【10月26日(土)】

 23日の水曜日にとつぜん草思社の橋口さんから、
「『インターネット中毒者の告白』の見本ができました」と電話がかかってきて、受け取りがてら飯田橋のパリ東京食堂に集合してごはんをごちそうしていただきました。  という話を日記に書き忘れているという指摘を共訳者から受けたので、あわてて記録にとどめておく。そういえばそうだったよね。突発的な出来事はカレンダーに記入されないので、2日もたつと忘却の彼方なのである。
 パリ東京食堂は、飯田橋からエドモンドのほうに歩いていく道の途中にあるフランス家庭料理のお店。馬場のタベルナのフランス料理版みたいなもんですが、コストパフォーマンスは非常に高い。満員だったけど予約も受け付けるし、これはおすすめ。柳下夫妻とうちの夫婦とSandy橋口と5人で食いまくり。今度飯田橋周辺で遊ぶときはここで食事だな。
 J・C・ハーツ著、大森望/柳下毅一郎訳の『インターネット中毒者の告白』は著者近影(かわいいほうね)をあしらったスマートな装幀(ちなみに著者はハーヴァード、訳者は京大・東大卒なので、デザイナーの人は「高学歴本ですね」と驚いていたらしい(笑)。旧帝大ブラザーズか(笑)) あんまり売れそうな気はしないんですけど、連休明け、11月5日の配本らしいのでみなさまよろしく。IRCな人とかfjな人とかはマストバイでしょう。
 草思社にはパブリシティ専門の担当者がいるそうで、その人と橋口さんで電話をかけまくり見本を送りまくった結果、4日に来日するハーツのスケジュールは埋まりまくり。インターネット雑誌各誌はもちろん、週刊誌や新聞も取材に来るらしい。やっぱり著者がおねいちゃんだってのとタイトルが効いたんですかね。まあこれで1、2回増刷できればありがたいことである。

 26日土曜日はなにしてたかというと、風邪の状態が最悪で寝てました。ホラー大賞の下読みの箱をついに開けて、長編をどかどか読む。いまいち。


【10月27日(日)】

 ゲームウォーカーのレビュー用のプレステソフト、綾辻行人監修の『黒ノ十三』を読む。ホラーのオリジナルアンソロジー(うち一篇は既発表)。ゲームとしては最低ですが(分岐箇所でしかセーブができない)、小説の媒体としては秀逸。活字で読むと読み飛ばしそうなパタナイズされたプロットでもけっこう楽しく読める。10時間かけて一冊じゃ効率悪いけどさ(笑)
 早見裕司はさすがにうまい。諸星大二郎風の「雨に泣いている」とか、だれか日本作家(阿刀田高?)の短編で似た話のあった「女嫌い」とか、オリジナリティはないけどうまくひねってまとめてある。そういう意味では、「猿の手」現代版の「ラミア」(福田正吾)も、サウンドノベルの特色を生かしたスプラッタ場面が効果的。しかし最後は、「そしてお母さんとずっと暮らしました」で終わったほうが不気味だったかも。
 あと、やられたと思ったのは「運命の扉」(火鳥一人)。もうちょっと整理されていれば傑作。活字で読んでれば怒ったかもしれないパターン通りの作品についても、たいていのゲームのシナリオよりはよくできてたりするのであんまり腹は立たないし、角川あたりでプロ作家集めてゲーム&書籍のタイアップ商売ができそう。
 名前を知らない人たちは京大ミステリ研の現役メンバー(?)が中心みたいだけど、水準はクリアしている。監修者の書き下ろしがないのは、やっぱり鮎川さんの先例にならったのだろうか(笑)

 あとはホラー大賞のつづき。短編が50本もあって死にそう。読むのはいいんだけど、評価表の記入がめんどくさい。


【10月28日(月)】

 3時、トーレン社長と茜新社。野上専務と打ち合わせをしてから、江古田のスタジオかつ丼で真鍋譲治画伯から「ドラクゥーン」の原画を受けとり、デニーズでお茶。
 家に帰って本を読んでたら水鏡子師匠から架電。
「明日なんやけどなあ。どういう予定?」
「いやべつに。青心社の用事が終わったら帰ろうかと思ってるんですけど」
「佐脇んとこに泊まるんやったら、なんとか行けるんやけど」
「…………」
 明日大阪に行くから、ギャザりたいなら相手してもいいよと某ホームパーティで伝えたら、「仕事が忙しいので無理」という返事が古沢さん経由であったばかりなのに。大阪まで来て二時間ギャザって帰る余裕はないが、朝まで遊んでひと眠りして午後から仕事に行くならOKってことらしい。なんなんだか。


