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●豊崎由美/大森望の語り下ろし対談集『文学賞メッタ斬り!』、PARCO出版より3月18日刊行予定(1600円)。→amazonで予約受付中
●コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』(仮)、早川書房海外SFノヴェルズより4月中旬刊行予定(予価2800円)。→amazonで予約受付中

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon


【2月1日(日)〜5日(木)】


『文学賞メッタ斬り!』のゲラ/プリントアウト校正と註の執筆作業がえんえん続く。書いても書いても書いても終わらない。主観的な註は署名入りで書くことにしたので、(大)と署名が入ってる註はあまり信じないように。って今ここで書いても無駄か。

 あっという間に刷り上がって送られてきた《eとらんす》を見て大笑い。特集の柴田元幸氏はケリー・リンクの話をしてるし、若島さんの連載はプリーストが書いた『最後の危険なヴィジョン』顛末記の話。まるでSF特集みたいですね。こんなことならベスト20にもっと変わったものを選べばよかった。
 ちなみに大森が選んだ基準は、いま新刊書店でふつうに買えることと、オレ世代のSFファンがわりとふつうに持ってる「ここまでがSF」という範囲の広がりを示すことと、あとは個人的な趣味。選んだ作品は以下の通り(掲載ページ順)。半分ぐらいはだれが選んでもこうなると思うんですがどうですか。

『ハイペリオン』四部作 ダン・シモンズ/酒井昭伸訳/早川書房
『順列都市(上・下)』グレッグ・イーガン/山岸真訳/ハヤカワ文庫SF
『ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーブンスン/日暮雅通訳/アスキー出版局
『航路』コニー・ウィリス/大森望訳/ソニー・マガジンズ
『火星夜想曲』イアン・マクドナルド/古沢嘉通訳/ハヤカワ文庫SF
『あなたの人生の物語』テッド・チャン/浅倉久志他訳/ハヤカワ文庫SF
『ノーストリリア』コードウェイナー・スミス/ハヤカワ文庫SF
『ユービック』フィリップ・K・ディック/浅倉久志訳/ハヤカワ文庫SF
『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター/中田耕治訳/ハヤカワ文庫SF
『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン/黒丸尚訳/ハヤカワ文庫SF
『時間衝突』バリントン・J・ベイリー/大森望訳/創元SF文庫
『故郷まで10000光年』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/伊藤典夫訳/ハヤカワ文庫SF
『九百人のお祖母さん』R・A・ラファティ/浅倉久志訳/ハヤカワ文庫SF
『火星年代記』レイ・ブラッドベリ/小笠原豊樹訳/ハヤカワ文庫NV
『最後のユニコーン』ピーター・S・ビーグル/鏡明訳/ハヤカワ文庫FT
『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア ハヤカワ文庫SF
『柔かい月』イタロ・カルヴィーノ/脇功訳/河出文庫
『伝奇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス/鼓直訳/岩波文庫
『完全な真空』スタニスワフ・レム/国書刊行会
『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス/鼓直訳/新潮社

 まわりでは、当たり前すぎてつまらんと評判が悪い。まあもっともですな。でもSF雑誌じゃないんだから。ていうか、《eとらんす》って、(《翻訳の世界》時代は別にして)こないだまで実務英語がメインの雑誌じゃなかったっけ。



【2月6日(金)】


 北上次郎と《SIGHT》書評対談。大森の推薦タイトルは(北上次郎の既読作品を優先して)山本弘『神は沈黙せず』、森見登美彦『太陽の塔』、スタージョン『不思議のひと触れ』。スタージョンは、前に『海を失った男』を選んだら、「さっぱりわからん」と一蹴されてしまったので、その復讐戦。思いきり親切に選んだのが功を奏したか、「これはすごいおもしろかった。全部わかるし(笑)」とA評価だったのでシメシメな感じ。「タンディの物語」だけちょっとわかりにくかったそうです(笑)。ま、SFだからな。

 編集部推薦は江國香織の直木賞受賞作『号泣する準備はできていた』。これって散文詩というか、一種のミニマリズムだよね。つげ義春の「海辺の情景」を魚喃キリコが描いたみたい――とか適当なことを言ってますが、うまい表現を思いつかない。まあしかしめちゃくちゃうまい小説だと思う。『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』より、部分的には凄みがある。二十枚平均でこのレベルを維持できるのは立派。出たときにすぐ読むべきでした。あと二冊は、伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』、東野圭吾『幻夜』。どっちも悪くはないけどそれぞれの事情で書評が書きにくい小説なので、対談でその理由を説明してお終いという感じ。

