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メッタ斬り!版 131回芥川賞、直木賞選考会
●コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』(→amazon | bk1)。ISBN:4-15-208553-3 | CW日本語サイト | CW特集@bk1
●豊崎由美/大森望『文学賞メッタ斬り!』(→amazon | bk1 | ABC | eS! books)。ISBN:4-89194-682-2
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●シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon


【7月31日(土)】


 トヨザキ社長に呼ばれて、池袋コミカレのライター講座で、翻訳家/コラムニストの岸本佐知子さんと対談(豊崎由美司会)。
 トヨザキ社長のスパルタ教育が効いたらしく、生徒の出席率はいきなり半減してました(笑)。授業料は前納なのにもったいない。席が空いたところには、かわりに短期コースの生徒を受け入れたそうで、コミカレ丸儲け? このシステムなら生徒をしごきまくる先生ほど優秀かも(笑)。さらに書評講座もはじめるらしい。躍進するトヨザキ講座。いずれ全国津々浦々にフランチャイズを展開しトヨザキ駅前留学とか。西葛西校ができたら雇ってください。

 岸本さんとは初対面だったんですが、司会がプロなので対談はスムースな流れ。「訳者が手柄を立てようと思ってる翻訳は嫌い」という話に妙に納得。それにしても、うらやましいほど優雅な仕事ぶりのような……。

 この対談を原稿化して提出するのが次回の課題で、最優秀作品は署名入りでエキサイト・ブックスに掲載されるらしい。というわけでエキサイトから対談謝礼まで出てラッキー。

 終了後は、トヨザキ社長の奢りで打ち上げ宴会に参加。いろいろと貴重なものを見聞きしたような気がするがもはやよく覚えていません。



【8月1日(月)〜2日(火)】


 小松左京賞一次選考通過作を猛然と読む。



【8月3日(水)】


 九段下の喫茶店で角川書店G嬢と落ち合い、ホラー文庫から刊行予定の某新人作家の某SF作品に関してあれこれと意見を言う。いやあ、SFは難しいねえ。

 そのあと、小松左京賞最終候補作決定会議@角川春樹事務所。今回も本命不在ですが、最終候補のタマはそんなに多くないので比較的すんなり決まる。最終候補に残った3篇は、それぞれ際立った特徴があり、テーマも文章もばらばら。小松さんがどれを評価するのかちょっと予想しにくい。惜しかったのは「黒瀬川施餓鬼考」。

 終了後は例によって神保町の咸亨酒店で打ち上げ。



【8月5日(木)】


 三省堂本店の若島正×柳下毅一郎『ケルベロス第五の首』トークショーを見学。SFマガジンの座談会よりこっちのほうがよっぽど突っ込んだ話になったような。しかし、ケルベロス読んでない人にはほんとにちんぷんかんぷんの話だったのでは。文学探偵・若島正の名推理が随所に炸裂、なるほどと膝を打ったことも二度ほど。メスが凶器(ウソです)だとは気づかなかったなあ。
 柳下解釈と鋭く対立するところもあり、聞いてるかぎりでは柳下のほうが分が悪そうだったが、はたして真実は!?

 終了後は国書刊行会の仕切りで、向かいの居酒屋へ移動し、打ち上げ宴会。『ケルベロス第五の首』を読んでいない中原昌也が例によっていちばんうるさい。
『フィネガンズ・ウェイク』を大胆な解釈で映画化した名作『美女濡れ酒場』の樫原辰郎監督も来てました。このおっさん、どこで会った人だっけ。と思ったら、オレが一方的にDVDの特典映像で顔を知ってるだけなんでした(笑)。しかし、だらだらしゃべってても、昔から知ってる人のような気がするのはなぜだろう。そういう顔?
 しかし、夜が更けるに連れて、樫原監督は中原昌也と同じジャンルに属する人であることが判明。この二人はとにかく声が大きく、しかも同じ話をしつこくくりかえす癖があるのでたいへん迷惑。「この三島賞作家が!」「このピンク監督が!」と罵倒しあうのはふたりだけでやっていただきたい。
 いちばん迷惑したのは若島さんで、腰を上げて帰ろうとするたびに、中原昌也が、
「まだナボコフの話をしてないじゃないですかあ! 今日、僕は若島先生と『ディフェンス』の話をするために来たんですよ! まだナボコフのナの字も出てませんよ!」
 と大声で引き留め、若島教授があきらめて腰を下ろすと、また全然関係のない(思いきりくだらない)話をえんえんとはじめるのだった。
 それをたしなめるべき柳下毅一郎は酔眼朦朧で眠り込み、椅子から思いきり派手に転げ落ちるのだった。嗚呼。
 二番めに迷惑したのはハーパーズ・バザーのバタやん。バタやんが定着したらいちばん迷惑かも。

