2000年3月に読んだ本


【バガージマヌパヌス】 池上 永一 新潮社

2000.3.28読了.
南の島での巫女の誕生のお話.
ユーモアもあり非常に楽しく読めるし,なかなか感動的なお話であるのだけど,少しやりすぎの面があって引っかかるかも.しかし,良い物語.う〜ん,でも作者の計算が見えてしまって(計算じゃなかったらごめん)どうしてもあざとさを感じてしまうところがあるのですねぇ.もしかしたら邪推かも.B+

【炎都】 柴田 よしき トクマノベルズ

2000.3.26読了.
京都を舞台にした伝奇小説.
なかなか良かったのではないでしょうか.特に珠星っていうヤモリ.こいつが光っていますねぇ.主人公もなかなか乱暴でよろしい(土木関係の女の子).こういうお話は話のノリについていけるかどうかが評価の分かれ目であって,このあたりは非常に個人的なものなのじゃないかと思うのだけど,私にとっては結構素直に物語の世界に入っていけて好感.例えば『カムナビ』なんかよりいいなぁ.B

【新世紀日米大戦10】 大石 英司 中央公論社

2000.3.24読了.
これで全部終了.
なるほどねぇ,最後のこれを書きたかったのか.いやまあ紆余曲折ですねぇ.しかし筋は通っている.見事にだまされました(いや,だますだまさないの問題じゃないけど).
総体で全十巻を見ると,訳の分からない戦争で,不条理感が結構出ていて良かったのではないでしょうか.新兵器もなかなかだったし,背景もそれなりに納得.年取った土門や司馬も音無も相変わらず.日系人のやたらきついおねえさんもその部下のおねーちゃんもいい味でした.ただ背景が暗いのでとっつきは悪かったなぁ(でもこの背景がないと最後のシーンが生きないよね).しかし環太平洋から考えると20巻だもんなぁ.好みでいくと環太平洋のほうが好きかも.B
【ナイトホークス】 マイクル・コナリー ハヤカワ文庫

2000.3.23読了.
コナリーを読むのは初めて.この20年位のアメリカのハードボイルド関連は偏見のため余り読んでいないのだ(他の国のは読んでいるかと聞かれると困るけどさ).
何というか,とても良い感じに読み終えることができた.描写もいし,お話(ベトナムがらみの犯罪)もよろしい.ただ,最後のどんでん返しはちょっとやり過ぎかも.それに主人公のボッシュという人間がいまいちわからない.私は小説の登場人物を理解しようとか普通思わないのだけど,なぜかこの本ではひっかかる.作りすぎって感じかもね.B+

【死への旅券】 エド・レイシイ ハヤカワポケットミステリ

2000.3.20読了.
多分再読.ただし全然内容は覚えていない.
話は全く関係のない二人が殺されたところから始まる.その片方の被害者の妻が探偵を雇い,その探偵の一人称で物語が語られる.また,犯人側からの描写がちょっと挟まれる.
登場人物も物語も単純じゃなくて味があり,確かにこれは近年のアメリカの犯罪小説の先駆的な作品ですねぇ.古びていない(翻訳は古びているけどこれはしょうがないよね).エド・レイシイは結構読んだという記憶だけはあるのだけど中身は覚えていない.再読する価値は十分にありそう.真面目にこういうたぐいの小説を研究するのなら(私はする気は無い)欠かせない作家じゃないのかなぁ.B+

【日本問題外論】 小田嶋 隆 朝日新聞社

2000.3.20読了.
今月の小田嶋隆はこの本.もう残り少なくなってきたなぁ.この頃読んだものの中では一番良いのでは….B
【海軍拳銃】 フランク・グルーバー ハヤカワポケットミステリ

2000.3.17読了.
これも再読.
ジェシー・ジェイムズの持ち物だったといわれているピストルがらみの殺人事件に主人公の二人組が巻き込まれる,というお話.翻訳が古いし(何と昭和32年だ)話の展開もまだるっこしい.しかし昔の風俗とか結構面白い.Copyrightが書かれていないのが不思議だけど(フリーだったのだろうか)多分1940年代なのでしょうね.1$がまだ1$の価値を持っていた頃ですね.
破れかぶれの展開も(多分ロクに考えないで書いていたのでしょう)最後には何とか収束.この終わり方はまあ許せるのでは.C+
【ワイルドターキー】 ロジャー・L・サイモン ハヤカワポケットミステリ

