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メッタ斬り!版 131回芥川賞、直木賞選考会
●コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』(→amazon | bk1)。ISBN:4-15-208553-3 | CW日本語サイト | CW特集@bk1
●豊崎由美/大森望『文学賞メッタ斬り!』(→amazon | bk1 | ABC | eS! books)。ISBN:4-89194-682-2
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●シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon


【7月6日(火)】


 恵比寿ガーデンタワーのエキサイト本社で、メッタ斬り!版の131回芥川賞/直木賞予想対談。といっても芥川賞に関しては、Z文学賞でかなりやっちゃってるんで、半分はそのくりかえし。今回は王太郎/幸太郎コンビの受賞に期待してるんですが、確率は低いだろうなあ。



【7月7日(水)】


 七夕なのでベランダで花火。やりたがるくせに、ビビって自分では手に持とうとしないトキオ。去年の夏は平気だったのに、中途半端に知恵がついて、いろんなものが恐いらしい。親にやらせて、自分は家の中から見学してます。トヨザキ社長の爪の垢を煎じて飲ませたい。



【7月8日(木)】


 研究社のK氏と西葛西で打ち合わせ。研究社の社風はやっぱり真面目というか、軟派な出版社とは常識のラインが全然違うね。



【7月9日(金)】


 八重洲ブックスセンターのティールームで久美沙織さんを某社発行人のひとと引き合わせる。うまく具体化するといいんですが。



【7月10日(土)〜14日(水)】


 夜中は家で長女の見張り番をつとめてる関係で、主に未読消化週間。ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』とか、サラ・ウォーターズ『荊の城』とかを今ごろ読んでます。ダン・ブラウンはたしかに前半めちゃくちゃ面白い。しかしこれ、カバーは「モナ・リザ」より「最後の晩餐」のほうがよかったんじゃ。飛鳥部勝則の本みたいに口絵を入れるとか。

 北上次郎おすすめの海老沢泰久『青い空』は、切支丹類族(キリスト教徒の子孫)として東北の寒村に生まれた若者の目を通して幕末〜明治を描く歴史小説。政策と結びついて堕落した組織宗教としての仏教(とくに寺請制度)批判って切り口はユニークなんですが、帯に書いてある「日本はなぜ神のいない国になったのか」ってテーマが前面に出過ぎて、小説としては不自然な点も。『終戦のローレライ』なんかにも言えることだけど、明らかに現在の視点から(つまりあと知恵で)演説するキャラが出てくるのはどうか。あと、会話のト書き(改行して「○○は言った。」の連発)はなんとかしてほしい。

 プルーフで読んだ伊坂幸太郎の新作長編『グラスホッパー』は、殺し屋対決小説。面白いんだけど、ミステリ的には手口が見えすぎ。押し屋の××とか、どうせあの二人が×××××だろうとか。仕掛けがあるだろうという期待にそんなに律儀に応えなくても……。個人的には、もっと「殺人狂時代」風にしてほしかったな。都筑道夫的なバタくささが薄いところが万人ウケの秘訣かもしれないけど。

 やはりプルーフで読んだ雫井脩介『犯人に告ぐ』は、前評判通りの秀作。リアルな警察小説を派手に書くという難題をうまくクリアし、「劇場型犯罪」vs「劇場型捜査」っていうTVドラマ的なアイデアに一定の(警察小説としてギリギリ許容範囲の)説得力を持たせてます。「1年以内に映画化決定」に1000ガバス。ネタは「踊る大捜査線」劇場版の原作にも使えるんじゃないですか。このミスでも上位に入りそう。



【7月15日(木)】


 131回芥川賞・直木賞発表。下馬評通り、やっぱり「介護入門」ですか。

 しかし、すばらしかったのは受賞者記者会見のモブ・ノリオ。そりゃまあ、テレビで見ると「すべってるよ」とか「イタすぎ!」とか思うけど、あれを実行する勇気はたいへんなもんですよ。ふつうは考えてもやれません。浅暮三文がやろうしてやれなかったギャグ(笑)。あの「すべってる感じ」まで含めて、作品を体で表現してるとも言えるし。

 現場では、きちんと事前にセッティングしてあったマイクを倒されて、メディアの音声担当者は青ざめたらしいですが、話題性で前回受賞者に負けてる分、あのぐらいしないとね。文學界新人賞のとき、わざわざあんな写真をつくって載せたところからキャラづくりを始めて、芥川賞でもそれを貫いたのは立派。「介護入門」評価がこれでかなり上昇しました。
 もっとも、「舞城王太郎です」ってとこだけをテレビで見て、「ふうん、舞城王太郎ってこんな人だったのか」と思った人もいたらしい(笑)。

