『サンタ見た』


暮れの町で赤いサンタクロースを見たユリヤは
「サンタ見た」を繰り返す
ぼくは郊外の園芸店で 曲がったツリーを買った
小さなケーキにろうそくを点した



70センチの視点から何が見えているのか
その小さな耳に何が聞き取れているのか
大人たちはおおよそのことしかわかりはしない
だから彼女が おぼえたての英語で
DEER(シカ)と
ケーキの上の動物を見てつぶやいたことも
壁に貼ったリンゴの絵の前を
いつからか 
APPLEと言いつつ通り過ぎるのも
だれも気付かなかった
小さくても正確な仕事を果たすかわいい脳よ
バイリンガルに仕立てようとの母親の陰謀に
乗せられているのは承知の上か


幼子の愛らしさなど語って何になろうか
ましてや自分の孫娘ともなれば
今夜外出から帰って来た母子に 一匹の見知らぬネコが
付いて来て のそのそと玄関から入り
階段を上がって二階へ姿を消した
そのことの奇妙さの方がよっぽど記録する価値がある

ただ今 デタラメ歌を歌っているユリヤは
この冬の夜に 湯上がりとはいえ素っ裸で
座敷を歩き回っている

それから例のジャングル・ジムによじのぼり
「キタゾー キタゾー」
とわめいている
きちがいベビーだ!