【8月20日(金)】


 昼前に起きてちょっと仕事してから3時過ぎの新幹線こだま号(100系)で小田原へ。4時のバスに乗り、一時間弱で東芦の湯に到着。
 強羅、宮ノ下からバスで10分ぐらい上がっただけなのにめちゃくちゃ涼しい。すでに半袖では寒い感じ。
 バス停から、宿泊先の松坂屋本店までは徒歩2分。300年の歴史を誇る温泉旅館で、獅子文六「箱根山」のモデルにもなったらしい。じっさい建物も古く、増築部分と地下道でつながってたりするあたりが歴史を感じさせますね。フロントじゃなくて帳場だし。従業員も古くて、うちの部屋にやってきた仲居さんなんか、どう見ても八十歳は越してました。

 玄関前には、「インターカレッヂミステリー連合様」の文字が。ミステリもインカレの大会が開かれる時代らしい。

 とりあえずお茶をすすり、箱根の主のような仲居さんと世間話してから、とりあえずひと風呂。露天風呂じゃないのが難点ですが、大浴場はまあまあの広さで硫黄泉が二種類。午前九時まで入れるのも、この手の古い日本旅館としてはポイントが高い。

 ……と、ざっと浴場を視察したのち、すばやく部屋にもどって夕食。なにしろ涼しくて湿度が低いので体がすぐに乾く。東京からくらべると別天地で、これなら避暑で仕事するのもよさそうな感じ。

 部屋での夕食は、15,000円クラスの温泉旅館としては悪くない。岩魚の塩焼きと鹿肉の味噌焼きがメインで、突き出し各種とか。

 のんびり食べて満腹したところで、インカレでミステリな人たちがいるはずの大広間を覗きにいく。いわゆる全ミス連の合宿ってやつですね。今回のゲストは西澤保彦・恩田陸両氏(どちらも参加は明日から)。

 もっとも大森は参加者というわけではなく、ただおなじ旅館に泊まってるだけ――のはずだったんだけど、旅館の手違いで二泊めの予約がとれていないことが判明。しょうがないので明日の夜は西澤さんの部屋に泊めてもらうことで、幹事のおぐらくんに話をつける。

(というわけで、21日からは「金を払った正規参加者」なので、福井健太日記における、「大森さんは会場に紛れ込んでいたが」という表現には一応抗議しておく。)

 全ミス連合宿組も、今日から来てるのは全体の半分ぐらいで、なんかお通夜のようにしんみりしてましたね。食事が終わってもビールが来なくて、杉江松恋は発動してなかったし(のちに発動して、旅館の梁を破壊する寸前まで到達する)。

 大広間で逆密室連中とかとしばらく話をしてから、部屋にもどって朝まで仕事。ふとんにすわってちゃぶ台の上でキーボード叩くのはけっこう疲れるのだった。





【8月21日(土)】



 2時間睡眠で午前8時に起こされて朝飯。湯豆腐がうまいのでごはんをおかわりしたりとか。旅館の朝飯はつい食べ過ぎる傾向があるのはなぜでしょう。ふだんは朝飯なんか食べないのに。起きてないだけか。

 また風呂に入ってから、西澤さんが泊まる予定の部屋に荷物を移し、喫茶店で仕事をしよう……と思ったら喫茶店がない(笑)。バスで宮ノ下まで降りないとだめらしい。偵察がてら散歩に出ると、池のほとりに四阿を発見。まだ仕事の終わっていないさいとうよしことThinkPadを二台並べて(さいとうのVAIOは入院中なので535を貸与している)、缶コーヒーを飲みつつ働く。近所の犬が不審な目で見てましたが、ほっといてもらいたい。

 ふたたび宿にもどり、ロビーでコーヒー飲んでると、仙台エリご一行様が到着。
 仙台エリ嬢は、『南海奇皇』の島原夕姫役とか『メダロット』の甘酒アリカ役とかで活躍中の働く女子高生。どういう縁だかよく知らないけど、最近さいとうよしこがいっしょにカラオケとか行ってて、さいとうは今夜、女子高生部屋に宿泊する使命を帯びているらしい。
 はじめましてどうも大森ですとか挨拶すると、
「大森さんですかっ。読みましたっ」とか元気よく返されて驚く。
「え?」
「ネオランガのビデオの……」
 と言われて、そういえば南海奇皇つながりだったことを思い出すオレ。ていうか會川昇つながり? まだ第二シーズンのビデオとかもらってないのですっかり忘れてたなり。
 本人も忘れてるのに、なかなかできた17歳である。