 その中原昌也を「快男児だなあ」と一言で評することのできる若島さんは人間ができていると思いました。



【8月6日(金)】


 渋谷セルリアンタワーのエンターブレインえんため賞授賞パーティをちらっと覗き、ひさしぶりの人やはじめての人(『このラノ』の草三井くんとか、『吉永さん家のガーゴイル』の田口仙年堂氏とか)に挨拶してから、地下鉄で飯田橋。猛暑の神楽坂をタクシーで昇り、毘沙門天の前で降りて路地を入り、料亭・弥生に到着。

 いやあ、矢来町の会社に8年以上も勤めてたけど、神楽坂の料亭は初めて。神楽坂の路地を一歩はいると、そこには見知らぬ世界が広がっているのだった(路地裏の店で行ったことあるのは、め乃惣、もきち、鳥茶屋くらい)。しかも、20代〜80代(推定)の芸者衆が5人もつくというたいへんなお座敷。この驚くべき宴席がなにかというと、すでに吉野仁氏が日記で書いている通り、第一回このミス大賞受賞作『四日間の奇蹟』文庫版の50万部突破記念。薄謝でこきつかってきた選考委員を宝島社が接待してくれるという豪気な会なのである。

 というわけで、本日のホストは蓮見清一社長。その昔、豪華客船クルーズのときに遠くからご尊顔を拝したことしかなく、あとはさまざまな武勇伝を伝え聞くぐらいだったんですが(その一端は、「いちばちモン」で読める。宝島愛読者は必読)、しばらく前、宝島社このミス大賞担当のI倉局長から、一冊の謎の本が送られてきた。著者は蓮見明美、タイトルは『アラビアン・ホースに乗って ふたりで挑んだ遥かなるテヴィス』(→amazon | bk1)。表紙には馬が描いてあります。なんか、アメリカでやってる馬の耐久レースに出た日本人のノンフィクションらしい。内容紹介にいわく、
ある日、TVを観ていた夫が叫んだ。「この乗馬レースに 出たい!」還暦を前に、それまで馬に乗ったこともないのに、いったい何を言い出したのか? だが、それから1年半のち、夫はアラビアン・ホースに跨り、世界一過酷だと言われるアメリカの『テヴィス・カップ・ライド』に出場 していた。人馬一体となって荒野や山岳の厳しいトレイル 100マイルを、一昼夜かけて走りぬくというレースだ。人生 の後半に、自分をもう一度燃焼させたいと願う男が不撓不屈の闘志で、度重なる不運にも負けずに掴み取った栄光… それはたった1個のシルバー・バックルと彼を支えた多く の人々の友情だった。夢と勇気と感動のノンフィクション!
 ふうん、物好きな人もいるもんだねえ。ま、オレの人生には関係ない本だな。と処分本の山に積もうとしたとき、ふと気づく。
 この「夫」って……出版社社長? ってことは、もしや、「夫」のハスミさんは、蓮見圭一でも蓮實重彦でもなく……蓮見清一ですか?
 つまりこれは、宝島社の社長がなんだかものすごいレースに挑戦した経緯を奥さんが原稿に書き、洋泉社から出版したノンフィクションなんですね。
 そういうことなら一応読んどかなきゃいけないかなあ。と思いつつぱらぱらページをめくりはじめたら、いやまあこれが面白い。正直、まるで縁もゆかりもない人が主役だったら、ここまで面白かったかどうかはよくわかりませんが、あの宝島社の社長がですよ、ものすごい勢いでなにかにハマってすばらしく豪快に突き進むサマがありありと描かれている。カネの使い方もたいがい豪快だけど(いくら使ったか書いてないのがこの本の難点)、生まれてこのかた一度も馬に乗ったことのない59歳の会社社長が、1年半後には地上で最も苛酷な(そうらしい)100マイルの乗馬耐久レースに出たっていう話ですからね。いやはや。
 こういう人が社長をやってる会社で働くのもたいへんだろうなあと思うけど、はたで見てる分にはめちゃめちゃ面白そう。

