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【お知らせ】
 シオドア・スタージョン傑作選『海を失った男』(若島正編/晶文社2,500円)、絶賛発売中!(→amazon | bk1


【7月1日(火)】


 小説すばるの書評を『輝く日の宮』で、メンズ・エクストラの映画評を『ゲロッパ』で書いて送る。『輝く日の宮』のは今ごろになってふつうに書いてもつまんないので、ふつうに書いた原稿を、「拔本的」氏の舊字舊假名辭書「丸谷君」を野嵜氏が改變した「丸谷君2000」を使って舊字舊假名變換。こんな感じです。
 週刊新潮の連載で福田和也が思ひきり罵倒してるのを見て俄然讀みたくなり、あはてて書店へ走つたんだけど、凄いね、この本。帶もバーコードもなく、著者紹介も内容紹介も皆無。強烈な自信といふか、オレを知らないやつは最初から相手にしないよ、みたいな。
 山ほど出てる書評を見ても、なんか源氏物語關係らしいとか、七つか八つの文體を驅使してるよとか、十年に一册しか小説書かないんだつてさとか、そんなことしかわからない。
 でもこれ、ふつうの讀者にとつて最大のポイントは、「全編正假名遣ひ(嚴密には新假名も僅かに混在)で書かれた長篇を新刊で讀む」體驗ができること。古典に無縁だと、正假名に接するのは十年に一度、丸谷才一の本が出たときだけつて人も多いだらうから、それだけでも大變に貴重な本なのである。
 もう一點のウリは、下世話な話を上品さうなパッケージで提供してくれること。同時期に出た渡邊淳一の『エ・アロール』に、高級老人ホームで神代辰巳監督の『四疊半襖の裏張り』を上映する話があるんだけど、『女ざかり』や『輝く日の宮』は(俗つぽい話を高尚に見せるつて意味で)さういふ文藝ポルノ的な存在かもしれない。(後略)

 原稿書いてる時間より、各種正字正仮名変換ツールをインストールして試す時間のほうが長かったり。もっと簡単に使えるやつもあったんだけど、やっぱりここは「丸谷君」じゃないと。



【7月2日(水)】


 ワーナー試写室で『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』。悪くはないけど、結婚式シーンの盛り上がりは『ベッカムに恋して』のほうが上でしょう。ギリシャ系ネタを誇張しすぎ。邦題に合わせて字幕もGreekがずいぶん省略されてたような……。

 つづいて黒沢清の新作『ドッペルゲンガー』。役所広司が二役を演じるホラーコメディ? 役所広司は、全身麻痺の患者が神経に接続して操作できる人工人体(見た目はロボット車椅子)を開発してる研究者って設定なんですが、むしろロボコン出場をめざすどこかの研究室みたい。なんでこういうネタを持ってくるのかさっぱりわからないっていうか、科学技術の扱いがあまりにも納得できないのだった。ギャグも笑えないしなあ。珍作・快作の部類でしょう。まあ、びっくりはするので一見の価値はあると思うけど。



【7月3日(木)】


 六本木ギャガ試写室で今年のアカデミー外国語映画賞受賞作、『名もなきアフリカの地で』。オーディションで選ばれたというレギーナ役の女の子がすばらしい。成長してからは役者が変わっちゃって残念――と思ったら、そっちの子もよかった。ひと粒で二度おいしいというか、大きいお友だちも萌え萌えでしょう。その意味ではものすごくおたく向きの映画かもしれない。『点子ちゃんとアントン』以上。カロリーヌ・リンク監督には、ぜひとも『ジャングルの国のアリス』を映画化してほしいと思いました。

 つづいて京橋メディアボックスで『茄子 アンダルシアの夏』。黒田硫黄作品とはかけ離れたジブリ風の絵柄なので最初のうちは違和感ありありですが、ラストで爆発。作為的な盛り上げを微妙にはずしつつちゃんと盛り上げる演出がいい感じ。自転車レースおたくの人の感想も聞いてみたい。アスミックは進行中だった企画にあとから乗っかったらしいけど、これは正解だったと思った。



