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書評
「福祉情報化入門-福祉行政の再編成と福祉専門職の誕生-」
岡本民夫、高橋紘士、森本佳樹、生田正幸編  有斐閣

『社会福祉研究』72号鉄道弘済会

評者はかつて、「日本の福祉分野においては、コンピュータ利用に関する研究・実践は、始まってはいるが、立ち上がる(急激に質量ともに充実を始める)段階にまでは至っていないといえそうである。」と結論づけたことがある。(「社会福祉におけるコンピュータ利用−日本の現状を中心に−」1991年12月20日『社会学論集』第25巻2号桃学院大学社会学部研究紀要)
しかし本書を読んで、1990年代を通して確かに福祉情報化が飛躍的に進展したことを実感させられた。
編者はそのはしがきにおいて本書の目的を、福祉情報化の「課題にとりくみ、基本的な概念整理を行うとともに、方向性を探り位置づけを行う」ことにあるとしている。評者は、この課題がどのように実現されているかに関心をもちながら本書を読んだ。
一読して感じた本書の特徴は、その網羅性である。福祉に関わる、また関心をもつ読者の多くが、本書のどこかに役立つ情報を見いだすことができるだろう。そのことは、例えば、索引に収録されている語の豊富さにも見て取ることができる。
AI、WWW、インターネット、インターネットプロバイダー、ホームページといったまさに「福祉」に限らない「情報化」についての最近の語から、リッチモンド、ロウントリー、エンパワーメントといった、「情報化」に限らない「福祉」に関わる基本的な語まで幅広く索引に載せられている。
また、三章、四章については、本文と事例との連携の良さが印象に残った。例えば、福祉行政の関係者は三章の一節、地域福祉や在宅福祉に関心をもつ読者は同二節、三節に興味をもつだろう。また、施設関係者の関心には同四節が対応するといった具合である。
本書を読みながらふと考えたことは、事例を先ず通読し、それから本文にかえるという読み方も面白そうだということである。
例えば、評者は事例3−6の三本の事例に強く関心をもった。そこで、三章六節のタイトルを見れば、「社会参加と自立を支援するための福祉情報機器」であり、「情報の摂取」という聞き慣れない表現に戸惑いながら、本文を読み進むことで、情報が「人」の社会参加と自立のためにいかに重要であるかを改めて確認させられるのである。
このように読者の多くが自らの関心のある事例とそれに関わる本文を見つけることができるのではないだろうか。
次に本書の特長と感じられた点は、福祉界において情報化が従来進まなかった理由として、福祉関係者の間違った信念、福祉界の非民主性、サービスの絶対量の不足、情報テクノロジーの不足等を具体的に指摘し、その上でシステム化されない福祉は、「生産性が向上しない」「利用者本位の処遇が達成できない」「民主的なアドミニストレーションができない」「処遇の科学化が進まない」という形で、情報化の必要性を明らかにした点である。(五章)従来、情報化の促進の必要性を漠然としか語れなかった我々にとって、この整理は重要なものになりそうである。
以上のように、魅力的な本書ではあるが、あまりに多くの内容を盛り込みすぎたために、全体が若干バラバラになった印象を受けた。これは、執筆者が事例執筆者を含めて三十人を越えるということからもやむを得ないことかもしれない。
今後、続編を望むならば、本書にあげられたような先駆的実践を継承しつつ、批判的かつ建設的に検討・整理するという姿勢をより打ち出して頂ければという気がする。良い実践が数多く積み重ねられながら、なぜ他施設、他地域等へ普及していかないのかということこそが、検討されていく必要があると思うのである。(一般論としては五章で検討されているが。)
従来福祉関連の情報化に関する論文や書物は、その蓄積が必ずしも豊富でないことから、ややもすれば、先駆的研究、実践の紹介にとどまる傾向があった。本書はもちろんそれを乗り越えようとはしているものの、今一歩という感もした。これは、実践側の問題ではなく、理論家側の課題としてこの分野に関心をもつ評者自らの課題ともしておきたい。
小山隆
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