2000年5月に読んだ本


【ザ・ポエット】 マイクル・コナリー 扶桑社ミステリ

2000.5.31読了.
ボッシュ・シリーズではない.
主人公は新聞記者で(さすがに元の職業だからリアリティたっぷり)双子の兄弟が刑事をやっていて自殺を装った殺人の犠牲者となる.主人公はこれが自殺であり,しかも全米にまたがる連続殺人事件であると見抜き,FBIと共に犯人(現場にポーの詩句を残すからザ・ポエットと呼ばれる)を追求する.
主人公の動きは一人称で書かれ,ある変質者の動きは三人称で書かれる.このあたりはいかにもなのだが,なかなかよろしい.特に上巻はテンポもいいし,事件の様子が解明されていくのが快い.さすがテクニシャンですねぇ.しかし,最後にネタが炸裂するのだが,これがなんとも唖然.この手をまた使うのか,コナリー….絶句するしかない(当然悪い意味でだよ).B

【フレームシフト】 ロバート・J・ソウヤー ハヤカワ文庫

2000.5.28読了.
遺伝子関連ミステリであり,SFの味付けは少ない.
主人公は舞踏病(致命的な遺伝病)である確率が1/2で,そのために遺伝学を極めようとしている.しかし不可思議なことに,ある日ネオナチに襲われる.なぜか?.ヒロインも特異体質で,つまりこれは遺伝とナチと超能力のお話であり,追求すべき謎がいくつかあり,それが一カ所に収束する物語であるわけです.
ナチ物としてはちょっとしょぼいし(世界征服とか無いしね),SFとしては飛躍が足りない.しかし,うまくまとまったミステリとして上質の読み物.こういうのは結構好きだなぁ.B

【モンテーニュの狼男爵】 佐藤 亜紀 朝日新聞社

2000.5.26読了.
革命前のフランスでの怪異談.
主人公である狼男爵の一人称(インタビュー形式)で物語は進められる.ちなみにインタビュアーは多分女性でしょうねぇ.異性を気にかけている語り口っぽい.ま,この語り口だけで佐藤亜紀の勝利といえるでしょう.魅力的な文体であります.
物語は,ぱっとしない領地を持った貴族(しかし由緒ある家柄らしい)の金目当ての結婚とその生活.人間関係その他.しかし主人公はちょっと変わっていた,というお話.どうってことのない話で物語の展開に緊張するとかいうことはないのだけど,小説を読む楽しみっていうのはこういう本を読んだときに感じるんだよなぁ,と思わせる.うまいよね.B

【月は幽咽のデバイス】 森 博嗣 講談社

2000.5.25読了.
阿漕荘の住民が出てくるシリーズ.私としては萌絵シリーズよりこちらの方がすっとんきょうで好きかもしれない.
アイデアはまあ悪くない.しかし登場人物がクラクラするごとに出てくる文章はやめて欲しいよね.ちょっと読んでいて恥ずかしくていけない.B

【スパイの誇り】 ギャビン・ライアル 早川書房

2000.5.25読了.
久しぶりのライアル.
ライアルで一番好きなのは『本番台本』で,そのあたりの冒険小説を愛好していて,スパイ小説(マキシム少佐シリーズですな)に転向してから,どうもいかんなぁと思っていた.で,こいつは20世紀初頭の英国情報機関創設期のお話であるわけで,それほど期待せずに読んだ.しかしこれがけっこういいのですねぇ.
ゆったりしたペース,今となってはどうでもいい事件,ユーモアを含んだ語り口,でくの坊かと思ったら結構知恵が回るしセコいこともするし悪辣だったりする主人公,そして時代背景.いいですねぇ.スパイ小説の王道を行く.いやまあ,年をとらないとこういう物語のおもしろさはわからないのかも.マキシム少佐も読み直さねば….B+

【ウィーン薔薇の騎士物語1】 高野 史緒 中央公論

2000.5.23読了.
オペラ『薔薇の騎士』を下敷きにした物語,であるらしい.しかし当然私はオペラなんてものは見ないので良くわからない.お話は他愛のないものでありまして,しかしどうやら作者は確信犯であるらしい.う〜む.B−