2000.3.14読了.
20年以上前に途中で放り投げた本の再読(こういうのは再読というのだろうか?).この本が出たあたりでアメリカの私立探偵小説が私にとって面白くなくなり(ついでにいえばもう少し前からパズラー的なものにもアキがきて),好みが冒険小説に傾いてくる.
物語はまわりくどく始まり,話がよく見えない.ミステリ的にはよくないよね.このわけの分からない展開は(人間関係がよく分からないところもある.書き方が整理されていないのでは)後々まで続くが,だんだんこれが気にならなくなってくるのですねぇ.この行き当たりばったりが結構楽しくなってくる.そして私の興味はミステリ的なものではなくて,70年代初旬のカリフォルニアの風俗に移ってくるのだ.いや,現在の日本の原点の一つはこの頃のアメリカ西海岸だったんだよね.
コッシャー・ノストラっていいなぁ.サイモンのオリジナルだろうか?しかしアーリックマンの録音テープなんていったって今じゃ分からないよね.B−

【悪党パーカー ターゲット】 リチャード・スターク ハヤカワ文庫

2000.3.9読了.
これまた久しぶりのパーカー.印象としてはあまり変わっていない.
相変わらずパーカーはクールな強盗ぶりを見せてくれるし,ウェストレイクのテクニックも落ちていない.強盗の場面もテンポがいいし(今回はカジノ船だ),裏切った仲間(じゃないなぁ.臨時雇いってところ)を始末するところなんかいいなぁ.しかしどうも時代が追いついてきた感じなのですねぇ.昔読んだときは目からウロコという感じだったけど,今ではそれほどの鮮烈感は無い.ま,しょうがないけどね.B+
【モンゴが帰ってきた】 E・R・ジョンスン ハヤカワポケットミステリ

2000.3.7読了.
1/4世紀以上ぶりの再読.例によって中身は全然覚えていなかった.
殺し屋が兄に呼ばれて町に帰ってくる.彼はその兄に過去裏切られていて,今回も兄は彼を利用しようとしている.彼はその裏をかき,過去の負債を取り戻すために帰ってきたのだ.折しも街は偽札の原板をめぐってヒートアップしていた….というお話.
使い古されたトリックがあって,まあこれはご愛敬ですねぇ.作者の狙いは暗黒小説.情念と欲のお話であります.タッチは結構クールであって,この辺は私のお気に入り.モンゴが街で拾った女とFBIの捜査官にクリスマスプレゼントがあるのが救いでしょうねぇ.ま,FBIへのプレゼントはほんの小さなものだけどさ,その小ささがいいんだよね.B

【臓器移植 我,せずされず】 池田 清彦 小学館文庫

2000.3.4読了.
臓器移植に関して私はどうも怪しげなイメージを持っていて,ドナーにも移植される方にも絶対にならないと決めているのだが,なぜそう思うのかとか,世間に対するちょっとした後ろめたさみたいなものを感じていたりして,少し落ち着かない気分であるわけで,まあそういうことでこの本を読んでみたわけだ.
著者は
  • 死とはどういうことか
  • で,脳死とはどういうことか
  • 死の決定権について(死体も含む)
  • 臓器移植について
  • ドナーとレシピエントの非対称性について
    と論を進め,臓器移植が良くないモノだという結論に達する.
    議論は確かに根元的で論理的なもので私としては十分納得.しかしこれが日本のメインの論調になることは無いのだろうなぁ.いやな世の中だよねぇ.A−

    【リサイクルビン】 米田 淳一 講談社ノベルズ

    2000.3.3読了.
    二作目は警察小説.
    結構まともに始まり,中盤過ぎまで真面目な展開.モノは密室での消失事件でありまして,つい一番後ろの参考文献を先に見てしまっていて,マトモな解決にはなりそうにもないなぁと思っていたら(『プリプラ』の作者がストレートな警察小説を書くとは元々思っていなかったけれど)来ましたねぇ.いやまあ,これはちょっと飛ばし過ぎでは….警視庁の地下に行くあたりまではなかなか結構だったけど(ヤクザのハッカーってのがいい味出している),ここまで行ってしまうとちょっと収拾がつかない.今年一番変なミステリ(?)かも.あ,主人公の上司の警部,前半はいいなぁ.C+

    【文学部唯野教授】 筒井 康隆 岩波現代文庫

    2000.3.2読了.
    10年ぶりくらいの再読.
    こういうホームページを作っていて読後感想なんかを書いたりすると,どうも隔靴掻痒の感を覚えることが多い.なぜある作品は私には面白く感じられ,別の作品はつまらなく感じられるのか.他人と評価が違うのはなぜなのか.面白くないけど感心するものもあるし,面白いのだけど腹が立つものもある.あざといと感じられるものもあれば,同じようなことをやっていてもクールに見えることもある.で,その理由はなんなのだということがはっきりしない.
    この本を読んでみても結論なんか出るわけは無いのだが,少なくとも考え方を導く道はあることはわかるわけで,お勉強をしようかと思わないでもない.ま,私が読む本はお気楽本であることが多いから必要ないかもしれないが,しかし,印象批評じゃしょうがないよなぁ,という限界を自覚していることも確か.
    文芸批評の解説書として読むことも,大学の内幕物として読むことも,メタフィクションとして読むこともできる.うまいものだよねぇ.A−

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