 とりあえず、エイサイト・ブックス「ニュースな本棚」の予想対談末尾に、受賞作発表後のコメントを送る。しかしこれ、予想対談の掲載から発表まで十数時間しかないんで、いまいち楽しみの余地が。やっぱり発表の一週間前ぐらいに載せて、読者から予想を募るとかしたほうが盛り上がるんじゃないですか。藤田香織がだらしな村で予想大会やってたけど、もっと大々的にいろんなところで一斉にやると面白そう。「本紙記者、完全的中!」みたいな。公営ギャンブル予想方式を全面的に採用してオッズをつけるとか。厩舎が版元、調教師が担当編集者、作家が騎手で作品が馬ね。問題は出走馬の発表からレースまで一週間ぐらいしかないので、検討の時間が長くとれないこと。



【7月16日(金)】


 ワイドショウ的にもモブ・ノリオは絵になる素材だったらしく、朝から各局でダイブ映像が。それ見たあと寝てたら、TBSから電話がかかってきて、モブ・ノリオと「介護入門」に関する電話コメント取材。ラジオなのに、ダイブの瞬間を音声で(ガチャガチャとマイクが倒れるノイズ)無理やり流してました。でも「舞城王太郎です」はカット。そりゃ、意味わかんないもんなあ。まあとにかく、世間の人に「この人なに?」と思わせただけでも大成功でしょ。
 さらに、東海ラジオの朝番組ディレクターからも電話がかかってきて、またまた電話コメント出演依頼。芥川・直木受賞作三作の内容を3分で説明してください、みたいな。毎日5本ずつ電話コメントだけして生活できたらいちばん楽かも(笑)。

 夕方から、日本出版クラブで東京創元社50周年謝恩会。作家を集めたパーティはしょっちゅうやってるから、今回は翻訳家を集めてやりましょうという趣旨だったらしく、中村保男、平井イサク、工藤幸雄など、ナマではめったに見られない神々が集合。ここで殺人事件でも起これば高天原の密室か。なにしろ永井淳、浅倉久志、深町眞理子、小鷹信光という巨匠の方々が若く見えるくらいですからね。
 ものすごくひさしぶりに会った宮脇孝雄氏に、ジョン・クロウリー『エヂプト』の話を振ってみたところ、
「担当もいなくなって催促されないんだけど、しょうがないから毎年コツコツやってますよ。半分ぐらい行ったかなあ」
 という衝撃の事実が判明。あと10年ぐらいしたら完成するかも。タイミング的には、10年前に出るより、今のほうがむしろ状況が整ってるんじゃないかとも思いますが、10年後どうなってるかは誰にもわかりません(註:早川書房《夢の文学館》シリーズで刊行が予定されていた長編です)。
 さらに、来年あたりからはじめるという世紀の巨大プロジェクトの話を聞いてさらに仰天したんだけど、これはまだ内緒かな。

 「主演:高倉健」の帯(桜井京子担当)に仰天した丸山健二『鉛のバラ』は、ほんとに高倉健が主演する小説。主人公は高倉健じゃなくて、15年の刑期をつとめあげて故郷の島に帰ってきた70歳のアウトローなんですが、この男が高倉健だと思って読んでくださいという趣向。要するに、高倉健という日本映画界の至宝を『鉄道員』みたいなダメ映画にしか使えないとはなんたることか! だったらおれが本物の高倉健作品を書いてやる! ってことですか。クリント・イーストウッドにおける『許されざる者』みたいな作品を、高倉健のために小説で書き下ろしたと思えばいい。だから主演はあくまで、いまの健さん。映画じゃないので、揺れる男心が破格にたっぷり書いてあって、ふつうだったらちょっとカッコ悪いんじゃないのと思うところだが、そこは高倉健。情けないところも含めて、男の中の男なのだった。
 これ、週刊新潮の書評用に読んだんだけど、現代ハードボイルド(またはアンチハードボイルド)にとっても重要な示唆を含んだ小説じゃないかと思った。

 この方法論を使うなら、矢作俊彦の長嶋茂雄主演小説もありかも。
 そういえば、しばらく前に矢作さんが朝日新聞でゴジラの話を書いてたんだけど、それはどう見ても、「ゴジラをダメにした日本映画界」に重ねて、「長嶋茂雄を正しく遇することのできなかったプロ野球のダメさかげん」について憤る原稿なのだった。