【7月4日(金)】


 ヘラルド試写室でデ・パルマの新作、噂の『ファム・ファタール』。試写室に行ったら、これが三回目だという三留まゆみと渡辺麻紀が(笑)。いや、たしかにめちゃくちゃ面白くて、『ボディ・ダブル』以来の傑作かも。最近のアルジェントが到達した境地に近いが、より確信犯的。そこらの若い監督には逆立ちしても撮れません。「興味のないところはぜんぶ飛ばす」という主義の脚本もすばらしい。それにしてもショパールはこの映画に協力したのを後悔してないんだろうか。いや、妙齢の女性にこれだけウケてるんだからいいのか。カンヌの会場のトイレには強烈に入ってみたいと思いました。カンヌでロケしたかどうか知らないけど。



【7月5日(土)】


 本の雑誌編集部で「最強の家族」座談会。『レンズマン』も奈津川家も「九百人のお祖母さん」も前に使っちゃってるので、地区予選は難航。
 結局、大森がエントリしたのはトー・クン『義母』の金持ち一家、ジョン・アーヴィング『ホテル・ニューハンプシャー』のベリー一家、戸梶圭太『未確認家族』の(最初からダメなほうの)一家、あとはルーディ・ラッカー『フリーウェア』のモールディ一家。SFは一本だけになっちゃったんですが、今回は(『義母』を除いて)異様に強く、連戦連勝。というか、対抗馬が弱すぎた気も。ほかの選手もちゃんとネタを仕込んできてほしい。
 オレなんかこの試合のために映画版の『ホテル・ニューハンプシャー』までビデオ借りてきて見直したのに。

 終了後、空想科学ワークショップ主催(?)の「扉の書」出版祝賀&「石の中の蜘蛛」受賞祝賀会@ホテル第一イン池袋宴会場。講談社文4のS木氏とはひさしぶり。最近のホワイトハートについて取材。
 あとは森下一仁氏と高知話。今年で第50回になってしまうよさこい祭りのこととか。
 大森がよさこいで踊ったのは今から30年以上前。大橋通り近くの「青果の堀田」っていう有名青果店のチームだったんですが、ここの娘さんの結婚相手がフラワートラベリンバンドのロックミュージシャンだった関係で(たぶん史上初めて)よさこい鳴子踊りに生バンドを導入、一気にロック化が進んで若者の祭り化した――という歴史がある。そこのお嬢さんと森下さんがわりと親しかった事実が判明し、すっかり超ローカルな話題に(笑)。
 その他、アトラクションいろいろ。テルミンは珍しい楽器だったらしい。

 途中で抜けて高田馬場ルノワール。騒動について初めて聞かされる。ふーん、こんなことになってたのか。彼の言動に関しては僕も二度ほどかなりむっとしたことがあるので(SF者オフの夜とか)同情はしません。というか自業自得だと思う。しかしいちばん驚いたのは、物見高く2chのスレッドを覗きにいったらいきなりオレの名前が出てきたこと。謎すぎる。



【7月7日(月)】


 SFマガジンにチャーリー・カウフマン原稿12枚。ざっと書いたら20枚ぐらいになってしまったので削るのに苦労する。『マルコヴィッチ』の紹介を長く書きすぎたのが敗因。『アダプテーション』がメインのはずだったのに……。
 新作、『Eternal Sunshine of the Spotless Mind』がはやく見たい。
 今回、ウェブに上がってるのをまとめて読んで思ったけど、どこかカウフマンのシナリオ集の翻訳を出しませんかね。『暗闇のスキャナー』とかも含めて。



【7月8日(火)】


 新宿武蔵野館で『アバウト・シュミット』見てからテアトル新宿の『17才』。三輪明日美を見に行って三輪明日美を見たんだから文句はありません。終了後、いきなり『著作者人格権』の無料ゲリラ上映がはじまったのは驚いた。学生客が多かったのはそういう理由?



