1.国際連合の人権活動と移住労働者権利条約発効の意義
(1)国連の目的
国際連合憲章1条(国際連合の目的)に書いてあるように、人種、性、言語、宗教による差別なく人権と基本的自由を尊重する、そのために国際協力を達成すること、その上には国際平和と安全を国際法の原則に従って実現すること、というのが国連の最初の目的となっています。なぜかというと、第二次世界大戦で全体主義国家(ドイツ、イタリア、日本など)が、国内で人権侵害を行なうだけでなく周辺諸国へもその災いをもたらしたことに対して、内政干渉という理由で干渉しなかったことへの反省があるからです。ですから、国際人権に関しては一定程度の内政干渉というものが必要である、ということが戦後の理解です。
(2)国連人権文書
具体的に国連には人権を保障するためにどのようなツールがあるかというと、国連人権文書と国連人権機関です。国連人権文書では、国連憲章1条で人権の保障を挙げています。世界人権宣言でも一連の宣言が挙げられています。宣言には法的な拘束力はありませんが、条約には法的な拘束力があります。28ある国際人権条約の中には主要7条約と呼ばれているものがあり、移住労働者権利条約はそのうちの一つになっています。なぜ主要7条約なのかというと、これらの条約は総合的な条約になっているからです。
この7条約に関しては条約実施管理機関と、それをチェックしてモニターする委員会があるという特徴があります。7条約が総合的な条約であるということに加えて、条約の実施を管理する機関があるということ、この2つで主要7条約と呼ばれているわけです。移住労働者権利条約の批准国は基本的に送り出し国になっています。受け入れ国が一ヶ国も入っていないのです。しかし、受け入れ国が批准しようとしまいと、数が揃って発効したということが非常に意義のあることだと思います。発効しなければ、これはただの文書にすぎません。しかし発効することによって、これは国際人権基準となって、国際社会の中で具体的な効力持つ法律として動き出したのです。これは大きな意味を持ちます。
移住労働者権利条約の条約自体の意義というのは様々です。例えば、正規滞在者・非正規滞在者に関わらず権利を保証しているという点、これは日本でよく言われている点です。非正規滞在者であろうとも保証される権利、それに加えて正規の移住者に保証される権利、これが日本で批准された場合に国内法とどのくらい適応されるかというと、きりがないほどなのです。
この条約は文言が曖昧なところが多くあります。解釈の幅によってはものすごい範囲の権利を保証することができるのです。外務省の人権人道課の人に言わせると、この条約をまともに批准したら、移住労働者は日本人以上の権利を保証されることになる、ということです。同時に過小解釈すると批准しても何も変わらないということにもなります。そのくらい解釈に幅があるのです。そこの駆け引きを我々は考えていかなければならないだろうと思います。
2.日本の国連人権活動への関わりと移住労働者権利条約批准へ向けた課題
(1)日本と国連人権活動の関わり
日本の場合、28人権条約の中で批准しているのは10個です。ヨーロッパの国は20以上というのがほとんどで、それに比べると10というのはまだまだ少ないと言えます。その10条約の中で、主要7条約で批准していないのは、移住労働者権利条約だけなのです。また、日本の場合、国際人権をどう日本で使うかといったことに目が行きがちですが、委員会の委員で誰をどのように推薦しているのかということも大事なことです。日本から推薦する人が国際人権を審査するわけですから、下手な人を推薦してはいけません。国際人権といった場合に、どう使えるかといったことばかりを見るのではなくて、逆に日本から推薦される委員が国際人権というものを動かしていく資格のある人なのかどうかということも考える必要があると思います。
(2)国際人権条約の効力
国際人権条約は国内法に優位します。ただ、80年代前半までには、そのように条約にあわせて国内法が変わるということがあったのですが、90年代に入ると、日本政府は批准のときに人種差別撤廃条約にしても拷問禁止条約にしても、国内法との食い違いはない、つまり国内法を改定する必要はないという見解で、国内法をいじらずに批准をするというようなパターンが続いてきました。これは外務省も政府も場慣れしてきて、それほどうぶではなくなったということです。ですから、NGOの方もそれなりにレベルアップしなければならないということです。
(3)移住労働者権利条約の批准へ向けた課題
移住労働者権利条約を批准しなければ、日本の中の移住労働者の権利は国際人権法によって全然守られないかというと、そうではありません。私たちは他の条約を使って、やってきました。女性差別撤廃委員会もDVの問題等で、拷問禁止委員会も入管の収容所の問題で、子どもの権利委員会は移住者の子どもの教育という問題で関わってきます。社会権規約委員会も社会保障とか、医療の問題で移住者に関わってくるでしょう。ですから、今までの日本が批准している条約で使えることがあるのです。この条約を批准しないと使えないということはないのです。しかし、アムネスティの促進というのは他の条約には入っていません。ですから、それをスクリーニングしていくということが大事ではないかと思います。外務省の職員と話をしていても埒があかないな、という気がします。移住労働者の場合、窓口として接しているのは地方の政府ですから、地方の政府から中央の政府にプレッシャーを与えていくということが必要だと思います。日本の場合は、外国人に関する法律というものは外国人登録法と出入国管理法しかありません。あるのは、取締りと管理をする法律だけなのです。移住者の権利を定めた総括的な法律がそもそもないのです。そのような日本であるからこそ、国際人権基準というものを使って、これからこれに沿った形で取り組みを進めていくようにプレッシャーをかけることも重要です。これはすでに国際条約として発効したものですから、この条約が掲げる基準というものを持って、行政交渉にあたるという使い方もできると思います。条文で曖昧なところは移住労働者権利委員会に条文解釈を作らせて、そこで都合のいい使いやすい条約を作り上げていくというようなことが考えられると思います。