【7月17日(土)〜19日(月)】


 昭和の御代から17年ぐらい同居していた雌猫コハマが昨晩ついに永眠。もともと痩せてたんだけど、この一週間ぐらいで一気に激ヤセして、体重が1キロぐらいに。食事もとれない状態で、遅まきながら獣医に連れていったところ、腎臓病で手のほどこしようがないとの診断。ひと晩だけ入院させて脱水症状は多少改善したものの、もう長くは保ちそうにないってことで連れて帰り、きのうは自宅介護。何度か痙攣発作を起こしたあと、最期はさいとうよしこに抱かれたまま、静かに息をひきとりました。他のと比べてとにかく手のかからない猫で、最後まであっさりしていた。

「悪い悪い病気が治らなくて死んじゃったんだよ」と母親が説明すると、トキオは、「いなくなったらこまるから死んじゃダメ!」と号泣。トキオに頬ずりされたり尻尾をひっぱられたりしても大人しく我慢してる猫だった。

 まだ都立家政のアパートにいたころ、家に迷い込んできてそのまま居着いたと思ったら仔猫を産み、その仔猫たちを連れて換気扇の横の小窓から出ていこうとしたところを大家に見つかって大騒動っていう事件もあったなあ。ちなみに、西葛西に引っ越してすぐ産んだ仔猫のうち、二匹はわが家で同居、一匹は山岸真の家、もう一匹は高知の実家で今も健在。

 送迎サービスつきのペット霊園をネットで見つけて連絡し、ヴァンで迎えにきてもらって、家族四人で春江のペット斎場へ。火葬に立ち会い、骨を拾って、骨壺を持ち帰る。
「コハマはおほねに変身しちゃったんだね」と納得するトキオ。
 残る2匹も15歳を越した高齢者だけど、ペット霊園の人の話では、最近は20歳を超える猫も珍しくなくて、最高記録は35歳だったとか。ほんとかよ。

 帰宅後、トキオ連れで江戸川区球場裏の「虹の広場」。噴水広場で水遊びができるというか、ほとんどプール状態で、水着の子供たちがいつもわんさか。保育園で同じ組のシャンくん母子とばったり会って、シャボン玉をもらったり、シャンくんの頭から水をぶっかけたりしてご機嫌。オレも春江のユニクロで買った水泳パンツはいてったので、頭から水を浴びて涼む。

 NHK BSで集中再放送の始まった「美しい日々」をつい見てしまう。WOWOWでやってた「夏の香り」はかなりダメだったんですが、こっちは面白いかも。



【7月20日(火)】


 さらに読書中。

東直己『熾火』(角川春樹事務所→amazon | bk1)は、私立探偵・畝原シリーズの最新長編。北海道警の不正隠し騒動が背景というか、敵は道警。あいかわらずうまい。

 貫井徳郎『追憶のかけら』(実業之日本社→amazon | bk1)は、国文科の大学教師が主人公のダメ男もの。戦後まもなく、短編を五編だけ残して自殺した作家の手記が旧字旧仮名で挿入され、そこに残された謎を解く――というスタイルだが、本格ミステリによくある「手記もの」のパターンは使わず、主人公はこのネタをなんとか論文にまとめるべく、足で歩いて地道に調べてゆく。作中手記も人捜しの話がメインで、語り手がだんだん不幸になってゆくのだが、現代側の語り手もそれに歩調を合わせるように追いつめられてゆく……という構成。
 作中作は力が入っているし、お約束の展開から微妙にずれていく感じが面白い。ただし、ミステリ的に読むと、動機はともかくとして、犯人サイドがなにを考えてこんな面倒なことをしたのかがいまいち納得できない。あと、大学教員の世界を書くのが主眼じゃないにしろ、背景調査や論文執筆の過程にもうちょっと踏み込んでくれないと、そのへんのリアリティがいまひとつ。もっとも、最終的に落ち着くところは、愛する者の死を受け入れての再出発という、グレアム・ジョイス『鎮魂歌』みたいな方向なので、中年向け青春恋愛小説として読むべきかも。ラストは不覚にも涙する中年男性読者が多そうな気が。

 アジアカップ、昨日の韓国×ヨルダンを見て、韓国も前途多難だなあと思ったけど(あいかわらず点が入らない)、日本も前途多難。オマーン相手になんでこんなにはらはらしなきゃいけないのか。ていうか、オマーンのほうが格上みたいだったな。ユーロ同様