2000年4月に読んだ本


【戦争の法】 佐藤 亜紀 新潮社

2000.4.30読了.
新潟県がソ連の傀儡となって独立する話.
これだけだと,よくあるお話だよねぇ,ということになるけれど,なかなかそういう風に単純にはいかない.読者の期待をうまくはぐらかし,意外な手を見せてくれる.まず冒頭で,これからウソを書きますよ,と宣言して,ヌケヌケとウソを書くのですねぇ.で,それがまるっきりのウソかというとまるっきりではなくもないというずるがしこさ.そしてクールな場面の数々.例えば主人公が初めてオペラを聞くところとか.いやまあ,スノッブな本だよねぇ.B+

【ラスト・コヨーテ】 マイクル・コナリー 扶桑社ミステリ

2000.4.27読了.
いやまた今回も今までさんざ言及されてきたボッシュの母親殺人事件を蒸し返すお話.マジでネタ切れだったのでしょうか.ボッシュは相変わらずよくわからん奴でありまして(私にとってどうも理解不能なところが残るのですねぇ),そしてそんな彼の描写がどうも余り気にくわない.
しかし,話はよくもこんなに色々出てくるなぁと思うくらい詰め込みであって,サービス過剰気味だけど,面白いことは確か.ま,無理筋なことも確かだけど.
こうやって読んでいると,やはりアメリカ版『新宿鮫』でありますねぇ.B

【ブラック・ハート】 マイクル・コナリー 扶桑社ミステリ

2000.4.25読了.
今回は今までの作品でさんざ言及されていたドールメイカー事件が冤罪ではないかという裁判にボッシュが出廷するところから始まる.コナリー,ネタ切れなのかも.ま,変な事件を作るよりこちらの方がなじみやすい事は事実.で,テンポ,展開はよろしい.安心して読める.しかしねぇ,安心して読める良い作品以上のものを目指して書かれているようなのだけど,どうも私にはピンと来ないのですねぇ.わざとらしさが見えるっていうか….ま,面白いからいいけどさ.B
【略奪美術館】 佐藤 亜紀 平凡社

2000.4.20読了.
絵に関するエッセイ集.一編が一枚の絵について書かれている.
しかしその絵についての縁起であるとか解説とかはほとんど書いて無くて,余計なおしゃべりが続く.で,これが余計なものかというと全然そんなことはなく,むしろその絵についての的確な批評になっているのが美しい.それに男の美醜についての話とか女の体の容量についてのこととか,はたと膝を叩きたくなるお話が多い.
語り口は相変わらず明晰.しかも芸がある.なかなか得難い才能.B+

【スリー・アゲーツ】 五條 瑛 集英社

2000.4.19読了.
家長である自己認識が強く(しかも家族は彼を家長であると認めている),誠実な人柄である人間がスパイになってしまい,しかも家族がらみでドツボにはまってしまった時,どうなってしまうかについての研究.
前作に比べて物語は寄り道することなくまっすぐに進む.その分読みやすいけれど,私としては前作の前半のあのゆったりペースが何とも心地良かっただけに少し残念.しかし前作でこけてしまった最後のアクションシーンのようなことは無く,クールに事を収めたのは奥ゆかしくてマル.
読ませどころは二つの家族の絆ということなのだろうけれど,このあたりはちょっと気恥ずかしいよねぇ.いやまあ,私だって家長なのだけどさ,ホントにこんな奴いるのかなぁ.美化され過ぎているのでは….しかし,感動的でないといえないこともない(う〜む,歯切れが悪いなぁ).
北朝鮮からの脱出行がさらっと書かれているのが好ましい.前作でおなじみになった登場人物達の現れ方もよろしい.B

【鏡の影】 佐藤 亜紀 新潮社

2000.4.17読了.
西洋中世,世界を記述できる言葉を求めてさまようヨハネスという男の物語.
雰囲気としては『薔薇の名前』.後はファウスト伝説と魔女,悪魔その他.ペストの場面では『ドゥームズデイ・ブック』の香りもある.ただ,私としてはこのあたりの知識量が非常に少ないのが残念であって,著者が意図するようには楽しめなかったかも.
しかし,中世のヨーロッパが眼前にあるようで,またその精神世界を目の当たりにしているようで大変よろしい.文章は明晰だし,構成は考え抜かれていて心地良い.最後,理に落ちないのが結構.長持の中の骸骨がいいなぁ.しかしちょっともたつくところがあるかも.B+

