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【10月10日(水)】


 東映試写室で金城一紀原作の『GO』をやっと見る。前回満員で入れなかったんだけど、前評判だけのことはありますね。さすがに宮藤官九郎は窪塚くんをよくつかんでいる。「かかってこい、ルーク」が省略されていた以外はほとんど文句なし。柴咲コウはオレのイメージとはちょっと違ったんですが、原作者が最初から柴咲だと言ってるんだからしょうがない。今年の邦画新人男優賞は窪塚洋介で決まりでしょう。

 7時からは読売ホールで『アトランティス 失われた大陸』。ナディアとはとくに似てません。両方元ネタが同じ(海底2万マイル)なんだから、ある程度似るのは当然で、カット単位のパクりもパクりというほどじゃない。ジャンやナディアとはキャラが全然違うしねえ。ていうか、ナディアのキャラでやってくれたらもっと面白かったのに。雰囲気的にはむしろ宮崎アニメへのオマージュ。最低なものを覚悟して見にいったせいか、意外と楽しめたけど、やっぱりあのキャラクターデザインはなあ。あとはアトランティスの人をちょっとバカにしすぎてるんじゃないですか。




【10月11日(木)】


 さらに読書。




【10月12日(金)】


 渋谷シネパレスで日韓合作の『純愛譜』。韓国人ダメ公務員と、インターネット中継の覗き部屋(超ソフト系)でバイトする日本人少女(自殺願望あり)の話が交互に描かれる。タッチは市川準をもっとふつうっぽくした(?)感じで、くすくす笑っちゃうシーンは多数。うさんくさいアダルト商売やってるダンカンと柳ゆーれいが妙にリアルでおかしい。韓国人のほうは、行動の一部をとりだすとほとんど変態ストーカーなんですが、その変態ぶりがさらっと日常に溶け込んでて、「変態だって人間だ」(by榎木津礼二郎)的な安心感を与える。それであのラストはないだろうと思いますが、そこも含めてかなり好きだな。

 近くのドトールでしばらく仕事してからスペイン坂を上がり、十年ぶりぐらいに行くシネマライズ渋谷のレイトショウで、いまごろようやく『ELECTRIC DRAGON 40000V』。浅野忠信・永瀬正敏主演の豪華自主映画。本編はちょっとどうかと思いますが、エンディング・クレジットが大傑作。いやもうめちゃくちゃかっこよくて、これだけのためにでも見にいく値打ちはあるね。日本語タイトルは「電気と仲良くした男」でどうですか。サブタイトルは当然、I Sing the Body Electric!




【10月13日(土)】


 巨大冷蔵庫が届いて昼前に起こされたので、信濃町の第0回ティーンズノベル・フェスティバルへ。客がいないとやりにくいからぜったい来いと三村美衣からゆうべ呼び出されたんだけど、とても朝からは行けません。
 案内されたゲスト控え室に顔を出すと、いきなりお弁当をふるまわれる。なんにもしてないのに弁当だけいただいちゃっていいんですかすいませんと恐縮しつつも空腹には勝てない。ごちそうさまでした。いっしょに食べてたのは、午前中の企画を終えた三村美衣と、初対面の丹野  氏。丹野くんはイラストレーター企画じゃ天然キャラが爆走してバカウケだったそうですが、控え室でもウケつづけてました。
「ぼくの原稿、編集の人とかみんなにいやがられるんですよ。絵具が乾かないから。乾かすヒマがなくて……。きっと服とか汚れちゃうんでしょうね。シャツについたりして。やだなあ」
「それって――服はともかく、絵も汚れるんじゃないの」
「汚れるでしょうねえ。いいんです、どうせ」などなど。
 そのうちまわりを囲んだ人間たちが調子に乗り、きみの油絵の描き方はおかしいんじゃないのとあれこれ指導しはじめるのだが、当然、油絵のまともな教育はだれも受けてない。
「高校の美術で習ったんだけど……」レベルでびしばし指導する三村美衣。大森に至っては、きのう読んだばかりのミステリ、飛鳥部勝則『ヴェロニカの鍵』の記述をもとに指導(笑)。
「はあ。ぼくはそういうみなさんに指導していただいてるわけですね」
「でも飛鳥部さんは高校の美術の先生だから」
「あ、そうなんだ。じゃあやっぱりそっちのほうが正しいんですね。いや、ぼくの描き方はへんだってよく言われるんです」
 笑い転げているうちに午後の企画がはじまったので覗きにいく。百人規模のイベントなのに全館貸し切り状態で、メインホール以外にホール2つと会議室3つを使用。こんな(空間的に)ぜいたくなイベントも珍しい。それにしてもコバルト系作家パネルより編集者パネルに人が集まるところに客層が象徴されているような……。
 三村美衣司会の金蓮花・宮乃崎桜子パネル「作家のルーツを探る」は非常に面白かった。