【10月29日(火)】

 1時の新幹線でトーレン社長と大阪出張。新大阪から御堂筋線で本町まで出て、青心社の小笠原さんに迎えに来てもらう。会議室で青木社長を交えて商談。といっても士郎さんの新作は存在しないので、CD-ROMとかカレンダーとかの話。プロダクションIGがやってるPS版「攻殻機動隊」のアニメーションはめちゃめちゃいいらしい。原作ファンには押井守の劇場版より評判よかったりして。監督は北久保弘之。
 会議室で陽子さん(マンガトリオ)に買ってきてもらったたこ焼きをごちそうになってると、細美遙子から携帯に電話。
「何時頃来るの? スミさんもう来てるけど」
 昨日の電話では、神戸に行けるのは9時頃だとゆってたくせに、恐るべし水鏡子。まだ7時だよ。小笠原氏いわく、
「スミさんの場合は、遠足の前の晩に寝られへん子供といっしょやから。マジックができると思たらいてもたってもいられんで、ぴゅーっと神戸まで行ってもうたんちゃうか」
 卓見である。ごはん食べてから行くから着くのは9時は過ぎると思うけど、と細美に伝えてから、四人で梅田に出て夕食。トーレンはのぞみで東京にUターン。わたしは東海道線で神戸の佐脇邸。大震災で壁に穴があいたことで有名なマンションですが(その改修工事のあいだ、佐脇一家は姫路の仮設住宅で暮らしてたわけですね)、もはやその痕跡はない。
 グループSNE創立メンバーの佐脇用平はゲームの達人として知られてて、麻雀、カードゲーム、ボードゲーム、コンピュータゲームなんでも来い。あらゆるジャンルで無敵を誇るゲーマーなんだけど、MTGに関しては投下資本が少なく、あんまり強いデッキは組めていない。一方の水鏡子は、すでに投下資本は10万を越え、ミラージュも大量に(ホビージャパン価格で)買い集め、手持ちカードのリストを肌身はなさず持ち歩いているんだけど、
「いやあ、リストつくってるとデッキ組む時間がなくてなあ」
 と本人が言い訳するとおり、デッキは全然強くない。秘宝の防御円にミシュラのアンクのコンボを決めてご満悦なんだけど、アーティファクト除去手段がないもんだから、冬の宝珠出されてマナがなくなると防御円が起動できず、いちいち2ライフ払って土地を出しているありさま。大森の百枚デッキ(笑)の敵ではないのだった。けっきょく、組みかけのゴブリンデッキで初の一敗を喫したものの(これだってスミさんはLifeforceをThougtlaceで書き換えて赤呪文オールカウンター体制に序盤で持ち込んでおいて苦戦したのである)あとは全勝。とはいえ水鏡子師匠は、佐脇にゲームで勝てたというのでたいそう満足そうなのであった。それにしてもほとんどデュエルせずにカードばかり集めてる人って謎だよな。
 しかしいちばん謎なのは古沢嘉通。ひとり孤独にだれも聞いてくれないMTGの話をKSFA例会でしつづける水鏡子を見かねて、話を合わせるために(?)カードを集めはじめ、インターネットでシングル買いまでしてレアをそろえ、7万だか注ぎ込んだあげく、一回もデュエルをしないまま、「もう飽きたから売る」といって集めたカードを売り払いはじめたのだから、これはもう無償の愛というべきでしょうか。


【10月30日(水)】

 途中から、4thとクロニクルの未開封ブースター使って、3人でブースタードラフト。ひとり4パックずつ持っていっせいに開封し、自分が欲しいのを一枚とって残りを隣の人にまわし、まわってきたやつからまた一枚抜いてまわし――というのをくりかえして自分用のカードを60枚だかそろえて、その中から40枚デッキをつくるというシステム(ランドは適当に混ぜていい)。シールドデッキだとあたりはずれがあって不公平だけど、この方式ならどんなデッキになっても自業自得なわけですね。わたしは火の玉と稲妻と天秤を引いたので、白赤デッキつくって勝率8割。

 とかやってるうちに朝になり、7時に佐脇家を出て新幹線で東京にもどって爆睡。


【10月31日(木)】

 1時半WOWOW。会議のあと新宿2丁目で4時にトーレン社長と待ち合わせて辰巳出版で商談。5時、靖国通りをてくてく歩いてDUG。上がイタトマになってるのでやや茫然としましたが、地下に降りて、水玉螢之丞画伯、技術評論社の佐々木由美嬢と、TheBASICではじめる新連載の打ち合わせ。コンピュータの出てくるSFを毎月一冊紹介するっていうありがちな企画なんだけど(半年くらい前、まったくおなじ企画の連載をよく知らない初心者向けパソコン誌から頼まれたときは「時間がないので」と断わった(笑))、水玉さんがいっしょにやってくれるならいいかも。水玉さんが断わったら、じゃあしょうがないですねと断わる予定だったんだけど、どういう風の吹き回しか水玉さんのOKが出たので、来月から早速実現してしまうのである。まあ本文は水玉さんと対談形式にしちゃえば楽だろう、という読みなんだけど、どうなることか。
 コンピュータSFねえ、どんなのがあったっけ、と一応打ち合わせ風の話になるんだけど、 「やっぱりシャルルマーニュでしょ、それは」とか水玉さんがいきなり濃い方向に振るので、置き去りにされてしまう佐々木嬢がちょっとかわいそうだったかも。とりあえず『電脳都市』に出てこないタイトルでやるみたいっす。一回目は『ウェットウェア』か『エンダー』か、まあそのへんの無難なやつね。
 打ち合わせのあと佐々木嬢は会社にもどり、水玉さんと紀伊国屋に寄ってから中村屋で晩御飯。「サクラ大戦」とか「ラングリッサー3」とか「ポポロクロイス」の話。「ポポロ」については完璧に意見が一致する。やっぱそうだよね。

 家に帰ると講談社ノベルズの新刊の書評用見本が来ていた。『絡新婦の理』は本文829ページ。たしかに『鉄鼠』より長い(笑) しかしとりあえず、週明けには西澤保彦の解説原稿をミステリマガジン用に書かないといけないので、まず『麦酒の家の冒険』から読みはじめる。匠千晶シリーズなんだけど、いやあこんなネタを長編でやるとわ。全篇ディスカッション小説。登場人物はひたすら推理している。なぜこの家にはビールしかないのか? これだけの手がかりからこの結論に到達できるのかどうかはよくわかんないけど、西澤ミステリとしては納得できる小説。じっさい西澤保彦の作品のつくりかたって吉村達也に似てるよね。ただし徹底の仕方が全然違う。吉村達也ならもっといろいろサービスして、結果的にビールの謎がワンノブゼムになっちゃうんだよな。

日記の目次にもどる
ホームページにもどる
リトル東京ページにもどる