狂乱西葛西日記96年11月9日〜14日


【11月9日(土)〜10日(日)】

 お昼に浜離宮まで鷹を見に行く。「放鷹術浜離宮実演会」。案内チラシを久美沙織さんから送ってもらったし、こんな機会でもなきゃ浜離宮に行くこともないしなってことで。久美さんの夫のひとの波多野鷹氏は日本に8人しかいない放鷹協会公認の鷹匠なのである。まあべつに国家資格とかいうわけじゃないんだけど、ちゃんと認定試験があり、この十年間で合格者はふたりだけだとか。作家兼鷹匠っていいなあ。手塩にかけて育てた鷹をはるばるこんなところまで連れてきて大勢の人間の前に出して万一のことがあるといけないってんで、じつはあんまりえらい鷹は出てないらしくて、本日出演の鷹の中でいちばんえらいのは波多野さんの伏姫だとか。さすがによく言うことをききますね。オオタカは黄鷹だったり青鷹だったりするのだということをわたしははじめて知りました。本物の鳩を使った実演はさすがにかっこよかったす。ルアーの鳩をひきずりながら走る波多野さんの勇姿も見られてよかったよかった。

 5時に新宿の滝沢。今日は宮部みゆき原作の芝居、「龍は眠る」の観劇会で、いつもメンバーが集合――って話は我孫子武丸ごった日記既報のとおり。てぃんかーべるの芝居を見るのははじめてだけど、そうかあ、女性ばかりって点をのぞくとふつうの芝居なのね。よく考えると遊民社とか第三舞台とか東京グランギニョールとか、ストーリーがあってないような芝居ばっかり見てたので、こういう舞台はかえって新鮮だったりする。しかし刑事が出てきたりする話はむずかしいよね。そのへんのところをカットバックの多用でなんとかうまく処理してありましたが、ラブシーンとかの新劇っぽい芝居はちょっと恥ずかしいかも。

 芝居がはねたあとは、斜め向かいの寿司屋の二階で、劇団の人々といっしょに懇談会。ここでも京極人気は爆発している(笑) 綾辻作品とか岡島作品とか、ミステリ原作物を頻繁に上演してるだけあって劇団員もミステリファンが多いらしくて、作家ゲストにサインを求める人々多数。メンバーは綾辻、我孫子、京極、喜国雅彦、井上夢人、貫井徳郎、C嬢、国樹由香、浅羽莢子の各氏。肝心の宮部さんは体をこわして欠席。ひさしぶりに会えると思ったのになあ。
 日付が変わったあたりでタクシーに分乗して新宿に流れ、珈琲貴族で朝までしゃべる。京極さんから「絡新婦」話と新作の秘密をいろいろ聞く。書いてもいいんだろうか。情報を仕入れたらすぐに報せろとKGのこぐまさんからは厳命されてるんだけど、あそこに書くのはこわいよな(笑) じゃあまあひとつだけ、次回作『塗仏の宴』のキャッチは、
関口××!←著者の希望により伏せ字になりました。許せ。
だそうです。まあでも一年後かな。あとはこのミスのベストを肴に盛り上がる。2テーブルに分かれたんだけど、我孫子さんは浅羽さんのとなりの席でえんえん眠りこけていました。と告げ口しておこう(笑)
 5時過ぎに珈琲貴族を出て解散。めんどくさいからタクシーで帰ろうかと思ったけど、我孫子さんが、
「もう電車動いてますよね。じゃあ電車にしましょう」
 というので、都営新宿線、東西線を乗り継いで帰る。見上げた経済感覚である。さすがは関西人――って、綾辻さんはいつもタクシーだけど(笑)
 メトロセンターの中卯で我孫子さんと朝ごはんを食べ、別宅のほうでしばらく雑談して、8時ぐらいに自宅にもどって爆睡。

 その合間に柳下から電話があり、なんか中野で上映会とかゆっているのに生返事をしたことをすっかり忘れてたんだけど、9時ぐらいに起きてぼうっとテレビを見ているうちに思い出し、11時から「キネ旬襲撃ビデオ」を流すとかゆってたなあ。まだ間に合うかなあ。とだらだらしつつ服を着替えて、午後11時直前に出発。中野といえば中野武蔵野ホールだろうと見当をつけて11時半に到着してみると、肝心の襲撃ビデオ上映は終わっていた(笑) が、へんな映画の予告編大会を見られたからまあいいや。河崎実監督にも会えたし。またバカなオリジナルビデオを撮るらしい。なんだっけ。なんかのパロディなんだけどあっというまに忘れちゃったよ。タイトル聞いただけで爆笑したんだけどなあ。
 一応映画の上映もあって、怪作「幻の湖」。公開当時見てるはずなのに、ラストシーンの笛を宇宙空間に置く(笑)ところしか覚えていなかったので驚く。ここまで忘れるかね。
 なぜ唐突に宇宙が出てくるのかいくら考えても思い出せなかったのだが、映画を見直して納得。理由はないのである(笑) いやあ、やっぱりすごいっす。
 半端な時間に劇場を追い出されたので、柳下夫妻、高橋良平氏とタクシーに乗り、高橋さんと馬場のジョナサンに寄って始発までSF話。


