【10月9日(土)】


 若竹七海『サンタクロースのせいにしよう』の解説に着手。《本の雑誌》の書評も書きはじめるがどうも風邪気味で調子が出ない。もちろんどっちも締切は過ぎているのだが。

 調子が悪いときは原稿を書かないことにしているので、家に帰ってベッドに潜り込み、横溝賞一次の箱を開ける。
 集英社から来月出る牧野修の短編集『忌まわしい匣』のゲラ読み。といっても、SFマガジンと異形コレクションの掲載作がほとんどなので、大半は既読ですが、まとめて読むとスプラッタ度が高いのにびっくり。こわさではやっぱり「おもひで女」かなあ。アイデアも抜群だし。これを表題作にして、一般性を高める手もあった気もする。本領はやっぱり「罪と罰の機械」系でしょうか。これとか「B1公爵夫人」とか、タイトルはじつにうまい。途中、あいだをつなぐ掌編が入り、邪悪版『刺青の男』のような構成。『蘆屋家』と好一対ですね。




【10月10日(日)】


 風邪が悪化してノドに来たなあと思ってたら、みるみるリンパ節が腫れてくる。こ、これはもしや、4年前に入院した頚部リンパ節炎と同じ症状では。しかし日曜日なのでどうしようもない。風邪薬を貪り食い、ベッドの中で原稿を読みつづける。




【10月11日(月)】


 症状はさらに悪化し、唾を飲むのも一苦労。ノドの上のところ、あごのすぐ下あたりがぷっくり腫れて異物感がある感じ。まあしかし、入院したときと違ってまったく飲み食いできないわけじゃないのでまだましか。
 仕事をする気力が出ないだけなので、一時間ずつ寝たり起きたりをくりかえしつつどんどん読む。これはこれで楽しいかも。水を飲むにも決意がいるのが難点。




【10月12日(火)】


 朝いちばんで新葛西クリニックに出かけて抗生物質と消炎鎮痛剤をもらってくる。中華料理屋でおかゆ。春巻も頼んだけど食べきれず。情けない(笑)。
 7割がた終わっていた《本の雑誌》の原稿だけなんとか仕上げて送稿。つづいて『忌まわしい匣』の推薦文のようなものを書く。下敷きは戸川純+皆川博子+林真理子(笑)。いいのか、そんなことで。

 家に帰って原稿の残りを読む。病気だと下読みの仕事はあっというまに終わるなり。




【10月13日(水)】


 抗生物質を飲んでも症状は改善せず、間欠的に発熱。明日はF.F.N.で出かけなきゃいかんのになあ。しょうがないのでまた新葛西クリニックに行って、ブドウ糖500ml+抗生物質の点滴を一時間半。透析用のベッドに寝かされたので快適。点滴受けつつトクマノベルスの新人の本格『不確定性原理殺人事件』を読む。徳間は理系本格(笑)という新ジャンルを開拓するつもりなのか。昭和50年代が舞台だがまるで30年代のよう。なんでこんな文体を採用するかね。事件は合理的に解決されますが、とくに驚きはない――っていうか、あれだけしつこく同じ原則をくりかえされたら、ああ、これがひっくりかえるんだなと予想がつくのがふつうでは。どうでもいいけど参考文献にブルーバックスの往年のベストセラーとか並べるのはやめたほうがいいのでは。

 家に帰って貫井徳郎『プリズム』を読む。をを、これは毒入りチョコレート事件ではないですか。ミステリ的な感覚では、警察側の動きが鈍すぎる気がするんだけど、現実の事件ではこれよりもっとスローですからね。リアリティのある事件を扱って、説得力のある仮説をこれだけ積み重ねられるのは見事。構成も非常に周到。しかしこれが週刊小説に載ってたのか。全四話なんですが、半年あいだをあけて読むと、なにがなんだかわからなかったのでは。




【10月14日(木)】


 今日も朝から点滴。トクマノベルス理系本格の先輩(笑)、湯川薫の二冊め、『虚数の眼』を読む。『不確定性』もこれも都筑道夫先生の推薦文つき。うーん。
 湯川薫のほうは、前作からつづくシリーズで、《犀川・西之園》フォロワーなんですが、キャラは弱く、文章は小説的ではない。まあ小説的な文章である必要があるかどうかというのはまた別の問題で、ヤングアダルト文体のような意味で、年少読者向けのパズラー文体みたいなものがあってもいい気はする。
 最近あちこちで森博嗣の影響が色濃い科学者パズラーを読むんですが、オレの中では相対的にますます《犀川》シリーズの評価が上がってゆく気が。探偵像とスタイルでは明らかに一時代を築いた感じ。しかも真似できない。
『虚数の眼』は、公開鍵暗号と量子コンピュータがモチーフ。いや、そりゃ量子コンピュータがあれば何桁の素因数分解だって簡単にできるでしょうが、因数分解専用機じゃないんだからさ。あんなレベルで実用に耐える量子コンピュータが完成してるなら、きみたちそこでそんなことやってないでしょう、みたいな。『金田一少年』のネタならこれでいいのかもしれんが、あの解決シーンはなあ。
(量子コンピュータを持ってるやつを突き止めるため、公開鍵暗号でロックされた密室に関係者全員を閉じこめちゃうのである)。