 というわけで、この本を一気に読了したおかげで話のネタに困ることもなく宴席はなごやかに推移し、レースのあれこれを聞く一方(今年のテヴィスカップも完走して、昨日帰ってきたばかりらしい。化物か?)、最近の花柳界の状況や、細木数子etc.の各界著名人にまつわる衝撃のエピソードその他を、業界の生き字引みたいな姐さんがたから伺ったりしたわけですが(せっかくの機会なんだから、蓮見社長に昔の宝島のことをいろいろ聞けばよかったとあとで思った。植草甚一の話とか)、そのとき突然、茶木則雄が廊下でダウンする事件が発生。よほど体調が悪かったのか、思いきり悪酔いしたらしく、いやもうたいへんなことに。杉江松恋の記録をはるかに凌駕する周辺事態が出来し、今後十年は語り種になりそうですが、お店にはご迷惑をおかけして申し訳ないことでした。

 その茶木さんをなんとかI局長が一階に連れ下ろして店の前からタクシーに乗せたあと、同席していた神楽坂芸者のひとり、千佳さんが最近はじめたという神楽坂の会員制ワインバー、chikaへ。社長は悠然と引き揚げていきましたが、ここの勘定も社長のツケ。さらに芸者衆3人もいっしょにやってきて、(吉野さんも書いてますが)とくに香山二三郎氏はいつになく饒舌・上機嫌に盛り上がってました。

 ベテランのゆみえさんは、かつて阿奈井文彦が小説新潮に連載していた『アホウドリの女性不案内』だかなんだかで花柳界代表としてインタビューされたこともある人だそうで、めちゃめちゃ事情通。めったにない機会なので、芸者業界のあれこれを根掘り葉掘り取材。着物とかお稽古とか置屋システムの謎とか。

 神楽坂の花柳界に関するサイトはあんまり見つからないんだけど、本多横丁・八千代鮨のサイト内にある芸者さんページに、神楽坂芸妓をどり「華の会」の動画が載ってるのをその場で発見。「わっ、こんなのが載ってるなんて知らなかった。あ、これあたし!」とか「こっちが小奴さん」とか「このプログラム、由み栄の『え』の字が間違ってる!」とか、盛り上がってました。
 いちばん若い華丸さんだけはMac G4使い(デザイナー出身)で、どうすれば芸者になれるのかまずインターネットで検索してからこの業界に入ったという強者なんだけど、業界全体としてはあんまりIT化とは縁がないらしい。
 向嶋の置屋「澤野屋」みたいに、詳しい情報がいろいろと載ってるサイトもありますが。

 ともあれ、『四日間の奇蹟』大ヒットのおかげでたいへん貴重な体験をさせていただいたわけで、浅倉さんには感謝したい。次は100万部だっ!



【8月7日(土)】


 トキオを保育園に迎えにいってから、そのまま子連れで高田馬場例会。大丈夫かなと思ったけど、意外と大丈夫でした。父子で電車乗って出かけたのは初めてかも。
 キリカは大量にミルクを飲んでぶくぶく太り中。ピンクのベビー服がめちゃめちゃ似合わず、ムームー着て縁側にすわってウチワでばたばた扇いでるようなパーマかけた大阪のおばはんにしか見えません(笑)。

 帰宅してアジアカップ決勝。書いてないけど、ここまでの代表の試合は一応ぜんぶ観てます(録画含む)。中国の観客のおかげでアジア杯がこんなに盛り上がってなにより。準々決勝、準決勝は劇画的な展開で燃えたなあ。決勝は最初から二人ぐらい(もちろん日本が)退場になるともっと盛り上がると思ったけど、意外にも主審は2点めの中田浩二ハンドをスルー。あれはハンドをとってくれたほうが後半盛り上がった気が。まあしかし、イラク戦とかを見る限り、中国は審判に文句は言えませんね。レフリングに関しては決勝で帳尻が合った感じかなあ。
 ところで、ひどいブーイングを浴びせられてたのは日本だけじゃなくて韓国もいっしょだと思ったんですが、韓国はどうして嫌われてるんでしょうか。ブーイングで怒らせると中国共産党が困るような国を選んでやってる気も。愉快犯的行動。