 ちなみに仙台エリ組の同行者は、たぶん同級生のW辺嬢(注目すべき芸風の持ち主)、『南海奇皇』にも参加してる脚本家の西園悟氏、SFオンラインのアニメレビューでもおなじみの小林治氏。これに日下三蔵とさいとうよしこが加わるらしい。

 仙台エリご一行は、宿に荷物を置いてから、タクシー二台に分乗してテディベア博物館へ。午後からは全ミス連メインイベントのゲスト講演会があるというのに、ミステリ評論家・日下三蔵は、それを無視してテディベア博物館に去ったことはとくに記録にとどめておきたい。
 西澤保彦や恩田陸よりテディベアが好きとは知らなかった。やっぱり顔がクマだから?

 西澤部屋にもどってさらに仕事をしていると、ゲスト様がご到着。恩田さんはいきなりショートパンツでスポーティなお姿。去年のSFセミナーではOL服だったのに……。
 西澤さんのほうはいきなり見違えるように痩せている。ごはんを玄米に変えただけで15キロの減量に成功したらしい。おそるべし玄米ダイエット。

 2時半からは、旅館の会議室(皇太子も学習院のゼミで使ったことがあるとか)で講演会。というか、司会の人が質問し、西澤・恩田がそれに答えるといういつものパターンなんですが、用意してあった質問が一通り消化されたところで、
「では会場からなにか質問は?」
「はい!」と手を挙げたのが恩田陸(笑)。ここからふたりの掛け合いに突入し、後半はけっこう盛り上がりました。

 サイン会タイムは部屋にもどってさらに仕事。西澤さんがサイン会を終えて引き上げてきたのでいっしょに風呂に入る。
 部屋でのんびり涼んでると、風呂にいく途中のさいとうよしこが仙台エリ嬢を連れてやってきたので西澤さんに紹介する。
「えっ、女子高生なんですか? アニメの声優さんですか」と急に盛り上がる西澤保彦。「ネオランガは見てないんですよ……。そうか見なきゃダメだなあ。あ、サインとかもらっちゃだめですかね」ってをい。
 ま、SF新本格作家と女子高生声優の世にも珍しいツーショットが撮影できたのでよしとするなり。ちなみに西澤保彦ファンクラブはここです

 6時からは大広間で夕食。
 しかし、全ミス連ご一行は、ほとんど学生のゼミ合宿扱いなので、食事内容が劇的に違う。なにしろメインディッシュ然とした態度でお盆の上に鎮座しているのはチキンカツの皿なのである。いいなあ、チキンカツ。
 しかし、ゆうべの食事との落差を楽しめる大森と違って、OB参加者からは非難囂々。森英俊氏なんか真剣に怒ってましたね。「二度と来ないように、この旅館の名前をちゃんと覚えておこう」とか。あんなに怒ってる森さんを見たのははじめてかも。

 仲居さんの態度も露骨に違ってて、女子学生とかあごで使われる状態。
「え、わたし、こんなのやったことないんですけど」
「そう。じゃ、勉強ができてよかったわね。人生なにごとも経験よ」とか。
 宿代には授業料も含まれているらしい(笑)。
 OBのリクエストでしょうゆとか灰皿とかを学生代表がとりにいくたびに、まわりからは「がんばれ!」「負けるな」の声が飛んでました。古い旅館は楽しいなあ。

 食事が終わってから仙台部屋を覗きにいくと、こちらは超豪華。三方を庭に囲まれた超眺めのいい部屋で、昨日のメニューに西瓜のオマケつき。女子高生ふたりが浴衣の着付けとかしてて、すでに別天地である。

 全ミス連のほうは、恒例のオークションが9時からはじまるんだけど、すでに眠さが限界に達していた大森は、西澤部屋に引き上げて2時間仮眠。

 夜中に起き出し、会議室に行くとオークションが終わったところ。野村宏平氏が持ってきてたワセミス有志制作の自主映画『三大怪獣宇宙最大の決戦』を見せてもらう。
 主役の野村さんや監督の(現)品川四郎氏はもちろん、一瞬顔が映るセミロングの恩田さんのほか、飯野文彦とか、現アスミックの小川さんとか、SF大会でもおなじみの間片氏とか、知ってる人総出演なので笑えます。特撮技術と演技はともかく、カット割りやカメラアングルはだいたい往年の名作からの引用だし、サウンドトラックも名曲サンプリング状態なので、非常に安心してみられるクォリティ。さすがに同時期のダイコンフィルム作品には負けてるけど、特撮系自主映画としては相当のハイレベル。ちゃんと70分もたせるだけでもすごいね。

