本の紹介です。
GROUNDWORK African Women as Environmental Managers, Shanyisa A. Khasiani ed.
 数年前にナイロビに行った際に買ってきたままだった「GROUNDWORK」をやっと読みました。
 この本は、African Centre for Technology Studies (ACTS) というナイロビにあるNPO団体が作成した小論文集で、A5版130pほどのものです。内容はサブタイトルにあるとおり、女性と環境問題、特に環境保護活動で女性の果たす役割の大きさをさまざまな側面から提示しています。また、執筆者は全員女性で、その意味でも先駆的な論集と言えそうです。
 全体を概観した序章を除いて9本の論文が収められているので、それぞれの内容を紹介します。
 最初の論文「Women and environment in history 女性と環境、歴史的概観」(Tabitha Kanogo)は、植民地化以前の時代から植民地時代そして独立を経て今日に至るまで、アフリカ諸国では女性が農業の主要な担い手であることを報告しています。特に、農村から成人男性が賃稼ぎを求めて都市や鉱山、大農園へ出稼ぎに出ていていない、にもかかわらず女性に土地所有の権利が認められていない(慣習法・市民法両方から)今日の状況の中で、女性を明確に環境保護・農業振興の主体と位置づけることの重要性を説いています。
 二つ目の論文「Women: Invisible managers of natural resources 女性:自然と資源の見えない管理者」(Wanjika Chiuri & Akinyi Nzioki)は、女性が家族の生活と生存を担って食糧となる作物を作り水を確保し燃料としての薪を得る努力を行っていることが、自然保護、資源保護、土地の保全、森林や河川の維持とどのように関わっているのかを具体的に報告しています。日本でのマスコミ報道を通してみる「飢饉と砂漠化にあえぐアフリカ」のイメージの中では、人口増加と自然破壊が直結して語られることが多いのですが、そのような見方が誤りであることを教えてくれる論文です。
 三番目の「Women in soil and water conservation projects: An assessment 土地・水資源保護プロジェクトの中の女性:検討」(Shanyisa Anota Khasiani)は、ケニアで政府・自治体主導で行われてきたさまざまな土地・水資源保護プロジェクトを検討しています。そして、女性を単に動員可能な労働力としてしか見てこなかったプロジェクトが失敗しただけでなく、女性たちの積極的な抵抗までもを呼び起こした背景を明らかにしています。一方で、女性たちが中心になって取り組みを開始したプロジェクトも紹介しています。
 「Women and the management of domestic energy 女性と生活で使う燃料の管理」(Mary Omosa)と「Women's role in the supply of fuelwoo 薪を得るために女性が果たす役割」(Grace Sunny)の二つの論文は、砂漠化の主要な原因の一つとされる薪を燃料として使うことに関しての概説と具体的な報告です。都市周辺部や主要な村落の周辺の森林が消滅してしまったため、女性が薪を得るために日に何時間もかけて遠くの森へ通うという現状があります。これは砂漠化の原因ではなく結果であるという認識が重要だと、これらの論文は訴えています。商品作物(コーヒー、茶、サトウキビ、綿花など)を作付けするために大規模な森林伐採が行われていることが、砂漠化や自然破壊そして水汚染・水不足などの第一の原因なのです。しかも、潅漑プロジェクトや水道・電気の供給などのインフラ整備も商品作物生産部門に対してまず行われる、というのがアフリカ諸国の現状なのです。
 ここで一転して出色の論文が2本並んでいます。「Storytellers and the environment 昔語りと環境」(Wanjiku Mukabi-Kabira)は、地域に伝わる昔話を語り継ぐことが、飢饉への備えや地域に根ざした作物の選択などの技術を伝えることと大きく関わっていることを報告しています。そして、この昔語りも女たちの役割だったのです。現に地域でそして学校へ招かれて昔語りを続けている女性のことも紹介しています。
 「The role of language in rural development 農村開発における言語の役割」(Lucia N. Omondi)は、ルオの人々の住む地域で英語で学習した農業改良指導員が技術指導できるのか、という問いを投げかけています。農村で主な生産の担い手である女性たち、特に結婚して子どもが何人かいるという30代から上の女性たちにとって、英語もスワヒリ語も使いこなせない言語であるという現状を踏まえて、若い指導員たちが地域の生活語で技術指導できるようになるような育成課程の必要性を訴えています。
 「技術」というとともすれば「先進」「指導」ということばが浮かんできて、伝えることばの問題や「地域に根ざした技術」といったことを忘れてしまいそうになる中で、このような論文を収録しているところがこの論文集の性格を表しているように感じます。
 最後に2本、政策決定プロセス・法律・制度に関する論文が置かれています。
 「Women and environmental law in Kenya ケニアにおける女性と環境保護法」(Janet W. Kabeberi-Macharia)そして「Policy impacts on women and environment 政策決定と女性と環境」(Maria Nzomo)の2本の論文は、イギリス植民地時代の法律を引き継いだケニアの現行法体系の中で、女性が土地所有の権利を持てず、さまざまな市民的権利を行使するのに困難を覚えるような状況があり、こうした状況を変えていかなければ、環境破壊の問題と直面している女性の自発的・能動的な活動を軸にした環境保護はありえないことを提起しています。

 小さな論文集ですが、さまざまな観点から女性と環境問題について現状報告と問題提起を行っていて以上のような紹介では、取り上げきれなかったことがたくさんあります。ぜひ一読してほしいと思うのですが、入手方法が問題になると思います。僕の手元にある本は近いうちにAJFへ寄贈するつもりです、これをコピーして読んでもらえれば、ということになるかと思います。

 僕自身は、この論文集を電子テキスト化して手元に置いておくつもりでしたが、作業ができないまま今日に至っています(2002年9月26日)。この件について、関心のある方は、メールを下さい。メールアドレスは、ryosaito@jca.apc.org です。

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