【11月11日(月)】

 3時、長野放送の取材。ローカル局なのに午後7時台の一時間番組があって、「NBSスペシャル」とかいうその枠で本の特集をするんだとか。で、おすすめ本取材にわざわざ東京までやってきたという。大阪では中島らも、東京では内藤陳と大森のインタビューを収録するんだそうで、謎の人選である。と思ったらディレクターの人がけっこうSFと新本格の人だったので納得する。しかしゴールデンの番組を趣味でつくっていいのかっ(笑)
 昨日の武蔵野ホールからずっと起きてるので眠く、頭が働かないのでぼんやりしたまま取材に答える。クルーはディレクターとカメラマンとあとひとりだけ。どういうふうに映っているかと思えばおそろしいが、どうせ編集で2、3分になるだろうし、長野ローカルだからなんでもいいや。しかしなぜ長野。


【11月12日(火)】

 だらだらやってたエイリアンSFの原稿を仕上げる。あとは横溝賞二次の原稿読み。


【11月13日(水)】

 4時アスキー。ビル・ゲイツ本の新版の打ち合わせ。11月中に第一陣、12月20日に最終原稿入稿とか、ムタイなリクエスト。まあ労働効率は高いんですけど、しかし年末だしなあ。
 今月はまだジョン・クルートのイラストSF百科が残ってるのに、ミステリマガジンのスタージョン短篇の翻訳が入ってるし。横溝正史賞とホラー大賞の二次もある。それなのに、今年いっぱいで新潮社を退社して朝日新聞に移籍が決まってる新潮文庫の阿部くんが電話してきて、「新潮社最後の仕事ですから」とかゆって佐々木譲の解説を頼まれて、それは守備範囲外だと断わったのに、それじゃあかわりに宮部みゆきを、とかゆってくるし。まあ田辺書店の連作短編集じゃ引き受けないわけにもいかないのである(あれのモデルの南砂町のたなべ書店はよく利用しているのだった)。それにしても、締切は12月2日でひとつとかナメたことを言いやがって、今日は11月13日だぜ。2月新刊の解説2本ともまだ決まってないあたりが阿部くんらしいところで、だいたいその前に一本、長谷川くんから頼まれている椎名誠の『中国の鳥人』の解説が今週締切だったりするのだが、しかし宮部さんにはこのまえ『龍は眠る』の芝居見せてもらったばっかしだし、いずれSFマガジンの連載でインタビューさせていただきたいとか思ってたりもするので、新しい仕事はいっさい受注しない決意はこうしてもろくも崩れ去り、ああそういえば今週は週刊現代の『絡新婦の理』の書評とか、オブスキュア・インクの志賀さんから無理やり頼まれたBNNの映画ムックの仕事もあるんだけど、志賀さんは頼むときだけ自分で電話して、あとは社員教育のつもりなのか、若い娘に原稿催促させてて、まあそれはいいんだけどさ、まるで事情もわからず機械的に電話をかけているその編集者の卵だかなんだかは自宅に電話してきて寝ぼけたさいとうよしこが電話をとると、大森望が女性か男性かも知らなかったと見えてそのままさいとうよしこに催促マニュアルを棒読みして、「おねがいしておりました原稿はもう締切を過ぎております」とかゆったそうで、さいとうはけっこう激怒してたけど、おれの携帯にかかってきた電話もそれをそのままテープでくりかえしただけのようなもので、原稿の内容についてちょっと質問すると当然「しばらくお待ちください」になり、「お待たせいたしました」と言ってもうちょっともののわかった先輩女性編集者が出てきたんだけど、「原稿の最後に主要作品のリストをつけてください」(エイリアンSFの系譜とか、そういう概説原稿なのである)とだけ言われても、「エイリアンSFのリストっていうけど、10タイトルから300タイトルくらいまで幅がありうるんだから、おおむね何点程度のリストが必要なのか、まずそれを明確にしてもらう必要があるし、だいたいそれは年代順に並べるんですか、ジャンル別に並べるんですか、リストに盛り込むべき情報はどの程度なんですか」と質問したら、「少々お待ちください、志賀と相談してみます」とかいう話になるわけで、そんなもんを待っててもしょうがないから「じゃあ決まったらファックスしておいてください」と電話を切ったわけだが、家に帰るとそのファックスが来ていて、早速リストをつくったりしないといけないわけである。とかゆってると「週刊読書人ですが」と電話がかかってくるのでもう新しい原稿は引き受けないぞ、ぜったい断わってやると思って、「いまちょっと忙しくてですね」と言いかけると依頼ではなくて催促で、すっかり忘れていたけれど、『フィリップ・K・ディックのすべて』の書評を受けていたのだった。やれやれ。


