- 生山(しょうやま)からの町営バスの客は一人だけだった。2日前から降り続く雪に、「これから山に登る」とは言い出しにくかった。「少しここらを歩こうと思っている」と言って多里(たり)集落で下車した。運転手は親切に帰りのバスの時間を教えてくれた。
- 5cmほど雪の積もった車道を松原口集落まで歩いた。時々車が徐行しながら通って行った。松原口から小道に入り、最後の民家が終わると林道に入った。標高差で約150m登ると別の林道と交差した。そこが登山口であずまやが有った。積雪は約20cmだった。あずまやの椅子の雪を払って座って休んだ。
- 登山口から少し登るとキャンプ場で、トイレが脇に有った。トイレのところからは山道になった。一般向けと健脚向けとに道が分かれていた。左側の健脚向けを登ることにした。沢に沿った登り坂だった。階段になっていて、階段の形に雪が積もっていた。少し迷いそうになった。
- しばらく進むと避難小屋が有った。中に入って休んだ。ノートが有ったので名前を記載した。避難小屋からは沢の登りになり、少し急になった。薄日が少し差してきた。天狗岩付近は白い木の枝がきれいで、苦労したご褒美と言った感じだった。急坂を登って行くと「金名水」と書かれた標識が有った。水の流れは雪の下だった。
- 急なところが終わると森の中の登りになった。新雪を蹴散らしながら進んだ。雪の重みで垂れ下がった枝が道をふさいでいた。雪を払ったり、枝の下をくぐったりしながら進んだ。
- 山頂は広々としたところだった。予定より約1時間遅れていた。積雪は20-30cmだった。風は思ったほど強くなかった。すぐ下に小屋が見えたので中に入って小休止した。
- 下山は北側の島根県側へ向かった。雪道で登りと異なるところを下山するので少し緊張した。尾根を下っていくと鳥上滝コースと亀石コースの分岐に着いた。右に曲がって亀石コースに入った。分岐からの出だしだけ分かりにくかったが、すぐに道形が分かりやすくなった。途中で道が水平になった。雪の積もった水平な道を少し急ぎ気味に歩くのは大変だった。水平な道が終わると沢沿いの道になった。少し迷いながらも無事登山口に降り立ちほっとした。
- 林道から車道へと変わり、最後は風の吹く峠を歩いた。道沿いの表示は-4℃だった。車道の方が山道より風が強くてつらかった。すっかり雪まみれになって阿毘縁(あびれ)集落のバス停に着いた。
- 阿毘縁からの町営バスも客が一人だった。運転手に船通山に登ったことを伝えるとびっくりされた。運転手は「おれはマタギなんだ。このへんの山はどこでも歩いている。でも最近はうるさいんでワナだけなんだ」と言っていた。