トピック


「多文化共生の地域社会をめざす」講演会報告
  2007年12月14日  中島 真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

一、はじめに

 2007年7月24日に韓国の忠清南道天安市で開催された「多文化社会の到来と地域社会の対応」をテーマとする国際セミナーに、熊本県からの紹介で、日本側の報告者の一人として私が参加しました。そのときはじめて、韓国が、これまでの「管理と排除」を中心とする日本の入管政策の後追いから脱して、外国人との多文化共生をめざす政策に劇的に転換していることを教えられました。
 韓国では、2004年以降、政府や自治体レベルで、いわば行政主導で、次々と在住外国人や結婚移民女性の保護と権利擁護を実現する法律や条例などを制定し、そのための施策を実行しています。その国際セミナーの主催団体の主要メンバーであり、セミナーでの「韓国の多文化社会の現状と課題」テーマの報告者であったキム ヨンジュさんと知り合いました。在住外国人の増加という日本と共通する問題を抱え、かつ日本以上に「単一民族」「外国人排斥」「男尊女卑」「父系主義」等の意識が強いと思える韓国で、このような劇的な外国人政策の転換が政府や全国の各自治体レベルで実現できるようになっていることに驚かされ、なぜ可能になったかという問題に興味と関心が湧きました。その韓国から学び、日本社会においても多文化共生の地域づくりをめざして、九州内2箇所(移住労働者と共に生きるネットワーク・九州主催で福岡市、コムスタカー外国人と共に生きる会主催で熊本市)で講演会の開催を企画し、韓国忠清南道女性政策開発院研究員のキム ヨンジュさんを講師として招待しました。

ニ、講演会の進行

 2007年12月9日(日)午後1時30分から午後5時まで、熊本市大江にある熊本学園大学の1421教室で、在住外国籍住民や帰国者及びその家族、NGO関係者、熊本県・熊本市・八代市などの国際関係や女性政策の行政の担当者、そして市民・学生など60名余りが参加して、「多文化共生の地域社会をめざす」講演会が開かれました。
 講演会では、まず、主催団体(コムスタカー外国人と共に生きる会)の原田敏幸代表が開会の挨拶をおこない、韓国 忠清南道 女性政策開発院研究員のキム・ヨンジュさんによる「韓国の多文化現況と社会的課題」と題する講演が1時間30分行われました。キム ヨンジュさんへの質疑、休憩をはさんで、私(コムスタカ−外国人と共に生きる会副代表)が『日本における多文化共生の現状と課題』をテーマに25分ほど報告し、続いて熊本県国際課の坂本課長補佐と、男女共同参画パートーナーシップ推進課の坂本課長補佐から、熊本県の施策の現状についての報告がなされました。県内在住の外国籍住民やその家族 6名からそれぞれがおかれている状況報告や問題提起が行われました。終了の予定時間4時30分を30分近くオーバーしましたが、ほとんどの人が途中で席を立つこともなく熱心に最後まで参加し、午後5時前に主催者を代表して私が閉会のあいつをしました。

三、キム ヨンジュさんの講演要旨

 講師のキム ヨンジュさんには、なぜ、韓国で居住外国人に対する政策転換が可能になったのかを中心に45分間(通訳時間を含めると90分)で話してほしいと依頼していました。
 講師は、 1、韓国の居住外国人の現況、 2、韓国の居住外国人政策、3、多文化共生のための課題、という3つのテーマに沿って話をされました。

1、はじめに
 韓国社会は、「単一民族」観念、「民族=国家」というアイデンテイが強く、「混血」と「純血」という二分法的な区分がつよい、外国人差別が酷い社会であり、特に、韓国の社会で差別される外国人は、韓国在住の華僑(中国籍)、そして在韓米軍関係者(軍人・軍属)と韓国人女性との間に生まれた子ども(「混血人」と呼ばれる)であった。しかし、居住外国人の増加で、韓国人と外国人が一緒に暮らす社会に対する悩みが始まる。

2、韓国の居住外国人の現況
 韓国の滞在外国人は、1997年39万人が2007年8月には100万人と2.5倍に急増し、韓国の総人口の2%を占め、その7割以上が長期滞在者となっている。国籍別では、朝鮮族(韓国系中国籍)27%、朝鮮族以外の中国籍17%、アメリカ籍12%、ベトナム籍6%、フィリピン籍5% タイ籍4%などの順です。在留資格別内訳では、外国人労働者が56%、結婚移民者が14%、留学生が7%、その他23%であった。長期滞在者約72万人の3分の2が韓国の首都圏(ソウル、京畿、仁川地区)に集住している。性別比は、外国人労働者は男性:女性が7:3であるのに対して、結婚移民者は男性:女性が1:9となっている。
 外国人増加の背景として、@1992年の韓国と中国の国交樹立(韓国人と中国人の国際結婚の増加や中国朝鮮族(韓国系中国人)の入国増加、A韓国内の労働力不足から1993年産業研修制度の実施に伴う外国人労働者の増加、B国際交流の増加に伴う留学生の増加、C 国際結婚の増加が挙げられる。
 国際結婚は、2000年に韓国の総結婚件数の4.6%が2006年11.9%と2.5倍に増加、在住外国籍の妻の国籍別では、朝鮮族(韓国系中国人)38%、中国籍22%、ベトナム籍18%、日本籍7%、フィリピン籍5%、モンゴル籍2%などである。特に2004年ごろから急増しているのが、ベトナム女性と韓国人男性の婚姻である。その背景として、農村男性や都市の低所得階層の男性など社会的資源が少ない韓国男性の結婚難があり、なかでも第一次産業従事者の結婚総数の平均40%、多い地域では50%以上が国際結婚となっている。

3、韓国の居住外国人政策の転換
 (1)外国人問題の登場
 韓国社会に居住する外国人の増加に関連して、次のような外国人問題(@外国人労働者に対する人権侵害、A産業研修制度の矛盾、未登録者の量産、B人身売買に近い国際結婚の増加、C外国人に対する差別意識、D居住外国人に対する生活適応支援政策の不在)が社会問題として登場してくることになった。
 2000年代以前まで韓国政府の外国人政策は、管理統制中心、国内労働力需要に必要な労働力供給の側面からの接近であったが、2000年以後、在住外国人に対する支援政策が少しずつ始まる。また、外国人政策の変化の背景として、@ 市民団体による外国人労働者への人権侵害問題、政府の制度に対する批判の高まり、A 人種差別撤廃委員会など国際人権条約機構の勧告(1996年、1999年、2006年)、B国際結婚家族の増加で、地域社会から彼女らに対する支援政策の必要性増大などがあげられる。

