シホ様のペ〜ジへ


 その日。私はマ・クベ大佐に、直々に呼び出されていた。
 こちらから、連邦の大きな拠点の一つへと進撃するのだ。
 向こうはそれを察して、基地より大きく前進して陣を張っているという。

「そういうわけだ。貴官のガウで先陣を切って欲しい」
 そういうわけねぇ・・・・・。
 はっきり「ドズルの手先はいらんからさっさと死んでこい」って言えばいいのに。
 私は言い返してやった。
「仕方ありませんわね。他に頼りになりそうな方は見あたりませんし」
 大佐の取り巻きに過ぎない参謀達の怒気が膨れ上がった。


「また無茶をなさる....」
 会議室からの帰り道、ベーグマン少佐がそっと話しかけてくる。あまり心配性だと、
この先心配だな。私。
「そう?あんなのに見くびられるわけにもいかなくってね。そりゃおじさまは何もおっしゃらないけど、実際、ドズル派将校の私への期待感って少佐の思ってるほど低くはないのよ」
 確かに、私は小娘。頼りがいのある上官でもない。単に家名とドズル中将の信頼だけでこの場所にいるというのも、嘘ではない。
 しかし、今、軍正統派ともいえるドズル派将校達が望むのは、地球圏におけるジオン全軍の掌握であり、また、その意味では北米に居られるガルマ様が、本当の意味で地球攻撃軍司令の地位を固めて貰わなくてはならない。が、現実として、その力の及ぶのは北米に限られると言っても良い。後はキシリア配下のマ・クベが牛耳っている。
「私は、楔なのよ」


 私の部隊。カンナヅキ小隊の母船ガウ。「せいんとてぃる」と命名した。
 そのミーティング・ルームで、MSパイロットの私達へ、正式に作戦が言い渡される。
 こういう時は、私は一介のパイロットとして行動する。こちらから作戦に口出しするとただの混乱の元になるに過ぎないから。
「我が部隊は先陣として、敵部隊に突入する。今回は特に大がかりな戦闘となるから、非常に厳しいものがあるが、覚悟しておいてくれたまえ」
「ねぇ、それってガウから飛び降りて一気に中枢に突っ込むってコト?」
 ぴしっ
 少佐の顔が凍り付いた。
「あ...司令、大佐のお話を聞いていらっしゃらなかったので?」
「何で聞かなくちゃなんないのよ」


 しかしそれにしてもまともな実戦がいきなり大きな戦いになってしまうとは、私も運がいいやら悪いやら。
 結局、せいんとてぃるで一気に敵中枢に飛び込み、その旗艦を叩く。すっきりした作戦ではあるが、これで作戦と言えるのなら、参謀本部でも目指そうかしら?
 等と、コクピット内で静かに考えていると、少佐から通信が入った。出撃?
「司令、敵戦力は確認されただけで「大佐の予想」のほぼ2倍は...」
「そう。でもやんないといけないんでしょ?」
「残念ながら」
「ま、船はよろしく。少佐」
「はい」
「シホ・ミナヅキ。ドム出ます!」


 もうすっかり暗くなっている。
 この辺りは、ジオン側が制空権を握っている場所でもあるから、こういう作戦が採られた。
 せいんとてぃるは、予定より低く降下してくれたので、MSでの着地も少しは楽なはずだったが、運悪く柔らかい地面だった。
「あう〜」
 ドムが、前へと転倒する。
「きっつ〜」
「ほら、中尉、大丈夫かよ」
「え、と、・・」
 各計器を確認するが、機体に損傷はないようだ。 「大丈夫よ。あれ?シェン?」
 シェンのザクも、後方で転倒していた。ハインツだけだったようだ。よかった・・。
 じゃない。
「じゃ、前進」


 割と、敵の姿は少ない。あっさりと陸上戦艦の見える地点まで進める。
「いいわね・・・突入」
 静かに言い放つと、3機のMSは、戦艦めがけて突入した。
「・・・ってなんでぇ〜!!!!!」
 ちょっとぉ!なんで私ばっかりに砲座が向いてるのよぉ〜。
「いいぜ中尉!そのまま引きつけといてくれ」
 んなハインツまでぇ〜!!!!

 あ、涙出て来ちゃった。


 私に砲撃が集中するのも、ちょっと考えれば当然だった。私のドムはまだ連邦の知るMSではないのだ。
 その効果もあり、ザク2機は一気に敵艦との距離を詰め、バズーカによる攻撃を始めた。
 しかし、沈めるには至らなかった。陸上戦艦の副砲が、シェンを狙い・・・そして・・・・。
「何!?シェン!」
 そのハインツの声は、一つの爆音にかき消された。そう。シェンがハインツ機の影に隠れ、直撃を受けたのだ。
「え・・・」
 更に、シェンは無謀にも単機敵艦に近づく!
 ザク1機で無茶よ!