【10月14日(日)】


 ベスト・ブックス用の国産ミステリ未読消化につとめる日々。最近は、SFの山を越すとミステリの山、というサイクルなのである。
 基本的には座長の香山二三郎氏がつくったリストをかたっぱしから読んでいく作業なんだけど、「次回はどうなる!?」ってコーナーにコメントを書かなきゃいけないので、どうせなら読んだやつ全部のメモをつくってる――と思ってまとめたのが以下の30点。奥付で8月と9月刊行の国産ミステリ(およびその周辺)が対象です。これでも期間中の全刊行作品の半分ぐらいかなあ。

◎『R.P.G.』宮部みゆき 集英社文庫
 圧倒的なうまさが光る秀作。キャラクター、設定、媒体、すべてが完璧に機能しているのがすごい。自分で全然インターネットやってなくてもネット的な人間関係をこれだけリアルに再現できんだから、作家の嗅覚は恐ろしい。

▲『暗黒童話』乙一 集英社
 短編の名手・乙一の初長編。記憶喪失から生まれた新しい人格が、移植された眼球が見せる奇妙な光景を頼りに自分を発見していく話――という要約はたぶん全然違いますね。ありがちな題材を使っても独特の味わいが出てくるのは短編の乙一ワールドそのまま。

『彼女は存在しない』浦賀和宏 幻冬舎
非シリーズ作品だが、解離性同一性障害をモチーフに選んだことで、よくも悪くも浦賀和宏的な作品になっている。着地がきちんと決まっている点は評価したいが、意外性では『眠りの牢獄』の一発ネタより落ちる。

『神のふたつの貌』貫井徳郎 文藝春秋
 評価不能の問題作。日本を舞台にこの話を書く勇気は敬服に値するが、無理をした分、ミステリ性より寓話性が強くなり、トリック部分が逆に浮いてしまっているのでは。

『13階段』高野和明 講談社
 ちょっと前の乱歩賞の「傾向と対策」をきっちり予習した感じのミステリ。すらすら読めるがすぐ忘れてしまう感じ。ネタは面白いのに、社会派風の作風とはミスマッチで、後半の山場にリアリティがない。

◎『眩暈を愛して夢を見よ』小川勝己 新潮社
 あまりにも凄絶な結末に惚れてしまったので、舞城王太郎『煙か土か食い物』を押しのけて今年の国産ミステリベストワンに決定。ディテールがいちいちツボです。最後で腹を立てた人は、最初にもどってよく考えてみてください。いや、それでも怒るかもしれないけど。

△『闇の中の子供』舞城王太郎 講談社ノベルス
『眩暈を愛して夢を見よ』を読むまで今年のオレ的ベストワンだった『煙か土か食い物』の続編。今回は三郎が主人公で、途中、あっと驚く展開が(メタレベル的に)あるものの、前作のインパクトには及ばない。後半は自己言及しすぎ。次は一郎が語り手のスクエアな続編を読んでみたい。

▲『銀杏坂』松尾由美 光文社※
 金沢がモデルの架空の街を舞台にしたコージーな警察ミステリ。ちょっとだけ超自然要素を加味してるんだけど、そのブレンド具合が絶妙で心地よい。いままでありそうでなかったタイプの連作集。