【11月14日(木)】

 ここんとこ急に寒くなったせいか夜中に喘息の発作が出て、そんなにひどくはないんだけど何回も目が覚めちゃうのであまり寝られず、今日も午前8時とかに起き出してビルディに行ったんだけど調子悪くてキーボードたたく気力がないので横溝賞の原稿を読む。
 荷物を置きに一回家に帰ったら、不動産屋の担当者から電話。たわけたことを言うのでどなりつける――ことは、温厚な性格のわたしはしないが、白石朗が多少乗り移ったような口調で応対したかもしれない(笑) 不動産屋と銀行屋の無能のせいでめんどくさいことになってるわけですが、まあそんな話をここに書いてもしょうがないな。弁護士の読者がたくさんいるとも思えないので、まあなるべくエネルギーを消耗しない解決策を考えるしか。
 1時半、WOWOWの会議。銀座にまわって、ヤマハホールで「ジングル・オール・ザ・ウェイ」の試写。「パワーレンジャー」アクションフィギュア争奪戦の話。シュワルツェネッガー持ってきたところで勝ち、みたいな映画。中盤ダレるけど、結末は強引に盛り上げる。パワーレンジャー真似の特撮ヒーローTV番組がすっかりアメリカナイズされているのが笑える。
 ファーストキッチンで原稿一本読んで帰る。あーぜんぜん仕事する気がしない。しかし明日は集英社のパーティだしなあ。


【11月15日(金)】

 ミストラルで週刊現代の原稿。白石朗登場。翻訳業界話。堺三保登場。アニメ業界話。「しずかなあやしい午後に」を見にいこうと思ってたのに時間がなくなったので、まっすぐ集英社3賞のパーティ。柴練賞を連城さんが受賞したので、S口氏とかも来ている。タトル・モリの森社長と8年ぶりくらいに会った気がするな。イングリッシュ・エージェンシーの澤さんにユニの下野さんと、エージェント総登場。森さんはあいかわらず元気である。
 久美沙織さんは京都フェスに備えて京大系新本格を読みまくっているらしい。麻耶雄嵩より我孫子武丸だそうです。
「人形もいいけど、我孫子さんはやっぱり殺戮かな」だって。あとはだれがいたっけ。京都勢は全滅状態、二階堂さんは欠席なので新本格系は少ない。編集者が多い。新潮社の元同僚多数。
 パーティ終了後、C嬢が予約しておいてくれたレインボーラウンジの席で閉店までうだうだ。貫井徳郎、加納朋子、笠井潔、山口雅也、喜国雅彦にあとから井上夢人、京極夏彦が合流。笠井さんは新刊が出たのでFSUIRIを覗きにいって、「矢吹駆の密室」ってのがあるらしいことを知り、見にいこうと思ったけど発見できなくてどこにあるのか教えてくれと言われたんだけどわたしも知らない。その場でログをチェックしてみたけど確認できず。
「たぶんパティオかHPでしょう。この管理人のゆうこさんって人にメール出して、『入会したいのでよろしくお願いします』と言えばいいじゃないですか」と助言する(笑) でも会議室の発言を見るかぎりオープンな場所みたいだしなあ。FSUIRI関係の人は教えてください。
 笠井さんが名古屋で森博嗣氏に会った話をはじめたので、あ、そういえばその話は森さんの日記で読んだなあと思って、その場でキャッシュに入ってる浮遊工作室を笠井さんに見せる。多少インターネットに心が動いているらしい(笑)
 メフィストに法月氏が書いたエッセイを読んで貫井くんがS口氏に対する怒りを爆発させている――とかいう話にはじまって、我孫子武丸の怒りをめぐる話題とかで盛り上がっているところにC嬢がかめちゃんを連れて登場。
 かめちゃんは京極夏彦の真向かい、笠井さんのとなりにすわるなりいつもハイテンションを爆発させ、笠井茫然、京極苦笑。かめやっこ独演会が2時間つづく(笑)
『絡新婦』の週刊現代の書評を書いてる最中で本を持っていたので、京極さんにサインをもらう。よく考えたらはじめてだな。しかしどうせならもうちょっときれいな本にすればよかった(笑) んで、先週聞いた「おいしいネタ」の公開許可をもらおうとしたら拒否されたので、遡って伏せ字にしました。さあ、××にはなにが入るのか、みんなで考えよう!
 あとはなんの話だっけ。あ、『不夜城』の評価は京極・笠井間でも高かったすね。それと『名探偵の掟』話とか、「『絡新婦』は京極夏彦が『龍臥邸事件』にたたきつけた島田荘司への宣戦布告である」話とか(京極さんが言ったわけじゃないので誤解しないように(笑))。しかしすべてはかめちゃんの語る森雅裕話の前では色褪せてゆくのだった。
 12時過ぎ、銀座方面に流れるCかめコンビと別れタクシーで西葛西。ロイヤルホストで途中まで原稿書いてから帰って寝る。


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