 そう、シェンはあえなく撃墜されたのだった。
 しかし、両機とも、脱出は確認されている。そう、少なくとも未だ生きているのだ。
「回収・・・・」
 ドムを、前へ進めようとする。が、私の腕では・・・・。
 ある程度近づいたものの、私の中で、辛うじて冷静な部分が、二人の回収が不可能であることを囁いていた。ちょっと考えれば、確かに、近づいたところで停止して回収など無理であることは明らかだ。
「・・ごめん!」
 こうなっては、二人の自力脱出に賭けるしかない。
 そう考え、せめてもの時間稼ぎ、二人の居るであろう場所から、敵艦を引き離しにかかった。


「は・・・気持ち悪〜・・・」
 あれからしばらく、敵艦を引きつけ、それから単機で離脱する。
 しかし、ドムはあちこち被弾していた。
 何処をどう離脱したのか、少しばかり静かな場所だった。いや、周囲が騒がしいだけだ。既に乱戦状態となっている。
「なんか・・・・どっちに行っても戦闘戦闘かぁ・・・」
 ぼやきながら各部チェック。
 脱出装置故障。まぁ、そん時は死ぬだけだし。
 プロペラントタンク損傷。補修出来ればいいけど・・・。
 センサー類。4割方停止。こっちは流石に痛いなぁ・・・。
 自分が何処にいるか、わからなくなってしまった。


 取り合えず、こちらには誰も来ないようだ。急いでタンクの修理が出来ればいいけど。
 コクピットから出る。
「はぁ〜」
 暑いヘルメットを取り、深く、空気を吸い込む。
「何年振りだっけ・・・一人になっちゃうの・・・」
 タンクの損傷部分を探す。
 しかし、見た途端、諦めた。もうそのタンクはほとんど残っていないだろう。それに、とてもMS備え付けのキット程度でいじれるものではなくなっていた。
「全く・・よく引火しなかったなぁ」
 もうホバー機能を使っての高速移動も無理だろう。
 きっぱり諦めて、コクピットに戻る。
「あれ・・・・・?」
 視界が、ぼやけた。涙?
「ちょっと・・・何で泣くのよ・・・シホ」
 そういえば、一人になるのも久しぶり・・・・。
 12だったっけ・・・・誘拐犯が追いつめられて・・・私は・・・・投げられて・・・・宇宙(ソラ)は広く・・・・拡がる・・・・私には届かない・・・・離れてゆく・・・・光・・・・音・・・・・人!!
   ぱん!
「いっ痛ぅ・・・」
 ちょっと強く頬をはたき過ぎた。
 あのお陰で・・・暗い宇宙が好きになった。普通は嫌いになるんでしょうけど、私は、届かない宇宙に、届きたい!!!
「こんなトコで終われるもんですか!」


 面白いように当たる。
 まぁ、向こうは塹壕がほとんどだから、当然だけど。
 連邦も、まさか味方側の後ろからジオンMSがやってくるなんて考えてない。
 「宇宙(ソラ)に届かないなら・・・地球に触れられない!」


 結局、味方の陣に戻れたのは、夜の明ける寸前だった。
 大分、押し込まれている。後で知ったが、この戦闘では、双方被害甚大なれどこちらの方が負けに近い。
 それにしても、途中、幾度か味方の部隊とも遭遇出来たのだが、何故か毎回毎回逃げられてしまった。
「全く失礼よね」
「そりゃぁ、こいつはまだトップシークレットの試作機ですよ?それに、最近は「連邦がMS開発に成功した」なんて噂飛び交ってますからねぇ。向こうからやってくりゃ、連邦の新型だって思いたくもなるでしょ?」
 もうすっかり親しくなった技師が、言ってくる。
 そりゃ、そうだけどね。夜しか出撃出来ないのもその理由の一つだし。
「しかしよく3人とも生きてましたね〜」
「あ〜。ひどい言い方」
 そりゃ私のドムだってなんだかぼろぼろだったけど。ま、ハインツ達が自力で帰ってきたのには驚いたが。
 良くて捕虜交換だとばかり思ってたのに。まぁ、二人とも、経歴には若干不明な点があるから、そういうのもあるかな〜なんて思ってたりもしたけどね。
「あ、二人のMS、直ぐ用意できるのかな?」
「難しい事言いますねぇ」
「う・・大佐かぁ」
「そうそう」
 そうだ!
「いっけない!ごめん」
 言い残すと、大急ぎでブリッジに戻る。そう、マ・クベ大佐へ報告しておかねば。


「いや、貴官にもご苦労であったな・・・」
 嫌味ねちねち。う〜〜〜。大体いきなり旗艦なんて落とせるわけないでしょ〜が。
 くやし〜〜〜〜〜。
 ようやく、通信が、切れた。
「ふ〜。で、これでいいんでしょ?」
 脇の少佐に話しかける。
「そうですな。補習は勘弁しましょう」
 わっと、ブリッジ要員の間に笑いが起こる。
「っちょっとぉ!どこがいけないってのよぉ〜」
「そうですな・・台詞にもう一ひねり。それに、悔しがり方が少しオーバーでした
な」
「う・・・そお?」
 恐る恐る、そっと、前の通信要員の顔を見る。
「まぁ、今日の所は及第点と言うことで、次は頑張って下さい」
「ぬぁ〜〜〜にぃが次は!よ!!」
 まったく。
 でも、まぁいいや。
「少佐」
「は」
「後で・・・私の部屋へ来て下さいます?」
「は?構いませんが・・・」
「じゃ、よろしく」
 帰り際、もう一度正面に振り返って、さっきの通信員の頭をちょっと小突いてから、
私はブリッジを立ち去った。



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