以下、韓国の居住外国人関連の主要制度の最近10年間の変化を列挙する。
 (2)居住外国人の主要制度の変遷
 1997年12月  国籍法改正 父系血統主義から父母両系血統主義採択
 1999年 9月  一部在外同胞(韓国系外国人)の就業活動、金融、不動産取引の自由化
 2002年 4月  出入国管理法の改正 永住権制度の創設
      12月  中国同胞〔韓国系中国人〕に対する就業管理制度の導入
 2004年 8月  産業研修制度の廃止と雇用許可制への転換(2007年より実施)
 2005年 8月  永住権者に、地方選挙権を付与
 2006年     行政自治部が「居住外国人支援条例の標準案」を作成
 ※ 2007年12月現在「居住外国人支援条例」は、韓国の広域自治体16のうち14で条例が成立。未成立の2つは、外国人労働者の集住地域で、その内容が未登録外国人の権利保護に不十分として自治体の議会で反対多数で否決され、修正内容を検討中とのこと。忠清南道居住外国人条例は、2007年7月30日に成立、同日施行。
       4月  女性結婚移民者の家族への社会的統合支援法
       5月  政府の新組織として大統領を委員長とする外国人政策委員会を組織し、第1回委員会を開催。(同委員会は、外国人政策の方向と計画の樹立、政府機関間の協議・調整事項を審議する。)法務省の「出入国管理局」の名称を、「出入国・外国人政策本部」に改称。(このうち外国人政策は、「社会統合課」と「政策企画課」で担当)
       9月  小学校の在学子女がいる「不法滞在者」が自主申告する時、2008年2月までの一時滞在を許可
       12月 未成年の子女を養育している結婚移民者に生活保護法や母子父子福祉法を適用
 2007年 3月  訪問就業制の拡大(韓国系中国人などの在外同胞の入国、就業機会の拡大)
       5月  犯罪被害者や深刻な人権侵害を受けた、就労が認められていない外国人に対して、救済されるまで時まで国内就業を許す。
       5月  在韓外国人処遇基本法の制定、同年7月に施行
            在韓外国人処遇基本法の主要内容
            @中央成府や地方政府は5年ごとに外国人政策施行計画を樹立
            A外国人・子女に対する不合理的な差別防止と社会的適応の支援
            B適応教育支援、子女の保育支援
            C事実婚から生まれた子女、難民、永住権者の保護
            D一緒に暮らしていく環境造成
       6月  高度技術者以外にも、新に熟練生産労働者の外国人に永住者の在留資格取得を許容
       10月 差別禁止法の立法予告(国会上程)
                差別禁止法の主要内容
            ア  禁止対象となる差別事由(注* 性別、出身国家、出身民族、人種、皮膚の色、容貌など21種類の差別事由が人権委員会の提案時点ではあったが、「学歴・病歴・出身・民族・言語・言語・家族状態」の7つが削除されて、14種類のみに減らされて国会に上程され、成立が見込まれている。)
            イ  差別禁止の領域
           @ 募集・採用・昇進・賃金
           A 金融機関・交通手段・住居施設の利用
           B 教育機関への入学・教育機会・教育内容
           C 人種・皮膚の色などを理由にしたいじめ
            ウ  罰則  違反者に罰金

 (3) 多文化共生政策の推進の背景
 @韓国社会の人口学的構成の変化(少子―高齢化)とその結果への認識の深まった。
 A増加する外国人と韓国人との統合が社会的課題として登場し、社会的統合の観点から、外国人政策の樹立を推進しなければならないという問題意識が拡大した。
 B国際結婚の急増で、女性移民者とその子女に対する社会問題が急増し、国内定住が予想される代表的な集団で、中央政府や地方政府の関心が高く、現在韓国の居住外国人政策の中心は国際結婚家族に対する政策が主流となる。
 *韓国社会には、外国籍の女性の結婚移民者は、「将来や現在の韓国国民の母親」となる存在として、それを保護することについての共通の価値観が強くある
 女性結婚移民者への支援政策の現況
   法務部     婚姻破綻・離婚による簡易帰化申請時の立証要件緩和
   保健福祉部   結婚仲介業管理に関する法律の制定推進
 * 国内結婚仲介業者は届出制のままであるが、国際結婚仲介業者については、登録制に変更した。
 ベトナムとフィリピンとの国際結婚仲介斡旋業者については規制を強化した。
   女性家族部   結婚移民者家族支援センターの設置や運営(2007年現在、全国に40箇所、2008年には全国80箇所の設置を目指している。)
           女性結婚移民者のための母性保護ガイドの作成
   教育人的資源部 多文化家庭の子女教育支援対策と師範学校の運営
   農林部     農村居住結婚移民者のための訪問ボランティア事業の実施
   文化観光部   女性結婚移民者を対象とした社会文化芸術教育プログラムの作成

4、 韓国における多文化共生政策の課題
 *韓国で「多文化共生」という言葉が使われるようになったのは最近で、2006年3月の日本の総務省の「多文化共生プログラム」を韓国語に翻訳・研究し、それらを参考に政府が採用した。
  (1) 政府次元では制度化はものすごく早く推進されているが、地域社会の基盤はとても脆弱である。
  (2) 中央政府や自治体など行政機関中心の政策遂行で、民間NGOとのパートナーシップが弱い。
  (3) 地域社会の住民が自らの政策推進の主体にならなければならないが、そのための社会的資源や人材の育成が必要である。
  (4)「巨視的なレベル」から「細部の政策単位」まで、多文化社会の理念一貫して適用されなければならにない。(自治体の施策のなかには、多文化共生政策といいながら、その内容が韓国語と韓国文化を教えるものしかなく、同化政策と変わらないものがある。)
  (5) 女性結婚移民者以外にも、外国人労働者など多様な外国人集団に対する社会的な権利や人権保障の政策がもっと拡大しなければならない。
  (6)居住外国人自らが地域住民として政策推進の主体として参与できるようにしなければならない。

5、 キム ヨンジュさんへの質疑

質問1 日本で、指紋や写真を入国する外国人から強制する個人識別情報義務化など管理が強化されていることついてどう思われますか。
回答  今年8月に来日したときはありませんでしたが、今回は指紋をとられ、不愉快な思いをしました。韓国内でも、日本に対抗して、韓国に入国する日本人から指紋とかを写真を撮るようにすべきだという議論が起こりましたが、そのような措置は人権上問題があるのですべきではなく、日本自ら取りやめるようにしてほしいと思います。