【ブラック・ダリア】 ジェイムズ・エルロイ 文春文庫

2000.5.23読了.
多分昔途中で読むのをやめた記憶がある本.ただし内容は全然覚えていなかった.
時代は40年代後半.場所はロサンゼルス.女性の惨殺死体が見つかる.実際の事件であったらしいのだが,エルロイはこれを小説化して解決を与える.しかし描きたかったのは事件そのものではなくて,黄金時代を迎えつつあるアメリカ(しかもその先端であるロサンゼルス)での登場人物の心の暗黒なのでしょうねぇ.
で,私は心の中の暗黒なんてものにはあまり興味は無いのでちょっと困ってしまう.トラウマだらけの登場人物が壊れていくのを見る趣味も無いしなぁ.風俗的にはとても興味はあるのだけどね.確かに良くできている作品だけど趣味が合わない.B

【トランク・ミュージック】 マイクル・コナリー 扶桑社ミステリ

2000.5.16読了.
つまりこれはコナリーが開き直ってエンタテインメント路線で行こう,と決意して書いた作品なのでしょう.今までのものは情念ドロドロとかボッシュの過去への掘り下げとかが達者な語り口と違和感を起こして,どうも消化不良な感じがしていた.実はコナリーってのは本質的に明るく楽しいゲーム的な小説が好きなのかも.
で,私としてはこのお気楽路線の方を支持.無理して現代の暗黒をえぐることはないのであります.世の中には向き不向きがあるもんね.B+

【もっとどうころんでも社会科】 清水 義範 講談社

2000.5.14読了.
この前,久しぶりに清水義範を読んだので引き続き読む.C+

【ゴールデン・フリース】 ロバート・J・ソウヤー ハヤカワ文庫

2000.5.11読了.
宇宙船でコンピュータが殺人を犯す(いやまあ,ヌケヌケと).で,そのコンピュータの一人称で物語は進む.なぜ殺人を犯したのか,被害者の前夫は犯人を見つけることができるのか,というお話.別筋で異星からの通信というお話があって,これが本筋の話とどうつながってくるのかというのも興味あるところ.
ソウヤーの小説がいつもそうであるように,アイディアは良いし,細かいところでSF心をくすぐってくれてうれしい.ただ,コンピュータがちょっと弱すぎるかも.もうちょっとイロイロあってもよかったのではないでしょうか.B

【1809】 佐藤 亜紀 文芸春秋

2000.5.10読了.
ナポレオン占領下のウィーンでのお話.
主人公は工兵隊の大尉で橋梁の専門家(モデルがいるんだろうなぁ)でありまして,オーストリア−ハンガリー帝国の公爵がたくらむ陰謀に巻き込まれる.この公爵っていうのが著者得意技の人物なのでしょうねぇ,力が入っている.ま,しかし,この物語はこの公爵と時代背景がほとんど全てでありまして,陰謀の話とか主人公とかはつけ足しに過ぎない.
なかなか面白かったけれど,後半話が急ぎすぎになっちゃったかも.B

【青二才の頃】 清水 義範 講談社

2000.5.10読了.
70年代の回顧を著者のサラリーマン時代を通して語る一冊.ちょうど就職したときから作家専業になりかかる10年であって印象が深いのでしょうねぇ.思い入れが結構あるように思える.私としても印象深い10年だったから(高校生から社会人の始め頃ですねぇ)懐かしかった.
そういえば清水義範の初期のミステリを読んでいたとき(80年代後半だと思う)ずいぶん女性のファッションに詳しい人だなぁと思ったけれど,そういうわけだったのですねぇ.B−.

【フリッカー,あるいは映画の魔】 セオドア・ローザック 文芸春秋

2000.5.6読了.
つまり映画のお話なのですね.
主人公は映画に魅せられている.で,ちょっとハイブラウなのですねぇ.しかしフランス映画はもっぱら女優の裸を見るために見る青春でありまして,このあたり昔の荻昌弘の言いぐさを思い出して楽しいところ.その主人公はひょんなことでマックス・キャッスルというB級監督の映画に関わり合いを持つ.その映画を巡る探索とかトリビアなお話は面白い.しかし,後半伝奇小説的になってくるとアラが目立ってくる.いやまあ,これはちょっと無理筋だよねぇ.ここらで放り出してもよかったけれど,残りも少ないしってことで最後まで読了.
しかし,最後の環境.もしかしたら著者の理想郷ではないのかという気もするのだけど….C+

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