『サイファイ・ムーン』梅原克文 集英社※
 バイオタイド理論(『月の魔力』に出てくるやつ)はトンデモだと思っているので、それを正面から肯定されるとSFおたく的にはちょっとつらい。超科学な説明は抜いて、伝奇ホラーに徹したほうがよかったのでは。巻末のオマケ短編(「アルジャーノンに花束を」のパロディ)は爆笑。

『ハリウッド・サーティフィケイト』島田荘司 角川書店
 いやまあレオナ・マツザキの暴走ぶりには圧倒されますね。ここまで行くといっそ好きかも。いい意味でも悪い意味でも島田荘司にしか書けない。後半はほとんどバイオSFの世界で、ミステリ的なリアリティは皆無なんだけど、そういう文句は言っても無駄。ただし、ケルト神話ネタ(コティングリー妖精事件とか)の使い方がいかにも図式的なのは(「本格ミステリー宣言」に言う、冒頭の「幻想的な謎」のためだけにあるとしか思えない)やや興醒め。ちなみに、この小説、常識的には本格じゃないと思う。

△『ボーイ・ソプラノ』吉川良太郎 徳間書店
 第二回日本SF新人賞を受賞した『ペロー・ザ・キャット全仕事』の続編。今回はフィリップ・マーロウ型の私立探偵(=わたし)が語り手兼主人公。古典的ハードボイルドの伝統文化を近未来SFの枠組みによって保存する試みとも読める。後半は怒濤のアクションですが、ミステリ的にはちょっと書き込みが足りないか。

▲川端裕人『The S.O.U.P.』
 どう見てもSFになるはずの材料なのに現代のコンピュータサスペンスとして成立しているのにびっくり(ただし設定上は二、三年未来か)。ハッカー哲学を描いた日本の小説としては最良の部類に属する。ウェブ上のサブテキストとしては、あとがきにも触れられている山形浩生サイトの「フリーソフト+暗号関連」が好適。

○恩田陸『上と外』幻冬舎文庫
 全六巻がついに完結。新刊が出るたびにとびついて読んでたので、終わっちゃってちょっと悲しい。いちばんわくわくしたのは真ん中あたりの巻なので、そのときの期待度から考えると、この結末ではちょっと物足りないが、それはないものねだりか。キャラクター描写と会話は天才的にうまくて、プロットのひねりが弱いあたりも恩田陸らしい。

△『建築屍材』門前典之 東京創元社
 シンプルで美しいメイントリックは上々で、久々の鮎川賞受賞作にふさわしい出来。難点はストーリーテリングとキャラクター。不可解な謎を詰め込みすぎた結果、現実味が乏しくなっているのも惜しい。死体消失一本に絞ったほうがよかったかも。

『チェーンレター』青沼静也 角川書店
「不幸の手紙」ならぬ「棒の手紙」という発想は抜群。後半は折原一的な叙述ホラーの世界に突入する。最初からバレバレのネタでひっぱりすぎるのが惜しい。違う書き方を採用したほうがもっと怖い話になったのでは。

▲『闇先案内人』大沢在昌 文藝春秋
 五條瑛『断鎖 escape』と同様、逃がし屋の話。主人公側の逃がし屋グループが、べつの逃がし屋の請け負った仕事を追いかけるという逆転がユニークで、コンゲーム的な面白さもある。エスピオナージュ的なリアリティより波瀾万丈のエンターテインメント性を重視したつくりだが、後半の盛り上がりはさすが大沢在昌。

『夏の夜会』西澤保彦 光文社カッパ・ノベルス
 記憶の不確かさをテーマにした野心的なミステリ。『完全無欠の名探偵』の頃から、「記憶のちょっとした齟齬から事件を再発見し、論理的な解明を見出す」という構造の話を書き続けてきた西澤保彦にとっては、その集大成とも言える。しかしオレの場合、28年前の記憶はもっと曖昧です。あと、思い出したくない記憶を無意識に封印するメカニズムがやや恣意的に利用されている印象(ふつう覚えてることを忘れてて、ふつう忘れてることを覚えてるように見える)。

△『たったひとつの 浦川氏の事件簿』斎藤肇 原書房※
 講談社ノベルス新本格の初期に活躍した斎藤肇も、ここ数年は(長編に関する限り)ファンタジーやホラー方面の著書が中心だったんだけど、今回は久々の書き下ろし本格ミステリ単行本。へそが曲がりすぎて一周して戻ってきたという通り、めちゃくちゃひねくれたミステリなので、そのひねくれかたを賞味できる人向け。