【ハンニバル】 トマス・ハリス 新潮社

2000.4.12読了.
待ち続けていた作品.
いやー,こういう展開ですか.なるほどねぇ.印象的なシーンをいくつか.
  • エコノミークラスでせっかく用意した弁当を取られてしまうレクター博士
  • その後悪夢を見て,弁当をとられたガキになぐさめられるレクター
  • 公園でステアリングをなめるレクター(う〜む)
  • 遠慮なく45口径を保安官バッジにぶち込むクラリス.これで一つふっ切れたのだろうなぁ.
  • ピグマリオンと化すレクター
  • 当然ながらあの晩餐
  • バーニーがなかなかいい味.逃げ足も早いしさ
  • カリアリ−ユベントスはローマでゲームはしないだろう
    あの結末は納得ですねぇ.いやこう来るとは思わなかったぞ,トマス・ハリス.セリエAのゲームを今まで通りに見ることは不可能になるかも.フィオレンティーナに首吊り死体を思いだし,カリアリに豚を感じるとかね.でもダンテをめぐるどうのこうのの蘊蓄はもっとマイナーなものを使った方が気分.A−(あの結末がなかったらB+)

    【陽気な黙示録】 佐藤 亜紀 岩波書店

    2000.4.10読了.
    エッセイ集.
    こちらは『でも私は幽霊が怖い』よりも統一されている感じ.しかし元気がいいよね.
    書かれていることは私にとってあまり興味がないことが多いのだけど(例えばオペラとか映画とか)そういうことに関したものでも面白く読めた.また,インテリっぽい話は私にとって大変苦手な分野なので,やばいなぁと思いながら読んだのだが,これまた楽しく読めたのは幸甚.なかなか結構.B+

    【ブラック・アイス】 マイクル・コナリー 扶桑社ミステリ

    2000.4.7読了.
    ボッシュの2作目.
    世評通り良い作品でありました.というような書き方をすると腹に一物ありげな感じがするよねぇ.そう,何か違和感を感じる.
    この作品は単なるどんでん返しのある警察ミステリじゃ無いのでしょう,きっと.いわゆるミステリという看板を単純に掛けられないように書かれている.つまりそれは主人公のボッシュの存在であり,彼の内面と過去と行動が『単なるミステリ』の枠をはみ出しているのでしょう.
    しかしねぇ,どうもそれが私には嘘臭く(というのは言い過ぎかも)思えるのだ.いや,うまくできているのだけどさ,例えばこの本の後半,ミバエの養殖工場の場面なんかで,『ちゃんと取材して書きました』と言っている作者の顔をつい思い浮かべてしまう私(イヤミであろうか?)には,ボッシュの造形も綿密な計算の上で作り上げたものである,という風に見えてしまうのですねぇ.
    いやホント,悪くないのですよ,まったく.ただ,もし綿密な計算の上でボッシュを作り上げたのだとしたら(と実は私は半ば確信している)そういう手法は余り好きではない.そういう神経は別のところで使って欲しいと思うのです.う〜む,邪推かなぁ.B+

    【バルタザールの遍歴】 佐藤 亜紀 新潮社

    2000.4.4読了.
    バルタザールといえばロレンス・ダレルだよねぇ,と思っていたらこっちの方じゃなくて東方の三博士なのですねぇ.いやー,名前が伝わっていたとは知らなかった.ということは,ダレルはホモのユダヤ人に三賢人の名前を付けたわけなのか,う〜む.
    ということは置いておいて,こいつはとてもおしゃれな物語.よくある二重人格物だよねぇ,しかし舞台が良いなぁ,とか思っていたら,ネタはもっと深いところにあって,こいつはなかなか結構.ウィーンの貴族没落話が一転して北アフリカでの冒険物語に跳ぶ呼吸がクール.ブエノスアイレスっていうのもいいなぁ.クールの自乗.物語の語り口,呼吸の仕方,読者のもて遊び方,ペダントリー,すべて良くできている.惜しむらくは少し短い.でもこの位が切れ味が良くていいかも.A

    【でも私は幽霊が怖い】 佐藤 亜紀 四谷ラウンド

    2000.4.3読了.
    なかなか結構.書きたいことを書いているように見えるけれど,まだまだ自制しているようで,もっとハメをはずしてもらいたいけど,そっちはWebで読めばいいのか….さて,小説の方も読まなきゃね.B

    【禍都】 柴田 よしき トクマノベルズ

    2000.4.2読了.
    『炎都』の続編.
    本は厚くなったけど中身は薄くなったのでは….サイパンと京都を結ぶのがどうも唐突というか.珠星もねぇ,ちょっとやりすぎなのではないでしょうか.それに登場人物が誰が誰だか分からなくなって閉口.ま,私が気を入れて読んでいないのが悪いんだろうけどさ.主人公の女の子も(あ,女の子って年じゃないよね)今回は遠慮していてつまらない.う〜む.C+

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