質問2 韓国は12月の大統領選挙が行われますが、新しい大統領の誕生で、今日説明された多文化共生政策が変更されることはありませんか。
回答 現在の政府は人権問題を重視する政権で、韓国の外国人政策は、行政主導で行われているので、その点は心配です。但し、保守系の大統領が誕生し、企業利益を代表する人が政策決定の中心に入ってきた場合でも、外国人労働者に対する政策は企業よりに変わるかもしれませんが、結婚移民者への保護や権利を認める政策には変更がないと思われます。

質問3、韓国内で国際結婚が増加しているとのことですが、国際結婚による生まれた子どもへの学校でのいじめ問題はおきていませんか
回答  韓国の国際結婚が急増するのは近年のことなので、その子ども達の多くがまだ年齢が低く、学校へいくまで達していないので、学校内での国際結婚から生まれた子どもへのいじめは大きな問題とはなっていません。しかし、近い将来顕在化してくる問題なので、学校や地域のなかでその対策を考えていかなければなりません。

四、報告―― 日本の多文化共生の現状と課題
       中島  真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)
(1)、 はじめに
 「コムスタカ−外国人と共に生きる会」は、熊本市内中心部にある手取カトリック教会を連絡先に、1985年9月結成以来22年間、在住外国人の相談・支援活動を行っているNGO団体である。22年前逃げてきたフィリピン人女性を助けることから始まった活動は現在、在留資格の相談や国際結婚の破綻やDV被害者の救援、国際家族の結合、日比国際児問題など多岐に渡る。最近は中国籍や帰国者の子女の学校でのいじめなどの問題解決、日本人夫の死亡後親族から遺棄される外国籍妻の支援なども相談項目にあがり始めている。相談活動以外にも、週に一度、日本語教室を開催や、移住労働者と家族の問題の講演会、セミナー、映画会など啓発活動に取り組んでいる。

(2)、日本の居住外国人及び国際結婚の現況
 日本も、1996年141万人から2006年208万人へと62万人の外国人登録者が増加し、日本の総人口の1.6%を占めている。在留資格のない外国人のうち「不法残留者」は、1993年約30万人でしたが、2007年には約17万人へと減少している。
 国際結婚も、1970年の5546件から2006年44701件と約8倍になり、2006年の日本の婚姻総数の約6%を占めている。国際結婚のうち夫外国籍・妻日本籍と夫日本籍・妻外国籍の比率は、1:4と、後者が前者の4倍となっている。

(3)日本政府の外国人政策
 日本政府の外国人政策の特徴は、@ 外国人に関する法律が、「外国人登録法」と「出入国管理及び難民認定法」という管理と排除を中心とする外国人政策しかないこと、A日本政府の労働力政策は、「専門的技術的分野」に限定して就労を認めるが、「一般労働分野」については、原則受け入れ禁止とする政策を堅持している(但し、日系三世を主な対象とする「定住者」や、「研修生」や「技能実習生」として実質的に労働力として外国人を受け入れている)B「移民」を認めず、「定住」を望まない政策などである。(但し、一般永住者は1996年7万人から2006年39万人と5倍以上に増加し、定住する外国人が増加し続けている。)

(4)日本の外国人政策の変遷
 1980年代から1990年代前半までは、難民条約の批准、父母両系主義の国籍法の改正、「研修」の在留資格の創設や「技能実習生」制度による受け入れ拡大、1990年代後半から2007年現在は、「集団密航」、「不法入国者」、「フーリガン」、「テロリスト」対策を名目とする規制強化や取り締まり強化のための入管法改定が続いている。その一方で、難民やDV被害者や人身売買被害者について保護していく入管法の改定や運用の変更が見られた。また、日本政府は、「不法滞在者」を合法化するアムネステイ政策を否定しているが、入管法第50条の在留特別許可により、主に日本人等との婚姻等を理由に合法化される外国人は、2003年〜2005年は1万人以上(2006年 9360人)に達している。

(5)日本の多文化共生政策
 日本の在住外国人への保護と権利擁護は、政府が立法化をしようとせず、施策も提供しないため、もっぱら一部自治体と民間団体(NGO,NPO)によって担われることになる。
 2000年代になり在住外国人の増加や定住化に伴い、自治体も国際交流や国際協力から、外国籍住民を対象にした施策(多言語相談窓口や情報提供など)を行うところが増加してくる。 このような変化を背景に、2006年3月総務省が、「多文化共生プログラム」を発表した。ここでいう「地域における多文化共生」とは、日本人や日本文化への同化を求めるものではなく「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」と定義されている。
 そして、以下の4つの項目での自治体の外国人施策の具体的な取組み事例を紹介している。(@地域における情報の多言語化、日本語や日本社会における学習支援などのコミュニケーション支援、A居住・教育・労働環境・医療・保健・福祉・防災などの分野別に必要な支援施策を実施する生活支援、B 多文化共生の地域づくり、多文化共生概念の共有化、C基本計画や条例の整備、推進などの多文化共生のための推進体制の整備)

(6) 多文化共生の地域社会の実現へ向けて
 @ 日本社会における「外国人」観の転換、即ち、「犯罪者」「テロリスト」、あるいは「ゲスト(お客)」「一時滞在者」から、「隣人」「地域社会の構成員」としてとらえることが求められている。
 A 外国人を「管理と排除」する政策から、「情報弱者や社会的弱者」として保護し、地域社会の中で共生していく多文化共生政策への転換、具体的には、政府は「外国人人権基本法」や「差別禁止法」等を立法化し、自治体は「外国人保護条例」「多文化共生条例」等を制定し、行政として居住外国人の権利保護や生活支援のための施策を行う。
 B それらの立法や施策の内容を決めるとき、かつ、具体的に浸透し、効果をあげていくために、外国籍住民、地域住民、民間団体(NGO,NPO等)、自治体との連携した取組みが必要である。

五、熊本県行政からの報告

(1)地域振興局国際課 からの報告
 総務省の「多文化共生の推進に関する研究会報告書」を配布資料として、その理念や役割や課題について説明、熊本県の取組みとして、熊本県内主要施設等における外国語表記実態調査を行ったこと、委託している国際相談コーナーの相談の集計報告、医療通訳者派遣システムを構築するために医療通訳者勉強会〔英語・韓国語・中国語〕の取組みなどの報告がありました。