【8月8日(日)】


 トキオを自転車散歩に連れ出したら清新町の夏祭りに遭遇。こんなにぎやかなお祭りを毎年やっていたとはつゆ知らず。ま、子供連れじゃない中年がひとりが行ってもしょうがないんだけど。遊ばせていると、保育園でいっしょのタイちゃんち一家もやってきて、長い風船で闘いまくる子供たち。

 マイク・アシュリー『SF雑誌の歴史 パルプマガジンの饗宴』(→amazon | bk1)を読了。いやまあたいへんな本ですね。マニアの鑑。とつぜん戦前の事情通になった水鏡子師匠が書いたような――創元の文庫データボックスに連載してた「50年代SF雑誌」の戦前バージョンとか――感じで、ひさしぶりに、「オレなんか若造だよなあ」という気分が満喫できました。この巻は1950年までなんで、キャンベル・ジュニアがいちばん若いぐらい。F&SFはもちろん、ギャラクシーも最後のほうにちらっと出てくるだけ。聞いたこともないパルプ雑誌がごちゃまんと登場する。オレだってパルプ雑誌は何十冊か買ってるんだけどなあ。中身を読んでから、野田さんの推薦文を読むとしみじみと笑えます。SFマニア道を極めたい人はマストバイ。それ以外の人にはあんまり用がないと思う。いや、面白いけど。しかし日本版のインデックスだけで80ページって……。



【8月9日(月)】


 前に書いたとおり、《ユリイカ》座談会のときは西島大介パンダTシャツを着てったんで、表紙にもそれが写ってるんだけど(横向きなのでほとんどわかりません)、文学フリマ事務局通信を見てたら衝撃の事実が!
〈文学賞A to Z〉という特集において、大森さんがあのパンダTシャツを着ているということはやはり特定の意味合いを持ってきます。大森さんはあのTシャツを着ることで「わかる人にはわかる」というメッセージを発していて、そのメッセージをわかる人とわからない人の境目は「パンダ=文学フリマ」と結びつくかどうかなのです。
そ、そうだったのか!! あれが文学フリマのマスコットだったとは全然わかってませんでした(笑)。西島大介を宣伝しようとはちょっと思ったけど。なるほどねえ、そういう意味が隠されていたのか。深層意識がわかっていたのだと日記には書いておこう。

 ところでTシャツを宣伝してほしい人は、送ってくれたらたいてい着ます。というかミステリチャンネル「ブックナビ」の収録に着ていくTシャツがだんだん払底してきたので。なるべくへんなやつ希望。『犬は勘定に入れません』Tシャツとか、自分でつくれって話だな。



【8月10日(火)】


 友成純一氏から夜中にいきなり電話。
「遅くに悪いね。あのさあ、つかぬことを伺いますが。『冬のソナタ』って見てる?」
「見てますよ」
「なんの興味もなかったんだけどさあ、ビデオで見はじめたらいきなりハマっちゃって。ああいう昔の少女マンガみたいなのって、オレ、じつはめちゃめちゃ好きなんだよねえ。18話まで見たんだけど、どこのレンタル屋に行っても最終回が貸し出し中なんだよ。最後がわかんなくてさあ。気になって気になって。ふたりが兄妹だってとこまでは見たんだよ。で、最後、どうなったの? 見たって言うまわりの人間に聞いても、そりゃ自分で見たほうがいいですよって誰も教えてくれないんだよ」
「…………」
 ほとんど忘れてましたが必死に思い出して教えてあげると、友成さんはたいへん喜んでいました。『美しき日々』も見るといいですよ、と推薦しておきました。トモナリ話はさらにつづく。
「去年、釜山の映画祭に行ったときにさあ、パーティで、めちゃめちゃ人気のある韓国の俳優といっしょになってさあ、しばらくずっとしゃべってたのよ。うん、そう、英語で。そしたらいろんな人がそいつのところにサインもらいにやってくるの。あとで聞いたら、それがペ・ヨンジュンだったらしいんだよね。おれ、全然知らんかったけど」
「…………」
「で、『冬のソナタ』観たら、おお、たしかにあのときのあいつが出とるやん! しまったなあ。サインもらっとけばよかった」
「…………」

 このネタだけでエッセイが一本書けると思うので、ヨン様関係の人はぜひ友成純一氏に『冬ソナとわたし』という原稿を頼んでください。



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