【7月9日(水)】


 ワーナーマイカル妙典で『チャーリーズ・エンジェル・フルスロットル』『ミニミニ大作戦』。『デッドコースター』と『ソラリス』を見にいったはずなのになぜ(笑)。
 『ミニミニ大作戦』はすばらしかったけど、『フルスロットル』は最低。どうしてここまでつまらなくなってしまうのか謎。



【7月11日(金)】


 メディアボックスで『くたばれ!ハリウッド』



【7月12日(土)】


 25回目のぴあフィルムフェスティバル初日、オープニングの『牛頭』とスカラシップ作品の『バーバー吉野』を続けて見る。
 カンヌ出品作品なのに劇場公開なしで昨日ビデオがリリースされた三池崇史の『牛頭』は、今日が国内唯一の一般劇場上映。三池監督のほか、牛頭の人(笑)も来てました。舞台の旅館も、あの喫茶店もちゃんと営業してるらしい。名古屋恐るべし。映画はほとんどつげ義春の世界ですね。ゲンセンカン主人というか柳屋主人というか。
 『バーバー吉野』は、小学生全員が同じ髪型にされてしまう町で反体制運動(?)に走る子供たちの話。



【7月13日(日)〜15日(火)】


 MyLifeBits Projectネタでアスキーのコラム原稿。

 フィリップ・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘 ルワンダ虐殺の隠された真実』上下(柳下毅一郎訳/WAVE出版各1600円)(→amazon | bk1)で《週刊新潮》書評。ノンフィクションの内容を紹介するにはぜんぜん枚数が足りないのだった。

 講談社青い鳥文庫fシリーズで再刊される石川英輔『ポンコツタイムマシン騒動記』の解説――というか、時間SFブックガイド原稿。fシリーズではすでに小松左京『空中都市008』が刊行済み。これから往年のSFジュブナイルがどんどん再刊されるらしい。

 《波》用に森博嗣『迷宮百年の睡魔』書評。『女王の百年密室』の続編ですが、舞台は(百年後の)モン・サン・ミシェル。アーロン・エルキンズ『古い骨』の読者なら仰天する趣向もありますが、《犀川・西之園》シリーズ読者も見逃せない一冊。『スカイ・クロラ』のときも思ったけど、神林長平作品との親和性がさらに高まっている気が。

 《ダ・ヴィンチ》京極夏彦特集用に、「京極SF」について2枚半。短すぎて梗概しか書けない。



【7月16日(水)】


 PFFで韓国自主映画短編(韓国映画アカデミー作品)の特集上映。イ・ヒョンスン監督の「女性F」とか、古いやつはかなりつらい。このプログラムに関しては、特集タイトルの「韓国人気監督のファーストステップ」より、去年と今年の学生作品のほうが楽しめた気が。

 つづいてPFFアワード2003の「鳥籠」「美女缶」と「あの子がいねぇ」「満腹家族」。準グランプリに輝いた「鳥籠」はいかにも自主映画。驚いたのは、今年のゆうばりファンタでオフシアターコンペのグランプリを獲得したpoosworks筧昌也監督「美女缶」のほう。おたく系SFとしてはよくあるネタなんだけど、処理の仕方が抜群にうまい。「缶詰に入った美女を風呂の湯でもどす」ってだけじゃなくて、取扱説明ビデオと「設定」がついてるとか、となりに住んでるおたくの扱いとか。これしかないというオチもぴたっとハマり、恋愛SF映画の秀作に仕上がっている。アニメでやってもつまんないだろうけど、実写だとすごく新鮮。このままDVDでリリースしてもけっこう売れるんじゃないでしょうか。PFFアワードでは観客賞もとれず企画賞(TBS賞)に終わったけど、おたくの方向性が違ったのか。SF大会でかけたら大ウケだと思う。

 AVの監督と企画物女優の同棲中カップルのところに(それまで存在も知らなかった)弟が転がり込んできて、兄弟で魚を盗みにいく――という広田淳也監督「満腹家族」もよかった。グランプリの「NEG.WONDERLAND」は未見。(→受賞結果の速報



【7月17日(木)】


 ポン・ジュノ「支離滅裂」を見るべくPFFへ。1994年につくられた3話構成の30分作品。韓国自主映画特集の中ではやっぱりこれが一番か。いや、時間が合わなくて『吠える犬はかまない』は未見なんですが。

