2000年8月に読んだ本


【ナウの水びたし】 清水 義範 文春文庫

2000.8.31読了.
バブルの頃のお話.その頃はやったものを取り上げ,ちょっとした解説を付けた後,ショートショートをくっつけるという形式を取っている.題材としてはブランドとかリゾートとか女性問題とかモロモロ.この人は結構真面目で常識的なことを書くのですね.で,そういう面では不足な感じがするけど,悪くないといえば決して悪くない.B−

【新教養主義】 山形 浩生 晶文社

2000.8.29読了.
著者の思いはプロローグに現れているのだろう.著者は,日本では『知識のベースというか文化の基盤というかがとても狭い』と感じ,『価値体系を再構築』しようとしているのですねぇ.しかしホントに教養ってのは価値判断のベースになるものなのかぁ?.私として,ふ〜ん,ご苦労様というだけですねぇ.いや,マジに現在の状況ってのは著者にいうとおり悲惨なものかもしれないけれど,どうってことないといえばいえるのではないか….
で,各論については賛成できるものもあれば,どうかなぁと思うものもあり,これはこれで結構.なかなか考えさせるところがあるしね.しかし,プロローグ,マジなのかなぁ….B

【BH85】 森 青花 新潮社

2000.8.28読了.
毛生え薬が原因で人類その他が滅亡するお話.
この養毛剤ってのが毛を生やすのではなくて藻を頭に生やすのですね.それがある理由で暴走して,あっという間に世界を覆ってしまう.ということなのだが,何というか,語り口がいいのです.主人公の一人であるオタクな技術者がいいなぁ.平然と世界が破滅していくのもよろしい(単に描写するのが面倒くさかっただけだったりして).で,生き残った(いや,他の人達も死んではいないのだが)も結構飄々としているのが変でおかしい.
最後の方の大ネタもなかなかよろしい.でもまぁこれは読者を選ぶだろうなぁ.あ,絵が吾妻ひでおで,これはぴったり.B+

【深海の悪魔(上)】 大石 英司 中央公論

2000.8.26読了.
久しぶりの大石英司の新作.今度も超動物もの.『ゼウス』の海版ですねぇ.登場人物も自衛隊の家族(今度は娘だ)が主人公(の一人)だったりして似ている.
で,前半を読んでみたところ『ゼウス』より面白い感じがする.何といいますか,文章の勢いが違うのですねぇ.『ゼウス』に出てくるのは散弾銃やライフル程度だったのが,こちらでは海自の船とか出すので気合いが違うのかも.出てくるエピソードの裏にある蓄積ってのも感じるし,そういえば随分会話がうまくなったのではないでしょうか.
『スピード・フィッシュ』の恐るべき性質がなんであるのかを下巻まで引っ張るとか,なかなか来月に期待を持たせてくれる.そうそう土門が出て来てびっくり.彼もとうとうトンデモ系に出場なのですねぇ.しかも性格がだんだんお茶目になってくる.いやー,マジで下巻が楽しみ.
しかしこれってサイファイ@梅原理論の実践でありますね.『カムナビ』よりずっとサイファイ.B+

【アンクルから来た女】 マイクル・アヴァロン 早川書房

2000.8.25読了.
ナポレオン・ソロの裏シリーズで主人公は女の子なのですね.多分大昔TVシリーズで見た記憶があるような気がする.ただ,あまり長続きはしなかったような….
で,これが脱力するマンガ的アクションなのですねぇ.ブローチから吹き出す目つぶしとか,シガレットケース型通信装置(60年代だなぁ,今だったら実現してるもんねぇ)とか,ハンドバッグに仕込まれたピストルとか,腕時計に麻酔針を仕込むとか,もうあの頃のスパイTVシリーズそのもの.特に力が抜けるのは捕まったエイプリル・ダンサー(主人公ね)とマーク・スレート(相棒)が脱出するところで,何と足の爪!に塗った爆薬!をこそげ落として鋼鉄のドア!を爆破するっていうところですねぇ.いやまいった.
しかし名手マイクル・アヴァロン,あまりのっていないようなのですね(訳者が悪いのかも).だもんで荒唐無稽を楽しむという私の好きなことがそれほどできなくて残念.続編を読むべきだろうか?.C

【人形式モナリザ】 森 博嗣 講談社

2000.8.22読了.
阿漕荘シリーズ第二弾.調子が乗りつつあるような感じがする.しかしどうも肝心の事件が散漫な印象なのですね.最初の殺人は舞台装置が頭にうまく浮かばない(考えることを放棄しているという可能性の方が高いが).図をつけてくれればよかったのにねぇ.そして次の事件はほとんど刺身のツマ扱いされていて,私としては納得がいかない..だいたいタイミングがよすぎるぞ.
ということで森博嗣では良くない方だなぁ.C+