▲『作家小説』有栖川有栖 幻冬舎※
 タイトル通り、「作家」を題材にした文壇内幕連作集。『ジュリエットの悲鳴』に入ってる爆笑の傑作「登竜門が多すぎる」の系列で、やっぱりこの手の話は抜群にうまい。

『巫女の館の密室』愛川晶 原書房
 《根津愛(代理)探偵事務所》シリーズ最新作は、タワンティンスーユ(=インカ帝国)の神殿を模して建てられた離れを舞台にした密室物。「ミステリ史上初のトリック」とか作中で言うのはどうかと思いますが、けっこう楽しく読みました。

『鬼の探偵小説』田中啓文 講談社ノベルス※
『本格推理』出身の著者らしく(?)、意外とまじめなパズラー。「蜘蛛の絨毯」はタイトルからしてこの人らしいんだけど、本格ミステリのお約束と見事にマッチしている。笑うとこじゃないのに笑いそうになるのは著者の他作品を読み過ぎているせいか。

『試験に出るパズル』高田崇史 講談社ノベルス※
 なにが面白いのかよくわからない。むずかしいパズルが好きな人向け?

『人形はライブハウスで推理する』我孫子武丸 講談社ノベルス※
《鞠小路鞠夫》シリーズの久々の新刊。全六編の連作短編集で、あいかわらず安心して読める仕上がり。巻末の「夏の記憶」が秀逸。

○『ホラー作家の棲む家』三津田信三 講談社ノベルス
 虚実を限りなくあいまいにする、『怪奇小説という題名の怪奇小説』型メタホラー。趣味的な小説ですが、非常によくできていて楽しめる。メタミステリ系の小説が好きな方にもおすすめ。

『DOOMSDAY』津村巧 講談社ノベルス
 オビには"新本格SF"とあるが、むしろモダンホラーの文法に忠実に書かれた現代版『宇宙戦争』。小松左京賞寡作の浦浜圭一郎『DOMESDAY』と比べると、いくらなんでもヒネリがなさすぎ。主人公のキャラ設定はちょっといい。

『六人の超音波科学者』森博嗣 講談社ノベルス
 Vシリーズ7冊目。『すべてがFになる』を思わせる研究所が舞台。このシリーズ初の館モノですね。仮面をつけた車椅子の博士とかには反応しないんですが、導入のパーティシーンは異様にツボ。

『長く短い呪文』石崎幸二 講談社ノベルス
 シリーズ第三弾は前作につづいて島もの。発想は面白いが、ふつうそれを「呪い」とは考えないでしょう。トリオ漫才は意外と好き。

『贋作「坊っちゃん」殺人事件』柳広司 朝日新聞社
 朝日新人文学賞受賞作。漱石『坊っちゃん』から三年後。赤シャツが自殺したと聞いて驚く「おれ」は山嵐とともにふたたび松山へ……。『坊っちゃん』のエピソードをミステリ的に再解釈する手法は面白いが、本格ミステリ的には地味め。奥泉光『「吾輩は猫である」殺人事件』と比べてしまうのはキャリア的にも枚数的にも無理があるんだけど……。

『ヴェロニカの鍵』飛鳥部勝則 文藝春秋
 作風は嫌いじゃないしリーダビリティも向上しているが、全体にこぢんまりした印象。暗い青春物としてのどろどろ感は西澤保彦に及ばず、さらっとしている。

△『波のうえの魔術師』石田衣良 文藝春秋
 ミステリというより経済小説。まあ広義のコンゲームものだと思えばミステリの範疇に入らなくもないか。『百万ドルをとりかえせ!』的な趣向もちょっとあり、そんなに新味はないものの楽しく読める。川端裕人『リスクテイカー』なんかよりはずっとストレートなエンターテインメント。




【10月15日(月)】


 SFオンラインの河出文庫《20世紀SF》特集で収録全タイトルの考課表をやるというので、後半3巻の未読処理。



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