 北上次郎推薦は姫野カオルコ『ツ、イ、ラ、ク』、福澤徹三『真夜中の金魚』、平安寿子『もっと、わたしを』。『ツ、イ、ラ、ク』は、1960年代生まれに対しては圧倒的なリアリティと身につまされ度を誇る傑作。直木賞を逃したのは世代依存性が高すぎたせいか? いや、「14歳にセックスさせると直木賞はとれない」という法則があるような気もするけど。『真夜中の金魚』は北上次郎が誉めている以上には言うことが見つからない。『もっと、わたしを』は、『グッドラックららばい』ほどノレませんでした。連作形式にこだわることで勢いをなくしてるような……。



【2月7日(土)】


 高田馬場ルノワールで例会。珍しく青井邦夫夫妻が来てたのに集まりが悪く、どうでもいい話をだらだらしてました。ま、いつもそうか。
 あとは、ある人がある集まりに行こうとしたら、すみませんが来ないでくださいと言われた話とか。この話をどう解釈するかは、そのある人をどう評価するかと密接に関係するので、しょせんニュートラルな判断は不可能なんだけど、個人的には許容フィルタの目がだんだん細かくなってきてるような気がしないでもない。あるいはオレが関西ファンダム育ちなんでそう思うだけかも。まあとにかく、どこの世界も人間関係はむずかしい。



【2月8日(日)〜12日(木)】


 めでたく集英社文庫で出ることが決まった望月諒子『神の手』の解説原稿を書く。林雅子名義で「e文庫」でオンライン出版されていた小説の改稿版です。なんか、無名の新人作家の有料電子出版としては異例の部数を売り上げて、集英社文庫での出版につながったらしい。後半に登場する女性ジャーナリストを主人公にした続篇もあと2冊待機していて、集英社文庫で三部作になる模様。
 この『神の手』はどうして公募新人賞をとれなかったのか不思議になるようなパワフルな作品なので、電子版で買ってない人はぜひこちらでお求めください。たぶん3月発売。

 《週刊新潮》の書評を梨木香歩『家守綺譚』(新潮社)で書き(これは秀作。ファンタジーファンはお見逃しなく)、続いて《本の雑誌》の新刊ガイド。今回のメインは、
●テリー・ビッスン『ふたりジャネット』(一九〇〇円)★★★★
●浅暮三文『針』(ハヤカワSFシリーズJコレクション一八〇〇円)★★★★
●ブルース・スターリング『塵クジラの海』(小川隆訳/六六〇円)★★★1/2
●奥泉光『新・地底旅行』(朝日新聞社一九〇〇円)★★★1/2
 時間がなくて本が読めず、椎名誠『走る男』は(誉めてないからいいだろうと思ったのに(笑))「編集の本なので」と却下されてしまったので、今月はとりあげた本が少なめです。まあ、いつもが多すぎるぐらいだから、これでも普通なんだけど。

 コニー・ウィリス The Last of the Winnebago (150枚)の翻訳に着手。ウィネベーゴっていうのは、『アバウト・シュミット』でジャック・ニコルソンが乗ってた巨大キャンピングカー。英語だとRVなんですが、日本でいうRVって、ああいうのはふつうイメージしないよねえ。まあ、基本的には犬の話なんですが。



【2月13日(金)】


 広尾の病院で添野ジュニアを見学。名前はまだない。もう生まれると入院してから実際に生まれるまでに三日もかかり、さすが添野の子供だよねえと言われてたんですが――というかオレが言ってたんですが(添野の原稿は、「あとちょっと。もうできます」と言ってから、実際に送られてくるまでにだいたい三日はかかるので)――なかなか美人の女の子。しかし夫の人が病院に入り浸っているおかげでSFマガジンの原稿は全然できてないらしい。
「名前は決まったの?」
「まだ(泣)。マガジンの原稿が終わったらやるつもりなんだけど」
 って、仕事かよ! どうせ締切ぎりぎりまで決まらないに違いない。でも出生届を出すのが遅れたら罰則とかあるんでしょうか。
「ベビーベッドはつくった? 家の受け入れ準備はできてるの?」
「そっちもまだ全然かたづいてなくて。マガジンの原稿が終わったら以下同」
 まあ、そっちは奥さんがいるから大丈夫でしょうが。

 日比谷みゆき座で『イノセンス』試写。これは傑作。あまりの情報密度にぐったり。『王の帰還』より長い気がした。実際の尺は半分強(100分)ですが。とくにすばらしいのは後半。北方領土があんなことになってるとは! 日本SF大賞はもちろん、ヒューゴー賞もアカデミー賞もみんな差し上げたい。

 終わったあと、渡辺麻紀その他の女性陣と帝国ホテルでお茶。六本木ヒルズのオールナイトイベントに流れるという元気な人たちと別れて終電帰宅。仕事。



【2月14日(土)〜17日(火)】


「最後のウィネベーゴ」をひたすら翻訳。

 日曜のテレ朝は、『仮面ライダー555』、『爆竜戦隊アバレンジャー』が終了し、『仮面ライダー剣(ブレイド)』と『特捜戦隊デカレンジャー』がスタート。
『剣』はちょっとダメすぎるんじゃないでしょうか。主役の滑舌の悪さに話題沸騰してるけど、本篇の芝居があまりに悲惨で見てられない感じ。

