ラファエロの名画をあれこれと挙げるのは楽しい。私のもっとも好きな画家のひとりだし、どれもが甲乙つけがたい傑作ぞろいだからだ。それにつけても、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロという巨人たちが、ルネサンスという同時代に、地理的にもごく近隣の場所に生を受けたというのは、まさしく絵画史上の奇跡とさえいいたくなる。 私の中でのラファエロのイメージって、作曲家にたとえると、モーツァルトだ。同時代のベートーヴェンより、スケールの雄大さでは一歩譲るが、その分、繊細で優雅で中庸を得ていて、なにより「自然」な作風。そして、まるで駆け抜けるように、短い人生をまっとうした点。ラファエロがまさに「夭折」という言葉のとおりに世を去ったのは1520年のことで、当時まだ37才という若さだった。死因は突然の高熱によるものだったらしい。
その後、ヨーロッパには何度となく行く機会があって、特にラファエロの絵はずいぶんと見て回った。一時期はほとんど「ラファエロ・マニア」とでもいいたくなるほどラファエロの絵を追いかけていた(凝り性なのだ)。このことについては、またいずれ書きたいと思うが、残念ながら、初めて彼の絵に接した思い出の地、ウイーンだけは再訪する機会に恵まれない。もし機会があれば、クリムトやシーレの一連の絵画とともに、もう一度じっくり「草原の聖母」を時が経つのを忘れるぐらい眺めたいのだが。