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【お知らせ】
シオドア・スタージョン短編傑作集『不思議のひと触れ』(大森望編/大森望・白石朗訳/河出書房新社《奇想コレクション》/予価2,000円)、bk1にて予約受付中。12月上旬刊行予定。
ダン・シモンズ『夜明けのエントロピー』(嶋田洋一訳/河出書房新社《奇想コレクション》/予価2,000円)11月上旬刊行予定
テリー・ビッスン『熊が火を発見する(仮)』(中村融訳/河出書房新社《奇想コレクション》/予価2,000円))1月上旬刊行予定



【9月11日(木)】


 渋谷某所でトヨザキ社長と文学賞対談ふたたび。

 どういうわけか好評を博したらしい(主にトヨザキ社長の毒舌とアライユキコさんの行き届いた編集のおかげ)エキサイト・ブックス《ニュースな本棚》の「文学賞メッタ斬り!」を単行本化しましょうという企画がふってわいたように持ち上がり、といっても分量的にも内容的にもあのままではとても本にならないので、全体的な設計図はアレを踏襲しつつ、数回に分けて対談をやり直す――ということに。版元はパルコ出版。なぜパルコ? いや、まあ文芸系の(自社で賞を持っている)出版社だと成立しにくい企画ではありますが。

 どうせならこの一年間の主な文学賞(乱歩賞やホラー大賞などの新人賞から、芥川賞・直木賞はもちろん、吉川英治文学賞や野間文芸賞まで。文芸誌の新人賞とか川端賞とか、小説に冠する賞で名のあるやつはほぼぜんぶ)受賞作をまとめて読んで採点しよう!とかうっかり言ってしまったのでたいへんなことになってます。文学賞の値打ち?

 最初は一冊分埋まるのかと心配してたけど、はじめてみたら乱歩賞だけで3時間ぐらいしゃべってました。歴史のある賞はたいへんだ。選評採点コーナーとか、地方文学賞甲子園とかもやる予定。



【9月15日(月)】


 青山ブックセンター本店のカルチャーサロンで、《本の雑誌》協力の書評家トークライブ『本のことは書評家に訊け!』。マニアックな人が来るのかと思ったらそうでもなく、なんだかよくわからない客層でした。中村融とか堺三保とかもわざわざ聴きに来てくれてたんですが、あまり突っ込んだ話にもならず申し訳ない。

 トークのあいだ、吉田伸子ジュニアとうちの子は隣の《こどもの城》で放し飼い。終わったあとは近所の店で讃岐うどん食べて帰宅。



【9月18日(木)】


 文学賞対談2回目。ホラー大賞、ホラサス、横溝、清張、鮎川、小松左京、SF新人賞などエンターテインメント系新人賞総まくりの日。それに合わせて未読の受賞作を片っ端から読んでます。香山二三郎氏推薦の岩井三四二『月ノ浦惣庄公事置書』と、三上洸『アリスの夜』がわりといい感じ。



【9月19日(金)】


 江戸川乱歩賞授賞パーティ。そのへんの安い居酒屋で二次会のあと、姫野カオルコをはじめとする謎のメンツでカラオケ。



【9月20日(土)】


 このミス大賞選考会@ダイヤモンドホテル。大森の抵抗むなしく、第2回は柳原慧『夜の河にすべてを流せ』の単独受賞に決定。いや、話は面白いんだけど、いくらなんでも事実関係に間違いが多すぎる――と赤を入れまくった原稿を前にさんざん文句を言ってたら、「じゃあ、直しの面倒をみろ」という話に。とほほ。
 オレのイチ押しだったハセノバクシンオー『ビッグボーナス』は予想通り優秀賞。まあ、くわしくはそのうち発表される選評で。

 選考会終了後、食事を済ませてから記者発表。受賞者が来てるわけでも本が出てるわけでもない状態で選考経過だけを(しかも土曜日に)発表してもあまり盛り上がらない。休みの日にわざわざ取材においで下さった媒体の皆様、ありがとうございました。



【9月24日(水)】


 ミステリチャンネルで『ミステリブックナビ』収録のあと、宝島社にまわって、第2回このミス大賞受賞者との顔合わせ宴会――の前に、会議室で柳原慧氏と落ち合って膝詰めで原稿修正の打ち合わせ。うーん、編集者時代に戻ったような……。
 ダイヤモンドホテルの寿司屋に場所を移しての食事会では、ハセノバクシンオー氏の面白すぎる前歴に話題が集中。朴訥な語り口でとんでもない話をどんどん展開する芸風がすばらしい。その苦労と経験はウリにしたほうがいいと思うんだけどなあ。

 一次会終了後は、例によって(すでに恒例なのか?)近くの《笑笑》。終電まで一時間だけ――とか行って店に入り、とりあえず飲み物を注文してだーっとしゃべってたらあっという間に一時間が経過。勘定を済ませたら、なんと6人で合計3000円行かない(笑)。ひとり頭500円を切る支払いは記録的かも。とても大賞賞金1200万円の賞の二次会とは思えません。