 まあ、このところ毎晩、子供を風呂に入れたあと、子供と一緒にビデオで『仮面ライダークウガ』を見てるから、よけいレベルの差が際立つのかも。今ごろですみませんが、クウガってほとんど新・新本格だったのね。すでに被害者は5000人以上に達してるし、毎回(怪人による連続殺人の)ミッシングリンク探しが最大のテーマだし。

 一方の『デカレンジャー』はいきなりピンクの入浴シーン(笑)。1話の出来はけっこうよかったけど、レッドは飛ばしすぎな気も。
『アバレンジャー』の最終回は、半年後の話にしたばっかりに真夏に鍋をつつくことになっちゃってました。あれ、べつに一年後でよかったんじゃ……。リジュエルが《恐竜や》を訪れるのはもはや不可能だろうと思ってたら、そうか、その手が(笑)。しかし、(劇場版とか釣りバカ版みたいな)スペシャル映像つきのエンディングを思いきり期待していたので、個人的には画竜点睛を欠いた気分。



【2月18日(水)】


 柳下毅一郎から回ってきたチケットでさいたまスタジアムのW杯アジア予選、日本×オマーン戦。日記には書いてないけど、U23もフル代表も、試合は当然ずっとTV観戦してるのである(今年は平山くんのおかげで高校サッカーの国見の試合まで観てたしな)。フル代表に関しては楢崎ばかりが目立つ冴えない試合が続く中にあって、内容的にダントツに寒かったのがこのオマーン戦。
 いやもう体の芯まで冷え切る寒さでしたね。前半終了の笛とともに、客席からはブーイングの嵐。翌日のスポーツ紙によると、中田英寿がそれにむっとしてたらしいけど、(悪いチームじゃないとはいえ)オマーン相手にあんな試合をしてちゃいかんでしょう。開始五分で楽勝だと思ったのに、まんまと相手のゲームプランにハマってだらだら時間がだけが過ぎてゆく罠。って、いっつもそうじゃん!
 しかし日本代表サポのあいだでここまで「ジーコ辞めろ!」の声が強いとは思わなかった。トルシエ時代とは逆の意味でメディアとの温度差が激しい。
 いやオレも、先々のことを考えると、今日はいっそ負けてしまったほうが……と思ってたぐらいなんだけど、スタジアムに来ちゃうとやっぱダメだわ。あんなラッキーゴールで喜びたくなかったのに(笑)。
 試合としてはジーコが監督になって以降でも最低の出来だったと思いますが(とくに山田とか遠藤とか。あと稲本も)、結局勝っちゃったから結果オーライってことになるんだろうなあ。先が思いやられることである。

 試合後に紹介されたサポティスタの人が《本の雑誌》を毎月読んでるSFファンで、駅までの帰り道、『南極大陸』の話とかしてたんだけど、考えてみると今日の試合にはふさわしい話題だったかも(笑)。チケットと引き替えに配られた使い捨てカイロがたいそう役立ちましたよ、ええ。

 週末の宴会4連チャン(芥川賞・直木賞宴会、東東京ミステリーリーグ宴会、若島正・沼野充義両氏の讀賣文学賞受賞祝賀宴会、関口苑生お誕生宴会)を前にしてすでにぐったり疲労。7000円払ったけど、むしろ7000円払ってほしかった。いや、柳下毅一郎に罪はないんだけど(笑)。

 あ、柳下といえば、送ってもらった『興行師たちの映画史 エクスプロイテーション・フィルム全史』(青土社)はちゃんと(でもないけど)読みました(→amazon | bk1)。
 話はたいへんに面白く、どんどん読める。こうやってまとまると(断片的には知ってることでも)説得力がありますね。ていうか、よくこんなの書き下ろしで書いたなあと滝本誠的な感想になっちゃうんだけど。
 問題は、ジャンルとしてのエクスプロイテーションから、概念としてのエクスプロイテーションへ話を拡張して現代の状況に重ねるときの手続き。もうちょっと細かいロジックで説得してほしかった。あと、どこから映画じゃなくなるのかっていう線引きも問題(とくにセクスプロイテーションの場合)。フィルムで撮ってれば映画なのか? まあ「エクスプロイテーション・フィルム」なんだから、ビデオ撮りは原則除外だろうけどさ。
 態度としてはたいへんにエクスプロイテーション的な『WATARIDORI』はどうなるのかとか……。要するに、映画論なところと、カルチュラル・スタディーズ的なところが微妙に混じってしまう分野なので、拡張していくとAV業界とかヤクザVシネマとかおたく向けアニメとかのほうとつながってしまうわけで、映画論からどこまで逸脱するのかが微妙。



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