(2)男女共同参画パートーナーシップ推進課から報告
 熊本県DV対策について、以下の報告がありました。
 @DV相談件数が全国と同様に熊本県でも増加傾向にあること、
   熊本県DV相談件数2002年589件(うち一時保護 34件)から2006年832件(うち一時保護 69件)
 A2005年12月の「熊本県配偶者等からの暴力の防止及び被害者の保護に関する基本計画」(計画期間2005年から2008年)に基づき事業(啓発・関係機関会議・研修会・相談窓口設置・カウセリングの実施・一時保護・自立支援・民間シェルター支援・身元保証人確保対策事業など)の報告
 B外国籍の被害者への対応
  ア DV防止法第23条「DVに係る職務関係者は、その職務を行うに当たり、被害者の心身の状況、その置かれている環境等を踏まえ、被害者の国籍、障害の有無等を問わずその人権を尊重するとともに、その安全の確保及び秘密の保持に十分な配慮をしなければならない。」の説明
  イ 熊本県の具体的な取組み、
    ○ 9ヶ国語でのDVに関する説明資料と相談窓口紹介リーフレットの作成、
    ○ 一時保護所の通訳の手配、
    ○ 2006年外国籍被害者からの相談件数 8件〔全体 832件〕、一時保護入所者4人〔全体69件〕、ステップハウス利用者1人 

六、在熊外国籍住民や家族からの発言

熊本県在住の外国籍住民6人から以下のような意見が出されました。

 @来日後20年以上となる熊本フィリピン人会の代表からは、「 外国籍住民は、言葉もわからず、文化や社会の仕組みもよくわからないなかで、多くの苦労をして、移り住みながら、日々、日本の社会に適応して生きていく努力をしています。そして、仕事をし、家庭を築き子どもを育て、熊本の地域のなかで貢献しています。私たちを地域のなかで住民として存在していることを認めてほしい。熊本県・熊本市も韓国と同じ政策を進めてほしい」と、用意していたアピール文を読み上げました。

 A熊本県内の農村に暮らす来日後10年となる中国籍の女性は、中国籍の友人から多く相談をうけるが、「子どもが来日したが言葉が分からず、日本語を覚える支援体制がない。こどもは学校でいじめられ、親は会社でいじめられる。どこに相談したらいいのか分からない」と訴えた。

 B韓国籍の女性は「日本に来て6年。入国制度が変わり、指紋をとられ、写真を撮られるようになった。子どもが高校生で、海外の修学旅行へいくことになるが、入国審査では同級生たちと異なる扱いをされることになる。子どもが友人にそのことを話すと、半数は『外国人だから仕方がない』という反応が返ってくる。みんな無関心。日本で住んでいる外国人は同化させるか、追い出すかしかないと考えている。私たちは犯罪者なのか。これ以上管理が増えたら、この国で生きていく自信がない。押捺した指紋をないがしろにすることは人権侵害。」と、2007年11月20日から実施されている個人識別情報提供義務化を批判しました。

 C来日後15年以上となる日系ペルー籍の女性は「定住者」の更新に、2005年から入管へ無犯罪証明書をペルーから取り寄せなければならないこととなり、東京のペルー領事館へ書類をとりにいき、本国から書類を取り寄せるのに時間と費用がかかり大変な思いをした体験を語り、自分たちを「犯罪者扱い」しないでほしいと訴えました。

 D当日会場に参加していた一人の中国籍の中学生が「自分は中学校でいじめられた。『中国に帰れ』、『死ね』という罵倒されたり、多数の学生に取り囲まれて、打たれたりした。いじめられて、学校へ行けなくなった。今は転校して別の中学に通っている。絶対生き抜きたいので、皆さん、助けてください。本当に話ができる友達がほしい。人生やくらしの話ができる友達がほしい」と訴えました。

 E 県南から参加した中国籍の女性も「こどものことで悩んでいる。昨年来日した子どもが中学校へ入学したが、日本語がわからず、学校行ってもただイスに座っているだけで、とても心配。日本語の勉強をどこですればいいのか」と話した。

七、閉会のあいさつ コムスタカー外国人と共に生きる会 中島真一郎
  参加者がどのぐらいになるか心配しましたが、60名を超える参加がありました。今日の講演会が、在住外国籍住民と家族、NGO関係者、行政関係者などが初めて一同に会して、韓国の多文化共生政策への転換とその施策を学びながら、日本で、この熊本で、多文化共生の地域社会を作っていくための第1歩、スタートとなったと思います。どうも長時間の参加ありがとうございました。





福岡県警のホームページ上から「外国人犯罪」の表記がなくなり、
情報提供コーナーからE−メールによる通報がなくなりました。

 2006年4月14日 中島  真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)報告

 2006年4月以降と思われますが、福岡県警のホームページのアドレスが変更(http://www.police.pref.fukuoka.jp/index.php)となり、それに伴って福岡県警のホームページの内容が一新されていました。これまで、情報提供コーナーにあった  刑事   「外国人犯罪」の表記が無くなり、「国際組織犯罪」と『集団密航関係』に変わっていました。4月14日現在この「国際組織犯罪」をクリックしても「該当する情報はありません」としかかかれていません。また、このコーナーから直接E−メール通報できなくなりました。
 また、新しいHPでは、相談・問い合わせのコーナーをクリックすると、HOTLINE(電話による相談)の説明が多言語(英語・中国語・韓国語)化されています。
 E−メールによる通報や意見を送信する仕組みは、最初の福岡県警の表紙ページにあります。但し、「集団密航関係」をクリックすると、以下のような表記に変わり、タイトルでは「不審な外国人」がつかわれていませんが、文中に3箇所「不審な外国人」という表記が残っていたり、E−メール通報ができるようになっています。

不審な船・不審な車・不審な人を見かけたら110番 
これまで、無灯火で沖合に停泊している不審な船
保冷車、アルミバン等のレンタカーを借り上げようとする不審な外国人等
タクシーを利用する際、「関東、関西方面等」通常考えられない行き先を申し出る不審な外国人、コンビニ等で大量にペットボトルやパンを購入する不審な人物
空き倉庫に大量の寝具、食料を持ち込むなど不審な人物
沿岸部のホテル、旅館等の利用者で夜間に外出するなど
不審な人物、不審 な外国人等に関する通報が、集団密航事件の検挙に役立っています。

 2004年7月の福岡県警への抗議申し入れ、2005年11月に福岡県警に送信した意見(詳しくは、コムスタカHPhttp://www.geocities.jp/kumustaka85/、あるいは下記をご覧下さい)がどの程度影響したかはわかりませんが、その要望内容がほぼ実現する結果になっています。





