事例報告 ATLAS 塚田ともみ

事例報告1
 先頃ご協力頂いたインドネシア人エンターテイナーNさん強姦事件についての続報です。
 検察で不起訴処分を受けたので、民事の損害賠償に望みを託しました。目標は強姦を認めさせることです。その判決を得た上で、検察審査会にかけるつもりです。
民事訴訟自体は今年の4月に提訴したのですが、担当の弁護士A先生の体調不良で何回か期日が延期されました。インドネシアで報告を待つNさんも裁判の進展を気にして何度となく不安のメールを送ってきました。
 そのうち弁護士事務所から他の弁護士を復代理につけたと連絡が入りました。「民事では必ず勝ちます」と意気込んでおられたA先生でしたが、かなり悪いのだろうなと心配していたところ、それから1週間も経たないうちに亡くなられました。まだ40代の若さでした。胃ガンだったそうです。
 ATLASは日本語教室にはボランティアが数多く集まるのですが、外国人の相談を受けて、動いているのは私一人です。そんな中、A先生は多忙であるにも関わらず、何かと気軽に相談にのって下さり、このケース以外にもフィリピン人の裁判をお願いしたりしていた、私にとってはかけがえのない存在でした。
 このような活動をしていると、多くの人の生き様を垣間見ることになりますが、近くで一番助けをいただいている若い弁護士が亡くなるとは想像もしていないことでした。
(健康あっての活動です。皆様もくれぐれも体にだけは気をつけて下さい)
 話は戻りますが、復代理の弁護士が正式に代理人となり現在、訴訟は月に一度のペースで進められています。向こうは、自分の方が無理やり性行為を強制されたと主張したり、DNA鑑定の信憑性を争ったりと、苦しい展開をしているように見えます。つくづく、なんで起訴されなかったのだろうと悔しい思いです。ただ、強姦の事実まで認定されるかは厳しい、というのが弁護士の見解です。
 年内に、証人尋問がありNさんも来日予定です。今後の展開はまた報告します。

事例報告2
 ある日、東京の児童相談所の男性から電話がありました。先ごろ、多文化共生センター東京に、鹿児島在住のフィリピン人女性の助けを求める電話があったため、多文化共生センター東京が、多文化子育てネットのメーリングリストに、「鹿児島の支援団体を知りたい」という内容のメールを出した。児童相談所で調べたところ、ATLASのことが分かった。とのことで、ATLASはDV支援等もしているのか、このケースを引き受けてもらえるかという問い合わせでした。
 「鹿児島と言われても広いのですが、できることがあれば」と答えると、鹿児島県内のDVの実態や支援の状況についていろいろとたずねられました。また、鹿児島は男性が強いというイメージがある、外国人が逃げてもすぐ見つかるのではないのか、等と言われ、東京の人が描く鹿児島のイメージってそんなものか、と興味深かったです。
 その後、多文化共生センターからも連絡がありました。まず、県内のどこであるのかを尋ねると「沖永良部です」と言われ、一瞬青ざめました。(地図で確認してみてください)
 詳細を聞くと、最近、日本人と国際結婚し、島にきたばかりで出産間近のフィリピン人女性から、「夫が全くお金をくれない、家から出られない」という助けを求める電話が数回あったとのことでした。
 家を出て逃げるようなシェルターはないか、支援してくれるところはないかとのことでしたが、夫は暴力をふるうわけではないとのことで、どこまで緊急なのかは判断がつきませんでした。
 私が、鹿児島県男女参画課のDV担当者に事情を話し、現地で様子を見に行くことができる人がいないか尋ねました。
 県が、島の保健センターにあらかじめ事情を説明し、その後で私が直接電話をして、該当するフィリピン人女性に母子手帳を交付した保健師さんにたどり着きました。
 センターには英語ができる人がいないということから、私がまず女性に電話をして、詳しい状況を聞いた上で、必要があれば保健師さんに見に行ってもらうことにしました。
 結果的に、彼女はその数日後にはフィリピンに帰国し出産することになったことが分かり、何事もなく解決しました。
 保健師さんの話によると、島には何人か日本人と結婚したフィリピン人の妻がいるが、日本人男性はかなりの金額を妻の家族に支払っているとのことでした。
 気になったのは、「だから役場としてはあまり関与したくない」というニュアンスの発言でした。お金を払っているのだから、多少のことは我慢すべきという感覚なのでしょうか。
 小さい島では、今でも公による民事不介入という意識が根深いのかもしれません。
 今、私の都合でATLASの活動は停滞していますが、また復活したら助成金を申請して、鹿児島県内の離島での国際結婚の現実を調査してみたいと思っています。