【路上の弁護士】 ジョン・グリシャム 新潮社

2000.8.17読了.
私にとってグリシャムの本は出だしの相性が合うかどうかで読了できるかどうかが決まる.で,この本は素直に中身に入っていけた.今回のテーマはホームレスでありまして,我が身を振り返ると,ホームレスになる可能性は十分あるわけで,関係がないテーマでは全くない.その分,骨身にちょっとしみるよね.
さくさく読めるし,とても面白いのだけど,ミステリ的なあるいはサスペンス的な面白味にはちょっと欠けるかも.でもなぁ,アメリカって国もどこかおかしいよね.B

【猫の地球儀 その2】 秋山 瑞人 電撃文庫

2000.8.14読了.
ということで『その2』を読む.
やはり楽(かぐら)がいいよねぇ.作者も書くのに力が入っている様子.で,シャボン玉の件の後のやり方(う〜む,ネタバレになるので書きにくい)がクールだよなぁ.幽(かすか)が啖呵を切るところもいいよね.ちょっと悪のりしてるけど,これはこれでよろしい.ジュニア向けのSFはあなどれない.
しかし冷静に最初から思い出してみるとどうも強引な話だ.B+

【猫の地球儀】 秋山 瑞人 電撃文庫

2000.8.13読了.
猫が主人公のSF.遙か未来,場所は地球衛星軌道の宇宙ステーション,人類は滅びていて猫がロボットと暮らしている.猫は独自な文化と制度を創造し(K1と西洋中世の教会組織!)ているのだが,ここにガリレイとでもいうべき猫が出現するのですねぇ.
いやー,これは面白い.だけど完結してないのだよねぇ.『その2』をすぐに読まねばならない.B+

【フェルメール】 小林 頼子 他 六耀社

2000.8.12読了.
フェルメールの絵について色々な角度室内の構成,光の具合,題材(楽器,鏡,画中画),女性観について書かれた本.
当然,フェルメールの絵もたくさん載っていて(たくさんというより全部),それらの細部も拡大して表示されている.例えば『真珠の耳飾りの少女』の耳飾りの拡大写真とか.そういう写真を通して各テーマごとに語られるわけで,こういうことに知識のない私にとっては,なるほど,と言うしかない.
しかしフェルメールの絵って(というよりあの頃のオランダの絵って)どこかいびつで異常なものを少し感じるのだが….B

【ヴェイスの盲点】 野尻 抱介 富士見ファンタジア文庫

2000.8.4読了.
野尻抱介の処女作.そしてクレギオン・シリーズの第一作.
宇宙戦争後,文明の後退があった(しかし原始までいたらず,星間交易はある)世界でのお話.主人公達はスーパーマンではなく普通の人間が冒険をするスペースオペラとでもいえばいいのでしょうか.で,その戦争のため,ある惑星は機雷で封鎖されている.そこで一儲けしようとした主人公はどうなるのか….
主人公達の性格とか会話とか物語の進め方とかはやっぱり後の方の作品の方がスムースに書けている.でもメインのアイディアは結構いいし,水爆をどうするかってのは強引だけどツボ.悪くはない.B

【ピニェルの振り子】 野尻 抱介 ソノラマ文庫

2000.8.3読了.
野尻抱介の新シリーズ.19世紀ののテクノロジーしかない世界が宇宙旅行の技術を持つとどうなるかというお話.
19世紀のイギリスから数十万人が何者かに他の世界に連れ去られる.地球環境によく似ていて,地球起源の動植物もいる惑星だったが,そこには宇宙飛行を可能にするデバイスが埋められていた.それから100年,星間王国ができ,博物学が盛んになる.主人公は標本商とその部下の画家(まだ写真よりも絵のほうが効率的なのだ)と原住民の昆虫採集人.彼らが惑星ピニェルの謎に挑む.
何よりもまず設定が魅力的で,その関係だけで十分に楽しい.例えば宇宙船に蒸気機関があったり,身分が帆船時代そのものであったりとか.そして登場人物が19世紀的な感性を持っている.当然単位はヤード・ポンド法.世界の設定だけで既に勝っていますねぇ.で,出てくる動物がまた魅力的であり,最大の謎『ピニェルの振り子』もとてもよろしい.久しぶりにSFらしいSFを読んだ気分….B+

【器用な痛み】 アンドリュー・ミラー 白水社

2000.8.2読了.
18世紀イギリスの物語.
主人公は痛みの感覚を知らず,狼男(平井和正のね)のごとき回復能力を持って生まれる.天然痘で家族を失い,それから香具師の手伝い,貴族の愛玩物,海軍などを遍歴して外科医となる.人間らしい感情を持たないが,凄腕の医者として評判となり,ロシアのエカテリーナ女帝に種痘をするためサンクトペテルブルグへと向かう.が,競争に敗れ,他のこともあって普通に人間となっていく.
少年時代の色々を描いたところ,ロシアへの旅行の様子など,なかなかいいのだけど,どうも全般的に書き込みが足りないような印象がある.医療についてなど,物語の根幹のところなのだからもっと詳しく知りたいところだし,主人公が力を失うところも,ほのめかしじゃなくてもうちょっとストレートにいかないものだろうか?.それともそれじゃ野暮になっちゃうと作者は思ったのか….
悪くはないけど,それほどほめるほどのものでも無いと思うのだが.B

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