 福岡県警のホームページ上の「外国人犯罪」の表記が一部変更となりました。
 中島真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)

 47都道府県警のうち唯一 そのホームページ上に、「外国人犯罪」をタイトルに、「来日外国人組織犯罪に関する情報提供にご協力を」のページを設け、E−メール通報をおこなっている福岡県警に対して、2004年7月に移住労働者と共に生きるネットワーク九州構成団体など九州内8団体・個人18名の賛同団体・賛同者で、「外国人犯罪を対象としたE−メール通報制度の廃止の申し入れを行いました。そして、あれから1年を経過して 福岡県警は、そのHPで「外国人犯罪」をタイトルにE−メールによる通報を呼びかけていることは依然として変わりませんが、2005年6月より、1年前に比べてその記載内容を一部変更していることがわかりました。(変更内容は、以下の通りです。)

 変更1、 タイトルが、「来日外国人組織犯罪に関する情報提供にご協力を」から、「国際組織犯罪に関する情報提供にご協力を」に変更されています。またその記載内容で、新たに以下の内容が追加されています。
 変更2  「近年、暴力団と一部の不良来日外国人等が関係する組織的な犯罪・事件が全国的に多発しています。」は、「暴力団と」が追加されました。また、以下の具体的な例示のところに、「・出身(国籍)が同じ来日外国人を狙った、同国人被害の緊縛強盗事件等の凶悪事件」が新たに追加されています。
 変更3  1年前の注意書きは以下の内容でしたが、
※ 商業広告・資機材の斡旋等のメールは固くお断りします。
※ 適法に滞在している外国人に対する誹謗中傷メールは固くお断りします
現在は、以下のように変わっています。
※ 当コーナーは、来日外国人を差別視するものではありません。
※ 商業広告、資機材の斡旋等のメールは固くお断りします。
※ 来日外国人の名誉を損なう誹謗中傷メールは固くお断りします。

 これらの変更は、タイトルを「来日外国人組織犯罪」ではなく「国際組織犯罪」と変更した点、「来日外国人被害事件」も具体例としてあげている点、「適法に滞在している外国人に対する誹謗中傷メールは固くお断りします。」から 「当コーナーは、来日外国人を差別視するものではありません。」及び「来日外国人の名誉を損なう誹謗中傷メールは固くお断りします。」に変更している点は、私たちNGO側の批判や申し入れを意識して変更したものと思われ評価できると思います。
 しかしながら、福岡県警のHPは、以前として「外国人犯罪」をタイトルとし、「来日外国人」を対象としたE−メール通報を設けている点、記載内容の3つの変更はきわめて部分的で、本質的な変更になっていません。
 そこで、引き続きE−メール通報制度の廃止や「外国人」「来日外国人」を特定しない表記への変更を要請するために以下のような要望をE−メールで福岡県警あてに送信しました。
具体的には、「外国人犯罪」のタイトルを、「国際組織犯罪」と変更し、「外国人」「来日外国人」という用語を使用しないものに改める。たとえば、現在のHPの表記を、以下のようにあらためる。
1、「近年、暴力団と一部の不良来日外国人等が関係する組織的な犯罪・事件が全国的に多発しています」。→ 「近年、国境をこえた国際的な組織による組織的な犯罪・事件が全国的に増えています。」
 (意見  「ピッキング」「サムターン回し」「緊迫強盗」などは、 日本人も行っているような犯罪で国際組織犯罪といえないので、削除すべきです。そして、その代わりに、「外国人女性や児童を被害者とした人身売買事件」を国際組織犯罪として含めて紹介してください。)
これまでの捜査で「日本の暴力団と一部の不良来日外国人等」(→「日本の暴力団等の一部の日本人と一部の外国人」に変更)が結託し、盗んだ商品等を国内の闇ルートで売買したり、国外へ輸出するなどの実態が明らかになっています。
 皆さんの身近に(「国際組織」を追加する)犯罪に関する情報はありませんか。
 意見  以上の修正がなされれば、「外国人」「来日外国人」を特定しない表記となるので、二つの注意書き(※ 当コーナーは、来日外国人を差別視するものではありません。※ 来日外国人の名誉を損なう誹謗中傷メールは固くお断りします)は、不要となるので削除してよいと思います。注意書きで「差別視」しないことと書くより、このコーナーの表記を「外国人」「来日外国人」と特定しない表記にかえることで、差別しないことになります。
 最後に、このページに掲載されているE−メール通報ができる旨の箇所を削除することを要請します。以上の変更をおこなっても、「外国人」「来日外国人」を犯罪者扱いする差別広報となることなく、かつ、国際組織犯罪防止へ向けての呼びかけや広報の役割は十分果たすことができるとおもいます。そして、国際化に対応するには、福岡県警のホームページ自体を、日本語表記だけでなく、多言語化して情報提供を行うべきです。



中国残留孤児の家族に関する定住者告示の見直し

南野法務大臣は、2005年4月25日の衆議院決算行政決監視委員会で、中国残留孤児の家族に関して、定住者告示の見直しを表明しました。
       2005年5月15日  中島  真一郎(コムスタカー外国人と共に生きる会)報告

1、はじめに
南野法務大臣は、2005年4月25日の衆議院決算行政決監視委員会で、民主党の稲見哲男衆
議院議員の中国残留孤日本人の「継子」「養子」家族についての質問に対して、定住者告示の見直しを含む以下のような見解を表明しました。法相見解の関連部分は、ゴチック体として強調しました)

2、南野法務大臣の答弁
(2005年4月25日 衆議院決算行政監視委員会 第四分科会 議事録 第1号 衆議院ホームページより法相の答弁のみの抜粋です。  最後に資料2として、関連部部の前文を掲載しています。)

(中国残留邦人の継子、養子に関する事案について、)
○ 南野国務大臣 中国残留邦人の継子、養子に関する事案について、これは一般論として申し上げるわけでございますが、中国残留邦人の方々が中国に残留されることとなった歴史的経緯や事情など、これは福岡高裁判決の指摘する趣旨を踏まえまして、実子同然に育ったか否かなどの家族としての実態等、個別の事情も十分考慮しながら、今後とも適切に取り扱ってまいりたいと思います。

