変身者の伝言


 
坂を昇って行ったところに
 高い金網で囲ったプールがあり
 疲れきった表情の男たちが
 うす汚れた服のまま
 空の一点を見つめていた


      手に紙切れを持っていて
      それには自分あての短い便りが
      なかには名前だけが
      しるされてあって
      みんなはそれを大切にしていた


             
かれらは待っていた

             
何を?

             
あの空に
             変身の時刻が近付いているのを


              それは透明に重なり合うふたつの世界
              ふたつの自分が断たれ つらなる断層
              愛するものらのために
              まえの自分を保とうと
              かれらの手の中にふるえる紙片


                      
                       時が来た

                      かれらは山から四方に下り
                      プールの水面に 忘れられた
                      紙片の上で 名前が にじみ かけた。