 点滴のあと、決死の覚悟でお昼ごはんを食べ、4時から京王プラザホテルでFFN。今回のゲストは林原めぐみ嬢。林原さんといえば、わたしにデジタルカメラをくれたとてもいい人です。
 しかし今日の大森は言葉をしゃべるのもままならない状態なので、全面的に京極さんにおまかせ。京極さんは『ビバップ』のビデオを見るなどして予習ばっちり。
「いや、でも考えたらけっこう見てるんですよ。『らんま』に『エヴァ』に『スレイヤーズ』は見てますから」
 うーん、オレより見てるかも。というわけで始まった林原×京極対談は、京極さんのシナリオ通り(推定)の進行。間近で見る林原嬢はやっぱりかっこよかったな。ときおり炸裂する林原節もナイス。最近の若い声優に苦言を呈したりとか。
 写真も撮影しましたが、さすがに林原ナマ写真掲載はリスクが大きすぎる気がするので、残念ながら公開できません。来月のアニメージュを見てね。

 対談終了後は、今後のスケジュールを巡って徳間書店K田女史×京極夏彦の丁々発止のやりとりが。引き受けるだけ引き受けて仕事をしないという選択肢(笑)もあると思うんだけど。

 今日は三省堂で綾辻さんのサイン会。さすがにまっすぐ帰ろうかと思ったが、京極さんが行くそうなんで、とりあえず挨拶だけはしていこうかとタクシーに同乗して渋谷へ。
 もうサイン会は終わってて、2階の喫茶店でお茶飲んでるところに合流。笠井さんとか、ダヴィンチのK本嬢(カートレースでアヤツジ名人を差しきって優勝したひとですね)とか、講談社のA元氏とか。
 結局、京極、綾辻、A元と四人残り、タクシーで六本木の中国飯店。おかゆしか食えないかと思ったが、フカヒレとかツバメの巣とかもオッケーでした。しゃべるのがしんどいので、主に食べることに集中。しかし食べるにも決意と覚悟がいるのでぐったり疲れる。




【10月15日(金)】


 ゆうべしっかり食べたのがよかったのかかなり回復。まだ腫れてるけど、飲食にともなう痛みはある程度緩和。
 締切を二週間近く過ぎている『サンタクロースのせいにしよう』の解説をなんとか完成。こんなに難航するとは……。

 午後から点滴。血液検査の結果、白血球値がまだ11,600あるとかで、明日もまた点滴らしい。点滴を受けつつ、『ブレア・ウィッチ』のゲラを読む。DTPなのでプリントアウトですが。デザイナーが異様に張り切ってて、本国版より凝ったレイアウトになってたり。
 発売予定は11月8日で定価1600円。アーティスト・ハウスの発行で、発売元はなぜか角川書店らしい(笑)。完成品を角川が買いとって取次に流すとかそういうことのようです。

 ミストラルで訳者校正を終えて帰宅し、バイク便で届いた本ゲラ(というか、編集チェックの入ったやつ)の疑問を解決。午後9時、アーティスト・ハウスのI島嬢とマイルストンで落ち合ってゲラをわたし、お役御免。嵐のような仕事でしたね。って10月になるまで手をつけなかったオレが悪いんだけど。

 一段落したので録画した10月新番のTVアニメを見る。

 小中千昭脚本の『THE ビッグオー』は『ダーク・シティ』+『ダークナイト・リターンズ』で素敵。デザイン的には、バットマンにビッグXが少々混入してるような(笑) ドロシー2はブレランのレイチェルですね。
『無限のリヴァイアス』は、バイファム99年モデル。描写が凝ってるのでわりと感心しましたが、今後はどうか。
 大地丙太郎監督の『今、そこにいる僕』、1話Bパートはまんま『未来少年コナン』。モンスリーに拉致されたラナを追って、コナンがいきなりインダストリアまで行っちゃった感じ。戦闘シーンの音楽がいまいち合ってない気が。小西寛子のセリフは一言だけだったので残念(笑)。安原麗子はなあ……。しかし今後の展開が予想できない。
 あとはなに見たんだっけ。アニコンII、『リスキー☆セフティ』『鋼鉄天使くるみ』の2本立てはすごすぎるというかあんまりだというか。少し考えたほうがいいと思う。
 でも今週はやっぱり『∀』が一番だよな。

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