(中国残留邦人の継子、養子に関する事案の在留特別許可について)
○ 南野国務大臣 この事案に関しましては、私も中国からの引揚者でございます。その当時を思い起こすと、本当に中国の方々にお世話になったことがある人たちもたくさんおられるかな、そのようにも思うわけでありますけれども、中国残留邦人の養子や継子の方につきましては、在留特別許可の判断に当たりまして、家族としての実態、ここに重きを置くわけでございますが、その他事案ごとの個別事情を十分に踏まえた上で、さらに人道的配慮をして、適切に措置していきたいというふうに思っております。

(中国残留邦人の継子、養子に関する事案で、退去強制命令が発付された家族がその取り消しを求めた訴訟について)
○ 南野国務大臣 中国残留邦人の実子であるとして我が国に入国後、継子であることが判明したことにより退去強制命令が発付された家族がその取り消しを求めた訴訟は、現在、二件、二家族六名が係属しております。 違反の審査中など退去強制手続を受けている者の中で、中国残留邦人の実子でないいわゆる継子や養子に係る人数については、現在、入管当局が調査中でございます。同様の事案につきましては、家族としての実態その他個別の事情を踏まえて、適切に措置してまいりたいと考えております。

(中国残留邦人の継子、養子に関する上陸特別許可について)
○ 南野国務大臣 お尋ねのような方が再び我が国に入国を希望する場合には、個々の事案ごとに、退去強制時の経緯のほか、入国を希望する理由、家族状況、生活状況、素行、内外の諸情勢その他諸般の事情等を総合的に考慮させていただきまして、上陸特別許可の可否について検討することとなります。
 なお、実子同然に本国で生活をしていた養子、継子の方につきましては、このような家族としての実態は、上陸特別許可の判断に当たって考慮すべき事情の一つであろうと思っております。

(中国残留邦人の養子に関する事案で、定住者告示の改正について)
○南野国務大臣 中国残留邦人につきましては、一般の方の対応とは異なった温かい配慮が必要であるということは認識いたしておりますが、このような特別な御事情については、基本的には個々の事情に応じて適切に対応していくのが最もよいと認識いたしております。 しかしながら、判決があったことを踏まえまして、取り扱いを明確にすべく、幼少時、具体的には六歳未満から実子と同様に育てられ、家族として生活をしてきた方については、その入国を一律に認めるための告示の改正も検討してまいりたいと考えております。
 なお、告示によりまして一律に認めることとならない方につきましても、個々に、実子と同様に育ったか否か、また育ったとすれば、その経緯や現在の家族状況、生活状況等を踏まえて適切に対応してまいりたいと考えております。

2005年3月7日の福岡高裁判決で日本での家族一緒の在留を勝ち取った井上さん一家(黒板の前)

3、南野法務大臣見解へのコメント

 2005年3月7日の福岡高裁判決を踏まえた南野法務大臣の答弁から 井上さん家族と同様に、元中国残留日本人の「継子」「養子」とその家族で、血縁関係がなくとも「実子」と同様な家族の実態があると認められる場合には、訴訟中、在留特別許可申請中、退去強制され上陸特別許可を申請するもの、新たな来日申請する家族など、基本的にすべて救済されていくことになります。
 2005年4月25日の法務大臣の元中国残留孤児の「定住者告示」改正の表明は、「養子」に関するものですが、2005年3月7日の高裁判決を踏まえての「定住者告示」の「養子」の改正表明ですから、中国残留日本人の「継子」とその家族の呼び寄せの場合も、これまでの定住者告示「未婚・未成年」の要件を同様に緩和していくことなると思います。
大阪地裁や大阪高裁で裁判係争中の元中国残留日本人の「継子」とその家族のケースで
は、再審情願を被告(国)は勧めてきていると聞いていますので、在留特別許可を交付する意向と思います。訴訟に至っていない在留特別許可申請中のケースも交付されることになると思います。また、既に退去強制された家族の呼び寄せを行う場合にも上陸特別許可の審査で、「特別な配慮」がなされていきます。
中国残留日本人の「養子」に関する「定住者告示」の改正は、「六歳未満から実子と同様に育てられ、家族として生活をしてきた方」という新たな基準を設ける点で、問題が残りますが、これに該当しない場合にも個々の事情を踏まえて配慮するという答弁ですので、この新たな基準に該当しない場合も救済されることもありえます。

 4、 南野法務大臣への3つの要請がすべて実現しました。
 2005年3月7日の福岡高裁判決後の報告集会で、以下の法務大臣へ3つの要求を確認して採択し、2005年3月14日に法務省へ提出しました。

1.被控訴人である法務大臣は、本件訴訟での上告を断念し、控訴審控訴人7名に「定住者」の在留資格を速やかに付与すること
2、中国残留日本人の「養子」「継子」とその家族のうち、中国残留日本人と実態がある家族については、上陸許可取り消し処分や退去強制令書発付処分を受けて、本件訴訟の家族と同様に苦しんでいるすべての家族に、「定住者」の在留資格を与えて救済すること。
3 、元中国残留日本人の「養子」や「継子」とその家族の呼び寄せについても、「定住者告示」(法務省告示第132号)を改め、 インドシナ難民の家族の呼び寄せに関する「子に養子を含む」規定や 、「日本人や日本に適法に在留する外国人の配偶者、親、子(養子を含む)に随伴する親族で、その家族構成等からみて、人道上特に入国を認めるべきもの」の規定と同様に呼びよせができるようにすること。

 今後とも、中国残留日本人「継子」「養子」の家族に関する定住者告示の改正内容やその運用の問題は残ると思いますが、事実上すべて実現していくことになりました。あらためて、確定した福岡高裁判決の影響力の大きさを実感しています。井上鶴嗣さん家族の勝利は、他のこれまでの様々な闘いの成果の上に実現することができました。井上さん家族の闘いによって実現できた成果を、今後の他の方々の闘いに活用していただくことで、そのお礼にかえたいともいます。