【9月25日(木)】


 日本ファンタジーノベル大賞授賞パーティ@大手町クラブ関東。大賞受賞作は相当にぶっ飛んだ内容らしいので読むのが楽しみ。パレスホテルの二次会を経て帰宅。



【9月26日(金)】


 五反田イマジカで荒戸源次郎監督『赤目四十八瀧心中未遂』。原作は車谷長吉の直木賞受賞作(でも中身は純文学)。スポーツ新聞的には寺島しのぶの刺青とベッドシーンで話題だけど、まあ荒戸版『ツィゴイネルワイゼン』みたいなテイスト。全長159分はいくらなんでも長すぎて途中かなり退屈したんだけど、見終わってからしばらくたつといろんなシーンが妙に頭に甦ってくる感じ。



【9月27日(土)〜30日(火)】


 今週の週刊新潮書評はたまに海外ミステリでもやりましょうかね。と思って、アーティスト・ハウスからプルーフが送られてきたS・L・カーターの超巨大な小説デビュー作『オーシャン・パークの帝王』を読む。リーガルサスペンスというより、ロースクールの学内政治もの。リアルな内幕話と、チェスプロブレムが暗号の遺言になってたりする小ネタはけっこう面白い。よく知らないけどチェスプロブレム・ネタのミステリってけっこう前例があるんでしょうか。しかし長すぎる。疲れる。

 新潮文庫から来たJ・M・フォードのタイムリミット・サスペンス『憤怒』のプルーフも読む。これは新潮文庫のT内がキンコーズにこもって自作したものらしい。印刷所に発注すると場合によっては数十万かかるけど、たしかにこの方式ならたぶん百分の一ぐらいの予算でできる。いや、そのぶん編集者はたいへんですが、読むほうから言うとそりゃゲラより仮綴じ本のほうが読みやすいからねえ。肝心の小説はというと、面白いことは面白いけどB級スリーコード・ノベル。

 うーん、いまいちぴんと来ない……と思って、ミステリチャンネル収録のとき吉野仁氏が「今年のベストワン!」とまで大推薦していたウィリアム・ランデイのデビュー作、『ボストン、沈黙の街』を読む。一人称主人公のベン・トルーマンは、父クロードのあとを継ぎ、24歳の若さでメイン州の田舎町ヴァーセイルズの警察署長に就任する。ボストン大学の大学院で歴史学者を目指して勉強中だった彼が帰省したのは、アルツハイマー病を患う母を介護するため。だが、その母はすでに世を去り、今は隠退した父親と二人暮らしという設定。
 やがて観光客用の貸しコテージから死体が発見され、のどかな日常は終わりを告げる。被害者の身元はサセックス郡の地方検事補と判明。みずから志願して捜査に加わったベンは、隠居した元刑事を参謀役に任命し、容疑者のギャングを追って、勇躍ボストンへと乗り込む……。
 田舎町警察小説かと思って読んでると話がだんだんずれてゆく。語りの仕掛けは、どっちかというと『サイレント・ジョー』系列か。

 ここまで読んだところで時間切れになったので、週刊新潮は『ボストン、沈黙の街』で書き、小説すばるの書評は矢作俊彦『ららら科學の子』。
 主人公の「彼」は、1968年末に日本を捨てて中国へ密入国し、以来ずっと山奥の村で暮らしてきた男。離日の直前、学生会館に突入してきた機動隊員に向かって階段の上から金庫を投げ落とした結果、殺人未遂で指名手配されている。その彼が2001年(推定)の東京に帰ってくる場面から小説は幕を開ける。学生時代の親友の手配で渋谷のホテルに腰を落ち着けた「彼」は、変貌した東京で家族の消息をたどりはじめる……。
『猫のゆりかご』や『東京流れ者』や長嶋の送りバントはともかく、『点子ちゃんとアントン』には意表を突かれた。こんな泣ける話が矢作俊彦の新作に出てくるとは。
 この書評を書くために調べてて見つけたbookアサヒコムの矢作俊彦インタビュー。3ページめのネタがあまりに爆笑。あのとき、新潮社クラブに3年も住んでたのか! わたしも編集者時代にちょっとだけ担当しましたが、単行本の文庫化だったから血反吐を吐くような苦労は味わわずに済んでめでたしめでたし。まあしかし、そうやって苦労を買って出る編集者がいるおかげで新作が読めるわけで、足を向けては寝られません。

 併行して文学賞本の未読消化も続行中。
 佐川光晴『縮んだ愛』、若合春侑『海馬の助走』、多和田葉子『容疑者の夜行列車』あたりはともかく、高井有一『時の潮』なんか読んでるとふだんの読書大賞とのあまりの落差に眩暈がするね。もっと驚いたのは大庭みな子『浦安うた日記』。いろんな意味で凄すぎる。


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