日本で車の運転免許を取りたい  ― 外国籍住民の署名活動 ―
「移住労働者と共に生きるネットワーク・九州」事務局  堀スミ子

 02年の道路交通法改正により、車の国際免許、外国免許は取得後3ヶ月以上、交付した国にいなければ日本の免許に切り替えられなくなった。以来、外国籍者から外国語での免許試験の要望が多く寄せられるようになった。3ヶ月も帰国できない人々は、国外ではなく日本で免許を取得したいからだ。当ネットワークの福岡ブロックは、2年前から行なっている行政への政策提言の中で、免許試験の多言語化を要請してきたが、需要がないという理由で取り上げられなかった。ところが今年4月、英語版が採用された。九州で一番外国人が多く住む大都会なのに大分、熊本に次いで3番目という遅さである。ちなみに熊本では昨年8月に中国語、英語版を導入して以来、13ヶ月間に中国語による受験者数が509人、英語による受験者数が665人だったそうである。福岡での需要はその何倍にもなるに違いない。英語以外の試験も早急に必要であることを行政(福岡県警)に知ってもらうため、私たちは福岡県在住の外国籍住民を中心に署名活動を行った。
 署名欄には、希望する言語として中国語、韓国語、フィリピノ語、スペイン語、タイ語を挙げ、どれかを丸で囲むか、そこにない場合は希望する言語名を明記してもらうようにした。広い地域に多国籍の住民が多く住む福岡県において、限られたスタッフ(10人弱)と短い期間(4月〜9月)の署名活動であったため実際の在住者数のほんの何分の一にしか署名用紙を回すことができなかった。しかし署名の目的を聞くと人々はほとんど皆、すぐ賛同の意を表してくれ、外国籍住民が多言語での試験をいかに強く望んでいるかがよくわかった。また日本人の署名も沢山あり、すべての言語に○印がつけてある人が目立って多かった。同じ県に住む住民としてまた、身近な家族、友人として日本人と平等な免許取得のチャンスを外国籍住民にも与えてあげてほしいとの願いが感じられる。

署名の集計結果(単位:名)

署名者数→ 外国籍者(318) 日本人(151)
希望言語(外国籍者のみ)→ スペイン語(132) フィリピノ語(96) 中国語(50) 韓国語(40) ポルトガル語(5) タイ語、ロシア語、インドネシア語、ネパール語(以上各3) ベトナム語、マレー語、ルーマニア語、ベンガル語、スイス語、ノルウエー語、ポーランド語、ヘブライ語(以上各1)
日本人の希望言語にはドイツ語、モンゴル語、アラビア語も入っており、全部で20カ国あった。福岡県の外国籍住民がいかに多国籍であるかを物語っている。

署名の提出

 10月18日、ネットワークの共同代表、事務局計4人と外国籍(アルゼンチン、キューバ、チリ、ペルー、メキシコ、ブラジル)住民計10人が県の国際交流課(県庁内)へ行った。対応したのは課長山村より子氏と他1名であった。まず共同代表が署名活動の趣旨を述べた上で要望書を渡した。要望書には「日本の社会で、運転免許は外国籍住民にとって必要不可欠である。しかし3ヶ月も日本を離れなければならないという法律が彼らに大きな重荷となっている。熊本での例を見ても、今回の署名の結果を見ても、いまや外国籍住民の要望は強くニーズは大変多い。外国籍住民との共生という観点からもぜひ、福岡県が英語だけでなく多言語での試験を実施するよう切望する」などと書かれている。次に外国籍住民を代表して、アルゼンチン人女性が署名用紙を山村課長に手渡した。そのあと約1時間、話し合いを行なった。ブラジル国籍の男性が通訳してくれたおかげで、参加した人は自分の言語(スペイン語)でしっかりと訴えることができた。初め、国際交流課側は「日本語の試験は漢字のせいでできないのか」とか「英語版ではだめなのか」などとまるで実情を把握していないナンセンスな質問をした。外国籍住民たちからは「我々は何十年も前から日本にいるわけではない。一文字の中に複雑で深い意味を含む漢字が理解できるわけはない。」「我々は労働者であって留学生や大学関係者ではない。英語圏でもないのに英語ができるわけはない」と切り返されてしまった。免許を持ちたくても「3ヶ月」が足かせとなって持てず、生活に大きな支障が出ている人たちだけに真剣だ。彼らの気迫に満ちた訴えの前に、山村課長たちは次第に聞き役に回らざるを得なくなった。
 労働者として日本で働き、家族と共に暮らす上で、車の運転免許がなければ生活が成り立たないこと、その運転免許取得のために3ヶ月も職場を休んだり、子どもを置き去りにして母国に帰るなどということは不可能であること、従って2002年に始まったこの法律は外国籍者の置かれた実態を無視したひどいものであることなどを口々に訴え、最後に、外国籍者が違法なドライバーとなることを防ぐ為にも、ここ日本で、母語で試験を受けられるよう一日も早く実現してほしいと締めくくった。
 これを受けて山村課長は「福岡県警に、署名と皆さんのご意見、要望を伝えます」と回答した。事務局からは、今回提出した署名を、他の目的には絶対利用しないことも県警に伝えてくれるよう付け加えた。また4月から英語版の免許試験が始まったことのほかに、国勢調査が多言語で用意されていたこと、10月から福岡市での家庭ごみの収集袋の種類が変わったことなど、大事な情報が外国籍住民に伝わっていないことも指摘しておいた。
 マスコミからはこの日、RKBが来て、やりとりの一部始終を取材し、また、その後、直接外国籍者にインタビューした。すぐさまテレビや新聞での報道とはならなかったが、このような問題があることをぜひ社会に知らせ、多言語の免許試験実現のために協力してほしいと要望した。