだが,怪しげといえばいえるよねぇ.この怪しげだなぁと感じるのはどんな歴史小説を読んでみても感じるもので(だってホンの2〜3年前のことでも人によって言うことが変わるのに400年前のことなんてわかるわけがない.400年たたなきゃわからないこともあるってのは承知の上),私にとって歴史小説との相性の悪さとしかいいようがない.ま,以前はそんなことなかったわけで,やっぱりこれは年齢のせいなのかなぁ.
ま,そういうわけで,少し白けた気分で読んでしまったのですね.ちょっと不幸かも.結構血沸き肉踊るお話なのだけど.B

【怒りの日】 ラリー・ボンド 文春文庫

2000.9.21読了.
どうもこの頃好きになれない軍事スリラー.
話としては旧ソ連の核兵器がテロリストへ流失するというもので,特に新味は無い.近頃の流行で悪役はイスラム教徒だしねぇ.彼が旧東ドイツ秘密警察(シュタージですな)の腕利きを雇ってアメリカに核テロを仕掛けるわけ.そうそうこのイスラム教徒はサウジの王族でおまけに世界的コングロマリットの主なのだ.すごいよなぁ.で,それを組織からはみ出た男女二人組が阻止するっていうんだから,まあ恥ずかしげもなくというか何というか,困っちゃうよねぇ.
ま,そういうようなお話なんだけど,つまらないかというと,別にそういうわけでもなくて面白く読んだのだけど,勘弁してほしいというのが本音.C+

【夢・出逢い・魔性】 森 博嗣 講談社

2000.9.19読了.
阿漕荘シリーズ.今回は舞台が東京.で全部東京でのお話で,しかも短時間なので間延びしていない.出来としてはまあ良いのではないでしょうか.細かいところの論理が面白い.全体的な話としてはいつものようにちょっと無理筋なところがあるし,相変わらずの独白が白けるし,ギャグもちょっとなぁなところはあるけれど,なかなかよろしかった感じですね.B

【現代<死語>ノート2】 小林 信彦 岩波新書

2000.9.18読了.
前著の続編.1977〜1999を扱っている.ほんのちょっと前の流行語って思ってしまうのは私がおじさんになってしまったからだろうか.ま,ものによってはこれってもっと昔の話じゃなかったのかなぁと思ってしまうようなものもあるけど(例えばホテル・ニュージャパンの火事って82年だったんですねぇ.70年代だと思っていた).こうやってみると,人間の記憶ってのはあてにならないよね.しかし新しいものについてはまったく知らないのが結構あって,これは私って時代からどんどんずれていくのだろうか?.まあ,その知らない言葉の意味なんかを読んでみると知らなくて幸せってものばっかりだけど.B−

【新築物語】 清水 義範 角川書店

2000.9.13読了.
多分,著者の実体験を書いているのでしょう.家を建て直すお話.
私も3年前に家を建てたので(出来上がったのは2年半前)興味深く読んだ.そしてまたこの現場っていうか清水義範の家ってのが私の家の多分近所なんですねぇ.これも興味深いところ.で,読んでみたところ,結構簡単に素直に建築できてしまったのですねぇ.私の方が土地を買ったりして面倒くさかったかも.それでも色々と心当たりがあることがあって面白かった.B−

【世界の論争・ビッグバンはあったか】 近藤 陽次 ブルーバックス

2000.9.12読了.
宇宙論の変遷及び現在主流のビッグバン説とその対抗説についての概観が書かれている.
ビッグバン説っていうのはおおかた認められていて,検証もされていると思っていたのだが,そうでもないのですねぇ.でもまあ,どうでもいいといえばどうでもいいお話でありまして,実は私としては地動説でもいっこうにかまわないというのが実感.だいたい星なんか見ないもんなぁ.惑星の逆行とかいわれても,それがなんだかよくわかっていない.考えてみれば高校時代,地学が苦手だったのがいまだに続いているのだ.
しかしこの本,ちょっとあっさりしすぎているかも.C+

【原子力神話からの脱却】 高木 仁三郎 カッパブックス

2000.9.10読了.
反原発の視点から書かれた本.そもそもの最初のところから最新のトピックまで全体的に眺めるのにはなかなかよろしい本じゃないでしょうか.
私自身を言えば,昔は漠然と原子力発電というのは大丈夫じゃないかなぁ,と思っていたのだが,スリーマイル事故で怪しげになり,チェルノブイリを機に反原発側にシンパシーを感じるようになった.その後の無茶苦茶(もんじゅ事故だのJCOだの)で信用するのをやめちゃったという状態なのだ.で,この本を読んでみて,やばいと思ったのは原発の未来が衰退していくのだろうという認識が推進側にも出てきているのではないかということであって,先が見えない仕事をやらされた技術者っていうのはおおむねやけっぱちなるものなので,これから事故が多発するのではないかと思うのですねぇ.ついでに全般的な老朽化ってこともあるし….なにしろこないだたかが震度4でガス漏れとか油漏れを起こしたもんなぁ.どうなっても知らないぞ,ホントに.
しかしこの夏,東京電力管内でずいぶん原発が止まっていたが(調べたら17基中7基止まっていた)別に電力不足とか無かったよなぁ….B

【コロンブスの呪縛を解け】 クライブ・カッスラー 新潮文庫

2000.9.8読了.
新シリーズ.ポール・ケンプレコスという共著者もいる.
しかし基本はダーク・ピットシリーズを変わらず,相変わらずの破天荒というか底抜けというかでありまして,無理筋度はエスカレートしているかも.で,このトンデモが楽しめるかどうかというところが評価の基準になるかと思うのだが,正直言って私としてはしらけるばかり.無茶苦茶やるなら1〜2ヶ所にして欲しいよなぁ,と思うのです.
一番面白かったのは,ラウール・ゴンザレスという悪役(の下っ端)が出てきたこと.いうまでもなく,現実世界ではレアル・マドリッドのエースストライカーだよね.で,こいつ,下巻でマヤ式サッカーで負けて殺されるわけで,そうすると多分ラウールっていう命名は偶然じゃあ無いかも.レアル・マドリー嫌いのアドバイザー(バルサのファンかアトレチコ・マドリーのサポーターか何かだよね)の言うとおりに書いちゃったのだな,きっと.さて,この本はスペインで翻訳されているのだろうか?.翻訳されているなら評判を聞きたいものだ.C

【新宿鮫 風化水脈】 大沢 有昌 毎日新聞社

2000.9.5読了.
久しぶりの新宿鮫.鮫島は刑務所から出てきた真壁に偶然会う.いやー,第一作で印象が深かった若いヤクザですねぇ.いつか出てくると思ったが再登場.で,鮫島は地道に自動車窃盗団の捜査をしていて,当然これが真壁とつながっていくのですねぇ.
出だしは快調.鮫島の捜査の描写なんかいいよねぇ.私の好み.しかし警察についての(あるいは警察官であることについての)鮫島の内省とか,晶との間柄のことなどは,ま,どうでもいいんだよねぇ.しかしまあ,この本の前半については久しぶりにいい感じで読むことができた(特に地図を見ながらとか,現場を後から視察すると吉).
しかし後半,何というかすべてが因縁を持ってつながってきちゃうのが,どうも嘘っぽくていけない.このあたりもうちょっとクールに行かないものかなぁ.いやどうも新宿鮫シリーズとは相性が悪い.B+

戻る