 資料1、       要請書
南野 千恵子 法務大臣殿
2005年3月7日、福岡高等裁判所における「退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件」(平成15年(行コ)第13号)判決において、石塚章夫裁判長は、主文「1、原判決を取り消す。2、被控訴人法務大臣が平成13年12月14日付で、各控訴人対して平成13年法律第136号による改正前出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく控訴人らの異議の申し出は理由のない旨の採決をいずれも取り消す。3、被控訴人福岡入国管理局主任審査官が平成13年12月17日付けで控訴人に対してした退去強制令書発付処分をいずれも取り消す。 4、被控訴人法務大臣と控訴人らのそれぞれの間に生じた訴訟費用は、第1審。2審とも、同披控訴人の、披控訴人福岡入国管理局主任審査官と控訴人らのそれぞれに生じた訴訟費用は第1審、第2審ともに,同披控訴人のそれぞれの負担とする。」という判決を言い渡しました。
判決理由として、「本件特有の事情、控訴人らの日本での生活状況にあらわれた家族の実態及び控訴人子らがわが国に定着していった経過、控訴人子らの福祉及びその教育ならびに控訴人子らの中国での生活困難性等を、日本国が尊重を義務付けられているB規約や子どもの権利条約の規定に照らしてみるならば、入国申請の際に違法な行為があったことを考慮しても、本件裁決は、社会通念上著しく妥当性を欠くことは明らかであり、控訴人法務大臣の裁量権を逸脱または濫用した違法があるというべきであるから、その余の点を判断するまでもなく、取り消しを免れない。」と判示しました。
  この判決で問われたのは、日本国が尊重を義務付けられている国際人権自由権規約(B規約)や子どもの権利条約などの国際人権条約の趣旨や、中国残留日本人を生み出した過去の日本政府の政策やそれについての救済措置の遅延をもたらした政府の責任という特有の事情を何ら考慮することなく、また家族の実態ではなく、血のつながりの有無だけで形式的に判断している非人道的かつ冷酷な入管行政そのものです。2005年3月7日の福岡高等裁判所での本件控訴審判決をふまえ、以下の3つを要請します。

1.被控訴人である法務大臣は、本件訴訟での上告を断念し、控訴審控訴人7名に「定住者」の在留資格を速やかに付与すること
2、中国残留日本人の「養子」「継子」とその家族のうち、中国残留日本人と実態がある家族については、上陸許可取り消し処分や退去強制令書発付処分を受けて、本件訴訟の家族と同様に苦しんでいるすべての家族に、「定住者」の在留資格を与えて救済すること。
3 、元中国残留日本人の「養子」や「継子」とその家族の呼び寄せについても、「定住者告示」(法務省告示第132号)を改め、 インドシナ難民の家族の呼び寄せに関する「子に養子を含む」規定や 、「日本人や日本に適法に在留する外国人の配偶者、親、子(養子を含む)に随伴する親族で、その家族構成等からみて、人道上特に入国を認めるべきもの」の規定と同様に呼びよせができるようにすること。

2005年3月14日 
元中国残留孤児とその妻
   井上鶴嗣 (元中国残留孤児)
   井上琴絵 (元中国残留孤児 井上鶴嗣の妻)
退去強制令書発付等処分取り消し訴訟控訴人 7名 
支援団体
 「強制収容」問題を考え、子どもの学びと発達を守る熊本の会(代表 井野 幸子)
 コムスタカー外国人と共に生きる会(代表  鈴木 明郎) 
 2005年3月7日 福岡高等裁判所勝訴判決報告集会 参加者一同