 17:00、池袋ジュンク堂のカフェで『ダ・カーポ』夏休み読書特集の取材。「痛快・豪快本」がテーマなんだそうで、池上永一『レキオス』、冲方丁『マルドゥック・スクランブル』、アンドレアス・エシュバッハ『イエスのビデオ』、茅田砂胡『スカーレット・ウィザード』、ジョージ・R・R・マーティン『七王国の玉座』の5点をピックアップ。

 取材後、店内をぶらついてたら、作品社からいきなり住谷春也編『エリアーデ幻想小説全集』の第一巻1936‐1955(→amazon | bk1)が出ているのを見つけて仰天。4800円ですかー。『令嬢クリスティナ』まるごと収録。それに『ホーニヒベルガー博士の秘密』も。単行本も福武文庫版も持ってるのに。しかし初訳が何本も入ってるので買わないわけにもいきません。くー。
『カルカッタ染色体』を読みながらなんとなく『ムントリャサ通りで』を思い出し、あれも今は絶版なのかなあと思ってたんだけど、この全集の第二巻にまるごと収録されるらしい。

 またカフェにもどって、18:30から、若島正氏のトークというか授業というか、「乱視読者の英米短篇講義 特別補講」。たいへん面白い話も聞いたんだけど、残念ながらそれはオフレコとか。20年以上前、英文科の学生を集めてやってた読書会とぜんぜんスタイルが変わらないのが凄い。
 ジュンク堂で『乱視読者の英米短篇講義』(→amazon | bk1)を買うともらえる若島さんのおまけエッセイ「青春の短篇小説あるいは短篇小説の青春」にはこの読書会の話が出てくる。いわく、
「この読書会には、当時京大SF研の大森望も参加していた。そのときにいた学部生の女の子のうち、一人は現在のわたしの女房である。早い話が、この世の中に短篇小説というものが存在していなかったら、たぶんわたしは今ごろまだ独身のままだったはずだ。短篇小説に対して感謝すべきなのかどうか、それはわからない。」
 というわけで、読書会を開くと結婚できるらしい(笑)。ちなみにその若島夫人は大森の元同級生です。このエッセイのあとのほうに出てくる「Nくん」も元同級生。
 この当時は、四条河原町近辺で英文科のコンパがあると、最後は若島さんちに泊めてもらって、若島放出ペーパーバックを大量に買って翌朝帰宅するのが習わしでした。
「若島さんとは学生の頃から知り合いで――」とか言うと、「授業受けたんですか?」と言われることが多いんですが、若島さんは理学部数学科を出てしばらく学校の先生やってから英文科に学士入学してきた経歴の持ち主なので、京大文学部的には大森の2年先輩だったと思った。

 終了後、場所を移して研究社主催の「若島さんを囲む会」。若島さんとは主にスタージョン話。あとはライバーとかディッシュとか。古いSFリバイバルの時代。さらに、京大英文学会とか、昔お世話になった先生方とかの近況を聞く。柴田元幸氏も来てました。最近、ケリー・リンクに注目しているらしい。
 トヨザキ社長と若島さんもエリアーデ幻想小説全集買ったそうなので、今日だけで3冊売れたことに。もしかしてベストセラー?

 ファンタジーノベル大賞優秀賞でデビューした沢村凛の書き下ろし『瞳の中の大河』(→amazon | bk1)をゲラで読了。これは堂々たる骨格の傑作。異世界ファンタジーというより架空歴史小説で、作風的には、ジョージ・R・R・マーティン『七王国の玉座』と小野不由美『東の海神 西の滄海』の中間ぐらい? 唯一の難点は、タイトルが作品のイメージと合ってないことかなあ。

 平谷美樹『約束の地』の前半は「おそらく森達也『職業欄はエスパー』が下敷き」と書いたことについて、著者からメール。森達也という名前も知らなかったので下敷きではありませんとのこと。それは失礼しました。お詫びして訂正します。うーん。元ネタ当てはむずかしい。



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