 突発的上映会終了後は、大部屋で(昨夜にひきつづき)ジェスチャーゲーム大会。杉江松恋の出題するタイトルを、参加者がひとりずつ順番にジェスチャーで演じ、まわりの人間があてるだけというシンプルなルール。
 大森の一巡目は『クリスマスのフロスト』で、これはサンタクロースを演じた段階で正解が出ました。二巡目は、なぜかポケミス縛り。杉江松恋の出題は『ヒッコリー・ロードの殺人』。ヒッコリーも殺人も無視し、「道路」だけで押したらだれか答えるだろうと思ったら、ロードが出た次の瞬間、森英俊氏が正解。マニアが多いと楽ですわ。
 しかし『EQMMアンソロジー2』とか出題するのはどうか。ほかにも、『ゴメスの名はゴメス』を、米を洗うところからはじめた人とか、さまざまな悲喜劇が観察されたらしい。

 いいかげん疲れたので部屋で寝ようと思ったら、恩田さんと西澤さんが酒盛りで盛り上がっている最中。邪魔するのも悪いので、話を聞きつつキーボードをたたく。午前6時就寝。





【8月22日(日)】



 またしても午前8時にたたき起こされ(倉阪さんはもっと悲惨な目に遭ったらしい)、昨日とは見違えるようにまずしい朝食をとる。湯豆腐なんてものはかけらも見当たりませんね。メインはいきなり揚げ卵です。ケチャップかかっててちょっとお得。朝から揚げ物とは、やっぱり修学旅行メニューなのか。

 しかし風呂は万人に平等である。のでまた風呂に入る。
 朝5時に男湯と女湯が入れ替わるんだけど、去年だか一昨年だかには、泊まった中曽根康弘はそれに気づかず女湯に入ってて、あとから入った女の子がきゃあと悲鳴をあげる事件もあったらしい。

 さあ、あとは家に帰って寝るだけだ――と思ったら、急転直下的展開で気がつくとなぜか仙台組に編入されている。まあなんだか一気に目が醒めるようなドラマを目撃して目が醒めたので、新編成の5人パーティに加わって、バスで宮ノ下まで降り、箱根富士屋ホテルで洋食のランチ。この高さまで降りてくるといきなり猛暑で死にそうになる。

 食事のあとはさらに箱根登山鉄道。線路で遊ぶな子供たち。まあ登山鉄道に轢かれて死ぬのは相当困難でしょうが。それにしても写真慣れしてる子はいちいち絵になるねえ。

 次にはっと気がつくと箱根彫刻の森美術館。死にそうになりながら歩いてると携帯に會川昇から電話がかかってきたりしてなにがなにやら。小林さんの携帯には堺三保から電話がかかってくるし。SFオンラインの書評原稿は落とすことにしたらしい>堺
 オレも物好きだよなあと思ってると世の中にはもっと物好きな人間がいて、箱根湯本までもどってた日下三蔵からも携帯に着電。
「いま食事が終わってこっちは解散になってんですが、そちらはいまどこですか」
「彫刻の森美術館だよ」
「わかりました。着いたらまた電話します」
 とわざわざもどってくるんだから原稿が遅い道理である。「お盆前締切の原稿がまだ終わってなくてたいへんなんですよ。もう二日寝てないのになあ。明日のお昼がぎりぎりだって言われてて」とかさんざん愚痴ってた人とは思えませんな。

 ようやく彫刻の森美術館に現れた日下三蔵がなにをしていたかというとこんなことである。アニメ業界の挨拶らしい(笑)。
 ちなみに買い物ポーズ集合写真でひとりだけポーズが違うのは、本の山を抱えているからだそうです。ふうん。まあしかし、彼がどういう人物かはこの写真を見れば一目瞭然ですね。

 猛烈に疲れたので、入口近くの喫茶店で休憩。ミステリな人たちがゆうべなにをしてたかの説明からジェスチャーゲームの話になり、日下三蔵に出題すると、いきなり椅子から立ち上がって踊りはじめるヒゲの評論家。ちょっと待て。
 なんだかんだで一時間ぐらいアニメジェスチャーゲームで遊んだあと、箱根湯本までもどって解散。東京駅からタクシー帰宅。

 さあ寝るぞと思ったら、殊能将之からとつぜん電話がかかってくる。話をするのは5年ぶりぐらいなんだけど全然まったく変わってません。前のまんまでした。

top | link | board | articles | other days