資料2 
(2005年4月25日 衆議院決算行政監視委員会 第四分科会 議事録 第1号より)
次に、稲見哲男君。
○稲見分科員 民主党・無所属クラブの稲見哲男でございます。きょうは、中国残留孤児の問題と難民の問題で御質問をさせていただきます。
 この問題につきましては、昨年の三月の二日に、予算委員会の分科会で私が、そして、ことし二月の二十五日に、同じく予算委員会の分科会で同僚の藤田一枝代議士が御質問をしております。特に藤田一枝議員は、熊本県在住の井上鶴嗣さんの二家族七人の裁判にかかわって南野大臣に質問をいたしました。その後、三月七日の福岡高裁の判決を受けて、南野法務大臣は上告を断念された、こういうことでございまして、改めて二月二十五日の議事録などを読ませていただきますと、大臣の決断を率直に評価したい、こういうふうに考えております。
 私は、この問題は、難民認定やその他の在留資格の審査と違って、戦後処理の大きな課題の一つだ、こういうふうに考えております。今回の判決を契機に、継子、養子問題について最終的な決着を図るべきだ、こういうふうに考えておりますけれども、大臣の所見をお伺いしたいと思います。
○南野国務大臣 中国残留邦人の継子、養子に関する事案について、これは一般論として申し上げるわけでございますが、中国残留邦人の方々が中国に残留されることとなった歴史的経緯や事情など、これは福岡高裁判決の指摘する趣旨を踏まえまして、実子同然に育ったか否かなどの家族としての実態等、個別の事情も十分考慮しながら、今後とも適切に取り扱ってまいりたいと思います。
○稲見分科員 今、大臣の方からも、判決の趣旨を踏まえて、こういうふうなことでございました。少し引用をしたいと思います。
 日本国自身の過去の施策にその遠因があることが留意されなければならない。当時の国策だった開拓民大量入植計画、日本の引き揚げ政策が奏功しなかったこと、終戦後三十六年でようやく中国残留孤児の集団訪日調査が行われ、九四年に至って円滑な帰国促進などを目的にした帰国者支援法が公布された。このような救済措置は、結果的に何とも遅きに失した感を否めない。外国人の連れ子を未成年者に限定をしている。中国残留邦人の場合、実子同然に育った者も、引き揚げ措置のおくれによって在留資格を取得できない不合理が生じ、支援法の趣旨が没却するおそれがある。
 こういうふうに指摘をいたしております。
 この内容は、私が昨年の予算委員会で申し上げたことと全く同趣旨でございまして、家族としての実態を考慮すべき、こういうふうに考えますと、これは継子、養子の区別なく在留特別許可を与えるべきと考えますけれども、その点、どうでしょうか。
○南野国務大臣 この事案に関しましては、私も中国からの引揚者でございます。その当時を思い起こすと、本当に中国の方々にお世話になったことがある人たちもたくさんおられるかな、そのようにも思うわけでありますけれども、中国残留邦人の養子や継子の方につきましては、在留特別許可の判断に当たりまして、家族としての実態、ここに重きを置くわけでございますが、その他事案ごとの個別事情を十分に踏まえた上で、さらに人道的配慮をして、適切に措置していきたいというふうに思っております。
○稲見分科員 では、今、御答弁いただきましたことを前提に、具体的にお聞きをいたします。
 現在、裁判係争中あるいは裁判にまで至っていないけれども違反審査中の同様のケースは、どれだけあるのか。件数、家族数、人数、こういうことでお答えいただければと思います。
○南野国務大臣 中国残留邦人の実子であるとして我が国に入国後、継子であることが判明したことにより退去強制命令が発付された家族がその取り消しを求めた訴訟は、現在、二件、二家族六名が係属しております。
 違反の審査中など退去強制手続を受けている者の中で、中国残留邦人の実子でないいわゆる継子や養子に係る人数については、現在、入管当局が調査中でございます。同様の事案につきましては、家族としての実態その他個別の事情を踏まえて、適切に措置してまいりたいと考えております。
○稲見分科員 今、裁判中のものが二件だけというふうにおっしゃいましたが、これは継子ということでありましたけれども、養子で裁判中のものはなかったですか。
○三浦政府参考人 お答え申し上げます。
 養子で裁判中の案件はございません。
○稲見分科員 違反審査中の部分が定かでない、こういうことなわけですが、これは、対応を大臣がおっしゃっているような形で変更するということであれば、各入管、各現場に周知をする必要もあるというふうに思いますし、後日でも結構ですから、まず、その違反審査中の事案、分母を明確にして、その上で、在留特別許可を与えているというふうな分子、これはすぐにはわからないでしょうけれども、分母、分子の問題については、後日でも結構ですから、御報告をいただきたいと思います。よろしいですか。
 それでは次に、現在、中国で五百五十人ほど残留孤児の方がおられる、こういうふうにお聞きをしております。それぞれの事情があるわけでありますけれども、継子、養子の家族がいるために帰国を断念あるいは逡巡しておられるという家族がないとも限らない、こういうふうに思います。
 昨年の答弁では、把握しておられないということでありましたけれども、これからの帰国あるいは呼び寄せについて、継子、養子についても、家族としての実態があればこれは認めますよ、こういうことを中国の側で、中国の方で周知徹底すべきだというふうに考えますけれども、この点、いかがでしょうか。これは厚生労働省ですか。
○大槻政府参考人 お答え申し上げます。
 厚生労働省といたしましては、高齢となりました中国残留邦人の帰国の不安を取り除き、その円滑な帰国を促進する観点から、御指摘のように、継子、養子も含む子供等の家族が中国残留邦人の扶養や介助を行うなど、生活をともにすることを目的として本人に同行帰国される場合には、成年の子一世帯を帰国援護の対象としておるところでございます。現に、本人に同行して継子、養子世帯も帰国をされておるところでございます。
 今後とも、厚生労働省といたしましては、いわゆる自立支援法に基づきまして、永住帰国する際に継子、養子を含む親族が帰国援護の対象となり得ることにつきまして、現地におきましても周知徹底を行いまして、円滑な帰国の促進を図ってまいりたいと考えております。
○稲見分科員 同じことを、大使館、総領事館、たくさんありますので、外務省、きょうは来ていただいておりますよね、外務省、いかがでしょうか。
○小井沼政府参考人 法務省の行っております在留資格審査と大使館、在外公館の行っております査証の発給というのは、表裏一体をなしているものでございます。外務省といたしましても、中国残留邦人の継子、養子からの査証申請につきましては、法務省等の関係省庁と密接に連絡をとりつつ、適切に対処することといたしたいと存じます。
○稲見分科員 よろしくお願いします。
 それで次に、残念ながら、裁判があって、そういう中で、例えば子供が勉強をしているので何とか留学生のビザだけいただけないか、そのかわり親としては帰ります、こういうふうなことで、退去強制令書あるいは自主的に帰国をされた方なんかも現実におられます。
 そういう意味では、こういうふうに法務省として人道的な対応をしていただくということになりますと、既に退去強制処分あるいは自分の意思で帰国した者について、再入国なり原状復帰を考えるべきだというふうに思いますけれども、その点、いかがでしょうか。
○南野国務大臣 お尋ねのような方が再び我が国に入国を希望する場合には、個々の事案ごとに、退去強制時の経緯のほか、入国を希望する理由、家族状況、生活状況、素行、内外の諸情勢その他諸般の事情等を総合的に考慮させていただきまして、上陸特別許可の可否について検討することとなります。
 なお、実子同然に本国で生活をしていた養子、継子の方につきましては、このような家族としての実態は、上陸特別許可の判断に当たって考慮すべき事情の一つであろうと思っております。
○稲見分科員 ぜひ、今非常に不安定な形で生活をしておられる方につきましては、できるだけ早急に、今法務省の方でお答えいただいたような在留特別許可について御検討いただきたい、こういうふうに思っております。
 加えて、この問題を抜本的に解決することを考える場合、先ほど述べた判決理由を尊重しますと、制度的な保障、いわゆる定住者告示の改定が必要ではないか、こういうふうに考えております。先年申し上げましたが、インドシナ難民の場合には、国際的な責務ということもあり、養子、継子問題、これは外しております。
 そういう意味では、一般的にすべて定住者の告示のところで一般の分まで外すかどうかということは、これは議論がありましょうけれども、例えば、特別、中国残留日本人の帰国問題については継子、養子問題をもう外してしまうというふうなことで改正をしていくべきではないかというふうに思っておりますが、その点、法務大臣、いかがでしょうか。
○南野国務大臣 中国残留邦人につきましては、一般の方の対応とは異なった温かい配慮が必要であるということは認識いたしておりますが、このような特別な御事情については、基本的には個々の事情に応じて適切に対応していくのが最もよいと認識いたしております。
 しかしながら、判決があったことを踏まえまして、取り扱いを明確にすべく、幼少時、具体的には六歳未満から実子と同様に育てられ、家族として生活をしてきた方については、その入国を一律に認めるための告示の改正も検討してまいりたいと考えております。
 なお、告示によりまして一律に認めることとならない方につきましても、個々に、実子と同様に育ったか否か、また育ったとすれば、その経緯や現在の家族状況、生活状況等を踏まえて適切に対応してまいりたいと考えております。
○稲見分科員 定住者告示の改正についても言及をいただきまして、ありがとうございます。
 ただ、これは六歳というふうに切りますと、現実問題として、例えば、成年になって、年老いていく日本人残留孤児についてお世話をしながら、そういう中で生活をともにし、養子縁組をしたという方も、現実にこの問題なんかはあるわけですよね。ちょっと六歳で切るというのは、せっかくそこまで言っていただいて申しわけないんですが、もう少し、今の帰ってこられている方の実態なんかも見ていただいて検討をいただければというふうに思っております。
 その上で、今おっしゃいました個々のケースとしての在留特別許可については、人道的な立場、歴史性を含めて、これでもう決着をしていくんだという気持ちで、ぜひ法務省としての早急なお取り組み、御判断をいただきたい、このことを重ねてお願いをしておきたいと思います。