未明の旅立ち

 いま こばむことができる
 かわりのものが見えていても いなくても

 時にはかたくなであることが
 春の風の圧倒的な暖かさや 泉の水の噴き上げる清らかさを
 臆面もなく気取ることはできないとしても

  拒むことによってしか受け入れられない
  与えることによってしか得られない
  虚しさとさえ見える永遠  それでも
 道ばたに転がっているただの石ころには味わえない無限

 五十年も生きていると捨てたいものが溜まっている

 明け方 心の荒野を求め
 いわば雲水の旅に出るなら
 頭陀袋も錫杖もなく
 陽ののぼる気配のする地平線へと誘われて
 ものを思わずに歩み続けるだろう

 
しかし私はいつものように眠ってしまう
 人間と事物で満たされた賑やかな夢の中へ
 そしてもう 本当に自由な力の溢れる朝への目覚めは
 はるかな昔のことになった。



           (『詩脈』第49号1988秋)